TBS 1972年4月25日
あらすじ
正司(加藤剛)が小川(三島雅夫)をお父さんと呼んだのは、ついてもいいウソだと良子(沢田雅美)は思っている。だから小川が正司や寿美子(山本陽子)にすまないと肩を落とす姿を見て、良子は耐えられなかった。
2024.4.16 BS松竹東急録画。
人間の知恵が
人間の悪を
この地上から
消すのではありません
人間の知恵が
人間の愛を
この地上から
消してゆくのです
高らかに
平和の鐘が鳴ります
ほがらかに
爆撃機が飛びます
厳かに
愛の合唱が聞えます
誇らかに
人間は人間を殺します
何だか今回は怖い詩だね。
及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。
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前田寿美子:山本陽子…鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。
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及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。
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篠田清:桐原新…宮沢泰子の夫の弟。
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矢場:日野道夫…小川と同室だった患者。
ケン坊:鍋谷孝喜…「信濃路」の店員。
林:高木信夫…小川と同室の患者。
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田中:渡辺紀行…小川の同室の患者。
鈴木:豊田広貴…小川の同室の患者。
菊ちゃん:間島純…「新作」の仲居。
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仲居:小峰陽子
仲居:伊沢理恵
板前:大西千尋
ナレーター:矢島正明
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前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。
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小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。
日比谷公園を歩く正司と清。「今日はいいお天気だから噴水も楽しそうですね。気持ちがいいなあ。水がキラキラ光っちゃって。気持ちがいいですよね。こういうお天気は。東京の空にしては今日はいいほうじゃないんですか」
正司「面白い人だね、君って」←寛大な人だな~。
清「そうですか?」
公園内のオープンカフェ? 席に掛ける正司と清。ボーイが注文を取りに来た。
正司「僕にコーヒーをね」
清「僕、アイスクリームソーダがいいけど、いいですか?」
正司「ああ、いいよ。じゃあね、コーヒーはホットで」
清「すいません。贅沢な物、頼んじゃって」←なんで呼び出しといておごらせるの?
正司「そうでもないさ」
清「僕、楽しくなっちゃったんです。あなたにお会いして」
正司「文句を言いに来たんじゃないの?」
清「いいえ、違いますよ。文句じゃないんです」
正司「だって、どうしてももう一度会いたいって言ったじゃないの」
清「ええ、お会いしてお聞きしてみたいことがあったんです。もう会ってくださらないかと思ったら…どうもすいません」
正司「なんだろう? 僕に聞きたいことって」
清「愛するって、どういうことですか?」
正司「愛する?」
清「だってあなたは1年前に義姉(あね)を愛していたんでしょ? でももう全然愛していないんですね。義姉から聞いたんです。結婚する人も決まってるんですってね」
