公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
憲兵隊に連行された田河(愛川欽也)たちは、漫画「のらくろ」が軍隊を揶揄しているのではないかと尋問される。軍曹(井上博一)が来て、言いがかりのような追及は逃れたものの、戦意高揚のために漫画を描くように言われる。その話を聞いたマチ子(田中裕子)は、自分が軍のために漫画を描くことになれば筆を捨てると言い放つ。程なくして、マリ子(熊谷真実)の写真が掲載された雑誌が発売。皆が方々からお祝いにかけつけて…。
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今日は出演者がいっぱい。
田河邸を訪れたマリ子とマチ子。マリ子は「これもみんな陽談社や田河先生のお口添えを頂いたおかげです」とお礼を言うが、順子は「いいえ、それはね、もともとあなたが持っていらした実力と強い御運ですわ」と言った。
順子「先生も言ってましたでしょう? この世界で情実ばかりは通用しないって」
マリ子「でも手を貸してくださる方がいらっしゃらなかったら、その運もなかなか開けるものではございませんし」
順子「ありがとう。そう言ってくださると先生も喜ぶわ」
水泡と細谷は憲兵隊に呼ばれていた。
順子「『のらくろ』がけしからないんですってよ」
順子も均もこれからは気を付けて描かなければならない、描きたくても描けなくなるとマチ子に言った。
マチ子「そんなこと…一体、誰がどんな権利で言えるんですか! だって、先生の『のらくろ』が干渉されるなんてこと、私…我慢できない!」
憲兵隊に呼ばれた水泡と細谷。
軍曹「すると何か? 貴様は『のらくろ』は軍隊を描いているのではないというのか?」
水泡「はい、そのとおりです」
軍曹「バカを言え、バカを! 軍隊でもない『のらくろ』が何で階級章をつけとるんだ! 詭弁は許さん!」
水泡「はあ。ですから、その…これは子供たちの兵隊ごっこだっていうふうに解釈していただければ」
軍曹「兵隊ごっこだと?」
細谷「そうなんです。『のらくろ』を掲載している『少年倶楽部』は大体小学生が対象なもんですから」
軍曹「だからこそ問題なんだ! 子供は国の宝だということを知らんのか、貴様らは! 日本の子供は(立ち上がり直立不動)恐れ多くも天皇陛下の赤子(せきし)である! その少国民にだな、たとえ、ごっこにせよ軍隊とはこのようにいいかげんなところであるという先入観でも植え付けるような漫画は、この非常時にはとりもなおさず利敵行為になるんだ」
水泡「しかしですね…」
軍曹「しかしも何もない! 貴様、軍人精神を知らんのか!」
水泡「いえ、知っております」
軍曹「知っておるなら、なぜのらくろが捕虜になるんだ!」
水泡「ですから彼はそのあと味方に有利な情報をつかんで必ず手柄を立てます」
軍曹「手柄など関係ない!『生きて虜囚の辱めを受けず』。これが(またしても直立不動)天皇陛下の軍隊である!」
細谷「申し訳ありません。私どもとしてはあくまでもそのつもりはないのですが、以後、気を付けることにいたします」
言いがかりもいいとこですが、何せここは鬼の憲兵隊です。
上官が入ってくる。
軍曹「あっ!」イスを整える。
水泡「はあ」
軍曹「『はあ』じゃない! 見ろ! 貴様これでも軍隊をバカにしてないというのか! ええ!? いやしくも犬の足を連隊旗に掲げるとは! 軍隊を笑いものにしてる証拠だろ、貴様らは!」
将校は水泡たちにタバコをすすめる。
水泡「いや、結構です」
将校「そうですか」将校のタバコにサッとマッチで火をつける軍曹。
将校「今、私の上官とも話し合ったんですがね、この連隊旗で命拾いしましたよ、君たちは」
細谷「はあ?」
将校「つまり日章旗でないということは『のらくろ』は架空の国の軍隊であろうということです。」
軍曹「ちゅ…中尉殿!」
将校「バカ者! たかが漫画じゃないか。いちいち雑誌の揚げ足を取るようなことしか憲兵隊にはやることがないのか!」
軍曹「はっ!」
将校「まあそういうわけでしてね、君たちに来てもらった件については一応我が方で意見の一致を見ました」
細谷「あっ…」ちょっと笑顔になる。
将校「しかしですな…」
細谷「はい」
