公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)は、吉宗まで訪ねてきたのぼる(有安多佳子)に民放ラジオの件を詳しく聞く。のぼるは、まだ生まれて日が浅い民放ラジオでは、元NHKのアナウンサーで、所帯を持った味わいのある自分たちを活用してくれるチャンスがある、自分の番組が持てるラストチャンスだという。しかし宗俊(津川雅彦)やトシ江(宮本信子)は大反対。正道(鹿賀丈史)に相談すると、君が勉強するのは大賛成と、応援してくれるのだが…。
従軍記者で朝鮮戦線に行っていたジョーも東京へ戻って、のぼるたちの別居生活も解消されておりました。
吉宗
のぼる「こんにちは」
トシ江「あっ、まあ、こんにちは。ちょいと失礼します。まあまあ、花子ちゃんのまあ大きくなったこと」
花子「うん」
のぼる「『うん』じゃなくて『はい』でしょう」
花子「はい」
トシ江「まあ、お利口さんね」
のぼる「昨日は長電話でどうもすいませんでした」
トシ江「いいえ。元子、何か朝から張り切ってるみたいで。さあさあ、どうぞどうぞ」
のぼる「じゃ、ちょっと失礼します」
トシ江「えぇえぇ、さあさあ、どうぞ。失礼しました。そうですねえ…」
大きくなったと言われていた花子だけど、演じていたのは3年前と同じ神田亜矢子さん。3歳にしちゃ大きいと思ったけど、やはりそのまま数年分演じさせるパターンか。
大原家
元子「はい、どうぞ」お茶を出す。
のぼる「どうもありがとう」
元子「ねえ、昨日の話なんだけど、もう少し詳しく話してくれない?」
のぼる「まあ、そう慌てなさんなって」←この言い回し、懐かしい。
元子「何よ、寝た子を起こしといて」
のぼる「じゃ、ガンコ、その気になってくれたのね」
元子「う…うん。詳しいことがまだよく分かんないから何とも言えないんだけど」
のぼる「ほらほら、慎重居士なんだから」
元子「でも、子供はいるし、何もかも昔とは事情が違うでしょう」
のぼる「だからね、それを逆手にとるのよ」
元子「逆手に?」
今日ののぼると元子は”ぎゃくて”と言ってました。今は”さかて”の方がメジャーな読み方になったので、ちょっと違和感ありました。
のぼる「和代、覚えてるでしょう?」
元子「うん、あの掛け算でしょ? 小栗和代さん」
恭子と同じ横浜出身の小栗和代さん。
戦時中も一緒に働いて、あの騒動で一緒に辞めて…だけど”掛け算”と呼ばれたことはなかったと思う。
のぼる「彼女、東日本ラジオに採用されたんだけど、あの人のアナウンス聞いた?」
元子「聞いた聞いた。彼女の声、聞いてると何かもう懐かしくなっちゃって、つい『頑張って』なんて声かけちゃうんだけど…。ブランクあるのに結構やってるわね」
のぼる「でしょう。だから昨日も言ったように、もう一度マイクに復帰したいっていう気持ちがあるんなら、これがラストチャンスだって私、思うの」
元子「ええ…」
のぼる「だからね、このところブルースや掛け算のアナウンス気を付けて聞いてるとね、やっぱり深みがあるのよね。新人アナウンサーと違うなって思うのは2人とも結婚して子供を持って、おんなじ婦人問題をやるにしても、とっても身近な感じがするし、説得力があるのよね」
元子「それ、私も感じる」
のぼる「それで、私と彼女たちのアナウンスとどこが違うんだろうって分析してみたのよ」
元子「何言ってるのよ。たとえ契約でも六根はず~っとNHKで働いてたんですもの。ず~っと奥様稼業の私とでは全然違うはずよ」
のぼる「とんでもない。大違いよ」
元子「そんなことないわよ」
のぼる「駄目駄目。本気でそんなこと思ってるんだとしたら、ガンコの目っていうか耳は相当鈍ってるわよ」
元子「あら、冗談じゃないわ」
のぼる「NHKの仕事っていったって所詮、助っ人ですもの。その私と、はっきり自分の番組を持ってるブルースや掛け算との違いなの。東洋ラジオにしても会ってくれるっていうのは、私たちが元NHKのアナウンサーだったってことと、やっぱり所帯を持ったことのあるブルースタイプのアナウンサーを必要としてるんじゃないかなって、私、考えたの」
