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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(59)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

8か月のお腹になった元子(原日出子)は、カボチャを持ってウロウロしてキン(菅井きん)に叱られる。トシ江(宮本信子)と店に立つと藤井(赤塚真人)がふらりと現れ、正道(鹿賀丈史)は留守だというと、小豆とサッカリンが手に入ったから「氷あずきにして巳代子さんと食べてください」「巳代子さんによろしく」と巳代子を何度も口にしながら去っていく。そこへ正大と同じ部隊にいたという男・草加(冷泉公裕)が来る。

セミの声

 

夏がやって来ました。相変わらず空き地の畑はカボチャ、カボチャの大合唱。その畑に立てられた立て札から当時の世相をご紹介しましょう。

 

「このカボチャのうち、どれか一つに青酸カリが注射してあります」。この畑、当然、被害なし。

 

「誰が食べてもよろしい。ご自由に」。この畑もなぜか全く被害なし。

 

「作る身にもなってくれ!!」。この畑、残念ながら全滅。そして脇に「盗る身にもなってくれ!!」と書いてあったそうです。

 

当時の世相ニュース好きだわ~。

 

そして、元子のおなかの方は、このとおり順調に大きくなっておりました。

 

桂木家の台所にカボチャを運んできた元子。「どっこいしょ」

キン「あ~、駄目ですよぉ。まあ、でっかいおなかででっかいもん持ってね、つま先見えなくて、つまずいて転びでもしたらどうすんですよ」

元子「大丈夫よ。お産は病気じゃないんだからまめに体を動かせって言ったのおキンさんじゃないの」

キン「重いもの持つ時は話が別ですよ」

元子「はいはい。よいしょ」

キン「ハハハハ…」

 

元子「ねえ、今日、お昼(しる)カボチャだんごのすいとんにしようと思うんだけど、こっちで一緒に作ろうかな」

キン「はいはい、それは結構でございます。あっ、そういや、お嬢の放送でしたよね、あれ」

元子「何が?」

キン「ほれ、カボチャをおいしく食べるってやつ」

元子「ああ」

キン「早いもんですねえ。あれから1年。この秋にはお嬢はもうおっ母さんになっちまうんですからね」

元子「本当…」

キン「まあ、せいぜい食べてね丈夫な子を産んでもらわないと、ハハハ。よっこいしょ」流しでカボチャを洗い始めた。

元子「あれから1年…。あんちゃんが出てってから2年…」

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吉宗前の路地

網を持ってセミ取りをしている子供たちの脇を通る藤井。

子供「あっ、逃げた」

子供「あっちだ」

子供「どこ? どこ? どこどこ?」

子供「あっちだよ、あっちあっち」

 

吉宗

藤井「こんにちは」

元子「まあ、藤井さん」

トシ江「まあ」

元子「あの、主人なら会社の方ですけど」

藤井「いえいえ、ちょっとこっちの方まで来たもんですから。その後、調子はいかがですか」

元子「ええ、おかげさまで」

藤井「あっ、そうですか。暑いから大変でしょう」

元子「まあ」

藤井「もう一息ですから頑張ってくださいよ」

元子「どうもありがとうございます」

 

藤井「それで、小豆が手に入ったんで少しですけど持ってきましたよ。ついでにサッカリンも調達してきました。氷小豆にでもして巳代子さんと一緒に食べてください」

トシ江「まあ、いつもわざわざすいませんですねぇ」

藤井「あっ…。それじゃ私はこれで」

トシ江「あっ、あの、ちょっと冷たいもんでも」

藤井「いえいえ、また伺いますよ。商売商売。巳代子さんによろしく言ってください」

元子「はい。どうも…」

藤井「失礼します」

トシ江「どういうんだろうね、あの人(しと)」

 

このドラマに度々出てくる「どういうんだろうね」というフレーズ、最近聞かないし、懐かしい。今で言うと何考えてんだろ的な感じだよね。

 

元子「お体どうですかって、おととい正道さんと一緒に来たばっかりなのよ。本当、何かうさんくさくて」

トシ江「元子」

 

帰っていった藤井は路地で子供たちと一緒にセミ取りをしていた。

子供たち「やった! よし!」

子供たちから歓声が上がる。

 

何となくうさんくさいブローカー、藤井は相変わらず正道の仕事のいい相棒のようでしたが、宗俊もまた…

 

