TBS 1972年6月13日
あらすじ
20歳の道夫(小倉一郎)と19歳の南(沢田雅美)の結婚宣言は、周囲の猛烈な反対にあった。弟の結婚に、とにかく反対しなければと考える一郎(山口崇)は、仕事を終えて占いに出ている夏目(倍賞千恵子)を訪ねるが…。
2024.5.31 BS松竹東急録画。
松田夏目:倍賞千恵子…昼はOL、夜は占い師の28歳独身。字幕黄色。
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松田南:沢田雅美…夏目の妹。19歳。
新田道夫:小倉一郎…新田家の五男。20歳。
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新田研二:倉石功…新田家の次男。
新田麗子:木内みどり…精四郎の妻。
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新田精四郎:山本コウタロー…新田家の四男。
新田英三:鹿野浩四郎…新田家の三男。
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佐山:中井啓輔…道夫の働くレストランのコックのチーフ。
妙子:西條マリ…夏目の同僚。
原靖司
山田浩策
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新田サク:小夜福子…新田家の母。
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監督:中川晴之助
当時の街並みから夏目のオフィスへ。夏目は道夫の写真を見ていた。
夏目「バカみたい」
鈴木「は? なんか言いましたか?」
夏目「いえ、別に」
夏目の斜め後ろの席の男性が原靖司さんか山田浩策さんかな? 原靖司さんは1話にも名前があったけど、結局誰か分からなかった。
山田浩策さんは「兄弟」10話や「二人の世界」の1話にも出てるらしいけど、顔が分からなくて。
妙子「あら、ねえねえ、ハンサムじゃない? お見合いの写真?」
夏目「とんでもない」着信音が鳴り、電話に出る。「はい、総務…南か。あんた一体どこにいんのよ。こんな物、置いてって。これ…これから来たい? 困るのよ、そんな。私、あと少しで出るの。えっ? あのね、羽田に行くの。羽田空港。お客さん迎えに行くのよ。ちょ…ちょっと待ってよ、ねえ」
街の中を歩いている夏目と南。「あのね、ゆっくり聞いてよ。速いなあ」
夏目「あきれたわ。あれが南の恋人だなんて。問題外ね。論外よ、あんな人」
南「ちょっと聞いてったら。あれはね、作戦の失敗だったのよ」
打ち合わせの不備だったと言い訳する南はホントはもっといい人だと言う。
夏目「いい人も悪い人もあるもんですか。あんなトンチキ。幼稚でマヌケで知性なんかこれっぽっちもないじゃない。問題外だわ」とにかく2人とも早すぎ、もっと頭を冷やしてよく考えなさいと諭す。
南「お姉さん!」
夏目「何よ、その声、下品ね」
南「お姉さんの意地悪。こんなセカセカしか妹の話聞けないの?」
夏目「だって、私は羽田に外国の…」
南「いいです、どうぞ。赤毛でもブロンドでも、どうぞ」
夏目「何言ってんの? 私は部長から…」
南「部長なんてクソ食らえよ。お姉さんがなんと言っても私、結婚します。さよなら」
夏目はどこかへ立ち去っていった南を追いかけようとしたが、腕時計を見て慌ててタクシーを拾おうとする。車の中から夏目が車に乗り込むところを撮影してるけど、すんごい手ブレ。
