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【ネタバレ】別れて生きる時も 第二十章「幸福の鐘」その二

TBS 1978年1月31日

 

あらすじ

美智(松原智恵子)は小野木(伊藤孝雄)から逃れて転職した横浜で、井波(中野誠也)と親しくなった。思想問題で大学中退の彼は出版社員で、松本(織本順吉)の印刷所で顔見知りだった。美智は物静かで誠実な彼にひかれた。前科者の父と小野木のことがあるためあきらめねばと思う。が、井波はすべてを承知で美智に求婚した。二人は松本の仲人でささやかな祝言をあげた。

愛の花

愛の花

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2024.9.13 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色

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吉岡俊子:姫ゆり子

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大垣:長島隆一

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河北医師:久保晶

ナレーター:渡辺富美子

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井波謙吾:中野誠也

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:今井雄五郎

 

東横工藝印刷

電話している大垣。「もしもし、東横工藝ですが、あっ、井波さん? ああ…それがまだできてないんですよ」

 

有信書房

井波「困りましたね。今日の夕方までというお話しだったんで製本屋のほうも手配済みなんですよ。えっ? そうですね…ちょっと待ってください。田中さん、日程表」田中さんに日程表を見せてもらう。「やっぱりダメですね。あした中に回してあげないと本の発行が間に合わないんですよ」

 

東横工藝印刷

大垣「あっ、そうだったんですか。いえね、時間を頂いて丁寧な仕事をさせていただこうと思ってたもんですから。じゃあ、すいません。1日だけ延ばしてください。なんとか残業して半分だけでも今日中にやっちゃいますから。ええ、じゃ、すいません。よろしく」電話を切って「弱っちゃったなあ」

美智「井波さんとこの童話集の印刷、今日が納品だったんですね」

大垣「うん。少しはサバ読んでるかと思ったからね、今度の日曜日にゆっくりやろうと思ってたんだけど製本屋のほうが手配済みらしいんだね。塩崎さん、風邪のほう加減どう?」

美智「もう大丈夫です」

大垣「そう。だったら悪いけど、今晩、手伝ってほしいんだけどな」

美智「はい、分かりました」

大垣「じゃ、頼んだよ」

美智「はい」

 

井波が東横工藝印刷に来た。「こんばんは」

大垣「やあ、いらっしゃい」

井波「心配だから、ちょっと様子を見に来たんです」

大垣「信用がないんだな。今、やってるとこですよ」

 

紙を運んできて大垣に手渡す美智。「はい。あっ、こんばんは」

井波「塩崎さんも手伝ってくれてんですか。悪いな。あっ、僕、やりますよ」

大垣「いやいやいや。慣れない人に手伝ってもらってヘマをされると取り返しがつかないからね」

美智「井波さん、もう少しですから休んでてください。お茶入れます」

井波「まるで邪魔者扱いだな。フフッ。おお…さすが大垣さんとこですね。きれいに仕上がってる」

 

大垣「井波さん、これだけの仕事ができるのも、うちではこれが最後かもしれませんね。こう戦争が長引いたんじゃ、そのうち、ろくに本もできなくなるんじゃないですか。紙も配給になるっていうし」

井波「じゃ、半分だけでも。あしたの朝、製本屋のほうから直接取りに来るようにしますよ」

大垣「ええ。残りは、あしたの夕方までにやっときますから」

井波「お願いしますよ」

大垣「井波さん、生真面目だからさ、参っちゃったよ。ハッ。普通どこでも少しはサバ読んどくから、こっちもついその気になっちゃってさ」

 

お茶を持ってきた美智。「どうぞ」

井波「じゃ、この次からそうしますか」

大垣「いやいや、いやいや、井波さんは井波さん」

井波「ハハハハッ」

大垣「その気真面目さが井波さんの身上だよ、なっ? ハハハハ…あっ、塩崎さん、今日、もういいよ」

美智「ええ、でも…」

大垣「ああ、あとはかみさんに手伝わせるから」

美智「そうですか?」

 

大垣「うん。ああ、塩崎さん、井波さんと同じ鶴見川だったね」

美智「はい」

大垣「じゃ、送ってもらったらいいや、なっ?」

美智「はい。じゃ、支度してきます」

大垣「うん」

 

