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【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #17

TBS  1968年5月7日

 

あらすじ

愛子と正子を引き連れて、三保の松原を見物に行く亀次郎。あいにく春がすみで富士山は見えなかったが、この日ばかりはさすがの亀次郎も終始ニコニコ、すっかり童心に返っていた。さらに、子どもたちにと名物を買う愛子を見て、母親としての心遣いに感心する。

2023.8.3 BS松竹東急録画。12話からカラー。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。2月5日で61歳。

妻・愛子:風見章子…5月で56歳。

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。3月3日で30歳。独身。

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。28歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。26歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して大学生。

次女・幸子:高梨木聖…女子大生。1月の成人式に出席。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…4月から高校生。

*

正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。58歳。

*

お手伝いさん

初子:新田勝江…亀次郎と同じ誕生日2/5で30歳。

お敏:菅井きん…愛子の4つ下。6月で52歳。

*

田村:曾我廼家一二三…運転手。

*

水原トシ:西尾三枝子…幸子の友人。

杉本:池田二三夫…敬四郎の友人。

 

出来たての東名高速を走る一台の車。

箱根八里

箱根八里

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字幕に♪「箱根八里」と曲名が出ていた。ノリのいいアレンジ。

 

箱根の山を見せようとちょっとしたスペースにいったん車を止める。後部座席の亀次郎の肩にもたれて眠っていた愛子は「少しくらい景色を見たらどうなんだ」と亀次郎に起こされた。助手席の正子もまた田村に起こされていた。

亀次郎「寝に来たんだか見物に来たんだか分かりゃしない」

 

今回のこの後部座席に並ぶ亀次郎と愛子がDVDのジャケットに使われてる写真だね。

↑小さいけど。

 

愛子「うとうとしてるのも保養なんですよ」

正子「ああ、いい気持ちだった。それはそうとお手洗いないかしら」

亀次郎は「目が開いたと思ったら便所なんだから」とあきれて、田村に車を出すように言う。便所、お便所、お手洗い、ご不浄…言い方がいろいろあるのに、愛子が便所と言った回が今更ながら不思議。

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展望台のあるところで降りた正子はすぐにトイレに向かう。田村は車を降りて毛ばたきで車を掃除する。

こういう感じの昔はよく見た気がする。

 

愛子「先が思いやられますよ。三保の松原はまだ遠いんでしょう」

亀次郎「ヘヘッ、まあ、そう言うなよ。お前としゃべり合ってんのは楽しいんだよ」

愛子「楽しくなんかありませんよ。おっかなくって」

亀次郎「おっかない? このわしがか」

愛子「子供たちに聞いてごらんなさいよ」

亀次郎「見当違いだよ」

田村に聞くも、「さあどうでしょう」

 

車が走る映像に「富士の山」が流れる。

ふじの山 (富士山)

ふじの山 (富士山)

  • NHK東京児童合唱団
  • チルドレン・ミュージック
  • ¥255
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↑こういうちゃんとした合唱団じゃなく普通の未就学児が歌ってるような歌声。

亀次郎たちが乗ってるのは「President」だと思います。車体の文字が映るようにテレビカメラ前で止まってた。↑こんな感じの。車から降りた田村はカメラを構えて亀次郎、愛子の2ショットを撮る。そこに無理やり入る正子。

 

♪「茶摘」

茶摘

茶摘

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茶摘みしている人たちのすぐわきを通り抜ける日産プレジデント。

 

まだ建設途中の道路。

亀次郎「あの道路が出来たら道だけは日本も一流国だよ」

田村「道だけですか?」

愛子「他の道はどこへ通じてるんだか危ないもんですね」

亀次郎「自分で働いてきたわしにはよく分かるよ。汚職、賄賂、闇取引。文明国が聞いてあきれるよ」

田村「そうですよね。まるででこぼこ道を先へ進んでるんだか、あとへ戻ってるんだか国民には分かりませんもんね」

亀次郎「分からんようじゃ無知ですよ」

田村「はあ」

愛子「しっかりしなきゃダメですね」

 

