公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
フォークの集会に出かけ、無断で帰宅が遅くなった由利子(邑野みあ)にどなる健次郎(國村隼)を町子(藤山直美)がたしなめる。そして、由利子が行っていた集会の場所である教会の機関誌を見つけ、町子は関心を抱き、一緒に行ってみたいと思うが、由利子に断られてしまう。そんなとき、今度は、由利子の高校から呼び出しがかかる。由利子が学校の校舎の窓に、ベトナム戦争反対のビラを友だちと貼っていたのだという…。
昨日の振り返り
パジャマ姿の健次郎が心配そうに茶の間にいる。
時計は午後11時過ぎ。
町子「大丈夫やて。お友達も一緒なんやから」
健次郎「何を言うてんのや。高校生の女の子がこんな時間まで」
町子「いきなりどなったりせんといてね。ほんまにあかんのんよ」
健次郎「言わなあかんことは言う」
振り返りここまで
玄関の扉がそーっと開き、由利子が入ってきた。
健次郎「由利子」と呼びかけ、廊下に出てくる。
由利子「ただいま」
健次郎「『ただいま』やないぞ! 何時やと思てんね!?」
町子「ちょっといきなりやめて…」
健次郎「遅いやろ! 若い女の子がそんな短いスカートはいて夜中ウロウロ、ウロウロ!」
由利子「友達としゃべってて気ぃ付いたらこんな時間やってん」
健次郎「遅なるなら遅なるで何で電話の一本もできへんねや?」
由利子「そやからしゃべってたら、あっという間に…」
健次郎「時間忘れてしゃべるな!」
由利子「よう言うわ。時間忘れてお父ちゃんらも朝までしゃべってるやんか!」
町子「有効!」←言い方が面白い!
健次郎「あんた、一体どっちの味方やねんな? あのな、大人はええね。子供はあかん」
由利子「大人や子供やなんてナンセンスやし…」
健次郎「え?」
由利子「それに…もう子供やあらへん」
部屋に行こうとする由利子を健次郎が腕を強く引っ張る。「コラ。まだ話終わってないやろ。ちゃんと聞け」
町子「健次郎さん、ねっ、もう遅いから、その話、明日にしましょ。ねっ」
健次郎は行ってしまう。
町子「ねえ、由利子ちゃん…お父ちゃんもおばちゃんも心配して待ってしまうから今度からお電話だけはちゃんとしてきて。ねっ」
由利子「はい…」
町子「うん」
由利子、部屋へ。
町子「あんな大きい顔してどならんでもええやないの! 話、したら、ちゃんと分かる子なんやから! あっ」
由利子が落とした冊子を拾う。
町子「教会?」冊子を広げ「詩の朗読? うん?」
由利子の部屋
ラジオ「ペンネーム恋するマサユキさんからのリクエストで森山良子『禁じられた恋』」
わ! 桜田淳子バージョン発見!
ラジオ「♪『禁じられても 逢いたいの』」
回想
ススム「君、どんな歌が好きなん? 『禁じられた恋』か。何かかわいらしいな」
回想ここまで
ラジオ「♪『ひかれるの 恋…』」
スイッチを切り、由利子はベッドに寝転んだ。
朝、茶の間
由利子が落とした冊子「集い」を読んでいる健次郎。「教会?」
町子「うん。何かね、牧師さんが詩人みたい」
健次郎「何でそんなとこでフォークの集会してんね?」
町子「いや、それ分からへんけど何か面白そうでしょ?」
健次郎「うん…」
町子「ねえ、私、行ってみようかな」
健次郎「は?」
町子「いや、『は?』て面白そうでしょ? 私、由利子ちゃんに言うて連れてってもらおかなと思て」
健次郎「絶対に嫌がられるわ!」
町子「そんなことはないわ」
由利子「おはよう」
町子「あっ、おはよう」
隆「おはよう」
町子「早う座りなさい」
町子「由利子ちゃん。由利子ちゃん」
由利子「何?」
町子「これ、昨日落としてったでしょ。面白そやねえ。ねえ、おばちゃんもいっぺん連れてってえな。なあ」
由利子「嫌! あかん、絶対、嫌!」茶わんと冊子を持って台所へ。
健次郎、声に出さず「な?」の顔。
ムッとする町子。
仕事部屋
純子「そりゃ、嫌ですよ~!」
町子「そうかな~」
純子「もう、どこの世界に若者のメッセージソングの集会に保護者同伴なんて!」
町子「まあ…そら、まあ、そやね」
純子「先生が好奇心旺盛なのは、よく分かりますけど、あの、由利子ちゃんの関係のないとこで見にいらしたらどうですか?」
町子「えっ、そしたら入れてもらえるかな?」
純子「さあ…」
町子「そう! 純子さん。今はやりのこういうようなジーパンで、わ~って長髪で紛れ込んだら私でも分からへんのと違うかな?」
純子「え~っ!?」
妄想シーン
