公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
日本の敗色が濃くなり、食糧事情はいよいよ厳しく、あらゆる空地でカボチャが作られるようになった。元子(原日出子)はカボチャのおいしい食べ方を放送し、トシ江(宮本信子)は早速それを作るという始末だった。そんな中、広島に大型爆弾が落ち17万人もの死者が出たという一報が放送局に届く。そしてその3日後、長崎に2発目の新型爆弾が落ちた同じ日、正大のいる満州に、突然ソ連が攻め込んできたと報じられ…。
ラジオから「出征兵士を送る歌」が流れる。
梅雨が明けて7月。お米の配給は月に僅か1人当たり5日分。食糧事情はますます悪くなるばかりの夏でした。
路地の掲示板には「一寸の空地も無駄なく増産」
桂木家の広い裏庭もとうとう畑に。
トシ江「よいしょ」バケツに水をくんできた。
ラジオ・元子の声「生田大三郎作詞、林伊佐緒作曲『出征兵士を送る歌』でした。では続いて、今日は、かぼちゃのおいしい食べ方について米村浩子先生にお話を伺います」
トシ江「あっ、かぼちゃ」
ラジオ「では…」
放送室
元子「米村先生、よろしくお願いいたします」
米村「それでは今日は、かぼちゃを積極的に主食と考えまして、かぼちゃだんごの作り方をご紹介しましょう」
元子「かぼちゃだんご、おいしそうですね」
米村「まず、かぼちゃは、ゆで上げまして、よくすり潰しましたら、つなぎに代用粉を使います」
元子「はい」
米村「代用粉は小麦粉と違って粘着力が弱いですから、代用粉を主とした場合は、かぼちゃの方がつなぎになると考えてもよろしいんです」
元子「なるほど。そうしますと、やわらかで滑らかなおだんごが出来ますね」
米村「そうなんです。ですから、これを好みの大きさにまとめまして、ゆでてこのまま召し上がってもよろしいですし、すいとんにしてもよろしいというわけです」
元子「すると、目先も変わり、主食と副食を兼ねたかぼちゃ料理が出来上がるというわけでございますね」
米村「はい、そのとおりでございます」
遠目に全体と後ろ姿しか映らなかった米村浩子さんは、オープニングを確認すると北川智繪さんが演じてました。私にとっては、「3年B組金八先生」第2シリーズの青木繁好の母でおなじみ。「マー姉ちゃん」にもウラマド姉妹のご近所さんで噂話好きの主婦・年子役としてちょっとだけ出ていた。改めて見返すと特徴的な声だね。
台所
トシ江がすり鉢でかぼちゃと代用粉を混ぜている。すり鉢を押さえているのは巳代子。
トシ江「ほら、ちゃんと押さえててよ」
巳代子「大丈夫なのかなあ。お姉ちゃんが放送したお料理なんて」
トシ江「大丈夫に決まってるじゃないの。私がかわいがってかわいがって大事に育てたかぼちゃなんだから」
巳代子「まるで私よりかぼちゃの方を大事に育てたみたいな言い方」
トシ江「そりゃそうですよ。だって、この子はね、みんなのおなかをいっぱいにしてくれるんだもの。それはそれは親孝行ですよ」
巳代子「あ~あ、かぼちゃと娘を比べるなんて」
トシ江「ねえ、ちょいとね、代用粉取ってちょうだい」
巳代子「はい」
宗俊「おい、今帰(けえ)ったぞ」
トシ江・巳代子「お帰りなさい!」
巳代子「ねえ、見て見て。これ、我が家の収穫なの」
トシ江「ねえ、今日ね、元子がね、おいしいかぼちゃの食べ方っていう放送やったんですよ。だから今、早速、それやってるところ。はい、ご苦労さん」
宗俊は渋い顔で裏庭へ。
↑宗俊は「はばかりながら江戸っ子はなトウナスと芋は食わねえことになってんだい」って言ってたし、嫌いなんだよね~。トウナス=かぼちゃ
裏庭
彦造「いや、お嬢も近頃、なかなかおつな放送なさるようになりましたねえ」
宗俊「チッ、てめえまで調子くれるんじゃねえや」
彦造「だからって、ふくれたってしょうがねえでしょ」
たとえ宗俊の好みではなくともかぼちゃこそまさに自給自足のチャンピオン。当時、あらゆる路地、空き地、焼け跡は、かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ畑の時代でした。nordot.app
国会議事堂前の畑、インパクトあるねえ~。でも芋畑なんだ。
ところが、元子、アルミ盤代わりの海外放送では、ある戸惑いを感じていました。7月も終わりの頃です。
放送員室
立花「風邪かね?」
元子「いえ」
立花「全然、声に張りがなかったよ」
元子「はい」
立花「なげやりだとは言わないが、今日の読みには若さがなかったな」
元子「申し訳ございませんでした。質問してもよろしいでしょうか」
立花「うん?」
元子「放送員とは忠実に誠意を持って原稿を読むのが仕事だと思います。でも、何だか変なんです」
立花「桂木君」
