公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
徳永家に、町子(藤山直美)の妹の孝子(メイサツキ)が、8歳のめいの良美(山崎奈々)を連れてやってくる。夫が盲腸の手術で入院し、子連れで病院と家との往復は大変なので、良美を2、3日預かってほしいという。町子は、健次郎(國村隼)の許しを得て、良美を預かることにする。しかし、良美は徳永家の生活スタイルと外れた振る舞いをし、また、食事の行儀の悪さに、孝子の子育ての姿が見え、町子は少し困惑を覚える。
仕事部屋
「楽天乙女」を本棚に並べていた町子が電話に出る。「はい、もしもし、徳永です。あ~、孝子? どうしたん? え? 『近所まで』てどういうこと? そやから私は、いて…ちょっと、孝子? ちょっ…。イラチやな、この子も」電話を切る。
純子「お電話すいません」
町子「いえ」
純子「どうかなさったんですか?」
町子「妹がね、子供連れてこっち来るて。近所まで来てるんですて。もう、あの子イラチやね。いつも急やねん。妹ね、早産なんですわ」
純子「妹さん」
町子「はあ」
純子「うわ~、かわいいお顔してらっしゃいますね!」
部屋に飾られている家族写真の町子と孝子の子供の頃の顔がクローズアップされる。
工藤酒店前
孝子「良美、はよ来なさい」
女の子が駆け寄る。
カウンターに座る俊平。「これやがな」
貞男「何で分かる!? あ、いらっしゃい!」
孝子「あっ、どうも。え~っと」
貞男「何かお探しですか?」
孝子「ええ。ちょっとね…」
俊平「お嬢ちゃん、この辺りの子か?」
良美「大阪市西区辺りの子」
子役町子と同じ子だけど、愛想は悪い。
孝子「じゃあ、これにしますわ」
貞男「あっ、はい。どうもおおきに!」
孝子「あ~、ちょっと待って!」
貞男「え?」
孝子「あの、こっちに」
貞男「あ、ああ…」
孝子「安いのでよろしですわ。あの2人、お酒なら何でもええな。うん」
貞男「ご進物ですか?」
孝子「無地熨斗お願いね」
貞男「はい、分かりました」
守「ただいま!」
貞男「あっ、お帰り!」
店に入ってきた守が良美にぶつかって、良美が床に手をつく。
孝子「ちょっと、良美! 大丈夫? ちょっ…立って、立って。立ちなさい。ケガしてない? もう~! 危ないわ、あの子! 女の子やのにな~!」
俊平「ケガしそうにあれへんけどな」
貞男「どうもお待たせしました」
孝子「あ…ありがとう」
貞男「おおきに」
孝子「行こか」俊平を一瞥して店を出ていく。
入れ代わりに一真来店。
貞男「おおきに」
俊平「あっ、ちょうどええとこ来た! なっ、ごえんさん、ごえんさん、今の人、どっかで見たことないかいな?」
一真「今の人て?」ぼんやりした様子。
俊平「いや、あの~…」
貞男「分かった! 町子さんの妹や!」
俊平「あっ、そや! そや、そや! 結婚式で会うたな」
貞雄「なっ、会うた、会うた」
俊平「あ~、そうか」
貞男「そや、そや」
一真「はあ…」
徳永家茶の間
町子「良美、大きなったなあ!」
笑顔を見せる良美。
町子「なあ、孝子、それでどうなん? 正彦さんの盲腸」
孝子「だから、家の近くの病院が評判悪いから、わざわざそこの市立病院に。あの人ね、そういうとこ神経質なんよ。もう、通う身になって言うてんのに」
町子「そういうこと言いなさんなって。市立病院やったら安心やないの」
純子「いらっしゃいませ」
孝子「あっ、どうも」
町子「えらいすみません」
孝子「すいません」
お茶とカステラを運んで来た純子が良美の顔や町子の顔を見る。
町子「何か?」
純子「先生のお小さい頃に似てらっしゃいますね」
町子「この子ね、ちっちゃい時から母親よりも私に似てる似てるて言われてるんですよ」
