公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
吉宗で染めた商品を載せてリヤカーを出す宗俊(津川雅彦)。前を善吉(小松政夫)、後をなぜか藤井(赤塚真人)が押し、縁起物の納品だ。藤井を呼んだのはトシ江(宮本信子)で、縁起仕事を終えた宗俊が代金をパーッと使ってしまわないようにする、お目付け役だという。元子(原日出子)は、どうせパーッと使うなら、ホームパーティをしたらどうかと思いつく。珍しいもの好きの江戸っ子のご近所が集まって、大パーティが開かれ…。
吉宗前の路地
リヤカーが置いてある。
藤井「おはようございます」
元子「あっ、おはようございます。大原なら、今…」
藤井「いいんです、いいんです。あっ、これですね」
善吉「おい、勝手なまねするんじゃないよ、え。下手に積み込んで、先方、着いちゃったらシワになりましたじゃ困っちゃうんだから」
藤井「はいはいはい…」荷物を運ぶ。
善吉「ありがとうありがとう。はい、ここに置いといて…」
宗俊「あ~、よし。え~、腹掛けにももひきと手拭い。よし、全部そろったな」
善吉「へい、間違いなく積みました」
宗俊「では、出かけようか」
善吉「へい」
宗俊「行ってくるぜ」
トシ江・元子「行ってらっしゃい」
トシ江「行ってらっしゃい」
善吉「おいおいおい。何だい、おめえさんは」藤井がリヤカーの後ろにいるのを不審がる。
藤井「ほらほら、前がよそ見したら荷はあっちに向きますよ」
宗俊「善吉、言われてんじゃねえか」
善吉「へ…へい。へいよ」
藤井が仮に善吉の下についても草加のようなことにはならなかっただろうなと2人のやり取りを見て思う。
店に入ったトシ江と元子。
元子「ねえ、藤井さん、正道さんに何か用があったんじゃないのかしら」
トシ江「あっ、あの人(しと)ならね、私が呼んだの」
元子「お母さんが?」
トシ江「うん。昔と違ってまさかとは思うんだけどね、お父さん、縁起物を納めに行くと必ず帰りには、よよいのよいでみんな引(し)き連れ、ワ~ッと遊びに行っちゃう人なのよ。だからね、藤井さんにお目付けを頼んだの」
元子「そうだったのか」
トシ江「うまくいけばね、向こうで代金を頂いた途端、藤井さんが手配した生地屋とのりの材料が現れてくるって、こういうふうになってんだけどね」
元子「へ~え、お母さんがそんな軍師だったとは知らなかった」
トシ江「バカだね。本当の軍師っていうのはね、こんなに口出ししちゃいけないんだよ。けどさ、こんなご時世じゃ背に腹は代えられないし、まあ、余計なことしやがってって頭の一つか二つ、たたかれれば済むんだからね」
元子「ねえ」
トシ江「うん?」
元子「今までもそんなことがあったの?」
トシ江「戦争になってからは、そんな派手なこともできなかったけど、でもお父さん、あれでね若い頃はもっともっと威勢がよくてさ、口より先に手が出んだよ」
元子「そんなこと私、ちっとも知らなかった」
トシ江「当たり前だよ。子供に分かるように叱られてたんじゃ母親も落第だよ」
元子「へ~え、そんなもんなの」
トシ江「フフ…ねえ、元子、ちょいと。大原さんの会社もね、これからますます盛んになっていくだろうし、色街もにぎやかになると思うんだけど、そん時はそのつもりでね」
元子「そのつもりでって?」
トシ江「遊びも仕事のうち。芸者衆にもてないようじゃ男も甲斐性なしだからね」
元子「そんなの私は認めません」
これを新旧、意識の違いと申しましょうか。それにしても宗俊、昔の癖が果たして出るか出ないか。
大原家
洗濯物を畳む元子。「何が男の甲斐性よ。私はそんなこと絶対に許しませんからね。もしもこんなところに口紅をつけてきた日には…えいっ!」畳んでいた正道のシャツをギュッと結ぶ。「こういうことになるんですからね。お分かりかな。いけない、いけない。あっ、そうだ!」
桂木家台所
トシ江「パーティー!?」
元子「そうよ。おんなじよよいのよいならうちでやればいいのよ」
トシ江「だってうちじゃ気分が出ないから」
元子「その気分を出させるのが奥さんの役割でしょう」
トシ江「だって、私やおキンさんが芸者のまねなんかできるわけないでしょう」
元子「だったら、うちへ来てもらえばいいじゃないの」
