公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
毎週フォーク集会に通っている由利子(邑野みあ)が、広島のフォークコンサートに行きたいという。健次郎(國村隼)と町子(藤山直美)は由利子がデモに巻き込まれることを恐れて反対するが、由利子は正しい運動をしているといって聞かない。そんなとき町子の女学生時代の友人、野村寛司(平田満)が徳永家を訪れる。由利子がベトナム戦争のことを勉強していると聞き、ベトナムでの写真を見せ、戦場の体験を語るのだが…。
FOLK CONCERT
IN HIROSHIMA
フォークコンサートインヒロシマ
日時→4月26日(日)
PM2:00~6:00
場所→広島市 広島平和
野外音楽堂
第1部
アマチュアハプニングフォーク
だまってられない
アマチュアグループたち
第2部
叫べ!! 決起集会
第3部
フォークフェスティバル
出演
的場政行
クロムリブデン・シモーヌズ
他 本格バンドたち
入場無料
Produce Direct by
フォークコンサートインヒロシマの会
由利子は、↑のチラシをじっと見る。
茶の間
健次郎は新聞を読み、町子は配膳をしている。
由利子「おはよう!」
町子「あっ、おはようさ~ん!」
由利子「お父ちゃん」健次郎のそばで正座する。
健次郎「うん?」
由利子「今度の日曜日、広島のフォークコンサートに行ってもええ?」
健次郎「広島?」
由利子「土曜の晩から夜行乗って向こうで原爆ドームにも行くねん」
町子「広島て…基地の近く? あ…デモなんかもあるんでしょ?」
由利子「あるかも分からへん。なあで、お父ちゃん」
健次郎「あかん」
由利子「みんな行くねんよ」
健次郎「お前はあかん」
由利子「何で?」
健次郎「あかんもんは、あかん!」
町子「健次郎さん…」
由利子「ちゃんと理由言うてよ」
健次郎「そんな危ないとこにお前行かせるわけにはいかん」
由利子「私ら正しいことしようとしてんねんよ。なっ、おばちゃんは分かってくれるやんな? 『戦争はあかん』て世間の人に訴えに行くんやもん」
町子「由利子ちゃん…」
由利子「賛成してくれるでしょ? おばちゃんかて戦争はあかんて思てるでしょ? そやから…」
町子「あきません」
由利子「何で…?」
町子「由利子ちゃん、まだ高校生で未成年でしょ。私たちはね、由利子ちゃんの安全を守らなあかんの。そやから、お父ちゃんが『あかん』て言うたら…それはあきません」
健次郎「絶対にあかんで」
由利子「もういい!」
健次郎「おい、由利子!」
部屋を出ていく。
健次郎「何が『体制に反対』や」
町子「17歳か…。いっぺんに全部がひっくり返った年やった…。それまでね、軍国少女て生き方が一番正しい生き方やて、私、信じてたもん。おじいちゃん、お父ちゃんがね、戦争行く人に『戦争行ってもな、弾に当たらんように逃げや』て言うた。私、それ聞いた時に自分だけ生き延びたらいいて、なんて大人て不純なこと言うのかなて、私、怒ったんやもん」
健次郎「軍国少女と反戦の違いはあっても根っこは一緒いうことか」
町子「誰が何と言うたかて…思いは変わらへんかった」
教会の椅子に座る由利子。
菅原「今度はどんな歌作るんや?」
由利子「私は…才能ないみたいで…」
菅原「えらい見切り早いなあ」
由利子「千春みたいに私も何か才能あればなあ…」
菅原「由利子ちゃん、人間、無理や背伸びはあかんで。一番あかん」
その夜、徳永家には町子の女学生時代の友人・寛司が遊びに来ていました。
寛司「いや、うまい! うまいわ、このチラシずし!」
町子「おばあちゃんもお母ちゃんも何かあったらよう作ってくれたんでね」
清志「なあ、おじさん、カメラマンなんでしょ?」
寛司「そや」
健次郎「ベトナムて知ってるか?」
登「戦争してる所やろ?」
健次郎「うん」
寛司「そこで写真撮ってるんや」
清志「戦争してるとこで?」
登「怖ないの?」
寛司「怖いで、ものすごく怖い」
由利子「ただいま」
町子「お帰りなさい。由利子ちゃん、はよ、一緒に食べましょ」
由利子「後でええわ」
隆「ベトナムの話、聞いてんねんで」
由利子、ペコっと頭を下げて部屋へ。
寛司「お姉ちゃん?」
町子「はい」
健次郎「長女なんですわ。これが今、何かとややこしいでね…」
食後…お酒をたしなむ大人たち
町子「えっ? 別居?」
健次郎「奥さんの言うことも分からんではないけど」
寛司「『私は戦場カメラマンと結婚したわけやない』て。『国内のルポタージュでええやないの』て。来週からまた行くんやけど『それまでに結論出す』言うてますわ」
健次郎「結論…」
町子「あかんて。奥さんともっとよう話し合わんと…」
寛司「話はし尽くした。平行線のままや。ああ、いっそ独りの方がよかったなあ。何で結婚してしもたんやろ」
町子「仮に結婚してへんかったらね、寛司君の撮りたいもんとか撮った写真の中身ね、今と違てんのやないやろか。」
寛司「え? どういうこと?」
町子「具体的に上手には、よう言わんけれども寛司君の面白がるもんとか興味を持つもの…今と少し視点がずれてんのやないかな。うん、そう思う。少なくとも今の私がそうやから」