正司「やっぱり文句を言いたいんじゃないの」
清「いいえ、違います。もうそんなことは言いません。でもお聞きしたいんです。恋愛って1年前には、そんな好きだった人をもうさっぱり忘れることができるもんなんですか?」
その話は義姉から聞いたらどう? 正司の父が倒れて、親から反対されて結婚やめたのは義姉のほうなんですけどね(怒)。フラれた側に聞くなよ。
ボーイがクリームソーダとコーヒーを運んできた。
清「僕、まだホントの恋愛をしたことがないんです。好きだなと思う人はいるんですけど。でも、その人をホントに愛してるのかどうか自分でも不安なんです。僕、一生に一度、自分でも納得できるような恋愛をしたいんです。僕ってとても古くさいんでしょうか?」
正司「そんなことはない。純粋なんだよ、君は」
清「無理してるんですよね。でも強情に頑張っていなきゃ僕たちの青春って、どこへどういうふうに行っちゃうのか怖いような気がしますものね」
正司「アイスクリーム溶けちゃうよ」
清「はい、いただきます」
きらめく噴水を見て思いがけない言葉を口走った彼。子供のような無邪気な顔をしてアイスクリームと緑のソーダをかき混ぜている彼。その彼から問い詰められた愛するということ。それは正司の胸の中でも幾たびか問い詰めていた言葉だったのです。でも、不思議と爽やかな気分だったのです。
正司「だけどね、君。君は1年前に好きだった人をさっぱり忘れることができるのかって言うけど、もしできるとしたらとても苦しむよね。僕はとても苦しんだし、あるいは今だって苦しんでるかもしれないだろ」懐から小さな包みを取り出す。「これは君に見せるために持ってきたんじゃないんだ。この前、君と会ったとき、1年前の僕がどんなに傷ついたか、そのときの痛みを…もう昔のことだからね。もっとも無理に昔にしてるんだけどね。そのときの痛みを、もう一度胸の中に入れときたかったんだ」
清「指輪ですか?」
正司「この指輪を贈ろうと思った寸前だったからね。僕の父が倒れたのは」
清「いいですか? ちょっと触っても」
正司「ああ、いいよ」
清「きれいだな。なんという石ですか?」
正司「スターサファイアだよ。タイへ行ったときに、石だけ買ってきて指輪にしたのは日本だよ」
前に矢場の妻が話してたのはスタールビーだった。
清「義姉は、この指輪のこと知ってるんですか?」
正司「知ってるよ。2人でサイズを測りに行ったんだもの。周りに入っている小さいダイヤも、そのとき、2人で話し合って、そうしたんだから」
清「それが無駄になってしまったんですね」手に取った指輪を返す。
正司「そう。行き場所がなくなってしまったよ。この指輪」
清「間もなく結婚するんじゃないんですか? 義姉はそんなこと言ってましたけど」
正司「もし結婚するとしたら?」
清「その指輪、あげたらダメなんですか?」
正司「そうすれば、この指輪は無駄にはならないよね。でも、そんなことはできないのが愛するってことじゃないの? 一度ケチのついた指輪だからね。そんなことはできないよ」
正司がどこまでもまともな人でホッとする。清はひたすら怖い。
「新作」厨房
新作は忙しく注文を板前に伝える。ロース焼き、ヒレ肉鉄板焼き…
新作「どうだ、よく出るだろ? 天気もいいし、世の中、春だよ」
寿美子「私はちっとも春じゃありませんからね」
新作「そんな顔してるからいけないんですよ。お前は少し気持ちがムラですよ」
寿美子「大きなお世話。ほら、上がったわよ」
松子という名の仲居がいるのね。次々注文が入る。西京焼き、塩焼き…
新作「景気がいいこと、いいこと。なあ? 寿美子」
寿美子「結構ですね。商売繁盛で」
新作「そんな顔しなさんなったら」
忙しく動いているのは新作。寿美子は座ったまま。鯛刺、マグロ…
寿美子「箱根山の雲助じゃあるまいし。『ほいきた、ほいきた』ですって」
新作「いいだろう、威勢が良くって」
寿美子「私はさっぱりですからね」
新作「少し代わろうか? 元気が出るかもしれないよ」タバコを手にする。
寿美子「出ませんよ、どうせ」
新作「そりゃあな、一目惚れした人がベニスに行っちゃうんじゃ、元気が出ないのも無理はないよなあ」
