徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】たんとんとん #23

TBS 1971年11月9日

 

あらすじ

文子(榊原るみ)にひそかに思いを寄せる健一(森田健作)は、友達(岩上正宏)とバーへ行き、ばったり出会った恩師(曾我廼家一二三)につい愚痴をこぼしてしまう。ある日、もと子(ミヤコ蝶々)がいない尾形家で文子が食事を作っていて…。

君のいる空

君のいる空

  • 森田 健作
  • 謡曲
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2024.2.5 BS松竹東急録画。

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尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。

*

尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。

*

江波竜作:近藤正臣…先輩大工。

石井文子:榊原るみ…竜作の恋人。

*

堀田咲子:杉山とく子…堀田の妻。

福田先生:曾我廼家一二三…健一の中退した高校の元担任。

磯田:岩上正宏…健一の友人。

*

堀田:花沢徳衛…鳶の頭(かしら)。

 

夜、尾形家を訪ねた咲子。戸口に磯田が立っていたせいでドアが開きづらかった。磯田はそのまま玄関で待っていて、咲子は家に上がった。

 

茶の間

もと子に繕い物をしてもらっている健一。

咲子「夜遊びかい? 健ちゃん」

健一「いや、ボウリングだよ」

もと子「他のセーター着ればいいのに、どうしてもこれだって言うのよ」

咲子「あっ、ほころび?」

もと子「見てごらん。薄くなっちゃって」

健一「いいから、早く縫ってよ。磯田が待ってんじゃないか」

 

もと子「じゃ、他のを着ればいいじゃない」

健一「このシャツにはね、これが一番合うんだよ」

もと子「言ったら聞かないんだから、手に負えないのよ」

咲子「似てくるんじゃないの? 棟梁に。棟梁も気に入ったとなると、そればっか着てたもんね。フフフ…」

もと子「さあ、これで当分もつだろ」

健一「あっ、はい、いってきます!」

もと子「11時までに帰ってこんと承知せんからね」

 

玄関

健一「時間のことは言うなって言ってんだろ。一番頭にくんだよ、俺は」

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14話でも同じこと言ってるけど、待ってるほうだっていろいろ予定あるんだからね。

 

⚟もと子「なんや? その言い方は」

 

健一「いってまいります!」磯田を急かして外へ。

 

茶の間

咲子はもと子にゆり子の話を切り出す。ゆり子のいいようにしてやろう、とにかく当人同士が愛し合ってることが何よりだという結論になった。ゆり子は喜んでいるが、頭(かしら)は面白くない顔をしている。わざと隅っこのほうへ寄ってお酒を飲んだりして、いい年してすねている。

もと子「やっぱり手放したくないのかしらねえ」

 

そこへ、頭(かしら)が訪れた。キャッキャッしてるもと子と咲子、かわいい。もと子は上がるように言う。

堀田「いやあ、秋ももう終わりですね。年のせいだかなんだか知らないけど寂しいねえ。冬が近(ちけ)えと」玄関に腰を下ろす。

 

茶の間

咲子「フフフ…ガラにもないこと言ってるわ」

 

玄関

もと子「どうしたのよ? 頭(かしら)」

堀田「いやあ、別にどうってこたあねえんだけど、妙に気がめいっちまってね」

もと子「体の具合でも悪いんじゃないの?」

堀田「ハハッ。そんなこと言ってくれるのは、あねさんだけだい」

 

茶の間から顔を出す咲子。「まあ!」

もと子「頭(かしら)…」

堀田「ねえ、あねさん。あっしはうちのヤツがなんて言おうと、ゆり子のヤツを嫁にやる決心しましたよ」

もと子「そりゃよかったわね」

堀田「かかあのヤツはまたギャーギャー言いやがるだろうけども、ゆり子の幸せってものを考えろっつって、ぶん殴ってやりまさあ」

 

もと子「頭、あの…ごめんなさい」

堀田「えっ?」

もと子「お咲さん」

堀田「えっ? な…なんでえ、お前は!」振り返って咲子に気付く。

咲子「なんでえじゃないよ。粋がっちゃって、格好いいこと言うもんじゃないよ」

堀田「何言ってんだ。俺は別に何も…」

咲子「まあ、お上がりよ。いい年して秋の終わりが寂しいとかガラでもないこと言うんじゃないよ」茶の間へ戻る。

咳払いする堀田。

 