元子「(持っていた原稿を立花の前に広げて置く)『日本は常に世界人類の幸福を念頭に置いて戦っているのである』。これはどういうことなんでしょうか」
立花「うん?」
元子「今まで私たちはアジア共栄圏をつくるために八紘一宇の精神で海外放送を読んでまいりました。世界人類の幸福という言葉は今夜が初めてです」
立花「それで君は、それに対してどう思ったんだ?」
元子「それは人類が皆、幸せであるということは一番望ましいことなんだと思います。でも敵は日本がアジア全体の幸福を確立することに反対し、それを押し潰そうとしたから、この戦争を始めたんだと思います。日本と米英とでは、どうしても相いれぬ意見があったと解釈していますが、どうして急に世界人類なんて大きな枠が出てきたのか、その点が分かりません」
立花「そうすると君は、その意見に対して反対だということかね?」
元子「いえ、そうじゃありません。でも、これは理想です。現に日本はドイツ、イタリアと同盟を結んでいますし、相手が白人だから考え方が違うということには、ならないと思いますけど、でも、何だか急に…」
立花「その主張が曖昧になってきたっていうことだね」
元子「はい」
立花「今、日本は…いや、世界は大きく変わろうとしてるんだ」
元子「はい」
立花「しかし…どんなことがあっても我々は君たちを守る。だから…」
元子「はい」
立花「16期生として日本放送協会の放送員として最後まで誠意ある仕事をしてほしいんだ。分かるね?」
元子「はい」
受信機「日本に残された道は壊滅か無条件降伏のいずれかである」
既に敗色の濃かったこのころ、日本の対外受信所では度々、アメリカからの終戦を呼びかける短波放送を傍受していました。これに対し、日本からは放送協会の海外放送で撃ち返し放送が行われ、実は、戦争終結への交戦国同士の対話がなされているのです。
放送室
井上「我々の質問に答えていただければ幸いである。君の知っている東京はもう存在しない。今の東京は全く焼け野原だ。しかし、戦争に負けたからといって簡単に頭を下げるわけにはいかない。勝者はもっと寛大であってもよいのではないか。次に先日の質問に関し、具体的にいくつかの質問をする。第1点、世界の歴史上、無条件降伏というのはありえない。降伏の条件を知らせよ」
井上役の松熊信義さんは「はね駒」の119話にも出演されたとwikiに書かれていたが、裁判所の執行官かな?
受信機「無条件降伏というのは軍が解体され、兵士が復員することを意味する。無条件降伏とは、もともと貴国の…」
相手は海軍武官として東京にいたことのあるザカライアス米軍大佐です。元子が気付いた海外ニュースの微妙な変化は、この対話の影響だったのでしょうか。
海外放送の声はエリック・ガンターさんという方。
ほかにも大河ドラマとかいろいろ出ていた人らしい。
7月26日、アメリカはサンフランシスコ放送でポツダム宣言を全世界に向かって放送。しかし、日本政府はこれを黙殺するという談話を発表しました。
新聞記事
笑止、對日降伏條件
ポツダムより放送す
國内、對日兩天秤
老獪な謀略
敵宣言の意圖するもの
對…対の旧字体
圖…図の旧字体
8月6日 広島
キノコ雲の写真。
放送員室
のぼる「広島がやられたって!」
元子「まさか! 三重子…」
のぼる「分からない。でも広島は全滅したって」
恭子「それ、どういう意味?」
のぼる「よく分からないけど、今朝、大型爆弾が落ちて全市が燃え、死者は約17万人ですって」
沢野「17万!? そんなバカな!」
のぼる「でも連絡では確かに17万人って言っていました。うそだと思ったら報道部行って確かめてください」
立花「報道部?」
のぼる「はい、連絡を終えて部屋を出ようとしたところに電話がかかってきたんです」
立花「どこから?」
のぼる「同盟通信の岡山支局からです」
沢野「さっぱり分からんね。どうして放送局からじゃなくて同盟さんからなんだ?」
のぼる「だから広島が全滅したから!」
立花「落ち着きなさい、立山君」
のぼる「はい、でも…」
元子「しっかりしてよ、六根らしくもない」
のぼる「でも、報道部でも、これはただ事じゃないって言ってました」
沢野「担がれてるんじゃないのかい、君。広島は今までだっていつもB29の素通り地区だろ」
立花「いや、担ぐとしたら、これは悪質だな」
のぼる「そうですとも! 何かあったんです、きっと!」
川西「室長! 室長、えらいことになりましたよ」
立花「一体、何があったんだ?」
川西「まだ、はっきりしたことは分からないんですが、今朝、広島に1機または2機の大型機が1発ないし2発の特殊爆弾らしきものを投下して、その爆弾で広島全滅だそうです」
字幕では出てないけど、元子が「全滅!?」って言ってる。
立花「しかしそれは同盟の岡山支局からの知らせだそうじゃないか」