孝子「すいません」
純子「うわ~、何か不思議です。本の中の孝子さんが目の前にいらっしゃるなんて!」
町子「すいません。ねっ、ねっ、送ったでしょ? ねえ、『楽天乙女』どやった?」
孝子「あ~、まだね、読めてないねん。時間のうて」
町子「はよ読んで感想聞かせてね」
孝子「うん」
町子「えらいすいません。こっちでやります。あんた、手伝いなさいよ」
孝子「はい、すいません」
純子「それではどうぞごゆっくり」
孝子「ありがとうございます」
町子「お手数かけてすんませんね。『手伝いなさい』て言うてんのに。良美ちゃん、カステラ食べなさい」
良美「ねえねえ、伯母ちゃん」
町子「うん?」
良美「伯母ちゃんとこ、お手伝いさんいてんの? お金持ちやねんね?」
町子「お金持ちと違うよ。あの人はね、伯母ちゃんの秘書」
良美「秘書?」
町子「うん」
良美「かっこいい!」
町子「『かっこいい』て…。あんた、ちっちゃいのにはやりの言葉遣うの?」
孝子「ふん…」
町子「『ふん』やあらへん、孝子」
孝子「うん?」
町子「あんたが言葉遣い悪いさかいに何でもかんでも影響受けて面白がって遣うんでしょ」
孝子「ええやないの、別にそれぐらい」
町子「ええことあらへんやないの。『正しい言葉遣いなさい』て、お姉ちゃん何べんあんたに注意したと思てんの?」
孝子「私は私のやり方があるんです」
町子「そういう問題と…」
健次郎「いらっしゃい!」
孝子「あ…お久しぶりです。こんにちは」
健次郎「こんにちは」
孝子「ご挨拶は?」
良美「こんにちは!」
健次郎「はい、こんにちは。覚えてるか? 僕のこと」
良美「うん、カモカのおっちゃん!」
孝子「ちょっと!」
良美「ママ、言うてたやんか!」
健次郎「かまへん、かまへん」
孝子「あっ、そろそろ行かなあかん、私」
町子「あっ、そや、主人の正彦さんね、盲腸で入院したって」
健次郎「え? そら大変やな。けどな、あの盲腸やったら、そんなに気にすることないで」
孝子「ええ。それであの…。実はちょっとお願いがあるんです」
町子「え?」
孝子「よいしょ」健次郎と町子の前に一升瓶を包んだものを差し出す。
町子「は?」
玄関
孝子「そしたらすいません。お願いします」
町子「正彦さんによろしゅう言うといてね」
孝子「うん。おとなしいしてんねんで」
良美「うん」
孝子「ほなね」玄関を出ていく。
町子「手土産持ってきたからね、『こらちょっと怪しいな』と私、思てたんやけれどもね」
健次郎「ハハハハハ。けど、あれやで、子供連れて家と病院の往復てそら大変やて」
町子「うん」
廊下
健次郎「あれ? 学校は?」
町子「今日、土曜日。で、日曜日、月曜日、連休やし」
健次郎「あっ、そうか。ほな、また後でな」
良美「パパ、ここに入院したらよかったのに」
町子「あ~、それはよう分かるけど、ここやと手術でけへんもん。良美ちゃん。伯母ちゃん、今から仕事せなあかんから、あんた悪いねんけど、一人でテレビ見といてくれる? もうちょっとしたらね、ここの子供たち帰ってくるから、そん時、一緒にごはんしてあげるからね。お昼ごはん。好き嫌いあかんよ。伯母ちゃん許さへんよ~。お仕事してるからね、何か用事あったら伯母ちゃん呼んでね。テレビ見ててね。はい、ほな」
良美「は~い!」
ひとり廊下に残された良美。「一人で?」
仕事部屋
純子「先生、これ」手紙の束を渡す。
町子「何ですか? これ」
純子「出版社から」
町子「こんなにたくさんですか?」
純子「『楽天乙女』の読者からのお手紙。これ、届いた一部ですって。まだまだ続々と来てるんですって」
町子「ヤマシタ ヨシコさん、63歳。あ~、母と同い年ぐらいですわ」
