徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】太陽の涙 #9

TBS 1972年2月1日

 

あらすじ

小川(三島雅夫)は、同じ病室でただ一人自分に親切にしてくれる友人の具合が悪く、寝ずに看病している。その友人がジュースを欲しがっており、小川は売店の良子(沢田雅美)にジュースを頼んだ。

2024.3.29 BS松竹東急録画。

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ささやかな真心は

ささやかな小さい花

雨も優しく

光も優しく

そっと咲いて

いつの間にか散る

でも それが真心

ささやかだから

そよ風のように

枯れ草のように

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。

*

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

小田草之介

高畑喜三

ナレーター:矢島正明

*

小川:三島雅夫…1年半入院している病院の主。

 

売店

開店準備をしている良子のところに勉が来た。勉はギブスが外れて、松葉杖から杖1本になっていた。

良子は「コーヒー飲むんでしょ? ちょっとそこ掛けてよ」

 

「だけど、まだ危なっかしいんだよ。ここまで来るのがやっとだよ」と勉が移動して席につく。良子はコーヒーをおごると言うが、勉は角砂糖さえたくさんくれればいいとガラにもないことを言う。遠慮しなくていいと良子に言われた勉はケーキを1つ注文するが、良子は気前よく1つだって2つだってあげると言い、魔法瓶でお湯を沸かす。

 

良子「だけどよかったわ、ホントに。それでどうなの? 歩いてみて」

勉「どうって…まだ歩きにくいよ」←ここの…はただの間です。

良子「まさか…なんじゃないでしょうね?」←こっちの…は無音。

勉「おいおい、脅かすなよ」

良子「いいえ。そういうことよくあるのよ」

勉「大丈夫だよ。先生だって看護婦だってそんなことは言ってなかったよ」

良子「じゃあ、まあ、いいのかな」

勉「俺が…になったら格好つかないだろ?」←こっちも無音。

良子「だって、バチが当たるってことあるでしょ? 特にあんたなんて」

 

今回の無音はきっと脚に関わることだろうな。ただ、やっぱりCSだからか日本映画専門チャンネルなら普通に流してたと思う。ホントは木下恵介アワーは日本映画専門チャンネルで見たかったな。BS松竹東急で「兄弟」で無音になってたセリフも日本映画専門チャンネルでは普通に流してた。字幕があるのは共通だけど、CMが途中にない。

 

勉「冗談じゃないよ。ケーキを先にくれよ」

良子「あっ、そっか。昨日の売れ残りだけどね、おっきいのあげるわね」

勉「今日は文句言わないよ。売れ残りだって」

 

良子は勉のケガがよくなったことを喜ぶ。勉はケーキがホントにタダか確認。そして、良子をいい人だ、見直したと言う。

 

勉「だけどあれだろ? 俺が退院すると寂しくなるだろ?」

良子「とんでもない。あんたなんてね、さっさといなくなったほうがいいわよ」

勉「そうかな」

良子「そうに決まってんじゃない」

勉「まあ、口ではね」

良子「あんたね、そういうふうにしょってるところが嫌みなのよ」

勉「そうかな、嫌みかな?」

良子「嫌みの塊よ」

 

勉「それにしちゃ今日はバカに親切だけどね」

良子「すぐそういう言い方…ケーキはタダだけどね、コーヒーはお金払うのよ」

勉「払うよ、もちろん。このケーキだって払うよ。どうせ兄貴の金だろ? 大したことないよ、こんなの」

良子「どうしてそれでバチが当たんないのかしらね?」

勉「当たんないんだな、不思議に」

 

良子「角砂糖2つですからね」

勉「はいはい。お別れだもん、言うとおりにするよ。素直にね」

良子「いつ退院すんの?」

勉「寂しいだろ。僕がいなくなると」

良子「寂しいもんですか。バカバカしい。あしたあたり退院しちゃやいいのに」

勉「へえ~、それ本気で言ってんの?」

良子「当たり前よ。バカね、あんた」

 

後ろの貼り紙が見えた。

 

おいしい

ミルクコーヒー ¥80

あたたかい

ミルク     ¥60

コーヒー    ¥80

のり巻    1皿   ¥80

ジュース    ¥40

 

