TBS 1974年9月25日
あらすじ
紀子(音無美紀子)は、珍しく深刻な顔をした大吉(松山省二)に「一郎(春田和秀)と晃(吉田友紀)のどちらが好きなんだ?」と尋ねられ返事に困る。そのころ和泉家でも、毎週行っている福山家との会食に疑問を抱いていた。
2024.5.29 BS松竹東急録画。
福山大吉:松山省二…太陽カッター社長。字幕黄色。
福山紀子:音無美紀子…大吉の妻。字幕緑。
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和泉和子:林美智子…元の妻。
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滝沢春生(はるみ):高沢順子…和子の姪。大学生。
福山隆:喜久川清…大吉の弟。浪人生。
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友二:鍋谷孝喜…太陽カッターの従業員。
洋介:田尻丈人…太陽カッターの従業員。
原京子:安東結子…元の教え子。
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福山一郎:春田和秀…大吉、紀子の息子。小学1年生。
和泉晃:吉田友紀…元、和子の息子。小学1年生。
ナレーター:矢島正明
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福山ゆき:小夜福子…大吉の母。
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和泉元(げん):杉浦直樹…中学校教師。
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監督:中村登
福山家
一郎の寝顔を見ていたパジャマ姿の大吉は、同じくパジャマ姿で髪をとかしている紀子にもう一枚、毛布かけたほうがいいんじゃないかと話しかける。大吉はちょっと下に来ないか?と紀子を呼び出した。
茶の間
ビール瓶みたいなものがテーブルの上にあったけど、ウイスキーの瓶らしい。
大吉「お前も飲めよ」
紀子「ダメよ、ウイスキーは強くって」
大吉「この間、先生と一緒に飲んだだろ?」
紀子「ええ」
大吉「お前、一郎と晃のことだけどさ、ホントのこと言って最終的にはどうなんだ?」
必ずいつかは問題になる、逃げ出すことはできないと前置きして、一郎と晃とどっちが好きなんだ?と紀子に尋ねた。大吉もどっちが好きだなんて言えないが、そこんとこを無視して通り抜けることはできない、結局最後はそれが残ると元が言っていたと話す。「お前、どっちなんだ? 大事なことだからな」
紀子「答えたくないわ、そんなこと」
大吉「俺ならいいじゃないか。誰にも分かんないんだから」
紀子「イヤよ、あなたでも」
大吉「ということはどっちかが好きなんだな?」
紀子「違うわ。ねえ、もうそんな話しないで。あなたも自分の気持ちを言わないでね。私、聞きたくないわ」
大吉「そりゃ俺だって両方大事さ。そんなことは分かってることなんだよ。だけど、そう言われればさ、そういう気持ちも残ると思うよ」
紀子「でも言ったらおしまいよ」
和泉家
書斎で採点をしている元。部屋に入ってきた和子に今度の日曜はどうするか聞く。先週は福山家に和泉家、今週の日曜日は和泉家に福山家が来る予定だが、和子は今週はちょっと休もうと思っていると言う。「毎週規則正しく会うより、時々休んだほうがいいんじゃないかしら。日曜以外も会ってんですもの」
元「僕は週に一度しか会えないんだよ」規則正しくやるから意味がある、時々気が向いたらやろうなんて言ってたら長続きしないと続ける。
和子は毎週なので晃も飽きてると言う。「ホント言うとね、私もそうなの。毎週だとやっぱり疲れるわ。最初の頃は夢中だったからなんにも感じなかったけど、夏休みが終わってから、こっち、ちょっと疲れるわ。別に支度するのが面倒くさいとか出かけるのがイヤだとか、そんなこと言ってるんじゃないんだけど。ただ、私たちだけの時間だって欲しいわ」
見つめ合う元と和子。元はタバコを消し「こっちおいで」
和子が近づくと、元が和子の手を握る。キャーッ(≧∇≦)
和子「ハァ…静かね」
元「うん」和子を膝の上に乗せる。キャーッ(≧∇≦)
私たちだけの時間が欲しいって家族の、じゃなく、夫婦の、なんだね。
しかし、春生が酔っ払って帰宅。
和子「学生よ、あんたは。ダメでしょ、こんな遅くまで飲んだりしちゃ。万が一のことがあったらどうするの?」
春生「おっかない。叔母さ~ん」
和子「何言ってんの、もう」
