公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)は友人の神田みすず(友近)から、徳永家の長女・由利子(邑野みあ)が毎週日曜日に通っているフォークの集会の取材に誘われる。以前、由利子に集会の同行を断られた町子は、由利子に気づかれないようにいつもと違った服装ででかけることにし、秘書の純子(いしだあゆみ)も同行することになる。集会の会場である教会で、町子たち3人はさまざまな歌を聞く。やがて由利子の歌を聞くこととなるのだが…。
茶の間
おやつの時間? 紅茶とケーキがテーブルの上に並ぶ。
純子「先生、みすずさんから」
町子「あ、はい。もしもし、みすず? うん。ううん。えっ、教会に取材? うん…。いや、ちょ、ちょっと待って。私も一緒に?」
電話を切って…
町子「教会に取材か…」
純子「行きましょうよ、先生。由利子ちゃんが毎週通ってるフォーク集会、どんなとこか見たいとおっしゃってたじゃないですか」
町子「うん…。そら、そうやねんけど、由利子ちゃん嫌がってたし…」
純子「せっかくみすずさんが取材でいらっしゃるんですから。こんな機会じゃないと若い人が集まる場所なんて見られませんよ。社会でこんなことが起こっているのか、その目でちゃんとご覧になるのも、私、必要だと思います」
町子「純子さん、どないしたん? こないだ反対してたのに」
そして、次の日曜日
ノートを両手に抱いて由利子は出かけていった。
応接室
部屋にサングラスやカツラ、服などがたくさんあり、変装をしている。
町子「これ、何か私に合わへん!」
純子「あ、先生、これは? これ、これ」
町子「どれどれどれ?」
純子「はい、はい」
町子「これ? ちょっと待ってね」
純子「カツラ、カツラ」
町子「カツラ」アフロのカツラをかぶる。
純子「あっ、目立ちません。それがいい。先生ね、あとね…」
町子「これあんまり…。これ好かん。これ好かん」
純子「どうして、どうして? あ~、じゃこっち。これは?」
町子「これおかしい。似合わへん」
純子「絶対、目立ったら駄目なんですから、先生」
町子「ちょっとかぶってみよか。あ~、ええ感じ」パーマのカツラ
純子「オーケー! 先生、先生、これ。もっともっともっと変装、変装。シ~ッ。シッ」サングラスを渡しただけなのになぜか声をひそめる。
町子「これ、ええ感じ」
純子「すてき、先生!」
町子「ほんと!?」
純子「分からない!」
健次郎が顔をのぞかせる。
町子「似合う? 似合う?」
純子「最高! えっ?」
健次郎「知らんで…」
純子「先生、ヘルメットは?」
町子「ヘルメットかぶってった方がええね。身を守るためにね。ヘルメット、ヘルメット」
健次郎「いらんと思うわ」
純子「だって、どんな所か分かんないんですよ。あっ、大先生、ご安心ください。もし、先生に何かありましたら私が体を張ってお守りします」
町子「どう?」
純子「すてき、先生! 全然分かんない」
町子「全然分からへん?」
けげんな表情の健次郎。
教会に立ち入った3人。町子はサングラスにキャスケット。純子もキャスケットに派手な柄のシャツ。みすずは普通のスーツ。
町子「ああ…いてた」
純子「あっち向いてるから分かりません。行きましょう」
町子「行きましょうか」
みすず「あっ、菅原さんですか?」
菅原「はい」
みすず「今日、取材させていただきます、神田みすずです」
菅原「あ~、よろしくお願いします」
みすず「お願いします。いろいろとお話伺いたいと思います」
菅原「こちらこそ」
席についた町子と純子。
町子「はあ~」
純子「たくさん集まってますねえ」
町子「うん」
由利子「あ~、もうドキドキする!」
千春「頑張り、由利子」
ススム「おっ、大阪弁で書いた詩か?」
