公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
ラジオの「のど自慢素人音楽会」が始まり宗俊(津川雅彦)が応募。予選通過はしなかったが、大いに楽しんだ。元子(原日出子)と正道(鹿賀丈史)のアイデアの「吉宗バッグ」は類似品が出まわるほどの評判で大忙しに。正道の初めて作った本が出版され、元子がお祝いのすき焼きを二人きりで食べようと用意していると、正道は藤井(赤塚真人)を連れて帰って来る。調子のいい藤井は、宗俊(津川雅彦)に布地を仕入れてくるという…。
マイクロホンの前に立つ和服の宗俊。
アコーディオン伴奏で「赤城の子守歌」を歌う。
♪泣くなよしよし ねんねしな
山の鴉(からす)が 啼いたとて
それを見守る元子と恭子。
昭和21年1月19日に「のど自慢素人音楽会」がラジオに登場。
最近、NHKのアーカイブでこのドラマに出てくる資料映像を探すのが好き。歌っているおじいさんの脇に立つ男性(司会者?)が「もう結構です」と肩をたたく。鐘を鳴らすよりシビアだ~。
戦後のラジオは多くの番組を通じてマイクを一般に開放しましたが、中でも「のど自慢」は最も成功した一例でした。
「あぐり」でも同じようなネタがあったね~。淳之介の友人・尚久が参加。こちらは昭和21年12月。
こちらは純子の妹・恭子が参加。昭和23年2月ごろ。大阪の予選に行き、予選もラジオ放送していて鐘3つもらったものの、その後お父ちゃんのことでいろいろあり、本選のことはやってなかった…よね。宗俊もラジオ放送はされてたのかな?
モンパリ
宗俊「いやぁ、恭子ちゃん、本当にお世話になりましたねえ。さあ、どうぞどうぞ」
元子「こんばんは」
洋三「はい、いらっしゃい」
絹子「どうでした? 『のど自慢』は」
「のど自慢」というなら洋三叔父さんに出てほしかったね~。中の湯の友男さん、秀美堂の幸之助さんなど歌える人も多いけどさ~。
元子「それがね、ふだんの威勢はどこへやら。コチコチになっちゃうんだもの」
恭子「誰だってそうなのよ」
宗俊「いやぁ、けど気持ちよかったねえ。この俺がよ、マイクロホンの前に立つとはな」
のぼる「で、成績どうだったんですか?」
元子「残念ながら予選でアウト」
宗俊「しかしまあ、何といったってな、第1回の時だって1,000人近(ちけ)え応募があったってんだから、まあ、そううまくいかねえやな。しかし、これはいい番組だな。今度は、しっかり練習して必ず合格してみせっからな」
絹子「まあ、私、兄さんは放送局が嫌いだとばっかり思ってたけど」
宗俊「ハハハハハ、え~、まあ古い話は、やめにしてよ、おい、恭子ちゃんに何か見繕ってやってくれ」
洋三「はいはい、何にする?」
恭子「あっ、じゃあ、コーヒーを」
元子「私も」
洋三「そう。義兄(にい)さんは?」
宗俊「冗談じゃねえやな、え。砂糖入れた茶なんてもん、俺は真っ平だ。おう、水でいい、水で」
絹子「はいはい」
洋三「いやぁ、それにしても放送局も味なことをやりますよね。ラジオと大衆の垣根を一挙に取っ払ったって感じだな」
恭子「ええ、音楽部の三枝さんって方の企画なんですけれど、軍隊にいた時、一番の楽しみが素人演芸会だったんですって。下手は下手なりに面白いし…」
NHK音楽部のプロデューサー三枝嘉雄(健剛)さんというのは、このドラマで音楽を担当している三枝成彰さんのお父さん。へー!
