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【連続テレビ小説】芋たこなんきん(108)「カーテンコール」

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

町子(藤山直美)の秘書・純子(いしだあゆみ)の父がボヤを起こしかけたという。福岡で独りで暮らしているが目が悪く、家政婦とケンカして新しい家政婦が見つかる前の出来事だった。町子と健次郎(國村隼)は、純子に父のところへしばらく行ってあげるよう促すが、純子は…。また、「上方文化」の支援パーティーの成果が上がらず、畑山(平泉成)の娘の結婚が間近であることを知った町子は、畑山に援助をしようと試みるが…。

台所

パジャマ姿で牛乳を飲む健次郎。「ああ…。あっ、お先」

町子「今、池内さんから電話があってね『今週の週末パーティーします』て」

健次郎「パーティー?」

町子「うん。雑誌『上方文化』支援をお願いする集まり」

健次郎「ああ、なるほど」

 

町子「池内さんね、いろんな人に協力呼びかけてくれはったので、私も行ってきますね」

健次郎「うん。なんとかなったらええな」

町子「なんとかしたいよ、ちょっとでも!」

 

しかし、思うような成果はあがりませんでした。

 

たこ芳

みすず「しょうないよ。急やったんやもん」

町子「うん。けど、このままやったら…」

みすず「廃刊」

顔を見合わせてうなずき合う。

 

みすず「そんなん絶対あかんわ! あんな伝統のある、ええ雑誌が…」

町子「うん」

みすず「大阪の文化の一大事や!」

 

夜、茶の間

町子「畑山さん、これから先どないしはるつもりやろか…」

健次郎「うん…気の毒やな。けどまあ、体さえ健康やったらいつかまた立ち上がれる。命まで持っていかれるわけじゃないから」

町子「そやけどね、亡くなった奥さんと大事に育ててきた雑誌がなくなるのは命持っていかれるぐらいつらいのと違うやろか?」

健次郎「そんなことはない。命より大事なもんなんかあらへん」

町子、うなずく。「そやね…」

健次郎「そや」

 

その翌日でした。

 

茶の間

健次郎「何かあったん? 純子さん」

純子「はあ…。実家の父が…」

町子「福岡のお父さん?」健次郎と町子は食事中。お昼かな?

 

純子「今朝、朝ごはんの支度してたらボヤを起こしかけたそうなんです」

健次郎「え~!?」

町子「えっ!?」

健次郎「で、けがは?」

 

純子「あっ、ないそうです。近所の知り合いがたまたま訪ねてきて大ごとにはならなかったみたいで…」

健次郎「で、お父さんの様子は?」

純子「その直後は、まあショックを受けてるみたいだったそうなんですけど、今はもうケロッとしてるって…。後で電話でもかけてみます」

 

柱時計の時報

純子「あっ、すいません。お昼…」

町子「いえいえ、それはいいんですよ」

健次郎「あの、行ってあげたら?」

 

台所に移動した純子。「大丈夫です。気丈な父ですので」

健次郎「けど、心配でしょ?」

純子「あ、でも、夕方にはラジオ局の方が打ち合わせに見えますし…」

健次郎「いや、そんなもん何とでもなるがな」

純子「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 

町子「行ってあげてください。その方がいいわ」

健次郎「うん、そやで」

町子「お父さん一人やったら心細いでしょ」

 

純子「私…会うのがつらいんです」

町子「え?」

純子「家に帰る度に老いて小さくなっていく父を見るのが、正直つらいんです。戦後は造船会社に勤めてたんです。でも、現役を退いて母を亡くしてからは、ずっと一人で暮らしてますし…。目を悪くして外に出かけることも少なくなりました。あげくにこんなことに…」

町子「誰かて年いったらそうなるんですもん。しかたがないですわ」

純子「そうなんですけど…」

 

健次郎「第一線を退いてしもた父親の姿、見るいうのは娘としては、つらいもんなんやろね」

純子「そうなんです。フフフ…」

町子「娘にとって父親というのはいつまでも大きくて強い男であってほしいって…。私は純子さんの気持ち、よう分かりますわ」

 