長髪にジーパン姿(ヒッピー風?)の町子が「♪ユ~ ハ~」と歌う。ロケ地は、あの教会だな。周りにいた若者たちも「♪ハ~」。ミニ予告は妄想シーンだったか。
純子「いけません!」
町子「あかんの?」
純子「もう絶対駄目です、先生!」
町子「ああ、そうですか…」
純子「はい」
その日までは、まだまだのんきな町子たちでした。しかし、その週末の土曜日。
茶の間
純子「今年はタイガース大丈夫ですよ! だって滑り出し好調ですもの~!」
健次郎「何て言うても、この新人王の田淵がおるからねえ。行けるよ、今年はタイガース!」
町子「ねえ、ちょっと健次郎さん、その新人王のこの人ね、今年もそのタイガースでず~っとやってくれはりますの? こういろんなところへ転々と行かはるわけではないんですか?」
健次郎「うん、そう」
町子「は~!」
健次郎「いまいちシステム分かってないみたいやな」
昔、こんな漫画があったよな…って思ったのに漫画連載が79年~、劇場映画も同時期…あれー? 子供のころ見てたにしては昔すぎる…。何で知ってたんだ? 「マー姉ちゃん」の時に時々見かけたけど、奥さんの声がお千代ねえやなんだよね。そもそも子供向けの漫画でもないけど、でもテレビで見た気がするんだよな~。
電話が鳴る。
町子「あっ、大丈夫です」
純子「すいません。わあ~!」健次郎と新聞を読んでいる。
町子「はい、もしもし徳永でございます。あっ、どうも先生。いつもうちの子がお世話になりまして。はい。ありがとうご…。えっ? そんなことを…。そうですか。分かりました。申し訳ございませんです。あの、すぐにそちらに行かせていただきますので…。はい。すいません、どうも。失礼いたします」電話を切る。
健次郎「何や?」
町子「由利子ちゃんの担任の先生から」
健次郎「うん」
町子「ベトナム戦争反対のビラをね、お友達と学校の窓に貼ったんですって」
健次郎「え~っ!?」
町子「『今、職員室で2人で話をしているからすぐに迎えに来てください』って」
縁側で話を聞いていた隆。
健次郎「しょうがないな~!」
町子「ほな」
健次郎「あ~、あんたここにおり」部屋を出ていった。
町子は、ため息をつく。
玄関前の路地
家を出た健次郎と帰ってきた清志。
隆「行ってらっしゃ~い!」
清志「何や?」
清志に耳打ちする隆。
清志「呼び出し? 姉ちゃんやないやろ。登の学校やろ?」
隆「違うねんて。由利子姉ちゃんが学校で何かしたんやて」
茶の間
町子「まさか学校でそんな運動してると思わへんかった…」
純子「きっとお友達に誘われたんですよ」
町子「ねえ、どうしよう。ヘルメットかぶって火炎瓶投げだしたら…」
純子「そんな恐ろしいこと…」町子の背中をさする。
戸が開く音
町子「帰ってきた!」
純子「早すぎません? お帰りなさい」
町子「どうでした? 早かったですね」
健次郎「行ってない」
町子「は!?」
健次郎「よいしょ。いや、そやから学校には行ってないて」
町子「え~!?」
健次郎「途中でな気が付いたんや。何で僕が学校行って教師の話、聞くんやろて…。で…ふっと思い出したんや。あ、そや、今日は阪神巨人戦のデーゲームがあったて」
町子「え~、ねえちょっとデーゲームって?」
純子「あの、昼間に試合があるっていうことです」
町子「あっ、そう言うんですか」
テレビのスイッチを入れる音。
縁側で清志と隆が見ている。
町子「そしたら健次郎さん、その理由で学校行かんと帰ってきたわけ!?」
健次郎「そうや」
町子「ちょっと~! 子供の学校の先生に呼び出されたんですよ!」テレビを見ている健次郎のところへ移動。
健次郎「なあ、由利子のしたことを僕が学校行ったところで説明のしようがないやろ。それがあかんことなんやったら、ちゃんと言い聞かせてくれたらええことやがな」
町子「無責任でしょう! 親の責任というのがあるでしょう!」
いつの間にか晴子も話を聞いている。
健次郎「ええか。ビラを貼ったんは由利子や。あいつなりに何か考えがあってやったんやろ。その責任は自分で取らな」
町子「そやけど…」
健次郎「考えてみいな。僕と教師が話、したところで何の解決にもならへん。なっ」
町子「うん」
健次郎「おっ、点入った!」
町子「そらそやな」
健次郎「よっしゃ!」
町子「由利子ちゃんと話、せなあかん。ということは由利子ちゃん帰ってくんのを待つのが一番ええことなんよ」
純子「えっ!?」
町子「うん。そら、そやろな。あの人と話、しよ思たら帰ってくんの待たなしゃあないわな」
純子「先生もお迎えにいらっしゃらないんですか?」
町子「そのまま待ってみることにしよか」
台所
