徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】たんとんとん #25

TBS 1971年11月23日

 

あらすじ

尾形家に竜造(由利徹)が居候していた。まわりが不幸になるのを見かねて、もと子(ミヤコ蝶々)は竜造を自分の元で働かせることにしたのだ。そしてもと子から竜造の面倒を頼まれた新次郎(杉浦直樹)は…。

君のいる空

君のいる空

  • 森田 健作
  • 謡曲
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2024.2.7 BS松竹東急録画。

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尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。

*

尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。

*

石井文子:榊原るみ…竜作の恋人。

生島とし子:松岡きつこ…新次郎の妻。

*

安さん:太宰久雄…建具屋。

堀田咲子:杉山とく子…堀田の妻。

*

雪子:菅井きん…安さんの妻。

建重:浅若芳太郎…親方。

*

江波竜造:由利徹…竜作の父。

*

堀田:花沢徳衛…鳶の頭(かしら)。

*

生島新次郎:杉浦直樹…健一の父の下で働いていた大工。

 

堀田夫婦と若者4人ほどが走って新次郎のアパートに向かう。アパートの階段には主婦らしき女性たちが数人立っていて、その人波をかき分けて進む。

堀田「ちょっとごめんよ、ごめんなさいよ」

咲子「ああ、疲れた」

女性「まだ見つからないんですか」

咲子「えっ? あんたらそんなとこぶっ立ってないで捜してあげたらどうなの?」

 

新次郎の部屋の部屋にはもと子がいた。「頭(かしら)、まだ見つからないのよ」

 

堀田から子供の写真はないかと言われ、もと子が写真の束を堀田に渡す。若者たちは、子供の顔を知らない。警察には届けており、パトロールしてもらっている。堀田は若者たちに写真を見せ、頭にたたき込んどけと言う。もと子から写真を持ってっていいと言われ、「えっ? じゃあ、1枚だけ。おい、秀雄、お前持ってけ。一番頭悪(わり)いんだから」と失礼発言。

 

若者たちはノンクレジットなのに字幕には(五郎)とか出てるんだよね。

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そういえば、五郎ってさ、ゆり子の話の中に出てきた! 多分、同じ人だよね。

 

「この部屋、あねさんに任しときゃいいんだから」と咲子を引っ張って出ていく堀田。

 

新次郎の部屋の電話が鳴り、もと子が出ると安さんからだった。1人でも手が多い方がいいともと子が言うが、安さんは電話を切ろうとせず、長話は困ると電話を切ろうとする。

 

タバコ屋の店先?の赤電話で電話している安さんと妻・雪子。「何をいつまでくだらないこと聞いてんだよ。早く捜さなきゃしょうがないじゃないか」

安「ハッ…じゃ、ねえさん。またあとで。ヘヘヘ…」

雪子「笑うんじゃないよ! こういうときに笑うヤツがあるかよ。早く来なよ!」

安「なんだよ。町なかで亭主ぶつことはねえだろ」

雪子「今更、見栄張るガラかよ。早くおいで!」自転車で走り出す。

安「待てよ、こら! 自分ばっかり先行くな」安さんも自転車か~。

 

菅井きんさん、夫がいる役が珍しいからもっと出てほしかったよ。タコ社長といいコンビ。あした最終回だけど。

 

健一や新さんも町なかを走り回って捜す。刑事もののような、サスペンスのような音楽。とし子も子供が遊んでいる公園を捜し、若者たちも走る。

 

電話の着信音が鳴る新次郎のアパート。もと子の目の前、玄関先に黄色いスモッグ姿のさおりが立っていた。「さおりちゃん、あんた、どうしてたのよ? よう帰ってきたわね。よかった、よかった」玄関の外に向かって「皆さん、子供いましたよ!」と叫ぶもと子。

 

廊下にいる主婦たちに言ってるのかな?

