TBS 1970年11月10日
あらすじ
正三(小坂一也)は、手紙が届くよりも先に新子(岸ユキ)が上京してきたことが、押しかけ女房のようで腹立たしく、冷たい態度を取ってしまう。福松(進藤英太郎)と常子(進藤英太郎)は正三を説得しようとするが……。
2023.12.27 BS松竹東急録画。
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谷口和枝:尾崎奈々…福松の長女。21歳。(字幕黄色)
野口勉:あおい輝彦…直也の弟。大学生。20歳。
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野口直也:大出俊…内科医。28歳。(字幕緑)
井沢正三:小坂一也…「菊久月」の職人。30歳。
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谷口修一:林隆三…福松の長男。25歳。(字幕水色)
前田新子:岸ユキ…正三の見合い相手。
石井キク:市川寿美礼…野口家に25年、住み込みの家政婦。
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谷口常子:山岡久乃…福松の妻。46歳。
菊久月
店の中には複数の客がいて和枝が接客をこなす。
女性1「みんなおいしそうで迷っちゃうわ」
和枝「どうぞごゆっくり」
女性2「きんつばと利休饅頭を5つずつください」
利休饅頭ってこういう感じのやつね。
奥から正三が商品を持って出てきた。「いらっしゃいませ。(和枝に)かのこ出来ました」
新子は2階も掃除していた。茶の間に入ってきた和枝は新子をねぎらうが、今夜、福松たちが帰ってくるので夕飯をメモしてくれれば買ってくると言う。買い物が好きだと言う新子に好きなものを買ってきていいと言う和枝。
新子「はい。何かごちそう作ります」
作業場
修一「正ちゃん、昼飯は天丼にするか?」
正三「お茶漬けでもいいんだけどね」
修一「働いてんだ。昼はおごらなきゃ」
正三「何しろ大根の煮つけが昨日の夜から続いちゃって」
修一「新子さんのお土産の大根だね」
正三「まったく気が利かないよね。あんな重いものをウンウン言って持ってきてさ」
新子は布団を2階に運んでいて、和枝に心配される。あの急な階段怖い。
正三「バカ力出しちゃって」
修一「まったくよく働くね」
新子を見守っていた和枝だが、客が来たので店へ。
正三「もう3日もいるんだよ。いいかげんに長野へ帰りゃいいのに」
修一「和枝はすっかり楽しちゃって大助かりだ」
正三「こっちはすっかり気がめいっちゃったよ」
修一「笑顔がかわいいな。新子さんって」
正三「背ばっかり高くってさ。顔が合うとすぐニコニコでしょ。何がうれしいんだか」
修一「そりゃ正ちゃんが写真で見た以上にいい男に見えるからさ」
正三「おだてたってダメですよ。ああいうタイプ好きじゃねえんだ」
修一「どこが気に入らないのかな」
正三「人間なんて感情の動物だからね」
修一「気難しいんだね」
階段を下りてきた新子は目が合った修一に笑顔を向ける。
修一「やっぱりかわいいよ」
正三「カマトトだよ、ありゃ」
また布団を持って2階へ上がる新子。
正三「なんだか押しかけてこられたみたいでさ、印象が悪くて」
修一「しかたがないだろ。手紙が遅れて新子さんのほうが一歩先に東京へ着いた。それだけのことだよ」
正三「まあね」
修一「冷たいぞ。3日も一緒にいてろくに2人で話もしないでさ」
正三「話ししてみたって、どうせ土臭い話に決まってるもん。おふくろさんが死んでから5年もきょうだいの面倒見ながら野菜作ってたっていうし」
修一「立派だよ。OLになるばっかりが能じゃないからね」
1969年公開の「男はつらいよ」で寅さんがさくらをBG(ビジネスガール)と言ってたのに、修一はOLと言ってる。寅さんはおじさんだから古い言い方なのかも?
正三「いやに褒めちゃって。イヤだよ、あんな所帯じみたの」
新子は物干し場に布団を干し、ふと桃子のギターを見かけ、弾いてみる。鏡台越しに和枝が目撃。
新子「あっ…すいません、勝手に」
和枝「いいわよ。なんでも使ってちょうだい。ギター弾けるんでしょ?」
新子「弟のを借りて時々。でも下手なんです」
和枝「お店閉めたらゆっくり聞かせてちょうだい」
新子「正三さんに笑われます」
和枝「平気よ。あの人も歌が大好きなんだから」
新子「そうですか? 私も歌ってると楽しくて」
作業場
正三がどら焼きの皮を焼きながら歌っている。
♪やめて 愛してないなら
やめて くちづけするのは
辺見マリ「経験」1970年5月11日発売。ドラマ中に発売された新曲だね。
作業中に歌うような歌か!
