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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(65)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

元子(原日出子)の回復は早かった。トシ江(宮本信子)もキン(菅井きん)も普段のように接して元子の気持ちを盛り上げる。恭子(小島りべか)も電話してきた。なんと、つわりがひどくて仕事ができないのぼるの代役で、アナウンサーのピンチヒッターにならないかというのだ。正道(鹿賀丈史)も、体さえ大丈夫ならと、後押ししてくれる。1年ぶりのマイク。そう思うだけで元子の胸には不安と喜びが渦巻いていた…。

朝、裏庭に布団を干す元子。

 

幸い、元子の回復は順調でした。やはり若さと気力です。

 

吉宗

店舗部分でトシ江、キン、巳代子、百合子が縫い物をしている。

 

元子「はい、こんにちは」

キン「まあ、お嬢」

元子「みんな忙しそうじゃないの」

トシ江「忙しいわよ。酉の市が始まるんだもん。それまでにこの、ほら、ももひきと腹掛け、なんとか間に合わせなくちゃね。縁起物だから」

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酉の市が11月だから昭和21年の10月の終わりか。

 

元子「そう思って、私も手伝いに来たの。仲間に入れてちょうだい」

キン「あっ、駄目ですよ。お産のあと、すぐ針を持つとね目が早くあがっちゃいますよ」

巳代子「何よ、あがるって」

キン「うん?」

百合子「老眼になるってこと」

巳代子「嫌だ、ハハハ…」

元子「何言ってんのよ。巳代子だっていつかそうなるんだから」

巳代子「それまでにはまだまだ当分の間がありますよ~だ」

百合子「まあ、憎たらしいわねえ」

トシ江「じゃあ元子、巳代子と一緒に畳んでおくれ」

 

元子「はい。あれ? 巳代子、あんた学校は?」

巳代子「うん、このごろ暇(しま)なのよ」

元子「暇?」

巳代子「雑誌がどんどん出版されるから講師の先生方も作家業が忙しくて好きな先生に限って休講が多いんだもの」

元子「そりゃ困ったわねえ」

巳代子「そうでもないわよ。したいことはいろいろあるし」

百合子「いろいろって何よ?」

巳代子「お料理の研究会」

百合子「お料理だなんてご大層なこと言って今どき、どこにそんな材料があるのさ」

巳代子「フフン、それがあるのよねえ」

 

トシ江「どうせ闇だろ。そんなもん使ってね、花嫁修業させてやれるような身分じゃないよ」

巳代子「いいえ、それが立派な配給品なのよ」

キン「配給ったら相変わらずのスケソウダラに芋に痩せっぽちの大根じゃないですか。あれは煮るか焼くしか手がないですよねえ」

巳代子「あら、ほかに何かまだございませんでしたでしょうか?」

元子「そんなじらさないで早く教えてあげなさいよ」

 

巳代子「フフン、材料は缶詰。ほら、お米の代わりに配給になったアメリカの」

トシ江「あ~、あれには往生するわよ。だって中開けてみないことには中身何だか分かんないんだもの」

百合子「ああ、こないだなんかさ、くじでこんなおっきなのが当たってね喜んで開けて見たらパイナップルなのよ。そりゃあ、あんなもの何年ぶりなんだもの、涙が出るほどおいしかったけどさ、ごはんの代わりにはとてもなりゃしない」

トシ江「うちじゃあね、こうパフパフした黄色い…あの、粉だったんだよね。何かなと思ったら卵の黄身の干したもん」

キン「ハハハハ…あれには、まあ本当に驚きましたよねえ。けどまあ、いいあんばいにね、いろいろ手ぇ加えて、お嬢に精つけることができましたけどね」

元子「うん。茶わん蒸しもどきやオムレツもどきでしょ。卵の匂いがして結構おいしかった」

巳代子「でしょう。だけど、どうやって食べていいか分からない人が随分いるのよね。特にチーズなんて味慣れない上に、もう匂いだけで駄目らしいの」

キン「ああ、私もね、どうもあの匂いは、もう駄目で…」

 