 

もと子「どうしてたの? 捜してたのよ。よかった、よかった」

 

また着信音がして、もと子が出た。「え? 握りの上? 2人前? あのね、寿司屋じゃないんですよ。いや、こんな、ややこしいとき電話しないでちょうだい! アホ」←昭和ドラマの定番中の定番、間違い電話。

 

新次郎「よしよし、ん~、おなかすいちゃった? よし、じゃもっと食べようね、うん? あっ、これがいいかな? はい」さおりの口にショートケーキをスプーンで運ぶ。

 

見守るもと子、雪子、安さん、咲子、堀田もみんな笑顔。

安「どうだい、うまいか? ハハッ」

堀田「得しちゃったなあ。こんなでかいケーキ買ってもらっちゃって」

咲子「子供は知っちゃいないやね」

もと子「大人が勝手に騒いだんだもんねえ」

新次郎「どうだ? さおり、うん? サイダーでも飲むか?」

雪子「サービスいいや、新さんも」肩ポン

 

堀田「そりゃそうだい。捜してるときの新さんの顔なんてものは、こう、ひきつっちゃってたもんな」

もと子「そりゃいろんな想像するもんね」

咲子「そうだよ。もう、誘拐だったらどうしようって私だって息が苦しかったもん」

雪子「私だってさ、万一ってことがあるからね、見逃しちゃいけないと思って、ほら、あそこのビニール工場(こうば)のゴミ箱まであさっちゃったもん」

安「いや、俺だってさ、ハハハッ。まったくさ、ハハハハ…」

雪子「言う前に笑うヤツがあるかよ」肩をバシッと叩く。

 

安「いやね、俺はね、今考えてみるとね、もうバカバカしくってな、どうも。ハハハハ…」

堀田「ハハハッ。どうせ安さんのこった松の湯の女湯でものぞいてたんじゃねえのか?」

雪子「まあ、やだよ、頭(かしら)ったら」肩をバシッ。

堀田「あっ、イタタタ…割と手が早いね、この人は、ええ? ハハハハッ」

 

咲子「あんた」

堀田「なんだよ」

咲子「人の女房にぶたれてニコニコすんじゃないよ」

堀田「おい、やいてやがる。ハハハハ…」

咲子「何言ってんだよ、ホントに」

雪子「ねえ」

 

大人たちの会話中、新次郎は、さおりの相手を続ける。

 

もと子「だけど、新さん遅いわね」

新次郎「えっ? ええ…ホントに何してやがんですかねえ」

 

建重が部屋を訪ねてきた。

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もと子の夫の葬儀に来てた。新次郎に「親方」と呼ばれてたけど、旅行に一緒に行ってたわけでもなさそうだし、何の職業が不詳。大工仲間?

 

建重「しかし、なんだってな、こん中にいたんだってな」

新次郎「ええ、あの…5階の空き部屋で遊んでたんですがね」

建重「そうだってねえ」

新次郎「2日前に引っ越してちょうど空いてたのを子供は知ってたんですねえ」

建重「ああ、そうか。まあ、よかったよね。こんなことで済んでさ」

新次郎「はい、あの…どうもありがとう」

建重「あれ? いや、としちゃんいねえけどよ、何かい? あの…ショックでこれになっちゃったのか?」頭の横で拳を作ってたけど、よく分からない。

新次郎「いえ、あの…それがまだ出てったっきり、どうも戻ってこないんで」

建重「捜しにか? ああ」

 

堀田はそろそろそっちのほうも捜したほうがいいんじゃねえのかと新次郎に言う。安さんは、としちゃんのことだから駅ビルにでもフラフラ歩いてんじゃないかと言い、すかさず雪子にツッコまれる。

 

新次郎「いやあ、あいつ、電話一本よこしゃいいのに…そうですね。ちょっと捜してくっかな、俺」玄関を出た。

 

薄暗くなった商店街を涙を拭きながら歩くとし子。それにしてもすごいミニ。

 

新次郎の部屋

もと子「新さんも苦労するわね」

堀田「だから、私は前からそう言ってるんだ。あの女房だけはなんとかしなよって」

もと子「なんとかって?」

堀田「いや、つまりね、15も年下なんだから新さんが殴ってでも教育しなきゃダメだよってね」

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「あしたからの恋」でも正三が言ってたけど、女房を教育してやるみたいな考え方嫌いだわ~。福松「お前が教育を? 聞いてあきれますよ」

 

もと子「ダメよ、新さん優しいもん」

堀田「子供、ほったらかして編み物かなんかやっちゃって。そりゃまあ、魔が差したってこともあるけども帰(けえ)ってこねえってのは、甘ったれてるよ、まったく」

もと子「うん、でも、としちゃんも今度はショックだっただろうからねえ」

堀田「今度こそぶん殴れって言いたいね、私は」

もと子「大きい声出さないでよ」子供の様子を気にする。

 

