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【連続テレビ小説】マー姉ちゃん (83)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

瞬く間に新婚生活が過ぎていく。花を生けるマリ子(熊谷真実)を見て、良いところを小出しにしてたら、君の全部を知る前に旅立つことになる、と皮肉を言う新八郎(田中健)。じゃれ合う二人は、婚約の時に誓った、マリ子を不幸にしないという約束を思い出しながら口づけする。その夜、マリ子と貴美(三木弘子)が炊いた赤飯を食べ、酒を酌み交わし、別れを惜しむ東郷家。隆太郎(戸浦六宏)は月夜の灯りの中、琵琶を奏でて…。

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瞬く間に新婚の数日が過ぎていきました。

 

お花を生けるマリ子。バケツと雑巾を持った新八郎が廊下を歩いてきた。

新八郎「へえ~、なかなかいいじゃないか」

マリ子「本当?」

新八郎「ああ。君にこういう特技もあったとは思わなかったな~」

マリ子「まあ、これでも磯野家のお花は私が生けてたんですからね」

 

新八郎「そんなの、ずるいよ」

マリ子「まあ、何がですか?」

新八郎「いいところを小出しにするからさ」

マリ子「小出しにだって、そんな…」

新八郎「だってあと1日しかないんだぞ。もったいつけて小出しにされてたんじゃ僕は君の全部を知る前に日本を離れなくちゃいけないことになる」

 

マリ子「全部です! ありったけの私を全部あなたに!」

新八郎「いや…ご…ごめん! 僕はつまりさ、その…君がいかにすばらしい女房かということをだ、その要するに、つまり…逆説的に表現してみたんだ。だからそんな泣かないで。ほらほら、もう涙なんか流して。ほら」

手に持っていた雑巾で涙を拭こうとする新八郎。泣いていたマリ子が笑顔になった。新八郎は両親が帰ってくる前にと玄関の戸を拭き掃除していた。

 

マリ子「鹿児島は男の人が偉いお国なんでしょう? それも陸軍少尉殿が。まあ、何でしょう。そんなにお尻をはしょって雑巾がけだなんて」

新八郎「いいじゃないか。今は陸軍少尉は関係なし。かみさんにべたぼれのただの男だ」

マリ子「だからって…」

新八郎「いいから、いいから」

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帝大出の新八郎が陸軍少尉で、士官学校を出た小浜もまた陸軍少尉。あんまり軍人に学歴は関係なかったのかな。

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マリ子「あなた!」

新八郎「あ~! 言った、言った!」

マリ子「えっ?」

新八郎「いいからもう一度言ってごらん。『あなた』って」

キャッキャッウフフとはしゃぐ二人。

 

いやはや、これが新婚のご夫婦とは恐れ入った次第ですが、この辺りがめそめそしてばかりいないマー姉ちゃんの面目躍如といったところでしょうか。

 

庭に出た新八郎を追いかけて出たマリ子を抱きしめる新八郎。

マリ子「こら~!」

新八郎「捕まえた。捕虜だぞ!」

マリ子「陰謀家!」

新八郎「ああ、これぐらいの作戦が立てられないようじゃ、マリ子の所へ生きて帰って来れないからな」

 

マリ子「ねえ、私、少し太ったと思わない?」

新八郎「えっ?」

マリ子「東京の食糧事情って悪いでしょう。それに比べてここでは三度三度白いごはんだし、お義母様も毎日お肉やお魚を運んでくださるでしょう。ううん、もちろんあなたのために手を尽くしてくださるんだっていうことはよく分かります。でも、それに私もご相伴に預からせていただいたおかげですっかり栄養がよくなったみたい」

 

新八郎「僕と結婚してよかったろ」

マリ子「本当に」

新八郎「この薄情者」

マリ子「どうして?」

新八郎「亭主は明日、戦地に向かうんだぞ。それを思ったら普通の女房だったらな亭主のことを案じ続けて身も細るのが相場っていうもんじゃないのかな」

マリ子「いいえ。私は全然そんなこと案じないの」

 

新八郎「こら! そんなこと、よくも平気でぬけぬけと言えるな」

マリ子「だって約束してんですもの」

新八郎「約束?」

マリ子「まただわ」

新八郎「何が?」

 

マリ子「あなたって相当な健忘症ね。婚約した時だって必ず君を不幸にしないって言ったし、桜島に向かってだって必ず帰ってくるっておっしゃったでしょう」

新八郎「しかし、婚約の時のまでよくそんな細かいことを覚えてるもんだね」

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マリ子「女ってね、そういうことはよ~く覚えてるんです」

新八郎「研究不足でありました」

マリ子「そうよ。私は正直だからとても素直に信じちゃうの。いいですね? 正直者にうそをついたらどういうことになるか覚えていらっしゃい」

新八郎「大丈夫」と突然キス! うわ~。

 

新八郎「こういうことになるんだ」

もう一度首を傾けたところで生け花にピントが合ったし、かなり遠くなので実際にはしてないように見えるな。

 

磯野家。ヨウ子は布団に横になって、はるとウラマド姉妹の会話を聞いていた。はるはウラマド姉妹に何かお土産を持っていった様子。マチ子からマリ子が結婚した話を聞いたウラマド姉妹はお祝いの言葉も言えず、マリ子の花嫁姿も見られず、残念がった。ウララは新八郎のファンだという。ウララは胸に抱いたお土産をはるに渡す。中身は不明。

 

帝大。マチ子が標本を描く仕事をしていた。

助手「どうもね~…」

マチ子「何かございますか?」

助手「能率としてはお姉さんの方が抜群なんだが標本としての正確さではあなたの方が好ましいし足して2とはならんもんかね~」

マチ子「はい。それが個性というものですからそうはまいりません。それにこの仕事は姉が大変気に入ってるものですから、たった1週間の留守でほかに回されてはかわいそうですから、私がピンチヒッター…いえ、代打として鉛筆を握っているまでですので、その点をよくご了解いただきたいと思います」

助手「なるほど」

 

マリ子→早く描くことができる

マチ子→正確だが時間がかかるってことかな?