修一は直也と電話中。「えっ? これから遊びにですか」
直也「日曜だろ? 2~3時間でも暇があればと思って」
修一「そうだね。うん、ちょっと待って」2階にいる和枝を呼んだ。
正三
♪いやと言えない ダメなわたしネ←まだ歌ってる!
階段の最後の一段を踏み外した和枝。
修一「バカ。慌てんなよ、お前」
和枝「ああ、イタッ。だって…」
野口家
直也「えっ? どうして? そんなに忙しいの? 君んとこ」
和枝「ええ。父と母が帰るのは今夜なんですもの」
直也「そうか。それじゃあ無理だね。せっかく今日はこうしてゆっくりしてるのに残念だな」
キク「ほんとに残念だわね」台所から茶の間へ食事を運んでいる。
直也「じゃあ、僕が行くよ。店番しながらだって話はできるさ。忙しければ手伝うよ」
キク「まあまあ、大変なお医者様」
直也「うるさいな、キクさんは」
キク「はいはい。恋は…っていいますからね。しかたがないわ」
26話と同じ「恋は盲目」だろうな。
和枝「直也さん、兄が夜なら出かけてもかまわないって言ってるの」
直也「あっ、そう。じゃ、夕飯食べようか、2人で。うん」
勉「ああ~、腹減った腹減った、キクさん。何食わしてくれんの? 昼飯は」
キク「残り物(もん)ですよ。そこら辺の野菜かき集めてけんちん汁作ったんだから」
勉「あの…ご飯はふかしてくれよ。冷や飯はね、胃にこたえちゃって」
キク「少しはこたえたほうが身のためでしょ」
直也のすぐそばで割と大きな声で会話する2人。
直也「えっ? 何?」2人に背を向ける。
キク「ほんとにもう、勉さん、締まらないんだから」
勉「バカ。兄貴とは違うよ、こっちは」
直也「いや、うるさいな。黙っててくれよ。電話してるんだから」
勉「チェッ、相手はまた和枝さんだよ。よく飽きずに、まあ」
キク「ほんとにね~」と直也の前から解散。
直也「じゃあ、7時だね? うん。いつもの所で待ってるよ。大丈夫だよ。ちゃんとお送りするから。じゃ、それまでさようなら。気をつけて。ああ、ああ、分かった分かった。はい、さよなら」受話器を置く。
キク「ねえねえねえ、いつものとこってどこです?」
直也「どうするんだい? 聞いて」
勉「ヘッヘッヘッ。いろいろとね、ねっ? キクさん」
キク「そうですよ。アベック専門なんて店もちょくちょくあるそうですからね」
直也「冗談じゃない。ごく当たり前のスナックですよ」
勉「たまにはね、弟ぐらい誘ったらどう? ベッタリ2人っきりってのは先細りじゃないかね?」
直也「とんでもない。ベッタリ2人っきりでいたいの」
正三と新子に送り出されて裏口を出た和枝。接客をしているのは修一。店にいたお客さん、谷よしのさんっぽく見えたな。和枝は店に入り、修一に夕ご飯は新子さんにお願いしてあるからと言う。
修一「分かった。心配しなくてもいいよ」
和枝「ねえ、正三さん、新子さんに少し冷淡すぎると思わない?」
修一「うん」
和枝「あれじゃ新子さんがかわいそうだわ。とってもいい人よ」
修一「おふくろが帰ってくりゃなんとかしてくれんだろ」
和枝「そうね。じゃ」と出かけていった。
作業場
新子「上手なんですね」正三の作業を見ている。
正三「菊久月に勤めて13年だよ。これぐらいのことはできなくっちゃ」
新子「私、羊羹ってこんなおっきなの作ってそれを切るのかと思ってたわ」
正三「そういうのもあるさ。一口に和菓子っていっても何百種もあるんだから」
新子「いい仕事ですね」
正三「そりゃまあ、収入もかなりあるし」