もと子「頭(かしら)、ごめんなさいね。つい言いそびれちゃって」

堀田「いえ、別に聞かれて悪いようなこと言ったわけじゃねえんだから」

 

茶の間

咲子「ねえさんの前だとバカにロマンチックなんだね」

もと子「お咲さん…」

咲子「私がギャーギャー言うとはなんだよ? いい顔しないのあんたのほうじゃないの」

もと子「いいじゃないの。頭(かしら)だって、ようやく決心したことなんだから。ねえ? 頭(かしら)」

堀田「ええ。しかしまあ…どこで油売ってるかと思や、もう」

咲子「油売る段じゃないよ。ねえさんに報告しようと思って来たんじゃないの。あのこともお願いしようと思って来たんじゃないかよ」

 

もと子「あのことって?」

咲子「あんた、あんたからお願いしてみな。そうすりゃ決心つくから」

もと子「何よ? 一体」

堀田「いえね、まったくどうも娘なんてヤツは、親元離れんの喜んでんだからねえ」

咲子「しょうがないだろう。ずっといられたら、それも困るんだから」

堀田「困らないね、俺は。一生うちにいたっていいと思ってるんですよ、私は」

咲子「まだ言ってんのかよ、そんなこと!」

 

バー? こういう夜の店の種類が分からない。棚にお酒がいっぱいで音楽が流れて踊っている人もいるような店。

 

お酒を飲んで突っ伏して寝ている磯田は健一に起こされて毎日よく寝てないと言う。

 

健一「だからってしけんなよ。何、しょぼくれてんだよ?」

磯田「あした、模擬試験があんだよ」

健一「関係ねえじゃねえか。お前なんか」

磯田「そうはいかねえよ。そろそろ俺だって頑張んなくちゃ」

健一「じゃあ、なぜ出てきたんだよ?」

磯田「お前、ボウリング行くっつったじゃねえか」

健一「そう言わなきゃ、おふくろがうるせえだろ」

磯田「やだよ、俺、こういうとこ」←そうだよねえ、未成年だし。

 

健一「学生ってのはしょうがねえなあ。お前ね、社会へ出ればボウリングなんか子供の遊びなんだよ」

磯田「分かったよ」

健一「ほら、元気出せよ、出せったら」

 

無理やりコップを磯田の口にやる。苦そうな顔をする磯田と分かったような顔で酒を飲む健一。しかし、磯田は先生がいると言って帰ってしまった。

 

健一の「おい、磯田待てよ!」の声に反応する福田先生。「おっ! お前、尾形じゃないか」

健一があいさつすると、コップを持ったままそばに来た。

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磯田や健一の担任の福田先生は尾形家にも来て失礼発言を重ねる。

 

健一「ご無沙汰してます」

福田「いやあ、元気か?」

健一「ええ、まあ、どうにかこうにか」

福田「そうか、そうか。いや、お前はね、だいぶ、この…職業人らしくなってきたぞ」

健一「変わんないですね、先生は」

福田「バカ野郎! 数カ月でそうそう変わってたら赤ん坊だ。ハハハハ…」

 

健一「お一人ですか?」

福田「うん? 1人だ。いやあ、こういうとこはね、1人で来るに限る。フフフッ。思わぬことがね、起きるからね」

健一「そんなこと言っていいんですか? 先生が」

福田「何を言ってるんだ、お前。俺はね、お前が社会人だと思やこそ、こうやって胸を開いてしゃべっとるんじゃないか」

 

健一「で、どんなことがあるんですか? こういうとこは」

福田「そりゃ、お前ね。いろいろと想像がつくだろう」

健一「そうかなあ?」

福田「お前もなかなかカマトトになったぞ、ハハハハッ」

健一「先生もなかなかやり手ですね」

福田「やり手か? いやあ、そう言われるとね、男としてうれしくないこともないがねえ。いや、ところがね、何も起きんのだよ」

健一「そうなんですか?」

 

