公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
ハリウッド映画の大スター、エディ・スペンサー(チャド・マレーン)が、突然、俊平(櫻木健一)や貞男(荒谷清水)やタエ(桂あやめ)がいる工藤酒店に一人で現れる。タエをはじめ興奮する3人だが、英語がわからず、英語ができる俊平の妻・佐和子(瀬戸カトリーヌ)が通訳に呼び出される。エディに話を聞くと、明日、町を案内してほしいという。一方、町子(藤山直美)と吉永東子(高田聖子)の仲は、急速に親密度を増して…。
仕事部屋を出てきた町子と純子。
町子「純子さん、そしたら…」
純子「急のご連絡は、じゃあ、こちらのお電話番号ですね」
町子「はい。あとお願いします」
純子「はい、行ってらっしゃいませ」
町子「行ってきま~す!」
健次郎「あれ? どっか出かけたん?」
純子「芦屋の方に」
健次郎「芦屋?」
純子「昨日のデザイナー、東子さんのお友達がお集まりになるんです。みすずさんもご一緒です」
健次郎「ほう、みすずちゃんも」
純子「古~いおつきあいみたいなんですよ。雑誌に記事書いたり、テレビ番組の構成なさってるから、やっぱりお顔広いですねえ!」
健次郎「特にね、みすずちゃんは人懐っこいから」
純子「あ…あの由利子ちゃんの進路相談もうすぐなんですってね」
健次郎「ああ」
階段を下りてきた由利子が話を聞いている。
純子「どこの大学受けるか、もう決められたんですか?」
健次郎「さあね…。まっ、自分なりに何か考えとるでしょう」
純子「由利子ちゃん、成績いいですもんね」
純子が廊下を歩いてきたので慌てて壁と同化して隠れる由利子。
町内に「荒野の二人」のポスターが貼られている。
女性たち「キャ~! 待って~!」
「あれ? こっちに来た!?」
「そう見えたんやけど…」
「あっ、あっ! あっちあっちあっち!」
「エディー! エディー! エディー!」
女性たちは工藤酒店の前を走り抜けていく。
待合室の窓から鯛子も覗いて見ている。
健次郎「何してんの? 鯛ちゃん」
鯛子「ああ。いや、朝から商店街を若い女の子がウロウロしてるんです。何なんでしょう?」
健次郎「若い女の子?」
鯛子「カメラ持って」
健次郎「カメラ?」
工藤酒店
貞男「うそつけ!」
俊平「いやいや。『見た』言うねん、うちのやつが!」
貞男「あの、お前、エディーなんちゃらが『映画館のぞいてた』て?」
俊平「そやがな。あれも…」
タエ「朝の早うから何してんの?」
俊平「あのな、タエさん」
貞男「そんなアホなことあらへんて!」
タエ「アホなことて?」
俊平「『エディ・スペンサーを見た』て、うちのやつが」
タエ「どこで!?」
俊平「だから『うちの映画館の前を通った』て」
タエ「みゆき館の前?」
俊平「ああ」
タエ「ハハッ! なんぼ日本にキャンペーン来てるいうたかてな、こんな商店街通るわけあれへんがな! この大スターのエディー様が! なっ」
俊平「そらそやなあ。いやいや、俺もそう思うけども『あれは絶対そや』て言い張るねんもん」
タエ「アホみたい…」
貞男「アホらし…」
俊平「う~ん…」
貞男「いらっしゃい!」
キャップをかぶった外国人男性「アノ…」
貞男「はい」
外国人男性「チョットスミマセン」
タエ「え?」
エディ「クダサイ」キャップをとる。
タエ「あっ! あっ! あっ! あ~!」
俊平「あ…あんた…あんた!」
貞男「うん!?」
エディ「ハロー」
タエ「エディー…」
徳永医院を出ようとした健次郎。
女性たち「キャ~! エディー! エディー! あ~!」
健次郎「何や? あれ」
工藤酒店
貞男「はい、1人1枚ずつな。はい、チーズ! ハイと!」
女性「はい、ありがとう! エディー、サインもサインも!」
