TBS 1977年11月11日
あらすじ
夫と死別した端野いせ(市原悦子)は息子・新二(中野健)を連れ上京した。しかし仕事に就くことが出来ず死を覚悟したが、新二の担任教師・三浦(山本耕一)に救われ、ある工場の寮の下働きとして働き始める。
2024.6.28 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(いしとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
それにしてもなぜ第○章その○にしたんだろう? 普通に○話にしとけばいいものを。来週からもずっと第六章その六になるのかな?
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:中野健…字幕緑。
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三浦とよ子:生田くみ子
小島(こじま):後藤哲夫
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工場長:根本嘉也
店員:山下望
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武藤:粟津號
工員A:篠原靖夫
工員B:沖秀一
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三浦:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:高橋繁男
昭和八年
盛夏
廣明工業大森工場
若 葉 寮
<昭和8年、夏。寮の賄い婦になって足かけ2年になろうとしてました>
⚟八百屋「こんちは! 八百正(やおしょう)です」
いせ「ちょっと待って」注文を取りに来たのでメモを渡す。
八百屋「いや~、端野さんもよくやるな。いつも感心してるんですよ」
いせ「だって、これが仕事ですもん」
八百屋「ハハハッ」
いせ「ねえ、八百正さん。うんとおまけしてよ」
八百屋「ええ、そりゃもう」
いせ「なあに? これ」
八百屋「うちのおかみさんから預かってきました。うちからずっと取ってもらったお礼だそうですよ」箱の中身はきれいな草履。
いせ「あら、困るわ」
八百屋「いいじゃないですか」
いせ「よかないわよ。返してちょうだい。気持ちだけ頂いとくわ」
八百屋「そうですか? 堅いんだな。4丁目のキクスイ寮の賄いのおばさんなんか月末にそれとなく割戻金要求してくるんですよね」
いせ「人様は人様。私はね、こんなことよりも品のいい物を少しでも多く持ってきてもらいたいの。だって、うちは食べ盛りの若い人ばっかりなんだから、ホントに」
八百屋「分かりました、毎度!」立ち上がって帰ろうとしたが、草履はそのまま置いて行ったので、いせが追いかけて返した。
<あの晩、夢を見ましてね。もらい損なった草履の夢の中で、あの草履の履き心地のよかったこと。大層立派なこと言って突き返しましたものの欲しくなかったと言えばウソ。やっぱり女ですから>
いせは草鞋を脱いで見つめる。
食事室
武藤「またサバに野菜の煮っ転がしか。おばさん!」
いせ「はい! なんですか?」
武藤「もっとうまい物(もん)できないの?」
いせ「お魚、嫌い?」
武藤「嫌いじゃねえけどさ。こういつもじゃな…」
小島「おばさんは精いっぱいやってんだ」
武藤「うまい物(もん)食わなきゃ体がもたねえよ」
小島「これだけあれば結構じゃないか」
武藤「会社から補助金が出てるはずだぜ」
小島「そんなの知れたもんさ」
武藤「お前、随分詳しいんだな」
小島「バカ。おばさんは俺たちのために冬の寒い盛りにストーブもつけないで節約してたんだぞ」
武藤「俺たちだけのためかな?」
小島「どういう意味だ?」
武藤「おばさんに聞いてみなよ」
いせ「やめて。私、できるだけのことしてるけど、もっと工夫してみるから、ケンカしないで食べて。ねっ、みんな」
私もかつて「もっとおいしいものが食べたい」と言われたことを思い出した。武藤の野郎!
のらくろの漫画のアップ
新二が朗読している。
「わかったら、のらくろ二等兵、斥候(せきこう)に行って来い」
「行って来ます」
「ハハァ、ここに鰌(どじょう)がいるな」
「もう帰って来たのか。早かったな。敵のようすは何(ど)うだった」
「のらくろ斥候報告…橋の下に鰌が三匹おどっていました。終(おわ)りッ」
「バカッ。誰が鰌のようすを見て来いと言った。敵はどうしたのだ」
漫画のコマが大写しになっている。wikiで見た感じだと、斥候に行って来いと命じたのは白いブルドッグのブルで斥候の様子を訪ねたのはテリアのモール忠太かな。
いせ「新ちゃん、悪いけど、声出さないで読んで」
新二「なんで?」
いせ「おにいちゃんたちに少しでもおいしい物食べさせてあげようと思ってるけど予算が足りないのよ」
新二「僕、武藤のおにいちゃん、嫌いだな」←私も!