応接間

花を飾っている純子。

 

診察室

新聞を読む健次郎。米春の記事を発見する。

 

昭和45年(1970年)11月23日 月曜日

上方・新発見

上方落語の看板

笑楽亭米春・独演会

今回の目玉は「らくだ

大ネタで、ホールの

お客様にお楽しみ頂きます

入場券は完売

 

「二千人のお客さん相手にしますんで毎回力が入りますが、お客様と私の間柄は野球みたいなもの。いいキャッチャーが受けてくださる。だからストライクがはいる。独演会ていうのもそんなところからやってるようなもので…とはいえ、高座にあがる時は一回一回がこれきりやと言い聞かせるようにしてきました」

 

仕事部屋

写真を見ている町子。「お父ちゃん…私、年取ったお父ちゃん見たかったなあ…」

 

純子「失礼します!」

町子「あっ、はい」

純子「あっ、あの、関西ラジオの方、予定どおり1時間後にお見えになるって電話がございました」

町子「ありがとうございました。ねえ、純子さん」

純子「はい」

 

町子「こっち大丈夫ですから行ってあげてください」

純子「先生…」

町子「純子さんの気持ちは分かるんですよ。けど、お父さん、純子さんの顔見たらほっとしはると思うんです。お父さんと会うて昔みたいに思いっきり甘えてあげてください。お父さん、必ず元気にならはりますから!」

純子は深々と頭を下げた。

 

応接間

町子「へえ。浄瑠璃はね、私、ちっちゃい時に祖父によう連れてってもろたんですよ。当時、道頓堀に竹本って小屋がありましてね。そうですか。番組で文楽の世界取り上げはるんですか」

向井「私が好きなもんで、ほとんど趣味なんですけど…。まあ、若い人にも興味持ってほしいと思いましてね」

町子「私なんかが案内役で大丈夫なんですか? そうかてもっと詳しい人いてはります。あっ、例えば、ほれあの『上方文化』の…」

向井「ああ、畑山さんですか?」

 

町子「ご存じですか?」

向井「たまたま僕の大学の先輩なんですわ。新入局員の頃、よう文楽のこと教えてもらいました」

町子「そうですか!」

向井「ちょっと前、畑山さんとお会いした時、上のお嬢さんが『もうすぐ結婚や』て、うれしそうに言うてはったんです」

町子「お嬢さんがですか?」

向井「確か…そうそう再来月ですわ」

町子「結婚…」

 

夜、応接間

テレビを見ている子供たち。

テレビ「♪花嫁は夜汽車にのってとついで…」

茶の間

健次郎「もし廃刊が近いんやったらつらいな…。娘さんの結婚式の日に畑山さん自分の大事な仕事手放してしもたあとかもしれんな…」

町子「健次郎さん…」

健次郎「うん?」

町子「私、何にもせんと見てるだけなんてでけへん…。黙って見てるだけやなんて私にはでけへんわ」

健次郎「うん」

 

町子「私が駆け出しの頃ね、何べん書いても厳しいことばっかり言わはって褒めてもろたことっていっぺんもなかったの…。私が書いた文章ね、いつもちゃ~んと丁寧に見て、で、ちゃ~んとアドバイスくれはるのよ」

健次郎「うん…そうか」

町子「私、その畑山さんにね『これは面白いなあ』て言わせたいと思てね、何回努力したか分からへんもん…」

健次郎「じゃあ、あんたには恩人なんや」

町子「『援助させてほしい』て言うたら、あかんかな?」

健次郎「あんたの思うようにしたらええ」

 

そして、翌日

 

仕事部屋

机の上に花岡町子名義の郵便貯金通帳を置く町子。

 

たこ芳

町子「すいません、お呼び立てして」

畑山「いやいや、ここね、来てみたかったんですよ。あ、それから、あの、パーティーの時はありがとうございました」

町子「いえ、もう何のお役にも立てずに」

畑山「いや、とんでもない! いや本当にうれしかったです。ありがとうございました!」

 

小さなかばんに手を入れる町子。「あの…」

 

