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【ネタバレ】別れて生きる時も 第六章「初恋の詩」その三

TBS 1978年1月11日

 

あらすじ

美智(松原智恵子)の旅行中、父と母は満州に渡っていた。美智は置き去りにされたのだ。同じ家に下宿する帝大生・石山(速水亮)は父が前科七犯と知りながら、一人で生きる美智を愛し結婚を約束。が、市役所の福祉係・小野木(伊藤孝雄)は二人の間を裂くため石山の父親に美智の秘密を教えた。小野木は美しい美智が目的で塩崎母子の世話をしてきたのだ。

愛の花

愛の花

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2024.8.27 BS松竹東急録画。

peachredrum.hateblo.jp

原作:田宮虎彦(角川文庫)

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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色

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石山:速水亮

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井村さき:津島道子

小川課長:阿木五郎

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陽子:種谷アツ子

仲居:村上記代

ナレーター:渡辺富美子

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小野木:伊藤孝雄

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

さきが店先で水を撒いていると、小野木が歩いてきた。「おばちゃん、おはよう」

さき「あっ、ハハハッ。こんにちは」

 

小野木「どや? 景気は」←偉そうだな

さき「いや、どうもこうもおへん。お砂糖が配給になるって、ほんまどすやろか?」

小野木「ああ、砂糖だけやないで。メリケン粉かて配給制になるさかい。これからは今川焼も、よう焼けんようなんな。おばちゃんらの商売もこの秋までやなあ」

さき「ほったら、うちら、あがったりやわ」

 

小野木「まあ、その気になったら、ええ手内職見つけたるわ」

さき「ほんまに小野木はん、頼りにしてますさかい。そのときになったら、どうぞよろしゅうおたの申します」

小野木「それまでせいぜい買いだめをしておくこっちゃ」

さき「小野木はん、おぶ入れますさかい」

 

小野木「いや、いい。今日は塩崎さんとこに用があるよって」

さき「あの…みっちゃん、今日は、いてはらしまへんえ」

小野木「今日は日曜日やさかい、会社、休みと違うか?」

さき「いや、それがな、今日は2階の学生さんのお見舞いに行かはりましたんどす」

小野木「お見舞い?」

 

さき「せんだって、急性肺炎にかからはって総合病院に入院してはりますねん」

小野木「ふ~ん。塩崎さん、何か? お見舞いに行くほど2階の学生と仲ようしてんのか?」

さき「いや、そういうわけでもおへんのどすけどなあ。石山はん、京都には誰も身寄りがないもんやさかいに、お気の毒や思うてな」

 

子供「おばちゃん、今川焼おくんな」

さき「へえへえ、ちょっと待っておくれやす。今、焼いてあげるさかいな。へえへえ。あっ、じゃ、ここへかけて待ってて。なっ?」

 

小野木は勝手に玄関に入り、2階へ。石山の部屋に入り、机の上のノートをパラパラ。

 

美智は病院へ。ノックをして病室に入ると、石山は荷物をまとめていた。

 

美智「もうよろしいんどすか?」

石山「ええ。あっ、今、退院するとこだったんです」

美智「そうやったんですか。うち、今日は日曜日やさかい、お見舞いに伺おう、そない思うて」

石山「ハハッ。お見舞いだなんて、そんな…あっ、入院のときは、ほんとにお世話になりました」

美智「いいえ」

石山「あの晩、美智さんがお医者さん呼んでくれなかったら、今頃、あの世行きだったかもしれません」

 

美智「そんな…あっ、お弁当」

石山「お弁当?」

美智「卵焼き。ほな、帰ってから食べてくれはる?」

石山「ああ…あっ、じゃあ、今、いただきます。おなかペコペコなもんで」

美智「フフフッ」

石山「じゃあ、向こうで」病室の奥の机といすのあるスペースに移動。

 

美智「はい。うち、卵焼きだけは自信があるんどす。いつも母に褒められてましたさかい」

石山「ああ…でも、なんだか悪いな。入院のとき、あんなに世話になりながら、こんなに親切にしていただいて」

美智「そんなふうに言わんといてください。うちは、ただ、母がいたらこないするやろ思うて。どうぞ」

石山「あっ、じゃあ、いただきます。わあ、おいしそうですね。お母さん、僕が貧乏で哀れな学生だと思って同情してくれたんでしょうね。時々、『余り物(もん)ですけど食べてください』って、ごちそう持ってきてくれたことがあるんですよ。でも、僕には分かるんですよ。それは決して余り物じゃないってことが。そういうお母さんのご厚意がとてもうれしくて」←かぶりついた卵焼きは想像より大きかった。