いせ「そんなこと言っちゃダメ」
新二「だってさ…」
いせ「新ちゃんは、そんなこと心配しなくたっていいの。あとでお母ちゃんに『のらくろ』読ませてよ」
新二「うん」
いせ「『うん』じゃないでしょう?」
新二「はい」
いせ「もう、お布団敷いちゃいなさい」
新二「うん」
いせ「ほら、また」
新二「はい」
押し入れから布団を取り出して敷き始めた新二。「お母ちゃん、まだラジオ買ってくんないの?」
いせ「もうしばらく我慢しなさい。お母ちゃん、うんと仕立物をして、そのうちに買ってあげるから」
工場
工場長に帳簿を見せるいせ。「合計です、これが。私もいろいろ工夫してるんですけども、なかなか…若い人たちのためにもう少し補助金出していただけませんでしょうか」
工場長「う~ん、そうだねえ」
いせ「工場長さん、お願いします」
工場長「うん、考えておこう。しかし、2年前の恐慌のときの損失が大きくてねえ」
工場内からいせを見ている小島。
この工場、「わが子は他人」の家出少女・原京子の父がやってた工場に似てる気がする。みんな同じに見えただけかもしれないが。
階段を自転車を押しながら登っている三浦先生と新二。後ろからいせが声をかけた。
三浦「やあ、お出かけでしたか」
いせ「はい」
新二「お母ちゃん、先生にほおずき買ってもらった」
いせ「わあ…いい色。新二、先生に無理言ったんじゃないの?」
新二「違うよ。ねえ? 先生」
三浦「うん」
新二はいせにほおずきの鉢を持ってもらい、三浦先生の自転車を後ろから押す。
三浦「いや、いいんですよ。土曜日で時間持て余してましてね。新二君と一緒になったもんだから。植木屋をブラブラ回ってきたんですよ」
いせ「新二。あんまり先生に甘えたらご迷惑よ」
三浦「いや、気になさらないでくださいよ」
いせ「ホントに」
三浦家に配達員が荷物を持ってきた。とよ子宛に昆布、ワカメ、ヒジキ。「お姉さんったら、こんなにたくさん。そうだわ」
若葉寮
三浦先生は新二を浅草のほおずき市へ誘う。お茶を持ってきたいせにも「確か7月の初めだったと思いますが、もしお時間がおありになったら、どうぞご一緒に」と誘う。
三浦「端野、この中の赤い実は食べられるんだぞ」
新二「種を抜けば鳴らせるんだろう?」
三浦「よく知ってるな」
やりとりを見ていたいせの口がほおずきを鳴らすときの口真似してる?
三浦「これが全部赤くなったらきれいだろうなあ」
新二「うん」
とよ子は青葉寮に向かって歩いていたが、三浦の姿を見かけて隠れた。
三浦「ハハハ…まっすぐだぞ。そうそう、そうそう」
いせ「アハハッ、大丈夫?」
新二が自転車に乗るのを一緒になって走って追いかける三浦といせ。
新二「ねえ、お母ちゃん。乗れるようになったら自転車、買ってくれる?」
新二の問いには答えず、三浦先生に「どうもすみませんでした」といういせ。
走って帰っていくとよ子。
三浦「夕食の用意でお忙しいときにすいませんでした」
いせ「ありがとうございました」
三浦「じゃ」
いせと新二は寮まで走る。
いせ「競争!」
新二「1等賞!」
いせ「2等賞!」
息の荒い2人。
いせ「宿題…宿題、済ましてしまいなさい。ねっ」
新二「は~い」
食事室のテーブルに小島が突っ伏していた。
いせ「どうしたの? 小島さん、会社」
小島「ちょっと具合が悪いから帰ってきたんだ」
いせ「具合が悪いって?」
小島「うん、風邪気味なんだ」
いせ「そりゃいけないわね。あら、お弁当、食べてないの?」
小島「ねえ、おばさん」
いせ「なあに?」
小島「おばさん、三浦先生が好きなの?」
いせ「どうして?」
小島「そんな気がして」
いせ「三浦先生は私たち親子の恩人よ」
小島「それだけ?」顔をあげていせの顔を見る。
いせ「どうしてあなたがそんなこと聞くの?」
何も答えられない小島。
いせ「そんなふうに言われたらイヤだな。三浦先生にも先生の奥さんにもホントに感謝してんのよ。私たち2人、身寄りのない東京へ出てきて、ホントに親切に」