寛司「へえ」
町子「伴侶を持ってるのに独身の時と同じやったら結婚してる面白みがないでしょ」
健次郎「うまみとも言うね」
寛司「ハハハ! うまみですかあ」
由利子が顔を出す。
町子「由利子ちゃん」
寛司「あ…なあ、ちょっとこっち座れへんか? ベトナム戦争のこと、勉強してるんやて?」
由利子「勉強てほどでは…」
寛司が手招きをする。
由利子「戦争の写真、撮ってはるんですか?」
寛司「写真、見たことある?」
由利子「いえ…」
寛司「これ、後で見たらええわ」
封筒を手渡す。
由利子はすぐ中身を見るが、寛司がしまう。
寛司「時間かけて…ゆっくりな。僕はな、特派員で行ってるから米軍と一緒に行動してるんや」
由利子「命、狙われたりするんですよね?」
寛司「ある時な、真っ暗なジャングルで囲まれてしもた。敵の顔は見えへんけど、確実に何十人かに囲まれてる。地べたにはいつくばったままピリッとも動かれへん。物音立てたら一斉に撃たれてしまうからな。しゃべることもくしゃみすることもでけへん。暗闇で無言のまま、じっと対峙してるんや」
由利子「どない…なったんですか?」
寛司「何時間かたって理由は分からへんのやけどベトナム兵は引き揚げてった。助かったんや。けど、あの時は『ああ、死ぬんやなあ』て思てた。そんなん戦場では日常茶飯事や。あちこちで血のにおいがしてる。空襲の時の大阪もそうやったな」
町子、うなずく。
寛司「戦場てな、そういうとこやねん。戦争を止めるために何をしたらええのか、ほんまのとこ僕にもよう分からへんのや…。そんな恐ろしい目に遭うてまで僕は何をしてんのやろとも思う。ほんまのとこ…」
町子、大きくうなずく。
寛司「『平和な場所でもっと人が楽しい顔になる写真撮ったらどやねん』て、もう一人の自分が言う…」
健次郎「それでも行くってのは…何でやろ?」
寛司「よう分かりませんねん…。もう今回かて家族のことやらいろんなこと考えたら『やめとこかなあ』と迷てるのがほんまのとこです」
由利子「これ…お借りします」
寛司「うん。あっ、由利子ちゃん。集団の力も大事やけど、結局は一人一人の思いと違うやろか。揺るがへん自分をつくるのが先やと僕は思うで」
頭を下げて部屋を出ていく由利子。
寛司「あ~、すんません。お嬢ちゃんに偉そうなこと言うてしもた」
健次郎「いやいや」
町子「貴重なアドバイス、ありがとうございました」
寛司「いや、お礼言うのはこっちや。ほんまのとこ」
町子「え?」
寛司「あ~、ううん。飲みましょ」
健次郎「飲みましょ」
寛司「あっ、すいません」
自室で、銃を向けられた人、銃を持つ女性たち、戦場に向かう人等々の写真を見ている由利子。
そして、翌日…
朝食中
町子「由利子ちゃん、遅いね」
清志「朝方まで電気ついてたで」
町子「写真見てたんやね」
健次郎「さすがにゆうべの話はこたえたんやな」
町子「考え方変わるわ、きっと」
由利子「おはよう」
町子「おはようさん」
由利子「お父ちゃん」
健次郎「うん?」
由利子「広島の集会の話やけど…」
健次郎「うん」
町子「うん」
由利子「私、やっぱり行くから」
健次郎・町子「えっ!?」
由利子「今、私たちがやらなあかんねんもん!」
健次郎「あかん、あかん、あかん。絶対許さへんぞ。あかんぞ」
由利子「行ってきます」
健次郎「え? おい。おい!」
隆「朝ごはん、いらんの~?」
由利子「いらん!」
町子「頑固やね~!」
健次郎「誰に似たんやろな、ほんまに…」
じーっと健次郎を見る町子。
更にその日の午後でした。
手洗い場で活けるための花を切っている純子。「あっ、お帰りなさい!」
由利子「ただいま」
純子「うわ~。ギター?」
由利子「友達のお兄ちゃんのいらんやつ譲ってもろてん」
純子「由利子ちゃん、ギター弾けんの?」
由利子「友達のん触らしてもらったことあるし」嬉しそう。
診察室
健次郎「大きく口開けてもらいますかね。あ~」
「あ~」
由利子「♪ウィ シャル オーバーカ~ム
ウィ シャル オーバーカム ウィ…」
由利子の歌声に健次郎、患者、鯛子、藪下、仕事部屋にいる町子もけげんな表情。
由利子「♪ウィ シャル オー…オーバーカ~ム~
ウィ シャル オーバーカム ウィ シャル オーバー」
廊下
町子「由利子ちゃんかな?」
健次郎「やめさしてくるわ!」
町子「頭ごなしに言わんといてください! また反発するから!」
健次郎「そういう問題やないねん。患者さん、具合悪なる、これ」
町子「健次郎さん!」
登「何か最近、由利子姉ちゃん、ちょっとけったいやな」
清志「大丈夫かな…」
純子「うお~!」花瓶が割れる音「ああ~…」頭を抱える。
町子「純子さん、どないしたん!? 大丈夫?」
純子「先生…申し上げてなかったんですけど、私…絶対音感が…。うお~!」
由利子の部屋
由利子「♪『サムデー ヘ…』へ?」
由利子の迷走はまだまだ続いていました。
町子「純子さん、純子さん」
ミニ予告
由利子「学校、やめんの?」
千春、うなずく。
平田満さんの寛司が少年の頃のカンジを思わせていいなあ。純子さんの動きもいちいち面白い。