TBS 1971年11月2日
あらすじ
ゆり子(丘ゆり子)の恋人・浩三(朝比奈尚行)が堀田家を訪れた。「ゆり子さんを僕にください」と両手をつく浩三だが、ゆり子を愛しているのかふざけているのかわからない態度に、堀田(花沢徳衛)が怒りだす。
2024.2.2 BS松竹東急録画。
尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。
*
江波竜作:近藤正臣…先輩大工。
石井文子:榊原るみ…竜作の恋人。
*
堀田咲子:杉山とく子…堀田の妻。
堀田ゆり子:丘ゆり子…堀田の娘。
*
園部浩三:朝比奈尚行…ゆり子の恋人。
中年の女:水木涼子…堀田家の近所の住人。
*
堀田:花沢徳衛…鳶の頭(かしら)。
印象的なガスタンクが映る。「兄弟」の紀子の実家もこの辺。
健一が堀田家を訪れ、咲子はごちそうを用意して待っていた。堀田はテーブルの上に徳利を何本も並べて酒を注いでいた。健坊は飲まないと言う咲子に竜作は飲むよな?と健一に確認し、作業を続ける。咲子は真面目な話をするのに、ガブガブ飲まれてたまるかと怒っている。「あんたね、このごろ弱くなってんだからね、昔のつもりで飲んだら死んじまうよ」と徳利を何本か台所に持っていった。
堀田「うるさいなあ。どうだい? 健坊。てめえの稼ぎで飲むのになんだかんだって言われて」
咲子「体、心配してんだろ、体」
堀田「うるせえな、もう分かったよ!」
咲子「健坊の前でつまんない愚痴言うんじゃないよ」
正座していた健一に膝を崩すように言う頭(かしら)。「平らにしてくれ、平らに」。健一が大人になったと感心し、ついこの間まで、ゆり子と取っ組み合いで階段から転げ落ちたり、ここの障子もうちのゆり子より健一が破くほうが多かったと昔話をする。
竜作が訪れた。
健一「上がれよ」
竜作「いいのかい? ホントに」
堀田「あっ、悪(わり)いね」
竜作「いいえ」
堀田「あれ? あんた、あの…なには?」小指を立てる。
竜作「あっ、はあ…表にいるんですよ」
竜作は文子に「入れよ」と声をかけ、文子が入ってきた。「こんにちは。あっ…こんばんは」←山田太一さんはアドリブを許さないタイプの脚本家だというから、最初から書いてあったのかな? あざとい女子の表現?←違うだろうな(^-^;
堀田は竜作や文子を家に上げる。
仏壇の前に頭(かしら)。頭の左側に竜作、文子。頭の正面が健一。咲子は台所に近い頭の右側に座る。頭は竜作に酒を勧め、「そちらも1杯ぐらいどうかな?」と文子にも酒を勧める。
咲子「飲めるわけないだろ、こんなかわいい子が」
堀田「なんだよ、お前は。ガミガミ、ガミガミ、いちいち」
堀田の思いつきで面倒でも相談に乗ってあげてと咲子が言う。酔っ払わないうちにしゃべることしゃべっちゃいなよとせかして台所へ。
今日、ゆり子は大森の妹のところへ預けてきた。ゆうべ、健一が止めなければ男のところに行ってしまうところだったと竜作たちに事情を話す。しきりと箸出してねとか食べながら聞いてねと文子に食べるよう勧める堀田。「おい…この野菜。マヨネーズかかってねえぞ、こりゃ」
咲子「何言ってんのよ。それはフレンチドレッシングっていってね、かかってんだよ、それでも」
堀田「あっ、そうか。そう言われりゃ、ぬれてらあ、少し」
堀田からの頼みは健一たちが相手の男に会ってほしい、もと子が実際会って変わり者だと言う男を若い者が見てどう思うのか知りたい。
健一「おじさんとおばさんが会わなきゃしょうがねえじゃねえか」
