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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(26)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

元子(原日出子)は放送員室でトモ子(菅原香織)からの電話を受け、親切だった黒川先輩が明治座で亡くなったことを伝える。家に戻るとキン(菅井きん)がいて、順平も無事だと分かるが、金太郎(木の実ナナ)の消息が分からず、宗俊(津川雅彦)たちが探しに行っているという。元子は千鶴子が心配になり会いに行くが、行方不明だった。悲しみをこらえきれず、動転して泣きじゃくる元子を、正道(鹿賀丈史)が抱きしめる。

放送員室

黒電話が鳴っている。

 

あの大空襲の翌11日でした。

 

元子「はい、放送員室です」

トモ子「もしもし、ガンコ? ガンコでしょ」

元子「えっ」

トモ子「私よ、トモ子。飯島トモ子」

元子「ふれちゃん! どうしたのよ、あなた一体?」

 

トモ子「よかった、無事だったのね、ガンコ! 東京は、すごいって知らせがどんどん入ってくるし昨日から心配で心配で」

 

元子「ありがとう、元気よ。ブルースも六根清浄もここにいるわ」

 

トモ子「よかった! じゃあ、後で変わってもらうけど、おうちの人たちも無事なのね」

元子「もちろん」

トモ子「モンパリのおじさんは?」

元子「元気よ。銀座は先月の爆弾であちこちやられて、あそこもだいぶんガラスが割れちゃったけど、今んとこ無事に残ってるわ」

トモ子「よかった~。もうニュースのたんびにそれが心配で心配で」

元子「そういう、ふれちゃんは元気なの?」

 

トモ子「うん、元気元気。アクセントではまだ叱られ続けてるけど、とにかく頑張ってるから安心して」

 

考えてみりゃ1か月半くらいの研修だったね…。何年たってもこのままのアクセントならちょっとな~だけど、まだ許容範囲かな。

 

元子「分かった。それじゃ今代わるから」

恭子「もしもし、ふれちゃん」

トモ子「わぁ、ブルースも無事だったのね」

恭子「もちろんよ。だけど、よくかけてくれたわ」

トモ子「当たり前でしょ。私たちは同期の桜じゃないの」

恭子「ちょっと待って、何から話していいか分からないから、もう一人の桜に代わる!」

のぼる「もしもし、私、六根清浄」

トモ子「言わなくたって声聞けば分かるわよ」

のぼる「私ね、今、ふれの後釜なのよ」

トモ子「え? 私の後釜?」

のぼる「うん、下宿が焼けて目下モンパリに居候してるの」

 

トモ子「わぁ、懐かしい。けど、銀座もひどいんだって?」

のぼる「一度出てらっしゃいよ。驚くわよ」

トモ子「んっ、意地悪。できもしないことけしかけないで」

のぼる「でも、元気そうな声だわ」

トモ子「うん、頑張ってるもの。ねえ、ガラも元気?」

 

のぼる「元気は元気だけど」

トモ子「ははぁ、さてはまた何かやったな」

のぼる「うん…」

 

トモ子「何よ、何があったの?」

のぼる「先輩の黒川さんが亡くなったの」

トモ子「黒川さんって…まさか」

 

のぼる「それで、ガラ、今…あと、ガンコから聞いて」元子に受話器を渡し、恭子と共に下を向いて悲しみをこらえる。

元子「それで、ガラは今、代表でお悔やみに行ってるところなの。ええ…明治座で発見されたんだけれど、とってもきれいな顔してらしたって」

 

トモ子、手で口を覆う。

元子「たくさんの方が亡くなったのよ。きっと苦しかったと思うわ。だけど、不思議なぐらい、黒川さんきれいな顔してらしたって捜しに行かれた立花先生が…」

 

デスクの上に飾られた花。

 

事あるごとにかばってくれた先輩・黒川由美の死は元子にどれほどのショックを与えたことでしょう。

 

吉宗

元子「ただいま」

 

シーンとした家の中。

元子「ただいま」

 

キン「お帰りなさいまし」

元子「おキンさん!」

キン「アッハハ、よかったよかった。本当に皆さん無事でようござんしたよぉ」

元子「けど、どうして?」

キン「へえ、今朝早く向こうを出て、もう夢中で歩いてまいりました」

元子「そう。順平は?」

キン「へえ、お隣さんに預けてきました」

元子「じゃあ無事だったのね」

 

話しながら茶の間へ異動

キン「ええ。私どもは無事でしたけどね、まあ昨日はこっちの空は、まあ昼間みたいに真っ赤だったでしょ。だからもうね、あの火じゃね、お嬢や旦那やおかみさんも無事ではいられないだろうと思って、まあ見てたら、私はもう足がガタガタ震えちまいました」

元子「よかった…。放送局へ行って熊谷の方は大丈夫って聞いたんだけど、私、一(しと)晩中、おキンさんや順平のこと心配してたのよ」

キン「本当にあん時はまあバカなこと言って騒いだけど、疎開させといてもらってよかったですよ。私なんかがいたら、それこそ足手まといになるの分かりきってたことですしね」

