公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)は「上方文化」の畑山編集長が行方不明になったという知らせを受ける。やがて畑山から町子に連絡が入るが、金策のため東京にいるらしい。なんとか力になってあげたいと思う町子…。一方、健次郎(國村隼)は笑楽亭米春(小島秀哉)の再検査を行い、胃にかいようができているので早く入院するよう伝える。だが、米春は来週独演会を控えていた。そして、「本当の病名を教えてほしい」と健次郎に詰め寄る…。
昨日の振り返り
仕事部屋
町子「え? 昨日から編集長と連絡取られへんて、あの畑山さんとですか? はい」
振り返りここまで
雑誌「上方文化」の編集部から慌てた様子で一本の電話がかかってきました。
ナレーションは微妙に違った。
台所から茶の間が見えるショット。町子と純子の背中から。
町子「畑山さん、どうしはったんやろ? 娘さんが言うにはね『おとといの晩から帰ってきてません』て」
純子「どこに行かれたんでしょうか…」
町子「今、あちこち捜してはるらしいです。ねえ、純子さん。もし本人から連絡があったら…」
純子「はい。すぐにお知らせします」
町子「はい」
そしてその日、診療所には…
診察室
米春「先生、この造影剤ちゅうの何ですのや? こんなまずいの飲んだん、私、初めてですわ」口の周りの白いのを拭う。
米三郎は米春にハンカチを差し出すが、気の毒そうな表情を浮かべる。
米春「お前までそんな顔せんでもええねや。セメント飲んだらこんなんやろな」
米三郎「私、まだセメント飲んだことおまへんね」
2人の様子を見ている鯛子が笑って見ている。
米春「当たり前や! 誰がすき好んでそんなもん飲むかいな!」
健次郎「そしたら今日の結果は、また次回にお知らせしますね」
米春「先生。私、何ぞ悪い病気でっしゃろか?」
健次郎「あ…まあ、あの詳しい検査の結果見てみましょう。あっ、それとね、次回おいでになる時は、どなたかご家族の方といらしてください」
米春「家族?」米三郎と顔を見合わせる。
健次郎「いや、あの…できたら奥様と…」
米春「あっ、嫁さん、3年前に亡くなりまして。いや、娘は東京で仕事してるんですけど」
健次郎「そうですか」
米春「あ…連絡取ってみます」
健次郎「お願いします。どうもじゃあ、お大事に」
米春「どうもおおきに」
鯛子「お大事に」
茶の間
電話をしている純子。電話は町子の仕事部屋にもあるけど、番号は同じなんだろうか?
純子「だけんね、すぐには帰れんとよ。いや、私にでん仕事があっと。え~っ!? そげなこと言ったと? おばちゃんにね。そら、おばちゃん腹も立つっさい。すぐ謝りに行ってこんね、ほんなこつ…。(町子が茶の間に来たのに気付く)あ…あのね、今、大事か仕事の電話ば待っとるったい。だから切んね。うん…分かった。ごめんね。うん。ほんじゃね。うん」
町子「九州のお父さんからですか?」
純子「すいません」
町子「何かあったんですか?」
純子「食事や家のことお願いしてる家政婦さんがいるんですけど、けんかしたらしいんですよ」
町子「けんか?」
純子「『二度と来るな。このおたんこなす』って」
町子「はあ」
純子「年取るとわがままが強くなるし口まで悪くなって…」
町子「お父さん、おいくつですの?」
純子「はい。え~っと81です。ああ…3人目なんですよ。また次の人探さなきゃ」
町子、コクコクうなずく。
純子「あ…すいません。こんなとこまでお電話してきて…」
町子「ううん。時々、お父さんの愚痴聞いてあげんと…。その家政婦さんて、いつから来てもろてはるんです?」
純子「目を悪くしたんで、ふたつき前ぐらいからなんです。亡くなった母にも厳しかったんです」
町子「九州男児やもんねえ」
純子「軍人気質が染みついてて…」
町子「あ、そうか…」
電話が鳴る。
純子「はい、もしもし、徳永です。畑山さん!? あ!」
町子「え?」
純子「はい、ちょっとお待ちくださいませ!」
町子「代わって、代わって! もしもし? もしもし、畑山さん? どうしてはるんですか? 帰ってきはったんですか? ねえ!」
夜、茶の間
健次郎「東京か…。金策やろな」
町子「『大丈夫や』言うてはったけども、さすがに声は疲れてた」
健次郎「うん…。毎月赤字は、つらいわな」
町子「頑張ってもどうしようもないってのが一番つらい。私たちは続けてほしいて勝手なこと言うてるけどね」
健次郎「うん」
町子「あ~、何ともならへんもんなんかな…。ねえ、どうしたん?」
健次郎「うん?」
町子「何かあったの?」
健次郎「うん…。まっ、こっちもいろいろとな」
町子「ふ~ん」
その翌日です。
診察室
レントゲンを見ている健次郎。
鯛子「笑楽亭米春さんの結果、出たんですね」
健次郎「うん」
検査結果
手書きの数値はほとんど基準値以上。一個一個書こうかと思ったけど、さすがに面倒だった(^-^;
鯛子「がんですか?」
