TBS 1973年8月28日
あらすじ
多美(上村香子)は桂(松坂慶子)に、北(藤岡弘)が上役とケンカしてまで「二上」を守ってくれたことを話し、何も知らない桂が北に熱を上げていたことを責める。桂は、自分の結婚相手は伸(荒谷公之)だと言い始める。
2024.3.11 BS松竹東急録画。
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北晴彦:藤岡弘…トラベルチェーン開発課の社員。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
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静子:相生千恵子…仲居。
竹子:大橋澄子…仲居。
社員:坂田多恵子…北の同僚。
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竹子が掃除機をかけているところに静子が声をかけた。「ねえねえ、あんたどう思う?」
竹子「何?」
静子「上のお嬢さん、やっぱり北さんのこと好きだったんじゃないかしら?」
竹子「好きだったら、なにも追い出すようなマネするわけないでしょ」
静子「そこはそれ。理性ってものがあるからさ」
「理性ってなあに?」と尋ねる竹子に話す気がなくなった静子。再び掃除機をかけ始めた竹子に「それにしても下のお嬢さん、北さんについて東京へ何しに行ったのかしらね?」と言うが、竹子は聞こえておらず、部屋を出た。かみ合わない仲居たち。
帳場にいた彩子は多美にメモを読み上げるよう頼む。
せせらぎB 230円
せせらぎC 600円
せせらぎB 1200円
せせらぎA 1万2800円也
どういうあれなんだろ?
彩子「せせらぎっていえば北さんってホントに分かんない人だったわね。トラベルチェーンの人には違いないんだから買収に来たことは間違いないんだろうけれど、結局、諦めたんでしょうね。それにしても高いものについたわね。無駄なお金使って、その上、うちに団体まで世話してくれて、あれ、どういうんだろ? 次…どうしたの?」
多美「そんなんじゃないわ」
彩子「何が?」
「北さんはそんな人じゃないっていうの」とメモを放り出し、帳場を出ていく多美。
鶴吉「彩さん、お昼、何食いたい?」
彩子「えっ? 珍しいこと聞いてくれるわね」
鶴吉「何言ってんだい。いつだって彩さんに合わしてるじゃねえか」
彩子「分かった。それで私、このごろ太ってきたんだわ。なんか私の嫌いなものにして」
鶴吉「イヤなこと言うぜ。まったく人が親切に言ってやんのに」
彩子は留守中に何があったのか聞く。多美が北を追い出す理由を聞こうとしたが、鶴吉は良男と幸子のことでそれどころではなかったと言い、お昼は太らないという理由で精進揚げにすると厨房に戻っていった。
トラベルチェーン
シャツにネクタイで机に向かう北。しかし、仕事が手につかず紙を丸めて、ため息をついている。
斜め向かいの事務服の女性たちが北を見てヒソヒソ。
席を立った北は髪をかきむしり、ネクタイを緩める。やっぱり藤岡さん、脚長いわ。
北「何がそんなに珍しいんだ?」
社員「まるで欲求不満のライオンね。久しぶりに檻ん中に戻ってきたせいでしょ、ねえ?」
北「課長は?」
社員「ゴルフよ、専務と」
北「いい気なもんだ」
女性事務員2人のうち、セリフがあった社員の坂田多恵子さんは「あしたからの恋」や「兄弟」「おやじ太鼓」に出演。
「あしたからの恋」では直也の働く病院の看護師役。
電話をかけた北。「ああ、おばさん? 北だけどね、俺の部屋に誰か来てない?」
北のアパート
青と白のチェックに黄色いバラ柄のワンピース姿の桂が部屋の掃除をしている。あの涙で別れたあとでそのままこの部屋に来たんだね。
部屋にズカズカ上がり込んでくる大家?のおばさん。「あしたからの恋」のおますさんみたいな感じの人だな。
桂「あの…おばさん。牛乳瓶かなんかあります?」
女性「牛乳瓶…ああ、お花ね。ありますよ」
昭和のドラマといえば、部屋に花を飾るシーンって定番だね。
部屋を出ていこうとした女性が振り返って尋ねる。「お嬢さん、北さんのお嫁さんになる方?」
桂「いいえ」
女性「まだ、そこまでいってないんですか?」
桂「そんなんじゃありません」
女性「そんな…隠さなくたっていいじゃありませんか」
桂「違います。絶対間違いなく結婚しない女です。はい」
女性「は?」
桂「牛乳瓶」
女性「はいはい」
テーブルの上の機織り人形?を見る桂。秩父のお土産品?