巳代子「だからそういうものを安く譲ってもらって材料にするんだけど、今度うちでも作ってあげる。すごいごちそうが出来るんだから」

百合子「巳代ちゃんは洋食屋にでもお嫁に行ったら本当に向いてるわね」

巳代子「自分でもそう思うんだけど、そうなったら幸せだなあ」

トシ江「どうしてさ」

巳代子「だって毎日おいしいもん作っていろんなもん食べられるもの」

トシ江「ああ、商売っていうのはね、お客様のために作るんだよ。自分でばっかり作って食べてたんじゃ、お店潰れちゃうじゃないか。ほらほら、口ばっかり動かしてないでさっさと畳まなくちゃ」

巳代子「は~い」

 

元子「いいわね」

巳代子「何が?」

元子「巳代子がいずれそういうお店持つようになったら、お姉ちゃんが一番に食べに行ってあげる」

巳代子「うん、きっとよ」

元子「うん」

百合子「いいわね、若い人はいろいろ夢があって」

 

元子の心の声「夢か…」

 

電話が鳴る。

巳代子「はい、人形町吉宗です」

恭子「私、向井恭子です」

巳代子「あ~、お久しぶりです。今、姉に代わりますから。ブルースさんよ」

元子「あっ、はい、ごめんね。もしもし、代わりました」

恭子「その後、どう?」

元子「うん、おかげさまで元気です」

恭子「みたいね。すぐに電話に出たから、きっと元気になったんだろうって安心したけど」

元子「その節はいろいろとご心配をおかけしました」

恭子「ううん。ねえ、お願いしたいこともあるんだけれど、近いうちに一度、気晴らしに出てこられない?」

元子「そうね…」

 

恭子の誘いを受けて、元子が放送会館を訪れたのは宗俊の「のど自慢」以来、10か月ぶりのことでした。

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放送会館食堂

恭子「すごいでしょう。最近はコーヒーが飲めるようになったのよ」

元子「でもブルースの食券でしょう? 悪いな」

恭子「何言ってんの。モンパリのコーヒーとは全然違うからがっかりしないでね」

元子「じゃ、頂きます」

 

恭子「でも思ったより顔色がいいんで安心した」

元子「だって、私がいつまでもメソメソしてたら、うちの中が晴れ晴れしないもん」

恭子「強いな、ガンコって。私は口で慰めることしかできなかったけど、きっとつらかったと思う」

元子「こういうことはね、経験しない方がいいんだけど元気になるコツを教えてあげるわね。泣く時はまとめていっぺんに泣いちゃうこと。そうすると泣き疲れちゃうみたいよ」

恭子「ガンコったら」

 

元子「で、話って何?」

恭子「うん。おうちの都合がついて体の方が大丈夫なら手伝ってほしいの」

元子「何を?」

恭子「六根のピンチヒッター」

元子「まさか六根…」

恭子「ううん、相変わらず順調は順調なんだけど、ここのところ、つわりがひどいみたいなの」

元子「まあ。それで私に白羽の矢を立てたってわけだ」

恭子「無理かなあ?」

元子「ううん、やってみる」

恭子「本当!?」

元子「六根のピンチヒッターだったら役に立ちたいし。それに当座の目的は気晴らしなんだし」

恭子「それじゃ、よろしくね」

元子「こちらこそ」

 

立花「やあ、しばらくだね」

元子「その節はいろいろとありがとうございました」すぐ立ち上がり頭を下げる。

立花「いやいや。まあまあお掛けなさい」

元子「はい、失礼します」

 

恭子「桂木さん…いえ、大原さん、引き受けてくれました」

喜代「そう、ありがとう」

元子「1年もマイクから離れてますので、お役に立てるかどうか分かりませんけれど」

喜代「それじゃ困るのよ」

元子「は?」

喜代「役に立ってくれなきゃ頼むことできないの」←さすが近藤女史!