井波「どうも遅くまで」

大垣「いえ」

 

井波と美智が揃って東横工藝印刷を出た。

井波「塩崎さん、駅の近くでお茶でも飲んでいきませんか? 塩崎さんにおわびをしなきゃならないって気になってることがあるんです」

美智「はあ」

 

茶店

井波「塩崎さん、僕のことで警察の者が塩崎さんの下宿に訪ねていったんじゃないでしょうか?」

うなずく美智。

井波「すいませんでした。つい2~3日前、高村っていう刑事から聞くまで全然知らなかったんです。こういうことはなるべく人に知られたくないって、そう思ってたんですが、まあ、塩崎さんは高村刑事からお聞きになったでしょうから。実は僕は学生時代に社会主義思想の研究会やってましてね、それが治安維持法という法に引っ掛かって、一昨年、警察に検挙されたんです。別に悪いことをしたつもりは全然ないんですが。今の日本じゃ、ただ社会主義を勉強しただけでも犯罪を犯したことになるんです」

 

井波さんは一昨年まで大学生ってこと? 今20代半ばくらいの年齢設定だろうか。

 

美智「犯罪? どうしてですか?」

井波「さあ…社会主義は日本の絶対的帝国主義を根本から否定する考えだからでしょう。ハッ…しかし、こんなことをしゃべってるっていうことが特高の耳に入ったら、また留置場に何日かぶち込まれてしまうかもしれませんが」

美智「そんな…」

井波「信じられないでしょうが、事実なんです。検挙されたとき、情状酌量ということで起訴猶予にはなりましたけども、それからああやって特高課の刑事が僕の言動を探って歩いてるんですよ」

 

美智「でも、なんのためにそんなことを?」

井波「いわば、僕という人間は大日本帝国にとって危険な人物ということになりますからね。僕のアパートに寄ってくだすった塩崎さんにとんだご迷惑をかけてしまって、ほんとに申し訳なかった、そう思ってるんです」

美智「井波さん、そんなこと気になさらないでください。私、何も迷惑してませんから」

 

井波「しかし、夜中に刑事が訪ねていったんじゃ、下宿の人もさぞびっくりしたでしょうね。僕は僕なりにこういうことで人に迷惑はかけたくないって気を遣ってはいたんですが…いえ、僕となんらかの関わりを持つと、必ず特高課の刑事がついて回りますからね。現にこうやって塩崎さんとしゃべっていたって…」席の近くを通りかかった人を気にする。「そういうわけで今までのことは、ともかく、もしこれから特高課の刑事が僕のことで訪ねに行くようなことがあっても全然関係のない赤の他人だから何も知らないって、そう言ってください」

寂しそうな表情の美智。

 

<言ってみれば、単なる行きずりの人ともいうべき井波であったが、これからは見ず知らずの他人になろう。そう言われたとき、なぜか美智は底知れぬ寂しさを覚えてならなかった。人を傷つけまいとする井波の優しさに打たれたせいもあったろうが、今も自分につきまとう小野木の暗い影を思うとき、同じように暗いものを背負っている井波の身の上が決してひと事には思えなかったからでもあった>

 

2人で歩く帰り道。

井波「じゃあ、僕はここで。おやすみなさい」←家まで送ってよ~。

美智が頭を下げ、歩き出した井波に美智が呼び止める。「井波さん」

 

井波「なんでしょう?」

近づく美智。「井波さん、何か考えすぎじゃないかって気がするんですけど。私の所に警察の人が来たからって、私、少しも迷惑してません。人それぞれに事情があるんですから。どうかお気を遣わないでください。とにかく井波さん、考えすぎてらっしゃるような気がしたもんですから。じゃ、おやすみなさい」

美智を見送る井波。

 

印刷所前で紙を運び出している大垣。「やあ、いらっしゃい」

井波「どうも」

大垣「本の発行、なんとか間に合いましたかな?」

井波「ええ、おかげさまで」

大垣「ああ。まあ、どうぞ、どうぞ入ってください」

 