寿美子「いい気味だと思って喜んでるくせに」
新作「バカを言うんじゃないよ、お前は」
また注文が上がる。
新作「お前ががっかりして寂しそうな顔してるのに親の私が喜ぶわけはないでしょ」
寿美子「私、はっきり言っときますけどね、小川さんの息子がベニス行ったからって、絶対、及川さんとなんか見合いなんかしませんからね。及川さんなんて口に出すのもイヤだわ」
新作「かわいそうに」
寿美子「あら、誰がかわいそうなの?」
新作「知らないんですよ、お前は」
寿美子「知ってますよ。自分のことぐらい」
新作「お前は自分のことぐらい、なんでも分かってると思ってるけどね、それは大間違いですよ。そりゃ、お父さんだって大間違いはしたさ。あんなひどい世界一の悪女と結婚してしまったんだからな。でも、お前の大間違いはそれとは違うんですよ。もとを正せば、親の言うことを聞かないからこういうことになってしまったんです」
寿美子「何回それを言えば気が済むのかしら。ゆうべっからそればっかり言ってんじゃない」
新作「言いようがないんですよ、他には。つらいよ、お父さんとしても」
注文が入る。天ぷら定食。
新作「もう威勢のいい声も出やしないよ。お前があんまりしょんぼりしちゃってるから」
寿美子「しょんぼりじゃないわ。考えてるの。私だってベニス行けばいいんでしょ。ベニスぐらい簡単よ。飛行機に乗ればすぐよ。行きますからね、私だって」
新作「ああ、いいよ。行きなさい、行きなさい。だが、新婚旅行で行ったほうがもっといいだろう」
寿美子「また及川さんのこと言いだそうと思って」
新作「いや、言いたくもなるんですよ、お前の顔見ていると」
赤だし、おしんこ、お造り…
旅行社
正司「どうもすいません。お待たせしてしまって」
清と会っていたときと同じスーツとネクタイだから、その日の午後の話かな。
男性「いえ、今来たばっかりです」
正司「じゃあ、とにかくこの書類を書いていただきましょうか」
女性「あの…写真は何枚いるんですか?」
正司「3枚ですね」
男性「3枚でいいんですか?」
正司「このごろは簡単になったんですよ。これを1枚ずつ書いていただくんですけどね」
この日は小川さんにとって不運な日でした。別の一組の団体旅行の申し込みに来ていた3人の男の中に、あの意地悪な矢場さんがいたのです。
正司の横顔を見つめる矢場!!!
小川「よっちゃんはいいですねえ」
良子「ハハハッ、何がいいの? そんないいことないわよ」
小川「いつも明るくて、いつも元気で」
良子「そうね。私ってね、あんまりくよくよしないの。くよくよ考えてたらキリがないでしょう? 小川さんもしょんぼりしていないで元気出さなきゃダメよ」
小川「うん…私ってホントにダメなんですよね」
良子「そういうこと自分で決めちゃいけないの。何もダメじゃないでしょう? とってもいい人よ。だから私だって及川さんだって小川さんが好きじゃない」
小川「ウソつきなんですよ、私は。ウソばっかり言って生きてきたんですからね」
良子「いいのよ、小川さんのウソは。そのために誰も損してないじゃない。誰かからお金とっちゃったわけじゃないでしょう? もっとひどいウソを言う人なんて、いっぱいいるわ。さあ、おあがんなさい、お茶」
小川「うん。でもね、私のウソだって似たようなもんですからね」
良子「なんにも似てないわよ。どうしてそんなこと言うの?」
小川「大変な迷惑をおかけしたんですよ。及川さんにも前田さんにも」
良子「そんなこと気にしちゃってしょんぼりしてんの?」
小川「申し訳ないんですよ。もう取り返しがつかないけど」
良子「いいでしょ、それだって」
小川「いいえ」
良子「いいのよ。だって、及川さん、ベニス行っちゃったんでしょう? じゃあ、もうそれでいいじゃない。この病院さえ来なければ」
小川「ええ。及川さんのことはそれでもいいと思ってるんですよ。もう十分ですからね。随分、うれしいこともあったし、楽しいこともありましたからね」
良子「じゃ、前田さんのことなの?」
小川「前田さんは本気ですからね。私の息子だとばっかり思って」
