TBS 1973年9月25日
あらすじ
多美(上村香子)は北(藤岡弘)のプロポーズを受けた。しかし、北がゆくゆくは東京で一緒に暮らしたいと言い、多美は「二上」を誰が継ぐのか心配していた。そして、桂(松坂慶子)と伸(荒谷公之)の結婚も許される。
2024.3.15 BS松竹東急録画。
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北晴彦:藤岡弘…トラベルチェーン開発課の社員。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
女性:秋好光果…織庄のばあや。
静子:相生千恵子…仲居。
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大須賀:野々村潔…織庄の社長。
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屋台囃子が聞こえる。まだ7月20日?
帳場で浴衣姿で向き合う彩子と鶴吉は「うまくいかないもんだね」と考え込む。
鶴吉「一杯(いっぺえ)やりながら考えるか」
彩子「そう。お祭りだもん」席を立ち準備に行く。
鶴吉「こうやって一本ついてくんの待ってんのもいいもんだよな。彩さんが色っぽく、どうぞ。おう、あ~っとっとっとっと、こぼれるじゃねえか」酒を飲むマネ「ああ、うめえ。あら、そう? じゃ、私もひとついただこうかしら? ♪てなこと おっしゃいましたかね」
こんな歌あるのかなと思いながら歌詞検索したら出てきた。越路さんのは東雲節でも歌詞が違う「ストライキ節」ってやつか。
鶴吉がひとり妄想していると突然良男に話しかけられてびっくり。良男を追い出そうとする鶴吉だったが、良男に暇と言われて渋い顔。「この上、邪魔しようってのかよ。さんざっぱら人に迷惑かけときやがって親不孝なヤツだな、こいつはもう…」
彩子がお酒を持ってくると、察した良男。「はっはあ、そういうわけでしたか」
彩子に杯を持ってくるように言われ、良男は厨房に取りに行く。
鶴吉「まったくムードも何もあったもんじゃねえや」
お酒を運ぶ多美。廊下で聞き耳を立てる。「フン、また座り込んでる。何を話すことがあるんだろ?」
せせらぎの間
向かい合って枝豆を食べている北と桂。テーブルの上にはビール瓶2本とコップ。
多美が部屋に入ってきた。
桂「姉ちゃん、北さんお待ちかねよ」
北「何言っとるか」
多美「あら、もう飲んでらしたの?」
北「いやあ、その…」
桂「アハッ。そんなに慌てることないでしょ。正直におっしゃいよ。この子が押しかけて困ってたとこなんですって」
北「いやあ、実を言うと、こっちのほうが飲みたいと思ったところなんです」
桂「はあ~、どうせそうでしょうよ。あっ、何こしらえてきたの?」
有り合わせで作ったと料理を出す多美。
桂「へえ~、これが? 温かい有り合わせと氷を敷いた有り合わせですって」
北「今、この人のお説教したところなんですよ。みんなしてこんなに心配してるんだから、もっと真剣になれってね」
桂「北さんったら、もう兄貴風吹かしちゃってんのよ」
多美「ホントよ、桂ちゃん。お母さんも鶴おじさんも心配して話し合ってらっしゃるわよ」
桂「あ~あ。私だけがみんなに心配かけてるドラ娘になっちゃったのね。ああ、おいしそう。北さん、これ1つもらってもいい?」
北「ああ」
桂「あれ? これ、姉ちゃんの箸かな?」
多美「ん…何言ってるの」北の杯に酒を注ぐ。
桂「ん~、おいしい。愛情がこもってると味だって、これだけ違ってくんのね」
伸ちゃんはまだ太鼓をたたいていた!
帳場
彩子「織庄の旦那も昔亡くなった女将さんをおもらいになったときは先代さんの反対を押し切って結婚なすったっていうのにね」
鶴吉「喉元過ぎれば熱さを忘れるってね、てめえの都合の悪(わり)いことは忘れるもんさ」
良男が来ないことを気にする彩子。
鶴吉「いいじゃないか、2人で」
良男を呼びに行く彩子。
良男は橋の上を幸子と歩いていた。ずっとあの蝶ネクタイをつけたまま。「親父のようなのを見果てぬ夢っていうんだろうな」
幸子「全然望みないのかしら?」
良男「100パーセントないね。親父もそれが分かっていて戯れてるだけなのさ。ほら、猫が玉にじゃれついてんのあるだろ? あれと同じさ。その玉をほどくつもりはないのに一生懸命ほどこうとじゃれついてる。哀れというも愚かなりさ」
浄土真宗の白骨の章の中に「あわれというも、なかなかおろかなり」という言葉があるのね。よっちゃん、さすが大学出!
