公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
塚田(日下武史)から、信州の疎開先は身体を壊した細谷(下條アトム)のために探したと聞かされるマリ子(熊谷真実)。しかし、マチ子(田中裕子)の才能を潰さないため、細谷が磯野家を疎開先に行かせたがったと言う。一方、茜(島本須美)から文部省の絵画展のことを聞いたはる(藤田弓子)は締め切りまで3日という中、マチ子に東京生活総決算の画を描いて出展するよう命じる。見事、賞を勝ち取ったマチ子が描いたものは…。
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信州疎開の件は磯野家家族会議で決定を見たのですが…
陽談社ロビーのソファーに座るマリ子と塚田。
塚田「そうか…。マッちゃん、細谷んとこ行っちまったのか…」
マリ子「ええ。それでとてもあの子、悩んでるみたいでしたけれど…」
塚田「まずかったよな~、そいつは…」
マリ子「ということは?」
塚田「いいか? これはあくまでもここだけの…2人だけの話なんだからね」
マリ子「はい」
塚田「実はだな…この疎開の口は細谷のためのものだったんだ」
マリ子「塚田さん」
塚田「血ぃ吐いてぶっ倒れやがったんだ。まあ、そんなこんなでとにかく都落ちして体治せってことでね。で、まあ信州の疎開先を見つけたっていうのが実情なんだけれども…」
マリ子「待ってください。それじゃあ私たちが疎開先を横取りするようなことに…」
塚田「違うんだ、違うんだ、だから聞いてくれよ」
マリ子「でも…!」
塚田「いや、違うんだよ。横取りじゃないんだよ。これはねやつが自分から譲ったんだ」
マリ子「そんなことできません!」
塚田「そうさ。だから俺もそう言ったよ。バカ野郎…そんな体でお前、東京に残ってたら、いずれ火葬場行きだぞって。そしたらやつの言うことはだな、たとえそうなっても自分一人で済む。しかし、磯野家には女ばかり4人いるって」
マリ子「そんな…」
塚田「話してみて、俺も初めて分かったんだ。あいつほどマッちゃんの才能を愛してる男はほかにいないってね」
マリ子「それは…」
塚田「まあ…この戦争がどうなるか俺たちにも皆目見当がつかないけれども、でもやつは言うんだな。いずれじゃんじゃん本が出せるような時代が来る。そしたら磯野マチ子は必ず世に問う漫画を生み出す作家だって。そのためにも生き延びさせたいし、また…女学生の頃から面倒見てきた編集者として絶対に生き延びさせなければならないってね」
マリ子「だからと言って」
塚田「俺も粘ったさ。けどな結局やつの熱意に負かされたんだ。だからこそ俺はお前さんちの使者に立ったわけさ。頼む。やつの願い聞いてやってくれ。このとおりだ」
マリ子「塚田さん…」
塚田「大丈夫だ。細谷のことは俺たちに任せとけ。まあ考えてみたらやつを一人信州に送り込むより東京に残しておいてだな、俺たちが闘病生活ちゃんとさせれば死なせるようなことは絶対ない」
マリ子「そうでしょうか?」
塚田「そうさ。今、療養所にも八方手を尽くしてだな入院手続き取ってる。順番待ちしてるだけなんだ」
マリ子「本当にその方が細谷さんにとってよい方法なんでしょうか?」
塚田「ああ、それが一番さ。だからやつの厚意を無にしないでくれ。なっ? それからこのことはだ、ただ心配かけるだけだから、お母さんにもヨウ子ちゃんにも絶対言っちゃ駄目だぞ」
マリ子「はい…」
塚田「おい、しっかりしろよ、マー姉ちゃん。ヨウ子ちゃんにお前さんがついてるのと細谷に俺がついてるのとおんなじことじゃないか。それとも何か? まさかこの俺じゃ信頼できねえっていうのか?」
マリ子「いえ、そんなことありません」
塚田「ハハッ、よ~し。だったら頑張ることだ。なっ? それだけだ」
マリ子「はい」
この人たちのギリギリの厚意を無にしてはいけない。マリ子は改めてそう疎開の決意をいたしました。
はるはウラマド姉妹の家でお茶しながら「ご一緒においでになりませんですか?」と疎開に誘う。同席していた天海タマも誘っていたという。タマははるの誘いを断った。
タマ「いえ、私まで誘ってくだすってどんなにうれしかったか。あたしゃあ一晩泣いたくらいです。でもね、奥さん、私はここで朝男が帰ってくるのを待っていてやりたいんです」
はる「おかみさん…」
ウララ「それなら私たちもそうしましょうよ、マドカさん」
はる「奥様…!」
ウララは暮らしにくくなるばかりだし、姉妹でどこかへ行こうと相談したこともあったが、タマが残るのなら心丈夫だと言い、普通に暮らしているつもりでも、西洋かぶれがどうのといろいろ言う人もいる。はるがまっとうに暮らしていれば気にすることはないというが、ここだから馬耳東風で過ごせるが、慣れない土地だと向こうの方がめんくらってしまう。この生活を変える気は毛頭ない。
マドカ「考えてもごらんなさいませな。私と姉とがちんまりとしまの着物を着たおばあちゃん姿になるところなんか想像できまして?」
それはちょっと無理というものでしょう。
はる「はい」