 

目を潤ませる美智。

石山「どうかされたんですか?」

美智「石山はんが母のこと、そない言うてくれはるのが、うれしかったんどす。けど、誤解せんといてください。母や石山はんのこと貧乏で哀れな学生さんや思うて同情したんやないと思います。貧しい中で一生懸命努力してはる石山はんのこと尊敬してましたさかい」

石山「はあ。尊敬だなんて、そんな…あとでお母さんの満州のご住所を教えていただけますか? 塩崎さんにお世話になりましたって、早速、礼状を書きます」

美智「実を言うたら、満州のどこにいるのか、うち、よう分からんのどす」

 

石山「いや、しかし…」

美智「ほんまどす。母は、うち一人、置いてきぼりにして父と一緒に満州に行ってしもうたんどす。満州のどこ行くとも教えてくれんで…そやさかい、うちは捨て子にされたも同じどすねん」

石山「そうだったんですか。なんにも知らずに…しかし、お母さん、どうして…」

首を横に振る美智。

石山「でも、塩崎さん一人残していかれたのは、むしろ、お母さんの愛情だったんじゃないのかな。そりゃ満州は、男にとって夢の多い新世界だったかもしれませんが、女性にとっては、まだまだ危険の多い所ですから。お母さん、塩崎さんのためを思って…」

美智「そやけど、うち、母のことをどないしても許せません。一生、憎んでも憎みきれんほど憎いんどす。母親に捨てられてまで母をいとしいと思ったら、うち、よう生きてきまへんさかい」

 

区役所

小野木は電話をかけていた。「ああ、もしもし、理化工業所はんどすか? あの…区役所の小野木ですが、勤労課の小川課長はんお願いします。はあ、課長はん。この間、頼まれとった書類、出来ましたさかい」

 

理化工業所

小川「そうどすか。いや、そら、どうも、おおきに。へえ。ほな、早速頂きに上がりますさかいに。えっ? えっ? はあはあ、へえ、よろしおま。ほな、そういうことに。へえ。じゃ、どうも、おおきに。へえ」受話器を置き、美智を呼んだ。

 

美智「なんですか?」

小川「ああ、実はね、小野木はんに頼んでた書類が出来上がったそうや。で、君に取りに来てほしい言うてはるさかい。まあ、ご苦労さんやけど、帰り道にちょっと彼んとこ寄ってんか?」

美智「はい」

小川「うん」

 

料亭

小野木「これ、頼まれてた書類やけど、あした、課長さんに渡してください」

美智「はい」

小野木「それから、これ。今どき、珍しいチョコレートやけど、美智さんに食べてほしい思うて」

美智「こんな貴重な物を…」

小野木「気にせんでええよって」

美智「ほな頂きます。おおきに」薄い箱に入ったチョコレート

 

小野木「それからこれも。帯留めやけど、美智さんによう似合うやろ思うて」

美智「そんな、うち困ります」

小野木「水くさいことを言わんといてください。家族みたいなもんやさかい、遠慮せんで…」

美智「けど…これはやっぱり」帯留めを返す

小野木「いや。せっかく買(こ)うてきたんやさかい、取っといてください」

美智「そやけど…」

小野木「いや…」帯留めを返した美智の手を握る。おえーっ!

 

⚟仲居「ごめんやす」←グッジョブ!

