TBS 1973年6月12日
あらすじ
北(藤岡弘)は、彩子(淡島千景)たちから避けられても、大東チェーンの買収計画を潰すまで「二上」を立ち去ることはできなかった。ある日、東京から150名もの観光団体客の予約が入るが…。
2024.2.23 BS松竹東急録画。
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北晴彦:藤岡弘…トラベルチェーン開発課の社員。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
静子:相生千恵子…仲居。
高沢正紀(まさき):山本聡…幸子の元恋人。愛称・セーキ。
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大須賀:野々村潔…織庄の社長。
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なんであらすじは”大東観光”や”大東チェーン”なんだ? どっからその名前が出てきた?
せせらぎの間
思い悩んでいる様子の北がロビーの土産物売り場へ。
土産物売り場
店頭に立っていた幸子に笑顔を向けた北だったが、幸子は下を向く。
北「君まで僕に冷たくすんのかい?」
幸子「何を差し上げますか?」
北は土産物売り場の商品全部がいくらになるか計算してほしいと言う。全部買うと言う北に幸子は女将さんに聞いてきますと席を外した。
厨房
彩子「いよいよ奥の手を出してきたわよ、敵さんは。どうしよう」
桂「売ったらいいじゃないの。あんなもん注文すればいくらでも入るんでしょ?」
彩子「そりゃそうだけれど…でも相手は、このうちを買うのが目的のトラベルチェーンよ」
桂「うちと売店のお土産とは関係ないわ」良男も同意。
彩子はまた買うと言われたら?と心配するが、良男も桂もまた売ればいいと言う。
彩子「いいのかねえ。何か計画が隠されてんじゃないのかな。何しろ一筋縄でいく男じゃないんだから」
多美「そうよ、桂」
桂「だって土地の権利は不動産でしょ? 売店のお土産はただの商品じゃないの。これは間違いのない事実だわ。ジャンジャン買わせて、ジャンジャン儲けなきゃ」
鶴吉は簡単に同調する良男をいさめるが、土産が売れるってただそれだけの話じゃないと言う。
彩子はせっかく無視してきたのに無視できなくなると気にするが、桂は買わしたうえで無視すればいいと強気。
ロビーのテレビでバラエティ番組を見ている笑顔の北。あのねのねのネタらしい。
ロビーに来た彩子はこれから計算すると言い、買った商品はどこへ運べばいいのか聞く。北はここに置いてくれればいい、ただリストだけはくださいとお願いする。買った商品を捨てるんじゃないか、ここで商売するんじゃないかと彩子が聞くが、「そんな商道徳に反することは決していたしません」と断言。
帳場
彩子「よかったのかね? あれで」
桂「ダメよ、考え込んじゃ。考え込ませるのがあちらさんの手かもしれないんだから」
鶴吉「だけど、なんか裏がありそうだな」
彩子「鶴さんもそう思う?」
鶴吉「いや、俺のは考えるってよりも勘だけどさ、あいつ、ただ者(もん)じゃねえからな」
テレビを見ながら2回くしゃみをする北。
今日も爆発音が鳴り、織庄の時計も12時を指す。サイレンが鳴り、机に向かっていた桂は伸びをする。「ん~、スカッ」
同じく伸びをした伸がお昼は何にするか聞く。断食だと答えた桂。頭は痛いし、おなかの調子もおかしい。おかげで少し瘦せられそうだわと拳を突き出す。
伸「だからってなにも痩せてる俺まで断食させることはないだろ」