堀田「近所中の人、騒がしてパトカーまで出動して、それでまあいいやいいやで済ましちゃったんじゃ、だらしがなさすぎだあね、新さんも」

もと子「うん、でもね、ショックでへこたれてる奥さんを、その上、殴ることもできないでしょうしさ」←そうそう

堀田「だからさ、今日とは言いませんよ、私だって」

 

ドアが開く。

堀田「おう! どうしたい?」

新次郎「ええ…」

もと子「見つからんの?」

新次郎「ええ。実家も友達んとこも、この辺りにもどこにも捜しようがなくなっちまって」

もと子「あんたも疲れたでしょう」

新次郎「いや、おかみさんこそ。あっ、もう、あの…どうぞ頭(かしら)もどうか」

堀田「いやいや、俺たちはだべってただけだから」

 

椅子に掛けてタバコ吸ってたのは頭(かしら)だけで、もと子は台所に立って料理してるんだけどね!

 

もと子「今、カレー作ってんのよ」

新次郎「すいませんね、そりゃ」

もと子「あの…さおりちゃん寝たわよ。頭(かしら)がね、抱いて寝かしつけたの」

新次郎「あっ、そうですか」

堀田「いやあ、その子は大したもんだい。俺とあねさんしかいねえのに一回も泣かねえんだから。ねっ? あねさん」

もと子「慣れてくると結構しゃべるわね」

 

新次郎「ええ、まあ、しかし、自己流で何言ってるか分かんないでしょ?」

堀田「それそれ。オブリンとかオブランとかって、あれ分かんなかったねえ」

もと子「そうよ。よう聞いてみたら、おリボンのことなのよ」

新次郎「ああ、ああ…そうかもしれません」

もと子「ねえ、としちゃんがいれば、すぐ分かんのにねえ」

新次郎「ええ」

 

堀田「ああ、しかし、としちゃんもしょうがねえなあ」

新次郎「えっ? ええ…」

もと子「うん…でもまあね、パトカーが出るような大騒ぎになったらびっくりしてね、帰りにくくなってんのよ。まあ、そのうち新さんが1人になるのを見計らって帰ってくるわよ」

新次郎「ええ、そんならいいけど」

もと子「まあ、安心なさい。としちゃんは大人なんだから」

 

新次郎「ええ…あっ、それより、おかみさんのほう健坊1人で夕飯待ってんじゃないんですか?」

もと子「あの子は1人でなんでもできますよ」

堀田「そりゃそうだい。一片食(ひとかたけ)ぐらいどうってこたあねえやな」

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もと子「それにね、今日は健坊1人じゃないんですよ」

堀田「ああ、あの太った子、金物屋」←磯田のことかー!

もと子「ううん。そうじゃないんだけどね。実は…改めて話をしようと思ったんだけどね」

堀田「えっ?」

新次郎「えっ?」

 

尾形家ダイニング

天ぷらを揚げる竜造。「さあ、いいだろう。さあ、あったかいうちに食べてくれよ、これな」かっぽう着姿の由利徹さん、既視感あるな。

健一「おじさん」

竜造「うん? おっと、待って、ほらさ!」1つ残った天ぷらを皿に置く。

健一「天ぷら屋も5日で辞めたのかい?」

竜造「いや、こりゃ若いうちだからな。竜作の生まれるめえだったな。まあ、一とおりは揚げるとこまでやったんだ」

健一「そうかい」

 

5日で天ぷら揚げるところまでやるとは、なんでも割とすぐ出来ちゃう器用な人なのかも?

 

竜造「しかしな、こんなものは一度コツを覚えりゃな、あとは同じだよ。来る日も来る日も油のにおい嗅いでよ」

健一「竜作にも天ぷらつくってやったのか?」

竜造「いつまでもそんなこと言うなって」

健一「いつまでもとはなんだよ」

竜造「いや、だから、俺は心入れ替えたって」

健一「心入れ替えりゃいいってもんじゃねえだろう?」

竜造「別に俺はあんたにはなんにもしてねえじゃねえかよ」

健一「代わりに怒ってんだよ」

竜造「代わりに怒んなって、そんな」

健一「俺はあんたがケロケロしてんのがしゃくなんだよ」

 