福田「そうだ。僕はね、どこかに幸せの青い鳥を求めてだ、まあ、こういう所へ来て、何かこの予期せん巡り会いがあることを期待してもだな。俺、独身なんだからさ、無理とは言えんだろ?」

健一「ええ、そりゃそうですよ」

福田「ところがだ、何も起きん。起こりそうで起きんのだ。僕はね、謹厳実直のままだよ。いやあ、情けない、僕は」

 

健一「先生」

福田「うん?」

健一「今日は俺がおごりますよ。どんどん飲んでください」

福田「本当か?」

健一「ええ」

福田「いやあ、大工さんというのはなかなかこの金回りがいいんだね。いやあ、お前、やめてよかった。そうか、ハハハハ…」

 

福田先生、いくつぐらいなのかな? 「おやじ太鼓」の運転手のときは健坊という未就学児くらいの子供を連れて挨拶に来たよね。30代くらいか?

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ついでに言うと次の運転手の黒田の子供も健坊だった。

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居酒屋に移動して、福田先生のコップに酒を注ぐ健一。

福田「ああ~、うまい! ハハハッ。さあ、尾形君。一杯いこう」

健一「強いですね、先生」

福田「なんだ? お前、杯か。コップじゃなかったのか?」

健一「いやあ、あんまり飲めないんですよ」

福田「そうか。飲めないのか。まあ、それもいいだろう、うん。しかしね、尾形君」

健一「はい」

 

福田「ごちそうになってこんなこと言っちゃ申し訳ないがね、まあ、ああいうバーとかこういう場所は、あんまり来んほうがええね」

健一「はい」

福田「まだ君は大工さんになってから数か月ですからね。修業中の身ということはだ…」

 

健一はバーやこういうとこは初めてなんですよと言う。「いつも飲みやしないんですよ、ホントは」

福田「いやあ、しかし、この…仕事となるといろいろと面白くないこともあるだろう」

 

健一は仕事のことではなく、どうしても嫌いになれないヤツがいる。相棒の恋人がよく見えてしょうがないと話す。

福田「そうか。そういう青春の悩みは大いに結構じゃないか。悩みたまえ、悩みたまえ、青年は大いに悩むべし。酒は大いに飲むべしだよ、君」

健一「はあ」

福田「いやあ、こりゃいい。暴れん坊の君がだな、恋に悩むとはこりゃ実にいい、こりゃ」

健一「先生はひと事だからそんなこと言うけど…」

福田「何を言うとるんだ。相棒の恋人だなんて、お前、古くさいこと言うな。相棒だろうとなんだろうと義理で遠慮するなんてのはバカバカしいじゃないか。男としてな、どちらが魅力があるかで勝負したまえ。正々堂々と名乗りを上げて勝負したまえ。ねえさん、もう一本だ」

 

店員の返事に「ああ、いい声だ。いや、もう一本、まずかったか?」と福田先生。

健一「は? ああ…いいですよ、どうぞ」

福田「そうか。いや、おごってもらうということは実に愉快なもんだね、ハハハハ…」

つられて健一も笑う。

 

福田「いや…しかしね、尾形さん」

健一「ハハハ…先生」

福田「うん?」

健一「尾形さんなんてやめてくださいよ」

福田「わしは今、尾形さんと言ったかね?」

健一「尾形でいいですよ」

福田「そりゃそうだ。いやあ、しかし恐ろしいもんだねえ。情けないもんじゃないか、君」

健一「は?」

福田「いや、僕はね、おごってもらう相手をばだ、無意識のうちにさん付けで呼んでしまうんだな」

健一「ハハッ」

 

福田「君は僕の教え子じゃないか。その教え子にどうだ? 水割り4杯、酒3合、ごちそうになると尾形が尾形君になり尾形さんになる。この現状を文部省はどのように思っとるのか!」机をドンとたたき、周りの客が見る。「ああ、情けない。大体、教師の月給が安すぎる。直ちに教師の月給を4倍にしたまえ! 国民は何をしとるのか!」健一は周りを気にする。

 

尾形家

もと子「この野郎! 先生も先生だけど、お前もお前だよ」あおむけで寝ている健一を竹の物差しでペシペシたたく。

 

健一「水くれって言ってんだろ」

もと子「水ぐらい勝手に飲め。なんだよ、ボウリングだって母ちゃんをだましてから」

健一「だから、ボウリング場で会ったって言ったじゃねえか」立ち上がって台所へ。

もと子「そんならボウリングをすればいいでしょうがな、ええ? 未成年者と先生が飲んだくれて歩いていいと思ってんのか、バカ!」

 

未成年飲酒はよくないと思う人がいる一方、飲んでも大丈夫でしょ~な人のほうが多かったってことかな? 

