公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
女性が初めて参政権を得た戦後初の総選挙。歴史的な時に投票の年齢に8か月足りないと、元子(原日出子)はトシ江(宮本信子)にこぼす。巳代子(小柳英理子)と悦子(渡辺佐和子)がやってきて、生活学院の話で盛り上がっていると、宗俊(津川雅彦)は会話を聞きたがる。そこにのぼる(有安多佳子)と恭子(小島りべか)がハヤカワ(深水三章)を連れて訪ねてくる。ハヤカワは、アメリカでは女性は結婚しても仕事は続けるという。
昭和21年春
卒業式です。戦時中、スコットランド民謡であるために敵性音楽として禁止されていた「蛍の光」もこの年から復活。巳代子をはじめとして焦土の中へ巣立ってゆく各卒業生の胸にさまざまな思いを込めて歌声は流れました。
ドラマで流れたのはアレンジされた「蛍の光」。このドラマアメリカ国歌や一月一日などアレンジするの好きね~。「蛍の光」は古いハリウッド映画だと年越しを祝うパーティーでみんなで歌われています。
それとほぼ同じ頃、国民の関心を集めたのは女性が参政権を得た戦後初の総選挙でした。
新聞記事の見出し
總選擧詔書交付
總選擧戰始まる
全國七倍の濫立
稀有の候補者濫立
東京・早くも定員の六倍
吉宗
トシ江「ありがとう存じました。またどうぞ」
元子「ありがとうございました。ただいま」
トシ江「もう、どこ行ってたの。品物届けに行ったのはいいけど糸の切れたたこじゃないの」
元子「街頭録音聴いてたのよ」
トシ江「街頭録音?」
元子「すごかったわよ。今度の選挙でね、どんな人(しと)に投票しようとしてるか聞かせてって言ったら集まってる人たちがみんなマイクに向かって、とにかく食べることをなんとかしてくれ、せめて3合は配給して欲しいって、どんどん意見言ってんのよね」
トシ江「そりゃあ、誰だってそう願ってるわよ。でもお前はもう大事な体なんだから」
元子「けど悔しいわ。女が初めて選挙権を持ったってこの歴史的な時に私は投票できないんだもん。ねえ、どうしてもう8か月早く産んでくれなかったのかしら」
トシ江「むちゃ言うもんじゃありませんよ」
元子「そのかわり、お母さんは頑張ってよ」
トシ江「私が頑張ってどうすんのさ」
元子「だから口先だけでなく本当にお米をうんと配給してくれそうな人に投票してくださいって言ってんの」
トシ江「大丈夫。私は絶対女の人に入れるから。今まで男にばっかり任せてたからこんなふうになっちゃったんだしさ。女をバカにしたらどういうことになるかっていうのを今度の選挙で敵取ってやるつもりなんだから」
何しろ民主化のムードにあおられて雨後の竹の子のように出現した政党の数は実に363党。元子は間に合わなかったものの選挙権を得た女性は全国で2,055万7,688人でした。
新聞の見出し
男に負けた女の成績
都下の棄権・最惡は麹町區
これによって39人の婦人代議士が誕生。以後、この4月10日は婦人の日となりました。
昭和21(1946)年4月なら元子はもう20歳になってるんじゃないのかい??と勘違い。昭和元(1926)年12月生まれだからいいのか。元子はまだ19歳になったばかりで妊娠発覚か(^-^;
大原家
巳代子「お姉ちゃん!」
悦子「ごめんください」
元子「いらっしゃい! 待ってたのよ!」
悦子「あっ、何だ、おなかちっとも大きくなってないじゃない」
元子「やだ。だってまだ4か月だもの」
悦子「あっ、そうか」
元子「とにかく上がって」
巳代子「さあ、どうぞ」
悦子「じゃあ、失礼いたします」
