TBS 1970年5月12日
あらすじ
直也(大出俊)は、和枝(尾崎奈々)のことを諦めきれない鈴木(甲田健右)とともに「菊久月」を訪れ、和枝の父・福松(進藤英太郎)に直談判を試みる。ふたりの応対をしていた和枝の母・常子(山岡久乃)は、直也に好感をもつように。
2023.11.21 BS松竹東急録画。
*
谷口和枝:尾崎奈々…福松の長女。21歳。(字幕黄色)
野口直也:大出俊…和枝にお見合いを断られた鈴木桂一の友人。内科医。(字幕緑)
*
井沢正三:小坂一也…「菊久月」の職人。30歳。
谷口修一:林隆三…福松の長男。26歳。(字幕水色)
*
中川アヤ子:東山明美…トシ子の妹。和枝と幼なじみ。20歳。
*
中川トシ子:磯村みどり…修一の幼なじみ。26歳。
鈴木桂一:甲田健右…直也の竹馬の友。
*
谷口常子:山岡久乃…福松の妻。46歳。
ひっきりなしに客の来る「菊久月」。季節柄、お柏(柏餅)を求める客が多い。客前に立つ和枝が和服姿で手伝いの桃子は福松や正三みたいな白衣姿。店は忙しいのに作業場は正三ひとりだけ。
2階
鈴木「どういうわけで僕じゃいけないんですか?」
福松「いや、何しろ本人がイヤだって言うんだ。これじゃしょうがないじゃありませんか」
鈴木「ですから、どこがイヤだって言うんですか?」
福松「どこって…ハハッ、しかたがないな、こればっかりは」
直也「おい、もう失礼しよう。こんな忙しいときに上がり込んじゃって」
福松「端午の節句なもんで、ハハッ」
⚟正三「旦那、お願いします!」
福松は「じゃ、ごめんなさい」と立ち上がる時に腰を押さえながら階下へ。
直也「じゃ、失礼しよう」と鈴木を見ると、平然と出された柏餅を頬張っていた。七三黒縁眼鏡に隠れてるけど、アップで見ると意外と美形じゃない? 性格は最悪だけど。
常子は直也にも柏餅を勧める。
直也「菓子屋さんも奥を見ると忙しい仕事ですね」
常子はお父さんと気の合った職人さんと2人きりなので数も作れず古くさいと言う。
直也「失礼ですが、奥さんおいくつですか?」←いきなり!?
常子「私? いくつに見えます?」←山岡久乃さんの口からこんなセリフが!
直也「さあ、それがちっとも分からない」
鈴木「47だよ」
常子「46ですよ」
鈴木「そうか。失礼しました」←ほんっと失礼だよな。
直也「僕の母が生きてると奥さんくらいかと思ったんですが、おふくろのほうが2つ年上でした」
常子「まあ、お母様いらっしゃらないんですか?」
直也「はあ」
鈴木「10年前に死にましてね。しかし、君のおふくろさん美人だったから2つ年上でも大体、この奥さんぐらいじゃないのか?」
常子、ピキーン。
直也「いや…やっぱり年は年だよ」←これ、フォローのつもり?
生きていたら48歳の母。直也は内科医として勤務してるし20代後半?