女性「はい、牛乳瓶」
桂「あっ、すいません」
女性「一輪挿しもどっかにあったはずなんだけどね」
桂「どうもありがとう。まったくなんにもないんだから」
牛乳瓶にピンクのカーネーションを3本飾り、何か書こうとした桂。しかし、女性がまたドアを開けて顔を出す。「ハッ、ハハハ。花一つでホントに見違えるみたい」
大家さん?の近江麗江さんはwikiみたら、市川寿美礼さんと知り合い、劇団新派に入団とある。同学年なのね。このドラマが放送された1973年には市川寿美礼さんいないんだなと思うと悲しい(1972年死去)。近江麗江さんは4月から再放送が始まる「ちょっといい姉妹」にも出演されてるそうなので楽しみにしとこう。
さようなら
早くお掃除する人
見付けて下さい
私のライオンへ
桂
特徴的な細長い字を書くんだね。置き手紙を書き終えた桂は、笑いながら”私の”を黒く塗りつぶす。
裏庭にたたずむ多美。
伸に桂が北についてったわけじゃなく、東京に用があったから東京へ行ったと話す彩子。桂がいないので帰ろうとした伸を呼び止めた彩子は家に上げる。白いポロシャツ、薄紫のパンツ姿の伸。ほんとにほっそいね~。
帳場
伸「ああ~、あっついですね」
彩子「もうすぐ川瀬祭ですもの。多美さんに聞いたわ。桂ちゃんのこと、大須賀君、真剣に考えてくれてるんですって?」
伸「もちろんですよ。僕は最初から真剣なんです。分からないのは彼女のほうです」
彩子「あら、そうなの?」
伸「分かったような分からないような…決して本心を明かしませんからね、あいつは。あっ、いや…彼女は」
彩子「そうかしら。そんなことはないと思うけど。私はまた2人の間ではとっくの昔にに約束できてるもんだとばっかり思ってたの。むしろ、そっちのほう心配してたの」
伸「いや、僕は紳士ですよ。ご心配いりません」
彩子「そりゃどうも」
伸「彼女、僕のこと好きだって言うんです。そのくせ、愛してるかどうかはよく考えてみなきゃ分からないって言うんです。そんなもんでしょうか?」
彩子「私には分からないわ」
伸「おばさん、ベテランなんでしょ? 教えてください」
彩子「人聞きの悪いこと言わないでよ」
伸「ここのおじさんとの話、聞いてます」
彩子「イヤね」
伸「愛するって、もっと直接的なもんでしょう? ん…考えてみなきゃ分からないなんて心もとないもんじゃないでしょ? こう何もかも分からなくなって周りが見えなくなって、相手しか見えなくなって…」
彩子「ちゃんと分かってるじゃないの」
伸「そこが不満なんだな。何かっていえば考えておくわなんだから。何を考えることがあるんだろう?」
彩子「お父様にお話しになったんですって?」
伸「ええ、それなんですよ」
彩子「反対なんでしょ? お父様」
伸「ええ。こっちははっきりしないし、向こうははっきり反対だって言うし、僕の立つ瀬がないですよ」
彩子「やっぱり、おうちの格式のこと?」
伸「まあ、そんなことですけどね。でも僕は問題にしてないんです。親父はいずれ折れますよ」
彩子「さあ、どうかしら」
伸「心細いこと言わないでくださいよ」
彩子「ねえ、大須賀君。桂ちゃんにしてもそのお父様の反対は予期してたんじゃないかしら。多美さんのことも見てきたはずだし、だからこそ、はっきりできないとこもあるんじゃない? 誰だって好んで傷つきたくないものね。そうでしょ? そこんとこは察してやってほしいわね」
伸「そうかな? 彼女もそんなこと考えるかな?」
彩子「そりゃ考えるわよ。桂ちゃん、あれで結構繊細なところがあるのよ」
伸「それは僕も認めます。そうか、そんなら見込みがあるな」
彩子「ただね、大須賀君。大須賀君の気持ちが途中でくじけるようなもんなら、もうこれ以上、あの子の気持ちを傷つけないでちょうだい。それだけはくれぐれもお願いしますよ」
伸「分かってます。分かってますとも。僕が親父の反対ぐらいでくじける男だと思ってるんですか?」
彩子「私がお願いしたいのはそのことだけ」
伸「ああ、勇気が出てきたぞ。よし、やるぞ~、やりますよ、おかあさん! あっ、いや、おばさん」
笑う彩子。
厨房
幸子を座らせて髪をとかす良男。「ホントにサラッとしてんだな。春雨以上だよ」