元子「ごめんね。でも、あんな思いはしなて済むならしない方がいいに決まってるもの」

キン「本当。今朝だってね、まだあちこちブスブスしてて道も熱いし、それより何より、上野から水天宮様までず~っと見通しみたいに焼け野原。私ゃ、もう腰抜かしちまいましたよ。けどまあ、よく無事でね…」

 

元子「みんなは?」

キン「へえ、おかみさんは2階で横になってもらってます。何しろ焼け出された人(しと)たちの世話や何やで、ろくなお休みにもなってないようですしね」

元子「そう。で、お父さんや彦さんたちは?」

キン「ええ…」

元子「何かあったの?」

 

キン「金太郎さんがね、姿見せないんです」

元子「金太郎ねえさんが?」

キン「無事なら、きっといつも、ここへ現れるのに昨日も夜になっても見えないし、普通じゃないって、旦那と彦さんが、今」

元子「そんな…」

 

金太郎「いや、もう、どうぞ入ってくださいましな。どうも」

ショールをかぶった金太郎が歩きだし、もう一度振り向いて頭を下げる。

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この場面、24話の回想シーンかと思ったら、微妙にセリフが違った。

金太郎「あ…もう、どうぞ入ってくださいな」

トシ江「気ぃ付けてね」

金太郎「おやすみなさいまし」

 

マー姉ちゃん」でもあった。

peachredrum.hateblo.jp

回想風新撮なんだよね~。この時代ならでは!? でもこれより昔の「岸辺のアルバム」でも普通に回想シーンはあったから、朝ドラがちょっと特殊なのかも。「おしん」とかでも音楽を流しながら撮ってたとか言うしさあ。他のテレビドラマよりロケも少ないし、テレビドラマというより舞台感覚だったのかも。

 

2階

布団に横になっているトシ江。

元子「お母さん…」

トシ江「そんなバカなことあるわけないよ。きっとどこかで生きてるわよ。あんないい人があんなむごい死に方するなんて、そんな…金輪際あってたまるもんですか。私ゃ嫌だよ。順平にくれたお守り袋があの人の形見になっちゃうなんて…。そんなこと…私、我慢できないよ」

元子「お母さん…」

すすり泣いているトシ江。そっと部屋を出る元子。

 

1階に下りてきた元子。

キン「おかみさんは?」

元子「うん、疲れが出たらしくて眠ってる」

キン「そうですか、そりゃよかった。むごたらしい人たちばかり見てたら、もう神経が参っちゃいますよね」

元子「それじゃ、私、中の湯、手伝いに行ってくるから」

キン「あっ、だって今、帰ってきたばかりじゃないですか。疲れてるのに、まあ」

元子「疲れてんのは、みんなおんなじよ」

キン「そりゃ、そうですけど」

元子「はい、これ、ゆうべの配給」

キン「はい」

 

路地を歩いている元子。

小芳「もっちゃん!」

元子「あっ、おばさん!」

 

初めて幸之助と小芳の家が出てきた。wikiとか読むと三味線屋と出てきて、普段も秀美堂とは呼ばれてたけど、店が出てきたことはなかった…はず。店内には三味線が並ぶ。

 

小芳「よいしょ、ハハ…」

元子「足はどんなふう?」

小芳「ああ、痛いって言えば痛いんだけど、な~にこれくらいのこと」

元子「あっ、お使いなら私が行くわよ。中の湯、手伝いに行くだけだから」

小芳「そう。じゃあ、ちょうどよかった。いや、大したもんじゃないんだけどね、洗濯してあるものあそこの人たちに届けようかなと思って」

元子「それじゃあ、私が」

小芳「そう、じゃあお願いするわ」

元子「はい」

 

小芳「ねえ、聞いた? 金太郎さんのこと」

元子「見つかったんですか?」

小芳「まだらしいんだよ。けど、橋を渡って逃げたんじゃないだろうね。うちには見に行っちゃいけないって言ってたけど川の上を火(し)が走ったっていうじゃないか。水ん中、逃げた人、随分、駄目だったんだって。どこへ逃げたって地獄だったんだよね。明治座だって随分お骨になっちまった人もいるらしいし」

元子「私の先輩も一人、あそこで亡くなってたんです」

小芳「そう…」

 

元子「それじゃあ、行ってきますから」

小芳「じゃ、よろしく頼むね」

元子「いいえ。それより傷口が塞がないうちにあんまり動かない方がいいですよ」

小芳「ありがとよ、フフ…。よろしく」

 

路地

元子「巳代子?」

巳代子「お姉ちゃん」

元子「疲れた顔して」

巳代子「うん…」

元子「大丈夫。私が選手交代してやるからね」

 

