公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
いよいよ放送局の試験が始まった。全国から定員の10倍の人数が集まり、元子(原日出子)は、同じ会場の受験生から「試験は受かるために受けるもの」と言われ、自分の覚悟の甘さを知る。筆記試験のさなか、桂木家では、トシ江(宮本信子)とキン(菅井きん)がやきもきし、夜は宗俊(津川雅彦)が輪をかけて落ち着かない。2次試験は音声試験だと聞くと、金太郎を呼んで、元子ののどを常磐津で鍛えようと言いだす。
そういえば、「芋たこなんきん」は毎日熱心に見ていたはずだけど、最後の最後までオープニングのロングバージョンと通常バージョンが分からないままだった。「本日も晴天なり」は2週目にして分かったぞ~。
セミの声
放送會館
昭和19年8月10日。東京での放送員の採用試験は約10倍の競争率でした。この才媛たちに交じって元子は一番年少組だったでしょうか。とにかく頑張る以外はありません。
試験会場
長机に2人ずつ座って試験を受けている。
元子の心の声「『ユウキュウショシセツ』…。何だ? こりゃ。」
昼休憩
悦子「『ユウキュウショシセツ』。あれはね、もろもろの施設が休んで遊ばされている、ねえ、そういう意味でしょう」
雅美「じゃあ『ユウキュウ』は遊ぶに休むですか?」
悦子「私はそう書いたけど」
雅美「わぁ、どないしよう。私、給料有りの休暇にしてしまったわ。まあ、ええわ。私は午後からの作文に懸ける」
問題文は遊休所施設? 諸施設? 字幕はずっとカタカナだった。
弁当を食べる手を止めて、少し離れた席の悦子たちの会話を聞いていた元子。「よ~し、私も頑張ろう」とお弁当を食べ始める。
元子の前の席の女性が振り返り、話しかけてきた。
のぼる「あなたはご出身、どちら?」
元子「私、東京です」
のぼる「そう、いいわね。もし第1次に残れたとしても、私は2次の音声試験が心配だわ」
元子「ご出身、どちらなんですか?」
のぼる「満州なの」
元子「満州!?」
恭子「でも女子大学はこちらなんでしょう?」←のぼるの隣の席
のぼる「ええ。どうしても大学は東京で勉強したくて親を説得して出てきたの」
元子「じゃあ皆さんはあちらなんですか?」
のぼる「そう。だから卒業したら帰ってこいって言われてるんだけど、私はどうしても東京へ残りたいのよ」
恭子「それで応募なさったのね」
のぼる「うれしかったわ。放送局が女子を募集してるって教授から聞いた時、ああ、これで帰らなくて済むって」
恭子「私もです」
元子「あなたも満州から?」
恭子「ううん、私は横浜。でも、これに落ちたら結婚させられるかも分からないし」
元子「結婚!?」
恭子「でも、まだそんな気はないし、だから私も受かりたいの」
のぼる「私はもっと受かりたいの。生き残るためにも。私の父ってね、決してものの分からない人ではないのよ。むしろ女もちゃんと勉強すべきだって言ってくれる人なの。でも東京へ残るんなら送金は卒業と同時に打ち切るって最後通告を突きつけられちゃったの」
元子「まあ」
のぼる「だからっておめおめと白旗掲げてうちへ帰るのは何とも悔しいし、となれば何としてもこの試験に合格したいし、もし落ちたら、せっかく東京へ残っても挺身隊でしょう。挺身隊が嫌っていうわけではないけれど、おんなじ働くならやっぱり個性を生かし、大学で学んだものを生かせる道に進みたいって思って」
恭子「わ~、すごい。すごい強敵に出会っちゃったみたいね」
元子「はい」
のぼる「嫌だわ。私ってね、心細い時は、そうやって自分で自分を励ます癖があるの。遠い所から一人で上京したせいなのね」
恭子「ううん、ご立派よ」
元子「ご立派すぎます」
のぼる「え?」
元子「あ…いえ。私、そんなふうに考えたことなかったもんですから。私も一生懸命頑張って合格しないといけないんですけれど」