 

台所

健一「母ちゃんにはね、男の世界ってもんが分かんねえんだよ」コップに注いだ水を飲む。

 

もと子「ああ、分からんね。人がせっかくね、帰ってきたら、いい話をしようと思って楽しみに待ってたのに、フン。帰ってくるなり飲んだくれて寝転んじゃうんだから」

 

健一「そんな飲んじゃいないよ」

 

もと子「何言うてんの。水くれ、水くれって言って」

健一「分かんねえかな」茶の間に戻ってくる。

もと子「何がよ?」

健一「酔ったふりしたかったんだよ」

もと子「何をしゃらくさいこと言うとんねん」

健一「ホントだって。酔っ払ってね、母ちゃんに甘えたかったんだよ」と膝にごろ~ん。

 

仕立物を膝にのせていたもと子は「人の預かり物に何すんだ、バカ」と健一の頭をたたいた。

健一「痛えなあ」

もと子「甘える年か」

健一「ならいいよ。寝ちまうから、俺は」

 

もと子は健一を呼び止め、頭(かしら)からゆり子の縁談の仲人を頼まれたことを話す。もと子と健一の親子仲人だと言う。俺が仲人なんかできるわけないと言う健一。目の前にあった竹の物差しで剣道みたいに素振りをしてる。「おれは男だ!」と同時期だもんね。

 

もと子「まあ、普通なら未亡人に、まあ、仲人は頼まないわね。ちゃんと夫婦そろった人にお願いするのが、まあ、並みのやり方なのよ。でも、そんなことは頭(かしら)は気にしないって言うのよ」

健一「仲人なんかいらないじゃない。別に見合いするわけじゃねえんだもん」

もと子「だって結納だって婚礼だってあるでしょう?」

健一「そんなもんあんなヒッピーがすんのかい?」

もと子「頭(かしら)がやりたいんだよ。まあ、喪中の年にね、仲人なんてどうかと思うけど他に考えられないって言うのよ」

 

もと子は別にやりたくはないが、仲人と言われるのもいいんじゃないか、父ちゃんはなんて言うかも知らないけど、健一が父ちゃんの代役ならきっと賛成してくれると前向き。健一が反対なら断ってもいいと言うが、健一はちょっと照れくさいけど、頭(かしら)の頼みならしょうがないと笑顔になる。

 

もと子「いや、ホントのこと言うとね、断ろうかと思ってたんだ。でもね、お前がモーニング姿でしゃんとしてる姿をちょっとこう見たくてね」

健一「えっ? 俺がモーニング着んのかい?」

もと子「当たり前じゃない。仲人じゃない」

健一「やだよ、チンドン屋じゃねえか。俺、そんなのやだよ」立ち上がる。

もと子「だってセーターでまさか行くわけにいかないでしょ」

健一「背広でいいだろ、背広で。ちょうどいいや、いっちょう格好いいの作ってよ」茶の間を出た。

 

もと子が追いかけてくるが、健一は自室へ。「しょうがないヤツだね、お前は。せっかく人がほのぼのとした気持ちになってんのにすぐ水さすんだから。もっと優しくなれ、優しく。男はね、優しくないと女にモテないよ! 分かったか!」

 

下小屋

作業する健一と竜作。竜作は赤いポロシャツ。健一は青い長袖Tシャツ。すっかり秋なんだなあ。真っ黒に日焼けして暑そうにしてた回が懐かしい。

 

これから出かけるもと子は健一にご飯はタイムスイッチかけてあるからと言い、おかずについて話そうとすると、適当にぶっかけて食べるからと健一は答えた。もと子はちゃんと鍋に作ってあるからあっためりゃいいと言う。健一の面倒くさそうな返事に腹を立てたもと子は竜作に頼むと言って、竜作に話しかけた。