帳場
定番の大きなくしゃみをする鶴吉。「あの野郎、また俺の悪口言ってやがんな」
彩子は仏壇に夫の大好物を供えて、手を合わせる。豆腐に青のりが乗ったように見える。その姿を神妙に見つめる鶴吉。
戻ってきて鶴吉にお酌する彩子。「でも鶴さんはもう安心ね。よっちゃんは一人前になったし、さっちゃんみたいないいお嫁さんも決まったし」
鶴吉「何が安心なもんかい。この暮れには1人産まれてくるんだよ」
彩子「鶴さんも名実ともにおじいさんね」
鶴吉「桂ちゃんのことを心配してたんじゃねえのかい?」
彩子「私、直接、織庄の旦那んとこ行ってこうかしら」
鶴吉「頭下げて、どうぞもらってくださいって頼むのかい? よしてくれよ。そんなにまでしてもらってもらうことはねえじゃねえか」
彩子「そりゃあそうなんだけれど、でも桂ちゃんが大須賀君のことホントに好きなら…」
鶴吉「彩さんも甘(あめ)えお母ちゃんだな」
彩子「桂ちゃんがどうしてもっていうなら打つ手がないこともないのよ。私に考えがあんの」
鶴吉「なんでえ? 駆け落ちか?」
彩子「バカね、鶴さん」
せせらぎの間
多美「私は北さんには、こんな田舎の旅館の主人でおさまってもらいたくないわ」
北「そりゃ俺だってね、東京の真ん中で力いっぱい男の仕事をやりたいさ。しかし、この旅館、誰がやっていくんだい? 君が東京に出ていくってことは人手が1つ減ることになるんだし、桂君が伸ちゃんと一緒になってしまえば誰もいなくなってしまうんだぜ」
多美「そんなことまだ分かんないわよ。あのお父さんの様子じゃ」
北「ああ、それもそうだな」
多美「桂、ホントは北さんのこと好きだったんじゃない?」
北「いやあ、あの子はまだ子供だよ」
多美「ウソ。大人よ。北さんが子供扱いにしてただけ」
北「まあ、そんなこともあったな」←意味深なこと言うなよ。
多美「桂、ホントに伸ちゃんと一緒になるかしら? だって、伸ちゃんが飛び出してくるぐらいなら一緒にならないって言ったんでしょ?」
北「うん、まだ一揉めあるかな? まあ、一杯どうだい?」
多美「私?」
北「うん、まあいいじゃないか。さあ」多美に杯を握らせてお酒を注ぐ。
帳場
桂にお酒を勧める鶴吉。
桂「あらあら、おじさん、もう出来上がっちゃってんの?」
彩子「何言ってんの。鶴おじさんもあなたを心配してるのよ」
桂「あらあら、随分お暇ですこと」
鶴吉「桂ちゃん、そんな言い方ってねえだろ」
彩子「そうよ、桂ちゃん。みんな、あなたの幸せを思って心配してるんじゃないの」
桂「すいません」
鶴吉は織庄のボンボンに帳場でもやってもらおうか?と言うが、桂は嫌がる。
彩子「この旅館継ぐのイヤ?」
桂「うちは姉ちゃんと北さんでやってくわよ」
彩子「それがね、多美さん、北さんと東京に住みたいんですって」
桂「姉ちゃん、そんなこと言ってんの?」
彩子「サラリーマン生活ってそんなにいいのかしらね?」
桂「そりゃあね、なんてったって、2人だけの生活なんだから。ああ…ごめんなさい」
鶴吉「そりゃ若え者は、もっともらしくあの人に力いっぱい働いてもらいてえとかなんとかって大義名分をくっつけるんだよ」
彩子「若いんだもん、当然よ」
桂「違うと思うわ、私。本当は姉ちゃん、ずっとこのうちにいたいんだと思うわ。このうち継ぎたいのよ。それを…それを伸ちゃんのことがあるもんだから私に譲ろうとしてんのよ」