 

小野木「どうぞ」

仲居「おまっとぉさんどした」ビールなど運んできた。「ごめんやす。あいにくの雨どすなあ」

小野木「ああ」

仲居「小野木はん、お嫁さんにならはるお人どすか?」

小野木「アホ、親戚の子や」

仲居「いや、ほんまどすか?」

小野木「ほんまや」

仲居「すんまへん」

 

小野木にビールを注ぐ美智。

 

小野木「美智さんの境遇も変わってしもうたんやさかい、いつまでも今の所におられんやろ思うて」

美智「そやけど、おばちゃんは自分のうちや思うて、いつまでもいてほしい、そない言うてくれてます」

 

小野木「美智さん、それとこれとは関係のないことや思うんやけど、あの会社、そういうことには極めてうるさいとこやさかいな。美智さんが今、1人暮らしをしとるっちゅうことが知られてへんからええようなもんやけど、規則では自宅、もしくは保護者のうちから通勤せんならんことになってるはずでっしゃろ。まあ、美智さんの保証人として知ってて黙ってるのも課長さんをだましてるようなことになるし、かといって美智さんのせいでもなし、そやさかい、美智さんのために手ごろな下宿を見つけてあげたんやけどな」

美智「うち…今のままでいたい思います」

小野木「今のまま?」

美智「はい。おばちゃんもええお人やし、うちのこと何もかも知ってはりますさかい、安心して」

 

小野木「何もかもて、まさかお父さんのことまで知ってはるわけやないでしょ?」

美智「それは…」

小野木「まあ、それは別として。やっぱり規則に反するようなことをして黙ってるわけにもいかへんし。美智さん、ここはひとつ、私の言うとおりに…」

 

美智「小野木はん。うち、ほんま言うたら会社辞めたい思います」

小野木「辞めたい?」

美智「うち、これ以上、人、欺いて生きていくのがやりきれんのどす。父のことが世間に知れてもかましまへん。それより清々した気持ちで正直に生きていきとうおす」

 

ずずずいと美智に近寄る小野木。「美智さん、会社辞めてどないして生きていける思うてます?」

美智「どんなことをしてでも」

小野木「美智さん、そら甘い」立ち上がる。「第一、どこで働くにせよ、ちゃんとした保証人がないと使(つこ)うてくれまへんよ。美智さんの身の上を何もかも承知で保証人になってくれはるお人がどこぞにいやはるのなら、ともかく」

 

美智「ほな、前科者(もん)の娘は生きていくこともできんのどすか」

小野木「もちろん私はそう思いたくはない」しゃがんで美智と目線を合わせる。「そやけど、世間がそない思うてくれるかどうか…美智さんの強情にも参ったな。こんなやったら、はっきりお母さんに断るんやった。美智さんのことは引き受けられませんって。そやけどな、美智さん。私がこんな憎まれ役を買うて出んならんのも、もとはといえば、みんな美智さんのためを思うてることや、ちゅうことだけは、よう分かってください。今、美智さんのことを心配してあげられるのは、私の他に誰もいやへんやよってな」

 

土間の流しで米を研いでいる石山。「あっ、おかえりなさい」

美智「ただいま。今から晩ご飯こさえはんのどすか?」

石山「ええ。あっ、夜が遅いもんですから、いつもこんな時間になっちゃうんです」

美智「石山はん、病み上がりやさかい、うち、こさえてあげましょうか?」

石山「あっ、いや、いいんですよ。あと、ご飯だけですから」

 

美智「ほな、ええ物(もん)あげまひょ。もらい物(もん)どすけど、チョコレート」風呂敷を広げ、チョコレートの箱を開ける。「はい」

石山「ああ、じゃ、遠慮なくいただきます」小さなチョコレートをつまむ。

美智「遠慮せんと、もっとお取りやす」

石山「ああ…」

美智「もっとこっちのおっきいの」

石山「はい」大きな板チョコを手に取った。

 

美智「あっ、おばちゃんにも」

石山「あっ、今、風呂行ってます」

美智「そう」

 

無粋なことだけど、戦前にそんなチョコレートの詰め合わせみたいなのあるぅ!?

こんな薄い箱に入ってて、大きさにばらつきはあったけど…

 

石山「あっ、あの…塩崎さん、今度の日曜、ご予定おありですか?」

美智「いいえ」

石山「いや、あの…いろいろお世話になったんで映画にでもお誘いしようかと思ったんですが…」

美智「おおきに。そやけど、うち、人の大勢集まるようなとこ行くと、すぐ気分悪うなって」

石山「はあ。あっ、じゃ、どっか静かな所じゃ…」

美智「ええ」嬉しそうにはにかんでいる。

 