運転手「どちらですか?」
夏目「羽田。空港へやってください。大急ぎで」
運転手「分かりました」
車が走り出す。
品川33
57-80
夏目「あっ、運転手さん。キャメラ、忘れ物よ。前のお客さん」
運転手「ああ、これ、僕んです」
夏目「僕の? あ…あの…これ、タクシーでしょ?」
運転手「そうですよ。自家用のね」
夏目「自家…? じゃ…」
運転手「れっきとした白ナンバーです」
夏目「あの…困ります。降ろしてください」
運転手「まあ、いいじゃないですか」
さりげなく車体のCEDRICという文字が見える。
4ドアで色はゴールドなのかな? 黄土色っぽくもあるけど。
運転手はタバコを勧めるが夏目は無視。「ああ、いい天気だなあ。こんな日は飛行機もいいでしょうね」と世間話をする。
羽田空港に到着。
運転手「着きましたよ」
夏目「あの…お金、取ってください」
運転手「いいですよ。別に商売でやってるわけじゃないんですから」
夏目「でも、困ります」
後続車にクラクションを鳴らされ、仕方なく降りた夏目。運転手はニヤリと笑う。
空港ロビーでお客さんを待っていた夏目は電話で確認。「えっ? ウィルソンさん、いらっしゃらないんですか?」来るのがあしただと分かり、急いで戻ると言って、受話器を置いた。
運転手「来ないみたいですね、お客さん」
夏目「え…ええ。あなた、よっぽど暇なんですね」
運転手「まあね。じゃ、お茶でもどうですか?」
夏目「イヤです」
運転手「ふ~ん、怒ってるですか? 怒るといいなあ。怒った顔がチャーミングな人は好きだな」
夏目「バカにしないでください」
運転手「あっ、ちょっと…」夏目を追いかける。「写真を撮りたいんですがね、いけませんか? 僕はグラフィックなんかやっててね、フォトディスプレーに使いたいんだ。あんたの顔、使えるなあ。怒った顔でスパゲティ食べてるとかいけませんか?」
夏目「ふざけないでください」
運転手「真面目ですよ。イヤんなっちゃうな。ねえ」肩を押さえる。
夏目「あなた、私を誘惑するつもりですか? あたくし、そんなにフラッパーに見えまして?」
運転手「誘惑か…フラッパーね。随分古い言葉知ってるんだな」
夏目「なんですって?」
運転手「いやいや、ちょっと懐かしくて。ふるさとの味みたいな言葉だ」
夏目「フン」
「おてんば娘、奔放的な現代娘」…流行ったのが1920年代!
タクシー乗車場に並んでいる夏目の前にまたあの車に乗った運転手がきた。「どうぞ」
夏目「結構です」
運転手「松田さん、会社へ戻るんでしょ?」
夏目「あなた、人の電話、盗み聞きしたんですか?」
運転手「人聞きが悪いな、盗み聞きなんて。聞こえたんですよ。強情を張ることはないでしょう。1時間も待つ気ですか? さあ」
仕方なく車に乗り込んだ夏目。「はい、もういいです。ここで降ろしてください」
運転手「なぜです? せっかく乗ったのに」
夏目「あなたがあんまり罵声張り上げるから、しかたなしに乗ったんです。止めてください」
運転手「でもね、こんな所で降りてもタクシーは来ませんよ」
夏目「かまいません。モノレールで帰ります」
運転手「まあ、乗ってたらどうですか? おとなしく」
夏目「困ります。監禁する気ですか?」
運転手「まさか」
夏目「降ろしてください」
運転手「降りたがる人だなあ。会社に着いたらイヤでも降ろしてあげますよ」
このグイグイくる感じは「3人家族」の沢野だ!
