徒然好きなもの

ドラマの感想など

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(39)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

ラジオで英会話の放送が始まると聞き、元子(原日出子)たちは向学心を燃やしだす。しかし桂木家では、宗俊(津川雅彦)と彦造(森三平太)が米を買い出しに行くと出ていったのに、汽車が混んでいたからやめた、となさけなく帰って来てトシ江(宮本信子)とキン(菅井きん)に呆れられる。そして、元子と言い合いになった沢野(森田順平)が、戦争が終わって女子放送員の役目は済んだのだから、さっさと辞めるべきと言い出して…。

放送員室

元子「おはようございます!」

川西「おはよう」

 

恭子「ねえねえ、近々、英会話の放送が始まるんですって」

元子「英会話?」

恭子「うん」

のぼる「この前、近藤さんのペラペラにはぼう然としたけど、私たちも勉強しなくっちゃ」

恭子「私もね、英文法は女子大でも自信があった方なの。だけど、あの時ばかりは自分の英語に全く自信をなくしたもの」

元子「私だってそうよ。廊下であちらさんに会うたんびに何か聞かれたら何て答えようかって、それだけでドキドキだもの」

のぼる「わたしもよ。情けなくて嫌になっちゃう」

 

川西「大丈夫大丈夫。子供たち見てごらんよ。『ハロー ハロー ギブ ミー ギブ ミー』の連発で何となく通じてるみたいじゃないか」

のぼる「でも私、機会があれば本格的に勉強したいんです」

川西「うん、だったら怖がらずに思い切って話しかけることだな。基礎はある程度勉強してるんだから何か言ってるうちにいろいろと結び付いてくるんじゃないのかい」

元子「そうですね」

川西「しかし、まあ英語だけじゃなくてこれからは本職の方も大変だよ。今までの雄たけび調は通用しないからね。もう一度しっかり話術を身につけ直さなくっちゃ」

 

恭子「それからいろいろな分野の番組が始まるとか聞きましたけれど、本当ですか?」

川西「ああ。しかし、それもみんなあちらさんの指導によるものだからね。我々にもどうもよく分からんな」

元子「でも、連合軍の占領政策は日本の非軍事化と民主化にあると言っていますから、私、戦争中の罪滅ぼしのためにも大いに頑張りたいと思っています」

 

沢野「罪滅ぼしと言うけどね、我々だって上からの命令でやらされていたんだ」

元子「別にそういう意味で言ったんじゃ…」

沢野、ツーンと無視。

川西「まあまあまあ、お互いに勉強することはいいことじゃないか。ね」

元子「はい」

 

悦子「おはようございます」

一同「おはよう」

 

喜美代「見て! 今、新橋の駅前で本を売ってる人がいたからお財布はたいて買ってきちゃった」

悦子「わぁ、『シェークスピア全集』じゃないの!」

元子「本当! ちょっと見せて。えっ…何て書いてある…何? これ」

 

まだ何がどうなるか分からない社会情勢の中で早くも娘たちの向学の精神は燃え始めたようですが、大の男たちはどうだったでしょうか。

 

吉宗

宗俊「帰(けえ)ったよ」←小声

彦造「ただいまでした」

 

トシ江「お帰りなさい!」

宗俊「わっ、えっ、びっくりした!」

トシ江「何びっくりしてるんですか」

キン「あ! まあ、おかみさん、空(から)ですよ。まあ、偉そうなこと言って2人出てって行かなかったんですよ、きっと」

彦造「何言ってやがる。俺っちは出かけたよ」

キン「だったらどうしてリュックサックが空なんだよ」

 

宗俊「キンキンうるせえばばあだな」

キン「はいはい。私の名前は生まれた時からキンといいますのさ」

宗俊「汽車が混んでたんだよ」

キン「だからどうだってんです?」

彦造「だからおめえ、その…窓から入(へえ)るやつ、連結器に乗るやつ、ほいでまた、もう、けんかおっぱじめるやつ、そら、まあ上野は大変な騒ぎなんだから」

キン「おふざけじゃないよ! 買い出し列車はね戦争中からぎゅうぎゅう詰めって相場が決まってんだよ! 全くまあ」

 

