公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
10年続いた「のらくろ」最終話が載った少年倶楽部を細谷(下條アトム)から受け取るマチ子(田中裕子)。田河(愛川欽也)の直筆サインを見て、マチ子は感極まる。一方、やつれた新八郎(田中健)が一週間ぶりに訪ねてくる。スパイ事件で元同僚が捕まり、混乱に見舞われていたと言う。そして、ついに新八郎にも赤紙が届く。夕方にも東京を発つという新八郎は、出征の前にマリ子(熊谷真実)に婚約の解消を求めるが…。
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磯野家。マチ子とヨウ子と細谷。
細谷「東郷君が一家まとめて嫁に来てくれってそう言ってくれたんだろ?」
マチ子「それ、ちょっと変だと思いません?」
細谷「どうして? 東郷君らしいじゃないの。いい男だよ、彼は」
マチ子「いや、その…一家まとめてっていうところがおかしいんですよね。つまり4人もお嫁さんをもらうっていうことでしょう?」
細谷「えっ?」
マチ子「私もヨウ子もお母様も」
細谷「なるほど。これはちょっと東郷君も欲張りすぎだ」
マチ子「かつ混乱のもとです」
細谷「アハハハッ、それはそうだ」
マチ子の発言は本気で言ってるのか? 非喫煙者の前でも平気でタバコを吸う。これがなくなっただけでも今の世の中いいよな~。
マリ子は東郷とデート。細谷は田河先生の帰りだと言ってマチ子に「少年倶楽部」を差し出した。
マチ子「とうとう終わってしまったんですね…」
細谷「うん…」
「のらくろ」は昭和16年10月号をもってついに打ち切りとなりましたが、連載の期間は実に10年10か月に及びました。
細谷に開けてごらんよと言われてもなかなか本を開くことができないマチ子。細谷が「のらくろ探検家」のページを開くとページの端に”磯野マチ子君 田河水泡”と書かれいてた。
泣き出しそうなマチ子に「なにもこれで田河先生が永久に消えるわけじゃないんだから」という細谷。
マチ子「だけど『のらくろ』は消えてしまうんです。先生と私を引き合わせてくれたこの『のらくろ』が」
マリ子が帰ってきた。
マチ子「どうしたの? 東郷さんと一緒じゃなかったの?」
マリ子「なくはなかったわよ。でも、カンカン!」
細谷「あれあれあれ…もはや夫婦げんかをおっ始めたかな?」
マリ子「始める暇があらばこそ。銀座の角で待ってろっていうから待ってたら、やって来たのはこの紙切れ1枚」
マチ子「え~?」
マリ子「使いの子が飛んできてね、ごめんなさいって言ってましたってまた飛んでいってしまうんですもの。これじゃあわざわざ忙しいさなか待ちぼうけのために呼び出されたようなもんだわ」
ヨウ子「でも、ちゃんと言い訳してるわよ。『急な仕事が飛び込みました。許せよ、また今度』だって」
マリ子「何が『許せよ』ですか」
田河邸。マチ子が水泡に電話をかけていた。
水泡「まあ僕の息子にご苦労さんとひと言、言ってくれればそれでいいんだから。そう。うん、こういうご時世だからなおさら明るく明るく」
部屋に花を生けながら何となく電話を聞いていた均はマリ子婚約のニュースを聞いてショックを受ける。
祝う人あれば嘆く者あり。マリ子の婚約で一番のショックを受けたのが、この大宗均君ではなかったでしょうか。
磯野家。マチ子はペンをかじってイライラ。
マチ子「全く…一体どういうつもりなのかしら!」
「そんな大きな声を出すより素直に描き直した方が結局は早く仕上がるもんなんです」というマリ子は、マチ子のイラつきは仕事のことだと思っていた。
マチ子「漫画じゃないわよ。東郷さん! 新八郎兄貴!」
マリ子「えっ?」
マチ子「『釣った魚に餌は要らない』って言葉があるそうだけど、婚約してあいびきの約束すっぽかして、そのまま顔見せないなんてあの男、一体どういう気持ちなのかしら?」
マリ子「いいじゃないの、そっちの方が仕事がはかどるんだから」
マチ子「まあ…どっちもどっちだって言いたいけど、女24にもなればそれほどかわいげがなくなるもんなのかしら」
マリ子「そりゃあ菊池先生の小説みたいに皆さんの涙をしぼるってわけにはいかないもんなんですよ」