堀田「会うけどもさ、親なんてものは、とかく意地の悪い目で見るもんでな、おまけに相手はそういう変わったヤツだってんだろ。どうしたって公平には見られねえやな。そこで俺はな、お前たちの偏見のない目で見てもらって、ああ、なるほど。これなら、ゆりちゃんが惚れるのは無理はねえっていうところがありゃ、俺たちは納得しなくても、まあまあ許してやろうと思ってるんだ」
咲子は健一にジュースでも出したのかな。健一はコップに入った飲み物を飲んでいる。「それじゃ、責任重大じゃないか」
堀田「いやいや、最終決定は俺だもん。まあ、参考意見だな。どうだい? 俺にしちゃ、ちょっと物分かりのいいプランだろうが」
テーブルの上、文子の前にもファンタオレンジの瓶とコップが置いてある。
健一「まあ、会うだけなら会ってみるけどさ」
竜作「だけど、俺たちにはバンドなんかやってる、そういう新しいような人間ってのは、おじさんと同じようによく分からないんじゃないかな」
堀田「いや、おめえたちみてえな若い者(もん)に分からねえようなら、そいつはもうお先っ走りなヤツに決まってんだよ。なんなら分からなくてもいいんだよ。分からなくても。それからもう一つはね…」
文子「はあ」
堀田「あんた方の話を新さんから聞いたんですよ」
文子「はあ」
堀田「2人は好き合ってても、カーッとして一緒になっちまうんじゃなくて、1級建築士の資格を取るまではお互いに頑張ってる」
竜作「そんな格好いいことじゃないんですよ」
堀田「照れることはねえやな。いや、そういう恋人同士もいるってことをね、ゆり子のヤツに見せたかったんだ。なあ…親のすねかじって大学行ってて、バンドマンに惚れて、どうせ反対されるだろうってんで、うちを飛び出しちゃ、俺は親だけども情けねえや」
咲子「そりゃ、ゆり子だってゆり子の事情があるんだもの。そんな一概に不良みたいな言い方をするもんじゃないよ」
堀田「そりゃそうだい。あいつはこちらさんみたいに器量はよくねえしな。一旦、惚れた惚れられたとなりゃ、人一倍、その仲、大事にしようとする気持ちは分かるんだ」
咲子「いえ、私はね、あの子、ろくろく、私らとしゃべらないからさ、まあ、健坊やおたくなんかと一晩どっかのレストランでご飯でも食べればね、いろいろと気持ちもほぐれてしゃべるんじゃないかと思ったのよ。どういうとこが気に入ったのか、私らのことはどう思ってんのか、ちっとも分かんないのよ」
堀田「で、俺たちが聞くとな、結局分かっちゃもらえないと思うわ、とかなんとか言いやがって、もう、しょうがねえんだよ。意固地になってて」
咲子「だから、ゆり子に会って、いろいろ聞いてやってほしいのよ」
堀田「それからなんだい、その…相手の男に会ってさ、おめえたちの印象みたいなものを聞かしてもらいてえってわけよ」
健一「うん」
竜作「お役に立つかどうか…」
堀田「いやいや、そんな緊張することはねえんだよ。ねっ? お願いしますよ。よろしく」
文子「はい」
堀田「ハハハッ。きれいだねえ、こちら、ええ?」
照れてうつむく文子。
咲子「まあ、ゆり子だってさ、この人ぐらいの器量がありゃあ、もうちょっと余裕のある恋愛するんだろうけどね」
健一「何言ってんだい。ゆりちゃん、魅力あんじゃないか。親がそんなこと言ってどうすんだよ」
堀田「ハハッ、そりゃそうだ。ハハハハ…」
堀田夫婦の前だと、やたらと謙虚な好青年になる竜作とおとなしい文子。まあでも正直、ゆり子が文子の見た目なら全然違う「たんとんとん」が繰り広げられてたかもね? 関係性は「あしたからの恋」の修一とトシ子みたいなもんだもん。
ジャズバー?