達筆のハガキ
「拝啓 初めまして。先生の『楽天乙女』愛読しております。
私も昭和二十年三月の大阪大空襲で家をなくしました。かなしい出来事で御本を読ましていただいて、あらためて戦争の悲惨さ、こわさを再確認致しました。花岡先生、これからもいい作品を期待しております。」
純子「大阪からだけじゃなくて東京からも。読んでお手紙書かずにいられなかったんでしょうね。フフッ、あっ、私、お昼の用意してまいります」
町子「お願いいたします」
純子「はい」
町子「へえ~」
封筒を切って、手紙を取り出して読む。
町子「え…え~、『「楽天乙女」を感慨深く拝読しました。私は幼い頃、大阪の北区に住んでおりまして隣町のとある写真…写真館のかれんな娘さんにほのかに恋心を抱いておりました』て。ちょっと待ってよ。『写真館のかれんな娘さん』…え? ちょっと待ってよ、これ。私や。誰? 『大谷三郎』。大…。え…『写真館のかれんな娘さんに』やて。え、ちょっと待ってよ。これ、私や」
茶の間
口をもぐもぐさせた良美がついていないテレビの前に移動する。テレビのスイッチに手を伸ばすと、子供たちの「ただいま!」の声に慌てて手を引っ込めた。
登たち男の子たちと由利子が茶の間に入ってきた。
由利子「やあ、お客さん?」
町子「お帰りなさい! おばちゃんの妹の子供で良美っていいます。あっ、何だ、結婚式の時、会うてくれてるやん」
由利子「ああ」
登「お父ちゃんの結婚式?」
町子「そう。お父ちゃんとおばちゃんの結婚式」
隆「ああ!」
町子「隆君、覚えてた?」
隆「覚えてへん」
町子「清志君は? 登君は?」
首を振る清志たち。
町子「あ~、そら覚えてへんやろね。あんたらずっと廊下走ってたもんね。鶏も走ってたもんね。あの、ちょっとの間、お世話になりますのでお願いします」
4人「はい!」
町子「はい、ご挨拶は? 良美」
良美「よろしくお願いします」
サンドイッチを運んで来た純子。「はい、みんな、手を洗ってきてください!」
4人「は~い!」
町子「良美も手、洗ってらっしゃい、みんなと一緒にね」
良美「私、いらん」
町子「はい?」
良美「おなかすいてへんねん。パン食べたから」
町子「パンて、あんたいつ食べたの?」
イシ「やあ! いらっしゃい!」
町子「めいの良美です」
イシ「あ~! いや、やっぱりどことなく町子さんに似てやるねえ」
良美「小さい時から、よう言われてる」
町子「不満なん?」この辺がミニ予告かな?
笑顔の良美。
徳永醫院
「往診中」の札がかかっている。
応接間でテレビを見ている子供たち。茶の間でまったりしている大人たち。
健次郎「あ~、昼寝でもしようかな」
町子「そしたら私、今の間に原稿書いてしまいますね。夜、孝子が帰ってきたら、それどころやあらへんから」
由利子「良美ちゃんも一緒に見よ」
良美「え? 子供だけで勝手に見てもええの?」
由利子「え? 良美ちゃんとこはあかんの?」
良美「うん。ママとパパがいてんと見たらあかん。ステレオでレコードやったら勝手に聴いてもええねんけど」
登「え? 良美ちゃんとこステレオあんの?」
由利子「ええなあ! お父ちゃん、私とこも買うて!」
健次郎「え?」
4人「買うて! 買うて!」
健次郎「あかん! 今あるプレーヤーどないすんねん? もったいないやろ?」
清志「そうかて、ちっちゃいし、第一、音出るとこかて1つやんか。ステレオやったら両方のスピーカーから音、鳴んねんで」
健次郎「1つでも両方からでも音出たら一緒や。よそはよそ。うちはうちや。まだ使えるもん捨てるような、そんなもったいないことはせえへん」
隆「僕とこ、貧乏なん?」
健次郎「アホ! 買い換える時期が来たら、ちゃんと買ういうことや」