川西「ああ、そのとおりです。原放送所から岡山放送局、そして同盟岡山支局経由東京へ届いたそうです」
立花「原放送所?」
川西「広島放送局と原放送所の地下ケーブルが生きていたんです」
立花「なんてこった。今日は中国、四国、九州、各管内の放送局長会議が広島で開かれることになってたんだ。ということは…」
川西「とにかく今、岡山放送局と連絡中です」
立花「よし」部屋を飛び出す。
沢野「しかし、たった1発や2発で17万人が死ぬなんて…」
元子「私にも信じられません」
川西「まあ、いずれにせよ事態がはっきりするまでは、このことは極秘だ。落ち着いて。いいね」
元子「はい」
しかし、犠牲者の数はほぼ正確。これが人類が初めて経験した原子爆弾に関する東京への第一報であり、反応でした。
そして、その翌日。
茶の間
宗俊「何だい? その新型爆弾てのは」
元子「うん、何でも光(しかり)による新兵器らしいのよ」
宗俊「はあ。そりゃ俺もな、ガキの頃、お前、活動で殺人光線ってのを見てな、そりゃ確かに人(しと)を殺したが、しかし、放送局みたいな石の建物まで、どうやって潰れるんだか、そこんところが分かんねえな。ええ、洋三さん、お前、どう思う?」
洋三「えっ、いや、私にしたってラジオが詳細は目下調査中という、そのほかは分かりませんけどね」
彦造「けどね、たったの1発で、どうしてそんなに人死にがあるんですかい」
洋三「うん…」
絹子「だから新型爆弾っていうんでしょ」
宗俊「まあ、大本営が発表したことだからよ、本当のことには違(ちげ)えねえんだろうが防ぎようはねえのかなあ」
のぼる「白い服を着た方がいいそうですよ」
巳代子「白い服?」
元子「うん、とにかく光による新兵器だから白い服を着ていれば光を反射するし、それだけ安心らしいのよね」
”白い服”は「おしん」で聞いたのが最初だったのに、ちゃんと書いてなかった~。「マー姉ちゃん」でも同じような会話をしていた。マチ子が新聞社勤めだったからね。
トシ江「だって今まで白い服は機銃掃射の目標にされるから着ちゃいけないってことになってたじゃないの」
宗俊「この、うすらとんかち。それがお前、新型の新型たるゆえんじゃねえか」
洋三「しかし、あれだね、三井君も広島に赴任して、すぐ兵隊にとられたっていうのがかえって不幸中の幸いってことになるのかな」
絹子「そうねえ」
のぼる「広島局には私たちの同期生がいるんです」
彦造「いけねえいけねえ、明日っからお嬢は放送局行っちゃいけませんぜ」
元子「バカなこと言わないでよ」
彦造「けど狙われたらどうすんですよう」
小芳「でも、広(しろ)島全部が駄目になったんでしょ? だったら放送局やられたって、そんな新型だってね、この辺、みんな駄目になるってことでしょう」
洋三「しかし、本当にそれだけの殺傷力のある兵器ならば、あれは毒ガスと同じで国際法違反ってことになるでしょうがね」
宗俊「まあとにかく、どえらい代物には間違いなさそうだ。しかし、正体はっきりさせねえってのは、ふてえ野郎だ」←実際のセリフは”ふてぇ!”に聞こえる。
いずれにせよ、この時期、原爆について一般庶民に与えられた情報はこの程度のものでした。
広島中央放送局で働いていた方の手記。ここでも東京本社は信じなかったと書かれてる。
そして、8月9日。
8月9日 長崎
キノコ雲の写真。
その同じ日。
放送室
本多「大本営発表 一つ、8月9日 午前0時ごろよりソ連軍の一部は東部および西部満州国境を越え、攻撃を開始し、また、その航空部隊の各少数機は同時刻ごろより北満および朝鮮北部の一部に分散来襲せり。二つ、所在の日満両軍は自衛のため、これを迎え、目下交戦中なり」
路地
荷物を抱えて歩くトシ江と絹子。
小芳「おかみさん! おかみさん! おかみさん、大変だよ! ラジオ聴いたかい!?」
トシ江「ああ、ご覧のとおり、今、無事ご帰還あそばしたってとこ。乗り物は混むし、本当大変だったわよね」
絹子「ねえ。近頃はもう大変なのに慣れっこになっちゃったわよ」
小芳「何をのんきなこと言ってんだよ。ソ連が戦争始めたんだよ」
トシ江「ソ連が?」
小芳「だからさ、満州へ攻めてきたんだって!」
トシ江「満州!?」
絹子「義姉(ねえ)さん!」
トシ江「正大がやられる…!」
放送会館の廊下をぼんやり歩くのぼる。
元子「六根!」
振り向くのぼる。
元子「六根…」
のぼる、うつむく。
元子「ご家族のこと心配するなという方が無理だと思うけど、頑張って、六根」
うなずくのぼる。
のぼるの家族も正大あんちゃんもともに満州におりました。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
いや~、すごい情報が詰め込まれてて調べながら見ました。戦争って長い…。