公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
桂木家を出て工場の寮に移った金太郎(木の実ナナ)が、順平にお守りを渡しにやってきた。だが順平とキンはすでに疎開先に出発した後で、お守りはトシ江(宮本信子)が預かることに。金太郎を子供のころから守ってきた、霊験あらたかなお守りだという。元子(原日出子)がもらってきた酒粕で甘酒を作り、宗俊(津川雅彦)が幸之助(牧伸二)と一杯やろうとした時、爆音と爆撃音が響く。超低空を飛ぶB29。東京大空襲だ。
オープニングはゆっくりバージョン。
夜、吉宗
小雪舞う中、ショールをかぶった金太郎が訪ねてくる。「こんばんは」
元子「あら、金太郎ねえさん」
金太郎「あら、夜勤じゃなかったの?」
元子「うん、さっき帰ってきたところ。まあ、とにかく上がってくださいな」
金太郎「そう。じゃ、ちょっとだけ失礼さしてもらって。どうした? おキンさんたちの支度できたの?」
元子「うん、昨日たっていった」
金太郎「えっ。明日じゃなかったの!?」
元子「うん、急な都合でそうなっちゃったの」
金太郎「ああ…困っちゃったな。明日だとばっかり思ってたからさ。私ね、順平ちゃんにお守り袋を届けに来たのよ」
宗俊「おい、入(へえ)るなら早く入ってくれ。寒いじゃねえか」
金太郎「あらあら、すいませんね。じゃ、ちょっとだけ」
元子「どうぞ」
金太郎「失礼します」
茶の間
トシ江「どうもありがとう。今度、顔見に行く時に届けてやりますから」
金太郎「お願いしますね。これね、私が下地っ子に入った時に芳の家のおかあさんにもらったものでね、ほら、祭りで、ほら、みこしに潰されそうになった時、これをつけていたおかげでかすり傷一つ負わなかったんだから」
宗俊「ほんじゃあ、おめえ、随分古いお守りじゃねえか、え」
金太郎「けど、考えたらね、順平ちゃんと同い年なのよ、その時が」
宗俊「へ~え」
金太郎「何たって霊験あらたかなお守りなんですよ」
「マー姉ちゃん」にも出てきた言葉。
巳代子「けど、そんなに効くお守りなら、おねえさんが大事にしておけばいいのに」
金太郎「おかげできっと、みんながさみしい思いをしてるんじゃないかと思って、これはちょっとばっかり罪滅ぼしのつもりなんですよ」
宗俊「おい、元子から聞いたぞ。今度の疎開話、お前が仕掛けたんだってな。え?」
元子「ごめん、しゃべっちまったのよ、私」
金太郎「やれやれ、やっぱり女は天野屋利兵衛にはなれないんだねえ」
実在の人物だけど、物語のような行動はしてないらしい。
トシ江「ね、それで、工場の方はどんな具合なの?」
金太郎「いや、どうってことはありませんけどね、おんなじ敷地の中だから工場へ行くのは楽になりましたよ。もっちゃんも巳代ちゃんもさ、一回遊びに来てちょうだいな」
元子「のんきなこと言って」
金太郎「そうだ、じゃあ、私はこれで」
元子「えっ?」
トシ江「ねえ、ゆっくりしてってちょうだいよ」
金太郎「そうはいきませんよ。おキンさんを追い出しといてさ、その留守にぬくぬくとこのこたつにあったまってたら、ばあさんの恨みに取りつかれてろくなことありゃしませんよ、ハハ…」
元子「だけど、それでよかったんだから」
金太郎「でもね、門限ってのがあるのよ」
元子「門限?」
金太郎「うん、まるで書生さんの寄宿舎みたいでしょ。でもね、結構変な相棒もいて楽しいんですよ」
宗俊「おいおい、お前、そんなのにちょっかい出すんじゃねえぞ。間違いでもあったら、俺はお前、勇の字に合わせる顔がねえよ」