宗俊「なあ、トシ江、おれはもう食わなくていいからさ、あの目ぇ血走らした買い出し列車だけは、どうにも乗る気にならねえんだ」

トシ江「そう。まあ、嫌なら無理にお願いすることありませんけどね」

キン「何言ってんですよ、おかみさん」

トシ江「いいじゃないの。2人の買い出しは初めっから当てにしていなかったんだから」

 

キン「けどさ、今朝2人がたんか切ったのはどうなるんですよ」

宗俊「すまなかった。ありゃ引っ込める。な、江戸っ子がお前グダグダ食いもんのことで言ったのがいけなかったんだ」

キン「変なところへね、江戸っ子持ち出さないでくださいまし」

トシ江「おキンさん」

キン「だっておかみさん、配給は戦争中よりかえって悪くなってるっていうのにさ、やれ、かぼちゃは嫌いだ、豆かすはイキが悪いのって好き勝手な御託を並べといて、あげくの果てにまあ銀メシをはち切れるほど食わせろなんて、まあ、えばって2人が出てってですよ、汽車が混んでたからやめたなんていうんじゃ、まあ情けないじゃありませんか、本当にもう」

宗俊「だからもう二度と文句言わねえっつってるじゃないか」

キン「これでも一家の大将かしら、全く」

 

キンは文句を言いつつ、自分でお茶をいれようとした宗俊から急須を取り上げてお茶をいれ、トシ江は宗俊の顔や体の汗を拭く。

 

彦造「な…何だと! もう一度言ってみやがれ!」

キン「ああ、何度でも言ってやるよ。お前さんたちの食べてる米はね、みんな、このおかみさんがしょってきたもんなんだよ」

トシ江「それはね、順平にひもじい思いをさせたくないからよ」

キン「でも順平ちゃんには、このお人(しと)だって父親なんでしょうが」

宗俊「分かった分かった、もう…はい、このとおりだ、な」←キンに手を合わせる。

キン「鼻っぱしばっかり強くて本当に分かってんのかどうだか」

 

宗俊「だからおめえ、闇市行ってよ、買ってきてやりゃいいだろ、それで」

トシ江「そりゃ駄目よ」

宗俊「何でよ」

トシ江「だって、もうけられるだけだもの」

宗俊「ケチケチするな、お前、米の1升や2升」

トシ江「大丈夫、私が明日行ってきますから」

宗俊「参ったなあ、え。戦争に負けると男の値打ちは台なしだな」

彦造「へえ」

 

トシ江「まあ、台所の方はいいから、これから先のことを考えてくださいよ。まあ、元子もいずれ嫁にやるんだし、いつまでも給料を当てにはできないんですからね」

宗俊「おい、俺がいつ元子の給料を当てにしたってんだい」

キン「現に2人とも仕事にあぶれてんじゃありませんか」

彦造「あ…あぶれてるわけじゃねえよ。その…工場は焼けちまうし、軍需工場は店じまいだしよ」

キン「本当にまあ、ごくつぶしがそろいもそろって。あ~あ」

宗俊「ごく…おい、そりゃねえだろう、おめえ」

トシ江「いいじゃないの。まあ、ボチボチ仕事も来るだろうし、なにも慌てることはありませんよ」

宗俊「はいはい」

 

戦後、女は強くなったというのは、やっぱり本当なんですねえ。

 

いよいよ放送会館にも横文字の看板がかかり、9月22日には総司令部から放送基準いわゆるラジオコードの指令を受けます。これによって番組企画の方針と表現の限界が、より明確になりました。

 

放送会館の下に

RADIO TOKYOという看板が出ている。

 

廊下

元子「えっ、室長と本多先生が?」

恭子「うん、一人ずつ呼ばれて連合軍特別検察局の担当者に調べられているんですって」

元子「朝から姿が見えないと思ったら…知らなかったわ」

恭子「私もなのよ」

元子「で、どういうことになるの?」

恭子「無論、戦犯容疑なんだろうけれど…」

元子「それなら私たちだっておんなじことじゃないの」

恭子「うん。軍事裁判を受けるのかしら」

 