ステージでウッドベースを弾く浩三。
浩三の殺風景な部屋?を天井から映す。たまにこういうアングルあるね。小さな明かりの下にはレコードが散らばっている。テーブルはない。部屋の奥のベッドを整えて座った浩三は「ハァ…じゃあ、女性はこっちへいらっしゃい」と自分の隣をポンポン。「2人はそこら辺に適当に座って」
立ち尽くす健一たち。
浩三「どうしたの?」
健一「おい、バカにすんなよな」
浩三「どうして?」
健一「彼女、横に来させて、俺たちは床かよ」
浩三「あっ…そういうふうに考えるんだね。私はそういう神経がまるでないんだよ。どこ座ったっていいじゃないかと思っちゃうんだな。じゃあ、まあ、自由に座ってよ」ベッドわきの床に座る。
健一はドカッとベッドの真ん中に座り、竜三と文子はその場に座る。
浩三「上座とか下座とかそういうのがよく分かんなくてね。生意気だなんて急に殴られたこともある」
健一「日本で生まれたんじゃないのかよ」←人んちのベッドを陣取って言うセリフか!
浩三「日本ですよ、千葉県館山」
竜作「ジャズは長いんですか?」
浩三「いいなあ。きれいな質問だな。ジャズは長いか。そう、ジャズは長く深く広い川のようだ。私はその川に身を投げようとしている。いや、事によると、もうその川底にいるのかもしれないと思う」
健一「ようよう! 下手な芝居よそうじゃねえか。俺はそんなことでごまかされに来たんじゃねえよ」
浩三「いいねえ。そういうしゃべり方でいこうか」
健一「とぼけんじゃないよ! お前、なんでゆりちゃんに惚れたんだよ。お前みたいのが、なんで結婚したいと思うんだよ」
浩三「なんで? なぜ? 俺たちのすることで言葉で説明のつくことはそう多くはないんじゃないかな。いや、言葉で説明できるようなことしかしていない人間じゃいけないと思うんだ。おなかがすいたからご飯を食べた。寒くなるからシャツを買った。そんなふうに簡単に言葉で説明のつくことしかしていないんじゃいけないと思うんだ」
健一「とにかくな、結婚したら幸せにすんだろうな?」
浩三「そんなこと誰が保証できますか? 私は未来に義理を立てて現在を生きているんじゃない」
健一「おい、竜作。なんとか言えよ。こいつ口が減らなくてどうしようもねえよ」
浩三、笑ってる。
竜作「俺は今、彼女と恋人っていうのかな…」
浩三「あっ、そうですか」
はにかみ笑顔の文子。健一の前でよくそんな…
竜作「だけど、今、結婚して、なんとなく幸せになるんじゃいけないと思って、1級建築士の資格取るまで1人ずつで頑張っていこうと思うんだ。そういうの、君、どう思う?」
浩三「資格を取るために、そんな我慢してるなんてくだらないと思うな」
竜作「そうじゃないんだ。資格なら大学行かなくたって中学だって取れるんだ。俺が大学行きたいのは思いどおりの建築したいからなんだ。自分が建てたい建築を思うように建てられる力が欲しいんだ」
中卒→実務経験7年→二級建築士→二級建築士として4年の実務経験→一級建築士(令和2年3月からは二級建築士になってからすぐ受験できるようになったらしいです)
大学在学中に一級建築士の試験に合格して、2年の実務経験を経て、登録されるというのも見た。いずれにしてもまあまあ時間はかかるよ。寂しがり屋の文子が待てるんだろうかね?