縁側から家の中を見る文子。

 

竜造「分かったよ。だけどな、長(なげ)えことくよくよしてられねえタチなんだよ。竜作にはいくらでも恨み言、言ってもらうつもりだよ」

 

⚟文子「こんばんは」

 

竜造「おい、誰か来た。ほれ、ほれ」

健一「上がってくれよ。おじさん、恨み言を言いたいのは竜作だけじゃないんだよ。文ちゃん、来なよ」

 

縁側から入ってきて、まっすぐ竜造を見る文子。

 

健一「竜作の親父だよ。おじさん、竜作の恋人だよ」

竜造「あっ、そりゃどうも」

健一「あんたを殴りたいだろうと思って呼んだんだ」

竜造「いや、そりゃ殴られてもいいけどね」

 

笑みを浮かべる竜造だが、真顔の文子に笑顔が引っ込み、目をそらす。

 

健一「あんたが来たんで、竜作は逃げるように行っちまったんだ。幸せだったんだぜ」

竜造「すいません」

健一「心を入れ替えたんなら、今更出てこなきゃよかったんだよ」

竜造「そのとおりだね。俺はホントにもう竜作の前には出てこめえと思ったんだ。ところが会いてえんだねえ。いや、こりゃ竜作にたかろうとかって、そんな気はねえんだよ。ただもう、会いたくて出てきちまったんだよ」

健一「竜作はそうじゃなかったようだね」

竜造「無理もねえけどね」

 

文子「働いてください」

竜造「えっ? ええ、そりゃもうきっとね」

文子「竜作さんは帰ってくるわ。そういうお父さんなら。あの人だって会いたくてしょうがないはずだもの」

竜造「そうだといいんだけどね」

文子「きっと働いてください」

竜造「ああ」

 

健一「文ちゃん、この人が作った天ぷらでも食べていかないかい?」

文子「ありがとう。でも、本当にいいお父さんかどうか分かるまでは欲しくないわ、私。さよなら」

 

健一「安心してろよ、文ちゃん。俺がいい親父にしちゃうさ」

文子「うん」縁側の戸を開けて出ていく。

 

竜造「ハハッ、あいつはまた気の強いのを恋人にしちまったで」

健一「気なんか強くないよ。優しくていい子だよ」

竜造「そうね、美人だしな」

健一「だからよ! だから、いいかげんなことしやがると俺、承知しねえぞ!」

竜造「分かったよ。あんた、すぐ怒んだから、ホントに」

 

新次郎の部屋

堀田ともと子が帰って行った。さおりが起き、泣きながら「ママ! ママ!」と呼んでいる。玄関にいた新次郎はさおりの様子を見に行く。

 

玄関のドアが静かに開き、とし子が立っていた。寝かしつけてきた新次郎はとし子の姿を見つけ「バカ!」とどなったものの泣きだしそうなとし子を見て「ハァ…なんだ、とし子」と安堵の表情を浮かべる。頭を下げるとし子に早く上がれよと言う。優しいなあ。

 

新次郎「ったく、どこ行ってたんだよ? 随分、捜したんだぞ」

とし子「ごめんね」

新次郎「おい、早くこっち来いよ」

とし子「さおり、起きちゃった?」

新次郎「うん? いや、半分、寝ぼけたんだよ。寝ちゃってるよ」

とし子「すいませんでした」

新次郎「お前、よくおかみさんたちに会わなかったな?」

 

とし子は1時間ぐらい前から4階に上がっていた。頭(かしら)の声がしたし、誰にも会いたくなかった。どうしていいか分からなかった。

 

新次郎「大変な一日だったな、うん」優しく抱きしめる。お茶でも飲もうやと自ら用意してくれる。いいね~。

 

とし子がガスタンクの裏の道に出ようとしたら、安さんのおかみさんが安さんにどなっていたのを聞いて、さおりが見つかったのは分かっていた。

 

新次郎「お前、なんでそれですぐ帰ってこなかったんだよ?」

とし子「みんながさ、どんな目で私を見るか分かるんだもん」

新次郎「そりゃ多少はしょうがないさ。そんなこと」

とし子「私のせいだもんね」

新次郎「いや、それはお前のせいじゃないよ。そうしょっちゅう子供から目を離さないってわけにはいかないもんな」

とし子「ううん、私のせいだよ」

新次郎「どうして?」テーブルの上の湯飲みを片づけ、流しに持っていく。

 

