公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
昭和25年。道子(光丘真理)と琴(猪俣光世)が磯野家のお手伝いさんとなる。サザエさん3巻が売れ、マリ子(熊谷真実)たちはその資金でウラマド姉妹の家を買い取り、応接間を改築して使っている。そんな中、久々に田河邸で同窓会が開かれる。細谷(下條アトム)は妻(高尾美由紀)を連れ、三吉(福田勝洋)も立派に店を復興させ、時間の流れを実感する面々。田河(愛川欽也)も今、大人になったのらくろを描いていると言い…。
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話はポンと飛んで昭和25年になりました。お千代ねえやの後釜にはお琴さんというお手伝いさんが来ています。頑張って出した「サザエさん」第3巻が売れに売れて磯野家が買い取ったはずのウラマドさんの家は一体どこへ行ったのでしょう?
道子もいるけど、お琴さんも雇ったのね。このお琴さん、金八先生で見たな~と思ったら、「3年B組 金八先生」の第2シリーズの高橋健の母でした。饅頭事件で金八の下宿先まで謝りにきたり、息子が入院したりと、度々出てくる人でした。
文豪風な和服で眼鏡の均ちゃんが磯野家を訪ねた。門のところがちょっと変わったんだね。
均「ごめんください、大宗です!」
道子「は~い!」
均「やあ、こんにちは」
道子「いらっしゃいませ。お電話の旨、お伝えしておきましたので、マリ子奥様がお待ち申し上げていらっしゃいます。さあ、どうぞ、お上がりになってください」
均「はいはい、じゃあ失礼します」
道子「はい」
均「あ~、そうだ。これ」懐から小さな箱を道子に渡す
道子「あっ…私にですか?」
均「そう。渋谷で見かけたもんだから」
道子「あ~、どうもありがとうございます!」
均「いえいえ、それほどのもんじゃないんだよ」
道子「いえ、とんでもございません! さあ、こちらです。どうぞ」
均ちゃんを応接間に案内する道子。均ちゃんは道子狙い!? 恐らく均ちゃんは30代半ば、道子は二十歳くらい!? えー!! 何となく三吉と道子ルートを考えていたので、この組み合わせは意外だな。三吉でも20代後半だけどね。
均「はあ~…」感嘆のため息
そうです。買い取った前島家はゴロゴロと運ばれて、ウラマドさんご愛用の家具と一緒にこのとおり磯野家の応接間となりました。
ゴロゴロ…どういうこと!? よく分からないが、前島家の応接間がそのまま再現されたような部屋。いろいろ見ると、移築して前島家を磯野家にくっつけたということかな。
均がイスに座ると、マリ子とマチ子が入室してきた。
マリ子「いらっしゃいませ」
均「お邪魔してます」
マチ子「しばらくでした、先輩」
均「しばらくはいいけども忙しいんじゃないの? あなた、大丈夫?」
マリ子「それがね、どうした風の吹き回しか今日は明日の案まで出来てしまったんですって」
マチ子「翻訳するとふだんの心掛けがよかったということになるわけ」
均「なるほど。いやしかし、昨日の『サザエさん』ね、あれは断然面白かったな」
マチ子「あら、そうでしたか?」
均「うん! それでね、早速なんだけども、ここにさ君のサインをもらいたいんだ。下宿のおばさんに頼まれてね」
マチ子「サイン?」
均「うん。悪いけど、この横にね、磯野マチ子って書いてくれないか?」
マチ子「嫌…嫌だわ、そんなの…」
均「いや~、頼むよ。そうなるとね、晩飯のおかずも多少違うんじゃないかと…」
マチ子「えっ?」
均「いやいや、こっちの話。ねっ? 先輩を助けると思ってお願いしますよ」
マチ子「そんなこと言ったって…」
マリ子「書いておあげなさいよ。それでおかずが違うとおっしゃるんだったら」
均「あら、聞かれちゃった。面目ない。いや~」笑い
マチ子の「サザエさん」も去年から毎朝新聞の夕刊に連載となり、日本全国へと笑いをまき散らしておりました。