常子「お二人とも長いお友達ですか?」
直也「はあ、幼稚園のころからですから、かれこれ20年になります」
常子「お勤めもご一緒ですか?」
直也「いえ、僕は国立病院です。まだ頼りない医者のほうで」
常子「まあ、お医者様でしたの。私はまた鈴木さんと同じお役所かと思いました」
直也「いや、僕は鈴木と違って一生冷や飯食いで終わりそうです」
会話も一段落、鈴木も柏餅を食べ終え、直也は「もう失礼しよう」と鈴木に言う。
鈴木「なんだかはっきりしませんが、一応、これで帰ります」
直也「はっきりしたじゃないか。もう諦めろよ」
常子「ご縁がなかったんですね」
鈴木「断ったことはたくさんあるんですが、断られたなんて初めてでショックだ」
常子「結婚にこぎ着けるまでは断ったり断られたりいろいろありますのよ」
鈴木「そうですか? 気持ち悪(わり)いな、こういうの」
直也「大したことないよ、女なんて…いや、やっぱり縁だよ。なっ、諦めろ」
鈴木も大概だけど、直也もなんだかフォローの仕方が違うぞ。
作業場で柏餅を作っている福松。正三は柏餅を店に運んでいった。常子と直也、鈴木が下に降りてきた。
福松「またいらっしゃい」
鈴木「はい、伺います」
常子は慌てて目で合図を送る。
福松「いや、娘がいないときにでもね」
鈴木「は? はあ…」
直也「どうもお邪魔しました」
福松「柏餅でも持っていきなさい」
直也「いえ、もう十分いただきました」
鈴木「出来たてもうまそうだなあ」
常子は男のお節句だからと、店に包みに行った。
「菊久月」を出た鈴木と直也。店の外から接客している和枝を見る。
鈴木「まったく女ってどうしてああ、へいちゃらな顔してられんだろ」
直也「鈍感なんだろ。せっかくの休みがふいになる」
どっちも酷い。
もう昼になったので近所で何か食うかという話になる。
直也「花がきれいだね」
鈴木「こうなったら花より団子だよ。この菓子1人でパクパク食ってやるぞ」
「菊久月」前はセットなんだけど、歩き出した鈴木と直也の奥に映る商店街はロケに変わり、江戸前寿司の隣がどさん子ラーメン。隣は「凪」という喫茶店かな? ロケ地は撮影所のある大船らしいです。
お寿司屋の隣の空き店舗が「どさん子」のあったところかと思います。
鈴木は「ここにするか」と直也と「どさん子」へ。「飯時は混んでるな」と店に入り、カウンターに掛けた。
鈴木「君一人でやってるの?」
修一「ええ」
鈴木「客の回転悪いだろ。カウンターだけで手いっぱいのはずだよ、1人じゃ」
修一「今日は祭日で特別なんですよ」
鈴木「時間かかるなあ」
直也「いいじゃないか。一服してれば」
修一「もうすぐ手伝いが来るはずなんですが」
またしても失礼発言を繰り返す鈴木なんだけど、すごいナチュラルに初対面の修一と会話し始めてて感心しちゃう。←ドラマだよ、セリフだよ。
直也は塩、お前、みそだろと聞くと鈴木はバターだと答えた。
鈴木「こってりしたのがいいよ。なんだかゲッソリしちゃった」
みそバターなのか塩バターなのか!?
直也の顔を見た修一はこの店が初めてか聞く。鈴木は病院じゃないのか?と聞くが、修一は違うと首を振る。直也は半月ぐらい前に一度来たが、夜だった。
鈴木「あのときか。お前、あの女の所に直談判に押しかけた」
直也「君が死ぬとかなんとか大げさなこと言うからさ」
鈴木「死にたいよ、まったく」
テーブルの上を片付けながら会話を聞いていた修一がパチンコ屋で会ったと思い出した。直也も「あのときのね」と目を丸くし、2人して笑う。
お昼休み
桃子が食べ終えると、常子は「姉さんと代わってあげなさい」
桃子「親が死んでも食休みっていうでしょ」
ハル「ハルさんはね、この一服が終わるまで親が死んでも立てないんだから」
お敏「親が死んでも食後の一服」
出たー! 木下恵介アワー名物?「親が死んでも…」というフレーズ!
桃子「高くついたわね。これ、柏餅10個ずつ持ってかれちゃって」
正三「海老鯛ですよね」
常子が読んでるのは鈴木たちが持ってきた映画のプログラムか。「海老で鯛を釣る」の略語があるのは知らなかった。
常子「いいんですよ。柏餅ぐらいお安いことよ」
桃子「甘い甘い。私なら上に上げないな」
常子「愛想のないこと言うんじゃありません。女の子がいやあね」
正三は鈴木はよほど和枝のことが好きなんだろうと言う。「分かりますよ。男ってのは純情だから」
桃子「やだ、あんなしつこい人、純情だなんて」←その通り!