亀次郎「そう思ったらもうちょっとパッチリと目を開いてなさい。なんだ、お前ときたらせっかく連れてきてやったのにぐうすかぐうすか寝てばっかりいて」

愛子「それはおばちゃんですよ」

亀次郎「おばちゃんは便所ですよ。なんだありゃ。止まるたんびに便所へ駆け込みやがって。それも長いんだから」

愛子「用心してるんですよ」

ちょっと長いな…と田村に探しに行くように言う亀次郎。トイレのあるところで止まってたんじゃなくて、用を足せそうなところに止まってたのかな!? この時代はそんなに公衆トイレとかないか。

 

三保の松原

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観光地化された場所で顔はめパネルは1回10円。10円入れてやるから田村撮りなさいと亀次郎はお金を渡す。「おばちゃん、あんたも田村と入んなさい」。

 

パネルは漁師と天女、次郎長とお蝶の2パターン。

亀次郎「おばちゃん何見てんだい。あんたは天女って顔じゃないよ」

ただ近くに寄って見てただけなのに~。

 

亀次郎は漁師がいいというが、愛子が嫌がる。

亀次郎「そんなこと言うなったら。ここは三保の松原じゃないか」

愛子「そんならもっと他に撮るところがありますよ」

亀次郎「撮りたいんだよ、ここで」

 

愛子「どうしてこんなところで撮りたいんですか?」

亀次郎「わしはいつも思ってたんだ。天女だよ、お前は」

愛子「開いた口が塞がりませんよ」

ここでコマーシャル。

 

CM明けは次郎長とお蝶の顔ハメパネルで田村と正子の撮影している亀次郎から。

 

不機嫌そうな愛子が天女、亀次郎は漁師の顔ハメパネルから顔を出し、田村が撮影。このパネルかなり大きくて、天女は高い位置にあるから後ろに台とかあるんだろうな。そうじゃなきゃ絶対女性が普通に立って撮影できる高さじゃない。パネルに寄って愛子に話しかけた正子が見上げてる。

 

正子「笑ったほうがいいわよ、愛子さん」

愛子「笑えるもんですか、冗談じゃない」

亀次郎「愛子さんや、あなたは私の天女よ、ハハハッ」←臆面もなくこういうことを言えるのが亀次郎のいいところ。

 

羽衣の松

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砂浜を歩いている亀次郎たち。田村は今のデジカメ感覚でバンバンシャッター切ってるのがすごい。何本フィルム持ってきた!?

 

愛子「あんな写真さえ撮らなきゃもっといいんですよ」

亀次郎「そうじゃないんだよ。まだまだお前は苦労が足りんよ」

愛子「どうして足りないんですか?」

亀次郎「ああいう写真だってあとから見ればいい思い出だよ」

正子「そうよ、愛子さん」

愛子「いいもんですか、冷や汗が出ますよ」

 

亀次郎「だからお前は苦労が足りんというんだよ。考えてもみなさい。わしたちが食うや食わずにいたとき、とてもあんなのんきな写真撮る気にもなんなかったじゃないか」

愛子「そりゃそうですよ。箱根の遊覧船も乗れなかったんですもの」

正子「そうよ、愛子さん」

亀次郎「わしはこうやって贅沢旅行をしているとつくづくいい気持ちになるんだ。よくもよくも偉くなったもんさ」

正子「そうですよ、亀次郎さん」

亀次郎「ああ、いい気持ちだ。苦労の果ての今日のこの楽しさ。フフッ」

 

まあ、なんて楽しいんでしょうと砂浜をかけだす正子を見た亀次郎は「お前だって、おばちゃんみたいに無邪気になんなさいよ。こんなとこへ来て気取ったって始まるか」と言うが、愛子は「気取ってなんかいませんよ」と歩き出す。田村が正面に回って愛子を撮影。

 

しかし、砂浜はゴミだらけ。

亀次郎「全くなっちゃいないよ、日本人ってやつは」

 

亀次郎は田村や愛子にもゴミを拾うように言い、穴を掘って紙くずを燃やすという。スーツのまま、砂浜に座り込んだ亀次郎は手で穴を掘り始める。

正子「紙くず拾ってどうすんですか?」

亀次郎「人間のくずには分かりませんよ。早く拾ってきなさい」←酷い…と言いつつ笑っちゃう。

 

亀次郎は田村の拾ってきた板切れで穴を掘り、愛子や正子はゴミ拾い。

亀次郎「文化国家が聞いてあきれら。見せかけばかり派手になりやがって」

田村「政治の貧困ですね」

亀次郎「腐ってんだよ、精神が」

田村「そうです」

 