晴子「ほっといたやて。普通やあれへんね、あの夫婦。まあ、由利子のことやから友達に誘われたんやろけど、こんな時代やからねえ」
純子「先生も大先生も信頼してらっしゃるんですよ、由利子ちゃんのこと。もう子供じゃないんですもの」
晴子「いや、もう子供やあれへんねやから、ちょっとは心配せなあかんのやけどねえ…」
純子「まあ、そうですね。うん」
登「由利子姉ちゃん、学校から呼び出しあってんて? 僕の専売特許取らんといてほしいなあ」
純子「面白がらないの!」
応接間
健次郎「あ~、何でそこでカーブ投げんねん! まっすぐや!」
純子「またですか!? ちょっと嫌だ! え~! あら! あら~!」
台所から応接間まで移動する純子を呆れた顔で見ている晴子。
夕方、茶の間
亜紀「お姉ちゃんは?」
町子「うん? まだみたいよ」
亜紀「阪神負けたん?」
健次郎「え? いや、勝ったよ」落ち着かず、ため息をつく。
由利子「ただいま」
町子「あっ、お帰りなさい。由利子ちゃん、由利子ちゃん」
千春「こんにちは。お邪魔してます」
町子「え?」
由利子「千春ちゃん」
町子「ああ!」
由利子「部屋、あっちやねん。行こ」
健次郎「由利子。何か言わなあかんことあるやろ」
由利子「私とこだけやったよ。誰も迎えに来えへんの」
健次郎「何で迎えに行かなあかんね?」
町子「今まで怒られてたの?」
由利子「ビラ剥がしててん、みんなで」
町子「みんな?」
由利子「一緒に貼った、みんな。そやからお昼食べてへんねん。千春ちゃん、ラーメンでも作ろっか」
健次郎「アホ! ちょうもないことして…」
由利子「何がしょうもないの? ベトナム戦争反対の呼びかけや。平和運動やで」
健次郎「親のすね、かじってる人間が何が運動や。高校生が政治に口挟まんでもええ」
由利子「文部省と同じこと言うてる」
健次郎「え?」
由利子「お父ちゃん、ベトナム戦争のこと、どない思てんの? おかしいと思えへんの?」
健次郎「あのな、お前らが今、躍起になったって、どうなるもんでもないんや」
由利子「ほら、ひと事。大人はみんなベトナムで苦しんでる人のこと分かってへんね。そんな人らに任してたから、今、こうなってしもてんのやない。若い私らが改革していかなあかんの」
健次郎「改革てな…世の中、そんな甘いもん違う。お前ら、まだ子供や。親の手元にいてる間は親の言うことを聞くもんや」
千春「誰かがやらないと世の中一つも変わらないんです」
健次郎「二度とやったらあかんで。ええな」
由利子、立ち去る。
町子「由…」
台所
私服に着替えた由利子。「もう、ほんま封建的なんやから、うちのお父ちゃん」
千春「心配してはんねん。由利子は大事な大事な箱入り娘やからね」
由利子「箱入り娘とちゃうよ!」
町子「ねえ、ちゃんとできるの?」
由利子「できてる」
町子「千春ちゃんも一緒にビラ貼ってたの?」
千春「うん。ちょっとお手伝いに」
由利子「千春ちゃん、すごいねんよ! 自分で歌作って教会でも歌てんねん」
町子「そうなん。ねえ、どっかで勉強したの?」
千春「独学です」
町子「あ~、そう。由利子ちゃん、先生にだいぶ叱られたでしょ?」
由利子「騒ぎすぎやねん!」
町子「ねえ、ほかの子には止められなかったの?」
由利子「みんな黙って見てた。おかしかったよ。私らが窓にビラ貼ろうとしたら、学級委員の男子が来てな、『なあ、徳永、貼るのはかまへんけどベチャ~ッと貼らんといてな。真ん中だけチョコッとだけにしといてな。剥がす時、難儀するから』てな。あいつは日和見主義者やねんな~」
町子「日和見主義者て…」
由利子「なあ、おばちゃんも食べる?」
町子「あ~、私、今、いいわ」
由利子「そっか。おネギ切って」
千春「え? 私、切られへん」
由利子「切るだけやんか。こうやって…。見ててや。あれ? こうやって…イテテテ! 痛いなあ!」
青春の時を楽しむ由利子を見守る町子でした。
ミニ予告
廊下
純子「大先生、実は…」
軍国少女だった町子なら由利子の気持ちが分かりそう。
しかし、案外この時代の学生もさめた人の方が多かったんだろうな。↓これとか。
山田太一脚本の一連の「3人家族(’68)」「兄弟(’69)」「二人の世界(’70)」で主人公たちの弟妹が大学生という設定で出てくるものの、学生運動で入学式が延期になった、授業が潰れたなどのセリフは出てくるけど、当の本人たちは全くそういう活動をしてない人たちだった。
↑こういうの見ると、健次郎派になる。真面目な由利子はベトナム戦争について心を痛めてるけど、そういう人ばっかりじゃなくてハチャメチャなんだもん。