徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】岸辺のアルバム 第4話

1977/07/15 TBS

 

あらすじ

東京郊外の多摩川沿いに住む中流家庭。一見すると幸せそうに見える家族4人。しかし、実はそれぞれが問題を抱えていた。母・則子(八千草薫)は良妻賢母型の専業主婦。だが、見知らぬ男から電話がかかってくるようになる。はじめは知らん顔をするも、やがてその男と会うようになり…。父・謙作(杉浦直樹)は有名大学出の商社マン。しかし、実のところ会社は倒産寸前の状態だった…。娘・律子(中田喜子)は大学生。なかなかの秀才で大学も簡単に合格したはずだったが、ここ一年は家族に対して心を閉ざしている。やがて、アメリカ人男性と交際するようになるのだが…。息子・繁(国広富之)は大学受験を控えた高校生。決して勉強のできる方ではないが、心の優しい性格の青年だ。だが、両親や姉の異変に気付き、思い悩むことに…。

 

第4話

則子(八千草薫)はデートを重ねるうちに北川(竹脇無我)の存在が大きくなっていることを感じていた。そんなある日のデートで、北川は則子に「浮気の提案」をする。

2022.7.27 日本映画専門チャンネル録画。

Will You Dance?

Will You Dance?

peachredrum.hateblo.jp

先週から楽しみ過ぎて、リアルタイム(?と言っていいのか)水曜の夜21時から見ています。ドラマ中、CMが入らないのもありがたい。

 

いつもオープニングを見て思うけど、当時の多摩川水害の映像が流れるの今はできないだろうな。朝ドラでも戦争を扱わない作品では災害を機にヒロインと相手の距離が縮まるさまを描いていたけど、それも今は無理だろうな。

 

でも、その配慮は、いいと思います。血のにじむような思いで建てたマイホームが流される映像を何回もテレビで見たくないよ。「岸辺のアルバム」以前に「アナザーストーリーズ」で実際家が流れた家族を取材したのを見たからかも。一つの家族は息子さんがもう一度同じ場所に家を建て、もう一つの家族は別の場所に住んでいた。

 

LARKのロゴの入った白TシャツとGパン姿の繁は、則子と会っていた男性のことをそれとなく尋ねようと自室で練習してから、廊下の拭き掃除をしている則子に「ある人がお母さんを渋谷で見た」という話をした。

 

「誰なの? そんなこと言う人」と則子も返す。則子はバケツの水をお風呂の残り湯に換え、風呂場で雑巾を洗っている。その間も繁の追及は続く。

 

則子は中学の時の同級生にバッタリ会ったといい、「誘われれば喫茶店ぐらい断るのも変だし懐かしかったし」と笑顔で話す。電話もその人なんだねと納得した?繁。

 

則子と繁が昼食をとっている。則子は改めて、その人とは何度か会ってる、やましいことは何もない、いい人で話題も豊富で勉強になる。電話でも時々、本のことなんか聞いたと言い、「お母さん、そういうつきあいもしちゃいけないかしら」と問う。

 

いけなくないと繁は答えるが、(男性と会っていることを知ったら)お父さんはいい気持ちしないでしょうねと、変に誤解されるのもイヤだからと繁に口止めする。律子にイヤミを言われるのもしゃくだし、黙ってお母さんを信用してほっておいてほしいという則子。繁は誰にも言わない、僕はいいと思うよとも笑顔で言った。

 

時枝の入院する病院に行った則子。お見舞いというより進捗状況を話す感じ? 「狭いもんねえ、東京も」ともうバレたことに驚く時枝。子供に聞かれたのが嫌でもうよそうかしらという則子。やめてうちの中に閉じこもってるなんて全然意味ない、かわりたいくらいだという時枝。

 

「相手が何者か突き止めないのはよくないわよ」という時枝。ウイークデーの昼間、人妻と会ってるなんて勤め人なら随分おかしいし、どこに住んでるかも聞かないなんて人がよすぎる。聞かれなくたって言うのが当たり前、怪しいわよ、その男と畳みかける時枝に前に言われた「主婦売春のヒモ?」という則子。北川に会っているときもその会話を思い出し、吹き出してしまう則子。

 

茶店

則子「フッ…」

北川「は?」

則子「ううん、ごめんなさい」

 

北川「どこか妙ですか?」

則子「そうじゃないの、思い出し笑い」

北川「あっ…あっ、どうぞ」シュガーポットをすすめる。

 