金太郎「大丈夫ですよ。どうせちょっかいを出すんなら宗俊旦那の方が出しがいがあるもの、フフ」
宗俊「違(ちげ)えねえ」
金太郎「ねえ、おかみさん」
トシ江「さあ、どうですかねえ」
金太郎「それじゃ、河内山の旦那」
宗俊「ああ、またな」
外に出た金太郎はショールをかぶる。
トシ江「金太郎さん、本当にどうもありがとう」
金太郎「とんでもない。それじゃ、おやすみなさいまし。旦那、おやすみなさい」
トシ江「おやすみなさい」
元子「おやすみなさい」
歩き出すが、振り向く金太郎。「あ…もう、どうぞ入ってくださいな」
トシ江「気ぃ付けてね」
金太郎「おやすみなさいまし」もう一度振り向いて頭を下げていった。
トシ江「本当に気持ちのいい人(しと)だねえ…。だからどこへ行ってもみんなに好かれるんだろうけどさ」
元子「そんなこと言って、やきもちやいたことはないんですか?」
トシ江「バカお言い。そんなもん、やくくらいなら初めっから面倒なんか見るもんですか」
元子「へ~え、そんなもんですかねえ」
トシ江「あぁあぁ、そんなもんですよ」
元子が吉宗の扉を閉める。
霊験あらたかなお守りを手放した金太郎ねえさんに間違いがなければ本当にいいのですが…。
放送協会食堂
悦子「じゃあ、それで例の微妙なる三角関係も幕になっちゃったわけ?」
元子「嫌ぁねえ、三角関係だなんて。そんなふうに言わないで」
のぼる「あら、だって、ガンコが言いだしたことじゃないの」
元子「私が?」
恭子「そうよ。研修の頃、桑原先生の作文の時間にあなたそう書いたわよ。それでふれちゃんが感激して泣きだして」
元子「あ…そういえばそうだったわ。でも私、思うに、この四角関係はず~っと続くんじゃないかな」
悦子「あっ、そうか、四角関係だった」
元子「それにしてもふれちゃん、元気でやってるのかな」
のぼる「(トモ子のもものまねで)でも、彼女のことだもの仙台で元気にやってるわよ」←こういういじりはあまり好きじゃない。
笑い声
恭子「うまいうまい」
由美「いいわねえ、あなたたちは」
恭子「はっ?」
由美「私にはこんなに仲のいい同期生はいないのよ」
元子「はい、まことにドジな同期生ばっかりそろっておりまして」
由美「あっ、また何かやったの?」
恭子「はい、ゆうべの交響楽、ぼんやりしていたもので、まだレコードの途中なのに次の曲名、言ってしまったんです」
のぼる「おおブルース、お前もか」
由美「あら、それを言うならブルータスでしょう」
元子「でも横浜生まれだし、淡谷のり子さんの『別れのブルース』をもじって、ブルースちゃんなんです」
笑い声
毎回面白い名付け方。しかし、金八先生だとあだ名のある生徒って、不思議とあんまりいないんだよね(初期)。金八先生だって、服部先生(=洋三叔父さん)がせいぜい、きんぱっつぁんって言うくらいだしね。
由美「本当におかしな人たち。あっ、じゃあ、立花さんの雷が落ちたでしょう」
恭子「はい、ビリリと感電しました」
悦子「こういうのとつきあってると黒川さんもだんだんと怪しくなりますから気を付けてください」
由美「ええ、もう、どんどんお仲間に入れてほしいわ」
元子「駄目、ここにいるのは満足な恋人一人いない連中なんですから、差がありすぎます」
由美「ひどいわ」
のぼる「だったらもっと話してください」
悦子「肝心なところでぼかしてしまうんですもの」
元子「私もそこが聞きたい!」