 

もと子「ねえ、竜作さん」

竜作「なんですか?」

もと子「今日ね、お昼、カレーなのよ。で、あの…まだルー入れてないの。で、鍋の中にさ、あの…お肉だとかジャガイモ炊いてあるから、それあっためてグツグツいったら、ルー入れてカレーにして食べてちょうだい」

竜作「はい、やります」

 

健一「なんだよ、母ちゃんは」

もと子「なんだよ?」

健一「俺にだってね、そういうふうに言ってくれよ。そういうふうに優しく言ってくれれば、優しく答えんだよ」

もと子「何言ってんだい。息子にいちいち愛嬌振りまいてられるか」

健一「竜作だと顔まで変わりやがって」

もと子「おっ、やいてる? 子供だからね」

竜作が笑う。

もと子「あっ、新さんがいなくて大変だけど頑張ってやってちょうだいね」

竜作「ええ、じゃあ、いってらっしゃい」

 

ホント、新さん、ここ3回いないもんねえ。他の仕事が忙しかったとか?

 

もと子「ああ、イヤなんだなあ。もう仲人引き受けたからさ、またあのヒッピーに会いに行かなくちゃねえ」

健一「いいから行ってきなよ」

もと子「行ってきますよ! でもさ、この…婚礼だとか結納だとか、あんなことあれに納得さすのが大変なのよ」

竜作「そりゃ大変ですよねえ」

もと子「うん、じゃあ頼みますね」

竜作「ええ」

もと子「健一、頑張れよ」下小屋を出ていく。

 

健一「なんでえ、いちいち気に障ること言いやがって。なんだよ、そりゃ大変ですねえ、自分ばかりいい子になんなよ」

竜作「しょうがねえじゃねえか」

健一「気に食わねえんだよ、俺は」

 

竜作「なあ、どうだい?」

健一「うん?」

竜作「今、思いついたんだけどな」

健一「ああ」

竜作「彼女、今日休みなんだ、店」

健一「へえ、そうかい」

竜作「おかみさんに知れたら怒られちゃうけどな」

健一「ああ、いいよ。行ってこいよ。このくらいの刻み、俺がやってやるよ、1人で」

 

竜作「バカ。そんなんじゃねえよ」

健一「なんだよ?」

竜作「彼女に電話してさ、昼飯作らせようよ」

健一「ああ、そりゃいいな」

竜作「来るときに何か買ってこさしてさ。カレーだけじゃなくて、あと2品ぐらい何か作らせようよ」

健一「お前がよけりゃ頼んでくれよ」

竜作「うん。じゃあ、おかみさん出かけたらな」

 

健一「だけどお前、作らせるとかなんとか割かしでかい面してんだな」

竜作「そりゃそうじゃないか。嫁さんにするんだぜ」

健一「うん…そうだけどよ。さあ、やるかい」作業に戻る。

 

笑顔の文子が木戸を開け、作業する2人を見てニコニコ。こんにちはと大きな声で言い、2人を驚かせる。

 

文子「アハッ、やだ、知らない! 失礼しちゃうわ」

健一「いらっしゃい」

竜作「なんかいい物あった?」

文子「だってカレーがあるんでしょ? 他にあんまり重いおかずもと思って、スープとサラダ作るわ」

健一「分かるかな? いろんな物」

文子「分かるわ。人のうち、慣れてるもの」

健一「スプーンかなんかはさ、食器棚の真ん中の引き出しにあるからさ」

文子「うん、出来たら呼ぶわ」

健一「うん」

 

竜作「ねえ、もうすぐ12時だからさ、急いで作ってね」

文子「だって、電話が遅いんですもの。これでも洗濯しかけて飛んできたのよ」

竜作「恩に着ます」

健一「よろしくお願いします」丁寧に頭を下げる。

文子「んっ、調子いいんだから。フフッ」台所へ。

 

健一「いいな、彼女は」

竜作「うん?」

健一「いや…いいだろ。別に褒めたって。別に減るわけじゃねえんだもんな」

竜作「そりゃいいさ」

 

台所

文子は持参の前掛けをあて、作業を始める。

 

下小屋

カレーのにおいがしてきて顔を見合わせて笑顔になる健一と竜作。

 