桂木家茶の間

宗俊「いや~、どこの紺屋でもよ、今、もう生地がなくてヒーヒー言ってるんだ。そこで俺もついな口きいてやろうっつっちまったんだ。ま…あんたからさ、藤井さんにまた口きいちゃもらえまいかな」

正道「いいですよ。じゃあ、明日にでも連絡取ってみましょう」

元子「でも大丈夫なのかしら」

宗俊「何がだよ」

元子「うちは幸い何にもなかったからいいけど、よそさんを世話してもし間違いでもあったら」

正道「大丈夫だよ。あいつは信用できるやつだから」

トシ江「信用してないからそう言ってるのに」小声でボソッ。

宗俊「何だって?」

トシ江「いえ、別に」

 

東島「おう、こんばんは!」

トシ江「あら、東島さん、まあ。うちは闇なんかやっちゃいませんよ」

東島「いやいや。そげんこつで来たんじゃなかよ」

トシ江「あら、何でしょう?」

東島「いや、実は交番にお宅を訪ねてきた人がおったもんじゃから、民主警察としては親切第一、案内してきたところたい」

東島「さあ、あんた」

見知らぬ復員兵の男が立っている。

 

トシ江「どちら様でしょうか?」

草加「(敬礼して)自分はフィリピンで桂木正大(せいだい)君と同じ部隊におりました、草加国明と申します」

 

布の上に置かれた迷子札

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宗俊「ああ…」

トシ江「そうです…。これ、間違いなく正大の迷子札です。まあ…」

宗俊「で、あんた…正大の最期を見届けてくだすったってぇわけですかい」

草加「はい。実に帝国軍人にふさわしい壮烈な戦死でありました」

 

元子「教えてください。兄はどんなふうにして戦死したのか」

トシ江「いけないよ。ねえ、大原さん、この子を向こうへ連れてってくれ」

元子「私は大丈夫」

トシ江「普通の体じゃないんだから。ね」

正道「さあ、元子」

元子「大丈夫だってば。ちゃんと聞いた方が後でいろいろ考えて眠られなくなるより、ずっといいわ。本当に大丈夫」

 

宗俊「構わねえから。ね。あいつはどんなふうに…?」

草加「自分と桂木とは並んで最後の一斉突撃に出発しました。ご承知だと思いますが、米軍の勢力は我が軍を圧し、集中砲火がものすごく、自分らはもとより生還を期しておりませんでした。運命の皮肉か敵弾は桂木君を倒したのです。自分は奇跡的に一命を取り留め、せめて、この札だけでもご遺族の方にとそう思い、郷里に復員しましたが、本日、思い切って上京してまいりました」

宗俊「ありがとうございました」

トシ江「ありがとうございました…」

 

宗俊「で、正大は苦しみましたでしょうかねぇ」

草加「いや、苦しまなかったと思います」

元子「で、何か草加さんに言い残したことでも?」

草加「『天皇陛下万歳』…」

宗俊「あっしらには何も?」

草加「はあ…」

 

トシ江「あの、撃たれたのはどこなんですか? 胸なんですか? おなかなんですか? どこなんです? ねえ」

宗俊「あの、え~、正大のやつはいつ…何日にやられたんでしょうか」

草加「えっ?」

トシ江「命日です」

草加「あっ…3月12日の夜です」

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公報でも3月12日と書いていた。

 

宗俊「3月12日」

正道「フィリピンの何島でしたか?」

草加「レイテです」

正道「そうですか。そのころレイテでもそんなに激しい戦闘があったんですか」

草加「いや、既に我々は弾薬もなく、ジャングルに逃げ込んでましたがね」

トシ江「食べ物もなかったんでしょうねえ」

草加「はあ」

トシ江「かわいそうに、あの子…」

宗俊「そんなこと言ったって、お前、きりがねえやな、え。こうしてお前、最期を見届けてくれたお人がいただけでもな、正大は幸せだったんだぜ、え」

 

草加「あっ、あの…自分と桂木とは苦難を共にした仲でありますから、自分でもこういうことを言うのはつらいんでありますが、せめてこのことだけでも自分の口からとそう思いまして」

宗俊「本当にありがとうございました。で…正大の死んだのはどんな所で?」

草加「いや…ですから最後の一斉突撃の時にですね…」

 