元子「ええ」
のぼる「としたらよ、何と言ったって東洋ラジオは生まれてまだ日が浅いんだし、途中採用にしても私たちを活用してくれるチャンスは、まだあるって、私、見てるの」
元子「ええ」
のぼる「ということは、とりもなおさず私たち中途半端組にとって自分の番組が持てるっていう願ってもないラストチャンスですよ」
元子「そう言われれば確かにそうね」
のぼる「でしょう。だから私、思い切って東洋ラジオの制作局長に手紙出したの」
元子「手紙を? 直接?」
のぼる「そうよ。チャンスなんてものは待ってるだけで向こうからやって来るもんじゃないわ。そうしたいって思うんなら、私にはそういう気持ちがありますって向こうに伝えなければ向こうだって分かってもらえないじゃないの」
元子「うん」
のぼる「そしたらね、とにかく会いましょうって言ってきたのよ。ほら、ご覧なさいな」
元子「え!? すごいわ。やったわね、六根!」
のぼる「戦争だったにしても私たちには男性と同等に働いたっていう経験があるのよ。これを埋もれさせる手はないわよ、ガンコ」
元子「確かに」
のぼる「会った上で採用するしないは向こうの判断だけど、まるっきり新人じゃないんですもの体当たりでぶつかっていけばやっていけるってば」
元子「そうよねえ…そうだわよね」
のぼる「そうよ。花子ももう来年小学校だし、母が見てくれるって言ってくれてるの。ジョーも大賛成だし。ねえ、あなたも大介ちゃんのこと、おばあちゃまに頼んでみたら?」
元子「うん」
のぼるの熱弁は眠っていた元子の情熱を激しく揺り動かしました。
さすがの行動力だな~。
引退すると言っていた恭子も復帰している模様。NHKで初の産休を取ったママさんなのに、サラッと流すのがもったいない。
桂木家茶の間
トシ江「私は御免だね」
元子「お母さん」
トシ江「孫の面倒を見るのが嫌だって言ってるんじゃないのよ。けど、あんたの話を聞いてると、いわば好きでやる仕事だろ? そういう仕事に私が力を貸さなきゃならない、いわれはないと思うんだけどね」
元子「そういう言い方ってないと思うわ」
トシ江「まあ、ちょいとお聞きよ。暮らし向きの方は正道さんの方で成り立ってんだろ?」
元子「はい」
トシ江「だったら安直に私を当てになんかしないでよ。私だって、この吉宗の帳場と台所を預かってるんだし、まだまだ楽隠居できるような身分じゃないんだよ。ねえ、元子、お前、好きな仕事をするならね、なおのこと方策ってものを考えなきゃいけないんじゃないの。まあそりゃあね、そのお金でいくらもらえるのか知らないけど、まあ、お手伝いさんでも何でも雇って大介や正道さんの面倒を見てもらうぐらいのことは考えてほしいわね。そりゃあね、かわいい孫や正道さんのためだもん。お手伝いさんがいたって、私は知らんぷりはできないけど、でも、はなからおんぶにだっこで当てにされることだけは真っ平御免だよ。第一、そんな考えじゃ満足に好きな仕事もできないんじゃないの」
思いがけない母の言葉でしたが、それはかえって元子の決意をはっきりさせるものでした。
元子「よく分かりました」
トシ江「それにね、まずこういう大事なことはね、正道さんに相談すべきだったんじゃないの? 何たって夫婦なんだしさ、一番不自由な思いをするのは旦那様なんだよ」
元子「はい」
トシ江「ね」
茶の間に入ってきた宗俊。「元子、俺ぁ反対だな」
元子「お父さん」
宗俊「おめえ、正道っつぁんの働きに何の不足があるんだ?」
元子「別に何の不足なんかないわ」
宗俊「不足がねえんなら大介をほっぽらかして外に働きに出るこたぁねえんだ。どうしてもってんなら、正道っつぁんの代わりに俺が離縁してやる」
トシ江「あんた、なにも…元子、そんなつもりで言ってんじゃないんですから」