とし子「私、いけなかったと思ってるよ」

新次郎「何が?」流しで急須の茶殻を捨てている。

とし子「そりゃさ、今日のことは私のせいばっかりじゃないけどさ」新次郎の洗っている急須を取る。「だけど、私、母親としては情けなかったと思ってるよ」

新次郎「なんだい? そりゃ」

とし子「道歩きながらね、自分のこと、いろいろと反省したんだよ」

新次郎「あっ、そうか」笑顔になり、椅子に掛ける。

とし子「もうちょっとしっかりしなきゃいけないなと思ったよ。あんただってさおりだって、私のせいで随分迷惑かけてるもんね。今日ね、そういうこと、よく分かったよ」

新次郎「そうか」

 

急須を置き、やかんに火をつけるとし子。「私ったらさ、自分のことばっかり考えてて…あんたの身やね、さおりの身にあんまりなってなかったと思うよ。そんな女房さ…悪かったと思ってるよ」涙を拭く。

新次郎「そうか」

とし子「急にはさ、そんな、いい奥さんになれないと思うけどさ、だんだんとね、いいのになっていこうと思うよ」泣きだす。

 

新次郎「とし子」立ち上がり、とし子を抱きしめる。「お前の口から、そんなことを聞くとは思ってなかったぜ、うん? そうか、お前、そんなことを考えて、街歩いてたか」

とし子「うん」

新次郎「とし子、お前はいい奥さんだ。なっ? うん? 寒かったろうが。ええ?」

とし子「ううん」

新次郎「泣くな、泣くな。なっ? 泣くなって」とし子を抱きしめたまま、後ろ手でさおりの寝ている部屋のふすまをそっと閉める。

 

尾形家

外にいた新次郎におはようと声をかけるもと子。

新次郎「あっ、おはようございます。昨日はどうもいろいろご心配かけまして」

もと子「まあ、今日は随分さっぱりした顔してんじゃない」

新次郎「ハハッ。そうですか? いや、ゆうべは安心してホッとして寝ちまったもんですからね、ハハッ」

 

頭(かしら)に来てもらってるから、家に上がるように言うもと子。

 

いつの間にか茶の間にこたつが出ている。こたつにあたり、たばこを吸って難しい顔をしている頭(かしら)。もと子は竜造を呼ぶ。新次郎は頭(かしら)に手をついてあいさつし、昨日のこともお礼を言う。

 

堀田「叱ったんだろうね? 新さん」

新次郎「それは、まあ…」

堀田「それはまあって、ったく意気地のねえ話じゃねえか」

もと子「頭(かしら)、何むくれてんのよ?」

堀田「えっ? いやあ、別にね」

 

もと子に急かされて、堀田と新次郎の前に姿を見せる竜造。「あっ、どうも皆さん」

もと子「新さん、竜造さん」

新次郎「ああ、竜作の」

うなずく竜造。

 

もと子が茶の間に来て座るように言うものの「いや、私はここで」とダイニングの板の間に正座している。

 

もと子「あの…まあ、昨日も新さんにちょっと話をしたんだけどね。できたら、新さんの下で使ってもらえたらなあと思ってね」

新次郎「はあ」

もと子「まあ、新さんにしたら重荷な話だろうけどね。まあ竜作さんのためにうちで修業したいと言ってるし、まあ50過ぎた人を新米で使うのは大変だろうけども、せっかくこの人も決心したんだし、ここでくじけちゃね」

新次郎「ええ」

 

堀田「おい、あんた」

竜造「へい」

堀田「五十面下げて、そんな意志の弱いことでどうすんだい?」

竜造「へい、すいません」

 

もと子「こんな人もいるのよ、頭(かしら)。自分じゃどうにもならない意志の弱い人もいるのよ」

堀田「だけど、あねさん。そんなもの引き受けちまってどうするんですよ?」

もと子「だから竜作さんのためよ。ともかくお父っつぁんが一生懸命働いてくれたら、竜作さんと一緒に住むこともできるし、あの子だってみなしごみたいな思いしなくても済むでしょう」

 