女学校を卒業した巳代子は、今、悦子と同じ生活学院の生徒です。生活学院とは戦争中の言論弾圧と紙不足で思うような本が出せなかった出版社の社長が設立し、同じく思うところを言えなかった哲学者や文化人が講師となったユニークな学校でした。
元子「へ~え、授業が座談会なの?」
巳代子「だから私なんか黙って聞いてるだけで面白くて面白くてたまらないのに聞いてるだけでは駄目だっていうのよ。私、ああいうところでしゃべるのは苦手だから、それだけが苦労だけど、そこへいくと五十嵐さんなんかやっぱりすごいわ」
巳代子が話しながら急須の蓋をとって下向きに置いたのをサッとひっくり返す元子。
悦子「嫌だわ。私はしゃべりだしたら止まらなくなってしまうから駄目なのよね。だからすぐに司会者にされちゃうのよ」
元子「『すずめ百まで踊り忘れず』?」
悦子「そう。そう言ってね、みんなすぐに私のアナウンサー経験持ち出すんだけど、それは全く関係ないのよ。だっておしゃべりだっていうことと、ちゃんと意見が言えることとは違うもの」
巳代子「だから生活学院って私なんかよりお姉ちゃんに向いてるような学校な気がして何だかすまなくって」
元子「何言ってんの。はい」悦子にお茶を出す。
巳代子「でも本当に面白いんだ。学校だっていうのに決まった教科書がないってのが一番気に入ってるし」
元子「おやおや」
悦子「だけどね、女性にも人前で自分の意見を言わせるっていうのは今始まったことではなくて戦争中からのあの学校の教育方針だったのよ」
巳代子「あっ、そうだったんですか?」
元子「嫌だ。巳代子ったらそれが魅力で生活学院へ行ったんじゃなかったの」
巳代子「あ…私はさ、お姉ちゃんが行きたがってたところだから、きっといい学校だと思ったのと練馬だから帰りに買い出ししてくるのも便利かなって」
悦子「大物ねえ、巳代子さんも」
巳代子「だって小川先生だってお講義のあった日(し)は必ず風呂敷提げてお帰りになるもの」
元子「小川先生って?」
悦子「小説家。小川孝之っておっしゃってね、海軍から復員なすってきたのよ。でも作家の先生方は雑誌が復活し始めたからこれからお忙しくなるんじゃないかしら」
巳代子「でもいろんな先生が入れ代わり立ち代わりおいでになるからすっごく楽しいの」
元子「じゃあ、お姉ちゃんの分も頑張って勉強してきてよ」
巳代子「うん」
なんだかんだ勉強が好きな姉妹。話しながら帯芯を外してたんだろうか? 昔のドラマは、ただ座って話してるなんてことはない。
のぼる「ごめんください」
元子「あっ、来た来た」
巳代子「駄目よ、私が立つから」
ハヤカワ「ハロー」
巳代子「いらっしゃい!」
恭子「こんばんは」
元子「わっ、ブルースも!?」
恭子「羨ましくてちょっぴり憎たらしいけどガンコの幸せに満ちた若き母親になろうとする姿を見に来たの」
元子「さあ、とにかく上がってちょうだい。どうぞどうぞ」
のぼる「旦那様は?」
元子「うん、もうじき帰ると思うけど」
悦子「するとそれまでミスターハヤカワは黒一点ですね」
ハヤカワ「こくいってん? 何ですか?」
元子「女性の中に男性が一人っていう意味ですよ」
ハヤカワ「オー アイ シー」
元子「あっ、三井さんのこと思い出しちゃった」
のぼる「三井さんといえばね、今日はいろいろニュースがあるのよ」
悦子「待ってました!」
のぼる「はい、その前にねハヤカワさんからのお土産。紅茶にビスケットにおまけに角砂糖」
巳代子「わぁ! ありがとうございます!」
のぼる「食いしん坊。これはお姉さんへのお土産なの。赤ちゃん出来るとね、おなかがすくし、それには栄養のあるものを食べるのが一番なんですからね」
巳代子「は~い」
