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ドラマの感想など

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(22)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

みそかを迎えた桂木家。元子(原日出子)は、放送局の上司からミカンをもらい、金太郎(木の実ナナ)は、ひいきの社長から「尾頭付き」のメザシを頂戴し、ばあやのキン(菅井きん)は、空襲で燃えちまうくらいならと、とっておきの鰹節を盛大に削って出汁にして、年越しそばは準備完了だ。一家そろって食卓を囲んだとたん、空襲警報が鳴り響く…。年が明けて正月、トシ江(宮本信子)は、元子に晴着を着せて放送局に向かわせる。

今日もゆったりバージョンのオープニング。

 

吉宗

ラジオから「勝利の日まで」が流れる。元子は、お盆に乗せたみかんを紙に乗せる。

勝利の日まで

勝利の日まで

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金太郎「ただいまぁ」

元子「あっ、お帰りなさい。寒かったでしょう」

金太郎「寒いの何のって…あら、今日は?」

元子「うん、さっき帰ってきたとこ。明日は一応顔を出すだけでいいんだけど」

金太郎「大変だ。怠け者の節季働きってね、お元日早々お座敷とはご苦労なこった」

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字幕では節季と出てたけど、節句という言葉しか出てこない。でも、ちょっと嫌な意味だね。元子は毎日働いてるのに。

 

元子「おねえさんこそ、大みそかまでお勤めとは見上げたもんですこと」

金太郎「本当だ、アハハ。あら、おみかんじゃないの」

元子「うん、先輩がね、3個ずつだけどって下さったの」

金太郎「へえ~、そらぁその人(しと)いい心がけだ」

 

宗俊「おい、いつまでしゃべってるんだ、え。B公が来ねえうちに早くそばを祝っちまわねえと年越しそこなっちまうぞ」

金太郎「おそばがあるんですか?」

宗俊「あたぼうよ。今日は大みそかだ」

金太郎「はい、はいはい」

 

そうです。いよいよ大みそかです。

 

台所

金太郎「ただいま」

トシ江「あっ、ちょうどよかった。そろそろじゃないかと思って支度してたとこなのよ」

金太郎「わぁ、いい匂い。おいしそうな匂いだわ」

キン「当たり前ですよ。取っときのかつ節をね、盛大に削ってとっただしだもん」

金太郎「そいつは豪気だ」

トシ江「大事大事に取っといて焼かれてもしかたがないし、まあ、それより何より来年はいい年にしないとねえ。さ、ちょいと見て」金太郎に小皿に汁をとって渡す。

金太郎「はい。うん、上等!」

トシ江「そう? ハハハハ…」

 

金太郎「おかみさん、はい、お土産」

トシ江「あら、何かしら」

金太郎「と言ってないで開けてみてちょうだい」

トシ江「本当だ、フフフフ…」新聞紙の包みを開ける。

キン「あっ、まあ、目刺しだわ」

金太郎「やんなっちゃうなぁ。どうして尾頭付きだって言ってくれないのかな」

キン「本当だ。まあ見事な体格のいい尾頭付きですよぉ」

金太郎「でしょう。ねえ、これがさ、昨日、社長んところに送られてきたのを知ってたからさ、これを欲しさに実は今日お掃除に行ったようなもんなの」

トシ江「あっ、まあ」

 

茶の間

正大の写真の前にも年越しそばが置かれている。

 

宗俊「ほんじゃ」

順平「頂きま~す!」

一同「頂きま~す!」

元子「わぁ、本当に体格のいい尾頭付きだわ、ねえ」

巳代子「いいのかしら、お正月に食べなくても」

トシ江「大丈夫。明日の分もね、1本ずつ取ってあるから」

巳代子「まあ、それじゃ安心して」

 

宗俊「年頃の娘がさもしいこと言いやがって」

金太郎「いいじゃありませんか。私だっておんなじ思いなんですから」

宗俊「はい、そんじゃな、福の神の金太郎ねえさんにも、まず一杯」とっくりの酒を注ぐ。

金太郎「まあ、御大将自ら、恐れ入ります」

宗俊「さあ彦さん、おめえもだ」

彦造「いんですかい? 明日のおとそに取っとかなくて」

トシ江「大丈夫、彦さんの分もちゃんとね特配が来てんだから」

宗俊「ああ、『欲しがりません勝つまでは』でずっと我慢してきたんだ。これでお前、暮れ正月に特配の酒、出さなかったら、俺ぁ反乱起こしちまうからな」

金太郎「よっ、待ってました、河内山!」

元子「もうメートル上がっちゃってるみたい」←酔っ払ってる様子をさす言葉。

金太郎「そうよ。お茶飲んだってさ、酔っ払ってみせられないようじゃあ、この商売は務まりませんって。さあさあ旦那、どんどん参りましょう。参りましょう」

 