則子「なんか私、こういうふうに…どうぞ」

北川「あっ」

則子「あなたのことなんにも知らないで聞かないで、ただ時々会って音楽とか絵とか日常生活に関係のないことばかりお話しするっていうのが、とてもいいような気がしてたんですけど」

北川「私の正体ですか?」

 

則子「バレると困る?」

北川「ええ、困りますね」

則子「ホントに?」

北川「大きな声じゃ言えませんが、宝石泥棒、誘拐、恐喝、詐欺などというのが主な仕事でしてね」

2人の笑い声。真面目な顔して言うのが面白い。

 

則子「副業は?」

北川「ええ。レコード会社の制作第1課といいましてね、クラシックレコードを作ってるんです」

則子「音楽にお詳しいわけだわ」

北川「好きなんです。仕事熱心では全くない。課長代理ですが、あまり用がない」

 

則子「それで課長代理にどうしてなれますか?」

北川「どうしてでしょう、ハハハ…」

則子「ホントにこんな時間にいいんですか、お仕事」

北川「ええ、口実がありましてね、1~2時間出歩くのは自由なんです」

則子「羨ましいみたい」

 

北川「出世はしませんが、それを承知なら気楽な仕事です」

則子「見当がつかなかったわ」

北川「秘密にしておきたかったな」

則子「どうして?」

 

北川「ええ、人間の底が浅いんで秘密があった方がいいんです」

則子「ご家族もおうちも伺ってないわ」

北川「せめてそれを秘密にしましょう」

則子「フッ…」

北川「ハッ…今度は私が聞く番です」

 

則子「なんですか?」

北川「さっきは何を思い出して笑ったんです?」

則子「フッ…」

北川「ご主人のこと?」

 

則子「いいえ、あなたのこと」

北川「僕の?」

則子「あなたのお仕事を知らなかったでしょ?」

北川「ええ」

 

則子「なんだろうっていろいろに考えて」

北川「なんですか?」

則子「宝石泥棒」

北川「ハハ、じゃあ当たったわけだ」

 

則子「ケーリー・グラントみたいに猫のように屋根に上って」

北川「僕が?」

則子「そう、そんなふうに想像したんです」

北川「ハハ、光栄だな」

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ケ―リー・グラント、猫…「泥棒成金」かな? 昔の作品を見ていて、知ってる作品が出てくるのはうれしい。

 

則子「ところが、フッ」

北川「なんです?」

則子「ドボンてプールに落ちちゃうんです。フフフッ」

北川「ハハ、ひどいな」

則子「フフ…」

北川「ハハ…」

 

敏子の部屋

敏子に洋モノのAV?8ミリフィルム?を見せられている律子。律子の反応を伺う敏子。どう?と感想を聞かれた律子は「まあまあってとこね」と強がる。

 

無理してる、と笑う敏子は私を利用してくれていい、あなたが持ってないものを持っていて、知らないことを知ってる、その代わりバカみたいな連中とは付き合わないでほしい、翻訳研究会なんてやめてもらいたいという。

 

部屋にあった本を広げると女性のヌード写真集。本を閉じてソファに座る律子。

敏子「私の友達が大学のバカ連中と一緒に英語の勉強なんかしてるのイヤなの」

律子「あなたの専用になれっていうの?」

敏子「ウフッ、そうなの」

 

敏子は木の箱を差し出し、のまない?と誘う。マリファナ?と聞く律子。敏子はただのタバコだと笑い、律子は向こうっ気は強いけど、案外臆病だという。そして、大学の連中とは溶け込まないけど、選んだあなたとだけつきあいたいという。

 

タバコといっても結構長さのある巻きたばこ? 茶色くて細長い。敏子は律子のくわえたタバコに火をつけ、英語を教えるという。タバコにせき込む律子を笑う敏子。

 

田島家

繁が料理をしている。山田太一さんのドラマには度々料理をする若い男性が出てくるなあ。本を見ながら茶わん蒸しを作っていて、帰ってきた律子に「下煮か下ゆでをしろ」といってもどれを下煮してどれを下ゆでするか分からないという。

 

則子はデパートで買い物中。たるんでると受験に落ちるという律子に「姉さんが作ってみろ」という繁。律子は、こんな暑い日に何で茶わん蒸しなのか質問する。則子が大阪寿司を買ってくるからだという。

 

律子「そんならおつゆでも作ればいいわよ。男がはしゃいで茶わん蒸しだなんて」

なーんて言うもんだから、すねてしまい、やめると箸を投げ出した。あと姉さんが作れよなというのも乱暴だなあ。

 