良子「いいわよ、思わしといたって。もとはといや、自分のほうが悪いんですもの」
小川「でもね、いつベニスへ発つとも言えないし、いつ帰ってくるとも言えないし。たまりませんよ、好きだと思っている人は、あんなにいい人ですからねえ。もう夢中なんですからねえ」
写真を見ない寿美子も悪い。悪いけど、良子の軽い感じもちょっとな~と思う。現に小川さんが矢面に立って困ってるわけだしねえ。
はつのアパート
はつ「今、おいしいお茶を入れますからね」寿美子からの頂き物だといい、親父さんより出来がいいという。はつがおいしいお茶だといったら寿美子が持ってきた。「それは私が言ったからですよ」と新作。
新作「よく言えるよ。寿美子のことで頭を痛くしてるのに、それがどうして親よりも娘のほうが出来がいいのさ?」
はつ「じゃ、似たようなもんでしょ」
新作「言いにくいことを平気で言うんだから、やっぱり年だよ、あんたは」
はつ「気楽よね、言いたいことを言ってるほうが」
新作「あんたは多少、昔からその気(け)はあったけどね」
はつ「まあ…それはどっちが言うことかしら」
新作「とにかく変な引っ掛かりだよ、私とあんたとは」
はつ「縁は異なもの味なものっていうでしょ?」
新作「それは夫婦の間で言うことですよ」
はつ「あっ、そうか、夫婦か。夫婦にはお互いに縁がなかったわね。悪妻と早死にと」
早いうちに夫を亡くして「信濃路」をオープンさせたはつって、すごい。
せめて寿美子にはいい結婚をさせてやりたいと思ってという新作。だが、店に出ても仕事も手につかないし、寿美子はむくれている。ホントのことを言ってやろうと思っても、はつに口止めされている。
お、口止めしてんだ。
はつは寿美子さんはいい結婚なんてできないんじゃないの?とはっきり言う。言いすぎだと抗議する新作。「近頃は随分、気が練れてきているんだからね」
はつはもう一杯お茶を注ぎに行った。
新作「人が一生懸命に言ってるのにまるっきりとぼけているんだもん」
とぼけていないと否定するはつに、あんたの言うことは腹が立つといら立つ新作。
はつ「そういえば、おそば遅いわね」
新作「いらないよ、もう」
はつ「ほら、始まった。すぐそういうふうにすねるんだから。まだまだ人間が出来ていませんよ。練れてなんかいるもんですか」
新作「怒らせるんだよ、あんたが」
はつ「まあ、おあがんなさいよ。おいしいお茶だから」
新作「おいしいに決まってるよ。うちのお茶だもの」
はつは改めて寿美子の話を聞こうとするが、ため息をつき、いら立っている新作。
はつ「つまりこうなんでしょ? 私に口止めされているけど、もう娘がかわいそうで黙っていられないって言うんでしょ?」
新作「そうなんだよ」
はつ「おおかたそんなことだろうと思ったんですよ」
新作「ボケちゃいないね、あんたは」
はつ「お宅様ですよ、ボケてるの。親子そろって」
新作「まったくそう。だからひとつ力になってよ」
はつ「ダメですね。さっきはっきり言ったでしょ」
新作「どうして?」
はつ「じゃ、もう一度はっきり言いますよ。正司さんとお宅の寿美子さんとでは性が合いませんの。そりゃそうでしょ。家庭の事情や仕事のことで断ったんですからね。それがどうでしょう。ちょっとタクシーに一緒に乗ったら、もうそれだけでイチコロなんですもの」←そうそう。
新作「一目惚れというのはそういうことなんだよ」
はつ「そういう軽薄なところが正司さんは嫌いなんですよ」
新作「嫌い?」
はつ「嫌いが言いすぎなら性が合わないんですよ」
新作「だってそれはあれじゃないの? その正司さんとやらは、うちの店へも来たんじゃないの。それだって寿美子に会いたいから来たんでしょうが」
はつ「違いますよ。私が無理やりに連れてったんですよ。そのときだってそうじゃありませんか。意地を張って、わざと見ようともしないで。それがどうでしょう。昨日は一目でも会わしてちょうだいって来たんですからね」
新作「そうそう」
はつ「それもですよ。せっかく会える寸前で、そんな人に会いたくないって出てったんですからね」