桂「あら。断食するとね、痩せてる人は反対に太んのよ」
伸「フン。大きなお世話だよ」
織庄のロビーに移動。伸は親父のところに工場見学の団体の申し込みがあったと話す。「お前さんとこの客かい?」
桂「知らない。何人なの?」
伸「150人ぐらいっつってたな。違うの?」
桂「すごい。うちにそんな団体があったら大喜びよ」
伸「東京からだっつってたから日帰りかなあ」
桂「北さんの線かしら?」
伸「うん。俺はてっきりそうだと思い込んでたんだけどね」
桂「よく聞いてみてよ。あるいはうちがゴタゴタしてる間によそに先を越されたのかもしれないわ」
帳場
多美が電話を受けていた。「150名様でございますか? 少々お待ちくださいませ」
彩子を呼びに厨房に来たものの、彩子は不在。鶴吉にあした150人のご休憩でお昼が用意できるか聞く。予算は1人500円。
鶴吉「OK。任しとけってんだ」
多美「じゃ、お受けしていいのね」
良男「久しぶりの大勢さんだな、親父」
500円の150はいくらになるか良男に聞く鶴吉。親父、掛け算もできねえのかいとバカにする。言い合いになった2人だが、彩子が来ると「あした150人の昼飯だってさ」とシンクロ。150人だとバス3台。
彩子「うちもお昼の団体が取れると随分違うんだけどね」
鶴吉「それだけうちはてんてこまいだけどな」
鶴吉には掛け算は手でなく頭でやるものと言っていた良男は厨房の黒板に書いて計算中。
彩子「5×5=25の3倍でしょ? だから7万5000円じゃないの」
鶴吉「あっ、そうだ、そうだい。てめえ、大学出てやがって、そのくらいのことがスーッとできねえのか。このボケナス!」
裏庭を歩いていた多美は庭の草むしりをする北に声をかけた。「お昼、お部屋のほうへお通ししときましたから」
北が追いかけてきた。「昨日はとうとう来てくれませんでしたね」
多美「お願いです。どうぞお引き揚げになってください」
北「僕もできればそうしたいですよ」
多美「会社の命令なんですか?」
北「いや」
多美「じゃ、これ以上、私たちを困らせないでください」
多美の前に立ちふさがる北。「多美さん、分かってください。僕はあなた方を困らせる気はちっともありゃしないんだ。僕はただここを引き揚げられない理由があるんです」
多美「あなたのほうに困らせる気がおありにならなくても、こっちは現に困ってるんですから」
北「こんな男一匹ほっとけばいいじゃありませんか」
多美「うちを引き払えない理由をおっしゃってください。それをおっしゃらなくては、いくら買収するつもりはないっておっしゃっても誰も信じやしませんわ」
北「多美さん。どうして僕がこんな針の筵の上に座るような毎日を送らなければいけないか、そこんところよく考えてみてくれませんか?」
多美「みんなそればっかり考えてノイローゼ気味ですわ」
北「僕もそれを言いたくて喉まで出かかっているんだが、そういうわけにはいかないんです」
多美「だからどうして言えませんの?」
北「いや、いいですよ。当分、針の筵の上に座りますよ」
男性の一人客が訪れた。対応したのは静子。「まさか北さんのお知り合いじゃありませんね?」
男性「北さんってなんですか?」
静子「いや、いいんです」
静子が彩子を呼び、静子は客をいこいの間へ案内する。
彩子「さてとあしたの算段しなくっちゃ」
帳場でアイロンがけをしていた幸子にいこいの間にお茶を持っていくように言う彩子。
いこいの間
幸子の声がすると、男はニヤリ。幸子がいらっしゃいませと頭を下げて、男の顔を見て驚く。
正紀「さっちゃん」
幸子の恐れたような表情に「さっちゃん!」と近づく正紀。「君がここにいるのをやっと突き止めて来たんだよ」と肩をつかむ。怖い!