女性「次、私、お願いします!」
タエ「何でこんなとこに…」カウンターで頬杖をつく。
女性「ちょっと、エディー、何でこの商店街に来はったんですか?」
エディ「ボク、ニホンゴ、スコシダケ…」
女性「あ、そうか。ああ…」
俊平「すいません! すいません! ちょっとごめん! ちょっとごめん! はい、すいません! はいはいはい! え~っと…え~、佐和子、通訳してさしあげなさい」
タエ「佐和子さんて英語しゃべれんの!?」
俊平「いや、もうちょっとだけ。独学で勉強したらしいわ」
佐和子「え~、え~っと…。ホワイ ディドゥ ユー カム トゥ オオサカ?」
エディーの英語
佐和子「リアリー? へえ! あ…日本の大阪の町、見たかったんやて!」
女性たち「え~!」
エディーの英語
英語での会話
タエ「ちょちょちょ…ちょっとあんた! 何て言うてはんの?」
佐和子「いや『今日はもう時間あらへんねんけど、明日、町を案内してくれへんか?』て」
タエ「えっ! それで?」
佐和子「『OK』言うてもうた!」
タエ「うそ! うそ!」
佐和子「エディー! シーユートゥモロー!」
エディ「じゃ! シーユートゥモロー!」
女性たちは歓声を上げ、エディは店を出ていった。
うっとりしているタエ。
俊平「きゃ~! これ見てみい。ぎょうさん売れたな!」
佐和子「気さくでええ人やったな」
俊平「なあ」
貞男「あ、そや! 生写真焼き増しして売ったろ。なっ」
佐和子「あかんよ!」
貞男「あかんか?」
佐和子「あかんに決まってるでしょ!」
タエ「ああ~っ!」
貞男「びっくりした!」
佐和子「どないしたん!?」
俊平「どうしたんや?」
タエ「私…もうてへん、サイン…」
貞男「え?」
タエ「写真も撮ってへんわ~! はあ…」
あきれる貞男たち。
由利子の部屋
純子がクッキーと大きな花柄のコップにオレンジジュースを持ってきた。こういうコップの柄懐かしい~。「どうぞ、ごゆっくり」
由利子「ありがとう」
ヒサコ「ありがとうございます」
トミコ「ありがとうございます」
純子、出ていく。
由利子「ヒサコ、大学行くの?」
ヒサコ「うん。京都の城南大学の英文科」
トミコ「私、短大」
廊下で聞き耳を立てていた純子。
由利子「短大で何勉強すんの?」
トミコ「どこでもええねん。学校出たら、どうせ1年ほどお勤めしてお見合いして結婚やから短大生のうちに好きなことしとくねん」
由利子「好きなこと?」
トミコ「アルバイトして欲しいお洋服買うたり、テニスしたり、旅行行ったり、スキー行ったりな」
由利子「へえ。ヒサコは卒業したら?」
ヒサコ「私、小学校の先生になりたいね」
由利子「先生?」
ヒサコ「子供好きやし…先生の免許あったら女性かて食いっぱぐれあれへんでしょ」
由利子「すごい! そんなことまで考えてんの!? すごい…」
ヒサコ「由利子はどないすんの?」
由利子「え?」
トミコ「進学?」
ヒサコ「就職?」
由利子「あ…私は洋服のデザイナーとか」
2人「デザイナー!?」
トミコ「そんなこと考えてんの?」
ヒサコ「そんなん才能いうのがいるやんか。才能」
由利子「そやなあ…」
トミコ「あ、そんな難しいことせえへんかても由利子んとこ、おばちゃん有名人やもん。ツテで出版社とかは入れんのと違うの?」
ヒサコ「ああ、テレビ局とか! ええなあ!」
由利子「でけへんわ! そんなん…嫌や…」
トミコ「親の七光り、利用したらええやんか。あ~あ、私んとこなんか、おじいちゃんの金歯して光ってへん」
トミコ、ヒサコ笑う。
夜、茶の間
由利子「おばちゃん、帰ってたん?」
町子「うん。ねえ、お友達来てはったの?」
由利子「うん。あっ、これ郵便来てたよ」
町子「あ、どうもありがとう」
由利子「なあ、おばちゃん」
町子「うん?」