小川「よっちゃん」

良子「あら、おはよう」

小川「すみませんけどね、ちょっとお願いがありましてね」

良子「何よ? その情けない顔は」

 

小川「ん…もう情けなくってね、私は」手で顔を覆って泣きだす。

良子「ねえ、とにかくお掛けなさいよ」小川に寄り添って椅子に掛けさせ、話を聞くが、小川は情けない、情けないと繰り返す。ようやく話し始めると、病室で一番いい人が危ない。あんないい人が死にそうだと言う。昨日の夜中から悪くなり、今は重患の病室へ運ばれていった。あの人だけが私の話し相手になってくれた。

 

別の女性客が来たので、良子はカウンターへ。

 

寂しい人がそれよりもなお寂しくなろうとしています。その指先に拭う涙を勉はなぜか不思議な顔をして見つめるのです。ひょっとしたら自分の中にもある涙と一番、似ているような気がしたからかもしれません。

 

小川「ハハッ…すいませんね。こんな所へ来て泣いたりして」

勉「泣きたいときだってあるさ。どうせここは病院の中だもん。泣きたい人のほうが多いんじゃないの?」←割といいヤツ!?

小川「それがそうでもないんですよ。私の病室は」

勉「それは変な病室だね」

小川「みんな意地が悪いんですよ。私の嫌がることを平気で言いましてね」

 

接客を終えた良子が戻って来て、お願いがなんなのか聞いた。小川はその人にジュースを持ってってあげたいと言う。「それが、あれなんですよ」

良子「お金がないんでしょ?」

小川「ええ、それでね…」

良子「いいわよ、いいわよ。1本なの? 2本なの?」

小川「いや、1本でいいんですよ。どうせそんなに飲めやしないんだから」

 

良子はジュースを渡し(瓶のファンタオレンジかな)、家族がいないのか聞く。小川の話によると、息子がいることはいるが、ず~っと東北の山のほうへ行ってダムの建設工事をしている。息子の妻もいるが、大勢子供がいるため、しょっちゅう来れない。「すいません、来月お金が入ったらね」

良子「いいのよ、いつだって」

小川「喜びますよ」そそくさと売店を出ていく。

 

勉「そうかな」

良子「何が?」

勉「たった1本のジュースがそんなにうれしいのかな? あの人、両手に持って拝むようにしてたもんね」

良子「そういうもんよ、お金のない人は」

勉「うん」

 

良子は正司の会社の電話番号を教えてと勉に言い、これに書いてとメモを渡す。ガッカリする勉。「大体君はだよ、俺と話をしてても惚れてんのは兄貴のほうなんだろ?」

良子「バカね、あんたは」

勉「バカは分かってるよ」

 

男性「三吉野(みよしの)です」

良子「ああ、おはようございます」仕入れ業者が来て、カウンターへ。

 

電話番号なんて忘れちゃったと言う勉に良子は「バカね、あんたは」。

勉「バカは分かってるから」

良子「どうしてそう頭が悪いのかしら」言いながら仕入れ業者にサインを書く。

勉「えっと、何番だっけな…」

 

しかし、固定電話の時代ってなんであんなに電話番号を覚えられたんだろう?

 

考えている間に業者は帰り、勉は手帳に書いてあるから病室に行って持ってきてやろうかと聞くと、良子は早く持ってきてちょうだいと急かす。

 

勉「無理言うなよ、この足で。そう早くってわけにはいかないよ」

良子「それをさっさと歩くのが男でしょ? 何よ、不良のくせしてだらしのない」

勉「君はね、言っていいことと悪いことがあんだよ」

良子「あるもんですか。あんなたんかに」

勉「気に入らねえな。それが人にものを頼んでる言い方かよ?」

良子「いいじゃない。言い方なんてどうだって。なんのためにね、コーヒーやケーキ、ごちそうしたと思ってんの」

 

病室に手帳を取りに行こうとした勉だったが、なんのために兄貴に電話をかけるのか良子に聞いた。かけたいことがある、めんどくさいからいちいち聞かないでちょうだいという答えが気に入らない勉に転んでもいいから急いで持ってきてちょうだいとたたみかける良子。勉はうるせえなと悪態をつきながら売店を出ていった。

 

ポンポンとテンポの良い掛け合い。

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「心」のときはあまり関わりなかったもんな~。

 

売店

寿美子「ちょっとお邪魔します」

良子「はい、いらっしゃいませ」

 

一瞬のうちに貼り紙が替わってる!?