帳場に戻って来た多美。
気付かず話し続ける桂。「伸ちゃんとこのお父さんが許してくれないって言うから…伸ちゃんが織庄を飛び出すなんて言うもんだから…伸ちゃんと私にこのうち譲って出ていこうとしてんのよ。そうよ、そうなのよ。母さん、そんな手に乗っちゃダメよ。だから私、伸ちゃんが飛び出してきても一緒にならないって言ってるでしょ?」
多美「桂ちゃん」
桂「姉ちゃん、そんなひきょうな手使わないで。姉ちゃんの手の内なんて、ちゃんと読めてんだから」部屋を飛び出していく。
桂を追いかけて、厨房まで来た多美。「桂ちゃん、違うわよ。私、ホントに出てっていい気になってるの。だから…」
桂「分かってるんだから。姉ちゃんの考えてることなんて。ごまかさないで」
多美「桂ちゃん」桂の肩を抱く。
帳場
彩子「そういうことだったのね」
鶴吉「♪姉は妹をいたわりつ 妹は姉を慕いつつ…ってね」
妻は夫をいたわりつ、夫は妻に慕いつつ~の替え歌かな。
亀次郎「♪妻は夫をいたわりつ 夫は妻を慕いつつ」
彩子「鶴さん、あんた、なんのために年を取ってきたの? これぐらいのことが分からないなんて」
鶴吉「相すいません。なんだい、どっちの言うことだよ?」
彩子「ホント。私たち、いつの間にか若い人たちの気持ちが分からなくなってたのね」
若い人じゃないから理解できないのかな? 全然分かんない。
法被にハチマキ、手にバチを持ったまま伸が走って、実家へ。あの家の前のバス停、ちゃんと「織庄前」になってんだね。
伸「ただいま! 親父! 親父!」茶の間?に座り込む。
女性「あら、ぼん」
伸「あら、ぼんじゃないよ。親父は」
女性「いらっしゃいますよ」
伸「ここに出てこいって言ってくれ」
女性「出てこいだなんて…」
伸「俺は今、太鼓たたいてきて興奮してるんだ。冷めないうちに、さあ、早く!」
女性「ぼん!」
伸「吹き矢でも鉄砲でも持ってこい!」バチでテーブルをたたいてる。
扇子で顔を仰ぎながら悠々登場する大須賀。「何をわめいとるんだ?」
伸「ああ、お父さん…いや、違う。やい、親父! 俺は誰がなんと言ったって二上桂と結婚するぞ! 文句があるならなんなりと言え!」荒い息遣い。
大須賀「そう興奮せんと汗でも拭け」
伸「そんな懐柔策に乗ってたまるか。許すのか許さないのか、さあ、どっちだい!?」
大須賀「おい、ばあさん。おしぼり持ってきてやってくれ」←ばあさんて!
女性「はい」席を立つ。
大須賀「ハハハハ…」
伸「笑い事じゃないよ! さあ、どっちだよ!?」
大須賀「どっから聞いてきたんだ? わしが使った手を」
伸「えっ?」
大須賀「わしがお前のお母さんをもらうとき使った手をどっから聞いたと聞いてるんだ」
伸「誰にも聞くもんかい!」
大須賀「しかし、わしはもう少し様になっとったぞ」なんだこれと伸の身に着けているはちまきやバチを落とし、「そんなザマでわしが脅せると思ってんのか! 世の中、お前が考えるほど甘くはないんだ。この腰抜け!」部屋を出ていく。
しょぼしょぼとうなだれる伸。
彩子は幸子に手伝ってもらいながら着替えている。「ちょっと派手だったかしらね。気が引けるわ」紺色の生地に線みたいな模様がキラキラしてる!?