堀田「新さん」

新次郎「えっ?」

堀田「そいじゃもう、うんとしごいてやんなよ。ぶん殴って蹴っ飛ばして根性たたき直してやんなよ」

もと子「それをお願いしたいのよ」

竜造「うんとしごいてやってくださいよ、棟梁」

 

新次郎「いや、それは私はお断りですね」

もと子「新さん」

新次郎「いえ、この人は引き受けましたよ。でもね、頭(かしら)の前ですけどね、私は絶対に人は殴らない」

堀田「まだ新さんそんなこと言ってんのかい」

 

新次郎「ねえ、頭(かしら)」

堀田「なんだよ?」

新次郎「私はね、今まで自分が意気地なしに思えてしょうがなかったんですよ。どうしても人を殴ったりできないんでね。だけどね、おかみさん」

もと子「えっ?」

新次郎「どうしても人を殴れねえってのは、これは意気地がねえんじゃなくて一つの立派な頑固だって思えてきたんですよ」

堀田「へへ…」

新次郎「いや、そりゃ、頭(かしら)の言うようにね、ぶん殴って人をしごいていいなら、そりゃ職人の上達も早いかもしれねえ。女房も早く言うこと聞くかもしれませんよ。しかし、ゆがむね。なんかがゆがむね。心ん中で」

 

庭で健一がちらちら映り込んでいる。

 

堀田「いつまでそんな気の優しいこと言ってんだよ、あんた」

 

健一が縁側の窓を開ける。でも入って来ないで縁側に座っている。

 

新次郎「竜造さん」

竜造「へい」

新次郎「私はね、いいかげんな人間でしょっちゅうずっこけってるような人間なんだ。だから、ぶん殴って引っ張ってくなんてことは、私にはとてもできないんだ。そのかわりね、親身になろうと思うよ」

竜造「へい」

 

新次郎「ねえ、おかみさん」

もと子「えっ?」

新次郎「あいつ、ゆうべガラにもねえこと言いましてね」

もと子「うん」

新次郎「女房として今までの自分が恥ずかしい。皆さんにもそう言って、わびといてくれって」

堀田「ヘッ…」

もと子「そう。そんなこと言ったの」

 

堀田「女なんてものはね、そのぐらいのこと言ったって、ちっとも変わりゃしねえんだよ」

新次郎「いや、それでもいいんですよ。一時の気持ちにせよ、そういうことをあいつが言ったかと思うとね。いや、これは頭(かしら)の前ですけども、私はうれしいんですよ」

堀田「ヘッ…まあ、俺はなんとも言わねえな。ヘヘヘッ」

新次郎「私は殴らなかった。どんなに殴れって、頭(かしら)に言われてもね、許しちまった。いや、その、とし子がたとえ少しにもせよ、自分で変わったってのはね、私はうれしいんですよ」

もと子「そうなの」

新次郎「殴らねえ。そのかわりできるだけ親身になる。そして、当人が勝手に上達していく。私の方針はこれだよ、竜造さん」

 

竜造「へい、私にはよくなんだか分かんねえけど感激しちゃうねえ、どうも。こうなりゃ私だって一生懸命やりますよ。なあに、うちの1軒や2軒、あんた、タンタンターンってやっちゃいますからね」

もと子「それがいけないのよ、あんた」

竜造「へっ?」

もと子「初めからね、そんな景気のいいこと言う人は続かないのよ。地道に考えなきゃ、地道に」

竜造「へい。そういうことですかね」もと子にお茶を手渡されて口にするが、咲子の「ねえさん!」という声にお茶を噴き出す。

 

咲子はゆり子が来週結婚してしまうと駆け込んできた。2人で座敷に座り込んでいるから早く来てと堀田を引っ張る。

 

堀田「ちきしょう、ぶん殴ってやらあ!」

新次郎「頭(かしら)、頭(かしら)、頭(かしら)!」

 

飛び出して行こうとする堀田を止める新次郎と健一。大騒ぎの中、1人、お茶のおかわりを注いで飲んでいる竜造。(つづく)

 

はあ~、あした終わってしまうのか。

 

殴らないことを貫き通す新さん、ステキ。ついに新次郎がとし子を殴って解決、みたいな筋書きでなくて本当によかった。そんな展開だったら今までの新さんはなんだったの?と思うところだった。

 

最終回は竜造と和解なんてしなくていいから竜作に出てきてほしい!