幸子「離してください、離して!」
正紀「さっちゃん!」
幸子「私、もう生まれ変わったんですから。もう昔の幸子じゃないんです」部屋を飛び出すと、なおも「さっちゃん!」と追いかける正紀。
階段を下りてきた幸子と正紀を目撃した北。正紀は北に見られて気まずそうに部屋に戻っていった。
織庄
桂が電話を受けていた。電話を切り、あの150人がうちでお昼食べるんだってと伸に報告。
大須賀「あしたの団体の接待、伸と2人で頼むよ。君たちが持ち込んだ話だからな、これは。一日付き添って粗相のないようにな。観光用の工場が成り立つかどうかの大きな試金石だ」
伸「なんの団体なの?」
大須賀「うん。睦会とかいったな。町の旅行会らしいよ」
「あしたからの恋」の商店街のロケで「柳通 睦」という看板が見えたことがあった。ここの夫婦も団体旅行で大阪万博に出かけたりしてたね。
桂「北さんのお世話なんですか?」
大須賀「そうだろうな。うちへ工場見学を申し込んできたんだから。代表者は川西とかいう人だ。じゃ、頼んだよ」
桂「食欲、湧いてきたわ」
昔から?食いしんぼキャラ?
帳場
あしたの打ち合わせ中の彩子、鶴吉、多美の前に北が現れ、声をかけた。
鶴吉「今、猫の手も借りてえとこなんだよ」
北「その猫の手になりましょうか?」
彩子「結構でございます」
多美は完全無視。北は去っていった。
鶴吉「何が猫の手になりましょうかだい」
彩子「そういえば、あの人さえいなければ、せせらぎも使えんのにね」
鶴吉「そうよなあ。追い出しちまうか」
彩子「でも…お昼ちょっとどっかで食べてくださいなんて頭下げて頼むのもしゃくだしね」
鶴吉「だけど、1畳でも半畳でも欲しいとこだぜ、ここは」
彩子「背に腹は代えられない。頼んじゃおうか」
鶴吉「頭下げんのはタダだからな。ヘヘヘ…」
多美「ゲンキンすぎるわ」
鶴吉「ここが浮世のつれえとこじゃねえか」
北が蔵?の壁にもたれかかる幸子を見つけ、声をかけた。「さっちゃん。さっきの男だな? 君を捨てていったってのは。何しに訪ねてきたんだい? 仲直り? それとも…。俺が一発食らわしてやろうか?」
幸子「よしてください」
北「どうして? 憎いんじゃないのかい? しかしね、このまま放っておくと、よっちゃんたちが知ったら、きっとやっちゃうよ。だけど、さっちゃんが命を懸けるほどいい男じゃないじゃないか。僕をご覧よ、ほら」と振り向かせる。「目が2つに鼻が1つ。大して変わらんと思うがね」
幸子「お願いします。帰ってもらってください」
北「そうはいかないよ。ここは旅館なんだし、一度上げてしまったんだからね。差し出がましいようだが、なんの目的で来たのか僕が聞いてやろうか?」
北の顔を見つめてうなずく幸子。
北「幸いと言っちゃあなんだが、みんな忙しくって、まだ誰も気づいちゃいないようだ。間違っても、よっちゃんたちに漏らすんじゃないよ、ねっ?」
二上に戻った北に彩子が声をかけた。あしたのお昼、ほんの2時間ほど、部屋を空けてほしいとお願いした。この間みたいに帳場へ避難すると言う北。「猫の手も借りたいほど忙しいんでしょ? 手伝いましょう」。北が買ったお土産物も帳場で預かってほしいと言う。
彩子「また1つ用事が増えちゃった。竹ちゃん! しいちゃん! さっちゃん!」
いこいの間
北が部屋を訪ね、「トラベルチェーンの吉野さんのご親戚の方じゃありませんか?」と聞いた。正紀が認めると、その辺歩きませんか?と誘った。
北は大庭専務の親戚?で正紀は吉野課長の親戚。
思い橋
北「どうです? いい眺めでしょう?」
正紀「ええ。さっちゃんはどこにいるんですか?」
北「まあ、そう急ぎなさんな。彼女は逃げも隠れもしませんよ。彼女はこの下ですよ」
正紀「どっから下りられんです?」
北「さあね。いっそのこと飛び降りたらどうです?」
正紀「あっ…ご冗談を」
北「そうだよ。彼女はこっから身を投げたんだよ。投げようとしたんじゃない。ホントに投げたんだよ」
激しい川の流れを見る正紀。
北「ほら、あの岩と岩との間。あの間に落っこちたからよかったようなものの1メートルそれててもお陀仏さ。君も彼女に会いたいんだったら、一度あそこに飛び込んでからにするんだな」グイッと正紀の肩を押す。
正紀「何をするんだ?」
北「勇気がいりそうだから俺が手伝ってやろうっていうのさ」
正紀「ま…待ってよ、僕は何も…」
北「彼女に死んでくれと頼んだ覚えはないっていうのかい。死を覚悟するまで思いつめるってことがどういうことだかよく考えてみるんだな」欄干に顔を押しつける。
正紀「分かりました。離してください、離してくださいよ。分かりました!」
北「何が分かってるもんか。もっとよく考えるんだ」なおも顔を押しつけ、苦しそうな表情の正紀。
北と会話した蔵?のところで泣いている幸子。ボイラー室の裏?