マチ子「冷静なのね…。ううん、冷血すぎるわよ。普通はもっとこう燃えていいんじゃないの?」
マリ子「相手もいないのにどうやって燃えたらいいの?」
マチ子「『一日会わなきゃ千秋の思いが募る』って三千歳(みちとせ)さんだって言ってるじゃないの」
マリ子「誰よ、三千歳さんって?」
マチ子「ほら直侍の恋人で歌舞伎のヒロイン」
マリ子「あっ、あれか」
マチ子「マー姉ちゃんって人が分かんなくなった!」
マリ子「ごめんね、マチ子」
10月に入ったある朝のことです。
東條新内閣成立す
電撃組閣完了けふ親任式
在職期間 昭和16年10月18日~
無精ひげを蓄えた新八郎が磯野家を訪れた。内々の話だとして、昨日、ゾルゲという男が逮捕され、その3日前にゾルゲの相棒だった尾崎という男が捕まったという話をした。
尾崎は元毎朝社にいた人で近衛さんのブレーンとして活躍していたはずで、それだけに社内での動揺も激しく、特に尾崎と親しかった連中は大変だった。
「マー姉ちゃん」では毎朝新聞だけど、朝日新聞の社員だったのね。
東條さんの直前が近衛さん。
はるがお風呂に入れと言うが、新八郎は大事な話があるとマリ子に言う。
新八郎「マリ子さんとの婚約を解消させてください」
はる「何ですって!?」
新八郎「申し訳ありません。しかし、このとおりです」
マチ子「冗談じゃないわ! 申し込んだのはあなたよ! それっきりろくな交際も何の前触れもなく、いきなり婚約解消だなんて私たち納得できません!」
マリ子「マチ子」
マチ子「だって…!」
新八郎「実は…赤紙が来たんだよ、僕にも」
マリ子「そんな…!」
今日の夕方の列車に乗らないと久留米の入隊に間に合わない。
新八郎「本当に申し訳ありません。だから今の僕にできることはマリ子さんとの婚約を解消するしかないんです」
マリ子「なぜ?」
はる「マリ子」
マリ子「なぜ、東郷さんにはそれしかできませんの?」
新八郎「僕は新聞記者なんだ。だから皆さんよりはいくらかこの国の将来が見通せます」
マリ子「だからどうだとおっしゃるの!?」
新八郎「つまり戦争が拡大して、もし僕が生きて帰れないようなことがあったとしたら、君にとって僕との婚約は解消した方が身軽になるんじゃないかと思ってね」
マリ子「私のことよりあなたにとってどうなんですの?」
新八郎「マリ子さん」
マリ子「答えていただけません? あなたは身軽で出征なさりたいの?」
新八郎「男として当然のことです」
マリ子「私、さっぱり分かりません」
新八郎「僕は婚約という名によって最愛の君を縛りつけたままで出征できないんだよ」
マリ子「そんなこと、約束を守ればいいだけじゃありませんか」
新八郎「約束?」
マリ子「まあ、もう忘れたの? 私を裏切らない、私を不幸にしないというあの約束を」
新八郎「いや、それは…」
マリ子「一旦縛ったんですもの。そんな簡単に解消されて、私、たまりますか!」
マチ子「マー姉ちゃん」
マリ子「だってそうでしょう? この人、戦争に行ったら死ぬと決めてかかってるんですもの。そんなの…婚約者としてそんなに勝手に解消されてたまりますか!」
新八郎「マリ子さん」
マリ子「せっかく頂いた結納ですもの。私、絶対に返しませんからね。いいでしょう? お母様」
はる「もちろんですよ。よろしいですね? 東郷さん」
マリ子はこれから新八郎の部屋の片づけを手伝うと言う。新八郎の部屋で本を縛ったりテキパキ作業を進めるマリ子は本の間から新八郎の写真を見つけた。荷物は鹿児島の家に送る。
マリ子「そのかわり」
新八郎「うん?」
マリ子「このお写真、今日のお駄賃に私にくださいね」
マリ子の写真もすぐに久留米の連隊気付で送ると言う。
新八郎「それで届いたらお慰みだね。一体連隊にはどれだけの兵隊がいると思ってるんだい? マリ子さん」
マリ子「だったら所属の班を無事着いたと電報でも電話ででも知らせたらいかが? 毎朝さん」
新八郎「こいつ!」
うわー! 昭和だなー。
笑いあった二人がふと見つめ合い、マリ子は目をつぶるが、新八郎は、マリ子のおでこにキスをした。
天海朝男も新八郎みたいに出征するなら身軽な方がいい派だったな。とりあえず籍だけでもいれてしまおうという人とどっちが多かったのかな?