幸子「そんなことありません。とってもお似合いです」
彩子「そう? 恥ずかしいぐらい我慢しなくちゃね。桂ちゃんのためなんだから」
鶴吉「へえ~、行ってくるかい? 織庄へ」
彩子「覚悟を決めたわ」
鶴吉「さすがだな。昔、出てたころ思い出すよ」
彩子「昔を思い出させるために行くんだもん」
鶴吉「俺も箱屋になってついてこうか?」
これは完全に2番の芸者の供をする男の意味なんだろうな。
彩子「冗談はよして」
鶴吉「いやいや、冗談でなく1人で大丈夫かい?」
彩子「ええ、鶴さんはダメ。すぐケンカしちゃうから」
鶴吉「チェッ」
桂「あら。うわあ、お母さんきれい。どうしたの?」
彩子「うん、ちょっとね」
鶴吉「彩さん、これから一世一代の大芝居、務めに行くんだってよ」
彩子「鶴さん」鶴吉の肩を押す。
鶴吉「ヘヘッ。男の花道ってのは聞いたことあるけど、女の花道ってのは、あんまり聞かねえな」
桂「本当にお母さんどうしたの?」
笑顔でごまかす彩子。
二上の玄関
大須賀「ごめん。ごめん! 誰もいないのか?」
多美「あら、いらっしゃいませ。先ほどは失礼いたしました」
大須賀「いや、女将さんはいるかな?」
多美は上がるように言い、ロビーで待たせた。すぐ帳場へ行き、彩子に耳打ち。
ていうか、あの距離なら大須賀社長が来たこと彩子たち気付くだろ!
織庄の旦那が来たことに彩子も鶴吉も桂も驚く。
鶴吉「こいつはいいや。舞台のほうで向こうから回ってきやがった」
桂「そう、社長来てんの。久しぶりに会ってこようかな」
多美が止める。彩子は渓谷の間に通すように多美に言うが、自ら案内するとロビーへ。
桂「社長、何しに来たんだろ?」
ロビーにいた大須賀を案内する彩子。
帳場
静子「縁談、ダメになるのかね?」
鶴吉、幸子も心配そう。
鶴吉「しかし、向こうから出向いてくるとはな。どういう話かな?」
桂「どんな顔してた? 伸ちゃんの親父さん」
鶴吉「なんだか閻魔様が塩辛なめたようなツラしてたよ」←分からない。
桂「ふ~ん」
鶴吉「う~ん…」
桂「ついに失恋の時、至るか…」鶴吉に寂しそうに笑いかける。
厨房
立ち上がった鶴吉は一升瓶を手にする。
良男「おい、なんだよ、親父。こんなときに酒なんて食らいやがって」
鶴吉「やかましい、バカ野郎! 昔の侍ってものはな、いざ戦場ってときには、こうやって杯を傾けたもんだ」
良男「いざ戦場?」
鶴吉「そうよ。出陣だい。彩さんや桂ちゃんに泣きを見せるようなヤツを俺は許しちゃおかねえんだ。ぶっ殺してやらあ」
良男「親父、助太刀するか?」
鶴吉「しゃらくせえこと言うない。引っ込んでろ!」
渓谷の間
彩子「ご無沙汰いたしております」
大須賀「いや、こちらこそ。」
彩子「桂がいつもお世話になりまして」
大須賀「そう改まられては困るな。世話になってるのはこちらのほうで。しかし、女将さん。そうやってると昔のあんたを思い出すな」
彩子「思い出していただけましたかしら。もう20年にもなりますかしらね」
大須賀「うん、20年ね…」
彩子「いろんなことがございましたね」
大須賀「うん」
彩子「ほら、旦那様が秀駒(ひでこま)さんのことでおうち…」
大須賀「あっ…変なことを思い出させてくれるなよ。今日はまた昔のことをよく思い出さされる日だな」
彩子「あのころはお互いに若(わこ)うございましたね」
大須賀「ああ、暑いな、この部屋」
おしぼりを取りに行こうとした彩子を止める大須賀。話し出そうとしたところ、多美がお茶とおしぼりを持ってきた。
法被にバチを持った伸も二上に登場。「こんちは、こんちは!」
静子が出迎えると、帳場に上がり込んで「桂ちゃん!」と探し回る。厨房から出てきた良男から庭にいると言われ、外に行こうとしたが、良男に父親が来ていることを確かめた。
良男「今頃は…血まみれじゃねえのかな」
