徒然好きなもの

ドラマの感想など

【連続テレビ小説】マー姉ちゃん (147)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

胃痛で倒れたマチ子(田中裕子)は検査を嫌がる。マリ子(熊谷真実)たちに説得されて渋々検査するが、即日入院となる。付き添いのヨウ子(早川里美)が入院支度のため帰宅すると、信心深いはる(藤田弓子)は手術に反対する。ヨウ子は、マチ子の胃に穴があきかかっており、命に関わるため手術が必要だとはるを説き伏せる。そんな中、北海道から三郷(山口崇)がかけつけ、病気に負けない信念を持つようにとマチ子を励まし…。

[rakuten:book:10973793:detail]

磯野家2階

マチ子「嫌よ、検査だなんて!」

ヨウ子「そんな子供のようなこと言わないで」

マチ子「嫌ったら嫌! 検査だなんて死んでも嫌!」

マリ子「駄目よ。そんなこと言って本当に死んだらどうするの?」

 

ヨウ子「マー姉ちゃん!」

マリ子「だってあんまり分かんないこと言うんですもの」

ヨウ子「だけど、検査というのはね、そもそもどこが悪いのかそれを調べるものなんでしょう。調べて大したことがなかったら、そのまんまお祝いパーティーをすればいいじゃないの」

マリ子「そうよ。本当にそれだけなのよ」

 

マチ子「嫌!」

マリ子「マッちゃん…」

マチ子「だってこの前だってさんざん変なもののましたあげく人の体だと思ってさんざんひねくり回して胃潰瘍にしてしまったじゃないの」

ヨウ子「それはね、先生が胃潰瘍になさったんじゃなくて、マッちゃん姉ちゃまがそういうご病気だったの」

 

マチ子「それにしたって、あれはもう治ったはずよ。あんなに向こうの言いなりにいっぱいお薬いろいろのまされて…。今度、気軽にがんだなんて言われたらどうするのよ!」

マリ子「そんなこと絶対にありません!」

マチ子「が…がんなの? 私」

マリ子「何言うのよ、マチ子!」

マチ子「でも、がんかもしれないの!?」

 

ヨウ子「バカなこと言わないで! 検査もしないで誰ががんなどと決められるんですか?」

マチ子「いいわよ!」

マリ子「マッちゃん」

マチ子「いいの。私、もし、がんなんだったら…」

ヨウ子「マッちゃん姉ちゃま!」

 

マチ子「その時は、私…一人こっそり山の中に入って死ぬから心配しないで…」

マリ子「あっ、そう。それだったら私、後でお弁当持って追いかけていくからね」

マチ子「駄目、一人で行く」

マリ子「いいわよ、そんな今更、遠慮することないわよ」

マチ子「ふざけないでよ!」

 

はる「困った人たちね。本来お医者様というのは病気を治してくださるためにいらっしゃるのでしょう。まだちゃんと診てもいただかないうちから死ぬの生きるのと大騒ぎすることはありませんよ」

ヨウ子「そうよ、本当にそうだわ」

はる「全ては神の御心なんですよ。その時が来たら神は私たちを順番に天にお召しになるでしょう」

 

マチ子「ええ、いいですよ。来いとおっしゃるんだったら行っちゃうから。どんどん行っちゃうから!」

マリ子「変なこと言わないでよ!」

マチ子「何よ、私、病院に行くって言ってるのよ」

マリ子「えっ?」

マチ子「ただし、一人で行きます」

マリ子「そんな…」

 

マチ子「だって検査でしょう? どうってことないわよ」

ヨウ子「でも、もう正史さんが車の手配をしてくれました」

マチ子「何でそんなに気を利かすのよ…」

マリ子「あ~、分かった、分かった。だったらね、マチ子の気が変わらないうちにと。お琴さん、マチ子先生の履き物、用意してください。ねえ、何着ていく?」

マチ子「このまま行く」

マリ子「あ~、でも…着物の方がね、診てもらいやすいわよ」

着物を着慣れてると、着物の方が診てもらいやすいと思うのかな?