 

ミルクコーヒー ¥80

あたたかい

ミルク      ¥60

おにぎり 1個 ¥30

せきはん 1皿 ¥70

のり巻  1皿 ¥80

稲荷すし 1皿 ¥60

 

寿美子「さあ、何を頂こうかしら」

良子「お飲み物ですか?」

寿美子「そうそう。おいなりさんを頂こうかしら」

良子「はい」

寿美子「この間もちょっとお寄りしたけど、あのときのベニスの絵葉書落とした方、喜んでました?」

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良子「ええ、とっても。どうぞ」いなり寿司を出す。

寿美子「そう。そりゃよかったわ」

良子「ただいまお茶をお入れしますから」

寿美子「すいません。ああ、おいしそうだわ」

 

良子「今日もお見舞いですか?」

寿美子「ええ、まあ」

 

午前中は面会できないと知らなかった寿美子は患者のような顔をして入ってきたと言う。寿美子にお茶を出し、別の女性客の接客をする良子。

 

寿美子「大変ね。1人じゃ忙しいでしょ?」

良子「いいえ、ちょうどいいんです。1人でないと狭いから」

 

寿美子「そりゃそうとちょっとお伺いしたいんですけど、あの方、時々いらっしゃるんですか? ほら、私が絵葉書を拾ったときに入ってきた人」

良子「ああ、あの人ですか」

寿美子「ねえ、覚えてるでしょ?」

良子「ええ、あの人ならたまには、いらっしゃいますけど」

寿美子「たまにしか来ないんですか?」

良子「どうかしたんですか? あの人が」

寿美子「いえ、そういうわけじゃないんです。あの方と帰りのタクシーで一緒だったんです。この病院の前、なかなかタクシーが拾えないんですね」

 

良子「それで何か?」

寿美子「いえ、それだけなんですけどね。私、ちょっと失礼なことをしちゃったもんですからね。それでちょっと…」

良子「あっ、そうですか」

寿美子「おいしいわ、このおいなりさん。あの方もお好きなんでしょ? わざわざ食べに来たようなこと言ってらっしゃいましたよね」

良子「ええ、まあ、たまですけどね」

寿美子「やっぱりお見舞いにいらっしゃるんでしょ?」

良子「ええ、そうです」

寿美子「どなたがお悪いんですか?」←グイグイ聞くねえ~。

 

良子「ああ、どうでした?」

小川「あのね、これをね、あの…さっきここにいた若い人があんたにって」ペンとメモを渡す。

良子「その辺で行き合ったの?」

小川「うん。病室まで一緒に行ってね」

良子「あっ、すいません。電話番号よ」

小川「あの足だからねえ」

 

良子「まあ、ちょっと掛けてて。お茶あげる」三吉野の番重を運ぶ。

「あしたからの恋」でもいつも出てきた和菓子を並べて運ぶ薄型の木箱の名前なんだろう?って”和菓子 木箱”で調べたら番重(ばんじゅう)と呼ぶのだと知りました。

 

小川「そう。じゃ、遠慮なく。(寿美子に)失礼しますよ」

寿美子「あっ、どうぞ」

 

良子「それでどうだったの? ジュース持ってった人は?」

小川「それがね、会えなくって…」

良子「あら、どうして?」

小川「面会謝絶の札が掛かっててね。看護婦さんに言ったら、今は眠ってるから、あとで飲ませてあげるってね」

良子「そうね。そうかもしれないわね」お茶を出す。

 

小川「だけどね、とても飲みたがってたんだからね。明け方だったんだけど、私がひょいと気がついたらね、じーっと私の顔を見てるんですよ。とても優しい目でね。で、私はね、そっとそば行ってね、大丈夫ですよ。私がそばについてるんですからね、朝になったらきっと良くなりますからねって言ってやったんだよ。そうするとね、あんたも寂しい人だけど、私だって同じようなもんだってね…」泣きだす。