沢野の場合、40過ぎのカメラマンが20代前半の恋人もいる女性にグイグイ迫っていた。
新田家
道夫がサクが用意した西式布団を持ってコンコンとたたく。
英三「ヤだよ。こんな板に寝るのなんか」
サク「麗子はね、もし冷えたら赤ん坊ができないって言うんだよ。あの子にいいと思ってもらってきたんだけどさ。麗子はあんなふうに見えて孫のことを考えててくれるみたいだね」
道夫は実際寝転んでみるが、板なので堅くて寝心地はよくなさそう。
英三「孫のことなもんか。俺はヤだよ。こんなのに寝てたらスルメみたいになっちゃうよ。女房がヤだったら、四郎が使やいいよ」
サク「うん。そう思ったんだけどさ。なんだか背中に出っ張りがあって寝れないって言うんだよ。体にいいっていうんだけどさ」
英三「とにかくヤだよ。俺は」
一郎「なんだい、研二も四郎もまだか?」
精四郎だけど、みんなして四郎って呼んでるのね。
サク「研二はまだ工場(こうば)でなんかやってたよ」四郎は2階にいる。
一郎が道夫に研二を呼ぶように言う。一郎は四郎を呼ぶ。
研二「兄貴、ちょっと見に来てくれないかな。新しい食器棚の仕掛け」
一郎「いいよ、あとでいいよ。こっちへ来いよ」
研二「うん…ちょっとでいいんだけどな」
一郎「あとでいいよ」
研二「そうかなあ。あっ、じゃあね、これなんだよ、あのね、こんな具合なんだ。こっから皿を入れるだろ。そうすると、ここにたまるんだよ」そんなにくっつかなくても。
一郎は英三に精四郎を呼んでくるように言うが、研二は「ねえねえ」と話を続ける。「それからね、このボタンを押すとね、この桟が外れて、こっからね…ねえ」
一郎「うん」
研二「こっから皿が1枚ずつ出てくんだよ。それからね…」
英三は精四郎を呼びに行った。精四郎はオープンリールの修理?
英三「何やってんだよ。いいかげんにして来いよ。大兄さんにどなられっぞ」
精四郎「ああ、今、行くよ! これが鳴らないとね、麗子ががっかりするんだ」オープンリールが直って喜ぶ。
一郎「なあ、研二」
研二「えっ?」
一郎「うん。お前の創意工夫は買うけどな。これは商売なんだ」
研二「分かってるよ。だから工夫しなきゃ他に負けちゃうだろ?」
一郎「うん、いや、そりゃそうだけどな。いや、なんと言ったらいいか…」
精四郎が2階から下りてきた。「よかったな。ん~、やっとできた感じだな」
一郎「何がよかったんだい?」
精四郎「いや、ちょっとしたね、自己満足ってやつでね。ところで大兄さん、なんの用?」
一郎「なんの用って、お前…」
サク「ほら、道夫の結婚のことだよ」
精四郎「あっ、あれね。そうだよ。それで式はいつ?」
英三「四郎」
精四郎「えっ?」
英三「それはこれから。つまりそもそも結婚がいいか悪いか」
精四郎「そうだっけ? そう…そうか。ステレオいじってたらね、すっかり忘れちゃって」
咳払いをして姿勢を正した一郎が話し始める。「それではこれから道夫の結婚問題について…」
サク「あのね、一郎。その前にね…」
一郎「えっ?」
サク「お前、一郎に話があるんだろ?」
英三「うん? 何が?」
サク「何がって…ほら、道夫に聞いたよ。値上げの」
英三「あっ…俺、別にそんな…」
道夫「母さん、それはまだ大兄さんには…」
サク「いいだろ? どうせ話し合わなきゃ。悪いことじゃあるまいし」
一郎「値上げ…値上げっていうと給料のことか?」
英三「うん…まあね。ただ、そう言っただけさ。ハハッ」
一郎「そうか。いくら上げてほしいんだ?」
英三「うん…まだちゃんと考えてないんだけど物価も上がったしね」
一郎「所帯持ちみたいなこと言うなあ」
英三「あっ…なんだか組合みたいでヤだけどさ。ほんの考えただけだよ。3000円ぐらいじゃ…」
一郎「う~ん」
英三「高すぎる?」