 

マチ子「嫌~、もういちいちうるさいのよ!」

はる「うるさいのはあなたですよ」

マチ子「お母様~…」

はる「マリ子、あなたも行くことはありませんよ」

マリ子「お母様」

はる「病院に行ってまで、きょうだいげんかではみっともなくてしかたがないわ。ヨウ子、あなたが一緒についていきなさい。いいですね?」

ヨウ子「はい」

 

病院から磯野家に電話をするヨウ子。

マリ子「はい、もしもし磯野です。あっ、ヨウ子ちゃん! うん。それで検査の結果は? えっ、即日入院!?」

ヨウ子「ええ。あれこれ検査でひねくり回すまでもなくレントゲンだけでそう言われたんです。はい。いいえ、がんなんかではありません。胃潰瘍です。だけど、一刻も早く手当てをしなければならない状態なんですって。ですから訳を話して、すぐにお千代ねえやに来てもらいたいの。私はお千代ねえやと入れ代わりに一旦うちに帰ります。ええ、入院の支度にです」

 

マリ子「でもどうしてお千代ねえやを?」

ヨウ子「だって、マー姉ちゃんではマッちゃん姉ちゃまにせがまれて一緒に病院抜け出すのが落ちでしょう?」

マリ子「まあ、それはね自信ないけど…」

ヨウ子「だから私が戻るまでの強力な番人が欲しいの」

 

マリ子「番人!?」

はる「番人ってマチ子がどうかしたの?」

マチ子「ああ、いえ…」

ヨウ子「大事な話なんだからちゃんと聞いてください」

 

病室のドアを開けると、布団をかぶっていたマチ子が起きあがる。

マチ子「知らないわよ! 手術するならするで原稿描きためとく方法だってあったのに! このまま入院するだなんて連載に穴が開いたらどうするのよ!」

ヨウ子「胃にも穴が開きかけてるんです!」

マチ子「ヨウ子…」

 

ヨウ子「だからお願い。ねっ? マッちゃん姉ちゃまも分かってちょうだい。そしてこの際、思い切って手術を受けて。マッちゃん姉ちゃま?」

マチ子「うそつき。ヨウ子のうそつき! 検査するだけって言うから、やって来たのに手術するなんて…。もう知らない!」また布団をかぶってしまう。

ヨウ子「大丈夫よ。私もついているんだし、お母様やマー姉ちゃんだって。ねっ? だから大丈夫よ。手術をすれば必ず丈夫になれるんです。ねっ、マッちゃん姉ちゃま。マッちゃん姉ちゃま」

 

磯野家の玄関

千代「それでは行ってまいります」

マリ子「それじゃあ、お願いします、天海さん」

朝男「なにね、こいつと2人掛かりなら、どんなことがあったって金輪際、マチ子さんを逃がすようなドジは踏みませんから安心してておくんなさい」

はる「でもまあ、あの子ももう子供じゃありませんから覚悟が決まれば逃げ出すなんてことはないと思いますけれども」

マリ子「入院の支度が出来たら、私もすぐに追いかけますのでそれまでお願いします」

 

朝男「へい」

はる「よろしくお願いします」

千代「じゃあ、気がせきますので」

朝男「じゃあ」

天海夫婦は玄関を出て路地を歩いていく。今日は2人とも着物。

 

頼りになること、この上なしの朝男夫婦と入れ違いにヨウ子が帰ってきました。

 

マリ子「ヨウ子ちゃん、とりあえず寝巻き、これでいいかしら?」

ヨウ子「ううん、手術するんだからパジャマより普通の寝巻きの方がいいんじゃないかしら」

マリ子「分かった」

 

はる「ちょっとお待ちなさい。手術するなんて私は聞いてませんよ」

ヨウ子「ええ、でも、そういうことになるんです」

はる「なるって一体、誰がそんなこと決めたんですか? 私は反対ですよ」

マリ子「お母様」

はる「人間は自然のままがいいのだと、常々、私はそう言っているでしょう」

ヨウ子「それは分かります。でも…」

 