浩三「人間はできるだけいろんなふうに生きたほうがいい。みんなが同じように生きてるのはとても悪い時代だと思いますね」
竜作「うん」
浩三「俺はゆり子さんの顔とか声とかが好きなんだな。なんかこう突拍子もなくって、俺とあんまり関係がなくって、あんな人がうちん中にいて、あら、ダメじゃないのなんて言ったら、とても楽しいだろうなと思う」←ゆり子の口調モノマネ、似てる。「幸福にできるかどうか、誰に分かるって言ったけど幸福にしたいと思ってるよ。いけないかな? これじゃ」
健一「いけなかないよ」
浩三「じゃどうしてそんな顔してるんだ? 笑っておめでとう、うまくやれよぐらい言ってくれよ」
じろりと見る健一。
浩三「笑えよ、なんだよ」
健一「ハハッ、まあ、いいや。ホントにゆりちゃんに惚れてんなら文句はないよ」
浩三「そう、ありがとう」
何となく笑ってしまう一同。
しかし、10年後夫婦になったのは浩三と文子だった(違)。
青いスモッグ、茶色の肩掛けかばん、緑のパンタロンの浩三がメモを手に歩いていた。「あっ、おばあさん。この辺に鳶職で堀田さんっていうお宅がありませんか?」
女性「頭(かしら)んとこなら、この先だよ」
浩三「はあ、あの…この先の左側ですか? 右側ですか?」
女性「左へ曲がってね、2つ目の道を右へ曲がって左側」
浩三「あっ、そうですか。でもそれでしたら、この先だけでは不親切ですね」
女性「だから教えたじゃないの」
浩三「私が質問したから教えてくれたんでしょう?」
道端のどぶさらいをしていたかっぽう着姿の女性は作業をやめて振り返る。「なんだよ、あんた、一体!」
浩三「どうもありがとうございました」
女性「言っとくけどね、私はまだおばあさんじゃないの」頭の手ぬぐいを取る。
浩三「あっ、そうですね。それで怒ってらしたんですか? ハハハハッ」立ち去る。
女性「なんだい、ヒッピーが」
中年女性役は水木涼子さん。
「おやじ太鼓」では箱根の宿の仲居さん。
「あしたからの恋」では修一の見合い相手の美子の母。そして、「男はつらいよ」ではタコ社長の奥さん。
堀田家
落ち着かない様子の頭(かしら)が「あっ、しょうがねえなあ、もう。ひっちらかしやがって」とテレビの上に置いていた紙を丸めてくずかごに入れて、ゆり子を呼ぶ。咲子はゆり子のことはほっとくように言う。
テレビの上の紙がないことに気付いた咲子。紙はワンピースの型紙で自分の部屋がない咲子が置いたものだった。「留守番だ、ご飯だ、2階へ上がっちゃいられないんだもの。茶の間に置くのはしょうがないだろ」
2人が言い争う中、ゆり子が茶の間に顔を見せた。
堀田「最初、父ちゃんと母ちゃんだけで会うからな。おめえ、呼ばれるまで2階上がってんだぞ」
うんと言いつつションボリした顔を見せるゆり子に、堀田は健坊たちだってなかなかいい人だと言っていて、九分九厘反対するつもりはないと言い、咲子も大人の目も少し信用しなきゃダメだと言う。ゆり子は反対すると思うと言い、2階へ。
咲子「よっぽど私ら向きの人じゃないんだねえ」
堀田「そう言ったって、お前、頭から反対すると決めてかかることねえじゃねえか」
くずかごの中の型紙はぐちゃぐちゃ。
咲子「あらまあ! こんなにしちゃって、まあ…」
⚟浩三「堀田さん!」
茶の間の陰から玄関のガラス越しに浩三を見る。
堀田「なんでえ? ありゃ」
咲子「ねえ、いい年して」
堀田「あ~あ~、長(なげ)え髪してヒゲ生やして」
⚟浩三「そこにいるのはお父さんとお母さんですね?」
茶の間
浩三「この度はお忙しいのに誠に勝手なお願いを申し上げまして、どうぞお構いなくお願いする次第です」
堀田「お前さんね…」
浩三「はい?」
堀田「まさかふざけてるわけじゃねえだろうな?」
浩三「どうしてですか?」