春生「ね~え、アイス…」和子に抱きつく。
和子「気持ち悪いわね。早く寝なさいよ、ほら」
春生「ああ~。腹減ったも~ん」
和子「フラフラしてんじゃない」
春生「恋人、欲しいんだよ~!」
和子「大きな声出して何言ってんです」
京浜蒲田駅前
一郎「ねえ、早くアイスクリーム食べようよ」
隆「ああ、もうすぐな。ちょっと待ってくれよ」
一郎「ここで何するの?」
隆「ちょっと人に会うんだよ」
一郎「な~んだ」
隆「やっぱり一郎、この封筒、お前が渡してくれよ。そのほうがいいや」
一郎「誰に渡すの?」
隆「晃のうちにいる、おねえさんだよ」
一郎「どうして?」
隆「うちの用事を頼まれたんだよ」
一郎「ふ~ん」
隆「来たらさ、黙って渡して、すぐ戻ってこいよ。俺はあの角で待ってるから」
一郎「じゃあ、自分で渡せばいいのに」
隆「アイスクリームのほかにさ、スパゲティなんか食べよう。いいだろ?」
一郎「うん!」
隆「じゃあ、もう質問なんかするな」
一郎「うん。あっ、来たよ」
春生が改札から出てきた。
隆「行け。ああ、ちょっと待って」
春生はあとから来た男性と歩いていった。
一郎「これどうすんの?」
隆「もういいよ。渡さなくても」
一郎「じゃ、早くアイスクリーム食べようよ」
隆「ああ」
「わが子は他人」のファーストシーンが隆のアップから始まってたけど、最後までイマイチ視聴者に愛されないまま終わった感じ。春生もね。田口も途中であいつとは遊ばないと隆に言われてそのままフェードアウトだったし、この作品は若手キャストに物足りなさを感じたな~。
中学校の教室
黒板には
経済
需要と供給
元「考えてみると、人間の歴史には実にたくさんの戦争があったね。いや、それは単なる過去の話ではなくて、今もまたこれから先も残念ながら続きそうだね。まあ、その主な原因が経済的な理由にあるということは、みんな2年生のときに歴史の授業で既に勉強したはずだね。あっ、簡単に言うとね、戦争というのは自分の国を豊かにするために他の国を犠牲にすることだ。それは誰だって、よその国よりも自分の国が豊かになってほしいと願うのは当然の感情だな。
だけどね、同じ人間同士なのに、どうして自分の国というふうに考えるんだろうね。例えばね、我々、日本人とアメリカ人の間に何か決定的な違いがあるんだろうか。アメリカ人がどうしても日本人にはなりえない何か決定的な理由があるんだろうか。もし、日本で生まれて日本で育てば、どこの国の人でも我々と同じような言葉を使い、精神を持つことになるんじゃないのかね。
つまりね、我々は偶然、この国に生まれたわけだ。どこの国の人でも、その場所でなければ生きていけないというほど人間には決定的な違いはないんだね。でもまあ、とは言っても全ての国の人々がそれぞれの国を自分の国だと思って暮らしてる以上、問題はそう簡単じゃないなあ。やっぱりそこでは、ほかの国より自分の国が豊かであってほしいと願うことが起きるわけだ。
だからね、人の町より自分の町、人の会社より自分の会社、人のうちより自分のうち、まあ、そう考えるようになったとしても不思議じゃないね。
子供に対する愛情の問題でもそうなんだ。親にすれば、他人の子よりもわが子。かわいいに違いない。いくら平等に考えても血のつながったわが子のほうがかわいいはずなんだ。じゃあね、自分の子が他人の子に比べて、なぜそんなにかわいいんだろうね。動物的な本能だろうか、それとも血のつながりだろうか。動物の中には子供を産んで、すぐそれを見捨ててしまう親がたくさんいるね。いや、血のつながりにしたって親子の間にテレパシーがあるほど密接なものじゃないね。
じゃあ、なんだろう。これはね、もしかすると単に生まれてから、ずっと一緒にいたからかもしれないね。あるいは親子の関係は特別なんだと教えられたからかもしれないね。確かにわが子と言う言葉には何か特別な美しい響きがある。恐らくそれはそこに最高の愛を想像するからだろうね。でもね、『わが子よ』と言うとき、その美しい言葉の裏に、なんと他人の子が置き去りにされていることだろう。愛情なんてものはそういうものかもしれない。
でもね、『わが子よ』という言葉がわが家族、わが社会、わが町、わが国よ、とつながって、どこまでもいくとき、置き去りにしていくものが、いかに多いかという気がしてしかたない。人間の理性をもってすれば、もう、とうの昔に全て『わが子よ』と言っていいはずなんだ。現実はそうじゃないね。もちろん僕もその一人だ。
でもね、僕はこの問題から決して逃げやしない。僕らは理性に向かって進むよりほかにないんだ。道はそれだけだ」途中から目を潤ませながらの大演説。
ちょっとポカーンな生徒たち!?