宗俊「おめえが元子の肩持つことはねえんだ。いいか、元子。おめえがアナウンサーになった時はな、あれは戦争で男がみんないなかったから、だから、俺は許可をしたんだ。女はな、ど~んと腰を据えて亭主に後顧の憂いなく仕事をさせるのが、おめえの務めじゃないか! そうだろ! おめえ、もう28だぞ。跳ねっ返りも大概(てえげえ)にしやがれ!」
元子「ちょっ…」
宗俊「何だ」
トシ江「あ…ねっ、そんならそういうことでさ、ほら、大介、一人(しとり)で寝てんだろ」
元子「はい、それじゃあ」
トシ江「そうだね」
元子、部屋を出て行く。
宗俊「チッ。え、まだ、女房としても半ちくなくせしやがってよ、あっちこっち、おめえ、脇目をするんじゃねえって言ってやれ」
トシ江「そりゃ、よく言っておきますけどさ、けどまあ、ああ頭ごなしじゃかえって逆効果なんじゃないんですか」
宗俊「だから、おめえ、あとの手当てはおめえに頼んでるんじゃねえか」
トシ江「本当にまあ、誰に似たのか知らないけど元子も気が多いから」
宗俊「バカ野郎。俺はな、なにもぬかみそ臭い女になれと言ってんじゃねえんだ。けどな、六根さんとは訳が違ぁな。お前、人形町で生まれて人形町で育った女は人形町の女として通用するように、お前、女を磨くのが一等なんだ」
トシ江「そりゃあね、亭主の尻の始末ができるようになれば一等なんですけどね。けどまあ、正道さんはそういうね、悪い癖は持ってないようですしね」
宗俊「ヘッ、ほんでもな、女の磨きがいがあってよかったな。ハハハハハハハ…」
トシ江「まあ」
いいねえ~、ベテラン夫婦の会話。
大原家
正道「それで?」
元子「ううん、別にそれ以上のことはないんだけど」
正道「でも、よく話を聞いてやってくれって、お義母(かあ)さんに言われたよ」
元子「何よ、お母さんだって、大介の面倒は真っ平だって言ったくせに」
正道「しかし、お金だけっていうんだったら僕は反対だな」
元子「そりゃ私だって、お母さんの言うことは正論だと思ってますよ」
正道「ふ~ん。だったら探してごらんよ、お手伝いさん」
元子「あなた…」
正道「といっても、人間、お金で働くのが一番なんだけれども、とにかく元子は六根の話に心が動いたんだから」
元子「ええ。全く自分でも不思議なくらいに」
正道「だったらできるだけやってごらん」
元子「いいんですか?」
正道「うん。それでもしどうしても働きに出る条件がそろわなかった時に諦めたって遅くはないんだし。とにかくそれだけ心が動いた元子が何にもしないで諦めるっていうのは僕だって嫌だからね」
元子「すいません」
正道「でも、やるならちゃんとした仕事をやってほしいな」
元子「でもね、私、必ずしももう一度アナウンサーになりたいって考えてるわけではないみたいなの」
正道「うん? それはどういうことだい?」
元子「多分、六根が『母親だからできるアナウンスがあるはずだ』って言った言葉に、私の気持ちが動いたんじゃないかと思うのよ」
正道「ふ~ん」
元子「ブランクはあるし、あなたや大介を完全におっぽり出してまで一流のアナウンサーになりたいなんていう野心は私にはないのよ」
正道「ああ」
元子「あなたのお仕事を手伝いながらね、私はやっぱりたとえ雑文でも何か書くことが好きなのね。大介だっていつかは大きくなるんだし、その時は何かやってみたいなって、そう思ってるのよ」
正道「僕はね、元子が勉強するのは大賛成なんだよ」
元子「ありがとう。でもね…私はやっぱり世間が狭いわ」
正道「それはしかたないさ」
元子「だからってこのままでは全然環境は変わらないし、世間を見るっていうためにも、いろいろな人(しと)に出会ってみたいなって、そう思ったの。だから純粋にもう一度マイクの前に立って、自分の番組を持ちたいっていう六根とは少し違ってるように自分でも思うんだけれど」
正道「まあ、元子が言うようにね、もし、ものを書きたいんだったら見聞を広げて、いろんな人たちに出会って蓄積されたものが作品になるんだろうし、まあ、そういう意味ではね、お金目当てだけじゃなくて、はっきりとした目的を持つことになるんだから外の空気を吸うのは決して悪いことじゃないと思うよ」
元子「私、もう少し考えてみます」
正道「うん、そうしてごらん」