修学旅行中と思われる女子中学生?の集団が亀次郎に「おじさん、何掘ってんの?」と話しかけてきた。

亀次郎「日本を掘ってるんですよ」

田村「そう!」

女子中学生たちは去っていき、愛子や正子がゴミを持ってくる。

 

広間

幸子「日本はどうなっていくのかしら」

敬四郎「さあね、政治家がうまくやってくれるだろう」

トシ「うまくやってくれるのかしら」

敬四郎「多分そうじゃないの?」

幸子「無責任なこと言うわね」

 

敬四郎「だってだれが責任持てんのさ? 誰もいやしないよ、責任持てる人なんか」

杉本「それじゃ困るんだよ、誰かがちゃんと責任を持って政治をしてくれなきゃ」

幸子「誰かがじゃないと思うわ」

トシ「私たちにだって責任はあると思うの」

敬四郎「へえ、そうかな?」

杉本「そりゃあるさ」

 

敬四郎「どうしてあるんだ? そんならどうして日本の物価はどんどん上がっていくんでしょうかね。どうして平和憲法があるのに軍隊が出来ちゃったんでしょうかね。もう何年になるんですか。自衛隊が出来てから」

杉本「独立国が軍備を持つのは当たり前だと言うけどね」

敬四郎「ハッ、戦争したくない軍隊だから恐れ入っちゃうよ。どうせ軍備を持つんならね、ジャンジャン戦争する気になったらいいじゃないか」

トシ「日本の平和を守るためには必要だって言うのよ」

 

洋二「中途半端なんだよ、日本の立場は。守るための軍備と言ったって、そんなもの原爆も持たないで守れるわけがないんだ」

幸子「原爆は否定しているものね」

杉本「だからアメリカにすがってるんでしょ?」

敬四郎「じゃあアメリカと対等じゃないじゃないか、永久に」

幸子「人間ってやあね、何度戦争で懲りても、まだ残忍性はなくならないんだから」

杉本「平和なんてあるのかな、世界の平和なんて」

敬四郎「夢だよ、だから理想って言うんだよ。実現しないことを」

 

すっごい真面目な議論。「原爆」なんて普通の会話で出てきてドキッとする。敬四郎は三郎寄りかと思ったら幸子寄りだった。杉本も思ったより真面目な青年だった。

 

トシ「ねえ、お兄さん。さっきの歌、もう一度歌いましょうか」

幸子「そうね、兄さんの作った歌の中では傑作だわ」

敬四郎「ちょっとジョーン・バエズだけどな」

洋二「じゃ、世界の平和を祈ってね」

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ジョーン・バエズって聞いたことあるような気がしたら、昭和45年になった「芋たこなんきん」でも出てきたのね。

We Shall Overcome

We Shall Overcome

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ご飯の用意ができたと呼びに来た初子に「あっ、君も一緒に歌っていきなよ、少しは利口になるよ」と言う敬四郎。失礼だなー!

初子「まあ失礼な。早く来てくださいよ」←ちゃんと言い返していていい!

 

洋二がピアノ、敬四郎がギターを弾く。

♪黒い黒い空の涙が

僕の大地をぬらす

いつの日にか 

しあわせの日が くるように

黒い黒い空の涙が

僕の大地をぬらす

 

旅館で愛子にマッサージされている亀次郎。若い頃の愛子は天女みたいだったと言うが、今は年を取ったとも言う。

愛子「あなたで苦労したからですよ。なんですか、自分ばっかり年を取らないような顔して」

悔しかったら足を揉みなってなんじゃそら! 

 

亀次郎と愛子が着ている旅館の寝巻きは英字が並んでいておしゃれ。

 

紙くず拾いで疲れたという亀次郎に紙くずを拾ったのは私とおばちゃんで亀次郎は穴の前で座っていただけと言う愛子。おばちゃんはしょぼしょぼしていた。

 

亀次郎「あの人はまだ苦労が足りないんです」

亀次郎の死んだ兄の話によれば、気が利かなくてのんきで人には口うるさくて、しょっちゅう近所と揉めていたらしい。

 

悪妻の見本で食い意地ばかり張って、兄貴のほうがやせ細って死んじゃったと言う亀次郎。甘いものを食べすぎたのもおばちゃんのせい。甘いものも酒も買ってくる。気のいいほうが先に逝ってしまう。糖尿病だったのかな?