終業のベルが鳴る。
元「なんだか変な話になっちゃったね。それじゃ」
生徒たちが一斉に立ち上がり、「礼」と頭を下げる。
それぞれ教室を出ていく生徒たち。一人座る原。
元「もう一度、ご両親と話し合ってくれないか? これは先生のお願いだ」
原「はい」
元「ありがとう」
原は元に笑顔を向ける。
すごい長台詞だったな~。
太陽カッター事務室
大吉「で、どこ行くんだよ?」
友二「ちょっと房総のほうへ。フェリーに乗って」
大吉「ああ~、だけど、あんなボロ車じゃ格好つかねえな」
洋介「いいんですよ。どうせ友二と一緒じゃ女の子と友達にもなれないし」
友二「バカ野郎」
ゆき「さあさあ、お茶でも飲んで」
洋介「あっ、どうもすいません」
ゆき「気をつけなさいよ。休みの日はどうしても緊張がなくなるから。ダメよ、お酒なんか飲んじゃ」
洋介「ええ」
大吉「じゃ、早く行きな。あんまり文句言われるとさ、行きたくなくなっちゃうからよ」
友二「じゃ、いってきます」
洋介「じゃ、いってきます」
ゆき「ああ。スピード出さないでね」
洋介「はい」
「あしたからの恋」で正ちゃんが店の車を借りたように洋介や友二もこの間大吉が乗っていた車を借りてドライブするのかな?
大吉「さあ、それじゃ、俺も行こうか」
大吉たちは別に約束もしてないし、招待もされてないので和泉家には行かない。ゆきは毎週やってることだし、準備してたら困ると心配する。
一郎「行こうよ!」
紀子「お待ちどおさま」
一郎「早く行こうよ」
大吉「随分うれしそうだな」
紀子「銀座へ行きたいんだって」
大吉「ハッ、よし、それじゃ行こう」
大吉も一郎もジャケット着用。紀子のワンピースも素敵。徐々にミニの時代から脱してる感じかな。
台所に立つゆき。
紀子「すみません、お義母(かあ)さん、お願いします」
ゆき「ああ、行っといで」
いつも出掛ける時は親子だけ。こういうのがイヤで「太陽の涙」のはつは一人暮らししてたのかなあ? 私は、はつみたいな気ままな一人暮らしでフットワーク軽くて友達も多いほうが羨ましいけどね。
今日の外出は福山親子にとって近頃になく特別な味わいを持っていました。なんの緊張もなく、気兼ねもなく、お互いに相手の気持ちを探る必要もなかったのです。ただ、親子3人が歩いていれば、それだけで安心なのです。
宝石店のショーウインドーを見ている紀子を大吉は一郎に呼んでこさせた。
大吉はふと晃に出会っていなかったらと自分の人生を考えたりするのでした。
喫茶店で食事をし、外を歩いていると、同じく正装した和泉親子と出会った。元はネクタイ着用、晃はキャスケット、ベスト、短パン。和子はワンピース。
和子「こんな所でお会いするとは思いませんでしたわ」
紀子「ホントに」
和子「お宅もお出かけなら、お声をかければよかったわ。お忙しいんじゃないかと思って」
大吉「いや、あの…急に暇になったもんですからね」
元「いや、どうしようかなと思ってたんですよ」
大吉「アハハッ、あっ、それじゃ、一緒に銀ブラでもいかがですか?」
元「ああ、結構ですな。ハハハッ」
和子「そうですねえ」
銀座の歩行者天国はものすごい人出。
二家族は外のテーブルでアイスクリームを食べていた。
松屋銀座の屋上らしいです。
晃「もういらない」
和子「はい、お母さん頂くわ」
子供たちはまた2人だけで席を立って駆け出して行った。これから反抗期になったら頭が痛いと紀子が言う。
大吉「10年後はどうなってますかね」
元「さあ…」
大吉「このままでいけますかね」
元「もし、10年たってもこのままだったら僕たちの勝ちですね。ハハッ」
大吉「ただ、そのころ子供たちはもう高校生ですからね。全てが分かるでしょうね。少なくとも一郎は血液型が違うし。このままでいいんですかね。それとも血のつながったほうに戻したほうがいいのか」
元「その問題はですね…」
和子「あたくし、本当のことを言います。やっぱり一郎を引き取らせてください」
ハッとする紀子。