伸「えっ!?」
渓谷の間
鶴吉「ごめんなすって」
彩子「鶴さん」
大須賀「ああ、鶴さん、ちょうどいい。あんたも一緒に聞いてくれませんか?」
鶴吉「ええ。聞きやすとも。聞かしていただきやしょう」
大須賀「女将さん。実は今日伺ったのはほかでもないんだが、例の桂君とうちの伸のことだが…」
彩子「はい。そのことであたくしもこれからお宅にお伺いしたいと思っていたところなんです」
鶴吉「ええい、じれってえな、もう。どっちからでもとっとと言ったらどうだい!」
大須賀「ふつつかな息子だが桂君を伸の嫁に頂けまいか?」
鶴吉「だ…旦那、今なんておっしゃいやした?」
大須賀「桂君をうちの伸の嫁に頂きたい。このとおり、お願いします」
彩子「旦那…あの…本当でございますか?」
鶴吉「女将さん」
彩子「ど…どうぞ、どうぞお手をお上げになってくださいまし」
大須賀「よろしくお願い申します」
彩子「こ…こちらこそふつつかな娘でございますが」
大須賀「いやいやいや、それはこちらの言うことで」
鶴吉「旦那、よくそこまで…」
大須賀「桂君がすばらしい娘であることは私が一番よく知っているつもりです。親戚には有無は言わせません。私にお任せください」
彩子「ありがとうございます」
鶴吉も大須賀の手を取り何度もお礼を言う。
ロビーへ走る鶴吉。「やった、やった、やった、やった! やったよ!」
良男「どうだった? 親父」
鶴吉「成功、成功。ハイセイコー」
1970年生まれの国民的アイドルホース。1975年引退。
伸「やった! わあ、やった!」
大興奮の伸は庭へ飛び出す。庭で寝ている桂。
伸「桂ちゃん。死んでる…」
桂「バア~、フフッ」
伸「バカ!」桂を抱き起こす。「親父が許してくれたんだ。許してくれたんだよ!」抱きしめられた桂の表情は少し寂しそうに見えるんだけどな?
二上のマイクロバスが走る。
西武秩父駅の待合室
北「11月だね、おめでたは」
幸子「はい」
北「丈夫ないい子を産むんだな」
良男「女なら幸子に似た子が産まれてきますよ。男なら…いや、男でも、きっと俺に似た子が産まれてきます。なんかそう信じられるようになったんです」
北「そうだよ。それでいいんだよ」
多美「あっ、桂たち来たわ」
桂「あっ…ああ、やっと間に合った。お店が忙しくて忙しくて」
伸「いろいろありがとうございました」
北「やあ」
伸「あの…これ、親父から反物です」
北「えっ? こんなのもらっていいのかい?」
伸「いいんですよ。どうせ店の物(もん)なんだから」
一同の笑い声
伸「あの…おやじがまた観光客をよろしくって言っていました」
北「ハハッ。抜け目がないな」
伸「ホントにお世話になりました」
北「しかし、随分世話を焼かしたな、君たちは。ハハッ」
桂「あら、北さんこそ。随分世話を焼かせたじゃないの。ねっ、姉ちゃん? フフッ」
はにかんで北を見上げる多美。
桂「ねえ、今度はいつ来るの?」
北「いや、今度は多美さんに東京に来てもらってアパート探しだ」
伸「アツい、アツい」←字幕は(良男)になってたけど、伸だと思う。
北「ねっ?」多美の肩に手を置く。
伸「あ~、抱いた! う~、アチ~」
帳場
彩子「この半年ほど次から次へといろんなことがあったわね」
鶴吉「人間のうちなんてのは妙なもんだい。なんにもねえときは5年でも10年でも平穏無事だけども一度、事があったとなると次から次へとやって来やがる。ハハッ、近頃の台風みてえなもんだい」
彩子「幸せ、幸せって一口に言うけれど、みんなが幸せになるってことは大変なことなのね」
鶴吉「ああ。芝居やテレビじゃ簡単に幸せになるけどな」
彩子「鶴さんはどう? 幸せ?」
鶴吉「えっ? ハハッ。俺は浮き名儲けで結構。さてと仕事、仕事…よっ!」立ち上がって厨房へ。
一人残された彩子。