堀田「ハッ…今の若(わけ)えヤツは挨拶のしかたも知らねえって、よく言うけどもなんだい? 今のは」
浩三「お気に障ったらごめんなさいね」
堀田「ごめんなさいねってね、俺はお前の目下でもなきゃ女でも子供でもないんだよ」←これも今はまずい発言だよね。
浩三「はい」
堀田「ねっ? お前の立場で俺にものを言うときには、すみませんとか失礼いたしましたとか、ごめんなさいねって言い方はねえだろう」
浩三「そういう難しいことを言ってはいけないんじゃありませんか?」
堀田「別に難しいことはねえやな」
浩三「相手によって、あまり言葉遣いを変えると心の触れ合いが邪魔されることになりませんか?」
堀田「ヘッ、青臭(あおくせ)えこと言うんじゃねえや。嫁さんもらおうかっていう大人になったら相手見てもの言うのは当たりめえじゃねえか」
浩三「礼儀正しい人っていうのは大抵私は臆病だと思いますね」
堀田「えっ?」
浩三「無作法にしていると風当たりが強いですから、それで気の弱い人は、まあ、礼儀正しくなるんですね」
堀田「バカなこと言っちゃいけねえや。礼儀ってものは人間の折り目だあな。臆病とは関係ねえや」
台所から咲子がお茶を運んできた。「つまんないこと何言ってんのよ。議論みたいなことしてる場合じゃないだろ」
堀田「いや、こういう話をしてる間に人柄が分かってくるんじゃねえか」
浩三「おかあさん」正座する。
咲子「お茶をどうぞ」
浩三「え~、お二人そろったところで、わたくしはご挨拶を申し上げますよ」
堀田「ハハッ、そうかい」
咲子「なんだか妙だね」
浩三「この度、ゆり子さんのお父さんとお母さんと一堂に会し、親しくおしゃべりができるということは、わたくしの最も喜びとするところであります」頭を下げる。
咲子「ちょっとお待ち、あんた」
浩三「はい? あんた、ふざけてるんじゃなかったら、頭がおかしいんじゃないのかい? 問題だよ、父ちゃん、こりゃ」
堀田が2階にいるゆり子を大声で呼ぶ。
咲子「ゆり子呼んでどうすんのよ?」
堀田「だっておめえ、ゆり子の惚れた男がホントにこいつかどうか確かめてみなくちゃしょうがねえじゃねえか」
浩三「そんな寂しいこと言わないでください」
堀田「なんだよ? 今の挨拶は」
浩三「私としては失礼ですが、第一流の挨拶をマネしてですね…」
咲子「真面目な挨拶だっていうの?」
浩三「真面目ですよ。私はあなた方がどういう挨拶が気に入るのか見当がつかないもんですから」
ゆり子「浩三さん!」
浩三「あっ、ゆり子さん。私は十分に気を遣ったんですけれども、おとうさんたち気を悪くしてるんです」
ゆり子「そうなのよ。お父さんにはあなたのよさが分かんないのよ」
堀田「ゆり子! なぜはなっからそういう言い方するんだよ」
ゆり子「だって、そうなんだもん」
堀田「そんなこたあねえよ。俺たちはな、お前の選んだ男をなんとか公平に見ようと思って、どれだけ気を遣ってるか分からねえんだぞ」
ゆり子「だけど、結局反対なんでしょ? 初めから分かってたわよ」
堀田「バカ野郎! 人の気も知らねえで勝手なこと言うんじゃねえ」
咲子「ゆり子。あんたが悪いよ。どうかしてるよ、あんた!」
浩三「皆さん、待ってください。ちょっと待ってください」
ゆり子が泣きだす。
浩三「ケンカはよしましょう。ケンカをするくらいなら、初めっから私はこのお宅に伺わなかったんです。ねっ? おとうさん」
堀田「あんたね、どうでもいいけど、こっちがカッカしてるときに、もうちょっとものの言い方ってものがあるんじゃねえのか?」
咲子「そうだよ。あんた一人でひと事のようにのんびりしてニコニコ笑ってる場合じゃないんだよ、あんた」
浩三「興奮するのはよしましょう」
堀田「俺はすき好んで興奮してんじゃねえよ!」