茶の間

サラダはレタス、ゆで卵の輪切り、プチトマトの輪切り、キュウリ、玉ねぎ、レモンの輪切りが乗ってる~。

 

文子「はい、健ちゃん」カレーライスを渡す。

健一「えっ? 俺が1番かい? ヘヘッ」

文子「おばさん、いっぱいお米といでったのね。3人でも食べきれないわ」

健一「そんなこと言わないでいっぱい食べてよ」

竜作「ねえ、文ちゃん来んの知ってたんじゃない?」

文子「まさか」

 

健一「そんなこと知ってたら大変だよ。留守に女と一緒に飯食ったなんつったら頭へきちゃうよ」

文子「やあね。女と飯食うなだなんて」

健一「ああ…そうなんだよ。しつけが悪いから困っちゃうよ」

文子「何言ってんのよ」

竜作「ああ、うまそうだなあ」カレーの皿を手にする。

健一「おい、待てよ。3人そろってからにしようや」

竜作「しつけいいじゃねえか」

健一「えっ? ハハッ、だってなあ、先に食っちゃ悪いよな?」

文子「ありがとう。さあ、じゃあいただきましょう」

健一「ああ。ああ、腹減った」

 

文子「あっ、ちょっと待って」

竜作「うん?」

文子「スプーン置いて」

竜作「うん?」

文子「お祈りをするの」

竜作「お祈り?」

文子「早く手を組んで」

 

健一「えっ? いつも文ちゃんそんなことすんのかい?」

文子「いいから早く」

健一「うん」両手を組む。

文子「天地(あめつち)の恵みにより今日もここに豊かなる地の糧を与えられしことを感謝いたします。いただきます」

竜作「いただきます」

健一「あっ…いただきます」

文子「さあ、召し上がって」

 

竜作「まるで幼稚園みてえだな」

健一「うん」

文子「フフフフ…おかしい」

健一「えっ?」

文子「男の人って割合素直なのね」

竜作「ひでえなあ」

文子「どんな顔するかと思ったら真面目になってるんですもん。笑っちゃった。フフッ」

竜作「ちくしょう! ハハハッ」

健一「チェッ…人が悪いな、文ちゃんも」

笑い合う3人。

 

食事が終わり…「ごちそうさま」を言う3人。

文子「ああ、おいしかったわ。こんな楽しい食事、何年ぶりかしら」

健一「またやろうや。母ちゃん追い出して」

文子「まあ、ひどいこと言う」

健一「うまいよ、文ちゃん。おいしかったよ、スープ」カップに入ったスープを飲み干す。

文子「だし取る暇ないんですもん。インスタントよ」

 

竜作「なあ、健一」

健一「うん?」

竜作「いつ言おうかと思ってたんだけどな」

健一「うん」

竜作「実は率直に言って、お前も迷惑だろうと思ってな」

健一「うん?」

竜作「つまり…お前のそばに彼女みたいに所属のはっきりしない女性がいると、お前だって迷惑だろうと思ってさ」

健一「何言ってんだい。所属ははっきりしてんじゃねえか。お前の婚約者じゃねえか」

 

竜作「俺も彼女もいろいろ考えたんだけど、あんまり結婚長引かせるのよくないって気がしてきたんだ」

健一「そうか…そりゃいいじゃねえか」

竜作「来年になったら一緒になろうって言ってんだよ」

健一「そりゃいいよ。正直言って俺だって迷惑だもんな。そうだよ、お前の言うとおりだよ。こんな美人がフラフラそばにいられると俺だって気が散っちゃってしょうがねえよ。(竜作に)そりゃおめでとう。(文子に)おめでとう、文ちゃん」

文子や竜作に「ありがとう」と言われる健一は笑顔になるが、「水飲んでくるよ」と台所へ。

 

台所でコップの水を一気飲みする健一。竜作と文子は気まずそうで竜作はタバコを取り出して吸い始める。真顔の文子。台所にたたずむ健一。(つづく)

 

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文子は新さんに相談したけど、うやむやになって結局は竜作に話したのかな。それとも、健一に言い寄られて困ってる感じに話したとか…申し訳ないけど、文子にいいイメージないんだよな。