巳代子「けど、気になるんだ」

元子「大丈夫よ。金太郎ねえさんなら、お父さんがきっと捜して連れて帰ってくる」

巳代子「ううん、あの人のこと」

元子「あの人って?」

巳代子「ほら、あんちゃんの。ね、この前の空襲だって、わざわざ来てくれたのに昨日も今日もあの人、顔見せないし」

元子「巳代子」

巳代子「ね、もし訪ねてくれたんなら誰かに無事なことを知らせて帰るはずじゃないの?」

元子「そうよ…あんまりあれこれあったから、私、つい、あの人のこと忘れてた。ちょっと行ってくる」

巳代子「うち、分かる?」

元子「大体分かる」

巳代子「でも…」

元子「ううん、本郷の方もやられたって情報、確かに放送局に入ってたし」

巳代子「それじゃあ…」

元子「とにかく行ってくるから、これお願いね」預かった荷物を押しつける。

巳代子「お姉ちゃん! 気を付けてよ!」

 

茶の間

トシ江「どっかの病院に収容されてるんじゃないんでしょうか」

幸之助「捜したよ。病院だけじゃなく罹災者のいる学校、全部捜したんだ」

宗俊「金太郎の、あのバカが全く…」

洋三「生きてさえいりゃ、必ずここに連絡があるでしょうから諦めるのはまだ早いですよ」

トシ江「自分の名前が言えないように弱ってんじゃないんでしょうね。もし、そうだとしたら…」

 

宗俊「うるせえ! 今、息引(し)き取ったって仏さんたちまで、こっちはひっくり返して顔見て歩いたんだ」

幸之助「宗ちゃん」

宗俊「分かってるよ。しかしよ、あのバカは空襲が始まったら何でこっちに向かって逃げてきやがらなかったんだ。そいつが悔しくてよ」

幸之助「しかたないじゃねえかよ。こうなったら明日もう一日早起きして捜さねえことには身元の分からねえ仏は全部まとめて葬っちゃうって話だ」

トシ江「まさか…」

幸之助「しょうがねえんだよ。あのまんまじゃ仏たちだって浮かばれねえしな」

 

宗俊「おい、酒だ酒」

トシ江「お酒?」

宗俊「ああ、酒だ!」

洋三「義兄(にい)さん」

トシ江「いいんです、洋三さん。なんとか探してきますから」

 

正道「ごめんください!」

 

トシ江「はい」

 

吉宗の扉を開ける。

トシ江「まあ、大原さん…」

正道「ご無事で何よりでした」

 

宗俊「何がご無事だ! おめえ、ちゃんと目ぇ開けて見てきたのかよ、え! 空き地ってぇ空き地に丸太ん棒みたいに積み上げられてる、ほ…仏さんたちをよ」

 

正道「はい」

 

宗俊「だったら何とか挨拶のしようがねえのか。偉そうに腰に軍刀なんかつらさがってるけど、え、だらしがなくて申し訳ねえとか何とかよ!」

 

トシ江「何言ってんですか。大原さんは戦車隊でしょう。戦車がB29にどうやって向かっていけっていうんですか」

正道「いえ…」

 

宗俊「知るかよ! 俺がそんなこと」

 

トシ江「と…とにかく、ね、お上がりになってください」

正道「いえ、そんな時間はありません。あの、元子さんや巳代子さんは…?」

トシ江「はい、もうおかげさまでみんな無事でおります」

正道「そうですか。それを聞いて安心しました」

 

戸が開く音

元子「ただいま」

トシ江「元子」

正道の顔を見た元子は奥へ走り出す。

トシ江「元子…元子!」

 

裏庭に出て物干し竿?にもたれかかる。昨日もだったけど、昭和仕草というかなんというか。追いかけてきた正道。「元子さん…」

 

泣いている元子。「あの人が…あの人が…」

正道「あの人?」

元子「あんちゃんのあの人が…」

正道「まさか面会に来たあの人が?」

元子「そう…どこを捜しても見つかんないの。一緒に逃げたという人、いたんだけど、うちは焼けてて、今まで待ってたけど、あの人、帰ってこなかったの」

正道「だからって亡くなったとは限らないでしょう。元子さんが諦めてどうするんですか!」

元子「あんまりだわ! あんまりよ! 金太郎ねえさんや黒川さんが一体何をしたっていうの! どうしてあんないい人が殺されなきゃならないのよ! ひどいわ、ひどすぎる! ひどい、ひどい、ひどい…」正道にしがみついて泣く。

 

あまりにも親しい人たちの死や行方知れずに元子は動転していたのでしょう。けれど、昨日から悲しみに押し潰されそうだった胸の中のものもこの時、しがみついた相手の胸がそのいくらかを吸い取ってくれている…。思うさま泣きじゃくりながら、ぼんやりとそんなことを感じていました。

 

つづく

 

大原さんみたいに外地に行かない軍人と軍人じゃないのに外地で戦う人の差ってなんだろねえ??