公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)は編集長の福井(三木弘子)から急に電話で呼び出される。元子は覚悟を決め、道子(荒川真美)に「明日からはもう、そんなにお出かけしないで済むようになる」と家を出るが、編集室にはテレビ局のプロデュ―サーたちがいた。元子がリライトした実話手記をドラマ化するので、オリジナル部分について許諾が欲しいという。クビになると思って来た元子はあっけにとられるが、いっそ脚本を書いてみないかと誘われ…。
今日は原日出子さんの次が宮本信子さんで鹿賀丈史さんの名前なし。
昼、大原家茶の間
元子がアイロンがけ、道子が畳む。
大介「ただいま」
元子「あっ、お帰り。すまないけど、人形町のおじいちゃんのとこ、お使い頼まれてくれない?」
大介「いいよ」
夜、吉宗
大介「こんばんは」
⚟宗俊「お~う」
店の奥から宗俊が出てくる。「おう、どうしたい? 何のお使いだ?」
大介「松江から梨を送ってきたから、そのおすそ分けだって」
宗俊「あ~、そりゃ重かったろ。ご苦労さんだったな。おい、トシ江。トシ江!」
トシ江「聞こえてますよ。そんな大きな声出さなくたって」
大介「はい、おばあちゃん」
宗俊「近頃はな、おめえ、少し耳が遠くなったんじゃねえかと思ってな」
トシ江「そりゃ、まあ、ご親切にどうも。けど、耳が遠くなると声が大きくなるっていいますからね」
宗俊「何だと?」
トシ江「さあ、大介、お上がりよ。おじいちゃん、今、仕事上がったところだから」
宗俊「おう、上がれ上がれ」
大介「でもまた今度にする」
宗俊「するってえと親はまた留守か?」
大介「いや、珍しくうちにいた」
宗俊「ハ~ッ、珍しくだとよ。な。子供が素直だからいいけどよ、ろくすっぽ構ってもやらねえで、おめえ、大介がグレでもしたら親はどうするつもりなんだい」
トシ江「めったなこと言わないでくださいよ」
大介「大丈夫だよ。僕が手伝わなきゃ、お母さん何もできやしないんだから」
冗談っぽく話してるけど、こういう感じの考え方が嫌なんだよ。道子に対しても常に「バカだなあ」ばっかりで。宗俊やトシ江の前では素直な孫ぶるし。
宗俊「さすが、俺の孫だ。な。出来が違うんだ、この孫は」
トシ江「でも孫は一人(しとり)じゃ出来ないんですからね。ねえ、福代さん」
⚟福代「はい!」
トシ江「冷蔵庫の上にね、人形焼があるから、それちょいとね、こっちに持ってきてちょうだいな」
⚟福代「は~い」
戸棚を漁っていたトシ江。「大介。これ、お駄賃ね」手にお札を握らせる。
大介「いいよ、こんなたくさん」
宗俊「いいから、もらっときな。どうせな、うまいことため込んだ、おばあちゃんのへそくりだ」
大介「だって、お母さんに叱られるもん」
トシ江「大丈夫よ、その時はね、おじいちゃんがちゃんと代わりに叱られてくれるから」
宗俊「ああ、おめえの後ろには、おめえ、河内山がついてるんだ。遠慮なくもらっとけ。本でも買いな」
大介「はい。じゃ、ありがとうございます」
福代「これですね、お義母(かあ)さん」
トシ江「ああ…あっ、そうそう。はい、ありがとう。これね、よろしくってね」人形焼を入れた紙袋を渡す。
大介「はい。じゃ、さようなら」
宗俊「ああ、車に気ぃ付けろよ」
大介「はい」
トシ江「気ぃ付けてよ」
吉宗前の路地を走っていく大介を店から出て見守る宗俊。「ハハハ…。一緒に住まねえのが玉にきずだが、いい孫だ」
トシ江「でも、まあ一緒に住んでくれる孫はね、福代さんが産んでくれますから」
宗俊「えっ! するってえと…」
福代「すいません。まだなんです…」
宗俊「何だ、おい、がっかりさせるじゃねえか。順平は真面目にやってんのか、順平は!」
トシ江「何ですよ、店先でまあ、そんな大きな声出して、もう」
宗俊「声の大きいのは俺の地声だい。おめえも頑張れ!」
福代「はい…」
今の時代、完全にアウトな会話。
大原家茶の間
元子「はい…でもお急ぎなんでしょうか? そうですか…。それではすぐに伺いますので。はい」
ダイニングテーブルに食器を出しながら何となく会話を聞いていた道子。「お出かけなの?」
元子「ごめんね。今日は、もうずっとおうちにいられると思ってたんだけど…」
道子「大丈夫よ。道子、お留守番しているから」
元子「じきにお兄ちゃんも帰ってくると思うから、ごはんもすぐ食べられるし。それに…明日からは、もうそんなにお出かけしないで済むようになると思うのよ」
道子「どうして?」
元子「うん…帰ってきたら、ちゃんとお話ししてあげるわ」
道子「うん」
女性時代編集部
(株)大日本テレビ