沢野「何をバカなことを言ってるんだね」

元子「はい、でも…」

沢野「勉強したいんだろ、君たちは。くだらん井戸端会議してる暇があったら提出する書類が山とあるんだから、さっさと手伝ったらどうなんだ、え!」

元子「はい、申し訳ありませんでした」

 

二世通訳「(片言で)いけませんねぇ、女性にそういうスピーキング。野蛮です。これからはオール デモクラシーです。我々連合軍は日本の古い封建制オール壊します。もちろん男尊女卑これ絶対にいけません!」

沢野「はい…」

通訳「謝りなさい。ミーの見てる前でユー、この娘さんに謝りなさい」

元子「あの、でもこれはですね…」

通訳「オー ノーノーノ―。かばうこと、自由、平等の精神に反します。ヘイ ユー!」

沢野「アイ アム ソーリー」通訳に指さされて両手を上げた。

 

放送員室

デスクに座り、たばこを灰皿につけてイライラする沢野。

恭子「本当にどうも申し訳ありませんでした」元子もそろって頭を下げる。

沢野「言ったところで分かる相手じゃないから黙ってたけれど、彼らの言う男女同権というのは女子を優遇することじゃないんだからね」

元子「はい」

沢野「そもそも男女同権とは女子も男性と同じに仕事をするということなんだから変な味方が出来たと思っていい気になられたら困る」

恭子「はい、それはもう」

 

村田「しかしいねぇ、何を言ってもアメリカはレディーファーストの国だし、我々も言うことをきかないとクビが危ないかな」

元子「そんなことありません」

沢野「どうして君がそう言明できるのかね」

元子「は?」

沢野「いいかい? 現にこうして村田さんたちが続々と復員してきてるし人が余ってきて、クビ切りにでもなれば、ああいう手合いは女を残せと言うに決まってる。冗談じゃないよ、本当に。戦争が終わって役目は済んだんだから生活に心配のない女の子は、ああいうトラブルが起きる前にさっさと辞めるべきだったんだ」

 

のぼる「それ、本心から言ってらっしゃるんですか」

沢野「ああ、そうだよ」

悦子「あんまりじゃありませんか。戦争は確かに終わりました。でも私たち、焼夷弾や爆弾の降る中で男性と一緒に働いたじゃありませんか」

元子「夜勤、宿直、私たち一度だって嫌だと言ったことありません。それこそ命懸けでこの放送局を守ったつもりです」

のぼる「死ぬ時はマイクと一緒、そう思ったからこそ頑張ってこれたんです。それを今更辞めろだなんて…」

喜美代「お願いです。前言を取り消してください」

 

沢野「まるで徒党を組んだ脅迫だな」

恭子「何ですって!」

沢野「いいかい? 室長たちだって口には出さないけど君たちのそういう態度を苦々しく思ってることを知らんのかね」

元子「じゃあ、室長も私たちが辞めた方がいいと考えていらっしゃる。そういうことなんですか?」

沢野「鈍いなぁ。そのぐらいのこと自分で考えたらどうなんだ」

村田「ちょっ…沢野君」

沢野「いいんです。一度言おうと思ってたことですから」

 

元子「分かりました。では辞めさせていただきましょう」

恭子「ガンコ」

元子「ごめんなさい。でも、私は辞めます。ここまで言われて残るわけにはいかないもの」

沢野「好きにしたらいいだろう」

元子「ええ、好きにさせていただきますとも。何さ、クビが怖かったら実力で女とは違うんだというところを見せつけたらどうなんです? それを女には生活の心配がないからなんて言い方、ふざけるのもいいかげんにしてよ! 立山のぼるさんなんかそもそも女子放送員になる時に、おうちからの仕送りは断たれて既に背水の陣だったんですよ。だからこそ5月の空襲の時にだって沢野さん、あなたと一緒にあの煙の中へ飛び込んでいったんじゃなかったんですか」

悦子「そうよ、そうよ」

元子「それが役目が終わったのに居座ってるだなんて言い方ちゃんちゃらおかしいわ。邪魔者扱いされてまで誰がこんな所に居座るもんですか!」

村田「いや桂木君、ちょっと待ってよ…」

元子「いいえ、室長までがそんなふうに思ってらっしゃったら涙も出ないぐらい悔しいけど私は私なりに私の青春は、あの空襲下にこの放送局と共にあった。そういう実感がありますので思い残すことはありません。辞表は後ほど提出いたしますので失礼いたします」