新子「聞きました。お兄さんから」
正三「だけど、俺は一生店は持てないよ。一生、この店の通い職人さ。長野に帰ったら兄貴に俺がそう言ってたって言っといて。狭いアパートで暮らす身分だから田舎でのびのび育った女にはとても我慢できないしノイローゼになるよ」
新子「私は平気です」
正三「困るよ。そうきっぱり言われちゃ」
新子「でも、あした長野へ帰りますから。ご迷惑かけてすいませんでした」頭を下げる新子に正三も頭を下げるが複雑な表情。笑顔を向ける新子から目をそらす。
修一が作業場へ入ってきた。「飯は何時になる?」
新子「もうすぐです。ごちそうなんですよ」と台所へ。
修一「彼女、張り切ってんね」
正三「変な女だよ。サバサバしちゃって」
スナック
男女の歌手(トワ・エ・モワ)が出てきて客席を練り歩きながら歌う。
♪今はもう秋 誰もいない海
知らん顔して 人がゆきすぎても
わたしは忘れない 海に約束したから
つらくても つらくても…
トワ・エ・モワ「誰もいない海」1970年11月5日発売
すごい! まだ出たばっかりの曲だ。
桃子がトワ・エ・モワの「或る日突然」を歌ったり、トワ・エ・モワ推しのスタッフでもいたんだろうか。
この店は前に来た「ジロー」とは店のつくりや内装が違うよね??
直也「今月の給料でエンゲージリング買うつもりなんだ」
和枝「まあ…」
直也「仲人を決めたり、式の日を決めたり、考えると煩わしいな」
和枝「父なんか急ぐことはないだろうなんて言うんですよ」
直也「嫁にやるのが惜しくなったんだろう」
和枝「頑固だけど、とても寂しがり屋だから」
トワ・エ・モワは直也と和枝の座る席の奥で女性がブランコに座って歌い続ける。
直也「お母さんは?」
和枝「母はウキウキしちゃってうれしそうですわ」
直也「早くもらっちまわないと安心できないな」
和枝「そんな…」
2人の笑い声
♪砂に約束したから
淋しくても 淋しくても
死にはしないと
主題歌を歌ってる人がドラマの中で歌うことも時々あるけど、そういうのでもないのに、和枝も直也も会話を中断して歌に聴き入ってる。
直也「涙なんかこぼさないだろうね。和枝さんは」
和枝「えっ?」
直也「女の人って花嫁衣装を着ると泣くようだから」
和枝「分かりませんわ。そのときにならないと」
直也「泣かないよ、君は」
和枝「どうして?」
直也「じゃじゃ馬だから」
和枝「まあ!」と手をたたこうとしたが、直也が避けて、和枝が痛がる。
直也「よける呼吸もうまくなったろ?」
和枝「まあ、憎らしい」と今度は向うずねを蹴る。痛がる直也。
谷口家茶の間
黄色いカレー! 野菜が大きく切られている。正三は渋い顔。
修一「うまいな」
正三「うん。なんだってこうでっかく切るんだ。ジャガイモもニンジンもゴロゴロしちゃって」
修一「聞こえるぞ」
正三「聞いてもらいたいよ」
店に立ちながら、正三の言葉を聞いている新子の表情は曇る。
⚟正三「一生こんなのを一番のごちそうだと思われちゃ男はたまんないからね」
酷い! しょんぼりと商品棚を拭く新子。
新子「あっ、いらっしゃいまし」
常子「あっ、どうも」
福松「あんた、誰ですか? 店番なんかしちゃって」
新子「ああ、こちらの旦那様と奥さんですね?」
福松「ああ」
新子「前田新子です。よろしくお願いします」
常子・福松「(戸惑いながら)よろしく」
新子は笑顔で奥へ。すぐに旦那様と奥さんだと気付くあたり察しがいいよ。普通のドラマだとすぐ気づかなくて、もう一展開とかありそうじゃない?