第3制作局プロデューサー
佐藤 規夫
↑差し出された名刺
福井「こちら大日本テレビの佐藤プロデューサー。こちら、ディレクターの青根さん」
青根「どうも、青根です」
元子「大原元子です。どうも」
福井「じゃ、どうぞ」
佐藤「実は私どもでは夜の9時に主婦と家庭を対象にしたホームドラマの番組を作ってるんですが、まあ今日は、その新しい企画のことでお伺いしたんです」
元子「はい」
福井「ほら、先月号の実話手記の『我が母の歌』、あれを原作にっておっしゃって見えたの」
元子「まあ」
佐藤「まあ、拝見しましたけども、実にいいお話ですし3か月の連続ドラマとしては5人の子供が次々に育っていくのが感動的だし、殊にその中で母親が子育てに自信を失った友達に…子育ての自信なんて初めからあるもんじゃない育てているうちに自然に生まれてくるものだ、それに子供は親に育てられてばかりいるものとは限らない、時には子供が親を育てていく、こういうところがありますよねえ」
元子「はい」
佐藤「これがこのドラマのテーマだと思うんですよ。で、是非、ドラマ化権を譲ってもらいたいと編集にお願いしましたら、この部分は大原さんの創作だとお聞きしたものですから」
元子「あ…はい」
福井「普通、この種の投稿手記は賞金を支払った段階で著作権はうちに所属するものですけれども素人さんの場合は、こうしてリライトをする人が中に介在しますし、それもかなり力のある人となりますとね、そのオリジナル部分については本人の了承を得ておきませんと」
元子「でも、やはり元の手記があってのことですし」
福井編集長がテーブルの下で元子の足を蹴る。
元子「あっ、でも、あの…今、おっしゃっていただいた部分は、私が常日頃、子供と暮らしていて感じていることですので感激です」
佐藤「なるほどね。それで実感があるんですねえ」
元子「ありがとうございます」
福井「じゃあ、そのテーマさえ、きちっと捉えていただければ、あれ、お渡ししていいわね」
元子「ええ、はい」
佐藤「どうですか、いっそのことドラマの脚本を勉強する気はありませんか」
元子「は!?」
佐藤「近頃はテレビでも女性のシナリオライターが活躍してましてね、大原さんにはまんざら知らない世界ではなし、もし、その気がおありでしたら誰か一人ベテランをつけてということも可能なんですが」
元子「はあ…でも一応、編集長とも相談いたしまして」
佐藤「そうですか。それじゃまあ、なにぶんひとつよろしくお願いします」
佐藤…多田幸男さん。たくさんドラマに出演されてて「おしん」84話も。
青根…加賀谷純一さん。「おしん」103,104話や、「澪つくし」で刑事、「はね駒」でりんの同僚社員などなど。それにしても「おしん」出演率高いな~。
小山内美江子さんは1962年にNHKで最初の脚本を書いた。橋田壽賀子さんも映画からテレビの世界へ。
橋田壽賀子さんの白黒単発ドラマも見たよ。「マー姉ちゃん」の三郷さん、若い頃もかっこよかったな~。
夜、大原家ダイニング
大介と道子だけの夕食。
大介「ごちそうさま」
道子「お代わりしなきゃ駄目って、お母さん言ってたわよ」
大介「いいよ、人形焼き食うから」
道子「変なの」
大介「変でもいいんだよ」
道子「じゃあ、私はおかずにしちゃう」←箸で人形焼を取り、ごはんに乗せて食べ始める。
大介「バカ、人形焼がおかずになるわけねえだろ」
道子「ならなくてもいいの」
大介「お母さん、今日も遅いのかなあ」
道子「今日は本当はうちにいる日だったんだって」
大介「当てになるもんか」
道子「どうして?」
大介「ルポライターだもん」
道子「いいわよ、意地悪ばっかり言うんだから」←これが大介の本質。
電話が鳴る。電話に出ようとしない大介を一瞥して、道子が茶の間へ。
道子「はい、大原です」
宗俊「おう、道子か。おじいちゃんだ。お母さん、呼んでくれ」
道子「まだなの」
吉宗
宗俊「何だ、まだか。それじゃ、お父さんでもいいや」
道子「お父さんもまだ」
宗俊「で、おめえたち2人だけか?」
道子「はい」
宗俊「飯は?」
道子「今、食べてる」
宗俊「なんてこった…冗談じゃねえやな、おい! 子供たち2人をほ…放りっぱなしにしやがって親たちは一体何をしてやがんだ!」
道子「分かんない」
宗俊「いい、いい…おじいちゃんな、今、そっち行ってやるから待ってなよ」
大原家茶の間
宗俊「え、お母さん帰(けえ)ってきたらな、おじいちゃんがとっちめてやるからな」
元子「ただいま」
道子「あっ、帰ってきた。ちょっと待っててね。お母さん、おじいちゃんから」
元子「はいはい。もしもし、元子です」
宗俊「この時間まで何をしてやがったんだ」