登「今、欲しいねやんか!」
健次郎「ほな、自分で働いて買え。よいしょ!」席を立つ。
登「ケチ!」
清志「ええなあ! 良美ちゃんとこは」
良美「ええことなんかあらへん…」
良美のつぶやきを聞いてしまった町子は驚く。
仕事部屋
原稿を書いている町子。ふと手を止め、また手紙を見る。「はあ~。『拝啓 花岡町子様 今回初めてお便りいたします。私は大谷三郎と申しまして先般の…』。びっくりした」
すぐ後ろで健次郎が覗いていた。
町子「何をしてんのよ? こんなに近づいて」
健次郎「何をニヤニヤしてんねん?」
町子「健次郎さん、これ見てくれる? ねえ、ちょっとこれ読んでみて」
健次郎「何? それ」
町子「いいから読んでみて。何も言わんと。私ね、こんなファンレター…あっ、ファンレター違う。これ、ラブレターもらった」
健次郎「は?」
町子「これ、ラブレターよ。私のちっちゃい時のこと知ってはる人なん」
健次郎「ふ~ん」
町子「ファンレターと違うの。ラブレターくれたはんね」
健次郎「あっ、そや、往診行かなあかんねや」
町子「いいから、ちょっと待って待って! 行かんといて、これ読んでみてて、一回!」
健次郎「忙しい言うてるやろ!」
町子「だから読んでみてて言うてんやよ! いや~、もう読んでて言うて…」
健次郎「何でや?」
町子「あっ、やきもちやいてんの? やきもちやいてんの?」
健次郎「誰が? あっ。あんたな、その心優しい読者のお世辞、真に受けて、えべっさんみたいに目尻がダラ~ッと下がってるで。気ぃ付けや」
町子「ちょっと、け…。『えべっさんみたいに目尻がダラ~ッと下がってる』てどういうことなん? 一体。違うよ、これ。私に心伝えようと思て一生懸命ラブレターくれはったんやないの。え~、何て…。『写真館のかれんな娘さん』」カメラ目線でニッコリ。
玄関
一真「ごめんください!」
純子「あっ、どうも。大先生は今、お出かけになってますけど」
一真「いやいや、いやいや、健さんに用やあれへんのですが…。あなたにちょっとそのお話が…」
純子「私にですか?」
一真「ええ」
そして夕食の時間です。
台所
カレーを盛り付ける町子。
登「やった! 今日はカレーだ!」
町子「あ~、ちょっと待って。ちょっと、ちょっと座っておとなしい待っててくださいよ!」
清志・登・隆「は~い!」
イシ「やあ! ええ匂いやこと!」亜紀を連れてくる。
由利子「良美ちゃん、ここ座り」
良美「うん」
町子「あっ、由利子ちゃん、悪いけどちょっと手伝うてちょうだい」
由利子「は~い」
隆「僕の、僕の!」
イシがカレーライスを運んできた。
良美「おなかすいた! いただきま~す!」
ひとり食べ始める良美に驚くイシ。子供たちもぼう然。
町子「良美、あんた何してんの? 行儀の悪い。まだ誰も食べてへんやないの。みんなそろってないでしょ。おっちゃんも伯母ちゃんも席座ってないし」
イシ「良美ちゃん、いつもそないして食べてるの? 座ったら1人で先に?」
良美「パパはお仕事で遅いし、ママは用事したりお電話したりするから、すぐ立っていなくなるし」
妹の子育ての姿が初めて見え、少し困惑を覚えた町子でした。
ミニ予告
一真と純子が並んで歩く。
純子「分かってます。2人だけの秘密」
孝子、ちょっと過保護なようでいて放任のようでもあり…!?
ステレオといえばこのドラマを思い出す~。昭和44年、健(たけし)が大学の合格祝いに買ってもらったステレオ。来月から山田太一さんの代表作の一つである「岸辺のアルバム」の再放送がCSで始まるので楽しみにしてるけど、「3人家族」「兄弟」「2人の世界」も面白いんだけどなあ~! 民放も古いドラマたまには地上波でやってほしい。