茶の間
新子「高松からお帰りになりましたよ」
修一「帰った? いやに早いじゃないか」
正三「気まぐれだからね、旦那ときたら」と立ち上がる。
常子「ただいま」
正三「おかえんなさい」福松の旅行鞄を持つ。
修一「おかえり。おっ、予定より早かったね」
常子「お父さんが相変わらずだもの。お留守居、ご苦労さま」
福松「おい、誰だ? あの店にいる女の子は」
修一「あの人ね、長野から来たんだ。正ちゃんの見合いの相手」
常子「あら、そうだったの?」
正三「どうも留守中に申し訳ありません」
福松「あっ、そうか。それはまあおめでたいこった」
正三「冗談じゃないよ、旦那」
修一は常子の荷物を持つ。
常子「ねえ、良さそうな娘さんね」
修一「ああ、よくやるよ。感心しちゃった」
常子「それで正三さんは?」
修一は渋い顔で首を振る。
茶の間
福松「やあ、うちが一番だ。ああ、疲れた」
正三「あの…お疲れんとこ申し訳ないんですけど話があるんですよ」
福松「ああ、ありがとう」新子の入れたお茶を受け取る。「はい、母さん」
常子「はい、どうも」
テーブルの上のカレーが目に入った福松。「おお、うまそうだな」
常子「お父さんの大好物ね」
新子「たくさん作りました。きっとお帰りになって召し上がると思って」
福松「いただくよ」
正三「あの…旦那、話がね…」
福松「なんだ、お前ときたらうるさいよ。帰ったばかりで」
常子「正三さん、あしたお店がお休みなんだからゆっくり聞かせてもらうわよ」
修一「正ちゃん、とにかく食っちまおうよ」
正三「うん」
お茶を入れた新子に「ありがとう」と言う修一。やっぱり修ちゃんだな。
渋い顔でカレーを食べている正三を見る新子を見ている福松・常子。
常子「和枝も桃子も留守ね」
修一「ああ。もうすぐ帰んだろ」
福松「まったく親がはるばる旅から戻るってのに」
修一「どうせ直さんと一緒なんだから気にすることないって」
福松「あの男と一緒だから余計心配なんですよ」
常子「まあ、憎らしいことばっかり言って」
新子「直也さんってすてきな方ですね」
常子「ええ。めったにいませんよ。この近所見回したって全然いないわ」
正三「どうせこっちはカスですよ。ねえ? 旦那」
福松「バカ。私は別ですよ」
常子も新子も笑う。
常子「あら、新子さん、ごめんなさい。正三さんのこと、うっかりしちゃって」
野口家
キクは電話中。「まあまあ、そりゃ大変でしたですね。でも、お宅の旦那さんのお兄様でしたら胆石ぐらいで死ぬようなことは…」と笑う。「でも、まあ、ご無事で何よりでした」
キクの前を通って茶の間に入ってきた勉。「まったく何が楽しくて生きてるんだか。のべつゲラゲラしちゃって」自分でお茶を入れる。
キク「えっ? あっ、あの…直也さんと和枝さんですか? いいえ。あの…いつも行くスナックで待ち合わせるとかって。ええ、はあ、それがどこのスナックやらさっぱり…」
常子「そうですか。でも、直也さんとご一緒なら別に心配ありませんわね」
キク「ええ、そりゃもうカチカチですから。直也さんはお父様に似て紳士ですもの」
勉「何言ってんだ、バカ」
キク「ありがとうございます。また栗羊羹でもごちそうになりに。アハハハ…ええ、それじゃ、まあ、おやすみなさい」受話器を置く。
勉「キクさん」
キク「えっ? なんです? 座り直して、気味が悪い」
勉「兄貴が言ったセリフ、忘れたの?」
キク「なんでしたっけ?」
勉「かあ…まったくこれだから。和枝さんとベッタリ2人でいたい、兄貴、そう言ったろ?」
キク「ええ、ええ、そうそう」
勉「ねっ? 何がお父さんに似て紳士だよ。こっちは危なっかしくてハラハラしてるんだから」
キク「でも、直也さんのは口ほどでもないんだから」
勉「男はみんなオオカミなんだぞ。ガーオ!」
キク「ひい~!」
いいコンビだよね。結局、勉は最終回まで福松と顔合わせないで終わり!?