健次郎「だいぶ進んでるな」
米春が椅子に座り、米三郎が脇につく。米三郎を見る健次郎。
米春「あ…娘、どないしても都合がつかしまへんなんだもんで」
健次郎「あっ、そうですか」
米春「はい」
健次郎「はい…」
立ち上がり、レントゲンを指す健次郎。「胃のね、この部分なんですが潰瘍ができてます」
米春「胃潰瘍っちゅうやつでっか?」
健次郎「はい」
健次郎の顔を見る鯛子。
健次郎「このままほうっておいたら出血したり、もっともっと痛みが激しくなったりします。入院されて治療が必要ですね」
米春「入院?」
健次郎「はい」
米春「すぐにですか?」
健次郎「早い方がいいですね」
米春「来週、あの、毎年やってるホールでの独演会があります。それが済まな入院でけしまへんのやけどなあ」
健次郎「う~ん…来週ですか?」
米春「遅おますか?」
健次郎「まあ、できるかぎり早い方がいいんですけどね」
米春「さようか。分かりました。ほな」
健次郎「はい。あ…あのお薬とそれと病院への紹介状書きますので受付の方でちょっと待っててください」
米春「どうもおおきに。ありがとうございます」
健次郎「いえ」
待合室で待つ米春と米三郎。
米三郎「私の叔父がね、胃潰瘍になった時に手術せんと薬で治したんですわ。まあ、辛いもんの好きなおっさんでしてね、うどん食べんのかてトンガラシ真っ赤になるまでかけて食べるんですわ。それでとうとう胃壊してしまいましてね。けったいなおっさんですわ」
夜、北天満商店街
歩道には中華そばの屋台が出てたり、電話ボックスがあったり(前からあったか)。
そして、その翌日
受付でペン?をプラプラしてるヤブちゃん。
健次郎「もう終わりかな?」
藪下「そうですね」
これは恥ずかしい!
米春が入ってくる。
健次郎「あ…」
米春「おしまいでっしゃろか?」
健次郎「いえ」
米春「ちょっと先生、お時間よろしおすかいな?」
健次郎「はい」
診察室
米春「ほんまのこと言うたってもらえませんか? 胃潰瘍やなんて言わんと、ほんまの病名を教えてもらえまへんか?」
健次郎「いえ、胃潰瘍です。昨日、ご説明したとおり」
米春「うそやな」
健次郎、机に向かう。
米春「先生、私らね、言うたらなんですけど人を見る商売してますわな。空気読むの仕事みたいなもんです。芸人は舞台上がったら誰も助けてくれしまへん。先生、私ね、ここ半年ほどこのぐらいやなと思てやってたら、お客の反応がこれまでとは違てる。ああ、劇場の隅まで届いてないんやなあって感じとりました。いえ、自分の体に何かが起こってるなあって分かってましたんや。そこを米三郎のやつ気ぃ付いてたんでしょう。『病院行け』てやいやい言いよりますね。先生、『らくだ』って噺、知ってはりますか?」
健次郎「『らくだ』ですか?」
「らくだ」って何か聞いたことがあるなと思ったら、それを元にした映画を観たことがありました。ブラックコメディな話です。
米春「1時間を超える大ネタです。独演会で私、それやりますねん。この不安を抱えて、1人で2,000人からの客、相手にせななりまへん。ほんまのことを言うてやってください。そうしてもらわんと腹から声出されしまへん。私…がんやあらしまへんのか?」
米春の真剣な様子に健次郎は正面に向き直す。
健次郎「胃に腫瘍ができてます。それもかなり大きい。詳しく調べるためには設備の整った病院で検査をして、場合によったらすぐに手術の必要があります。私は胃がんを疑ってます」
米春「病院へ行ったら治るもんでっしゃろか?」
健次郎「万全を尽くす態勢整えさせてもらいます」
米春「噺家ちゅうのはサラリーマンと違て引き際が難しい。自分でどないして決めたもんやろかとず~っと考えておりましたけども、その心配もあらへんみたいですな。こっちで決めんかて、あっちから来てくれはった」席を立つ。「おおきに。ありがとうございました」
健次郎「いえ」
米春「ほんまのこと言うてもろて…よかった。高座へ上がる時は一回一回が『これっきりや』言い聞かせてきましたけども、今回は心底、そない思て上がることができます。先生、おおきに」
健次郎「いえ」米春が診察室を出ていくと、ため息。
待合室
かばんを抱えた米三郎が座っていた。
米春「ああ…」
米三郎、米春に笑いかける。
米春「お前、来てたのか…」
米三郎「もう看板みたいですね」
米春「アホ! 病院に看板ちゅうやつがあるかい!」
2人で笑う。
茶の間
寝転がっている健次郎。言う方も辛いね。
仕事部屋
町子もまた掃き出し窓から外を見ている。
それぞれに大きな気がかりを抱えている町子と健次郎でした。
ミニ予告
頭を下げる純子。
「マー姉ちゃん」終盤の山場は町子が胃潰瘍で手術するという出来事がありました。マチ子の場合、検査すら恐れていたので家族は病名を隠し通しました。ドラマ内でもがんとは言わず胃潰瘍で通していたけどね。
この時代、家族に告知しても本人に告知するパターンは少なかったんだろうな。