父が珍しく6時半に帰る、夕飯をうちで食べるというから、大阪寿司だけじゃつまらないと思って気を聞かせて作った。謙作からの電話を受けたのは繁で則子は謙作が早く帰ってくることは知らないから、寿司屋に握りを頼んだ。1人前じゃ持ってこないと言われて2人前。律子は、お父さんなんかビールを冷やしときゃいい、茶わん蒸しなんか喜ばないと部屋に戻った。

 

則子が帰ってきて台所に立つ。律子が作った茶わん蒸しは味が濃いから薄めていたら量が増えて一人分が丼サイズになってしまった。毎日「芋たこなんきん」で手際のいい料理上手な人ばかり出てくるので料理が不得手な人が出てくると、ちょっと安心する。

 

茶わん蒸しなんて特殊だという律子。カレーくらいしか作れないくせにとからかう繁。帰ってきた謙作はリビングで一人新聞を読みながらビールを飲んでいた。昔のお父さんはどこもこんな感じだね。

 

食卓についたものの機嫌の悪い謙作。繁がとった寿司が近所の福寿司の特上2人前2,400円と知った則子は中寿司以上とったことないといい、配達してくれなきゃ取りに行けばいいと謙作は怒り始めた。

 

則子が買ってきたのは大阪寿司。繁のとったのは江戸前寿司

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寿司なんか食べたくない、お茶漬けでたくさん、夕飯のたんびに2,000円も3,000円も使うなという謙作に、今まで明るく振る舞っていた繁も怒りだす。則子はいつも200円も使っていないと反論。

 

繁「とにかく気まぐれで帰ってきてそんな文句言われちゃ」

謙作「気まぐれとはなんだ! 気まぐれとは。人が気まぐれで働いてると思ってるのか」とさらにヒートアップするので家族ドン引き。繁も律子も怒り出す。

律子「たくさんだわ、もう。お寿司ぐらいのことでいじましいったらありゃしない!」

下を向いてしまう則子。

 

それぞれ一人で過ごす家族。律子はタバコを吸ってせき込み、クッションで顔をうずめて音がしないようにした。

 

寝室で謙作の仕事のことを聞く則子。謙作は疲れたと言って話をしようとしない。

 

会議室

タバコモクモク。謙作は部下の中田から目の敵にしていると責められる。中田は繊維機械メーカーが苦しいため、いい時代が来るまで繊維機械以外の機械を作ることでしのいでもらおうと思っている。

 

岸田工業が戦争中に小銃の銃身を作っていて、自衛隊へ納める小銃の発注が取れそうだというニュースを聞き、小銃の銃身の発注をもう一押しで取ってやるとこまで来たのを部長(謙作)に「武器には手を出すな」と止められた。

 

どうしてポルノの自動販売機ならよくて武器はいけないのか。部長の判断の基準が分からない。私が出す提案が1つ1つ潰されていくから、みんなの判断を仰ぎたいと中田が言う。

 

中田「なぜ武器はいけないんですか? こんなシビアな情勢の中でこんないい仕事をなぜ捨てなければいけないのか訳が分からないんです」

謙作「岸田工業の社長に武器を作らせたくない」

中田「なぜです?」

謙作「戦争で先代が2人も息子を亡くしてる。『二度と武器は作らん』と言っていたんだ」

中田「その三男が『よろしく頼む』と言ってんですよ。問題ないじゃありませんか」

謙作「問題はある。俺がイヤなんだ」

中田「ムチャクチャを言わないでください。商売に個人的感慨などは入れないでください」

謙作「個人的感慨を入れるぞ。ギリギリの個人的感慨は入れるぞ!」

 

謙作はふとんの中で思い出し、眠れない。

 

茶店

北川「もちろん『菩提樹』が『冬の旅』の中の1曲だということはご存じでしょうが」

則子「ええ」

菩提樹(シューベルト)

菩提樹(シューベルト)

  • ディディエ・ブーチュール, ハルモニア・ノヴァ室内合奏団 & パトリック・ガロワ
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やかんに水を汲みながら北川との会話を思い出している則子。

 

北川「ここへおいで 友よ

ここに安らぎがある

そう『菩提樹』が言っているという歌なんですね」

 

食事の支度をする則子。まだ寝ている謙作。やかんのお湯をポットにあける。

 

北川「ここへおいで 友よ

ここに安らぎがある」

 