キン「うちへですか?」
元子「そうよ。あっ、私、銀太郎ねえさんに相談してくる」
トシ江「ちょいと待ってよ」
元子「大丈夫よ。この間、映画で見たんだもん。あのとおりやればいいのよ。任しといて」
キン「知りませんよ、私はそんなの」
元子「あのね、日本じゃ女は台所に入ってるだけだけど外国のホームパーティーはね、男も女も一緒になって騒ぐのよ。おいしいごちそうは食べるし、お酒は飲むし、ダンスだって踊っちゃうんだから」
トシ江「ダンスだなんて、そんな、私」
元子「そうだ、秀美堂のおじさんたちにも来てもらいましょうよ。にぎやかになるしさ、変な所でよよいのよいをやられるよりは、ず~っと安上がりのはずよ。ね」
1950年のアメリカ映画。花嫁の父はホームパーティーで飲み物を作って出していた。
そういうわけで珍し物好きの江戸っ子たち、そういうことなら初物食いも話の種とばかりに参加希望者が続出し、ダンスもやるなら当然、吉宗では手狭とあって会場はここ、モンパリとなりました。
洋三、絹子はカウンターで料理、幸之助と友男は折り紙をわっかにしたものを壁に飾っている。
幸之助「どうでもいいけど、シミだらけだな、このテープは」
友男「しかたねえだろうよ。裏ぁひっかき回したらよ、紀元二千六百年祭で使った残り出てきたんだ」
幸之助「ハハハハ…」
吾郎「おじさん、紀元二千六百年なんて今はそう言わないんだよ」
友男「何て言うんだ?」
吾郎「今年は1946年が本当なんだ。ちゃんと学校で習ったんだから」
絹子「あら、吾郎ちゃんって頭がいいのね」
幸之助「まあ、いいじゃねえかよ。夜目遠目ってさ、多少シミがあったってよ、何せパーティーなんだからさ、盛大にいった方がよさそうだぜ。にぎやかでパ~ッとこう、ハハハハ…」
友男「そりゃそうだ」
銀太郎「わぁ!」
絹子「いらっしゃい」
銀太郎「やってますね」
友男「やってるよ」
正道「あの、こちらの支度よかったらですね、そろそろ食べ物を運びたいんですが」
幸之助「それなんだよ。その食べもんだけどさ、どっちが上(かみ)でさ、誰をどこに据えていいのかよ、こういった宴会はこっちも初めてだからな」
洋三「そしたら食べ物は1か所にまとめたらどうですか。あとは空間作っといて」
幸之助「空間?」
洋三「ええ」
正道「何か元子もそんなこと言ってましたね」
悦子「お皿を用意しときますから、あとはみんなめいめいで好きなものを持ってきて召し上がればいいんですよ」
友男「へえ、てめえで給仕するのかい?」
順平「だって、それがパーテーなんだろ?」
桂木家台所
善吉「ねえ、パーテーってのは一体どんなもんなんです?」
トシ江「宴会だって」
キン「一体どんなもの着てったらよろしいざんす?」
巳代子「私のワンピース貸したげようか」
キン「冗談じゃないですよ、まあ」
トシ江「一体どういうことになるんだろうねえ…」
藤井「いやぁ、大丈夫ですよ。総指揮官は元子さんだし、テーブル責任者は僕と巳代子さんですから。ねっ、巳代子さん」
巳代子「藤井さんって案外センスいいんだもの。私、見直しちゃったわ」
藤井「いやぁ。巳代子さんのメニューがハイカラだから」
キン「メニー?」
トシ江「献立ってことなんだろ、多分」
巳代子「まあ、そういうことね」
正道「会場の準備完了です。用意できたら出発しますよ」
巳代子「は~い!」
藤井「善さん」
善吉「はいよ」
藤井「おめかしはそれでいいんですか」
善吉「てやんでぇ、男は中身だよ。ふん!」
さて、町内の衆も初参加のパーティーは、このようにして幕が切って落とされました。
モンパリ
テーブルの上に大学芋、ビスケット、おかき、シュークリーム、チーズ、ハム等々が乗った皿が並べられている。
小芳「はあ~、これじゃ、いちいち女の人が立たずに済むってわけだわ」
幸之助「ああ。まあ、それにしても結構にそろったもんじゃねえかよ」
元子「まあ、モンパリとハヤカワさんから差し入れがあったおかげです」
ハヤカワ「ハイ。アメリカのホームパーティーはみんな自慢の料理持ち寄りますね」
友男「なるほど。なるほどねえ」
深水三章さん175cm、犬塚弘さん179cmなのに並んだハヤカワがデカく見える。犬塚さんが小顔だからかも?