由利子「毎月依頼てどれぐらい来てんの?」
町子「あ、お仕事?」
由利子「うん」
町子「今月はね、短編の80枚が1つでしょ。それから、週刊誌の連載エッセーと月刊誌は連続もの50枚。これ毎月ずつね。それから…そや、私、再来週から夕刊紙にコラム書かなあかんかったんや」
由利子「そんなようけ!?」
町子「うん」
健次郎「プロというのは大変なもんなんや。けど、あんた、ついこないだ倒れたとこやのにひとつも懲りとらんな」
町子「これでもたくさん減らしたんですよ」
健次郎「あ~あ、そうですか」
町子「フフフフ」食器の片づけをしながら自然だな~。
健次郎「何や、今日、早かったんやな。みんなとごはんでも食べてきたらよかったのに」
町子「誘われたんやけどもね、原稿もあるでしょ。けど、面白い人やねえ、東子さんていう人は」
由利子「昨日の着物デザイナーていう人?」
町子「うん。なんぼ話、してもね、面白うて面白うて時間が足れへんのよ」
由利子「その人、社長さんなん?」
町子「社長さん。自分のね、ブランドも持ってはるの。で、デザインもしてはるしね、プロデュースまでも何でもしはるのよ」
由利子「へえ、すごい!」
健次郎「パワフルな人らやな。みすずちゃんも女一人で大したもんやし、放送に雑誌にて精力的にやっとるもんな」
町子「うん」
健次郎「さあ、片づけてこよ」
町子「ハハハ! よいしょ」
健次郎は去り、町子は片づけをし、由利子は悩む。
由利子の部屋
机の上には昨日、晴子から渡された本がそのまま積んである。
医科大学合格読本
全国医大入試問題集
国公私立医学部受験ガイド
由利子はそれらの本を開くこともなく、ベッドの上に置いていた雑誌「Ponk Ponk」を広げる。
Ponk Ponk
1970/12
NO.9
素敵にオシャレに
ヨーロッパのコーディネート
高校生も?! オススメ
由利子「うわ…これ、かっこええ。どないなってんの? どないなってんねやろ…」
たこ芳
俊平「どないなってるかなあ? お前んとこの嫁はん!」
貞男「熱出してるわ」
佐和子「大丈夫やの!?」
貞男「おう。守の虫下しのましといた」
佐和子「虫下して…」
俊平「そらな、憧れの大スター目の前で見たんやもん。なあ」
佐和子「そやのに写真撮るのもサインもらうのも忘れて」
俊平「そらもう熱も出るわ!」
佐和子「ほんまやで」
りん「憧れのスターて誰?」
貞男「今、映画で人気のある、ほれ、エディーなんちゃらいうのな」
りん「知らんなあ…。まあ、映画見てへんけどね、最近」
俊平「たまには見に来てや~。ハハハ!」
りん「あのね、昔ね、パリのカフェでマレーネ・ディートリヒの隣に座ったことあんねん。まあ、きれいな人や!」
佐和子「え~、いいな~! 私、ディートリヒ大好き! ディートリヒみたいになりたかったんやもん」
りん「え?」
あらすじにマレーネ・ディートリヒの名前があった。サンフランシスコのサロンのホステス…う~ん、覚えてない。
俊平「あ、いや、あの一応ね、映画会社のニューフェースに受かってデビューしたんですわ」
りん「やあ、女優さんやったん!」
佐和子「いえ、そんな…」
貞男「1回出ただけでこんなんと駆け落ちしてしもて人生誤ったな!」
俊平「誰も誤ってへんわいな。なあ」
佐和子の表情が曇る。
俊平「何や、そない思てんのんかいな…」
貞男「そら、思とるわ!」
俊平「何を言うて…」
みすず「こんばんは!」
りん「あ~、みすずさん! いらっしゃい!」
貞男「だいぶご機嫌さんやね」
みすず「おかげさんで。ビール下さい」
りん「はい」
みすず「町子に電話してみよか?」
東子「え~、忙しいんじゃない?」
みすず「東子さんがしゃべりたい言うからここに来たんやろ?」
東子「そうだけど…」