正道「カリガラですか? それともブラウエンの方ですか?」

草加「あんた、一体…」

宗俊「この人はね、あっしの娘婿でして正大の先輩でね、中学がおんなじでこの人は士官学校へ行ったんですが幸い、内地にいたもんですから」

草加士官学校ですか?」

正道「そうです。自分の同期にもレイテへ行った者がおりますので、できるだけ正大君の戦闘状況が分かればと手を尽くしていたんですが、こうやって戦友の方に訪ねていただいて本当に感謝しております。実は公報では比島方面においてとだけでしたので本当に戦死したものかどうか家族としては納得できませんし、詳しく教えていただきたいと言ったのはそういう理由です。よろしかったらもう少し話していただけませんでしょうか。我々も復員庁と連絡を取り合って、ご遺族のためにも当時の様子を記録することになっています。すいません、お義母(かあ)さん」

トシ江「はい」

正道「書くものと紙を」

やべ~みたいな表情の草加

正道「昭和20年の3月12日、夜でしたね。そのころは夜間の戦闘はもう行われていないと聞いていましたが、そうですか、そういう部隊もあったんですねえ。で、正大とは最初から同じ隊だったんですか?」

 

草加「すいません。うそを…うそを言うつもりでやって来たんではないんです」

宗俊「あんた…?」

草加「その迷子札は拾ったんです」

トシ江「拾(しろ)った?」

宗俊「だって、今、あんた…」

草加「ええ…レイテから復員したのは本当なんです。その札はジャングルに逃げ込む時に拾ったんです。ですから、その札の持ち主が亡くなってれば遺品に間違いないから、ご遺族の方に届けようとそう思いまして…。立派な死に方だったとそう伝えれば安心してくださると思いまして…。決していいかげんなこと…作り事を言いに来たんじゃないんです。自分は口下手ですし、士官学校出の方に問い詰められたら、つじつまが合わなくなって、ぼろが出ることは分かってますから。いや…すいません!」

 

トシ江「じゃあ正大はまだ死んだってわけじゃないじゃないですか! え! どうなんです!」

宗俊「もういい…もういい。草加さんとおっしゃいましたね。本当にありがとうございました」

頭を下げていた草加が顔を上げる。

元子「お父さん」

宗俊「帰(けえ)ってきたんだよ、正大は。こいつを…この迷子札を持っていったおかげで。この人に…こいつと一緒に連れて帰ってきてもらったんだ。なあ、正大」

泣き崩れるトシ江。

 

仏壇からりん棒が落ちた。宗俊が拾い上げて仏壇に手を合わせる。トシ江も手を合わせた。宗俊のでっかい手とトシ江の小さな手をまじまじ見てしまった。

宗俊「見ろ。やっぱり正大は帰ってきた。なあ、俺がお前、意地張ってよ、葬式も出さねえでいたんじゃ正大も浮かばれねえやな。石ころが帰ってきたところで、お前、しかたがねえが、それがお前、肌身につけていたお札が戻ってきたんだ。この札を骨(こつ)だと思って墓に納めてよ、3月12日を命日とすりゃ、これでやっと幕が引けるってもんだ。なあ、正道っつぁん」

正道「はい」

宗俊「草加さん、せがれを連れて帰ってくれてありがとう。このとおりだ」頭を下げる。

トシ江「ありがとう存じました」

草加も手を合わせて頭を下げる。

 

仏壇に供えられた正大の位牌と遺影。手を合わせるトシ江と元子。

 

戦死の公報が入って6か月目。帰ってきた迷子札によって正大の葬式はしめやかに営まれ、ようやく心の区切りをつけた宗俊一家でした。

 

つづく

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

草加…冷泉公裕さん。

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おしん」では161、162話出演。この内容だとおしんにタンカを切られたやくざ者だろうか? 「KANO」では嘉義農林の校長役だそうで。

 

しっかり者のトシ江が正大のことになるとガタガタになってフォローするのが宗俊というのがいいねえ。迷子札が登場した時からフラグっぽいとドラマを見慣れた者なら思ってしまうけど、「マー姉ちゃん」の三吉君だって苦労人で志願して兵隊になってフラグ立ちまくりだったけど帰ってきたからね。宮本信子さんの演技が泣ける。