小島「ごめん。悪かった、変なこと言ったりして」また突っ伏す。
いせ「いいのよ。ご飯ができるまで休んでらっしゃい。ねえ」
小島はゆっくり立ち上がり、部屋を出ていった。
いせ「熱、測ってよ、ちゃんと」
三浦家
「ただいま」と帰ってきた三浦だが、とよ子は無視。
三浦「おい。どうしたんだ? 何かあったのか?」
とよ子「あなた、恥ずかしくないの? 私、見たのよ」
三浦「何を?」
とよ子「あなたが端野さんの所から出てくるのを。何よ、まるで…」
三浦「おい、ちょっと待てよ。俺はただ新二君と…」
とよ子「言い訳はたくさん。私、今までにもあなたと端野さんのことで忠告受けたこともあったわ。でも、まさかと思ってた」
三浦「ハハハハ…バカバカしい」
とよ子「笑い事じゃないわ、私、真剣よ。あなたと端野さんと新ちゃんと誤解されてもしかたないでしょう」
三浦「やめないか。端野さんは、お前も知ってるように新二君のことだけしか頭にないんだ。新二君のことだけが楽しみであの人は生きてるんだ」
とよ子「あなたが持ってってあげてよ」乱暴に置いた買い物かごから転がり出るワカメや昆布。
三浦「なんだ? これ」
とよ子「北海道の姉から送ってきたの。だから、端野さんに少し分けてあげようと思って持ってったの」
三浦「それでか」
まあ、三浦先生は誰が見ても肩入れし過ぎとは思う。とよ子も根は悪い人じゃなさそう。
新二が「小島のおにいちゃんが大変だよ」と炊事場にいたいせを呼んだ。熱を出して苦しんでいる小島のもとへ氷枕を持って行く。
小島「おばさん、すいません」
いせ「いいのよ。病人は気を遣っちゃいけないわ。汗は出すだけ出してしまったほうがいいの」エプロンを外して小島の顔の汗を拭く。「ねっ。夏風邪はたちが悪(わり)いから」
布団を整えていたいせの手を握る小島。
いせ「どうしたの?」
小島「おばさん、ずっとこうしててくれないか? 心細くて」
いせ「いいわよ。安心して寝なさい」
小島が目をつぶったのを確認したいせがそっと手を外すと抱きついてきた! 「おばさん、俺、好きなんだよ。おばさんのことが。おばさん!」
<気持ちが動転してしまいまして、私も若かったんでございますね。今、考えれば、あの年頃の青年にありがちな甘えということだったんでしょうが、あのときはホントにもうどうしていいのか…フフフフ…大きな犬に飛びつかれたようで>
腰に抱きつかれ、どうしていいのか分からないいせ。
フフフフ…じゃないのよ。やっぱりこれは昼ドラなんだなと強く感じた瞬間。
実在の事件だけど、犯人がつきあってる年上の女性を「おばさん」と呼んでて、この役を市原悦子さんが演じてました。時期的にはそう変わらないね。
三浦家
とよ子は三浦に、いせの見合い相手にどうかと見合い写真を見せていた。
三浦「見合い?」
とよ子「反対ですか?」
三浦「いや…でも、端野さん再婚するかな?」
とよ子「まだ若いんですもの。それに新ちゃんだって、これから父親が必要な年齢になるわ。とってもいい人なのよ。ねえ、よく見て」
青葉寮
お見合い写真を見るいせ。
とよ子「主人の師範学校時代の知り合いの友達なの。一度会うだけでも会ってみたら?」
<三浦先生の奥さんのご親切の中に、ご主人である先生を私から遠ざけようとするお気持ちが感じられました>
ある日、新二が学校から帰ってくると寮の部屋にも鍵がかかっていて、いせが不在。外へいせを捜しに行った。
いせ「新ちゃん、何してんの? そんなとこで」
どこかへ出かけてきた様子のいせに抱きつく新二は泣いていた。「お母ちゃん、バカ、バカ、バカ!」
いせ「何…どうしたのよ?」
新二「どこかへ行っちゃったのかと思ったじゃないか」
いせ「何言ってるの。新ちゃん置いて、お母さんどこへも行きゃしないわよ。バカねえ、泣いたりして。おかしな子。行こう」