1コマ目
サザエ、カツオ、ワカメが歩いている。
カツオ「おねーさん、ヨモギつみきょうそうだよ」
2コマ目
サザエ「よ~し、まけないわョ!」
3コマ目
サザエ、無心にヨモギつみを続ける。
4コマ目
木の下に座っているカップルの前まで行ってとりつづけ、カツオが見ている。
セリフがなくても分かるし、面白い。
マリ子「それで田河先生のお話、何でしたの?」
均「それそれ! それが本日の大テーマでしたよ」
マチ子「はいはい」
均「いよいよ細谷君がみこしを上げて東京へ出てくることになったんだ」
マリ子「まあ!」
マチ子「それじゃあ、お病気の方は?」
均「うん、まあ小説をね、ベッドの中で書いて、しばらくの間、行ったり来たりの病状だったんだけども、彼もしっかり治ってね。いや、なかなかあれで慎重派だからね」
マチ子笑ってうなずく。
均「いや、それよりなにより去年の秋の文学賞受賞が東京へ出てくるきっかけを作ったんじゃないか?」
マチ子「あれはうれしかったわ~。新聞で細谷さんの名前を見た時、柄にもなく感激してしまって…」
マリ子「母も申しておりました。これぞ座して祈り道を開いた見本のようなものだって」
均「ああ。あっ、ところで今日、おかあさんは?」
マチ子「湯河原のホームに入り浸り。またせっせと分かち合ってるんでしょうよ」
均「相変わらず天使ですね、おかあさんは」
マリ子「いいえ、ワンマンです」
均「ワンマン…。ハハハハッ、2人ともなかなかあだ名の名人だね! ワンマン! 感じが出てる!」
吉田茂という首相が登場して、戦時中のヒトラーに取って代わって、はるのあだ名はワンマンに変わったようです。
マチ子「ねえねえ、それでどういうことになりましたの?」
均「何が?」
マチ子「だから田河先生のお話」
均「あっ、ごめんなさい。駄目だな~…。俺はどうも幹事には向いてないらしいな、こりゃ…」
マリ子「いいえ、絶望するには早すぎます」
均「それはそうですね。実はね、田河先生がね、これを機会に同窓会をやろうじゃないかってことになったんだ」
マチ子「賛成!」
マリ子「私も賛成!」
均「やりましょう、しっかり盛大に!」
マリ子・マチ子「はい!」
というわけで足かけ7年ぶりに懐かしい顔が田河家に勢ぞろいいたしました。
7年ぶり…?
磯野家が疎開前に田河水泡夫婦が磯野家を訪ねたのが昭和19年。
三吉やヨウ子も参加したパーティーならまだ子役の頃で昭和11年頃のこと。
田河水泡、細谷、順子、三吉、磯野三姉妹、道子、均、塚田。細谷の隣には見慣れない女性。
水泡「さあ、みんな、いいかな? そろったかな? それじゃあ、無事を祝って…乾杯!」
一同「乾杯!」
水泡「いや~、本当によくみんな…みんなよく来てくれたな」
順子「本当、皆さん、お忙しいのに。今を時めく塚田さんまでよくいらしてくだすったわ」
塚田「いやいや…今を時めくというなら当代人気随一の漫画家、磯野マチ子ですよ」
マチ子「そんな…」
塚田「ハッハ~、いや、告白するとだな、少々後悔しとるんだ、私は」
マリ子「まあ、塚田さんがですか? 一体何を?」
塚田「いや、同窓会だって言われてついその気になってしまったんだが、ねえ、先生、こうやって見回したところ私だけ一回りとうが立ってるみたいな感じで…」
水泡「そんなことはないだろう、塚田君。君はそれにあの…細谷君の後見人でもあることだし」
塚田「いやいや、とてもとても…」
細谷「いやいや、塚田さんから毎週送っていただいた手紙で尻をひっぱたかれなかったら僕は文学賞どころか小説すら書かなかっただろうし、一人寂しく信州で野たれ死んでたかもしれませんよ」
水泡「まあ、細谷君のね、塚田君に対する感謝の気持ちはそれくらいにしてね、君のその隣におとなしく座っている、その女性がね、君を死なせたりは絶対せんかった。どうだ? この辺で奥さんをみんなに紹介したら」
マチ子の切なそうな顔!