新作「だから私もかわいそうで黙っていられないんだよ。それこそ知らないから、そういうことをしてしまったんだから」
はつ「いいえ。知らないときが本性出るんです。そういう人では正司さんと結婚したって損するのは正司さんのほうですからね。ああ、よかったよかった。写真も見ないで突っ返されて。ほら、正直者の頭(こうべ)に神宿るっていうでしょ? あれですよね。やっぱり親孝行だと神様がちゃんと見ててくださるんですよ」
新作「イヤなこと言うね、あんたは」
はつ「だって、はっきり言えば、そうでしょ?」
新作「それにしても言いすぎですよ」
はつ「あら。言わしといて、あんなこと言ってんだから」
まあ、はつさんが意地でも写真見ない人に紹介するのもイヤになっちゃうの分かるな。
そのころ、腹の虫のおさまらない人がもう一人いたのです。
矢場も旅行社にいたときと同じスーツとネクタイ。その日のうちに病院へ行ったのか。無駄にアクティブ。
病院の階段を駆け上がり、病室へ。
矢場「やあ、こんにちは、こんにちは!」
林「しばらくぶりですね」
矢場「小川さんは? どこ行ったんだろう?」
林「さあ? さっきまでいたけど…」
田中「洗面所じゃないですか? タオルと歯ブラシ持って出てったから」
矢場「そう、じゃあ、すぐ帰ってくるな」
林「小川さんに用なんですか?」
矢場「それがね、あきれるんだよ、まったく。ペテンもいいとこ。ひどいもんだよ、あの親父ときたら。あんたたちだって、みんな引っ掛かってたんですからね」
林「何があったんです?」
矢場「あったなんてもんじゃないよ。私はあんまり腹が立ってね、それでわざわざ来たんだけどね。私は今日、有楽町の旅行社に行ったんだよ。組合の団体旅行でね」
林「いよいよ、ベニスへ行くんですね」
小川が入ってきた。
矢場「小川さん」
そのまま自分のベッドのほうへ歩いていく小川。
矢場「愛嬌がないねえ。まったく、ヘッ。もっとも、この人ときたら本性は狐か狸かな。とても普通の人間とは違うんだね。ねっ、小川さん、そうじゃないの?」
矢場たちに背を向けたままの小川。「どうして私が狐や狸なんですか?」
矢場「ほらほら、そういうとこが、もう人をだまそうと思って厚かましいんだ」
ハッとした顔をして振り返る小川。
矢場「そうそう。さっきの話の続きだけどね、いや、びっくりしたね、私は。その旅行社に小川さんの息子さんとそっくりの人がいるんじゃないの。いや、他の人に聞いてみたら、及川さんっていうんだってさ。ねえ、小川さん。あんたの息子さんはベニスへ料理の勉強へ行ったんだよね? その人がどうして旅行社にいたんだろう? 確かにあんたの息子さんだものね。私はよーく覚えてんだ。ほら、あんたの息子さんがベニスから帰ってきてさ、確かに私たちの見ている前で『お父さん』って言ったよね。あんたのことを」
カーテンを引いた小川。
矢場「小川さん、なにも隠れることはないだろう」カーテンを開ける。「よくもヌケヌケと大ウソがつけたもんだ!」
断罪したつもりでいい気になってんのかな。ただ、ここまで追い詰められることになってしまったのは、やっぱり良子が正司に息子のふりをしてほしいと頼んだことから始まってるよね。
勉「そうか。小川さんもかわいそうにな」
良子「しょんぼりしちゃってね。まるで病人みたいなの」
勉「そりゃそうさ。病人だもん」
良子「あっ、そっか」
勉「だけどちょっと怪しい病人だけどね」←みんな薄々気づいてるってことか。
良子「でもいいでしょ? それぐらいのこと。戦争行ってひどい目に遭ったのは小川さんのほうですもんね」
勉「そうそう。横井さん並みで当然だよな」
横井庄一さんが帰国したのは、1972年(昭和47年)2月2日。ホットニュース。
矢場が林と連れ立って笑いながら来店。
矢場「あれくらい言ってやらなきゃ腹の虫がおさまらないよ、まったく。ハハハハ…」
林はジュース、矢場はコーヒーを注文。
矢場「大体、あの親父ときたら何から何までインチキなんだ。何がベニスの息子だ。ハハッ」
勉や良子がハッとして見る。
林「変でしたよね、初めっから」
矢場「写真もないしさ、絵葉書がたった1枚だろ。よくもまあ病室中の患者をだましていたもんさ。ずうずうしいんだよ、初めっから。フフフ…」