順平「そばだってえのにすいとんみてえにかたまったものがあるよ、このおそば」

元子「うん、そりゃあ何たって手打ちだもの」

 

彦造「ああ、細(ほせ)えのよりゴツゴツ丈夫に育ってかなきゃ。な、順坊や」

キン「そういうもんかねえ」

彦造「何がだよ」

キン「昔っからさ、細く長くつつましくて達者にって意味だったはずなのにさ」

彦造「いろいろ事情が変わってきてんだい。縁起だってそのつど考えにゃしょうがねえだろう。何だい、いい年こきやがって」

キン「ああ、いい年した余計もんがはばかって申し訳ございませんでしたね」

 

トシ江「何でしょうね、せっかくの尾頭付きを前に据えて2人とも」

宗俊「そうだぞ。それにおめえ、この顔ぶれ見直してみねえ。うれしいことに末広がりだ」

元子「本当だ、そういや8人だわ」

宗俊「なぁ、何はなくとも、な、みんなで力合わせりゃ、来年は末広がって必ずやいいことがある」

金太郎「なんて人たちなんだろね、本当に」

宗俊「どうした?」

金太郎「つい、あのまま甘えちまってさ、居候、決め込んじゃって、申し訳ないと思ってる私にそんなふうに言ってくれるなんてさぁ」泣き出す。

 

元子「あら、おねえさんは泣き上戸だったんですか」

金太郎「そうよ。今日んところは、とにかく泣き上戸」

宗俊「よし、泣け泣け、泣け泣け」

トシ江「まあ金太郎さん、まあ…」

 

警戒警報が鳴りだす。

 

宗俊「そら来た!」立ち上がり電球に黒い布をかぶせる。

 

永井荷風の日記より

「十二月三十一日 晴(はれ)また陰(くもり)

夜十時 警報あり 須臾(しゅゆ)にして解除。

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夜半過(すぎ)また警報あり 砲声頻(しきり)なり

かくの如くにして昭和十九年は尽きて

落寞(らくばく)たる新年は来たらんとするなり

我邦(わがくに)開闢(かいびゃく)以来、曾(かつ)て無きことなるべし。

是皆軍人バラのなすところ

其(その)罪永く記録せざるべからず」

みんなてきぱきと逃げる準備をする中、酒を飲み続ける宗俊。

 

太鼓の音

 

開けて元旦、江東方面が爆撃され、都民は空襲におののきながら新年を迎えました。

 

そして、まだ余じんくすぶる中へラジオは伊勢神宮から大東亜戦争必勝祈願の太鼓の音を全国に中継放送しました。

 

昭和二十年元旦

 

茶の間

ラジオから流れる太鼓の音。

 

巳代子「あんちゃん、明けましておめでとうございます」

元子「満州の冬って、きっとものすごく寒いと思うけど東京も焼け出されて気の毒に寒いお正月を迎えた人がいます。でも私たちは幸いこのとおり頑張ってますから、あんちゃんもどうぞ肺炎なんかかからないように頑張ってください」

 

トシ江「さあ、お膳立てをして、お父さん起こしてきてちょうだい」

元子「そんなぁ。だってゆうべからの警報がやっと解除になって、お父さん、今、布団に入ったばっかりじゃないの」

トシ江「だから、ほっとけば目ぇ覚ますのお昼になっちゃうじゃないか」

巳代子「いいじゃないの、お正月ぐらい。かわいそうだわ」

トシ江「駄目。『一年の計は元旦にあり』っていうでしょ」

元子「ん。もう」

トシ江「あっ、そうだ、ねえ元子。今日はね、いい方のもんぺ、あれ、はいてってちょうだい。何てたって、今日お正月なんだからね」

元子「え~」

 

放送会館

廊下

国民服を着た男性たち数人が話している。上は白地に赤の花柄の着物、下は紫のモンペを履いた元子が男性たちに挨拶をする。

 

そうですよ、元子、数えの二十歳。お正月なんだから晴れ着の一つも着せたいじゃありませんか。

 

放送員室

のぼる「わぁ、きれい」シックな黒のスーツ。

立花「おお、やっぱり女の子なんだねえ」

元子「すいません、私は嫌だと言ったんですけれど」

本多「何言ってるんだ、目の保養だよ」

元子「だから嫌なんです」

 

やっぱり女の子、目の保養…今ならセクハラかな。

 

立花「いや、親孝行だよ。おふくろさんがどうしても着ていけって、そう言ったんだろ」

元子「あら、どうしてご存じなんですか?」

立花「いや、うちでも女房のやつが子供に着せてたからさ、正月なんだからって」

 

元子「あっ、いけない。皆さん、明けましておめでとうございます」

立花「おめでとう」

元子「昨年中はいろいろとありがとうございました。本年も相変わりませず、どうぞよろしくお願いいたします」

立花「ほら、やっぱり正月じゃないか」

元子「だって」

立花「おめでとう。いよいよ決戦の年だ。頑張ってな」

元子「はい。よろしくお願いいたします」

 