遠慮する幸子に良男は「いいって、いいって」と髪をとかし続ける。
彩子「何やってんの、よっちゃん」
笑ってごまかす良男。
彩子「さっちゃんもいいかげんにしなさい」
幸子「はい」
多美がどこへ行ったか聞く彩子。幸子が捜しに行こうとすると良男が止める。
彩子「よっちゃん、ぼつぼつ晩の支度でしょ?」
幸子が厨房を出ていく。
彩子「よっちゃん。言わなくても分かってるでしょ?」
良男「以後、気をつけます」
彩子はホントに幸子の子を育てる気でいるのか聞く。理想と現実とは違う、今はそれでいいような気になってるけど、先は長い。
良男「長くなくちゃ困ります」
彩子「あなたとは似ても似つかない顔の子が産まれてくるのよ?」
良男「だからどうしろってんですか? 女将さん。毎日毎日、さっちゃんのおなかん中では赤ん坊が育ってるんですよ。息してるんだよ。さっちゃんだって、それをじかに感じてるから産みたいって言ってるんじゃないですか。僕はね、女将さん、さっちゃんに悲しい思いをさしてまで一緒になろうとは思わないんだ」
彩子「よっちゃんがその気なら、はたでとやかく言うことはないけどいいのかしらね」
良男「女将さん、さっちゃんに変なことそそのかさないでくださいよ」
首を横に振る彩子。
でもさ、血のつながらない娘たちを立派に育ててきた彩子が言っても説得力ない。良男が独りよがりな感じはあるけどね~。
お茶をたてていた多美。幸子が「女将さんが捜してらっしゃいます」と伝えた。桂が帰ってきたか確認する多美。まだ帰ってないという幸子に「さっちゃん、幸せね」というが、幸子はうつむく。
レッドアロー号が走る。
マイクロバスに乗った桂は良男に「東京どうだった?」と話しかけられても、じーっと外を見ている。良男も桂の様子に何も言えなくなってしまう。
茶室
お茶をたてる多美。同席する彩子、伸、竹子、幸子。クラクションが鳴り、桂が帰ってきたことが分かる。身を乗り出す伸に咳払いをする彩子。
多美が棗(なつめ)の上に茶杓を置こうとして落としそうになる様子を目撃する彩子。
多美の美しい横顔。
桂が帰ってきた。出迎えたのは静子。「私はうまく逃げましたけどね。苦いお茶で足のしびれを忘れようなんて悪趣味ですよね」
桂「足のしびれんのは太りすぎよ」
静子「ええ。どうせ私は太りすぎですよ」
「思い橋」界は痩せてる人が多いから、太り過ぎの基準が厳しい。
帳場
寝ている鶴吉。
桂「あらあら、汗かいて寝てる」
静子「年を取ると、こんなにも寝たいもんかしらね」
鶴吉「聞こえてるぞ、みんな」起き上がり、首にかけていたタオルで汗を拭く。「いやあ、ぼちぼち晩の支度にかかるかな」
桂「私も目覚ましに一服頂戴してくるかな」
お菓子は水羊羹と聞き、うれしそうな桂。
鶴吉「ヘヘッ。花より団子っていってね、桂ちゃんもまだまだ子供だな」
厨房に入ってきた良男に仕事にかかるぞと声をかけ、前掛けを投げる鶴吉。
良男「なんだい、人の顔見りゃ仕事仕事って、このクソ親父」
鶴吉「不足なら、さっちゃんよそへ出しちゃうぞ!」
茶室
彩子、多美、桂だけになっている。
彩子「今までいた人がいなくなるってなんだか寂しいものね」
桂「もう二度といらっしゃることもないでしょうから言いますけど、北さん姉ちゃんのこと、それは真剣に考えてたのよ」
多美「そんなことどうして桂に分かるの?」
桂「分かるわけがあるの、私には」
多美「分かるもんですか。そんなこと」
桂「それが分かるの」
彩子「なんですか、2人とも」
多美がたてたお茶を飲んだ桂。「このほろ苦さ…失恋の味だわ」
彩子「桂ちゃんにも失恋の味が分かるの?」
桂「分かるわよ。分かりすぎるぐらい」
彩子「かわいそうね。じゃ、何か甘いもの探してきてあげましょ」
桂「あっ、売店の羊羹ダメよ。もう飽きちゃった」
彩子「贅沢言うんじゃないの」部屋を出ていく。
外からは屋台囃子が聞こえる。
多美「分かってたわ。桂、ホントは北さんのこと好きだったんでしょ?」
桂「えっ? 私が、北さんを?」
多美「隠したって分かるわよ」