元子「でも今日は、これだけの顔がそろったんだもの。今日だけはこのビスケットみんなで頂きましょうよ」
悦子「賛成!」
巳代子「大賛成!」
笑い声
巳代子「わぁ、すごいわ!」
元子たちの笑い声が桂木家の茶の間まで聞こえる。
宗俊「にぎやかだな、おい、え。『女三人寄るはかしまし』ってよく言ったもんだ」
トシ江「結構なことじゃありませんか。人間笑えるのが一番幸せなんですから」
宗俊「バカ、誰がいけねえっつった?」
順平「バ~ン! ババ~ン!」
吾郎「駄目だよ、こっちは戦車なんだから」
順平「俺の方はB29だ」
吾郎「よ~し、そんなら俺もバンバ~ン!」
順平「ババ~ン!」
吾郎「バババババ~ン!」
宗俊「おめえらもてえげえうるせえな、おい。俺ぁラジオ聴いてるんだよ」
順平・吾郎「ババ~ン!」
トシ江「おやめったらおやめ! 二度と戦争ごっこはたくさんだよ!」
宗俊「おい」
トシ江「いや『喉元過ぎれば熱さを忘れる』っていうけど、どうして男ってのは、こう、戦争ごっこが好きなんだろ」
宗俊「たかが子供の遊びじゃねえか」
トシ江「だっていくら遊びだからったってねえ」
宗俊「というと何か? 男ってのは意気地なしになった方がいいってのか、え? 順平がよ、人形おんぶして、お前、ままごとでもしたらそれで安心だってのか、え」
トシ江「そうは言ってませんよ。行きたきゃ行ったらいいのに」
宗俊「どこへだよ」
トシ江「元子のところへですよ。みんなの新しい話が聞きたいんでしょ?」
宗俊「じょ…冗談じゃねえよ、お前。誰が女のおしゃべり…なあ、順平」
トシ江はくすくす笑う。
宗俊「チッ」
順平は吾郎の顔を見る。
「ゲゲゲの女房」でも昭和30年代戦記物の漫画がはやっていたし、なんだかんだ人気あるよね。
大原家
元子「それで仙台へ行ったふれちゃんはどうしてる?」
のぼる「やっぱり放送局辞めたみたい」
元子「どうして?」
のぼる「我々とおんなじ運命をたどったみたい」
恭子「仙台の局でも続々とベテラン男性アナウンサーが復員してきてお払い箱になったみたい」
元子「(トモ子のものまねで)分かる分かる。きっと彼女も辞表をたたきつけたのです」
のぼる「ふれちゃん」
笑い声
ん~…。前もあったけど、私はこういう方言いじりがいちばん嫌いだな。再現度の低い方言ものまね。
男たちが復員してきて女性の仕事が奪われた一方、復員してきたものの思ったような仕事に就けないとことも昨日見た映画でやってた。
元子「懐かしいなあ。みんなどうしてるかな」
のぼる「実はそれでね、今日ブルースにも来てもらったんだけど」
元子「えっ?」
恭子「うん、これはあの近藤ディレクターの案でもあるんだけれど、GHQの方針としては婦人たちにもっと民主化を進めたい意向を持ってるのね。で、婦人の時間でももっとディスカッションを取り入れたらどうかって言ってきてるの」
元子「ディスカッション?」
恭子「うん、討論といったらいいのかな。もっと女性たちに思うことを言わせ他人と議論し合って一つの意見をつくっていくべきだっていうの。それで彼女、しばらくの間、サクラというわけではないけれど発言できる人を少し置いたらとそう考えているの」
のぼる「でね、思い出していただけたのが、あの時、辞表をたたきつけた我々ってことらしいのよ。ねえ、どう? ガンコ」
元子「どうって?」
のぼる「ハヤカワさんはね、アナウンサーっていうのはアメリカでもインテリジェンスのいる仕事だし、もう一度マイクの前に立ちなさいってけしかけるのよ」
ハヤカワ「オー、やっと今日のテーマに入りましたね。OK。女性はもっともっと社会に進出すべきです。グッドチャンスです。男女平等はビジネスの世界の中にも確立されるべきです。マスコミュニケーションは女性の能力・大いに発揮できるところです。このまま埋もれてはいけません」