細谷「いや、改めて紹介するほどのことじゃないんですけど…」
順子「あら、駄目駄目」
マリ子「そうです、紹介してくださらなければ。戦後、女性が強くなったっていうことをご存じないんですか?」
細谷「てれるな…そんな年でもないのに…。あの…浩子です。信州の療養所を出てから小説を書くために居候してた農家の娘で、このとおりおとなしいだけが取り柄の家内です」
浩子「よろしくお願いいたします」
マリ子もマチ子も屈託なく拍手を送る。浩子さん、おとなしいだけが取り柄とかいうけど美人さん。
マチ子「お似合いだわ。ねっ、マー姉ちゃん、本当にお似合いのお二人よね」
マリ子「本当!」
浩子ははにかみ笑顔。
塚田「いや、しかし、おとなしいといったら、これはヨウ子さんといい勝負だな」
道子「とんでもございません」
塚田「えっ?」
道子「ヨウ子お嬢様はお見かけは静かでいらっしゃいますけれども、マリ子奥様がお留守の時など、私、マチ子先生がお忙しいのでヨウ子お嬢様に全部お伺いしてるんですね。そうしますと、お口数こそ少なくいらっしゃいますけども、マリ子お嬢様のような言い違いなんか絶対しませんし…」
ヨウ子「何を言うのよ、道子ちゃんは全く…」
塚田「なかなかはっきりしてて気立てのいい子じゃないか」
均「そうなんですよ、塚田さん。いや~、道子ちゃんはね、磯野家ではヒナゲシ的存在ですからね」
塚田「いやに肩持つな、均ちゃん」
均「いや、別に僕は他意はございませんけど…」
マリ子「この子を見ると私たちの昔を思い出してくださるんですって」
水泡「あ~、それは言えるね」
均「先生、そうでしょう? ねっ?」
つまり均ちゃんは、マリ子みたいな明るい道子が好きで、細谷さんはおとなしい女性が好きと。
塚田「いや~、しかし、時間というものは全く大したもんですね、田河先生。私もその昔のヨウ子さんしか知らんもんだから、つい失礼なことを言ってしまって」
ヨウ子「いいえ、私たち3人はいつまでたっても独り立ちできませんの」
マチ子「まあ、私も同罪?」
ヨウ子「そうじゃない、だって」
細谷「まあ、いずれにしろ道子ちゃんの爪のあかを煎じて、うちのにものませた方がいいかもしれませんね」
浩子「はい」
順子「あら、まあ!」笑い
細谷さん…けなしているようなノロケと思っておこう。
水泡「浩子さん、しかし、頼みますよ。あんたんとこの旦那さんはね、一見、おとなしそうに見えるけどなかなかの強情屋なんだからね」
浩子「はい」
水泡「ああ」笑い「あっ、三吉君、あんたも前来て掛けなさい」
順子「あら、三吉君、せっかくいらしたのにどうぞ。そんなとこ引っ込んでないで」
三吉「じゃあ失礼します」
三吉がヨウ子の座っていたところへ座り、ヨウ子、道子、浩子は奥へ。
水泡「三吉君、君も本当に頑張ったね。炭屋のおばあさんは元気かい?」
三吉「はい、おかげさんで」
水泡「そうか。それはよかったよかった」
順子「あなたが無事に復員なすったんで、それでおばあちゃまお元気になられたのよ」
三吉「ありがとうございます。これもマチ子先生からのらくろのお札を頂いていったからです」
水泡「のらくろのお札?」
マチ子「はい。のらくろが凱旋してくるところを私が描きました」
水泡「そう」
均「それがですね、先生、三吉君は、のらくろは絶対に死なないんだから自分も死なないとそう信じていたそうですよ」
水泡「三吉君、本当にそう思うか?」
三吉「はい」
水泡「そう…」目を押さえて、涙をこらえる。