みすず「女将さん、電話借りますね」
りん「どうぞどうぞ」
東子「ヨーロッパの作家の小説なんかを読んでると貧しくても農家の食卓にはね、絶対にこう手作りのジャムがあるのよ」
町子「そう!」
東子「あのオレンジとかイチゴとか黒スグリとかのね」
黒スグリ(カシスの和名)
町子「地下室にね、いろんな瓶詰がずら~っと並んでるでしょ」
東子「そうなの! ああいうのって豪華よね。まっ、日本で言うところのぬか漬けかな。京野菜のお漬物なんてもうほんとにおいしいもんね!」
みすず「こんな偉そうなこと言うてるけどね、ぬか漬け漬けんの下手やねんのよ。結局、友達に作ってもろてんの」
東子「あっ、でもね、私ね、ピクルスだけは自信があるの。イタリアの靴のデザイナーの家に遊びに行った時にそこのおばあさんから教わって」
町子「あ~、ピクルスねえ」
東子「ピクルスっていってもキュウリだけじゃなくてカリフラワーとか赤ピーマンとかニンジンとかね、いろんな色の野菜をどんどんこう瓶に詰めてくの。そん時がね、きれいでね、すごく楽しい!」
町子「あ~、そら、きれいやろね!」
東子「うん!」
みすず「ピクルスはほんまにうまい。うん。ただ手間はかかるやろ?」
東子「う~ん、まあそうね。入れる器がね、清潔じゃないと雑菌が入って日もちがしないから漬ける前によく煮沸消毒をして乾かさなきゃいけないの」
佐和子「面倒くさ…」
東子「あとね、材料も水分の多いものは、よく水分取ってから漬けないと。水分が…」
佐和子「仕事忙しいのにわざわざそんなん漬けはるんですか?」
東子「うん。ピクルスのね、甘酸っぱい匂いが部屋中にパ~ッと広がるとね、あ~、これが生活のにおいだなって感じる」
町子「わあ、何かおいしいピクルス食べたなってきた!」
東子「じゃ、持ってこようか?」
町子「えっ、ほんまですか!?」
東子「うん。ねえ、今度、町子さんちでパーティーやりましょうよ!」
町子「ねえ、今度言うたらいつになるか分からへんので明日土曜日なんですけど、午後からどないですか?」
東子「空いてます」
町子「空いてる!?」
東子「空いてます」
町子「いや、うそみたい! 明日、どうです?」
東子「しましょうよ! パーティー」
町子「縁があった~!」手を取り合って喜ぶ。
みすず「早速かいな! あんたらもうほんまに!」
由利子の部屋
デザイン画に色を付けている。
晴子「由利子、入るよ!」
由利子「はい」
晴子「何してんの?」
由利子「別に…」
晴子「はい。年明けたら本格的に勉強見てあげるからね」参考書を数冊机に置いていく。
純子「お邪魔します」
由利子「はい」
純子「よろしいかしら?」
由利子「どうぞ」
純子「由利子ちゃん。はい、これ英字新聞」新聞の束に赤いリボンがかかっている。「これからは女性も世界に出ていく時代ですからね。ビジネスの世界では英語は必要なの。私も若い頃からず~っと読んでるの。じゃあ」一旦出ていくが「頑張って!」と声をかける。
由利子「あ…」
将来の進路をどうするか。いまだ答えの出せない由利子です。
ミニ予告
由利子「お医者さんになるて才能がいるんやろ?」
由利子が大学に行くことを当然と思っている周りの大人たちが当時の時代から考えても進んでるなと思う。由利子の友達は短大卒業してすぐ結婚だと言ってるくらいだし。
たこ芳のシーンはいつも楽しそうだけど、実際の私は、「岸辺のアルバム」の北川派。
北川「大体、僕は行きつけの店というのがないんです。喫茶店でもバーでも顔を覚えられて、何々さんいらっしゃいなどと言われると途端に行く気がしなくなってしまう。ホッとできなくなってしまうんです」
則子「そういう人、少ないんじゃないかしら?」
北川「少ないでしょう、変わってるんです」
人間関係が広がらないはずだ(^-^;