はる「病気だって同じことですよ。まっとうに暮らしてる人間を神様がお見捨てになるわけがないじゃありませんか。病気というのは治る時が来れば治るもんなんです。ヨウ子だってそうだったじゃありませんか」

ヨウ子「でも、今度は違うんです」

はる「いいえ。人間の体を人間が切り裂くなんて大それたこと。それに第一、不自然ですよ」

 

ヨウ子「お言葉ですけれど、今はそんな場合じゃないんです。胃せん孔といって、マッちゃん姉ちゃまの胃袋は穴が開きかけてるんです」

マリ子「胃袋に穴が!?」

ヨウ子「そうなの。もうしばらくぐずぐずしていたら大変なことになるところだったのよ」

はる「大変なことに?」

ヨウ子「ええ、命に関わることです。先生は様子を見守り次第、手術にかかるとおっしゃってました。ですから、今度だけは私の言い分を聞いてください。私は誰が何と言おうとマッちゃん姉ちゃまの命を助けることを優先します」

 

このおとなしいヨウ子がこのワンマンに対し、正面切って反対意見を述べたのは恐らくこの時が最初で最後ではなかったでしょうか。

 

ヨウ子が検査についていってよかった。マリ子だとなんだかんだはるの言うことを最終的には聞いてしまうんだよね~。

 

マリ子「ねっ? お母様。ヨウ子の言うとおりよ。座して祈りましょう。必ず道は開けます」

はる「ええ、そのとおりかもしれないわね」

 

お琴「奥様、ただいま、日暮里のご隠居様がお見えでございます」

はる「まあ、どうなすったんですか? こんな時間に」

ウメ「こんな時間もあんなもないでしょう。マチ子さん、どんなあんばいなんですか? 一体どこの病院へ入れられちまったんですか?」

話しながら、マリ子に出された座布団に座らないウメ。

 

三吉「すいません」

マリ子「おばあちゃま」

三吉「さっき、天海さんのご隠居さんから電話があったもんですから、それでどうしてもお伺いすると聞かないもんで…」

ウメ「当たり前だろ、この薄情者! 病院行ったら、そのまんま帰されないなんてただ事じゃないだろ!」 

三吉「へえ」

 

マリ子「大丈夫なんです、おばあちゃま。おなかを開けて悪い所を切れば、それで治るんですから」

ウメ「おな…おなかを開けて…開けるんだって!?」

 

そこに道子がお千代さんに電話で聞いたと均とやって来た。

均「あの、どんな様子なんですか? マッちゃんは」

ウメ「お…おなかを開けるんだってよ! おなか開けて中のもの取られちゃうんだって…」

均「えっ?」

ウメ「どうしよう…どうしよう…」

均「おばあちゃん!」

ヨウ子「おばあちゃま!?」

マリ子の次によく失神するウメばあちゃん。マリ子は、お琴さんにお水を持ってくるように言う。

 

手術をための検査が終わり、体調を整えて、いよいよ明日が切腹という日の夕方、思いがけない人が見舞いに駆けつけてきました。

 

ブーツの足だけ写り、その人がマチ子の病室のドアをノックする。

マリ子「三郷さん!」

智正「今、医局で聞いてきましたが、手術は明日だそうですね」

マリ子「はい」

智正「入ってもよろしいですか?」

マリ子「どうぞ、どうぞ会ってやってください」

 

マチ子「三郷さん…」

智正「よかった。もっとつらそうな顔してらっしゃるんじゃないかと心配しながらやって来たんですよ」

マチ子「で、わざわざ、北海道から?」

智正「はい」

マリ子「さあ、どうぞ」

智正「あっ、ありがとう」

手には円筒形のものを持っていて、マリ子にすすめられてイスに座る。

 

智正「道子ちゃんから電報をもらいましてね、電話で事情を確かめてからすぐに汽車に飛び乗ったんですよ」

マリ子「三郷さん…」

智正「ええ、大丈夫です。もう今はちゃ~んと手術、麻酔打ってくれますからね。眠っている間に全部終わってしまいます」

マチ子「そうおっしゃっても…」

 