いせたちの部屋
いせはラジオを買ってきた。電球の脇?にスイッチがあるのね。そこにラジオの電源をつなぐ。しかし、ラジオはうまく鳴らない。
新二「あとでよく聞こえるように小島さんにアースしてもらうよ」
<アースなんて、あとで分かったんですが、針金を泥の中に差し込むだけなんですね。でも、そんなことでよく聞こえるようになって新二はラジオから離れませんでした。無理はしましたけど、ホントに買ってよかったと思いました>
食事室
工員「言う?」
武藤「俺が言うから」
いせが入ってきて洗濯物を各自に渡す。
武藤「おばさん。ラジオなんか買って景気いいじゃないの」
いせ「新二が前から欲しがってたから無理したのよ」
武藤「おばさんよ、あんた、うまいことやってんだろ?」
いせ「なんのこと?」
武藤「俺の友達がね郵便局に勤めてんだ」
いせ「その人が何か?」
武藤「何かじゃねえよ。あんた、毎月月末になると貯金に行くんだってね。かなりの額、ため込んでるそうじゃねえか」
いせ「そんなこと私の自由でしょう」
工員B「自由? 随分勝手なこと言うね」
工員A「おばさん、俺たちの寮費、ごまかしてんじゃねえだろうな」
いせ「なんてこと言うの?」
武藤「たかが寮の賄い婦がよ、金をためたり、ラジオ買ったり、そうとしか考えられねえよ」
小島「やめろ、武藤!」
武藤「なんだよ」
小島「貴様はおばさんがどんな思いしてるか…俺は工場長から聞いた。おばさんは俺たちのために掛け合いに行ってくれてる。それにおばさんは夜遅くまで内職してんだ!」
武藤「小島、お前はおばさんにのぼせてるからな。なんにも見えねえんだよ!」
小島「何!? この~! 貴様!」
殴り合いのけんかになる武藤と小島。いせも「やめなさい!」と止めてるうちに鼻血が出てる。
部屋に戻ったいせは泣きだす。
新二「どうしたの?」
いせ「新ちゃん、ここ出よう。そのほうがいいよ。2人でうち探そう」
新二「ホント?」
流れる鼻血もそのままにもう食器を紙に包んで荷造りしてる!
<情けない。どうしてこんな情けない目に。人というものは恐ろしいと思いました。もし、これで出入りの商人から草履一足でももらっていたらと思いますと…イヤだ、イヤだ、イヤだ>
細い通りを歩いて行った先に一軒家。
<新二の学費のために夜なべ仕事して蓄えてきたお金が、なんとかうちを借りられるぐらいにまでなってました。これ以上、若い人たちの疑いの中で仕事は続けられません。三浦先生のことも小島君のことも気持ちの負担になってきてます。思い切って自分の力で新二との生活を踏み出したいと思ったんです>
荷ほどきをしているいせに新二が屋根から声をかけた。
いせ「ダメ、そんなとこで。危ないねえ。新ちゃん、ちょっと下りといで」
2階もあってかなり広く見える。
いせは「端野新二」の表札をかけようと新二に言う。小学生の子供が戸主ってこと? 新二を抱き上げて表札をかけた。「まっすぐ掛かってる? よく見て」
<家賃4円20銭>
いせ「よく読めたね。こっちからよく見てみよう」
<新二と2人、誰に遠慮することもなく手足を伸ばせるうち。これからは、この子と2人、幸せになれる。その思いでいっぱいでした。でも、そのとき既に日本は戦争の渦に巻き込まれようとしていたんです。その戦争がやがて私から新二をもぎ取っていくことになるなんて、どうして想像できたでしょう>(つづく)
多分、寮で暮らしてれば衣食住は保証されてるけど、賄い婦としてのお金はそんなにもらえるわけでもなく、夜なべの仕立物代を貯めてたってことじゃないのかな。すぐ行動に出られるお金があるっていいね! あんな文句言われながら賄い婦やるなんて耐えられない。
ヒロインがモテモテで生々しい描写が昼ドラって感じ。ただ、水増し感はないなあ。主題歌が2回かかるのは、まあいいとして、もっとあらすじに時間を割いたりするものかと思ってたから、なかなか濃い1週間に感じた。