マリ子「先生…?」
水泡「うん? いや~、ごめんごめん。三吉君が信じたんだから僕も信じよう、その話を」
順子「あなた…」
水泡「うん、うれしいね」
順子「ええ」
水泡「2人で出かけた時にね、焼夷弾がバラバラバラバラ落っこってきてね、もうこれは駄目だななんて思ったんだけど生きとってよかったね、奥さん…」
順子「はい…」
マチ子「先生、私も信じておりました」
マリ子「マチ子とヨウ子とよく話し合ったものですわ。必ず絵が描ける時代がやって来る。その時まで絵のことを忘れてはいけないとおっしゃられた先生のことを」
マチ子「紙がなくなったら地べたにでも心の中にでも漫画は描けるんだって、先生がおっしゃったその言葉、私、忘れたことがありません」
水泡「ありがとう。本当にありがとう」
マチ子「いいえ」
塚田「マッちゃんは今や押しも押されもせぬ女流漫画家。マリ子さんはまあこれは僕の意思に反しとるんだが、でもまあ出版社社長だ。細谷君は今や文壇に静かな旋風を巻き起こしつつある小説家。そして、三吉君は炭屋の旦那さんか。ねえ、先生、考えてみたら、このサロンからは随分と次代を担う傑物が続出してるわけですな」
水泡「本当にそうだね、塚田君。しかし、あの、うちの均五郎のことを忘れんでほしいよ、塚田編集長」
塚田「ああ! うん」
均「いや、僕はね…。(三吉に)ああ、君、ビールがないね」
水泡「『石の上にも三年』っていう話があるけどね、3年どころかこの男は僕のところへ弟子入りしてかれこれ20年だ。僕の方はもうとうに諦めかけてるこのごろになってだね、急に奇妙に味のある漫画を描き始めたぞ」
細谷「あっ、見ましたよ、先月号の『春秋文学』で」
均「あっ、あれ、見…恥ずかしいな~…」照れる
マリ子「大器晩成っていうんですよ、大宗さんみたいな人を」
均「ハハハッ、ものにはね、言い方がありますからね」
水泡「それは自分で一番よく分かってることだろ」
均「あっ、そうか! 失敗、失敗!」笑い
マリ子「でもよかった。先生も奥様も本当に昔のまんま、お元気で優しくて楽しくて私たち、本当に幸せです」
順子「ありがとう、マリ子さん」
水泡「そうだとも。僕だってね、まだまだ君たちには負けちゃいられないからね」
塚田「おお? すると?」
水泡「そう、また描き始めたよ、相変わらず『のらくろ』をね」
細谷「先生…!」
水泡「駄目駄目…! まだね、時期が来るまではね、見せませんよ」
マチ子「まあ、ひどい!」
水泡「今度はね、『少年倶楽部』向きじゃないんだよ、塚田君」
塚田「気になりますな」
水泡「うん、気にしてくれよ。いや、三吉君だってね、僕のうちへ初めて来た時には、こんな少年だった。それがね、戦争行って、そして復員して店を復興させて、こんな立派な若者になった。だからね、今度ののらくろは大人なんだよ」
マリ子「大人ののらくろですか?」
水泡「うん」
均「先生、それは面白そうですね」
水泡「まあね、人間だって野良犬だってね、時代とともにたくましく生きてるんだよ。それにね、もうほらうるさい憲兵隊の文句もないしね。のんきにね、かつ自由にね、好きな花を咲かせたり、エッチングなんかやりながらね、のらくろは生きてるんだよ」
敗戦から5年たったとはいえ、まだまだ苦しい時代でした。だからこそお互いの無事を確認し合ったこの同窓会は、一層みんなの心温まるものだったのでしょう。
着々と終わりが近づいているんだなあという感じ。淋しい。細谷さんとマチ子、ちょっと切ない。