浩三「私はこう思いますね。ゆり子さんもおとうさんもおかあさんも今日のこの会見をよく分かっていないんじゃないでしょうか」
堀田「そりゃ、どういうこったい?」
浩三「ゆり子さん、あなたと私はもう結婚することに決めたんです。それは2人だけの問題です。私は今日、ここに許しをもらいに来たんじゃないんですよ。ご挨拶しに伺ったんです。結婚はもう決まってるんです」
咲子「そんな勝手な言いぐさがあるかよ!」
浩三「ところがあるんです。子供はみんな勝手ですよ。ある日、親御さんの前に来て結婚するわよって言うんです。形は違っても結局子供の思うようになるしかないのが親なんです。だから、興奮するのはよしましょう。ゆり子さんは結婚しちゃったと思って諦めましょう。それから、私を悪く思うのもよしましょう。娘さんの亭主なんですから、いい人だって思ってください。人間、いい人だと思えば、大抵の人はいい人に見えてきます。さあ、いい人と結婚することになったと思って、おめでとうって言ってください。さあ、おとうさん、おめでとうって言ってください。おかあさん、おめでとうって言ってください。おめでとうって…」
咲子「いや、そんなね…そんな催眠術みたいなこと言ったってね、そう簡単にニコニコできるかよ」
浩三「そうですか。じゃあ、おとうさん。おとうさんはどうですか?」
堀田「帰(けえ)ってくれ」
浩三「はい?」
堀田「ゆり子、俺は、おめえが惚れた男がこんなペテン師みてえな野郎だってことが情けなくてしょうがねえよ」
浩三「ハァ…そうですか。とかく男親っていうものは娘の婿には反感を持つものなのかもしれませんね」
堀田「何を悟ったようなこと言ってやがんでえ! 帰(けえ)れ! 帰れったら帰れ!」
ゆり子は大きな声で泣きだし、涙を拭く。浩三は首を横に振る。
尾形工務店のラベンダー色の日産チェリーが走る。後部座席はゆり子と健一。運転席が竜作、助手席に文子。誰もしゃべらない気まずい車内。
海に到着。浜辺に座る男女4人。
健一「元気出せよ」
ゆり子「うん」
健一「ゆりちゃんだっていけねえんだぞ。初めから反対されるって決めて意固地になってたんだから」
ゆり子「だけど、あの人の魅力、パパやママに分かるとは思えなかったのよ。だから初めっから絶望的になって反対されたって結婚するわって思っちゃったの」
健一「うちを出たら、俺が承知しないから。絶対許してくれるって。おじさんだって、おばさんだって、ゆりちゃんが一番かわいいんじゃないか。喜んでもらって結婚したほうがいいよ。そんな長いことかかりゃしないよ。俺だって、竜作だって文ちゃんだって、それとなく応援するからさ」
竜作「ああ。親がいると面倒くせえよな」
健一「文ちゃんはいいな。その点、さっぱりしてるから」
文子「だけど、反対ぐらいされてみたいわ」
健一「贅沢言ってらあ。ハハハッ」
竜作も笑う。
健一「俺も結婚のときは、おふくろで苦労しそうだよ、ゆりちゃん」立ち上がり、「ああー!」と叫びながら海へ走り出す。青春だなあ!
竜作「ああ、海は広いなあ」立ち上がって伸びをする。
文子「フフッ、バカね、フフフフッ」
砂を掘ってる健一、竜作、文子。じゃれ合う3人を見つめるゆり子。ここでゆり子のそばにいないのが文子だな~って思う。
砂浜に寝転ぶ3人。竜作と健一の間に文子。
文子「ハァ…ああ、よく遊んだ。ホントに久しぶり」
あおむけで目をつぶっている文子の横顔をじっと見つめる健一、を見ていた竜作と目が合い、健一はもう一度あおむけになって目をつぶる。いやー! 最高にドキッとした。
ゆり子は少し離れた場所で砂と戯れていた。(つづく)
あと4回しかないのに新さんが2回連続欠席、もと子も1回休み。
催眠術にかかったのか、ゆり子と好みが似てるのか浩三さんいいと思うよ。