りん「はい、どうぞ」

畑山「あ~、来た来た! いや、おいしそうですね! 頂きます」

町子「あ、どうぞ…」

畑山「じゃあ、このままですかね…。うまい! うまいですねえ! あ、そうだ。お目にかかったらね、是非言おうと思ってたんですけど、池内幸三さんってのは次から次へと面白い仕事してますね! 小説だけじゃなく、テレビの司会も上手なんでびっくりしました!」

 

町子「その後いかがなんですか?」

畑山「ええ、まあね、西に東に飛び回ってます。まあ、なんとかなるでしょ。今までだってなってきたんですから。なんとかしないとね。ハハハハ! しかし、ここの関東煮き、ほんとにうまいですねえ! まっ、いろいろとね、エッセーに出てたもんですから、一度来たいと思ってたんですよ。うん」

 

町子「あの~…」

 

畑山「あ、すいませんが、ちょっとスジとね、え~、チクワ下さい」

りん「あ、はい」

畑山「僕ね、東京のちくわぶも好きなんですよ。関西ではちょっと見かけませんけどね」

 

町子「あの、畑山さん…」

 

畑山「あ、そうだ! こないだの『文学散歩 近松編』ありがとうございました」

町子「いえ」

畑山「いや、すごく面白かったです」

町子「いえ、もうあれは何か欲張りすぎましてね、反対に中途半端になってしもたなと思て、私もう、反省してたんです」

畑山「いやいや、そんな…」

 

町子「あ…」

 

畑山「あ、すいません。あの、これ、お代わり」

りん「ああ、はい」

畑山「お願いします。あ、そうだ。笑楽亭米春さんのね、独演会あるんですよ。いかがですか?」

町子「私、とても時間がのうて…」

 

畑山「あ、そうですよねえ」

町子「はい…」

畑山「いや、残念だなあ。『らくだ』やるんですよ。米春さんも楽しみなんですがね、僕、あの一番弟子の米三郎ってのが楽しみでねえ!」

町子「私も『らくだ』大好きなんです。あの死人にカンカン踊りさせるとこなんか面白くて、もうたまりませんもんね」

畑山「今度はね、どんな『らくだ』になるのか楽しみだなあ」

 

店に結婚式帰りと思しき若い男性二人連れが入ってくる。

りん「あっ、いらっしゃい!」

客1「どうも。ビール下さい」

りん「あ、はい」

客2「今日は、ええ式やったな」

客1「ああ。花束贈呈の時、さすがに吉村部長泣いてはったな」

客2「そら~、かわいい一人娘やからなあ。俺もほろっときたわ」

 

畑山の表情を伺う町子。

 

茶の間

町子「言いだされへんかってん…」

健次郎「そうか」

町子「いや、違うのよ。こんなこと言うたら失礼かなと思たりとかね、いや、そんなこと言うてたらあかんわ、ちゃんと言わなあかんわとか思たりとかでね。うん。で、もう、結局言いだされへんかった…。畑山さんもね、その話、させてくれはらへんかったし」

健次郎「ふ~ん。そうか…。あっ、あの純子さんからな『もう一日泊まりますから』言うて連絡あったわ」

町子「あ~、そう。ゆっくりしてきはったらええね」

健次郎「うん。やっぱり娘にとって父親は特別なんかな?」

 

町子「そら生まれて初めて見る男の人やもんね。私もね、お父ちゃんのことず~っと大好きやった。純子さんもきっとそう思う。そやから由利子ちゃんも亜紀ちゃんも多分そう。父親のことをね、ず~っと好きでいられる娘というのは、どんなお金持ちよりどんな大きなおうちに住むより幸せなんと違うかな」

健次郎「そんなもんかいな」

町子「大事な娘さんの結婚式やのにねえ…」

健次郎「うん…」

町子「ありがとう…」

 

いつになく無口に飲んでいる2人の夜は静かに更けていきました。

 

ミニ予告

マイクを持って歌う亜紀ちゃん。

 

今週が今までで一番シリアスな週という感じがするな。純子と父、米春と娘、畑山と娘…いろんな形の父と娘が出てきますね。明日どう納めるのか。