一郎「そうだなあ。3人の給料をそれだけ上げるとなると…」
英三「ああ、違うよ。俺のだけでいいんだ」
研二も精四郎も一斉に突っ込む。
英三「だってさ、俺、この店、一番古いもんな。研兄ちゃん、化粧品のセールスだったし、四郎も電気屋クビになって…」
精四郎「クビ? クビだなんてひどいよ。クビ…そんなことない。先行きに見切りをつけたって言ってほしいな」
英三「同じことだよ。とにかく2人とも転職組だろ。俺は大兄さんと初めっから…」
研二「冗談じゃないぞ、英三。ただ古きゃいいんだったら、母さんなんか…」
サク「なんだって?」
研二「い…いやいや。とにかく古きゃいいってもんじゃないってことだよ。明日香村の古墳じゃないもんな?」
精四郎「そうだよ。それにね、僕には麗子がいるんだからね」
英三「どうだっていうんだ?」
精四郎「まあ、家族手当があったっていいと思ってんだ」
一郎「家族手当?」
精四郎「うん」
研二「それはどうかなあ。とにかく厨房のセット作れんのは僕一人だろ? 特別手当もらったって当たり前だよ。英三なんか金払いの悪い仕事口見つけてくるだけで」
英三「ひどいなあ。営業が現代じゃ一番大事なんだぜ。四郎は家族手当なんて言うけどさ、所帯張って居候だろ。研兄ちゃんも仕事がもう少し早けりゃいいけどさ。お得意さんに怒られんの、いつも俺だからね。それにさ…」
一郎「英三! 研二も精四郎もいいかげんにしろ! 英三、お前、そんなに自分だけいい目を見たいのか?」
英三「違うよ。賃上げのその…正当な理由言っただけだよ。ダメなら、その…」道夫に目配せ。
道夫「大兄さん…」
一郎「お前は黙ってろ!」
サク「解散したらいいやね」
一郎「解散? 母さん、それなんだい?」
サク「ううん、みんなで俺、俺って言ってケンカになるだろ。なら、なにもみんなで一緒に商売やってることないじゃないか。めいめいに離れて住んで勝手に暮らしゃいいよ。簡単じゃないか」
一郎「まあまあ、母さん。とにかくその問題はあとだ。ああ~、とにかく今日は道夫の結婚の件についてだな…」
麗子、帰宅。「♪トゥル トゥル トゥル トゥル。あ~ら、皆様おそろいで。あっ、これケーキ」
精四郎「君、ケーキって。こんな高い物…」
麗子「高くないよ。1000円ちょっとだよ」
研二「1000円?」
麗子「今、お紅茶入れます。 ♪タラッタラララン ララン タラララン ラララ ララララ…」
一郎「え~っと。どこまで話したんだったけな。あっ、そうか」
麗子「♪約束どおりに…」
よしだたくろう「結婚しようよ」1972年1月21日発売
研二「道夫、お前の好きな子、おしぼり屋だって?」
道夫「うん」
研二「あれ、元手がいらないからもうかるだろう?」
英三「姉さんってのは占いやってんだってな?」
精四郎「占いってえと、あの占いかい?」
英三「ああ、あの占いだよ」
精四郎「竹、ガチャガチャってやるやつか」
英三「そうだよな? 道夫」
道夫「姉さんのことなんてどうだっていいじゃないか」
英三「おい、道夫。その姉さんって美人か?」
一郎「英三! ところでだな、道夫の結婚のこと、みんなどう思う?」
英三「うん、まあ、大兄さんが反対だったら…」
道夫「英兄ちゃん、なんだよ。約束が違うじゃないか」
英三「バカ言え。お前だって条件守んないじゃないか」
道夫「そんな!」
一郎「約束とか条件とか、なんのことだ?」
英三「ううん、別に」
研二「僕も兄貴と同じだな。少し早すぎるよ、道夫は。結婚は男の地獄だっていうからな」
精四郎「そ…そんなこともないけどさ」
一郎「母さんは?」
サク「私はかまわないと思うけどね。このうちはちょっと…が多すぎるもの」←初の無音。”バカ”とかそんな短い言葉に思える。