のぼる「今夜は逃がしませんからね。この間のお休みの時、航空隊まで面会にいらしたのよ。白状しなさい」
由美「もう、数で来るんだからかなわないわ」
笑い声
モンパリ
帰ってきた洋三。「ただいま」
絹子「お帰りなさい」
のぼる「寒かったでしょう」
洋三「ああ…」
ラジオから音楽が流れる。
洋三「あれ、『魔弾の射手』やってるじゃない」
のぼる「もう少し早く帰ってらしたら例のミス放送協会・黒川由美さんのアナウンスが聴けたんですよ」
洋三「うわ~、そりゃ残念!と言いたいけれど、すばらしいものを2つも同時に望んだんじゃバチが当たるもんな」
絹子「それじゃ、すぐに食事にしますからね」
洋三「はい」
のぼるがお茶を出す。
洋三「ああ、どうも」
のぼるは洋三がかぶっていた鉄兜を触る。「あっ、冷たい」
洋三「うん、だいぶ風が出てきた」
のぼる「こんな晩に大きな空襲がなければいいですけどねえ」
洋三「ああ」
ラジオから音楽が流れる。
風の音
3月9日の夜は、ところにより30メートルを超す北北西の風が吹いていました。
ラジオからサイレンが鳴り、「関東地区、空襲警報解除。東部軍管区情報。旋回しつつありし敵2機は帝都に侵入せるも被害なく房総方向より洋上はるかに、とん走せり」
元子、トシ江、巳代子が茶の間に入って来た。
宗俊「お~い!」
トシ江「は~い」
元子「お帰りなさい」
宗俊「う~寒ぅ。骨の髄まで凍っちまったぜ」
トシ江「ご苦労さんでしたねえ」
彦造「人騒がせでやがる、もう」
宗俊「おい、さ湯でもなんでもいいからな、腹ん中あったまるものくれや。彦さんにもだぞ」
トシ江「はい、今、甘酒でもつくりますから」
宗俊「おっ!」
巳代子「甘酒!?」
宗俊「こいつはまたおつなものがあるじゃねえか」
元子「今日ね、放送員の友達から酒かすもらってきたの」
宗俊「そうか。しかし、しょうがはねえんだろうな」
元子「そんなもんあるわけないでしょ」
宗俊「ありゃいいなと思ってるだけじゃねえか」
トシ江「さあさあ彦さん、こっちお寄りよ。ねえ、防空ごうの中でもしんしんと寒かったんだもん。表に立ってちゃ、たまったもんじゃなかったでしょ」
彦造「いや~、年ですかね。腰が痛くなりやがって」
宗俊「神経痛だなあ、おい」
彦造「全く情けねえ話で」
トシ江「熱いうちにかき混ぜてくださいね」
宗俊「お~」
トシ江「さあ、彦さんも」
彦造「はい…」
宗俊「おい、匂いだけは同じでやがる。あ~、虫が起きるわ」
巳代子「と言いつつ、手ぇ出してるんだから河内山宗俊も落ち目ですね」
宗俊「落ち目で結構。とにかくあったまらないことには」
幸之助「空襲警報解除! 空襲警報解除!」外から声がする。
宗俊「幸ちゃんだな。おい、もう一杯あるか?」
トシ江「ええ、ありますよ」
宗俊「元子、呼んでやれ、あのバカ」
元子「はい」
幸之助「空襲警報解除! 空襲警報解除!」
元子は吉宗の扉を開ける。「おじさん! 秀美堂のおじさん!」
幸之助「何だい」
元子「ちょっと来てくださいな」
幸之助「来てくださいってったって、お前、早く帰って、こたつん中によ…」
宗俊「おい、甘酒だ」
幸之助「へ!?」
宗俊「一杯やるから上がれ上がれ」
幸之助「こりゃ、思いがけねえところで北村大膳だな」
「マー姉ちゃん」では「とんだ所へ北村大膳」だった。
河内山宗俊のセリフなんだね。
家へ上がりこもうとした幸之助だったが、爆撃音に気付く。「どうしたんだ、これ!」
宗俊「お前、敵機は今、房総から出ていったってラジオが…」
幸之助、宗俊、彦造は慌てて外へ出ていく。