 

マリ子が赤飯をたいた。

貴美「まあ、見てみやんせ。今日のお赤飯のほんのこてよく出来たこと」

マリ子「本当に」

貴美「ありがとう、マリ子さん」

マリ子「いえ、私は…」

貴美「いいや、あなたが一生懸命、私と心を合わせてくれたからですよ。お赤飯がよく出来た日はその祝い事は必ず成功するっちいいます」

 

マリ子「お義母様…」

貴美「新八郎は立派に戦ってきますよ。ええ、立派に」

マリ子「はい」

貴美「それでは新八郎を見てやってくいやんせ。新しか下着は風呂場ん前にそろえてありますけど、行って背中を流してやってください」

マリ子「はい、それでは」

貴美「ほんのこて…よか赤飯じゃ。ほんのこて…」

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優しい姑さん。「金八先生」の川村さんも優しい用務員さん。

 

夕食。新八郎の両親とマリ子と新八郎の4人。

隆太郎「やあ~、めでたい、めでたい。のう、新八郎」

新八郎「はあ」

隆太郎「これでおはんがわしらによか置き土産を置いていってくれとれば、もう一つ大めでたしじゃな」

新八郎「はあ?」

 

隆太郎「こいつ、とぼけよって。わしらの孫じゃ。今から子供ん名前を考えておく、よか仕事が出来たじゃなかか。のう、マリ子」

マリ子恥ずかしそうにうつむく。

 

貴美「ほんなこて、まっことそげなふうになればよかとですがね」

隆太郎「バカもん。めでたか席で余計な心配をするな」

貴美「はい、申し訳のなかことを申しました」

隆太郎「じゃっどんほんなこてありがとうごわした。マリ子さん」

マリ子「はあ?」

 

隆太郎「ほんなこて、よくぞ新八郎の嫁になってくれもしたな」

マリ子「お義父様」

隆太郎「んにゃ、んにゃ。これで新八郎も思い残すことなく、お国のために戦うことがでけるじゃろう」

新八郎「お父さん、それはマリ子にとって禁句です」

隆太郎「うむ?」

 

新八郎「いや、マリ子は私に安心して戦死させるために結婚したんじゃないそうですから」

隆太郎「じゃっどん…」

新八郎「無論、私だって恋女房がいるために、未練、それから卑劣な行動を取るなどということは絶対にいたしません。そんなことをしたらマリ子の名誉をも傷つけることになりますから」

隆太郎「うむ」

 

新八郎「私は今、マリ子のためにも命を粗末にすることなく、かつ、精いっぱい戦ってくるつもりでいます」

隆太郎「うむ」

新八郎「いくら戦争だからといっても病気やけがは本人の不注意が大きな原因ですから」

隆太郎「じゃっど。ほんなこてそのとおりじゃ。もはやおはんの体はおはんのもんだけじゃなか。まず天皇陛下のものであり、お国の盾であり、かつマリ子の夫であることをいっときも忘れてはならん」

新八郎「はい」

 

隆太郎「じゃっどんマリ子も僅かの間に見事、亭主教育をやってくいやったな」

マリ子「いえ、私は…」

貴美「マリ子さん、私からもお礼を言います。このとおりです」頭を下げる。

マリ子「お義母様」

貴美「いくら親でもしてやれることとやれんことのありますからね」

 

マリ子「いいえ。それより、この幾日もの間、新八郎さんを私一人で独占してしまったこと、お義父様にもお義母様にも本当に申し訳なくて」

隆太郎「それそれ、そいじゃが、あたいらが親としてしてやれたとはそれだけじゃったでな」

 

新八郎「お父さん、お母さん。本当にありがとうございました。今日までご訓育くださいましたこととともに新八郎、終生忘れません」

隆太郎「うむ」

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隆太郎は新八郎や貴美、マリ子にも酒をすすめる。

貴美「じゃっどん、おなごがこげな席で…」

隆太郎「構わんが。こん席もあん席もなか。末っ子のめでたか出陣を明日に控えたはなむけの晩じゃ。ほかには誰もおらん。家族ばかりじゃなかか。思いのまま焼酎でん飲んで歌うたらよか、踊ったらよか」

貴美「はい…」

隆太郎「涙をば見すっとじゃなか!」

貴美「はい!」

 

隆太郎は「おいどんからのはなむけじゃ」といい、明かりを消して、月明かりのもと琵琶の演奏を始めた。新八郎とマリ子は隆太郎の方を向き、貴美は背を向けたまま。

 

思えば、新八郎と初めての出会いもこの琵琶の音でした。

 

空襲警報が鳴っても、演奏は続く。

 

男が偉いとか言いつつ、なんだかんだ優しい新八郎と隆太郎。