由利子「本番まで見んといてください」
純子「何だか生き生きしてますね、由利子ちゃん」
町子「ねえ」
ステージで演奏が始まる。
♪友よ 斗いの炎をもやせ
夜明けは近い 夜明けは近い
友よ
町子「由利子ちゃんがいっつも聴いてるやつや」
みすず「『友よ』いうんよ」
町子「岡林信康でしょ?」
みすず「知ってるやん」
♪友よ 輝く
千春の弾き語り
♪壁によりかかりため息をつく
遠い遠い空をずっと見つめてる
なぜ人は傷つけ合うのだろう
人は弱いから 私は弱いから
みんなが寄り添って
手をつないで行けたなら
悲しい過去さえも 少しは消えるのかな
みすず「自分の生活や思ってることを何でも歌に表現できるのがフォーク。言うたら私小説みたいなもんやね」
町子「はあ~!」
こちらの曲は蔵本千春演じる林明日香さんの歌「大切なもの」。
♪幸せ続くように
当時売り出し中だった?というか、もっとデビューは前だよね。すごく若くしてデビューしてテレビに出てたような…歌がうまいのは知ってたけど、曲はあんまり知らなかったな~。
♪むかしむかし俺(おい)らがガキだったころ
きいた綿つみうた
カアチャンが綿をつむぎながら
うたっていた あの綿つみのうた
あれじゃいくらも ゼニコにゃ
ならなかったのによ
俺らを育ててくれた
ノリノリの曲にサングラスを外して帽子にかける町子。今までのフォークソングとはちょっと違うなと思ったら、アメリカで綿花を収穫する奴隷が作った曲と調べて納得。日本語タイトルは「綿つみの歌(唄?)」。
いろんなバージョンがあったけど、今朝歌われた感じに近いのはこれ?
♪今も今も聞こえるぜ 俺らの耳に なつかしい
綿つみうた
町子「はっ、ほっ、はっは~! はっ!」
♪綿つむぎの音には夢があるぜ
町子「はっ、ほっ! はっ、ほっ! あ…」
町子の合いの手に後ろを振り向いた由利子「ああっ!」
町子「ああ~!」
純子「もう! 見つかったじゃないですか」
由利子「おばちゃん、何でこんなとこにいてんの!?」
町子「いや、違うのよ。それがほれ…ちょっとあんた早う」
由利子「また何でこんな時に…」
ススム「由利子ちゃん、始まんで」
由利子「はい」
町子「あっ、ちょっ…」
純子「もう! 見つかっちゃったじゃん、先生!」
みすず「そらそうや。『はっ、はっ!』て。見つかるよ」
♪なつかしい 綿つみうた
純子「先生」
町子「はい」
純子「由利子ちゃん」
由利子がステージに立つ。
由利子「大阪弁の詩を作りました。自分の心からの思いを伝えるには私がふだん使てる言葉で歌うのがいいと思ったからです。聴いてください」
みすず「やるやん」
町子「うん。ねえ」
千春がギターを弾く。
♪きれいな花を見つけるには
どこへ行ったもんやろか
私には かいもく わからへん
私には かいもく わからへん
あまり歌がうまいと言えず、微妙な反応になる町子たち。
♪ほんまのことを知りたいだけ
ほんまのことを歌いたいだけ
いつになったら わかるのやろ
純子さん大あくび。
町子「あああ…。いいい…」
♪私には
町子「いいい…。あああ…」
由利子「♪かいもく」
千春「♪かいもく」
2人「♪わからへん」
♪この青…この青空を見つけるには
集会が終わり…
千春「頑張ったよ、由利子。ねっ」
ススム「ああ。初めてにしてはなかなかよかったで」
千春「喫茶店でも行きましょか?」
ススム「あ~、そやな。行こ。そんな落ち込まんと」
千春「あっ、おばちゃん、こないだはありがとう」
町子「千春ちゃん、歌よかったよ」
千春「ありがとう」
由利子には笑顔でうなずくのみの町子。
由利子「私はあかんわ」
会釈をして去っていく千春たち。
町子「怒らしてしもたかな…」
由利子の部屋
由利子「ああ~!」ベッドの上でジタバタ。分かるわ~。