デスクの女性たちに

元子「明けましておめでとうございます」

女性A「おめでとうございます」

女性B「まあ、かわいらしい」

元子「おめでとう」

のぼる「本当にきれいよ。私までうれしくなるわ」

元子「ありがとう。六根清浄もとってもあか抜けしたみたい」

のぼる「うん。モンパリのおばさまからのプレゼント。この真珠は貸していただいたんだけど、どう? 似合うでしょう」

元子「やっぱりお正月なのねえ。とっても似合うわ」

 

本多「こらこら、挨拶が済んだらすぐに帰りなさい」

元子「はい」

本多「そんないいの着てて水にぬれたくなかったら、まっすぐうちへ帰るんだな」

元子「はい」

のぼる「はい」

元子「ねえ、今日は叔父さんも来るんだけど、うちへ来ない?」

のぼる「いいかな」

元子「今更遠慮しないでよ」

のぼる「うん」

 

挨拶のためだけに晴れ着を着て出社…めんどくさっ! 

 

吉宗前の路地

彦造に押さえてもらって竹馬をする順平。

元子「ただいま」

彦造「あっ、お帰りなさいまし」

のぼる「やっぱりお正月なのねえ」

元子「うん。でもこの竹馬、竹やり用の竹なのよ」

のぼる「まあ」

元子「とにかく入って」

 

吉宗

元子「ただいま!」

洋三「お帰り」

絹子「あっ、お帰り」

 

トシ江「まあまあ、お帰りなさい」

のぼる「明けましておめでとうございます。旧年中は本当にいろいろありがとうございました」

トシ江「明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく…」

宗俊「おいおい、堅苦しいのは、あと、あと。寒いからさ、こっちへお上がんない」

のぼる「はい」

トシ江「はい、どうぞ」

元子「入って」

 

2階

巳代子「お姉ちゃん。お姉ちゃん」お茶を運んできた。

元子「はい。あっ、ありがとう」

巳代子「お母さんがね…」

 

元子「それじゃあ、去年まではお正月のたんびに満州まで?」

のぼるはうなずきながら「休暇の時しかゆっくりできないでしょう。でも今年はそれどころじゃないし」

元子「それじゃ、お母様、きっと待ってらしたでしょうね」

のぼる「でも、体に気を付けるようにって手紙くれたわ」元気ない。

心配そうにのぼるの顔を見る元子。

 

のぼる「すてきなお兄様ね」

元子「えっ」

のぼる「このお写真、でしょ?」

元子「変ね」

のぼる「何が?」

元子「人形町生まれのあんちゃんが満州にいて、満州生まれの六根清浄がここにいるなんて」

のぼる「本当。もし近くの部隊にいるんなら私のうちに遊びに行ってくれればいいのに」

元子「だって満州だって広いんでしょう」

のぼる「広いわよ。太陽ははるか地平線に真っ赤な丸で沈んでいくし…」

元子「ごめん」

 

1階から笑い声

 

のぼる「嫌だわ。ガンコのうちはいかにもお正月らしいんですもの。私、気が緩んだのかしら」

元子「どうぞどうぞ。また明日からびっしりしごかれるんだもの。ゆっくりと緩んでってくださいな。ねえ、羽根つきする?」

のぼる「えっ。うん」

 

ラジオ「武蔵坊弁慶松本幸四郎、富樫左衛門尉(じょう)・市村羽左衛門源義経尾上菊五郎長唄杵屋六左衛門、三味線・杵屋佐吉そのほかの皆さんです。では『勧進帳』をごゆっくりとお楽しみくださいませ」

enmokudb.kabuki.ne.jp

茶の間でこたつに入りながら聞き入る大人たち。

金太郎「いいわねえ、お正月は何てったって『勧進帳』だわ」

トシ江「今日は警報も鳴らないし、戦争してるのも忘れちゃいそう」

絹子「だってアメリカだってお正月なんでしょう」

トシ江「さあ」

笑い声

洋三「しかし、日本の伝統文化というのも大したもんだなあ」

金太郎「そりゃそうですよ。アメリカが逆立ちしたってまねはできねえってんだ、アハハハハ…」

横になり、目をつぶりながらも「勧進帳」に聞き入る宗俊。

 

2階

元子とのぼると巳代子と順平はトランプ。

 

幸い、この夜は警報も鳴らず、聴取者たちは暗い灯火のもとで、無事、名優たちの舞台劇を最後まで楽しむことができました。

 

一方、この元日にはアメリカの「タイム」誌が日本製風船爆弾が太平洋を越え、モンタナに落下したという破天荒なニュースを伝えておりました

hicbc.com

つづく 

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

やっと昭和20年。しかし、8月まで半年以上か…。