街並み。ロケ地を調べると狛江駅前らしい? サーティーワンがあって、右隣は本屋で左隣は何の店かな? そのまた隣は久保田医院。

 

サーティーワンの店内で話している繁と信彦。アイスを食べながら、信彦は俺のおふくろが時々男と会って話をしてると知ったらやだなと繁に話す。繁もイヤだけど、会ってしゃべるのもいけないと言えないという。

 

そこに現れたのは雅江。声をかけるが、信彦は固まってしまう。雅江さんのファッションがおしゃれ。私のこと待ち伏せしてたんでしょと少々カンチガイ気味? この先に塾があるという繁。大きな声で「あんたのこと好きなんだもん」という雅江。信彦はたまらず出ていった。追いかけた繁を止めた雅江は喫茶店へ連れていく。

 

繁に声をかけたのは訳があるというが、その訳を言わない。

雅江「私『哀愁』っていうの」

繁「哀愁?」

雅江「哀愁のある顔してるでしょ。だから『哀愁』っていうのよ」

繁「へえ」

雅江「『哀愁』って呼んで」

何なんだ、雅江さん。

 

体を近づけ、私の匂いと感触覚えた?とぐいぐい迫る。もう触らないけど、私のことが忘れられなくなるという。そして、繁に帰れと…何か目的があるのかな。

 

田島家

出かけようと玄関を出た則子がゴミ箱を持って歩く。ぼんやりとピンボケした映像で何を表したかったのだろう。

 

茶店

北川「同伴喫茶へ行ったことはありますか?」

則子「同伴喫茶?」

北川「ええ、行ったことはありますか?」

則子「いいえ」

 

北川「僕もありません。ものすごいと言われてるような雰囲気はほとんど知りません」

則子「そんなに…」

北川「は?」

則子「すごいんですか?」

北川「さあ? 週刊誌の知識です」

則子「じゃあね」

 

北川「ええ、しかし、それにしても東京にいながら、そういう風俗とほとんど縁がありません。同伴喫茶なんていうのは新しくもなんでもないんでしょうが、それさえほとんど知らない」

則子「どうしてかしら。まだお若いのに」

北川「ハッ…白状しますが、これでも結婚して10年になるんです」

則子「そうですか」

 

田島則子は小説では39歳、ドラマでは42歳。当時の八千草薫さんは46歳(1931(昭和6)年生まれ)。北川役の竹脇無我さんは1944(昭和19)年生まれだから、意外と年の差あるね。役年齢も30代半ばといったところか。

 

北川ですと自ら名乗ったり、レコード会社勤務、結婚して10年などわりとポロポロしゃべってるね。しかしあんた、いくらイケボで丁寧な言葉遣いでも結婚して10年なのか! そんな人がよく人妻に堂々と声をかけるもんだ。

 

北川「所帯を持つと、だんだん新しい風俗から遠くなります。どうでしょう」

則子「え?」

北川「信用してもらえるかな?」

則子「は?」

北川「一緒に行ってみませんか? こればかりは1人じゃ行けません」

則子「ハッ…」笑う。

 

同伴喫茶

仕切りの高いボックス席でそれぞれ楽しむ??

並んで座っている則子と北川。動揺した則子は水を飲んでいたコップをこぼしそうになり、慌てる。

 

それを時枝に話して笑われる。ちょっとのぞいてみたい気もしたと話す則子。

時枝「その人、何かした?」

則子「なんにも」

時枝「手も握らない?」

則子「だって初めっから、そんなつもりじゃないもん」

 

正直言うと何かされるかしらと思ったけど、コーヒーを飲んだだけ。でもそういう人じゃない。

時枝「病気なのかしら?」

則子「そうじゃなくて、ものすごく真面目な人なんじゃないかなって思うけど」

下手に急ぐとパッと逃げそうだから慎重なのだと時枝は言う。今度会ったら連れ込みを見学しませんか? 連れ込んで鍵をかけて急にオオカミに変わると時枝は言い、笑う。

 

ゴルフのうちっぱなしに行った北川と則子。則子の姿を後ろから見ている北川。ネクタイの結び目がいつも大きい。

 

チークダンスを踊る則子は北川の足を踏んでしまう。

北川「あっ」

則子「ごめんなさい。おかげさまで思いがけない経験したわ」

北川「いいえ」

則子「赤坂のクラブなんてホントに初めてなんですもの」

 