元子「申し訳ありません。一生懸命やらせていただきます。よろしくお願いいたします」

立花「いや、大丈夫だよ。あの16期生なら1年ぐらい休んでたところで誰を連れてきたって度胸だけは大したもんだから」

元子「はい」

立花「ハハハハ…」

喜代「じゃあ、細かい打ち合わせは部屋の方でやりますけれど、この枠はとりあえず立山のぼるさんのピンチヒッターということでいいですね」

元子「はい」

立花「まあ、ストのあとで多少ガタガタしてるけれども、技術さんもほとんど知った顔ばっかりだから気楽にやれば大丈夫だ」

元子「はい」

 

大原家

正道「えっ、六根のピンチヒッター?」

元子「ええ」

正道「まあ、それはね、いろいろ世話になってるんだし、ほかならぬ六根の頼みならば」

元子「引き受けてもいいのね?」

正道「でも、体は大丈夫か?」

元子「体なら大丈夫。それに実はもう引き受けてきちゃった」

正道「えっ」

元子「ごめんなさい。でもピンチヒッターだからって気を抜かずに一生懸命やってみる」

正道「アハハ…それでいつなんだ?」

 

元子「うん、婦人の時間はね、月曜日から土曜日までなんだけど六根がやってたのは週に1回で明日がその分なの」

正道「じゃあ、今日は早く寝なきゃ駄目じゃないか」

元子「だって今日はゲラ刷りが上がってきた日でしょう」

正道「いや、校正ならね、僕がやるよ」

元子「駄目よ、そんなの」

正道「どうして?」

 

元子「どうしてって目が引っ込んでるわ。疲れてるのよ、正道さん」

正道「いや、大丈夫だよ」

元子「ううん。ここんとこずっと無理してるもの」

正道「ガンコ」

元子「前にね、何かで読んだことがあるわ。借金も財産のうちですってよ。そう思えば財産はいっぱいあるんだし、お父さんだって期限切って貸してくれたわけじゃないんですもの。無理をして体を壊したら何にもならないでしょう。だから校正の仕事は渡しません。それは私の仕事なんだもの」

正道「すまないな」

元子「それよりね、明日、私がとちらないようにここへおまじないして」

おでこを指さすと、正道がデコチュー。これナビ番組で見た。

 

1年ぶりのマイク。そう思うだけで元子の胸は不安と喜びが渦巻いていました。

 

そして、その明くる日のことです。

 

放送室

喜代「では、30秒前です。いいですね」

恭子「30秒前です」

 

元子の心の声「ああ、30秒前…!」

 

恭子「では、打ち合わせどおりまいりますので、お気を楽にお願いしますね」

女性「はい」←元子の他に和服女性が2人。

 

オープニングテーマが流れ

恭子「婦人の時間でございます」

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桂木家

ラジオ・恭子の声「…このように婦人の時間を全国の皆様から自分の時間のようだと感想をお寄せいただいております。さて今日は冬の健康について、お話を進めていきたいと思います。それでは今日の出演者の皆様をご紹介いたします。まず初めは日本橋区にお住まいの大原元子さんでございます…」

 

縫い物に夢中のトシ江たち。

トシ江「あっ、それちょいと待ってよ」

巳代子「えっ?」

トシ江「そこの返しはもっとギュッとしなくちゃ」

 

ラジオ・恭子「大原さんは先ほどから…」

 

キン「そこんとこがね、一番ほころびやすいとこなんですよ」

巳代子「はい」

 

ラジオ・元子「はい、先ほどからずっとこの菊の美しさに見とれておりました」

 

百合子「ねえ、あれ、もっちゃんの声じゃないの?」

トシ江「えっ?」

 

ラジオ・元子「…本当に平和になったのだなって、この菊を見て心からそう思いました。今日はよろしくお願いいたします」

 

キン「本当だ。今のは確かにお嬢の声でしたわ」

トシ江「だって今日、元子は正道さんの会社に品物届けに行ったんじゃないの?」

巳代子「そうよ。私が行ってあげるって言ったら、大事なもんだから自分で届けるって」

 