英三「まあ、やめとけよ」
研二「無難だぞ」
道夫「分かったよ」
精四郎「お? 素直だな」
道夫「分かったけどやめないよ。こんな家族会議なんて古くさいよ。ナンセンスだよ」
一郎「道夫!」
道夫「みんながなんて言ったって、僕、絶対に結婚するからね!」部屋を出ていく。
麗子「あの…お塩とお砂糖と分からないんですけど教えてくださらない?」
ドアが閉まる音。
麗子「あの…お塩とお砂糖」
サク「なめてみりゃ分かるよ」
サクさんは「わが子は他人」のゆきさんと同じようにあっさりしたお姑さんでいいよね。こっちのほうが先だけど。兄弟で言い争いも解散して別々に暮らせばいいって誰かに特別肩入れするわけでもなくベタベタしてなくていい。
夜の伊勢佐木町
占い師姿の夏目は南の「お姉さんがなんと言っても私、結婚します」という言葉を思い出し、ため息をついた。
一郎が夏目の前に来た。
夏目「どんなご相談ですか?」
一郎「結婚問題です」
夏目「分かりました、どうぞ。ご自分の生年月日と相手の方のもどうぞ」
一郎「いや、僕のを言ってもしょうがないんですよ」
夏目「そんなことございません。やはりそれだけは伺っとかないと」
一郎「ああ、あ~、ヤツは27年の5月5日生まれ」
夏目「ああ…どなたか他の方のご相談ですね」
一郎「ええ。僕が結婚するように見えますか?」
夏目「それは…」
一郎「顔見ただけで分かるんじゃない?」
夏目「ええ…まあ…」
一郎「どうです?」
夏目「それを占って差し上げるんですか?」
一郎「いや、別にそんなことくだらないなあ」
夏目「じゃあ、一体…」
一郎「ええ、弟のほうを頼もうと思ってね」
夏目「分かりました。じゃあ、弟さんの相手の方の生年月日は?」
道夫が昭和27年5月5日生まれ、「赤い疑惑」の佐良光夫が昭和28年9月6日生まれ。小倉一郎さんと三浦友和さんは実際には同学年なのか~! へえ~!
一郎「それはあなたのほうが知ってるはずだな。僕が知るわけない」
夏目「私が? なぜですか?」
一郎「姉さんなら妹の生年月日ぐらい知ってるんじゃないかな」
夏目「妹?」
うなずく一郎。ちょっとかわいい。
夏目「じゃ、あ…あの…あなたは、あの新田さんの?」
一郎「ええ、道夫の兄です。あいつ、妙なことを言ってきたそうですね」
夏目「ええ。で、お兄さんがなんで…」
一郎「目的は簡単ですよ。あなたに協力してもらいたいんだ」
夏目「何をですか?」
一郎「道夫とあなたの妹さんが結婚するのをやめさせたいんです」
夏目「はあ…」
一郎「どうも反応が鈍い人だな、あなたは。よくそれで占いがやってられますね」
夏目「そんな…なぜあなたが私のとこにいらしたか考えてただけです。鈍いなんて失礼ですわ」
一郎「顔を見て分からなきゃ言いましょう。これは道夫があなたの妹さんから聞いたことだそうだけど、あなたは2人の仲を結びつけようとしてるそうですね」
夏目「あっ…あの、それは…私はただ…」
一郎「違うっていうんですか?」
夏目「そりゃ…弟さんとお会いしてもいいとは言いましたけど」
一郎「それが困るんですよ。そんなバカげたことはやめてください」
夏目「バカげた?」
一郎「どうもあなたが火に油を注いだんじゃないかなあ。道夫のヤツ、どうしても結婚するって、のぼせちゃってるんですよ」
夏目「そうですか」
一郎「そうですか、なんて落ち着いていられちゃかなわないな。協力してくれるんですか? くれないんですか? 要するにあなたは2人の結婚に賛成…」
夏目「反対です」
一郎「はあ、そうですか」
夏目「これでいいんですか?」
一郎「ええ、まあね。じゃあ、協力してくれるんですね? 何しろ道夫は末っ子でね。女性にそそのかされると、すぐその気になっちゃって」
夏目「ちょっと待ってください」