村田「いや、あのね桂木君…」

のぼるたちも口々に「失礼します」と言って放送員室を出ていった。

 

村田「沢野君…」

沢野「ほっとけばすぐに戻ってきますよ」

村田「いや、しかし…」

沢野「いや、村田さんはご存じないでしょうが、僕は1年近いつきあいだからよく分かってるんです。この辺で活入れとかないと彼女たちの好奇心は人一倍ですからね。あのにやけ2世通訳辺りと仲よくなって図に乗ってくるのは目に見えてるんですから」

村田「そうかねえ…」

 

沢野さん、普通のスーツ姿になったのでますますカンカンになってる。そしてカンカンも生徒に年一ペースで授業ボイコットされてたね。

 

屋上

恭子「ねえ、本当に辞める気なの? ガンコ」

元子「うん、私は辞めます」

悦子「私も辞める」

元子「いいのよ、みんなにはそれぞれの事情があるんだし、私に同調したりしないで残る人は残って。はあ…でも戦争が終わったからもういらないなんて言い方、私には我慢できないわ。それじゃあ黒川先輩は一体何のために死んだのかしら。明治座で発見された時、先輩の腕には『報道』という腕章が巻かれていたっていうこと、あれは一体どういうことだったのか、私はあの人たちを絶対に許せない」

のぼる「分かった。私も辞める」

恭子「六根」

のぼる「許せないと同時に信じられないもの。信じられない人間と一緒に仕事するなんて器用なこと私にはできない」

喜美代「賛成」

 

元子「駄目よ、私はなにもみんなを唆そうと思ってやったんじゃないんだから」

悦子「ううん、私は唆されてなんかいないわ。海外放送もなくなってアナウンサーといっても、このところ私たちの仕事は雑用の方が多いくらいじゃないの」

喜美代「でもこれからは総司令部の指導で新しい仕事が生まれてくるわけでしょう。その時、アルミの録音盤代わりの私たちが果たしてアナウンサーとして通用するのかと思うと私はとても心配だわ」

恭子「でも辞めるならみんな一緒に辞めるべきだわ」

元子「ブルース」

恭子「私にだって自尊心はあるもの。絶対に沢野さんを許せない」

のぼる「じゃあ、こうしない? あと和代たち4人の意見も聞いて彼女らが辞めるって言ったら辞表はまとめて代表が室長にたたきつける」

悦子「賛成」

恭子「私も賛成」

喜美代「賛成」

 

さあ、えらいことになってきました。

 

放送員室

村田「あっ、どうでした?」

本多「いやね、今までのアナウンスの内容を聞かれて、それでジ エンド」

沢野「本当ですか」

立花「うん。オー サンキューって言ってね。みんなに葉巻をほら、1本ずつくれた」

本多「ああ、ハハハハ…」

沢野「じゃあ、戦犯は逃れられたんですね」

川西「うれしいことに拍子抜けだよ。ハハハハ…」

本多「戦犯というのは少しうぬぼれすぎたようだな」

笑い声

 

元子と恭子が放送員室に入って来た。

恭子「室長」

立花「うん?」

恭子「長い間お世話になりました」

辞表の束を室長のデスクの上に置く元子。

立花「何だね? これ」

元子「私たちの辞表です」

立花「辞表!?」

 

つづく

 

ブルーバックの「ただいまの出演者」が流れる。

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

おお~、ナビ番組でも流れたところがついに来た。沢野さん、通訳に何も返せなかった腹いせか!? 全く情けない。最初のあらすじからしても元子が辞めるのは確定だけど、ほかの同期たちはどう描かれるかな。

www.nhk.or.jp

モデルになった近藤富枝さんの同期・武井照子さんのインタビュー。ページ下の全文を見るをクリックすると全文が読めますが、とても読みごたえがあります。今日の辞めることになった出来事も書かれています。

近藤さんより武井さんの方が当時のインタビュー記事も多いんだよね。