ウララ「ですからどうぞご心配なく。私も妹もまあたとえ何と言われようとまっとうに暮らして、かつ、自分を最後まで偽らずにまいりたいと思っておりますの」
マドカ「それに奥様にはヨウ子ちゃんがいらっしゃるし、これからの方たちのことをお考えにならなければなりませんわ」
紅茶を温め直すと席を立つマドカ。
お年寄りとは一本筋が通った人たちのことをいうのでしょうか。このウラマドきょうだいもおタマさんも事に臨んではっきりと自分の信念を持った人々でした。
はるが家に帰ると喜多川茜がいた。
はる「まあまああなたが? いらっしゃいませ」
意外と初対面。一緒に伊豆に疎開しないかという話に来たのだった。マリ子は茜にいつ疎開するのか聞くと、「文部省主催の絵画展をご存じ?」と言い、締め切りまであと3日だから最後の出品をしてからにすると答えた。
マリ子「すばらしいわ。伊豆にお帰りになっても絵をお続けになるんでしょう?」
茜「今、私から絵を取ったらもう何の取り柄もない女になってしまいますもの」
はる「結構です」
茜「はあ?」
はる「いつ、どんな世の中になっても決して自分をなくしてはなりません。まっとうに我が道を行くべきです」
茜「はあ…」
さて、その夜のことです。
はる、マリ子、マチ子で食事中。
はる「ですから、文部省の絵画展に出品する絵をお描きなさい」
マリ子「えっ!? お描きなさいって締め切りまであと3日ですよ!?」
はる「そうですよ。だから今夜から直ちにかかればいいでしょう?」
久々に出ました。女ヒトラーの独裁宣言が。
マリ子「お母様…」
はる「まあ、マリ子がどうしてそんな顔をするの? 私はマチ子に命令しとるのよ」
マチ子「ええっ!?」
はる「マリ子には野戦食糧の標本のお仕事があるではありませんか。ねっ? あれだけはどんなことをしてでも疎開する前に描かなければなりません。文部省の絵画展に挑戦するのはマチ子の務めです。東京生活の総決算としてしっかりと頑張りなさいよ」
ぼう然とするマチ子とそれを見ているマリ子。
かくして事の成り行きは…
マチ子はキャンバスに向かい女の子を描いていた。
細谷「やったね、マッちゃん…! そうなんだよ…君にはそれだけの力があるんだよ。負けるなよ。たとえどこへ行ってもな」
布団の上で新聞を見ていた。
そうです。やってみるものです。この水彩画にこの年の文部大臣賞がさん然と輝きました。
ヨウ子「おめでとう、マッちゃん姉ちゃま」
マチ子「ヨウ子!」
はる「努力する者は必ず報われるのですね。こうなってみると向こうの学校でも文部省の受賞者を先生に迎えるんならご安心でしょうしね。それにご紹介してくださった細谷さんに対しても何よりの感謝のしるしになったじゃありませんか」
マチ子「ええ、本当に」
ヨウ子は体が疲れるからとはるが2階へ連れて行った。マリ子は改めてお祝いを言い、マチ子はマリ子の頬をつねった。
マチ子「お返し! 福岡新聞の金賞取った時、マー姉ちゃん、こうやって夢じゃないかと確かめたでしょ?」
そのシーンがあったのは2話だったかな?
マリ子「でもあれ題材がよかったのよ。変に時局的なものじゃなくてあの夢みるような童の姿が審査員の心を捉えたのよ。よくやった!」
マチ子「本当にそう思ってくれる?」
マリ子「ええ! 私でさえちょっぴり不思議な感じがしたくらいですもの」
マチ子「あれはね…私の姪を描いたの!」
マリ子「マチ子の姪?」
マチ子「お母様、東京生活での総決算を描きなさいとおっしゃったわ。だから考えたの。私の東京生活での一番大きな出来事は、やっぱりマー姉ちゃんの結婚だった」
マリ子「マチ子…」
マチ子「この絵は東郷さんとマー姉ちゃんへの私の心からのプレゼントなの。もし生まれることがあったら、きっとああいうかわいい姪だったんじゃないかと思って」
マリ子「…」
マチ子「ごめんなさい。気を悪くした?」
マリ子「バカね。気を悪くするわけないでしょ」
マチ子「マー姉ちゃん」
マリ子「ありがとう、マチ子。本当にありがとう」
マチ子「よかった~!」
電話があり、マチ子が受けた。
独りになったマリ子が「私の娘…」と一人微笑む。
マチ子の絵が60円で買い手がついたという話に、はるは「結構です。直ちにお売りなさい」と即決。
はる「信州での新しい生活が始まるんですよ。あの絵はそのための東京総決算の絵ではなかったの?」
マチ子「分かりました。そのかわり、その60円、私に下さい」
はる「えっ?」
マチ子「その60円、私に下さい!」
はる「結構です。いいですよ」
マチ子「ありがとうございました!」
その60円、マチ子は何故に欲しいとこだわったのでしょうか?
事前番組で大まかなあらすじとして福岡に行くことは知っていたから、なぜ今になって信州が出てくるんだと思ったら、原作にも佐久行きが決まっていたのだと知りました。その過程をこれからどう描くのか? やっぱりあぐりと同じように疎開するにも東京の近くで、と考えていたんだね。
そりゃそうだよなあ。生活の基盤があって、一時的に離れるだけなら地元に帰るのは遠い。伊豆もいいよね~。細谷さんも塚田さんもタマさんもウラマド姉妹もみんなそれぞれいいなー。みんな好き。みんな助かって欲しい。