常子は早く店番に行くように桃子に言い、正三も食後の一服中に福松に呼ばれた。正三をねぎらう常子にお願いがあると言う正三。
午後1時。福松もようやく昼休み。正三のほうが先だったのか。和枝も茶の間に来て、ちまきがあといくつもないと言う。
福松「あれだけでしまいだ。あんな手間のかかるもの今から作れますか」
常子「よそは仕入れで間に合わせてんでしょ。うちもそうしとけばよかったのに」
福松「ちまきぐらい作れる」
常子「作れるのは分かってますよ。菓子屋だもの」
和枝「これだけの店舗にお菓子の種類が少なすぎるって兄さんが言ってるわ」
福松「フン、手も出さんで勝手なことを言う男だ」
すぐ言い合いになる福松と常子。
正三が作業場で歌っている。
♪花びらの白い色は恋人の色
なつかしい…
1969年10月1日発売。
常子は正三が何か相談があると言っていたと話す。
福松「近頃はあいつも気がムラで困るよ」
和枝「焦るわよ。もうじき30だもの」
修一のお見合い写真は修一が自分でどうにかすると言っていたと常子が言い、修一のほう手伝ってやんなくちゃと急いで食べる。
福松「この人はラーメン屋の手伝いのほうが好きなんだから」
常子「何百万もかけて買ったお店ですからね。ほっとけませんよ」
和枝「それはそうよ。もったいない」
アルバイトを頼めばいいと言う福松だが、トメ子みたいに変な化粧でウロウロされたくないので女の子はごめんだと修一が言うのだと常子が言う。
和枝「兄さんも気難しいわね、誰かに似て」
常子「そうなのよ。まるで我慢するってことができないんですからね」
福松「当たり前だ! 一人前の男がそうそう我慢していられますか」
ごはん粒を飛ばしながら怒り、和枝や常子が皿を移動させる。
「どさん子」
ラーメンを食べ終え、一服している鈴木と直也。
修一「これで普通の日は夕方までちょっと空くんですよ」
直也「でも面白みのある商売だね」
修一「悪くはないが一生これでもね」
直也「若いのに1軒持って僕らから見たら羨ましいけど」
修一「さあ」
帰るぞ、と言った鈴木だったが、1人にしてくれと柏餅を持ち、勘定頼むなと店を出ていった。なかなかひどい。
修一「どうしたんです? 陰(いん)に籠っちゃって」
直也「気の重いことがあってね。ちょっとかわいそうなんだ」
修一「女ですか?」
直也「一目惚れってのはどういうのかね」
修一「さあね。そんな女にお目にかかったことはないからな」
直也「ハッ、そうね」
修一「近頃の女はきついから振られて傷つくのは男なんだってね」
直也「女性上位か。こっちも蹴っ飛ばしてやりゃいいのに」
修一「そうですよ。女のくせにふんぞり返ってるようなヤツは、そのうち相手にされなくなるんだから、ざまあみろ、そう思って、まあ諦めんだな」
直也「ハッ、なんだかやっぱりわびしいね」
修一はこの近所に一目惚れするようないい女はいたかなあと言うと、いい女かどうか分からないけど近くなんだと直也が言う。
そこに常子が「ごめんね、遅くなっちゃって」と顔を出した。そこで直也と再会。修一は知り合いっぽく話をしている直也と常子に驚く。常子は長男だと紹介し、修一もまさか和枝に一目惚れする男がいるなんてねと笑顔になる。常子も修一もなぜか直也のことを気に入り、これからも遊びに来てくださいと誘う。
直也「一目惚れですよ」
修一「えっ?」
直也は他の客を接客している常子に視線を送る。「ほんとにいいお母さんだ」
谷口家
福松が2階に顔を見せた。常子じゃなく桃子でガッカリ。お茶ぐらいお母さんでなくても入れてあげるわよ、ご飯だってちゃんと食べさせてあげますと言う桃子。
福松「お前はすぐあげますって、そういう言い方はやめなさい。恩着せがましくていかんよ」
桃子「はいはい、させていただきます」
福松「いちいち逆らって。いいですよ、お茶ぐらい自分で入れますよ」
最終的に自分でやっちゃう親父はいいよ。
すっかり長居した直也。修一がパートで来てくれる若いのがどっかにいないかなあとこぼすと、直也は弟を紹介する。
直也「親父の給料で生活してますからうちなんかつましいもんです。僕がやたらと本を買い込むからつい足が出ちゃって」
「3人家族」の雄一もそうなんだけど、立派な社会人の長男でも同居して、父が働いてたら父の稼ぎだけでやってるっぽいんだよね。中流家庭ってそんなものなのかな? 結婚資金を貯めるためかな。
和枝は2階の物干し場で洗濯物を取り込む。常子が帰ってきて、修一の店に野口の弟がアルバイトに来るかもと話をする。常子が言う鈴木はずうずうしくて直也はさっぱりとしたいい青年だという評価が分からんな~。和枝の言うように直也もずうずうしいよ。
