TBS 1977年12月20日
あらすじ
八月、日本はついに敗れて引き揚げが始まるが、二年が過ぎても新二(大和田獏)は帰らない。いせ(市原悦子)は息子の死を信じることが出来ず、舞鶴港に通っては帰還兵に新二の消息をたずねていた。
2024.8.6 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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水野のぶ子:小畑あや
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高間イワオ:陶隆司
勝子:水澤摩耶
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兵長:土方弘
老婦人:大川万裕子
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
<私の身の上のことで何かにつけて相談に乗っていただき、頼りにしていた三浦先生の戦死のお葉書を頂き、これからどうしたらいいのか全く心細くなりました>
仕事が手につかないいせ。
新二がいせの手紙を受け取り読んでいる。
いせの手紙
三浦先生が戦死されました。新二、お前だけは、どんなことをしても生きて帰ってきておくれ。
新二<先生。どうして…どうして死んだんですか? 先生>
端野家
いせがラジオをつけると、「勝利の日まで」が流れた。
この前は昭和19年の正月のシーンで流れたけど、ラジオで流れたというわけでもないので字幕も出なくて、何度も何度も聴いて、すごく苦労して探し当てた曲。
マニアックな曲だと思って検索したら「本日も晴天なり」でも流れてた。こちらは昭和19年の大みそか。
のぶ子が元気なく帰宅。「おばさん、ラジオ聴きました?」
いせ「なあに? 今、つけたばかりだけど」
のぶ子「沖縄がやられたんです」
いせ「そう、沖縄が…」
当時の白黒映像
砲声と爆発音
<神風特別攻撃隊や沖縄守備隊の攻撃に日本中が最後の願いを懸けていたのでございます。とんでもない。昭和20年6月下旬、沖縄は悲惨な戦いが40日ほど続き、全滅したのです。沖縄では日本陸海軍、民間人、合わせて、20万余りの人が亡くなりました>
のぶ子「会社でみんな言ってます。いよいよ本土決戦の時が来たって。海にはアメリカの軍艦が押し寄せているし、サイパン、硫黄島、沖縄には我が物顔で飛行機が飛び回って…」
<飢えと闘いながら、それでも日本は戦い続けていたのです>
防空演習
高間と一緒に女性たちが防空必勝の誓(ちかい)を読み上げる。
一、私達は「御国を守る戦士」です。命を投げ出して持場を守ります。
一、私達は必勝の信念を持って最後まで戦い抜きます。
一、私達は準備を完全にし、自信のつくまで訓練を積みます。
一、私達は命令に服従し、勝手な行動を慎みます。
読み上げたのは3番目までだけど、壁にはもっと書かれてました。
高間「突け~!」
いせ「ヤーッ!」
高間「あ~、もっと気合いを入れて! 突け!」
藁人形を突いたり、バケツリレーの練習をしたり。バケツリレー、今回ははしごに登ってる人もいて難易度高い。
高間「さあ、もっと速く! 全て迅速機敏に!」
いせははしごに登ってる人の手前にいるので水もかぶりやすいし、バケツも持ち上げないといけないし、大変なポジション。
高間「さあ、どんどん、どんどん!」
上にいた女性からバケツがすっぽ抜けて、いせの頭へ。
高間「真面目にやれ!」←なぜ、いせを指さす。
いせ「はい」
高間「本土決戦が迫ってる。あんたたち女がしっかりしなきゃ! ええ? え~、一億一心、勝利の日まで頑張るんだ!」
帰り道、マイ竹槍を肩に歩く女性たち。
勝子「新ちゃんから便りありますか?」
いせ「このところ…」
勝子「うちもそうなの。修一からなんにも言ってこなくて…端野さんは、のぶ子さんとご一緒で心強いわね」
いせ「おかげさまで」
勝子「私、時々思うの。娘が1人でもいてくれたらって。年ですもの。すぐ疲れが出ちゃって」
いせ「まあ、息子が帰ってくるまで辛抱しましょうよ。しかたありませんよ、ねっ」
こんなときだけ娘がいればって、息子しかいない母親の傲慢さを感じた。
勝子「でも、帰ってくるって保証があれば、どんなつらいことでも辛抱できるけど、これで息子がもし戦死でもしちゃったら、なんのために生きてたか分かんないわ」
いせ「奥さん、帰ってきますよ。きっと帰ってきますよ」
勝子「そうですわよね。そう思わなくちゃたまんないわ。じゃあ」
いせ「ごくろうさま」
のぶ子と一緒に家に入ったいせ。「やれやれ」
のぶ子「敵は大砲や飛行機なのに竹槍なんか役に立つのかしら」
それぞれ台所に立ち、コップの水を飲み干す。
いせ「なんにもしないよりいいでしょ」
のぶ子「敵が上陸するようになったら新二さんとも会えない」
いせ「のぶ子さん、そんな弱気でどうするの? 私たちがこうやってる間にでも新二は、お国のために戦ってるのよ」
イライラしてるなあ~。
兵長「第2ほふく前進、始め! ほら、もっと頭下げろ! これ! 頭が高い!」ほふく前進している兵士を鞭で打つ。「低くしろ、ほら! こら! ほら!」
兵士たちはひたすら銃を持ったままほふく前進している。
兵長「状況、終わり! 集まれ!」
兵士たちが並ぶ。
兵長「注目。いいか、お前たちが知ってのとおり、硫黄島も沖縄も落ちた。あとは我々がいかに戦うかに帝国日本の運命が懸かっている。連合軍の目標は、今や日本である。情報によれば、ソ連と国境付近に不穏な動きがある。我々は、これより先、ソ連が参戦した場合に備え、常に警備を怠らず、哨兵を増強することになった」
「3人家族」で耕作が自分のことを戦時中は鬼伍長だったとハルに話していた。
河島屋呉服店から出てきたいせ。旅館伊州屋の前を通りかかると、女性連れの高間と鉢合わせ。いせは言葉は交わさず会釈だけして通り過ぎた。
家の前まで来ると勝子が向かいから出てきた。お向かいさんだったんだ!?