林「でも、ちょっと気の毒だったかな」
矢場「気の毒なもんか。あれぐらいのこと言ってやらなきゃ、こたえやしないよ」
林と矢場が笑っている。
矢場「おい、おねえちゃん、早くしてよ!」
良子「はい」
勉「今の話は小川さんのことを言ってるの?」
矢場「うん? なんだよ、君は」
勉「小川さんがどうしたって? 今、変なこと言ってたじゃないか」
矢場「関係ないだろう、あんたには」
勉「あるんだな、それが」立ち上がる。「俺はね、小川さんが大好きなんだよ。あんまり大きい口、利きやがるとただじゃおかないからな」
矢場「なんだよ、その言い方は。ただじゃおかないとはどういうことだよ?」
勉「そうか。こういうことだよ」テーブルの上の灰皿を叩きつけて割る。
矢場「うわー! 何をするんだ、お前は!」
勉「よっちゃん、ちょっと行ってくるからな」売店を出て行く。
足を引きずった勉が階段を駆け上がり、病室へ。
小川さんのテーマソングが流れる。
小川は布団を頭からかぶっている。
勉「小川さん。どうしたんだよ? 小川さん」椅子を持ってきてベッドサイドに掛ける。良子も病室に入ってきた。
勉「小川さん、大丈夫だよ。俺だって、よっちゃんだってついてるじゃないか」
小川が布団から右手を出してきて、その手を両手で包み込むように握る勉。(つづく)
この出来事を正司が知ることになったら、また正司が責任を感じてしまいそう。ここまでくると正司と寿美子の仲はもうあんまり気にならないね。
矢場みたいな人、今の世の中にもいそう。別に自分が被害を被ったわけでもないのに、ぎゃふんと言わされたことがひたすら悔しかっただけ、みたいな。
前回もだけど、ケン坊出てないのに名前だけあるな。今回はクリームソーダを運んだボーイや、旅行社の正司の客の男女などセリフはあってもキャストクレジットされてない。
数カ月も同じ話を繰り返しているように見えて、改めて振り返ると、ここまでさほど日にちは経っていないんです。はっきり日付が分かるのが、14話。あと2日で3月というセリフから1972年2月27日(日)であることが分かります。
1972年2月27日(日)
・正司が小川を見舞い、寿美子も病院へ(14話)
・昼過ぎ、銀座を歩いていた正司と良子が清に話しかけられた。(15話)
1972年2月28日(月)
・新作が寿美子の話をしに、はつのアパートへ(16話)
・正司と泰子の再会(16話)
1972年2月29日(火)
・はつが小川に会いに病院へ(16話)
・小川に会ったはつが新作のマンションへ(17話)
・夜、良子が勉のアパートへ行き、話し合い(17話)
・良子と勉からすべて聞かされた正司がはつのアパートへ(17話)
1972年3月1日(水)
・正司が昼に会社を抜けて、小川に会いに行く(18話)
・正司が病室へ行ってベニスに行くと挨拶(19話)
・「信濃路」で高行、寿美子が鉢合わせ(19話)
・寿美子が売店で36個のいなり寿司を買う(20話)
・新作が、はつからすべてを聞く(20話)
1972年3月2日(木)
・昼過ぎ、正司が清に会う(21話)
・正司が勤め先で矢場に目撃される(21話)
・矢場が病院へ行き小川のウソを暴露(21話)
時々、ロケがあってすっかり春というか初夏になってるけど、数日の話を数カ月かけてやっているので、はつさんがずっと真実を話してないように見える。ただ、当時週に1度しか見られない状況だとひたすらじれったかったろうねえ。
「おやじ太鼓」12話からカラー。家政婦仲間?の西岡慶子さんは「純ちゃんの応援歌」でも「芋たこなんきん」でも”ぬひさん”で、関西弁を封印してざあます言葉を話していた。エイプリルフールが今とちょっと違うような??
今日は13話。山田太一脚本回。
「わが子は他人」のCMを見かけるようになったけど、シリアスっぽいな~。
明日18日の夜はBS松竹東急で「砂の器」放送。加藤剛さん、森田健作さんなどアワーではおなじみの人も多数出演してます。話ももちろんすばらしい! 邦画の傑作! BS松竹東急はCMが入るのがうっとおしいかも。