東横工藝印刷内

大垣「さあ、どうぞ。まあ、おかけになって」

井波「大垣さん、見てくださいよ。立派なのができましたよ、はい」

大垣「ほう…」本を受け取って見ている。「装丁もなかなか立派だね」

井波「ええ。みんな、西山先生ご自身で装丁されたんです」

大垣「なるほど。さすがだねえ。今度はいつになったら、こんな立派な本ができるようになるんだろうね」

井波「だいぶん、ご無理、お願いしましたから大垣さんと塩崎さんに1冊ずつ差し上げますよ」

 

大垣「ほう、そりゃどうも。しかし、考えてみれば、この本ができたのも、もとはといえば塩崎さんのおかげかもしれない」

笑顔でうなずく井波だったが塩崎がいないことに気付く。

 

大垣「うん。あいにく今日は病気で休んじゃってるから。井波さん、この次、おいでになったときに直接渡してあげてください。そのほうがきっと喜びますよ」

井波「病気って、どうしたんですか?」

大垣「うん。4~5日前から風邪気味だとは言ってたんだけど、今朝、電話がかかってきましてね、電車に乗ったら、めまいがしそうになったって言うから、今日はゆっくり休みなさいと言ってやったんですよ。ここんとこ残業が続いたからね。無理させちゃって悪いことしちゃったよ。あの人、細い人だから」

井波「じゃあ、この本のことで無理をさせたのがいけなかったのかな」しょんぼり。

 

夜、井波は美智の下宿を訪ねた。辺りは真っ暗。

 

井波「ごめんください」

俊子「はい!」

 

井波「有信(ゆうしん)書房の井波と申しますが、こちらに塩崎さんいらっしゃいますでしょうか?」

俊子「ええ」

井波「あの…ご病気だって伺ってきたんですが」

俊子「ええ、風邪らしいんですけどね。今日も会社に行くっていって、途中からフラフラになって帰ってきたんですよ」

井波「そうですか」

 

俊子「今も2階で休んでますけど何か?」

井波「ええ。すいませんが、これをお渡ししていただけませんか?」

俊子「はあ、ちょっとお待ちください。知らせてまいりますから」

井波「いや、いいんです」

 

俊子は2階の美智の部屋へ行き、声をかけ、チラッと障子の間のガラスから苦しんでいる美智を見かけて慌てて部屋に入り、1階へ。

 

井波「どうしたんです?」

俊子「なんだか様子がおかしいんです。あの…心配なんで来ていただけます?」

井波「ええ」

俊子「すいません」

 

美智の部屋

苦しんでいる美智。

井波「だいぶん苦しそうですね。いつからこんなふうに?」

俊子「熱冷ましを飲んだあと、夕方ごろには気分がいいって言ってたんですけどね」

熱にうなされる美智をじっと見つめる井波。「で、医者には診てもらったんですか?」

俊子「いいえ。塩崎さん、大丈夫って言うもんですから」体温計を取り出し「39度もありますわ」

井波「39度? 単なる風邪ぐらいでこんなに熱が出ると思えませんね」

 

俊子「お医者さん行ってきます」

井波「いや、僕が行ってきましょう。場所はどこですか?」

俊子「ああ、そうですか。あの…通りへ出ますと看板が出てますから、すぐ分かります」

井波「じゃ」

俊子「お願いします」

 

井波は外へ出て、走る。

 

美智の部屋

胸元に聴診器をあてられている美智をじっと見つめる井波。

 

河北「こりゃいかん。急性肺炎を起こしとる」

井波「急性肺炎?」

河北「うん。いや、危ないとこだったな。いや、できるだけのことはやってみるが、一両日中は油断がならんな。病人もだいぶ弱っとるしな。もう少し早ければ病院のほうへ移したほうがよかったかもしれんが、この時間じゃな…こんなに弱ってるようじゃ動かさんほうがいいかもしれんしな」

 

井波「先生、お願いいたします。できるだけの手当てをしてやっていただけませんか? 僕たちも先生のご指示どおり寝ずに看病いたします」

河北「とにかく部屋をあっためて頭を冷やすように。(井波に)それからあんた、すぐ薬を取りに来てくれんかね」

井波「はい」

 

部屋を出た河北医師が井波に言う。「あんた、私を呼びに来るのが半日遅れてれば手遅れになってたかもしれんよ」

 

病院で河北医師を待つ井波。

河北「あっ、帰ったら、この薬をすぐ飲ましてくれんか」

井波「はい」

河北「そうだな。明け方になっても、まだ熱が下がらないようだったら、すぐ呼びに来てくれんか」

井波「はい」

河北「特別に行ってあげるよ」

井波「よろしくお願いします」

河北「じゃあな」

 