桂が帰ってきた。会社のほうも150人の大体見学で忙しく、休みがもらえなかったと多美に言うが、お昼には団体さんと一緒にサービスに戻れるとも言う。彩子は工場見学の団体が来るのだと気付き、桂も北の計画の人たちだと言う。心配する多美。
桂「うちにとっては久しぶりの大型団体じゃないの。誰の紹介にしろ張り切らなくっちゃ」ガッツポーズ。
鶴吉が器が揃わないから折詰にするしかないと彩子に報告。
桂がせせらぎの間を訪ねた。「お邪魔します」
北「どうぞ」
桂「ヘヘッ。ダメだって言っても入ってきちゃうんだ」←かわいい!
桂はイチゴミルクを持参。「とうとうおやりになりましたね」
北「帳場は大変らしいな」
桂「会社のほうもよ」
北「たくさん売れるといいね」
桂「機(はた)にかかってるのと同じのを20反ばかりそろえました」
北「それじゃあきっと取り合いになるな」
北は老人や暇のある人の旅行会で、いい計画はないかと血眼になって行き先を探してる人たちだから電話一本ですぐ飛びついたと話した。鶴吉が折詰にすると言っていたと桂が話すと、「中身が充実してたらそれでいいのさ。平生(へいぜい)、いい器で食ってる連中だから木の香りがしたほうがかえって喜ぶんだ。まあ、本物の竹の皮で包んであると包みを持って帰る人たちさ」という北の言葉に桂は目を輝かせる。
部屋も人も足りなそうだから、天気さえよければ庭で食べさせたほうが喜ぶとも提案。土産物もまずまず間に合いそうだし、なんとかいけるだろうと言うと、桂はごっつぁんですみたいな手振り。「恐れ入りました」
厨房に駆け込んできた良男。幸子からいこいの間の客が幸子の相手だった男だと聞いた。
鶴吉「それがどうしたい? この忙しいのにそんなくだらねえことで騒ぐんじゃねえや」
良男「へえ。それでも人情旅館かい」
鶴吉「うるせえな、もう。人が考え事してるってのに」
桂も厨房に駆け込み、竹の皮を買いに行こうと良男に車を出すよう言う。彩子にはあした晴れてたらお弁当は庭で開いてもらうことにしましょう、そのほうが都会の人は喜ぶと提案。桂は嫌がる良男を無理に連れ出そうとする。
良男「人情旅館が聞いてあきれらあ!」
鶴吉「バカ野郎」
いこいの間の客を気にする彩子に「あしたの段取りはできてんのかい?」と聞く鶴吉。「さっちゃんにだってどんどん働いてもらわなくちゃ」というのが鶴吉の本音かな。
彩子「分かったわよ、鶴さん。そのほうがいいのよね。あしたはみんなにバリバリやってもらうからね。鶴さん、頼りにしてますよ」
彩子は女中たちの名前を呼びながら探し、あしたの段取りをあれこれ考えていた。(つづく)
これまで美男美女率が高かった「思い橋」。高沢正紀こそ渾身の美青年を用意してほしかったな~!