良子「そのとき、ジュースが飲みたいって言ったの?」

小川「ええ。私がね、水でもあげようかって言ったらね、冷たいジュースが飲みたいって言うんですよ。それはね、こうなんですよ。東北へ行ってる息子さんがね、発つ前に病院へ来たときにここのジュースを買ってきてくれてね、冷たいジュースだけど飲むかいって聞いたんですよ。でもね、そのときはあとで飲むって言ったんです。それっきりジュースのことは忘れてしまって、気がついたのは翌日のお昼ごろだったけどね、窓の所に置いといたジュースに日が当たってね、おじいちゃん、ハッと気がついて部屋の洗面所の水道で冷やしてたけど、とても息子に悪いことをしたと思ったんでしょうね。何回も何回も水をかえて、それを私と半分つ飲んだんですよ。そんときね、言ってたんだ。息子が遠い所へ行っちまうと思うと、ゆんべは心細くって、何を飲む気も食べる気もしなかったって」

 

半分つ?と思ったけど、Yahoo!知恵袋によると、東京都、静岡県岐阜県、愛知県、三重県のそれぞれ一部の地域に分布している方言だそうです。半分に分ける、半分ずつ。木下恵介さんは浜松出身で使ってた? ”ゆんべ”も「おやじ太鼓」で散々出てきたフレーズで懐かしい。

 

良子「お茶が冷めちゃうわよ」

小川「ああ、どうもありがとう」

 

あら? また後ろの貼り紙が「おいしいミルクコーヒー」に代わってる。結構バラバラに撮影してるのかな?

 

すっかり話に聞き入っていた寿美子も思わず話しかける。「よっぽど悪いんですか? その人」

小川「昨日の夜からですよ」

寿美子「病室が一緒なんですか?」

小川「一緒というよりもあの人だけですからね、私の話し相手になってくれるのは」

 

良子は励ますつもりで、きっとよくなる、クヨクヨしたってしょうがないと言う。

小川「私にできることはね、あの人のためにクヨクヨ心配してあげるだけだからね」

寿美子「きっと気持ちは通じますよ」

小川「そう。私もそう思って一生懸命気持ちの中で祈ってるんですけどね」

何となく顔を見合わせた寿美子と良子。

 

しかし突然、良子が思い出したように小川に絵葉書を拾ってくれたのはこの人だと言う。小川は寿美子にお礼を言い、あの絵葉書だけが私の命だと語る。「あの絵葉書はね、私のイタリアへ行ってる息子が送ってくれた物(もん)でしてね」

 

良子は更に寿美子が捜している、ここで会って、タクシーに一緒に乗った人のお父さんだと小川を紹介する。小川にもさっきこの方と息子さんの話をしていたと話す。ほら、息子さんがベニスから帰ってきたじゃないのと念を押すように言う良子。

 

小川「ああ、ああ、ああ…ベニスのね…」

良子「何よ。間の抜けた顔して。おじさんの息子さんはベニスに料理の勉強に行ってんでしょ?」

小川「ええ、ええ、まあね…」

良子「まあね、じゃないわよ」

寿美子「あら、そうなんですか。あのご立派な目のきれいな方が…」

小川「ええ、そうなんですよ。目もきれいだし、気持ちもきれいだし」

寿美子「そうですか。私も確かそうだと思ったんです。そうなんですよ、ホントに。だから私、ここで買ったお菓子、みんなあげてしまったんです」

 

良子「あら。じゃ、お見舞いに行かなったんですか?」

寿美子「いえ、行ったんだけどいなかったんですよ。そういえば、あなたのとこの息子さんもそんなこと言ってらっしゃいましたよ」

小川「はっ?」

良子「いや、いなかったのよ。ほら、おじさんが…せっかく来たんだけど」

 

寿美子「でも、偶然ですわね。お互いにお見舞いに来た人がいなくて、ばったり行き合ったんですもの。それがまた今日はお父さんにばったりですもの」

寿美子は何も知らずにニコニコだけど、良子も小川も焦ってる!?