夜道を歩く和枝。「楽しかったわ」
直也「まだ少し足が痛いよ」
和枝「ごめんなさい。大丈夫かしら?」
直也「ああ、イタタ…あ~、また急に痛みだした」菊久月前の電柱に寄りかかる。
和枝「困ったわ、どうしよう」
直也「あした、病院行って診てもらうよ。婚約者に蹴られましたって」
和枝「ひどい、そんな…」
直也「ハハハハッ、冗談だよ、ほら」と片足でぴょんぴょん跳び始める。
和枝「意地悪」
裏口から修一が出てきた。「おっ、なんだ? どこのアベックかと思ったら」
正三「近頃はおかしなのが多くなったって話してたら、和枝さんですか」
和枝「失礼しちゃうわ」
直也「和枝さん、少しからかってたんだよ」←よく恥ずかしげもなく言えるな。
修一「ああ、親父たち帰ってきたよ」
和枝「あっ、そう。お寄りになって」
直也「ああ」
和枝と直也は谷口家へ。
修一と正三が表通りに出るとギターの音色が聴こえてきた。
新子「♪時には母のない子のように
だまって海をみつめていたい
時には母のない子のように
ひとりで旅に出てみたい
だけど心はすぐかわる」
カルメン・マキ「時には母のない子のように」1969年2月21日発売。寺山修司作詞なのか~。すごい納得。
修一は正三の顔を見る。困ったような正三の顔。
洋二兄さんがバーで弾いてた曲だね。洋二はクラシックだけじゃなく歌謡曲も結構弾いてたんだよね。セレナーデからおやじ太鼓までレパートリーがすごい。
そして、この曲は元子の息子の大介も弾き語りしていた。歌は正直、ビミョー。新子はすごく上手だった。正三と夫婦デュオいけるよ。岸ユキさんは当時レコードも何枚も出していたんだね。尾崎奈々さんもだけど売れたら曲出す俳優って昔からあったんだな、と大竹しのぶさんが「ほんとうに」や「道」で歌ってたときも思った。
物干し場
洗濯物を取り込む新子。
和枝「今、正三さんが来て父と話してるのよ。あなたもご一緒のほうがいいんじゃない?」
新子「いいえ。私、夕方の汽車で帰りますから、ぼつぼつ支度します」
和枝「東京見物もなさらないで?」
新子「いいんです。遊びに来たんじゃありませんから」
和枝「新宿にでも私が案内しましょうか?」
新子「人混みに長くいると疲れちゃって。田舎者(もん)だから」
和枝「新子さん。正三さんのこと、怒ってるんでしょ? でも、ほんとはいい人なのよ」←でも和枝が正三を結婚相手にと言われたら全力で拒否しそう。
新子「分かります。働いてるところ見ても。でも、私なんかじゃダメですよね」
和枝「そんなことあるもんですか。正三さんにもキザなところがあるのよ。それでなんとなくあなたを避けてるんだわ。長野へ帰って、またおうちのことなさるの?」
新子「春に兄が結婚します。弟は来年、高校を卒業して勤めます」
和枝「そう。それじゃ、もうご安心ね」
新子「私も外に出て働こうと思って。家政婦でもなんでもして」
和枝「結婚は?」
新子「当分、できそうにありませんね。なんだかこの2~3年、正三さんの話ばかり聞かされて、なんとなくあの人と結婚できるような気持ちでいたから。でも、自分で東京に来て正三さんに会って、もういいんです。さっぱりしました。私、体が丈夫だからうんと頑張って貯金して生活できます。1人でも。東京の空は汚れているっていうけど、今日は真っ青ですね」
和枝も一緒に空を見上げ、洗濯物の取り込みを手伝う。
茶の間
福松「お前さんがそれほどバカだとは思わなかったよ。なんだ、ジャガイモやニンジンの切り方が大きい? フン、ライスカレーのごちそうじゃお粗末だ? 聞いてあきれますよ。長野から重い野菜をわざわざ持ってくる気持ちをありがたいと思わないでもったいないよ」←よく言ってくれました!