智正「アハハハッ、大丈夫ですよ。最初の注射が、そうね…チクリって痛いぐらいです。全ては夢の中の出来事です」

マチ子「嫌だな…わざと簡単そうにおっしゃるんですもの」

智正「アハハッ、そうでしたか。じゃあ、もっと大変なお話の方がよかったですか?」

マチ子「いえ…そういうわけじゃないんです」

 

智正「アハハハッ、手術というのはね、かなり古代からあったみたいなんですね。で、ある文献によると16世紀ごろの胃の手術というのは、患者さんをですね、まず、こう…まな板に縛りつけることから始まったんだそうです」

マリ子「まな板に?」

智正「ええ。だって麻酔薬なんかありませんもの。でも、こう目の前でギトギト光る包丁を見せつけられたら怖かったでしょうね」

マチ子「うう…」 

 

智正「ええ、ですからね、ちゃんとこう目隠しをしたわけです。で、目隠しをして包丁で肉を…」隣に座っていたマリ子を目隠しし、おなかに手を当てる。

マリ子「ああっ!」

智正「ええ、そういう悲鳴を上げたんじゃないでしょうか。『痛い、助けて』なんて言ったあげくに失神なんかしたと思いますよ」

マリ子「あの、どうぞ、お願いですから…」

 

智正「はい。私の方からもお願いですから、どうか心静かに手術を受けてください。ねっ? 今の手術は全ては夢の中の出来事です。それにね、大山博士の執刀だそうじゃありませんか。患者さんは何にも心配することはありません。『明日を思い煩うことなかれ』です」

マチ子「ええ…」

智正「ただね、私はマチ子さんに自分はこの手術で丈夫になれるんだ、そういう信念を持ってほしいんです」

マチ子「はい」

 

智正「要は生命力です」

マチ子「生命力…」

智正「はい。満州でもそうでしたが、北海道でも冬になりますとね、辺り一面凍りついて窓から見える景色はね、白一色の原野なんです。でもね…でも…遅い春の訪れとともに氷が解けて大地から、こう、緑がもえ出てくるんですね。そうそう、そしてね…美しい花が咲くんですよ。ほら」円筒形のものからスズランの花束を取り出した。

マチ子「まあ…」

 

智正「これが生命力です」

マチ子「はい」

智正「だから…だから自分は必ずよみがえるんだ。そういう信念を持ってください。病気なんかには絶対負けない。そう思っていてください。私はそれを言いたいために北海道からやって来ました」

マリ子「三郷さん…」

智正「大丈夫ですよ。大丈夫! ねっ? 今夜はゆっくりと休むこと。いいですね? 北海道の僕だけじゃないんですよ。全国の…全国の『サザエさん』ファンがマチ子さんの回復を待ち望んでいるんですから」

マチ子「はい」

 

マリ子「ありがとうございました。私、三郷さんがいらっしゃらなかったら、マチ子をおぶって逃げ出していたかもしれませんわ」

智正「アハハッ、おやおや、大変な付き添いさんですね」

マチ子「ほら、本当に頼りないんだから」

マリ子「まあ!」笑い

 

大げさ、騒ぎすぎという感想も見かけたけど、このエピソード自体は昭和42(1967)年に胃がんの手術をした時のエピソードだと思いますが、ドラマの中では昭和29(1954)年で、ウメさんのように外科手術を恐れる人も多かったんじゃないかと思います。三郷さんがわざわざ北海道から駆けつけたのも命に関わるからだったんじゃないのかな。「長谷川町子物語」だと駆けつけたのは師匠の田河水泡先生でした。

 

町子さんは、ガンという病気を非常に恐れていてがんになったら自殺するとまで言っていたので、昭和54(1979)年の「マー姉ちゃん」放送時には町子さんはまだ存命でドラマも見ていただろうから、ドラマ内でも”胃潰瘍”で通している。それがまた胃潰瘍くらいでと大げさに見えてしまうのかもしれない。

 

洋子さんの「サザエさん東京物語」内では、洋子さんは他の家族の誰にも相談せず、手術をする先生にもくれぐれもガンとは言わないでほしいとお願いしたそうです。

今日のヨウ子ちゃんは、かっこよかったなー。