宗俊「へへ、この野郎」
恭子「もちろん上手な方には拍手も集まって、やる方も見る方もあんなに楽しかったことはないって、そうおっしゃっていたんですけれど、今日のテスト風景を見ていて、まさにそのとおりだなってつくづく思いましたわ」
宗俊「てやんでぇ、この野郎。テッ、この…」
笑い声
洋三「しかし、こんな面白いことが始まるんだったらガンコも六根もちょっと辞めるの早まったかな」
元子「あら、私は今だって頑張ってますもの」
のぼる「吉宗(よしそう)バッグすっごい評判じゃない」
元子「おかげさまで」
宗俊「こっちゃあ、お前、柄も何もねえ…染めさせられてよ、えれえ迷惑してるんだい」
絹子「ぜいたく、ぜいたく」
宗俊「チッ」
恭子「で、ご主人の方も?」
元子「そちらの方もおかげさまで着々と」
洋三「まあまあ、一人前の挨拶しちゃってさ」
絹子「本当」
笑い声
元子、かわいい。
実際、ちょっとしたアイデアが受け、おしゃれをしたい年頃の女の子には吉宗バッグは大もて、類似品も出回る騒ぎでしたが、やはり、浅く染めたブルーの美しさが吉宗製品の決め手でした。
吉宗
女学生たちがウインドウに飾ってあるバッグを見て店内へ。今日ミシンを踏んでいるのは百合子さん。
トシ江「百合子さん」
百合子「えっ?」
トシ江「ミシンの調子どうですか?」
百合子「あっ、とっても調子いいのよ」
裏庭
元子「ただいま」
彦造「お帰りなさい。どんなあんばいでした?」
宗俊「え? へへへへへ…」
台所
トシ江「お帰りなさい。お肉ね、蠅帳(はいちょう)に入れといたからね」
元子「どうもすいませんでした」
トシ江「まあ、さんざ恩着せられた上に目の玉飛び出すくらい高いんだもの。とにかく100匁だけは買っといたから。それとサッカリンも一緒にね」
元子「はい」
宗俊「別に合格したわけじゃねえんだから、そんなに豪勢にしてくれなくてもよ、え」
トシ江「何言ってんですよ。お肉は大原さん用ですよ」
宗俊「へっ?」
トシ江「今日はね、本を納めた第1回分の代金を持って帰る日。いわば給料日。だから、まあ、そういう時には、やっぱり旦那様のサービスが第一だからね」
宗俊「何だ」
元子「まあ、そんなこと言わずに来てくださいね。すき焼きにするつもりだから一緒にお鍋つっついて」
宗俊「おっ、そうだな。すき焼きなら、お前、一緒につっつく…」
トシ江「駄目です。そういう時にこそ夫婦水入らずが一番なのよ。元子も余計な気を遣わないで旦那様、大事にしないと落第だよ」
元子「は~い。フッ…そんじゃ」
トシ江「うん」
大原家
すき焼きの準備をする元子。ちゃぶ台の上にあるガスコンロじゃないだろうけど、すごい高い台だな~。
そうです。正道が作った本の第1集が出版され、今日は2人でその誕生を祝う晩だったのです。
正道の出した本のタイトルは「廃品利用の玩具」。本というか小冊子みたいな感じ。
正道「ただいま」
元子「は~い! ちょうどよかった。お帰りなさい…」大原と共に藤井もいた。「いらっしゃいませ。先日はどうも」
藤井「いいえ、とんでもない。いつもいつもお世話になっております」
正道「さあさあ、どうぞ上がってください」
藤井「それじゃ、せっかくですから」
元子「どうぞ…」
藤井「失礼いたします」
正道「さあ、どうぞどうぞ」
元子の心の声「何がせっかくなのよ」
藤井「いやぁ、うまそうだなあ。プ~ンと匂って、その先ですき焼きと分かりましたよ」
元子「そうですか。今日は第1回目の入金の日なんで、いわば、正道さんのお祝いみたいなもんなんですよ」
藤井「おめでとうございます」
正道「ああ、そのことなんだけどね」
元子「はい」
正道「入金はあったんだけども紙の値上がりは甚だしいし、次の仕事の材料確保に払い込んできた」
元子「えっ?」
正道「やっぱり資金は次々回転させないとね、仕事は大きく育たないから。まあ今日は、次の仕事の出発祝いだ」
もうすき焼きを食べ始めている藤井と正道。
もしや我がご亭主、理想と作戦に秀でていても現金への執着心は薄いのではなかろうかと元子は、この時初めて正道のある側面に気付いたのです。
吉宗
女性客「それじゃあ、グリーンでイニシャル入れてくれますか?」
元子「グリーンですね」
そんなわけで正道に事業に専念させるためにも元子の何でも屋は当分、足が洗えそうにもありません。
元子「どうも」
女性客「じゃあ、お願いします」
正道「ただいま」
元子「お帰りなさい。どうしたの、こんな時間に」
正道「いや、お義父(とう)さん、いる?」
元子「ええ、仕事場にいるはずですけど」
正道「生地が見つかったんだ、生地が」
元子「生地?」
正道「ほら、藤井君に頼んどいた生地だよ。あちこち探してくれたらしくてね、ちょうど手拭い用の白生地がまとまって手に入るって、今、電話があったんだよ」
元子「でも、あの…」
茶の間
宗俊「はい、それじゃ、ここには10万ある」
風呂敷から出された10万円の札束!