元子「すいません、ちょっと雑誌社へ呼ばれたもんですから。秀美堂さんたち、ご都合決まりました?」
吉宗
宗俊「バカ野郎! そのことで電話してんじゃねえか、え。夜遅くまで遊びほうけやがって…」
友男「何も遊んでいたとは限らねえだろ」
宗俊「横からゴチャゴチャうるせえんだよ」
友男が受話器を取り上げる。
宗俊「この野郎!」
友男「俺だよ、中の湯だ。いやぁ、この度はどうもありがとう。うん…そんで明日の晩はどうだろうな? うん、うん…いや、ちょうどこっちはね、3人とも都合がいいんだよ。よろしく頼むよ。うん。うん」受話器を置く。
宗俊「おいおいおい!」
巳代子「お茶が入りましたよ」
友男「おう」
宗俊「何がおうだ。てめえのうちのような返事のしかたしやがって、この野郎」
桂木家茶の間
藤井「しかし、どんな対談になるのか楽しみですね」
友男「そんでよ、明日、何着たらいいんだろうな?」
トシ江「だって、本に載るんでしょう?」
友男「うん」
トシ江「テレビじゃないんだから別に着るものは…」
巳代子「写真ぐらいは撮られるわよ」
藤井「あ~、そうそう、そうですよ。カメラマンなんか来ましてね、パ~ッとこうフラッシュたいたりして」
友男「おっ…おい、カメラマンとフラッシュだとよ」
宗俊「ハハ、俺ぁな、2人もおめえ引き立て役がいるからよ、どっから撮られたって構わねえやな」
笑い声
友男「このぉ!」
弘美「けんかは駄目!」
笑い声
弘美…萩原幹子さん。情報出てこないな~。
大介の部屋
ツイッターですぐ曲名が出てくる人、すごいなあ。この曲はカバー曲なんだね。そして、大介がポール好きなのも分かってしまうらしい。
そういや、先日の「This Boy」の邦題が「こいつ」なのちょっと面白い。
文机に正座して勉強している大介。
⚟元子「大介、ちょっと入ってもいい?」
大介「ああ、いいよ」
元子「ねえ大介、ここんところ時間もなくて、あんまりゆっくり話もできなかったけど、お母さんも気にしてたのよ。実はね、今日、お母さん、クビを言い渡されるつもりで出かけてったの。言われた仕事、断ってしまってね」
大介「どうして?」
元子「うん…大介や道子の母親としてやりたくない仕事だったから。戦死した正大伯父さんがお母さんに残してくれた本の中にね、『魂の自由を売り渡してはならない』っていう言葉があるの。お母さん、それをね、いくら仕事だからってやってはいけないこともあるんだっていうふうに考えたの。あなたたちにも随分、いろいろと不自由かけてきたけど、それだけにあなたたちの母親として誇れる仕事をしようと思ってきたわ。読者が少しでもいいものに目を向けてくれるっていうことは、やがて大介が出ていく社会が少しでもよくなることにつながる。お母さん、そう信じてるもの」
大介「それで…クビになったの?」
元子「ううん、残念ながらっていうか編集長には、お母さんの気持ちよく分かってもらえたみたい」
大介「ふ~ん」
元子「いろいろな人(しと)に会うっていうことは、いろいろな人生や社会を知るっていうことでしょう。だから、できることなら、今はお母さんルポライターの仕事を続けていきたいのよ。そのかわり、大介には、はっきりと約束するわ。確かにこの時期、お風呂掃除をやる中学生はいないかもしれない。お帰りなさいって迎えてくれる母親がいないのは道子も寂しいに違いない。だから、そういう思いをしているあなたたちに対して、お母さん、それに値する仕事をしていくわ。約束します。昔のことは持ち出したくないけど、巳代子叔母さんだって、あなたの年には学校工場へ動員されて、お国のために働いていたし、お風呂掃除どころか買い出しにまで行った人もいるわ。少年兵で戦った人もいる。でもね、もう二度とそういう時代は嫌なの。決して子供たちのためにならない仕事はしないし、むしろそうじゃない世の中で人が人の不幸に手を差し伸べていけるような、そういう仕事をしていきたいって思っているの。だから、お母さんが書いてきたものをもう一度読み返してもらいたいの。なぜ、鶴見事故の時に命の大切さを一生懸命書いたのか、なぜお母さんがこの仕事を続けたいと思っているのか分かってもらいたいわ」
大介「うん…」
元子「ありがとう。じゃあ、またゆっくりと時間をかけて話し合いましょう」
大介「はい」
元子「じゃ、頑張って」
大介「はい」
親子の話し合い。多分、大介はこうした親とのつきあいが欲しかったに違いありません。
つづく
ツイッターでビートルズの曲名が分かるのはありがたい。でも自分本位だ何だという感想が目に入って…元子がヒロインのドラマであっても、子供を最優先に考えないといけないんだね。あ~あ、と。