北川「ご主人、ストイックなんですね」

則子「そうじゃないの。実質本位で雰囲気なんかどうでもいいんです。フフ…」

北川「たくましいんだな」

則子「豚の足がおいしい店とか汚いけどおいしいお寿司だとか」

2人で笑う。

 

謙作は取引先と接待中。

 

北川「帰らなくちゃいけませんね」

則子「ええ、そろそろ」

北川「今なら10時半にはお宅に着くでしょう」

則子「ええ、ありがとうございました」

 

北川「こちらこそ」

則子「主人はどうせ12時すぎでしょうけど」

北川「無理はしないほうがいいでしょう」

則子「ええ。あのここのお勘定、半分持たせてください」

 

北川「いいんです」

則子「ええ」

北川「恩に着せたりはしません」

則子「でも半分ずつのほうがいいわ」

 

北川「じゃあそうしましょう」

則子「とりあえず…」

北川「いえ、いいんです。今度お目にかかったとき請求します」

則子「ええ」

 

北川「じゃあ、飲み干して」

則子「ええ」

北川「中学の同窓会でしたっけ?」

則子、うなずく。

北川「同窓生に乾杯」

 

電車に乗っている則子。北川との会話を思い出す。

北川「同じ駅だから一緒に帰りたいところですが、ひと電車ずらします」

則子「ええ」

北川「やましいことはないにしても一緒にいるところはなるべく見られないほうがいいでしょう」

則子「ええ」

北川「楽しかった」

則子「私も。こういう関係ってあんまりないんじゃないかしら。主婦がよそのご主人と割り切って変な関係にならないで、時々会ってお話ししたり、ゴルフの練習をしたり、クラブで踊ってみたり、こういうの新しいんじゃないかしら。2人がしっかりしてなきゃできませんものね。そうじゃありません? あら、そうじゃありません?」

 

ドアチャイムが連発される。酔っ払った謙作がなだれ込んできた。タクシーから玄関に来られて、玄関からどうして布団まで行けないのかと則子は言う。

 

社長「武器がどうのこうのという時代じゃないだろう。結構じゃないか。むしろそういう注文を取り付けた中田君を褒めてやるべきじゃないのかね」

 

布団の上で転がして服を脱がせる則子。

 

社長に言われて、部下たちの前で前言を取り消して岸田工業に小銃の銃身を作らせる仕事を成立させてもらいたいと話す謙作。「会社の経営状態が必ずしもよくない。儲かる仕事を逃すことはない。それが会社の方針だ。頑張ってくれ」

 

自分の中では全く納得いってないんだろうな。謙作の表情は暗い。それを見ている絢子。

 

苦しそうな謙作に声をかける則子に「向こう行け」という。深夜1時過ぎ。私だって眠いわよというという則子に「ほっといてくれよ、ゴタゴタ文句言うな。向こう行けよ。うるさいんだ、お前は」と背中を向ける。

 

則子はダイニングで一人立ちつくし、鼻歌を歌いながら、そっとステップを踏む。夜中に起きた繁は階段から1人でステップを踏んでいる則子を見ていた。

 

渋谷駅

茶店

北川「反省を1つ申し上げていいですか?」

則子「ええ、何かしら」

北川「夜、会うというのは、やはりできるだけ避けたほうがいいと思ったんです」

うなずく則子。

 

北川「同窓会などという口実は何度も使えるもんじゃありませんし、奥さんとのつきあいで無理はしたくないんです。誰にも知られずになるべく長くおつきあいしたいんです。喫茶店を変えたのもそのためです。誰かに知られてお互いの家庭を壊すようなことはしたくないんです」

則子「同じ気持ちです」

北川「その上で1つ提案があるんです」

則子「提案?」

 

北川「ご返事はあとでいいんです。いや、あとのほうがいい。今日は聞くだけにしてください」

則子「何かしら」

北川「話をしたら私はお先に失礼します。少しあとからお帰りください」

則子「怖いわ、何かしら」

 

北川「並んでかけてもよろしいですか?」

則子「あっ、ええ」

北川「(雑誌をパラパラめくり)こんなもんでも見ていてください。浮気の提案です。お互いの家庭は決して壊さない。絶対に秘密は守る。深入りは絶対しない。一方が『やめたい』と言ったときは直ちにやめる。そういう浮気の提案です。電話します。あっ、よかったらこれ。じゃ、お先に」雑誌を手渡し帰っていく。

一人残った則子は、渡された雑誌を取り落とし、ゆっくり考える。

 

丁寧な浮気の提案。則子は受けてしまうのかー!?