のぼる「そうよ。頑張って一緒に合格しましょうよ」
元子「はい」
のぼる「それにはね、受かるために受けたんだ、自分でそう思い込むこと」
元子「そうですね。本当にそうなんですね」
満州から来たのぼる役の有安多佳子さんは劇団民芸の女優さん。声がいい! 絶対合格しそう。恭子役の小島りべかさん。すごい名前だよな~。変わった名前だけど情報が少ないということは今やってないってことかな? ヘブライ語の女性名リベカが欧米だとレベッカになる。ふ~ん。
桂木家台所
キン「で、勝ち残ったらどうなるんです?」
トシ江「さあねえ。頭も育ちもいい人がいっぱい来てるんだろうしね」
キン「けど、うちのお嬢だって昔っから、おつむの方は決して人様には負けませんでしたよ」
トシ江「それは欲目ってもんよ」
キン「ちょいとおかみさん」
トシ江「え?」
キン「一体おかみさんはお嬢の味方なんですか。どっちなんです?」
トシ江「だってそりゃやっぱり時の運ってこともあるからね」
キン「なんて、まあ冷たいお人(しと)なんだろう、まあ。私はね、受かっちまって旦那とまた、ひと戦争始まるんじゃないかと思ってドキドキしてるってのに、まあ」
洗い物をしていたトシ江は茶箪笥の前に座り、皿と箸を手に持っている。
トシ江「でもね、私、あの子が放送局に入れるなんて考えられないもの」
キン「いいえ、いざとなりゃ機転は利くし、度胸はいいし」地下からジャガイモを取り出している。
トシ江「だったらそうヤキモキしなさんな。試験を受けてんのはね、あんたじゃなくて元子なんだから」
キン「だからせめて、私がドギマギしてやらなきゃね」ざるに乗せていたジャガイモを落としてしまう。「あっ、あららら…」
トシ江「お芋、落っこっちゃったわよ」
キン「落っこったなんて、そんな…。縁起でもないこと言わないでくださいまし、もう…」
試験会場
作文を書いている元子。黒板には題「飛行機」。
「私が飛(し)行機を思う時、初めに浮かんでくるものは竹とんぼです。兄がいたせいかも分かりませんが、切り出しナイフでプロペラに当たるところをスッスッと削る音や両の手に挟んだ軸をグイッとねじるようにして放してやった時の少し青い色の羽根が庭の生け垣に向かって飛んでいく様が幼い日の思い出と共に残ります。
そして、次は赤とんぼです。夏の終わり、草むらを群れを成して飛ぶ赤とんぼたちを見ていると私はいつも童話の世界に誘い込まれて、いつか一人で赤とんぼたちに語りかけていたりしたものでした。
今、赤とんぼというと予科練の練習機のことを申しますが、いかにも紅顔の少年兵が乗るにふさわしい飛行機の愛称だと思います。」
赤っぽく彩色された?当時の予科練の資料映像。
「その赤とんぼがやがて荒鷲となり勇ましく出撃していく姿を報道写真などで見ると思わず『頑張ってください!』と心の中で叫んだりいたします」
試験は終了。元子たちは階段を降り、外へ。
元子「今日はいろいろとどうもありがとうございました」
のぼる「またお会いしましょうよ」
元子「はい、必ず」
恭子「じゃあ、ごきげんよう」
元子「はい、さようなら」
吉宗前
幸之助「バカだねえ、お人よしなんだよ。また会いましょう? え? 競争相手なんだろ? 敵なんだ、その子たちは」
元子「ううん。私、絶対にその人たちに会えるような気がするんだもの」
幸之助「てぇ言うと?」
元子「試験は受かるために受けるものなのです」
幸之助「あのね、難しい言葉で言うとそういうの楽天的っていうの。字、知ってっか?」
元子「『友を選ばば才たけて』って知ってる?」
元子が言ってるのは、「純ちゃんの応援歌」で清原先生が言っていた「妻をめとらば 才たけて みめ美(うる)わしく 情けあり 友をえらばば 書を読みて 六(りく)分の侠気(きょうき) 四分の熱」という与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」のことなのか??