桂「だから姉ちゃん、北さんを追い立てるようなことしたの? とんでもない見当違いだわ。私が北さんを? あきれた。北さんはね、トラベルチェーンの人よ。うちを乗っ取りに来た人よ。どうしてそんな人を…」
多美「そうよ。確かにトラベルチェーンの人よ。だけど、あの方は会社の命令に反抗して、うちを守ってくれたのよ。自分の将来を犠牲にしてまで、この二上を守ってくだすったのよ」
桂「何それ? なんのことだかちっとも分かんない」
多美「分からないでしょ? 分からなくていいの。私があの方を追い出すようなことをしたのはね、あの方がうちのために将来を台なしになさろうとしてたからよ。あの方はトラベルチェーンがうちから手を引くように上役の人たちとケンカしてまで、うちを…私たちを守ってくだすったのよ。いつか会社の人たちがみえたでしょ? あのとき、私、聞いてしまったの。あの方が会社の人たちを説得しているのを。そのとき、あの方は会社から約束させられたのよ。うちから手を引く代わりに会社を辞めないこと、会社を裏切らないこと、会社がうちを買収しようとしたことを誰にも言わないことを。だから…だから、私…なんにも知らないで、あんたはのんきでいいわよ」
桂「そう。そんなことがあったの。それで分かったわ」
多美「分かるもんですか」
桂「でもだからって、どうして北さんの気持ちを受けてあげられないの? それだけ思ってくださってるのに、どうして?」
多美「あんた、私たちのために一生の仕事を棒に振ろうとしているのを平気で見ていられるの? 私にはとてもそんなことできないわ」
桂「姉ちゃんを好きになることが…うちに来てもらうことが、どうして一生の仕事を棒に振ることになるのよ?」
多美「あんたには分からない」
桂「ええ、分かんないわ。でもね、言っときますけどね、私が北さんのこと好きだなんて、とんでもない誤解よ。そんなふうに思われんの迷惑だわ。とっても迷惑よ。誰があんな人…私、姉ちゃんに…姉ちゃんと似合いだと思ったから。だから…だから、それで…」
涙目で見つめる多美。
桂「だって私には伸ちゃんって人がいるんですからね」
多美「ホント? 桂ちゃん、ホントに伸ちゃんのこと思ってるの? 違うでしょ?」
桂「違わない。私、誰に反対されても伸ちゃんと一緒になるつもりよ。北さんのこと好きだなんて、ただ話し相手として面白がってただけじゃないの。何勘違いしてたの?」
涙目でじっと見つめる多美。
彩子がお菓子を持って入ってきた。「はい、これでいいかしら?」
桂「うん。サンキュー」
彩子「どうしたの?」
桂「うん? ううん、なんでもない。ねっ、姉ちゃん?」
彩子「あっ…私、もう一服頂こうかしら」
動かない多美に桂はお菓子を一つ手に取り口に入れる。「ああ、おいしい」と言うが、部屋を飛び出していく。
彩子「変な子」
多美は声をあげて泣きだし、彩子は「多美さん、どうしたの?」と慌てる。
ロビーに出てきた桂も泣いていたが、伸と目が合うと、こっちに来てと呼び出した。
桂の部屋
桂「伸ちゃん、私と結婚してくれる? 私と結婚してくれるってホント?」
伸「当たり前じゃないか」
桂「じゃ、私を離さないで。しっかり抱いて」
伸「こうか。これでいいのか?」抱きしめる。
桂「ありがとう」
伸「ありがとう。ありがとうよ」
桂が泣きだす。
伸「でも、泣くことはないじゃないか。泣くことはないじゃん。おばさんになんか言われたな? そうだろう? 親父のことなんか心配しなくたっていいんだよ。結婚するのは俺じゃないか。でも、ホントだろうな?」うなずく桂を再び抱き寄せる。「夢じゃないよな? ああ~、ハハハ」
胸に手を当てて一回転しながら歩く伸。竹子(?)にばったり出くわし、笑いながら二上を出ていく。「ハハッ、やった~!」
走って祭り会場に行った伸は「おい、俺にも打たしてくれ」と太鼓をたたき始める。
北のアパート
牛乳瓶のカーネーションと置き手紙に気付いた北。置き手紙を読んでベッドに寝転がる。
桂の部屋
ぼんやり考え込む桂。
思い橋を見つめる多美。
伸は一心に太鼓をたたいていた。(つづく)
伸ちゃんが不憫で…
「あしたからの恋」で中川姉妹両方に好かれる修一と図式はちょっと似てるけど、あんなにときめいた修一とトシ子に比べると、全然なんだよな~。