 

寿美子「お父さんはどこがお悪いんですか?」

小川「やあ…それがですね、初めは心臓が弱ってましてね」

寿美子「心臓ですか?」

小川「ええ」

 

良子「今はもうなんともないのよね?」

小川「うん。そのほうはいいんですけどね。やっぱり年ですね、血圧が上がったり下がったり。それに時々、胃の具合も悪くなりましてね」

寿美子「あら、胃がお悪いんですか? それで…」

良子「いや、それが問題なのよね。血色は良すぎるし、栄養だって随分回ってるみたいだしね」

寿美子「そう。顔だって、頭だってツヤツヤしちゃって」

小川「いや、頭はしょうがないでしょう」

 

そういえば、初回はつるつるに剃ってたように見えたけど、回を追うごとに側頭部など髪が生えてきてるように見える。頭頂部はツヤツヤ。だけど、このドラマが終わって約1年後に三島雅夫さんは亡くなってるんだよな。こんなに元気そうなのに。

 

良子「だけど、1年半いるのは大変よね」

寿美子「まあ、1年半ですか?」

小川「情けないですねえ、こんな病院暮らしで…」

 

勉「よっちゃんどうした? 電話かけたの?」

良子「びっくりするわよ、いきなり」

 

勉の顔を見て驚く寿美子。

勉「よっちゃん、驚いたのはこっちのほうだよ」寿美子の顔を見て近づいてくる。

寿美子「失礼いたしました。ごちそうさま。おいくらですか?」

良子「60円です」

寿美子「はい」テーブルに小銭を置き「お邪魔さま」と立ち上がる。小川に「どうぞお大事に。ごめんください。さよなら」と帰ろうとするが、勉が止める。「ちょっと待ちなよ」

 

寿美子「いいえ。もうなんにも言わないでください。もともとあなたとはなんの関係もないんですから」

勉「ないことはないだろう?」寿美子の肩をつかむ。怖い!

寿美子「ありませんよ。勝手にそっちがそう思ったんじゃありませんか」突き飛ばして立ち去る。

 

勉「おい! ちょっと待てよ!」

良子「あきれたわね。あんたってやっぱり不良ね」

勉「冗談じゃないよ。不良はあっちのほうだよ」

良子「ウソよ。あの人、そんな人じゃないわ」

勉「違うんだよ。あいつ会うたんびに俺のこと突き飛ばすんだ」

良子「突き飛ばされるようなことするからでしょ」

勉「違うったら!」

 

貼り紙が変わってるんじゃなく座ってる位置が違うだけか。←方向音痴です。

 

小川「まあまあまあ、もめないでもめないで。ねっ?」

勉「すぐプリプリするんだから。人の話も聞かないで」

良子「聞きたくないわよ。お兄さんに電話しときますからね」売店を飛び出す。

勉「おい、ちょ…ちょっと待てよ。兄貴に何を電話すんだよ!」

 

小川は、まあまあとなだめ、そこへお掛けなさいと掛けさせる。

勉「どうして女ってヤツは、こう、分からず屋で強情なんだ?」

小川「まあ、そこがいいとこじゃないんですか? なんでもない人にね、すねたり、強情張ったりはしませんからね」

勉「ここへ来るといつもあれなんだ」

小川「あれじゃないの? ねえ、そうなんでしょ?」

勉「なんだい? あれって」

小川「君が好きなんでしょ?」←さっきまで泣いてたのに、ニコニコ。

 

勉「とんでもない。あんなヤツ、真っ平だよ」

小川「でも、いいですよ。青春時代はもめたり泣いたりで。でも、若い人の人生は先が長いですからね」

勉「先のこと考えたら憂鬱になるだけさ」

小川「いけませんよ、そんなことを言っちゃ。私なんてもう消えかかっている、ともし火と同じなのに、それでも精いっぱい明るく燃えようとしてますからね。寂しくっても心細くっても、それが命なら大事にしますよ」

 

今回はここまではずーっと売店だったんだ。すごい!

