徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #14

TBS  1968年4月16日

 

あらすじ

敬四郎は、机に向かって一生懸命勉強していた。世の中に春が来ても、敬四郎に一年間春は来ない。そこに三郎が飛び込んできた。気晴らしに渋谷の喫茶店に行こうと言うのだ。その喫茶店には三郎お気に入りの女の子がいる。しぶしぶついていった敬四郎だが…。

2023.7.31 BS松竹東急録画。12話からカラー。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。2月5日で61歳。

妻・愛子:風見章子…5月で56歳。

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。3月3日で30歳。独身。

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。28歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。26歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して大学生。

次女・幸子:高梨木聖…女子大生。1月の成人式に出席。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…4月から高校生。

*

お手伝いさん

初子:新田勝江…亀次郎と同じ誕生日2/5で30歳。

お敏:菅井きん…愛子の4つ下。6月で52歳。

*

田村:曾我廼家一二三…運転手。

 

今回も脚本は山田太一さん。

 

敬四郎の部屋

敬四郎は英語の勉強している。

 

This is the man whom I asked the yesterday.

これは昨日私が道を尋ねた人です。

 

This is the girl whom I loved in former day.

昔、僕が愛した人です。

 

三郎が入ってきて、朝寝してのんびりやれと言うが「二度落っこちるのは嫌だからね」と敬四郎。やっぱり敬四郎って一浪中なの? 私はてっきり二浪に突入したものかと思っていたのに、どうも家族の会話からは一浪っぽい感じだね。

 

三郎は渋谷にちょっとした喫茶店があるから行こうと誘う。渋谷の喫茶店というと「岸辺のアルバム」で則子と北川が待ち合わせしてたの思い出すなあ~。

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モーニングサービスにトーストとゆで卵がつくと三郎がさらに誘う。「ゾッとしないね」と乗り気じゃない敬四郎。今はあまり言わない言い回しだけど、感心しない、面白くないなどの意味。

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壁に「TBS-SKI」と書かれた三角形のペナント。敬四郎がスキー旅行で行った石打TBSスキー場のものだろうか。

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三郎は一人じゃ行きにくいと誘う。頭に振りかけてるのはポマード? 敬四郎の好きな女の子が大学に入ったことをかおるから聞いていて気晴らしに行こうと誘う。

 

敬四郎の部屋に入って来た愛子は幸子から三郎が喫茶店の女の子を気に入っていることを聞いていた。

 

愛子「嫌ですよ、お母さんは喫茶店の女の子なんて」

三郎「偏見ってあるんだな。お母さんほどの人でも」

敬四郎「大丈夫ですよ、てんで勇気がないんだから」

 

山田太一さんの描く愛子さんはちょっと当たりがきついのよね。

 

茶店

きりっとした美人が歩いている。三郎はあの子に注文を取りに来てもらわないと話にならないと座るタイミングをうかがう。こちら空いてますけど、と声をかけてきたのはショートカットに眼鏡のもっさりした女性。「今、座りたくないの」とやんわり断る三郎。こういう対比きついわ。この店で幾度も理不尽な目に遭ったんだろうとか考えちゃうよ。ちょっとした笑いのシーンなんだろうけどね。

 

タイミングをうかがって座ると美人のウェイトレスが注文を取りに来た。キャストクレジットにあった吉岡淑子さんという方かな? 三郎と敬四郎はコーヒーを注文。ツンと笑顔一つ見せないウェイトレスに愛想のないことと敬四郎は言うが、「自尊心があるんだよ、自尊心が。卑屈じゃないってことさ」と三郎は水を受け取りながらデレデレ。

 

敬四郎の席の正面に男性と話し込む久代(聖みち子)がいた。こっちはニコニコの美人。敬四郎に気付いた久代は頭を下げてきたが、敬四郎は横を向いて無視。三郎は「おい、挨拶してるぞ」と慌てる。

 

敬四郎「だから兄さんモテないんだよ」

三郎「お前はモテるからな」

 

三郎はモーニングセットを持ってきたウェイトレスに休みは1週間に一遍ぐらいあるんでしょう?と話しかけるが、さあ…と濁され、何曜日?と聞いて無視される。

 

美人って大変だなあ。ちょっと笑顔を見せれば、俺に惚れてると勘違いされまくったから笑顔一つ見せないんじゃないかな。敬四郎みたいに愛想がないと嫌う人もいれば、クールなところが最高という三郎みたいな人がいて。