茶の間
健次郎「『かいもく わからへん』? ハハハハハ! そら、かいもく、あかんわ。ハハハ! ほんで帰ってきて、しょげて部屋の中こもっとんのかい」
町子「志、分かるわ。書きたいという意欲は尊ぶべきやと思うね」
健次郎「うん。けどまあ、才能というもんがあるわな」
町子「うん…」
「ごめんください。徳永さん」
町子「こんな時間に誰やろ?」
健次郎「はい」
家の玄関じゃなく病院のドアを開ける。
町子「千春ちゃん…」
警官「夜分すみません。この子をご存じですか?」
町子「ええ。娘の友達です」
警官「ああ…。1人で暗い所を歩いてたんで止めて名前と住所を尋ねたんです。ですが、家に電話しても誰にも連絡つかへんもんで」
千春「『電話しても無駄や』言うたのに」←ミニ予告
由利子の部屋の前
由利子の部屋からは「禁じられた恋」が流れている。
町子「由利子ちゃん」
由利子「来んといて」
町子「千春ちゃんが来てるんやけど」
由利子「え?」襖を開ける。
町子「あのね…」
茶の間
受話器を置く千春。「アパートのお隣のおばちゃんにここの住所書いたメモ、郵便受けに放り込んでもらいました」
健次郎「うん。お父さん、いつも遅いの?」
千春「はい」
健次郎「きょうだいは?」
千春「兄が家、出て京都の寮にいます」
健次郎「ふ~ん」
由利子「千春!」
千春「あ…。内海さんに新しい曲の相談しててん。こんなことやったら朝まで喫茶店でしゃべっとったらよかったわ」
健次郎「アホなこと言うたらいかん!」
町子「健次郎さん」
健次郎「『早う家に帰ったらよかった』てそう思わなあかんやろ。高校生の女の子が夜中ウロウロしてどないすんねん」
町子「そやで千春ちゃん。お父さんもお母さんも心配してはるよ」
千春「心配なんかしてません」
そして日付が変わる頃
待合室
安男「えらいご迷惑をおかけしました」
健次郎「いいえ」
町子「すいません。うたた寝してはったもんですから」千春を連れてくる。
安男「千春、何をしてんのや、お前は!」
町子「あんま怒らんといてあげてください、ねっ」
安男「おたくの娘さんもそんな吹きだまりみたいなとこに通てるんですか?」
千春「お父さん!」
町子「吹きだまりて…」
安男「高校生にもなって訳の分からん歌作って、あげくの果ては学校やめて歌で食べていきたい。はあ…。あのな、世間で笑われるのは親ですわ。アホらしい! 帰るで。早うせい。ちょっと目離したらフラフラ、フラフラ出ていって。そういうだらしないとこな、ほんまに母親によう似てるわ、お前は!」
町子「お父さん、やめて。ねえ、娘さんの前でお母さんの悪口言うのだけやめてください」
安男「えらいご迷惑をおかけしました。帰るぞ」
町子「ねえ、お父さん。お父さん、千春ちゃんの歌、聴かはったことありますか?」
安男「いいや」
町子「私、聴かせてもらったんです。ものすごくいい歌でした。せめて聴いてから反対してあげはったらどうでしょうか?」
安男「お邪魔しました。帰るで」
千春「おやすみなさい」
健次郎「おやすみ」
町子「おやすみなさい」
扉が閉まる。
町子「一人の人間として見てあげたらええのにね」
健次郎「うん。そやから千春ちゃん、急いで大人になろうとしてんねやろな」
町子「ああ…」
健次郎は由利子の肩に手を置いて去っていく。
由利子「千春とこのお父さん、日曜日は接待で取引先と出かけることが多いみたい。あんまり両親仲ええことないみたいで…」町子に言って去っていく。
ミニ予告
由利子「私、やっぱり行くから」
健次郎「あかん、あかん、あかん」
変装とか面白要素もありつつ、シリアスなところも描いていて…千春ちゃんの歌を聞いたら、そりゃ歌手になれよと言いたくなる。まあ、歌がいくらうまくてもそれで食べていけるかというのは難しい問題だけどね。