元子「でもね、盛りつけ飾りつけは専門家の叔父さんたちの手を借りなかったから、まあ少々あか抜けしておりませんが、その点はご容赦くださいませ」
のぼる「ううん、豪華よ。誘ってくれてありがとう」
悦子「どう? つわりなんて吹っ飛んだでしょう」
のぼる「うん」
笑い声
宗俊「え、お前、品物納めに行ったらよ、まっすぐ帰(けえ)ってこいなんて電話かかってくるからよ、何事かと思ったら、え、何だい全くもう、本当に…」
のぼる「おじさんもやっぱりお座敷の方がよろしいですか?」
宗俊「あたぼうよ」
笑い声
洋三「さあ、それじゃ並べといてもしかたがないし、ぼちぼち始めようじゃないか」
拍手と歓声
友男「で、あの~、挨拶は誰になるんだ?」
正道「いや、そういうものはいらないでしょう」
幸之助「えっ」
友男「そうはいかねえよ。誰かよぉ…」
正道「あっ、そうですか。それではですね、え~、あさって公布されます新憲法を祝しまして、進行役は不肖、私と元子が承りますが、乾杯の音頭は、あの~、お義父(とう)さんにとっていただきたいと思います」
藤井「賛成!」
拍手と歓声
正道の話から今日の話は昭和21年11月1日。大安の金曜日。平日だから恭子はいないのかな。
元子「巳代子、全部つげた?」
巳代子「はいはい。子供たちはこっちがサイダーだから。これ、ハヤカワさんから頂いたバーボンウイスキーです。さあさあ、さあさあ、どうぞどうぞ」
藤井「皆さん、全部いきましたか」
洋三「はい、漏れはなさそうですよ」
藤井「じゃあ、お願いします」
正道「それじゃ、あの、お義父さんお願いします」
幸之助「待ってました、大統領!