幸之助「あ?」
元子「そういう人たちと友達になりたいの。高いとこには背伸びしなけりゃ手が届かないでしょ。うんと背伸びしてあの人たちに追いつかなきゃ」
幸之助「そりゃまあ『水は低きに就く』って講釈師も言ってることだし」
元子「でしょう? それにね、おじさん」
幸之助「はいはい」
元子「敵は鬼畜米英だけでたくさんよ」
幸之助「こりゃ参った。そのとおりだ」
二人で笑っていると、宗俊がせきばらいしながら帰ってきた。
元子「あっ、お帰りなさい」
宗俊「バカ! 通りの真ん中でよその男と大口開けて笑うなんざ若い娘のすることか」
幸之助「そらないよ。何で俺がよその男なんだ」
宗俊「ほう、するってぇと何か? 幸ちゃん、おめえ、この元子の父親か兄貴とでもいう気か」
幸之助「何をバカなことを言ってんだよ」
元子「そうよ。おじさんはただ私の今日の試験の具合を聞いてくれただけよ」
宗俊「だからってどうなるわけでもあるめえ」家に入っていく。
幸之助「おい、大将!」
彦造「どうも、本当にもう…申し訳ござんせん」宗俊のあとについて中へ。
幸之助「本当にもうどうしようもねえ、だだっ子だな」
元子「そんじゃどうも」家の中へ。
茶の間
巳代子「へえ~、鹿児島にも?」
元子「うん、そうよ。放送局はね全国に散らばってるんだから。研修が終わったら北はカラフトの局へ行く人もいるんだって」
宗俊「何だと?」
キン「冗談じゃありませんよ。そんな遠くへ派遣されてごらんなさいまし。もう一生、会えなくなっちまうじゃありませんか」
元子「大丈夫よ。カラフトへはカラフトに近い人が勤めるようになるんだから。心配ないの」
キン「ああ、よかったわ。それならそうと最初から言ってくださりゃいいのに、まあ…。ご覧なさいまし、旦那まで喉にごはん詰まらしてんじゃありませんか、まあ」
宗俊「てやんでぇ! おい、あれほど飯に芋入れるなっつっただろ!」
トシ江「あっ、すいません、入ってました?」
宗俊「入れときやがって『入ってましたか』もねえもんだ、この野郎」
トシ江「だって、あんたのにはよけてよそったつもりだったのに」
宗俊「はばかりながら江戸っ子はなトウナスと芋は食わねえことになってんだい。なあ、彦さん」
「芋たこなんきん」は女性が好きなものは芋、タコ、なんきん(かぼちゃ)だってのに、江戸っ子は、とうなす(かぼちゃ)と芋は食べないって、面白いなあ。
彦造「それこそ江戸っ子でしょ。男が食いもんのことでガタガタ言いなさんな」
宗俊「だけどよ」
順平「ぜいたくは敵だ!」
宗俊は一家の暴君ってわけじゃなく、使用人たちからも結構言い返されたりしてるからバランス取れてる。あれで誰も何も言いだせなかったり、同調すると見てる方もストレスたまる。
元子たちの部屋
元子は窓辺に座り、巳代子と順平はうつぶせになり2人して同じ本を読んでいる。
元子「そうよね、あんちゃん。試験は受かるために受けるものなのよね。私、甘かった…。でも私、必ず…」
縁側
将棋盤の前に座る宗俊。着物がいつもおしゃれ。
宗俊「はあ…。それで、だよ」
茶の間
トシ江「ええ」
宗俊「それでもしもだな」
トシ江「はい」
宗俊「もしも1次が受かったら、あとはどうなるんだい?」
トシ江「それはやっぱり2次試験を受けるってことになるんでしょうね」
宗俊「だから、その2次ってえのは、どんな試験をやるんだと聞いてるんだ」
トシ江「ええ、何でも音声試験とかって言ってましたけど」