トシ江「おとうさん、一体、このお金…」
宗俊「いや、この人(しと)から電話もらってな、銀行行ってすぐ下ろしてきたんだ。3時過ぎると明日のことになるらしいな。ああいう品物は明日になるとどうなるか分かんねえからな。じゃ、よろしく頼んだぜ、正道っつぁん」
正道「はい、確かに」
トシ江「あの、くれぐれもお金は品物と引(し)き換えに支払ってくださいね」
宗俊「バカ野郎。お前、ブローカー相手なんだ。仕入れの金を渡してやらねえでどうやって品物を引き取ってこいっていえるんだ」
トシ江「でも…」
宗俊「なに、調子はいいがな、藤井って男は大丈夫(でえじょうぶ)だ。それにお前、この人の友達なんだから、なあ、正道っつぁん」
正道「はい、大丈夫です。自分が責任を持ちます」
トシ江「でもね、用心に越したことないから」
宗俊「うるせえんだよ。帯芯なんかばっか染めさせられてよ、俺ぁお前、かめの中の藍は泣いてるし、この腕もウズウズしてるんだ。あっというような手拭いと浴衣、染め上げてみせっから待ってろってんだい。え、頼んだぜ」
正道「はい。それじゃあ行ってまいります」
宗俊「はい」
幸い10万というお金、心配していた詐欺にはかかりませんでした。かかるより先に政府が新円交換を発表したのです。
拾圓札と百圓円札のアップ。その前の札束を数える資料映像は探せなかったな~。
茶の間
宗俊「つまりさ、自分の金なのに銀行から下ろせねえってのは一体どういうことなんだ。え? 正道っつぁん」
正道「いや、あの、世帯主は月に300円、家族については100円は認められてるわけですから」
トシ江「一体何のためなんですか?」
正道「つまりですね、その、物の値段が上がりすぎてしまったわけですよ。大体、公定価格で戦前の50倍、闇だとまたその数十倍ですからね、これじゃ、日本の台所がめちゃくちゃになっちゃうわけです。それで経済の立て直しをやろうっていうのが今度の新円交換なんです」
宗俊「いや、だからさ、その新しい金じゃねえと使えねえってことになると、その銀行に預けてあるのはどういうことになるんだい?」
正道「それは一時的に使えないだけで新円が出回り次第、新しいお金で引き出せることにはなるでしょう。ただですね、今、そのお金のあるところとないところがすごく差があるので、それを是正しようっていう意味も含まれているわけですよ」
巳代子「それじゃあ、財産差し押さえっていうことじゃないのね」
正道「しばらくは大きな金は動かせないって意味なんです」
元子「じゃあ、あの10万は、どういうことになるんですか?」
正道「いやぁ、あれは危機一髪でした。もう生地買ってしまったんですからね、品物にしてしまえば、もう、こっちのもんです」
宗俊「いやぁ、ほれ見ろ、え。これで一安心だ。ああ、助かった、ハハハ…」
トシ江「で、物を売るのは構わないのね?」
正道「はい」
巳代子「そのかわり、買う人も新円しかないってわけなんでしょう」
正道「うん、そうなんです。しかしね、物はいずれ金に換えられますから」
宗俊「うん、分かった。ありがとうよ。いやぁ、おめえ、元子、おめえの亭主みたいなのがいてくれねえとな、こっちはお上のやることはちっとも分かんないからな」
元子「でも、品物は必ず来るんでしょうね」
正道「いや、そりゃ来るよ。ただし、お金が封鎖になった直後にあれだけ大きなものを動かして目についてもバカ見るだけだから品物は当分、寝かしといた方がいいだろうって藤井君は言いますけど」
宗俊「おう、それはおめえさんに任せるよ。一度に来たところで全部染められるわけじゃねえからな。まあ、ほどほどに運んでもらえりゃ、それでいいんだ」