 

クラシックな喫茶店の2階席

良子と正司が向かい合って座る。ほかの患者の前でベニスにいる息子はウソじゃないと見せつけてやってほしいと正司に頼んでいる良子。

正司「ウソのまたウソだからな。そんな器用な芝居、僕にはできないよ」

良子「できます。それぐらいのことができなくてね、どうして旅行社のガイドが務まんの? 野暮天の田舎のお客さんだってニコニコ笑って案内してるくせに。お芝居してなきゃね、そんないい顔できないと思うわ」

正司「痛烈だな、君は」

良子「そりゃそうよ。一生懸命ですもの」

正司「でも、それとこれとは違うからな」

良子「そりゃ違うでしょ。多少はね」

正司「多少じゃないよ」

 

良子「だって、たったひと言、お父さんって言ってあげればいいのよ」

正司「それが困るんだよ」

良子「強情ね」

正司「じゃあ、君だってそうじゃないか。人前で僕のことをお兄さんって言えるかい?」

良子「なんだ。そんなこと簡単よ。言えるわよ、今だって。もう何度だって言えるわよ」

正司「いいよ、いいよ。今、言わなくたって」

 

良子「だったら…お父さんって言ってよ。ねえ、お願い。私、あの人が気の毒でしょうがないの。たった1人の話し相手が死にそうなんですもの。泣いてたのよ、今日、売店に来て。私だって気の毒になって涙が出ちゃったわ」

正司「そりゃ、気の毒なことは気の毒だけどさ」

良子「あのベニスからの絵葉書をそれこそ肌身離さず持ってるの。だから、あなたがこの間、お店へ来たとき落としちゃったでしょ? うちの店先に」

 

正司「でもね、よっちゃん。こういうウソは長くは続かないよ」

良子「あら、どうして続かないのかしら?」

正司「いつかはバレるよ。バレたときにあの人はもっとかわいそうだよ」

良子「そうかしら?」

正司「ウソにもいろんなウソがあるけどさ、これは少しひどすぎるよ。病室にいる患者ばっかりだったらまだいいけど、そうはいかないだろ? 看護婦さんだって先生だって、みんなをだまさなきゃ、うまくいきやしないじゃないか。だって、息子ならさ、ベニスから帰ってきたんなら、いろんな人にお礼を言って回らなきゃ変じゃないか」

良子「そりゃそうだけども…」

正司「そんなこと僕にはできないよ。無理な注文だものなあ。ベニスから絵葉書を出すとき、お父さんと呼びかけたのが精いっぱいだったよ」

 

良子「じゃあ、どうしてもダメね?」

正司「君の気持ちは分かるけどさ」

良子「悪かったわね。わざわざこんなとこでごちそうになっちゃって」

正司「いやいや、悪かったのはこっちだよ。いつも弟がお世話になってるのに」

良子「じゃ、もう帰りましょうか」

正司「そうね」

 

六本木を歩く正司と良子。正司は「がっかりしないでよね」と良子に言って別れた。

 

しかし、なぜかがっかりしたように寂しかったのは正司のほうです。この雑踏の中の孤独にその人の寂しさがにじんできたのです。そのときです。

 

アマンド前の交差点を歩く正司。

 

⚟良子「お兄さん!」

 

振り向く正司。

 

その声は空耳だったのでしょうか。

 

また歩き出す正司。

 

⚟良子「お兄さん! 正司兄さん!」

 

その声は空耳ではありませんでした。ささやかな真心が一生懸命に呼びかけていたのです。

 

六本木のバス停付近を歩く正司。(つづく)

 

ツリーっぽい飾りもあって、2月の放送だけど、撮影は年末だったのかもしれない。

 

正司がど正論の常識人だなあ。でもいい人故に悩む、みたいな?

 

来週月曜は朝7:30から「おやじ太鼓」の再放送と夕方17:00から「太陽の涙」。4時台にBS11の橋田ドラマの再放送がなくなった今となっては16:30でもよかった気がする。

 

橋田ドラマの「心」の再放送が始まったのが去年の4月3日か。1年は早い。

 

今日のキャストクレジットの男性はどっちかが三吉野の配達員でもう一人は喫茶店のウエイターかな? また出てきたら分かるんだけどな。