正三「なにもそれだけのことを言ってるわけじゃないんですよ」
福松「人間は小さいことの積み重ねで結婚する気にもなるんだ。心の行き届いた立派な娘さんじゃないか。それをろくに話もせず、田舎者だと決めてかかって。お前が初めてこのうちに来たときは山猿が迷い込んできたかと思ったよ」
正三「こっちも旦那の顔見たときはしまったって思いましたよ」
笑いだす常子。アドリブっぽく見える。
福松「野菜の切り方なんぞ、一日で変わるもんだ。問題は心と頭ですよ。うちの奥さんだって嫁に来たときはろくに料理もできなかったんだ」
常子「そうよ。よく手伝ってもらったわね」
福松「うん」満面の笑顔
正三「へえ、この旦那が?」
福松「当たり前だ。男だって威張ってばかりいるのが能じゃないんだから」
正三「そりゃ分かってますよ。ねえ、奥さん。新子っていう娘、奥さんはどう見てるんですか?」
常子「うん。返事はいいし、働くときはキビキビして笑顔はかわいいし」
正三「そうなんですよね。修ちゃんもそう言うんだ」
福松「フン。人に言ってもらわなきゃ分からないのか? お前は」
正三「分かってますよ。だから念のために意見を聞いてるだけじゃないですか」
福松「私も奥さんも新子さんなら、お前には過ぎた女房になると思ってます」
正三「つまり、このうちみたいにですか?」
常子「そうよ。絶対よ」
福松「お前さんときたらずうずうしい」
常子「いいじゃないの。お互いに自分には過ぎた亭主だ、女房だと思ってれば」
福松「フフッ、まあ」満面の笑顔
常子も一緒に笑う。
正三「彼女は亭主を尻に敷くタイプだと思うな、俺は」
常子「そりゃ和枝にしろ桃子にしろ、そう見るかもしれないわよ、人は。でも相手しだいでかわいい奥さんになるわ。そこが女のかわいいところよ」
福松「そうさ。なあ? 常子さん」
常子「そうよ、ねえ?」
正三「チェッ、奥さんにばっかり甘くって」
福松「ああ、うるさい。お茶」お茶を入れるのは正三。
常子「正三さん。新子さんのこと、すぐお返事はしないにしても上野には送っていくものよ」
福松「夕飯ぐらいは気張っておごるもんだ。金ばっかりためたって悪い女に引っかかったら元も子もなくなる」
正三「分かってますよ。こっちもだんだん迷いが出てきちゃったな」
和枝「お母さん。新子さん、そろそろ帰るんですって」
常子「あら、もう?」
荷物をまとめた新子が茶の間脇の廊下で「いろいろありがとうございました」と正座して頭を下げた。
常子「とんでもない。留守中、すっかりあなたにお世話になって」
福松「まあ、お茶でも飲んで、それからぼちぼち出かけるがいい」
新子「ありがとうございます」
正三が座っている場所を少しよけて、新子も茶の間へ入って、正三の隣に座る。
常子は新子の家と正三の兄の家に羊羹をお土産に持たせた。
正三「どうもすいません」常子から羊羹の箱を受け取る。
新子「いただきます」
福松「いや、お愛想がなかったが、これに懲りずにまたいらっしゃい」
新子「はい」正三から羊羹の箱を受け取る。「突然来てご迷惑かけました」
正三「いいよ、もう」
福松「なんだ、その挨拶は」
常子「お父さん。正三さんだってもう大人ですよ。いちいち言わなくたって」
正三「そうですよ。もう30になったんだから」
初回あたりだと今年30になるって言ってたので、いつの間にか誕生日を迎えていたらしい。
福松「だからこっちは心配してるんだ」新子のほうを向いてヘヘヘッと笑う。
笑顔を浮かべるが、下を向く新子。
作業場
常子「じゃあ、気をつけてね」
新子「ええ」
和枝「はい、正三さん」新子の荷物を渡そうとする。
「ハハッ」と笑って新子自ら荷物を受け取り、笑顔で「さよなら、お元気で」と頭を下げて出ていく。
裏口を出て、表通りに出そうなころ、裏口から正三が飛び出し、新子の持っていた荷物を奪うように持った。「送るよ、上野まで。その前にどっかでなんか食べようか」
新子「だって…」
いつの間にか裏口から路地に出ていた和枝と常子が笑顔でうなずく。新子も笑顔でうなずき、頭を下げて歩き出した。和枝と常子も表通りに出て手を振って見送った。(つづく)
田舎娘の描き方が素朴、苦労人、体が丈夫、働き者…ツイッターで見かけたけど「道」の夏子みたいというのに大きくうなずく。そうだ、既視感があったのはそのせいか。
都会の人が思う、田舎の人って感じだね。
急遽の延長?のわりに新キャラをぶっ込めるのがすごい。正三をこれまで出てきたアヤ子やトメ子とくっつける流れにならなくてよかった。まあ、でも新子への態度を見てると修一がモテるのも分かる。
26話でうまくまとめたのに27,28話は和枝と直也の痴話げんかに終始したときはどうかと思ったけど、前回も今回も面白い。修一と正三のコンビが好きなので2人のシーンがあるから面白く感じるのかも。トシちゃん早く大阪から帰ってきてー!とは思うけど。