のぼる「もう毎日この調子でまくしたてるんだもの。だからね、ガンコやガラの意見聞いてみようって思って」
巳代子「すてきだなぁ、女性の能力か」
ハヤカワ「そうです。真のビジネスウーマンとなるためのパイオニアとなるのです」
悦子「パイオニア?」
ハヤカワ「イエス」
悦子「なんて言われると闘志が湧くわね」
のぼる「でしょう」
悦子「でも私は駄目」
ハヤカワ「なぜ?」
悦子「私たちの年代は空前の結婚難なんです。だからもう親が結婚結婚ってうるさくて、もう生活学院へ通うのがやっとですもの」
ハヤカワ「オー ノー。アメリカでは結婚しても仕事続ける女性、たくさんいますよ」
悦子「でも日本では結婚すれば、お嫁さんはおしゅうとめさんに仕えなければならないし、まだまだ社会的に外で働く自由は認められてないわ。それに私のうちはしきたりしきたりってうるさいうちだし。手伝うぐらいならともかく、ずっと仕事を続けるっていう形ではとても許してもらえそうにないわ」
のぼる「だからこそパイオニアとしての意義があるんじゃないの」
悦子「だからといって条件は無視できないでしょう。私の場合、かなり難しいな」
恭子「ねえ、ガンコはどう?」
元子「私は無理よ。だって子供が生まれるんだもの」
のぼる「だって生まれるのは秋でしょう」
恭子「うん、それにまだ見た目には全然分からないし、もうしばらくはできるんじゃない?」
巳代子「駄目よ駄目よ。今だって流産でもしたらどうするんだって、そりゃみんながうるさいんですもの。働きに出るなんてとても無理です」
のぼる「そうかなあ」
元子「そんなふうに言わないでよ。こうやってワーワーやってるの聞いてるだけだって誘惑されてるんだから。でも子供を産むとなれば結局、途中でやめることになるでしょう。中途半端に終わるんじゃしょうがないもの。それに正道さんの仕事が、今、一番大事な時なの。そんな時に私が身重の体でわざわざ働くなんてことはさ…」
のぼる「残念だわ。私、またガンコと一緒に何かやれるって思ったのに」
恭子「ごめんなさい。また16期生が集まれると思って、そのことでうれしくなっちゃったの。私って駄目ね」
元子「そうよ、寝た子を起こすんだもの」
悦子「でもお母さんになるって大変なのねえ」
元子「ええ。悔しかったら皆さんもお早くどうぞ」
悦子「あっ、やられた!」
笑い
今はこういう会話駄目なんだろうな。
のぼる「本当にごめんね」
元子「ううん。でも六根はやってみてよ。16期生としてブルースと一緒に働く女性のパイオニアになって。私は私にできる協力は惜しまないつもりよ」
悦子「私もよ、ブルース」
恭子「ありがとう…」
正道「ただいま」
元子「お帰りなさい!」
一同「お帰りなさい! お邪魔してま~す!」
正道「やあ、いらっしゃい」
元子「お疲れさま」
正道「ただいま」
出産と仕事。恭子が持ち込んだ話はもちろん元子が結婚して初めて揺れた気持ちでした。
つづく…ここでまだ28分ということは。
朝の前奏曲(プレリュード) 通算3回目。
朝の沈黙(しじま)きらめく陽ざし
それは季節の調べ告げる
昨日捨てて何処へ行くの
風の中の私 あー
愛のときめき燃えるあこがれ旅の始まり
空のかなた あー心ざわめく冒険
私からあなたへありがとう
想い出の青春(とき)を
明日も
このつづきを
どうぞ……
女性の社会進出ねえ。女性も働いてください、子供も産んでください、介護もしてください、家事も全部やってくださいじゃあねえ…。私には無理だなと思う。