 

久代を見ている敬四郎。三郎たちはゆで卵だけを持って店を出た。トースト食べなよ。公園でゆで卵を食べる三郎と敬四郎。敬四郎はウェイトレスに相手にされてなかったと三郎に言い、三郎もまたあんな女やめちゃえと言い合う。敬四郎はまずい卵!とゆで卵を投げつける。おいおい! それを見ていた三郎はゆで卵を一気に口に入れる。

 

これからどうする?となるが、三郎は200円しかお金を持っていない。

 

田村の運転する車に乗ってる亀次郎と武男。亀次郎は3階建てのビルに1人で契約もできないのかと武男を怒る。「お前はな、何かといえば従業員のほうに立って、わしに盾をつく。いいか、お前は利益代表なんだぞ。誰が見たって経営者側なんだ。立場を自覚しろ、立場を」と説教。

 

信号待ちしていた車中から武男は三郎と敬四郎を見つけた。道路で石けりしながら歩いている。三郎は学校、敬四郎は受験勉強だろうと亀次郎は2人のそばへ行こうとするが、Uターン禁止の場所でそのまま通り過ぎた。

 

武男「まあ、いいですよ。悪いことしてたわけじゃなし、石を蹴ってるなんてかわいいじゃありませんか」

亀次郎「いい年をしてなんだ。悪いことでもしてるほうがよっぽど覇気があっていいぞ」

亀次郎の言うこともちょっとわかるぞ。

 

広間で洋二がピアノを弾いている。

 

お敏と初子は台所で紅茶を飲みながら優雅な休憩。

お敏「だけどあれね、ものは考えようね。いくらお金があったってさ、苦労は絶えないんだもの。やれ税金だの、やれ工事の手違いだの、おまけに子供が7人もあれば、やれ娘の結婚だの息子の落第だの全く楽じゃないわよね」

初子「でもね、私はやっぱりさ…」

お敏「私はちっとも羨ましくなんかないわ。奥様は買い物でお留守だし、こうやってホッとしておいしい紅茶を飲んでれば、ほんとに幸せ。何を飲んだって食べたってタダだしね。それにあれじゃない? こうやってお客様みたいな紅茶茶碗で飲むと余計気分が出ちゃうもんね」

初子「そりゃ、お湯飲みで飲んだっておいしくないもの」

 

ちょうどピアノも聞こえてくるし、これで駅前のケーキでもあったら言うことないというお敏に初子はどっさり食べたことがないのでお寿司がいいと言う。せちがらくなったせいかお客様でお寿司を残す者がいなくなったと嘆くお敏。

 

広間に紅茶を運んできた初子。洋二が弾いていたのはショパン

ショパン: ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11 - 第2楽章

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ソファセットに座り、紅茶を飲みながら初子と話をする。

初子「この間の絵本、まだ本にならないんですか?」

洋二「ダメだね、もうひとつ何かが足りないと言われちゃったよ」

初子「あら、そんな言い方ってありませんよね。『何か』だなんて。はっきり言えばいいんですよね。鬼の角が1本足りないとか赤鬼を増やせとか」

洋二「ハハッ、いいんだよ」

 

しかし、あの絵を見て泣いてくれた人がいると話し、再びピアノの前に座ると「どうしてるかな、あの人」とピアノを弾きながら思い出す洋二。

初子「あの人って誰ですか?」

洋二「幸子の友達だよ。水原さんだよ」

 

あの時は君もお父さんに怒鳴られて泣いてたんだよと洋二。

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初子「どうせ私なんて便所より他、泣くところがないんです」と怒って出ていってしまう。入れ違いに入ってきたのは秋子。

 

洋二は幸子の友達のことを話してたら急に変になったと言うが、秋子は「女って春になると気が高ぶるのよ」と言う。春のせいかとあっさり納得する洋二。

 

秋子は自由が丘まで来たからちょっと寄っただけと不機嫌。

洋二「神尾さんとケンカでもしたのか?」

秋子「神尾さんじゃなくてカメよ。あの人とにかく一服するっていうこと知らないんだもの」

 

お敏が入ってきて、茶だんすの隅にどら焼きがあったと思ったら、お椀の蓋だったと笑う。どら焼きが食べたかった秋子にお敏は初子を走らせたと言って部屋を出ていった。

 