将校「『少年倶楽部』における少国民への影響は絶大なものと思われるので、今後ともその点に留意し、戦意高揚に効果ある人気漫画を志すようここに注意しておく!」
磯野家では、マリ子とマチ子が今日の出来事をはるに話していた。僕はただ子供たちに生きる夢と勇気と楽しさを与えたかっただけだと水泡は悔しがっていた。
マチ子「私、もし戦意高揚の効果ある漫画を志せって注文つけられたら絶対に筆を捨てる。だってそうでしょう? 今、日本が戦争をしてるのは知ってるわ。でも何百年も戦争が続くわけじゃあるまいし、戦争好きの子供をつくるのが漫画家の仕事じゃないもの」
はるも憲兵隊から原稿料を頂いてるわけじゃないという。
水泡「前にも言ったように僕が『のらくろ』を始めたのは昭和6年だったが僕は本当に路地裏で兵隊ごっこをやってる子供たちの姿を『のらくろ』の世界を借りて描いたつもりなんだがやっぱり責任を感じるな」
均「責任といいますと?」
水泡「『明るく元気に生き生きと』がモットーなんだが、もし僕の『のらくろ』を見て子供たちが戦争とはこんな気楽なもんだと思ったりしたら、やっぱり、ある間違った考えを植え付けたことになる」
マチ子「先生…」
水泡「軍隊ってのは本当に嫌なとこだ。これは実際、僕が初年兵として味わった実感だけどな」
嫌な情けない思い出しか残ってないとマリ子たちに語った水泡。これからどうするか分からないが、マリ子のことをとても喜んでくれてしっかり頑張れと何度も握手してくれた。菊池寛の小説なら戦意高揚もないだろうというはる。
マチ子「戦意高揚はなくても非常時なんだから恋愛沙汰でうつつを抜かしている暇はないって言ってきそうな予感がするの」
はるは考え過ぎだと言い、愛というのは人間が生きていく基本で、この非常時だからこそ人は愛を忘れてはいけない。
マチ子「だったらどうして石川達三氏の『生きている兵隊』が発禁になったのかしら? どうして雑誌社はあんなにたくさんの作家を従軍させるの?」
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はる「さあ? 私には難しいことはよう分からんけど」
マチ子「ちっとも難しくなんかない。『生きている兵隊』には虐待や虐殺がありのままに書かれていたって話でしょう。つまり知られて都合の悪いことは全部押し潰されていくのよ」
マチ子はとても不安だと言って、思いつめた表情で部屋を出て行った。
はる「難しい世の中になっていくのね」
マリ子「ええ…」
はる「とにかく戦争が一番いけないのよ。人と人とが殺し合うなんてこと、神様がお許しにならないはずです」
マリ子「はい」
はるとマリ子は夕食の準備を始めた。
そうです。泥沼化する戦争に不安を抱きながらも人間は三度三度ごはんを食べていかなければなりません。
秋も深まり、そうした日常の中で新年号の予告を載せた「女性倶楽部」12月号が華々しく売り出されました。
朝男は「女性倶楽部」を何冊も抱えて磯野家を訪問。
はる「だけどもマリ子がこんなふうに世に出るとは思いも寄らなかったわね~」
マチ子「ひど~い。お母様にそんなこと言えた義理ですか?」
どうしてこんな風に写真入りで騒ぎ立てるのか?とはる。
朝男は両手に持った扇子を広げてマリ子にエールを送る。庭に来ていたタマもお祝いを言いに来た。朝男は刺身づくりに一旦帰宅。ウラマド姉妹もフランスの文鎮をプレゼントに訪れ、酒田親子、花江もお祝いに訪れた。
嫌なことがあればいいこともある。それが浮世というものですが、この日、うれしい顔が飛ぶように磯野家に集まってまいりました。
ドタバタ劇もあるけど、シビアなところは思い切りシビア。こういう所が昔のドラマの好きなところです。
ただの感想ではなく、現在の藤田弓子さんにリモート取材している記事。「おしん」あたりも今再放送で話題の~といくつかネット記事で見かけ、今後のネタバレ満載の東てる美さん、並樹史朗さんの対談記事とかいろいろあったけど、「はね駒」や「あぐり」ではそういった記事を見かけらずちょっと寂しかった。あ、「はね駒」は矢崎滋さんの近況を取材した記事があったっけ。
今でも交流が続いてるということや、藤田弓子さん自身の母をサンプルにしたというのも初耳話で面白かった。