カーチス・ルメイ少将の指揮する、この夜の空襲は今までの常識を全く破りB29の超低空による連続、波状的なじゅうたん爆撃だったのです。
時計は深夜12時過ぎ。
路地は逃げる人々であふれた。
一旦家を出た宗俊が戻ってきた。「トシ江! 元子! 巳代子!」
トシ江「あんた!」
元子「お父さん!」
宗俊「今夜は駄目かもしれねえ。いいか、みんなで逃げるんだぞ」
巳代子「一体どこへ?」
宗俊「サナダビルの地下室だ! いいか、あそこにはな、畳と泥と水が用意してあるから中入ったら、しっかりと目張りして火(し)、防ぐんだ! 水、ぶっかけるんだぞ! 分かったな!」
地下室はなんか怖い。
元子「で…で、お父さんは!」
巳代子「お父さん!」
吉宗前
小芳「あんた! あんた…」
宗俊「何をグズグズしてんだ! 早く逃げねえと火に巻き込まれるぞ!」
小芳「だって…」
幸之助「行かねえと、ほら、はり飛ばすぞ!」
宗俊「大丈夫だよ。いいか? 俺たちは最後まで踏みとどまって軒に火がついたら逃げ出すが、な~にむざむざこの町焼いてたまるかってんだ!」
百合子「でもお父っつぁんがいないのよ、お父っつぁんが!」
小芳「えっ?」
幸之助「ご隠居が?」
宗俊「よし、安心しな。見つけ次第、すぐ逃がしてやるからな」
トシ江「そんなら百合子さん、ね、行きましょう!」
元子「私は残る!」
トシ江「元子!」
元子「だってあんちゃんも順平もいないんだもの! この家が燃えるなんて…見届けてからお父さんと一緒に…」
宗俊が元子にビンタ。
元子「あっ!」
宗俊「バカ野郎! 生意気言うんじゃねえ! 放送員が死んだらラジオは誰が放送するんだ!」
元子「お父さん…!」
彦造「旦那!」
宗俊「おう、女どもな、サナダビルまで頼むぞ!」
彦造「へえ!」
宗俊「彦さん、頼んだぞ!」
小芳「あんた、死んだら駄目だよ! 死んだら駄目だよ!」
幸之助「お前こそ、くたばったら承知しねえぞ!」
小芳「あんた! 死んだら駄目だよ!」
幸之助「ご隠居!」
友男「何してんだよ! 今、ここの彦さんがさ、百合ちゃん連れ立ってサナダビル行ったんだ。早く追えよ!」
芳信「慌てなさんな!」
幸之助「慌ててもらわなきゃ困るんだよ、もう!」
芳信「私ぁ年に不足はないんだ。この人形町を焼こうってやつらにゃ火はたき持って最後まで戦うんだ」←あれは火はたきというのか。
友男「そんなこと言ったってよ」
芳信「いや、大丈夫。はばかりながらね、震災でも火の中かいくぐって生き延びた、この私だ。足手まといにはなりません」
幸之助「けどよ…」
宗俊「よし、いいってことよ。俺のおやじが生きててもな、やっぱりおんなじこと言ったぜ」
幸之助「宗ちゃん!」
宗俊「いいかみんな。俺たちゃあな、玉砕するために残るんじゃねえ。この町、守るために残るんだ!」
友男「そうさ! 分かった! よし、分かった!」
幸之助「そしたら、防火用水見て回る!」
宗俊「おう、行ってこい、行ってこい! 頼んだぞ!」氷の張った防火槽の水をバケツで割り、頭から水をかぶる。火はたきで目の前の灯を消す。
史料映像。東京上空を飛ぶB29。これ、カラーで再現したら余計怖いだろうな。
この夜、東京へ襲いかかったB29は米軍資料で334機。2時間半で70万発の焼夷弾を投下しました。
燃えさかる建物に水をかけてたけど、とても間に合わない。
つづく
来週も
このつづきを
どうぞ……
これで予告がないというのは辛いね。どうなるか全く読めない。みんな、無事でいて!