和子「いえ、どっちがかわいいっていうんじゃないの。晃はかわいくないなんて、そんなことがあるはずがないでしょ。そうでしょ? これは全く別問題なの。男の人には分かってもらえないかもしれないけど。ねえ、奥さん、あなたになら私のこと分かってもらえると思うわ。お医者さんに初めて子供ができたって言われたときのこと忘れないでしょ? 毎日毎日気持ち悪かったり、おなかの中で動いたり蹴られたり。お産のときだって、よくあんな苦しみに耐えられたと思うわ。そうでしょ? 血のつながりなんて言葉じゃとても言い表せないわ。母親だったら誰だって、それが普通だと思うの。そういう気持ちを抑えるのは、よくないんじゃないかしら。これは大事なことだと思うの。親にとっても子供にとっても。そう思いません?」
大吉も紀子も何も言えない。
和子「自分の中から出てきたんですもの。私にとってはたった一つのつながりなんですもの。たとえ、いつか捨てられるようなことがあっても自分の子ならすべてを許せると思うわ」
和泉夫婦、どちらも長台詞お疲れさまでした。
晃「お母さん」
和子「どうしたの?」
急に肩に抱きついて泣き出す。
和子「どうしたの? ねえ…晃」
一郎「今ね、よその子にぶたれたの」
和子「そう」
一郎「僕ね、助けようとしたんだよ。ホントだよ」
和子「そう。ありがとう」一郎も肩に抱く。両方の子供を抱きしめて泣いている。
元「まあ、こんな世の中ですから、いずれ血のつながった親のほうに戻したほうが子供はつまらない苦労をしないで済むと思いますよ。ただ、女房の気持ちとは別に、そのときになって子供がなんと言うかですよ。やっぱりそんな苦労はしたくないと言うのか、それとも気にかけないのか、どう判断するかですね」
大吉「さあ…」
元「よくよく考えてみれば取り違えたといっても、たかが看護婦が間違えた話でしょ? ホントは笑い飛ばすような子に育ってほしいんですよ」
大吉「そうですよ。そのぐらい強い子に育てましょう」
元「ええ」
大吉「奥さんだってね、どうしようもないほど晃がかわいいんですよ。苦しいはずですよ。僕はね、今の瞬間、2人のうち、どっちの子がうちへ来てくれても自分の子として抱き締めてやる自信はありますよ。ホントですよ」
元は大吉の顔を見る。
大吉「もしかしたら血のつながりが特別だと思うのは単なる習慣かもしれませんね」
奇しくも大吉も元と同じ考えに至ったのかな。
なぜか女の子たちが大吉と元に赤とピンクのカーネーションをそれぞれ配る。1つは胸ポケットにもう1本はそれぞれの妻に渡した。
松屋銀座を出た二家族。一郎も晃も雑踏の中へ駆け出し、大吉が追いかける。大吉が大きな声で「一郎! 晃!」と探し回っていた。(終)
個人ブログを勝手にリンクしましたが、最後のほうに「わが子は他人」の話もあり、とても興味深く読ませていただきました。
木下恵介さんは「産みの母より育ての母」という考えで、脚本家の田向正健さんと対立し、結局は田向さんの書きたいほうが通った。後半ずっと中村登監督だったのもそのせいだったのかな? 木下恵介さんの思うラストも見てみたかった。
賛否両論というより、旧ツイッターでは”否”というかモヤモヤの残るラストだったという意見が多いように見えた。が、私はそんなにモヤモヤしなかった。ラストシーンが不穏だっただけで、元の「笑い飛ばすような子に育ってほしい」というセリフに納得いったし、何年経っても、はっきりと結論の出せる話でもないだろうし、求めてもなかった。
不穏に見えたラストだけど、大吉にとっては両方大事な子供になってたとか子供はいずれ親のもとを去っていくってこととかを描いてたのかなと解釈してみた。これからも迷いながら両家は進んでいくのかなと想像したけど、今のドラマに見慣れるとはっきりしたものを示さなければダメなんだろうね。
そんな簡単に答えを出せる問題じゃない→それならこんな重い題材をドラマ化しなければいいっていうのもどうかと思うんだよなあ。意義はあると思うんだよね。
私自身はこれまでの木下恵介アワーだと圧倒的に「思い橋」のほうが評価は低い。
意図的なのか無意識なのかそれぞれ男性陣の思うような方向に行って、女性陣はそれでいいの?と思ってしまって…特に桂や幸子ね。
最初の頃、「わが子は他人」は「思い橋」同様、今までの木下恵介アワーでのおなじみのキャストが少なく、最初はどうだろうな?と思っていたけど、終わってみれば結構楽しめました。杉浦直樹さん色気あるんだなと思ったり、いろいろ発見もあった。
「おやじ太鼓」41話。そうそう、神尾が俳優に転身したんだ。栗原小巻さん写真出演。
今週金曜日、来週月曜日は「おやじ太鼓」休止です。
「幸福相談」はどんな感じのドラマなのかな。また高円寺のおばちゃんに会える。