元子「あの…でも誤解しないでくださいね。私、決して現状に満足してないわけじゃないんですから」
正道「おい、こんなかわいい息子がいるのに満足してないなんて言われたら、それ、僕はどうしていいか分かんなくなるよ」
元子「本当…。やっぱりぜいたくなのかしら、私は」
正道「さあ」
元子「冷たい人」
正道「だって今、自分で考えてみるって言ったばかりじゃないか」
元子「それはそうだけど…」
吉宗前
水まきをしている後ろ姿のトシ江が年とったな~。まだ40代くらいと思うけどなあ。
電報配達夫「大原さん! 大原正道さん、こちらですね!」
トシ江「あの大原でしたら、このうちの裏なんですけど」
電報配達夫「あっ、そうですか。電報なんですけど」
トシ江「電報!?」
電報配達夫「はい、大原正道さんに」
電報配達夫…三川雄三さん。wikiを見ると、「おしん」「けものみち」など。こういう脇の人ほとんどといっていいほど「おしん」に出てる。メジャーなドラマだからたった1シーンでも出演歴に載せてる人が多いということかも。
電報の中身
チチキトクスグ カエレ ハハ
大原家
元子「チチ キトク スグ カエレ ハハ」
トシ江「元子」
元子「すいません、ちょっと大介見ててください。私、電話してきます」
彦造「どうしました?」
トシ江「松江のおとうさんね、危篤なんだって」
彦造「えっ!」
トシ江「時間、時間ね。汽車の時間、調べなくちゃ。ねえ、彦さん、大介頼んだわよ!」
彦造「へい!」
家の中から顔を出す大介。黒半ズボンに黒タイツ。
大介…橘慎之介さん。晴天と同じく1981年の大河ドラマ「おんな太閤記」では羽柴秀勝役をやってたらしい。
吉宗
トシ江「あっ、正道さん!」
正道「お義母さん」
トシ江「心配だろうけど気ぃしっかり持ってね」
正道「はい」
トシ江「一番の列車に間に合うように元子が今、支度してますから、うちの中にいますよ。ねっ」
正道「はい。ただいま戻りました」
桂木家茶の間
巳代子にズボンをはかせてもらっている大介。
元子「あなた、これ…」
電報を見て驚く正道。
つづく
大原さんはこの時代の人にしたら超絶優しいと思う。90年代に昼ドラになった「ぽっかぽか」を10年くらい前、CSのTBSチャンネルでやってて懐かしさにずっとシリーズを見ていたことがあるんだけど、麻美の夫の慶彦さんは子煩悩で優しい人だけど、麻美が仕事したいと言った時は、お金のために仕事してほしくないと結構怒ってたのが意外だった。俺の稼ぎが足りないのか的怒りだったみたいだけど、バブルがはじけた94年あたりで、この時代でもそうなのに、1950年代でこの考えはすごい。
私自身は独身子なしですが、ほかのきょうだいが当日になって突然、母に子供を預かってと言っているのを何度も見ていると複雑な気持ちになります。母は子供が嫌いなわけではないけど、多趣味な人で前々からやりたいことをいろいろ考えている人です。暇なわけじゃないです。孫の面倒が見られることが幸せと感じる人がいるのも分かりますが、あまりそれにつけ込むようなやり方はよくないと思います。
朝ドラだと結局、実母に預けるという解決法ばかりなのが不満なのです。毎日面白く見ていた「芋たこなんきん」もかなり先進的だと思っていたけど、働く女性(町子や晴子)が仕事を続けたいという解決策が毎度、おばあちゃんに面倒を見てもらう、だったのが、う~ん…。
町子の再婚前、イシさんは5人の子供の面倒+家事+診療所の受付だったんだよ。一方で町子や晴子は高齢になっても仕事を続けてる。で、孫の面倒を見るのか?と言われれば全然そんなことなさそうな忙しさだったし。
だから、今日のトシ江のようにきっぱりと言えるのっていいなと思ったし、お手伝いさんを雇うというのも一つの方法だけど、これは全然今の世でも浸透しないね。今は今で家計のために働くのでお手伝いさん雇う余裕もないということになるのか。だからっておばあさんにタダ働きさせるのぉ!? 母より祖母寄りの年齢になってくるとそこんところが納得いかない。