立ち上がったトシ江はラジオを消す。

キン「おかみさん」

トシ江「何だか分かんないんだけど、また河内山の耳にでも入って一騒動(しとそうどう)起きたら大変だから」

キン「あっ、本当だ」

 

モンパリ

絹子「へえ~、そんなにあがったの?」

元子「うん、あがったあがった。本番前の秒読み聞いてたら、もう、頭、カ~ッとなってるっていうのに膝頭がガクガク震えてるのが分かるんだもの」

洋三「まさか、ずぶの素人でもあるまいに」

元子「私もそう思ったのね。でも駄目だったの」

正道「いや、そんなことなかったよ。僕ね、しっかり聴いてたけど、ガンコもしっかりしゃべってた」

元子「うそ。喉カラカラだったんだから」

 

洋三「ガンコにしちゃ今日はえらく弱気だね」

元子「うん…感じをつかむためにね、ほかのスタジオを見学させてもらったのがいけなかったのよ」

絹子「どうして?」

元子「私たちの時は年中警報が出ていたせいもあったんだけど、しばらくお待ちくださいなんてのは年中のことだったし、前の番組が5分や6分流れ込んできたって、そこから始めていたのね。だけど今、ものすごい正確さなの」

正道「ふ~ん」

 

元子「ブルースが『皆様、さようなら』って言うのが1時59分35秒。10秒前に『NHK』って言って、きっかり2時5秒前に放送が終わるんだもの」

洋三「5秒前! へ~え」

元子「とにかく神業としか言いようがないけど、その間のプログラムだってね、もうとにかく1秒たがえず進行させていくんだから。もはや、私とブルースとでは格段の差がついてしまったというわけ」

正道「いや、だってブルースはさ、日曜以外、ずっと1年間続けてきたんだから」

元子「だけど、とにかく驚いたわ。私はそれでお疲れさまって言って帰ってきたんだけど、彼女はそのあと3本ぐらいの放送を…紹介放送を読まされるらしいのね。おまけに宿直はあるし、うちへ帰ればバタンキュー。それでいて満員電車の中であらゆる本を読むっていうんですもの。同期とはいえ、1年のブランクはどうしようもなかったわ」

 

洋三「うん、それで結論は?」

元子「うん…」

絹子「どうしたの、もっちゃんらしくもない」

元子「私、負けたとは思っていないわ」

洋三「そう、その調子、その調子」

元子「でもね、結婚してからというもの何もかも正道さんに頼りっぱなしで本当に申し訳ないと思ってるの」

正道「いや、そんなことはないよ」

元子「そうよね…。アナウンサーになるのは確かに私の夢だったし、とにかく命懸けで生きた時があったんですものね」

正道「そうだよ。要するに気張らしだったんだから。ね」←気晴らし?

元子「ええ」

 

正道「それじゃあ、また後でね。夜にまた感想言うからね」

元子「はい」

正道「どうもお邪魔しました」

洋三「ご苦労さま」

絹子「行ってらっしゃい」

元子「行ってらっしゃい」

 

洋三「え~、いいご亭主じゃないか」

絹子「ねえ」

洋三「え? わざわざこれ聴きに抜け出してきたんだぜ」

元子「あ~あ、今日は本当にショックだったけど、よ~しっていう気も起きてきたみたい」

洋三「ああ、そいつはよかった。それじゃね、あの、この冒険が河内山にばれないように叔父さん祈ってるよ」

元子「お願いします、フフ」

絹子「はい、それでは、これは叔母さんのおごりです」

元子「わぁ、すいません」

 

人生、時には足踏みすることもあります。要はその時、人間という器に何を蓄えるかということですね、元子さん。

 

つづく

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

もっちゃん、元気になってよかったなぁ。正道さんは優しいし。こんな優しい人この時代いないよ?と思うけど、「3人家族」の耕作さんは優しかった。終戦時31歳。

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そりゃ、ハルさん(菅井きんさん)も惚れますって。しかし、戦時中は鬼伍長と呼ばれ、殴ってばかりいたという話もしている。

 

意外と宗俊が出てこない日って珍しい。