目の前には武甲山が広がるのであった。(終)
正直、う~ん…な結末だった。脚本家としてはお互い思い合う美しい姉妹愛を描いてたつもりだろうけど、う~ん。主題歌で歌われた、ふるさとを捨てて便りもよこさない”あの子”とは多美だったんだろうか。異色な木下恵介アワー。
私なりの解釈
北→多美と結婚して二上をもり立てようという気もあったけど、東京で力いっぱい働きたいとも思っていて、口ではいつでも辞めてもいいと言いつつ、専務や課長に止められなくても会社を辞める気なし。
多美→北が自分のせいで田舎旅館におさまってほしくない。桂と朝風呂に入ってた回も「私がこのうちを出たらどうする?」と聞いており、家を継ぐ気は元々あまりない。旅館も自分たちが生活できればいいという程度。前回の大泣きはうれし泣きというツイートを見て、目からウロコ。
桂→北が好き。伸との結婚はどっちの結果になってもいいと思っていた。
伸→桂が好き。桂も伸も秩父の発展を思う若者で、ここが一番多美と違う気がした。
良男→幸子が好き。
幸子→良男に押されただけの人生。きれいなお人形って感じで意志を感じない。
彩子→芸者上がりだけど案外色恋には疎い。でも鶴吉の思いは知っててスルーしてる気がする。
脚本の高橋玄洋さんは木下恵介アワー、人間の歌シリーズでは5作書いている。
・「春の嵐」(1971年12月16日 - 1972年4月13日)
・「白い夏」(1972年8月3日 - 11月30日)
・「思い橋」(1973年4月3日 - 9月25日)
・「バラ色の人生」(1974年3月21日 - 6月13日)
・「遙かなる海」(1976年4月29日 - 10月21日)
「春の嵐」には近藤正臣さん、秋山ゆりさん、望月真理子さん、松岡きっこさんなどが出演、「白い夏」は松坂慶子さん、仲雅美さん、荒谷公之さんが揃って出演している。「遥かなる海」にも近藤正臣さん、望月真理子さん。
それと、林隆三さんと小坂一也さんが「あしたからの恋」共演後にNHKで再共演した「帽子とひまわり」というドラマの脚本も高橋玄洋さんと知り、へぇ~!
これまでの木下恵介アワーに比べると、美男美女度が飛びぬけて高く感じた。最初は伸ちゃんとよっちゃんが似たタイプのイケメンで、もう少し違いのあるイケメンを揃えたらいいのにな~とも思ったけど、割と伸ちゃんの飄々とした感じがクセになっていた。「お前さん」を多用してるのも見た目とギャップがあってよい。終盤なぜかテンション高いキャラになっちゃったけどね。
伸ちゃんは少女漫画だとカッコよく女性にも優しく人気があるんだけど、ヒロインにはフラれちゃう、当て馬キャラっぽい感じに見えたのに、このドラマだと本命と一緒になれた。でも、桂の本心は…?って感じだしねえ。
主人公の字幕が黄色で、このドラマだと多美が黄色、桂が緑だったけど、キャストクレジットの順番でも真ん中辺の多美がヒロインって違和感ある。当時のポスターは藤岡弘さんを真ん中に上村香子さんと松坂慶子さんが並んでるけど、北と桂の2ショットの少し後ろに多美がいる感じにも見える。
よっちゃんこと仲雅美さんのブログ発見。当時のお知らせにも”主演の藤岡弘や松坂慶子に~”という一文がある。そうだよねえ、やっぱり名前の順番からいっても、藤岡弘さん、松坂慶子さんが軸になってる感じかなあ。
「あしたからの恋」もwikiでは進藤英太郎主演となってるけど、字幕黄色は和枝役の尾崎奈々さんだった。相手役の大出俊さんが緑、兄役の林隆三さんが水色。
このドラマは最終的に北とくっついたのが多美だから黄色? でも体感としては桂が黄色って感じだったけどね。
次の「太陽の涙」は前から見たかった作品なので楽しみ。加藤剛さん、山本陽子さんとこれまた美男美女! 三島雅夫さん、沢田雅美さん、菅井きんさんの出番はいかほどだろうか。