 

別の部屋では正子が田村に酒を勧めていた。あんたの部屋はどこなのさ?と正子が言うから、ここは正子の部屋なのね。昔は羊羹で酒を飲んでいたと言う。しかし今は寂しくて心細くて泣きたくなる。

 

正子「紙くずまで拾うんですからね。死んだ主人が草葉の陰で泣いてますよ。一太郎さんはほんとに優しいいい人だったんですからね」

田村は次郎長とお蝶になったんですからと励ます。そして、田村は社長の顔はよかった、奥さん(正子)がお蝶で私が次郎長だとツボに入り一人で笑い転げ、アゴが外れた。

 

亀次郎たちの部屋

今度は亀次郎が愛子をマッサージしている。「三保の松原ですよ。漁師の気持ちだよ」という亀次郎。こんなとこひとには見せられんよと話しているところに来たのが仲居さん。キャストクレジットにあった脇山邦子さんかな?

 

お連れ様が階段から落ちたという知らせ。階段から落ちたのはおばちゃん。

 

帰りもまた正子のトイレ休憩。田村がアゴが外れた理由は、酔っぱらいすぎていて本人も覚えていない。

 

亀次郎「うちへ帰ってくりゃ、これがまたわけの分からん子供ばっかりだし」

愛子「分かってますよ、私には。みんなよく出来てますよ」

亀次郎「ヘッ、あれでよく出来てるんなら、お前は長生きするよ」

愛子「ええ、しますよ。長生きしなきゃ損ですからね」

亀次郎「気楽なもんだ。親バカの見本なんだから」

愛子「出来てないのはお父さんだけですよ。うちじゅうで」

亀次郎「おあいにくさまだよ。こんないいパパが世間のどこにいるんだ」

 

愛子「そう思ったら今日はうちへ帰っても機嫌よくしていてくださいよ。こどもの日ですからね」

 

昭和43(1968)年5月5日は日曜日。

 

そんな日は知らないと言う亀次郎に今日は三隣亡で今日から夏に入るという愛子。その上、あなたの日は9月の第3日曜日だと言う。年寄りの日。

 

昭和43(1968)年の第3日曜日は9月15日だね。しかし、wiki見ると昔は固定で9月15日で2003年から第3日曜日になったと書いてある…って、昭和43年も偶然、第3日曜日が15日だったってだけか。1966年から敬老の日でそれ以前までは「老人の日」もっと前は「としよりの日」。

 

鶴家到着。

亀次郎「隣のこいのぼりはいつ見ても色が悪いな」

愛子「もう3年目ですからね」

あんなおふくろの子じゃろくなもんにならんだろうと悪態をつく亀次郎をたしなめる愛子。

 

初子とお敏が出迎える。子供たちは全員出かけている。玄関から入った亀次郎は服を脱いでいき、お敏が拾う。武男は公園から多摩川園へ人を捜している。洋二は幸子の友達と出かけている。

亀次郎「あの全学連か」

お敏「はい」

愛子「全学連かどうか分かりませんよ」

 

秋子は神尾とデート。三郎も女友達と出かけた。

 

亀次郎「幸子も異性と出かけたのか?」

お敏「はい、多分、全学連の…」

亀次郎「あのバカが」

愛子「全学連かどうか分かりませんよ」

全学連=やばい集団って感じなのかな?

 

敬四郎は同性と出かけたと聞くと「じゃあ、あのバカだ」と杉本の事? かおるは英語の先生のうちへ。

 

スーツを脱いでラクダの上下姿になったのに愛子に浴衣を着せてもらい、今日から夏だとたんすの上から団扇を取り出しあおぐ亀次郎。(つづく)

 

亀次郎たちのコメディっぷり、若者たちの真面目な議論どれも面白いんだよなあ。しかし、洋二はあの中に入ると一世代違うよな。洋二は戦中生まれ、あとは戦後生まれで二十歳前後の若者だもんね。武男、秋子、三郎、かおるの出番はなし。武男、秋子役の2人は当時もう売れっ子であんまり出番がないのかな。