銀太郎「日本一!」
小芳「色男! 大河内山! よっ!」
せきばらいした宗俊。「そんじゃ、まあ…新憲法だな?」
幸之助「そう」
宗俊「ということで乾杯だ」
友男「何だ、何だ…」
一同「かんぱ~い!」
友男「こりゃ、うめえや。カストリとはちょっと味が違うな、おい」
吾郎「お代わりないの?」
元子「あるわよ。でもね、水物ばっかりじゃ、おなかガブガブになっちゃうから、ほら、ごちそうも食べなさい。ビスケットやクッキーもあるんだからね」
悦子「そうよ。これはね、ハヤカワさんのお持たせなんだから本物よ。食べて、ほら」
小芳「本当、これじゃあ、盆と正月一緒にやって来たみたいじゃないか」
藤井「あっ、おっしゃってくれれば、あの、お取りしますよ」
キン「悪いですよ、そんな」
藤井「いや、いいんですよ。今日は僕と巳代子さんが接待係ですから。ねえ、巳代子さん」
巳代子「はい」
善吉「ほんだら、それじゃあ食う間がねえじゃありませんか」
元子「大丈夫よ。その2人だったらさっきから味見と称してさっさと食べちゃってるんだから」
善吉「えっ! そんなことやってんの?」
巳代子「ばれたか」
笑い声
巳代子の屈託のなさ、好きだな~。
笑顔の元子を見た友男。「だけど、よかったなあ。もっちゃん、元気になってよ」
トシ江「いろいろご心配おかけしました」
宗俊「そんなことでもなけりゃよ、こんな妙ちきりんなパーテーやってられるかい」
絹子「兄さん」
宗俊「てやんでぇ。ん?」
正道「はい、さあ、お義母(かあ)さん」料理を取り分けて持ってくる。
トシ江「あら、そんなことなら私が…」
宗俊「あ~、いいんだ、いいんだ、民主主義なんだから。な」
正道「はい、そういうことです」
トシ江「まあ、すみませんねえ」
というわけで宴もたけなわとなると若者には大流行のダンスも始まります。
レコードに合わせて踊る。
宗俊と銀太郎、洋三と小芳、幸之助とのぼる、藤井と巳代子、正道と悦子、ハヤカワとトシ江、友男とキン。善吉は椅子に座って見物。
銀太郎「右、左、ちょんちょん、そしたら、この左足…そうそう! さすが宗俊旦那、いい感じよ。こら! そこでお尻触ることないの」
宗俊「ハハハハハハハ! おい、善吉、善吉」
善吉「へい」
宗俊「お前、行け行け」
善吉「いやいや、あっしはもう…」
銀太郎「善さん、善さん、ほら」
善吉「いや…勘弁してくださいな」
洋三「善さん、頑張って」
善吉「ハハハハ…」
カウンターに座った宗俊に水を出す元子。
宗俊「おい、お前、いいのか」
元子「何が?」
宗俊「お前の亭主がほかの女と抱き合ってるじゃねえか、え」
悦子と踊る正道。
元子「お父さんこそ、いいんですか?」
宗俊「えっ」
ハヤカワと踊るトシ江の顔が真顔で動きもぎこちないのが面白い。
宗俊「あの野郎」
元子「何言ってんのよ。自分だって銀太郎ねえさんのお尻なでてたくせに」
宗俊「バカ野郎、お前、これとそれとは話は別だ。あのアメ公、お前、トシ江のお前、尻でも触りやがったら、ただじゃおかねえからな、俺は」
元子「大丈夫よ。ハヤカワさんはジェントルマンだもの」
宗俊「だから俺はな、その民主主義ってのは大嫌(でえきら)いなんだ」
昭和二十一年十一月三日
宗俊がどう言おうと新憲法は主権在民の原則に立って天皇を象徴とし、戦争放棄を宣言。国民の権利と自由を保障するものでした。戦前の国家体制を作った教育勅語は既に廃止され、日本は真に平和国家としての第一歩を踏み出したのです。
ドラマで使われた資料映像見つけた。
大原家
元子「日本はもう二度と戦争をしなくてもいいのね」
正道「うん」
元子「二度とあの火の中を逃げ回らなくてもいいのね」
正道「ああ」
元子「あなたはもう二度と戦争に行かなくてもいいのね」
正道「うん」
元子「生きててよかった、本当に」
正道「元子…」
元子「あんちゃんにも生きててほしかった…」
正道「だから…我々は正大君の死を無駄にしちゃいけないんだ。みんなで力を合わして日本の再建のために頑張らなくちゃな」
元子「ええ。『日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する』」
正道「『前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない』」
元子「もう二度と空襲で壊されないって保障されたんですもの。これからは何を作っても作りがいがあるわ」
正道「うん」
平和とはそれ自体、戦いであることを、このあと2人はその生活の中でかみしめていくのでしょう。
新聞を見ていた2人は視線をあげ、見つめ合う。
つづく
来週も
このつづきを
どうぞ……
ただのパーティーで終わらないところがこのドラマらしさだな。大原さんは遊びも仕事のうちなんてなりませんように。