一郎「えっ?」
夏目「南があなたの弟さんを誘惑した。あなた、そう思ってらっしゃるんですか?」
一郎「ええ、違いますか?」
夏目「それはどういう根拠があって?」
一郎「根拠? だって、深夜のドライブに行って車の中に泊まりゃ…」
夏目「女のほうが悪いんですか?」
一郎「決まってるでしょ?」
夏目「そんなこと決まってません」
一郎「へえ、じゃあ、道夫のほうで誘惑したっていうんですか? 話によれば、車の手配もあなたの妹さんが…」
夏目「そんなこと言ってませんわ」
一郎「じゃあ、なんで結婚に反対なんです」
夏目「若すぎるからです。でもそれだけじゃありませんわ。あなたの弟さんがあんまり幼稚すぎるんで…」
一郎「道夫を悪く言うことはないでしょ。そりゃヤツは少しおっちょこちょいだけど。でも、そんな危険なドライブにノコノコついてくる女の子なんて、当然フラ…に決まってるな」←無音になったわけじゃなく、言い淀んだだけ。
夏目「なんですか? なんて言ったんですか?」
一郎「いいですよ。とにかく僕の目的は2人を結婚させなきゃいいんだ。こんな所で議論はイヤだな。理屈はどうでも協力さえしてくれりゃ…」
夏目「あなたは妹をフラッパーだって言いたいんでしょうけど、あなた妹に会ったことあるんですか?」
一郎「いや、会わなくたって分かるな。そんな娘なら」
夏目「そんな勝手な言い方…」
一郎「そんなことはないさ。僕はただ…」
夏目「2人の結婚に反対だってことだけなら同じ意見です。でも、人間に対して、そんな乱暴で独断的な見方しかできない方には協力いたしかねます」
出勤風景
夏目の会社
受話器を取ると一郎からだった。
夏目「ああ、あなた」
一郎「ゆうべはどうも。怒ってますか?」
夏目「いいえ、別に」
一郎「ちょっと言いすぎました。それにしてもあなたはきつい女性だなあ」
夏目「そうですか」
一郎「そりゃそうですよ」
夏目「それが言いたくて電話くださったんですか?」
一郎「まさか」
夏目「じゃあ、どんなご用ですか? 私、忙しいんですけど」
一郎「いや、とにかくね、事が事だから、この際、あなたとケンカするのはまずい。そう思ったんですよ」
夏目「へえ」
一郎「まあ、妥協ですね。現代は妥協の時代だから。ハハハ…だから、共同戦線組んでもらいたい。それだけです、じゃあ」通話が切れた。
夏目「あの…」ムッとして受話器を置く。
夕焼けの横浜港…だよね?
霧笛
汽笛
船がゆっくり進む。
道夫「そうか。君も姉貴に宣言しちゃったのか」
南「道夫君」
道夫「えっ?」
南「心配になったんでしょ?」
道夫「まさか」
南「決心が鈍ったんなら、そう言って」
道夫「そんなことないったら。しつっこいな」
考えのまとまらない2人。
船が出ていくのを見ている。(つづく)
TBSのドラマで港といえば大体同じ所なのかな? 「赤い疑惑」でも港が出てきたもんね。
今回は道夫の働くレストランのシーンはなかったので、佐山は出てなかったのに、名前があった。
「おやじ太鼓」だと竹脇無我さんも山口崇さんも鶴家の娘たちの恋人で立ち位置は同じように思ったけど、竹脇無我さんはその後、正統派イケメンヒーローみたいな感じで、山口崇さんはダークヒーローみたいな感じだな。嫌みな口調がはまってて、あと声! 声がちょっと高めなんだよね。そこが違うのかも。
「マー姉ちゃん」の三郷さんみたいな役のほうが珍しかったのかな。あの役、好きだったな~。
旧ツイッターで倍賞千恵子さんは当時は「男はつらいよ」の撮影もあって、回数が少ないんじゃないかというのを見かけたけど、それが一番納得がいったな。
1972年8月5日公開「男はつらいよ 柴又慕情」
1972年12月29日公開「男はつらいよ 寅次郎夢枕」
1年に2本じゃ忙しいね。