神尾は秋子に子供じゃないんだ、お父さんなんか無視しちゃえ、無礼なおやじにいつまで義理立てしてるんだ、勇気がないのか、結婚は自由じゃないかなどと言ってくるが、建て前と現実は別。秋子は亀次郎の悪口を神尾の前で言うと一緒になって亀次郎の悪口を言いだし、秋子としてはいい気持ちがしない。

 

なるべくなら親の許しがあった方が結婚したって気持ちがいいと考える秋子と、そんな秋子を意気地なしだの古臭いという神尾。あの顔じゃなきゃ許せん発言だな。

 

かおる帰宅。乱暴にかばんを置くと、かおるのお気に入りの英語の先生の時だけ100点をとる生意気な女がいると話し始める。かおるは65点。秋子が笑う。

洋二「奥ゆかしいよ」

かおる「ねっ、そうでしょう? いくらね、先生がいい男だからってね、すぐ100点取るようなそんな出しゃばりはできないわよ」

秋子「それはできない子が言うことよ」

かおる「失礼しちゃうわ」

秋子「じゃあ、ジャンジャン100点取ったらいいじゃないの」

かおる「うん、そのうちにね。今に見てるといいんだわ」

 

お敏がたい焼きを持って広間に入ってきた。秋子はがっかり。

かおる「いやに下町ね。これじゃ65点のはずよ」

お敏「腐っても鯛って言うじゃありませんか。たくさん召し上がってください」

 

敬四郎、三郎帰宅。

敬四郎「金がないと東京なんて街は取りつく島がないんですから」

 

三郎と敬四郎は渋谷から新宿まで石蹴りして歩いていた。代々木でラーメン食べて、4時間7キロ歩いた。

秋子「ヒッピーじゃない、それじゃ」

 

お茶を運んできたお敏は仲の良いきょうだいをほほえましく見ている。

三郎「面白うて やがて悲しき 石蹴りじゃ」

敬四郎「ああ、蕪村でしょう?」

三郎「だから落ちたの」

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松尾芭蕉なのね。

 

三郎「たい焼きや それにつけても 金の欲しさよ」

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それにつけても金の欲しさよ」をつけるとどんな句もそれっぽい狂歌になるという言葉遊びのようなもの。勉強になるなあ。

 

お敏はお金があっても苦労が絶えないと話して敬四郎たちに責められるが「そりゃもう皆さん腐っても鯛でございますもの」と返して部屋を出ていく。

 

愛子は敬四郎が欲しがっていた薄手のガウンを買いにデパートへ。「かわいいんだよ、お前が」という洋二の言葉に敬四郎の顔をじっと見るかおる。アドリブ? すごく仲良さそう。

 

洋二「さてと、ひと仕事してくるか」

三郎「いいですね、洋二兄さんは」

洋二「何が?」

三郎「なんとなく楽しそうで」

洋二「楽しそうか」

三郎「健康なんだな」

洋二「そうかな。

♪朝から夜まで 鳴りどおし

みんな今では こわくない」

 

洋二が歌いながら出ていった後、何となく沈んだ表情になる三郎たちは続きを歌いだす。

 

♪ドンドン ドドンド ドン ドドン ドドン

ドンドン ドドンド ドン ドドン ドドン

ご機嫌如何か 大太鼓

そんなにわめくと つかれます

ソレソレ 言わぬことじゃない

破れてしまった それごらん

 

みんな歌がうまい。

 

茶の間で夕食

最初のころ椅子にテーブルだったのに、すっかり座るスタイルになってる。

 

亀次郎「目標を立てて、一路、そこへ驀進できんようでどうするんだ、男が」

石蹴りをしていた三郎と敬四郎に学生の目的は学問。学問以外につまらん脇見をするなと説教し、武男にもあんなんじゃ大亀建設に跡継ぎになれんぞとガミガミ。

 

幸子「食事中に怒鳴ると消化に悪いと思うんですけれど」

亀次郎「ああ、怒鳴りゃ怒鳴るほど食べられて食べられて」とご飯を頬張る。「なんの苦労もなくて二親そろって我が家は花盛りだ。なあ、洋二」

洋二、にっこり。

 

亀次郎は3杯目のご飯をおかわりし、ごはんをかきこむ。(つづく)

 

きょうだい間の会話が面白い回だったな。洋二は男兄弟とわいわいするより女兄弟と話してる方がよさそう。トータルしてみると亀次郎の出番って思ったより少ない。