日曜日。石山と美智は小さな用水路の脇を歩いていた。

石山「会社辞めるって、辞めてどうなさるんですか?」

美智「そこまでは考えてへんけど」

石山「今の会社、とても楽しい所なんでしょ?」

美智「ええ。けど、一番仲のよかったお友達が結婚するために今年いっぱいで辞めていかはるし、なんや寂しい気がして」

石山「はあ」

美智「それだけやないんどす。いろいろやかましい規則があって、うちの親のことが知れたら…」

 

石山「いや、しかし…」

美智「父も母も満州に行ってしもうて、うち、今、1人暮らしっちゅうことになってますやろ。会社の決まりでは親元から通勤せんならんことになってるんどす。そやさかい」立ち止まり、しゃがむ。

石山「しかし、それは建て前だけのことじゃないかなあ。あまり気にすることはないですよ」

美智「そやけど、なんや人さんにウソついてるような気がして、ほんまにつらいんどす。あの…」

石山「何か?」

美智「なんでもおへん」立ち上がって歩き出す。

 

さきの店

小野木「ふ~ん、ほな、2階の学生と?」

さき「へえ」

小野木「行き先、聞いてるか?」

さき「へえ、聞いてます」

 

神社の鈴を鳴らして手を合わせた石山と美智。「石山はん、うちのこと変わってるな、そない思わはるかもしれまへんけど、ほんま言うたら、うちには誰にも話せんような秘密がありますのやわ。母からも人様にそんなこと言うたら絶対にあかんて何べんも言われてきたんどす。そやけど黙ってたら、人、欺いてる気がして…そやさかい、いっそのこと話してしもうたら気が楽になるんやないか、そな思うたことも何べんかあります。うちの父親のことどす。うち、なんや石山はんなら話せる気がして…そのかわり二度と口を利いてもらえへんようになってもかましまへん。うちの父は、ついこの間まで7年間も大津の刑務所に入ってたんどす。その前にも何べんか刑務所に入ったこともあります。そやさかい、うちは前科者(もん)の娘どす。ほな、うち」立ち去る。

石山「塩崎さん」美智の腕をつかんで止める。「塩崎さんは大変潔癖な方なんですね。お話しになるには大変な勇気がいったと思います。僕はその勇気に脱帽したい感じだな。でも…お父さんのことは前から知ってました」

 

驚く美智。「知ってはった?」

石山「ええ。実はお母さんから大津の刑務所宛てに減刑願いの嘆願状を書いてほしいって頼まれましてね。そのとき初めて」

 

美智「ほな、石山はん、うちの父のこと知ってて、うちにはずっと知らん顔してはったんどすか。ひどい。石山はん、ひどいお人やわ。そんな人、好かん。大っ嫌いやわ」石山に背を向け柱にしがみついて泣き出す。

 

石山「塩崎さん、誤解しないでください。僕が何も言わなかったのは、お母さんと僕とのいわば職業的な秘密だったからです。それに塩崎さんにとっては、お父さんのことは確かに一種の不幸には違いないでしょう。けど、そのことと塩崎さんの人格とは全く関係のないものだって、そう思ってましたから」

泣いてる美智。

 

<美智が無性に泣けてならなかったのは、うれしかったからである。美智は生まれて初めて美しい言葉を聞いたように思った>

 

陰で覗き見る小野木!!(つづく)

 

陽子、今日出てないよな!? 会社のシーンでチラッと映った? 少なくともセリフはなかった。

 

ちょっとこの先のあらすじを知りたくて検索していたら、2019年3月の日本映画専門チャンネル「蔵出し名画座」で映画版「別れて生きるときも」を放送していたことを知りました。惜しいな~、もう数カ月あとだったら、確実に録画してただろうに。

 

小説が原作のせいか会話のキャッチボールより一人が長々セリフをしゃべるパターンなんだね。木下恵介アワーはポンポンよくしゃべるから同じ30分でも会話量がまるで違う。

 

はあ~、この回を見る前にケーブルテレビのSTBを4K対応の機器に取り替えることになり、録画の準備なども終わり、ドラマを見始めたら、字幕が出ない! オフの設定になってて慌てて設定し直したんですが、今、録画したのを見返すと、最初から字幕がついてる!? 数分のことですが、過去の分もさかのぼって字幕ってつくんだ、とびっくり! でも、ありがたや。