宗俊「音声? つまり口跡ってえことだな」
トシ江「まあ、そういうことでしょうね」
宗俊「うん」
トシ江「どうかしたんですか」
宗俊「見りゃあ分かるだろ、考(かんげ)えてんだよ」
トシ江「何をです?」
宗俊「うるせえな、いちいち」
トシ江「あれ、それはすいませんでした」
宗俊「おい」
トシ江「はい」
宗俊「ちょいと出かけてくる」
トシ江「どこへ?」
宗俊「え? 金太郎のところだ」
トシ江「あんた」
宗俊「何、目ぇ三角にしてんだい」
トシ江「だって、あの金太郎ねえさんは横町の勇さんが戦争に行く時、今更張り合ってたあんたに頼むのは何とも申し訳ない話だけれども、ほかに身寄りも何もないかわいそうな女だからどうぞよろしくお願いしますと頭を下げてさ、え? もし、おめえが帰ってきたら、おう、俺はオス猫一匹そばに近づけねえから安心して、お国のために頑張ってこい、そう言ってお前さんポンと胸をたたいて引き受けたんじゃないんですか」
宗俊「ペラペラ、ペラペラ、よく動く口だな」
トシ江「ごまかしたって駄目ですよ。やきもちやいて言うわけじゃないんだけど、今どきお茶を挽(し)いてる芸者衆はほかにいくらでもいるじゃありませんか。駄目駄目。あの人はどんなことがあっても駄目です」
へえ~。
宗俊「早まるな、この。元子のことでちょいと相談に行ってくるだけだよ」
トシ江「元子のこと?」
宗俊「口跡といやぁ、お前、喉を鍛えにゃなるめえ。え?」
トシ江「ええ」
宗俊「まあ今更、付け焼き刃には違(ちげ)えねえが新内でも常磐津でも、やっとかないよりはやっといた方がいいに決まってるじゃねえか」
トシ江「だってあんた、元子が勤め出るの反対だったんでしょ?」
宗俊「ああ、反対だとも。けどな、受けた以上、受からねえじゃ、お前、かわいそうじゃないか。な。受かったところで謹んでご辞退申し上げるのが粋ってもんなんだよ」
トシ江「それにしたって」
宗俊「何はともあれ、これが親心ってもんだい。覚えときやがれ。行ってくるぜ」
さしずめこれを教育パパのはしりと見るべきなのでしょうか。
それから4日目の朝。
路地
郵便配達「おはようございます」
女性「おはようございます」
吉宗
郵便配達「吉宗さ~ん! 速達ですよ」
宗俊「おう、ご苦労さん」
郵便配達「へえ、おあいにくさま。今日のは旦那じゃなくて桂木元子殿だ」
元子「えっ、私に!?」
郵便配達「はい、おめでとう」←コラ、言うな…って見るな。
元子「1次が受かった! お母さ~ん、1次が受かった~!」奥に入っていく。
彦造「旦那ぁ、おめでとうございます」
宗俊「ケッ、朝っぱらから何がめでてえもんかい」
彦造「けど、大(てえ)したもんじゃねえですか。やっぱ旦那のお嬢ですよ」
宗俊「おい! 神棚だよ、神棚! こら!」
神棚に置かれた1次試験の合格通知。
家族みんなでかしわ手を打つ。
やっぱり家族です。みんながこんなに喜んでくれて第2次試験への元子の意欲はさらに強いものとなりました。
手を合わせて目をつぶるトシ江や宗俊の顔を見る元子。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
のテロップがいつもよりちょっと長い月曜日。
古い言い回し、ことわざ、昔の考え方…そういうのがあって面白く感じる。「おしん」や「澪つくし」のような劇的な展開も面白いっちゃ面白いけど、やっぱり落ち着いた日常ものは好きです。