直也が常子に一目ぼれしたと言う話を修一から聞いてご機嫌な常子。
和枝「まあ、やらしい」
常子「目が高いわねえ。気に入っちゃった」
和枝「あきれた。お母さんったらほんとにずうずうしいんだから」
常子は和枝にお茶とお花をもう少し続けた方がいいと勧める。「女はやっぱり基礎になるものだけはたたき込んでおかなくっちゃ」
和枝は常子が野口を押しつけようとしてるんじゃないかと勘繰るが、常子はスタイルの悪い子は嫌いだと言っていたと煽る。和枝は「しゃくね」と怒っている。
作業場
正三「大阪で全国和菓子品評会っていうのやってますね」
福松「万博協賛とか言ってたな」
正三「うちも出品すればよかった」
福松「よっぽど腰を据えてかからないとみっともないからな」
正三「旦那は自分だけ満足すりゃいいほうなんだから」
福松「いいじゃないか、それで」
正三「PRの時代だってことを時々は思い出してくださいよ」
福松「分かってますよ。だから苦労してウインドーも毎月飾り変えてるんだ」
正三「一度何かに出品してさ、パーッと派手に賞を取りましょうよ、ねっ?」
福松「そんな暇がありますか。2人で夜なべまでしてやっとだ」
正三「そんなこと言わないでさ、一日かかりっきりゃいいんだから」
福松「そんなにやりたきゃ、お前がやるさ」
正三「しかし旦那だって腕はいいし」
福松「賞状が欲しくて菓子屋をしてるんじゃないんだ。休みにはゆっくり休まなきゃ次の日が動けなくなる」
正三「へえ、そうですかね。休みにはちょいちょい贅沢な菓子なんか作っちゃって」
福松「なんだ、まるで子供だ」
お風呂が沸いたと言いに来た常子。正三にもうちで夕飯食べてらっしゃいよと誘うが、すぐ帰ると返す正三。お風呂にも入るように言うが、銭湯のほうが気楽だとそっけない。
立ち去ろうとした常子に何か話したそうな正三。
福松「お前、奥さんに何が言いたいんですよ。陰で聞いてるほうがジリジリしますよ。はっきりしなさい、はっきり」
店を出た正三は中川家の裏口を覗こうとしていると、アヤ子が出てきてビックリ。お母さんが留守だと聞いた正三は表に小走りに駆けて、消しゴムくださいと言うと、奥から出てきたのはアヤ子。正三はまたにするよと言うが、「何言ってんの、買いなさいよ。台所ほっぽらかしにして飛んできたんだから」と10円の消しゴムを買わせた。いいキャラ。憎まれ口をたたける関係なんだね。
「どさん子」の店の前まで歩いてきた正三は店から出てきたトシ子に出くわす。クラス会の流れで修一の友達が集まっていると言う。トシ子も修一も出席しなかったので呼ばれたが、店に来たのは女はトシ子だけ。結婚している人が多く、こんな時間までフラフラしてない。しかし、結婚した人も多いが、別れた人も3人。
修一が店から顔を出した。「なんでもないんだ。みんなが勝手なこと言ったろ。それで気にしてやしないかと思って」
トシ子「まあ、今更なんでしょう。26だからってひがんでなんかいませんよ」
修一「そうだったな。お互いサバサバしてたんだっけ。じゃいいんだ、おやすみ」
トシ子「おやすみ」
トシ子は帰っていき、正三は店へ。
翌朝、桃子とアヤ子は「確かに彼変よ」と話し合っていた。桃子は表を掃除していた和枝に正三のことを話そうとするが、奥から正三が出てきて和枝を呼び、桃子とアヤ子は遅刻するよと正三に言われて慌てて出かけていく。
作業場では福松と常子が言い合いをしていた。常子は5日でも10日でもこの店から離れてもらいたいと言うが、5日も店を離れていられるかと福松は怒る。
常子「お父さんは井の中の蛙(かわず)よ。広い世間に出てみる気が全然ないんだから」
福松「ああ、カエルで結構。こんな働くカエルがありますか」
常子「イヤなカエル。ブクブクしちゃって」
福松「こら! なんだ、自分の亭主つかまえて」
常子「亭主だから言うんですよ。分からず屋ですよ、人の気も知らないで」
和枝が仲裁に入る。常子は2年前から2人分積み立てしてあさってから万博へ行こうと計画していたが、福松は行くのを嫌がる。東京から大阪へ万博見物いくのに5日もかける!? まあ、よく分からないけど1日で回れないか。
和枝は兄さんと行ったらいいと言い、常子もノリノリ。修一に言いに行くといそいそ出かけていく常子にイライラ。
正三「旦那、振られましたね」
柏餅をつかんでこぶしを振り上げた福松「うるさい! 熱っ…」(つづく)
前回に引き続き、福松の変顔で終わるのが面白い。
ムカつきキャラの鈴木だけど、昔から、人をムカつかせる言葉って変わらないんだね~と変な感心もしてしまう。今だって普通にいそうだしね。ただ、今の時代だと直也もまた同じようなムカつきキャラなのにこっちは評価されてるのは分からない。