氷の塊を提げて美智の下宿先へ向かう井波。

 

俊子が美智の額に手拭いをあて、井波は氷を砕いて、氷枕の中へ入れ、部屋まで運ぶ。「お願いします」

俊子「すいません。井波さんが寄ってくださったんで、ほんとに助かりました」美智に頭の下に氷枕を入れる。

 

さらに氷嚢に氷を入れて美智の額に当てる。

 

俊子「井波さん。よろしかったら朝までいていただけますでしょうか?」

井波「ええ」

俊子「ありがとうございます。私一人じゃ心細くて」

井波「奥さん、どうぞお休みになってください。僕が見てますから」とはいえ、俊子もじっと動かず美智の枕元にいる。

 

翌朝、寝ている美智。

 

別室でタバコを吸う井波。

 

俊子「あっ、すいません。ついウトウトしてしまって」

井波「さっき、熱を測ってみたら、だいぶ下がってますよ。気分がよくなったせいかよく休んでます」

俊子「まあ、よかった。じゃあ、大丈夫かもしれませんね。すっかりお世話になってしまって」

井波「いえ」

 

俊子「お疲れになったでしょう。あの…あとは私がしますから」

井波「そうですか。じゃ、僕、勤めがありますから、これで失礼させていただきます」

俊子「ねえ、少し休んでいかれたらいかがですか?」

井波「いえ、大丈夫です」

 

美智の部屋の机の上に完成した本を置き、井波は、じーっと美智の顔を見つめ、そっと部屋を出ていった。

 

<美智が危険な昏睡状態を脱し、やっと意識を取り戻したのは、その日の午後になってからである>

 

吉岡家の玄関

河北「まあ、熱は下がったといっても、またいつぶり返すか分からないからね。ああ、当分は気をつけてな」

俊子「はい」

河北「ああ、それからと…薬をかえるからね、夜になってからでもいいから旦那さんに取りに来てもらってくれんかね」

俊子「旦那さん?」

河北「昨日の青年、あの人の旦那さんじゃないのかね」

俊子「フッ、そうじゃないんです」

河北「うん? あっ、そうかい。いやいや…じゃ、まあお大事に」

俊子「ありがとうございました」

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久保晶さんは、いろんなドラマや映画で見かけるバイプレイヤー。私にとってはいつまでたっても「ショムニ」の満帆商事社長のイメージ。

 

ていうか、診察中も枕元にいたから勘違いしたんじゃないのー!?

 

2階の美智の部屋に行った俊子。「よかったわね、塩崎さん。もう峠を越したそうよ。ハァ、すっかり顔色もよくなって」

美智「すいません、奥さん。すっかりご迷惑かけてしまって」

俊子「何言ってるのよ。お礼なら井波さんに言ってあげてちょうだい。塩崎さんは井波さんのおかげで命拾いしたようなもんなんですからね」

美智「井波さんが?」

俊子「ええ、そうよ。ゆうべ、ちょうど井波さんが来合わせて、そりゃ一生懸命、看病してくれたんだから。お医者さんに『どうぞよろしく。できるだけの手当てをしてください』って、こうやって両手をついて頼んでたぐらい。だからね、お医者さんったら井波さんのこと、塩崎さんの旦那さんと勘違いしてんのよ。今もね、『旦那さんに薬を取りに来てください』ですって。フフフフッ」

天井を見つめる美智。(つづく)

 

原作の人か脚本の人か知らないけど、看病するシチュエーションが好きなのかね?

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急性肺炎にかかった石山はんを看病する美智。

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旅館で聞いた仲の悪い夫婦が嫁さんの看病で旦那さんの急性肺炎がよくなった話…まあ、結局、嫁さんは家出してったけど。急性肺炎がこんなに出てくるドラマも珍しい。病気といえば急性肺炎みたいな。戦前のよくある病気だったのかな。「岸壁の母」はもうちょっとバリエーションなかった? 

 

ここでぐっと美智と井波の仲が深まるのね。社会主義者の井波なら父が前科者という美智の境遇も気にしないかな?…ってあらすじ読んでるのにしらじらしい。