正道「自分もそれが一番いいと思いますね」
ということで、やっぱり品物が到着しないというのは元子の不安の種でした。
台所
巳代子「ねえ、お姉ちゃん」
元子「何よ」
巳代子「このあと一体どうなるのかしら?」
元子「なるようになるから心配はいらないわよ」
巳代子「そんなこと言ったって」
元子「大丈夫よ。巳代子は生活学院へ行きたいんでしょ」
巳代子「だけど、お金が封鎖されたら…」
元子「それは一時的なものだって正道さんだって言ってたじゃないの。心配いらないから生活学院へお行きなさいよ」
巳代子「お姉ちゃん…」
元子「あんちゃんがいたら、きっとそう言ったわ。お店の方だってうまくいってるんだし巳代子が働かなくたって土台が傾くような吉宗じゃありません。それに正道さんだって巳代子のことなら必ず力を貸してくれるもの。だから心配しなくていいのよ。ね」
巳代子「うん…」
元子「それじゃ、おやすみ」
巳代子「おやすみなさい」
生活学院とは戦時中、言論弾圧と紙不足で本が出せなかった出版社の社長の設立で、このころでは復員してきた哲学者や作家が集まり、小さいながらユニークな学校でした。
ガラ子も通う生活学院。
大原家
布団を並べて寝ている元子と正道。元子は寝つけない。
元子の心の声「ああは言ったけれど、本当にこの先どうなるんだろう…」
正大「バカだなぁ。自分が巳代子に答えてやったばかりじゃないか」
元子「あんちゃん…」
正大「何だ、情けない顔して」
元子「だって私、心細くて」
正大「怒るぞ、俺は」
元子「何でよ」
正大「大原さんと結婚したくせに心細いだなんて、それはあの人を信じていないということじゃないか」
元子「信じているわよ。信じてはいるけど…」
正大「いるけど、どうなんだ?」
元子「あの人は今、一生懸命なのよ。だから桂木のうちのことであんまり煩わしい思いをさせたくないの」
正大「それは水くさいんじゃないかな。先輩は誠実な人だ。困った時は変に一人で背負い込まずに思い切って、あの人の胸に飛び込んでいけ。そして、二度とバカな愚痴を言った時は、あんちゃん承知しないからな」
元子「うん」
正大「それじゃ頑張ってくれ。頼んだからな」
元子「あんちゃん! どこ行くのよ、あんちゃん! 待って、あんちゃん!」
カメラ目線で話し続け、去って行く白い着物姿の正大。
正道「元子さん! どうしたんだ…元子!」
荒い息遣いの元子を正道がゆすって起こす。
元子「正道さん!」体を起こす。
正道「ひどくうなされていたよ。どっか具合悪いんじゃないか?」
正道の胸に飛び込む元子。髪も下ろしてるし、色っぽい。
元子「私、怖いの」
正道「どうしたんだ、こんなに汗かいて」
元子「怖いの。しっかり抱いて」
正道「元子…」
つづく
前に正大あんちゃんと千鶴子さんが抱き合った時も、なぜかラブシーンが妙につやっぽくなまめかしい感じがするな。なぜなんだ。
先日観た「東京五人男」の一場面。
昭和20年11月に撮影され、昭和21年のお正月映画として公開。映画に出てくる俳優だから衣装もこぎれいだけど、昭和56年の「本日も晴天なり」も結構当時の雰囲気をつかんでると思う。カラーじゃないから分かりづらいけど。お芋の配給していた渋谷・桜丘は今ではこんな近代的なエリアに↓
古い朝ドラでさらに古い時代も興味がわく…といっても私はせいぜい幕末以降なんですが。
正大あんちゃんは迷子札をもらった時からフラグ立ちまくりだったかもね…。「マー姉ちゃん」の三吉君は戻ってきたけど。