勝子「あら、お出かけでしたの?」
いせ「ちょっと呉服屋さんまで」
勝子「いいわね、仕事があって」
いせ「直し物(もん)ばっかりで…」
勝子「そうそう、組長さんのこと聞いた?」
いせ「なあに?」
勝子「女の人としょっちゅう旅館に出入りしてるんですってよ。まあ、男やもめだからしかたないようなもんだけど、私たちには非常時だ、非常時だって、うるさく言っときながら…あっ、配給のお米、横流ししてんじゃないかって、もっぱらの噂よ。あんな人、戦争でもなかったら頭なんか下げるもんですか」
いせ「勝子さん」辺りを気にする。
勝子「えっ? ああ…じゃ」
突如現れたお向かいの勝子さん役の水澤摩耶さんは「岸辺のアルバム」3話や「心」の3話に出てたらしいけど、何の役か分からないなあ。
それにしても「岸辺のアルバム」の時枝を演じた原知佐子さんは当然だけど赤いシリーズの役とは全然違ってて、こちらもよかった。幸子の母と光夫の母の共演。
端野家
鍋の底の雑炊をお玉ですくういせ。「困ったわね。また配給のお米、1割、減らされるんだって」
のぶ子「おばさん、私、千葉の叔父のうちに行ってきましょうか。あの辺なら少しは食べ物は…」
いせ「やめなさい。イヤなんでしょ? 叔父さん。私のためにそんな無理しなくてもいいわよ」
のぶ子「すみません」
いせ「のぶ子さん、その『すみません』っての、やめてくれない?」
のぶ子「…」
いせ「悪かったわ。今日、ちょっとイヤなことがあったもんだから…いいの。つまらないこと」
のぶ子「いただきます」
いせ「いただきます」
気まずい食卓…イライラしてるのは、いせだけ!
<人一人、必要なカロリーは2400カロリーだそうです。昭和20年7月ころの配給では半分のカロリーしかなかったんですよ>
森西町内會
總合配給所
高間「あ~、今日は小麦粉7日分の配給ですよ」
係員「はい、次の人」
少し遅れて列に並ぼうとしていたいせを見つけた勝子。「あら、奥さん」
高間「はい、次。え~、この人は7合」
係員「はい」
高間「はい、次」
勝子が受け取って帰っていく。
高間「あ~、1升3合ね。はい、次」
順番はどんどん進む。
高間「ちゃんと開いて、はい」持参した袋に詰める方式。
しかし、いせの前の女性の番になると「今日はここまでです」と戸を閉めた。
いせ「え~? まだあるじゃないですか」
女性「今度はいつですか?」
高間「さあ、分かりませんね。今日、配給受けられなかった人は、この次、優先します」
いせ「まだあるんですよ、中に」
女性「欲しいわよねえ、もう」
いせ「どうしてでしょうねえ」
女性「ねえ」
しかたなく帰っていく女性たち。
高間「端野さん。あんたでしょ? 町内にわしのこと言って回ったのは」
いせ「冗談じゃありませんよ。なんで私が組長さんのことを?」
高間「じゃあ、誰が言ったんです?」
いせ「知りません。私のことを疑うより、ご自分で気をつけたらいかがですか。息子は満州に行ってます。お国のために働いてるんです。そんな…息子のことを考えるので精いっぱいですよ。組長さんのこと触れ回るなんて、そんな余裕ありませんよ」
はっきりと言い返せるいせ、いいねえ~。
近くで待っていた勝子が「ああ、奥さん、どうかしたの?」と話しかけてきた。
いせ「どうってことは…」
勝子「気をつけたほうがいいわよ。あの人、男のくせに女みたいなとこがあるから執念深くて、にらまれたら損よ」
いせ「ええ」
勝子「どんどん疎開するうちも増えてるけど、お宅どうするの?」
いせ「行く所もないし、新二が帰ってきたときにうちにいてやらないと」
うなずく勝子。
家の前
勝子「端野さん、残念だったわね。ほんの一足違いだったのに」
いせ「今度いつかしら? 配給」
勝子「ねえ」
いせ「それじゃ」
勝子「じゃ、どうも」
端野家
いせは「ただいま」と家の中へ入るが、1階には誰もいない。のぶ子は2階の新二の机で何かを手に握りしめていた。
階段を上ってきたいせ。「のぶ子さん」
のぶ子「おかえりなさい」
いせ「何してるの? こんな所で」
のぶ子「お昼から臨時休業になっちゃって」
いせ「なあに? それ」
のぶ子「新二さんが満州に行く前に2人で神社にお参りに行ったんです。そのとき、お互いにお守りを頂いて、それを交換したんです。私が空襲のとき助かったのも、この新二さんのお守りがあったからかもしれないんです」
そっぽを向くいせ。
のぶ子「おばさん。新二さんはどんなに戦争がひどくなっても帰ってきます。必ず帰ってきます」
いせ「誰が帰ってこないって言ったの? 帰ってくるに決まってるわよ。新二は、あんたのお守り持ってるんだから。あの子は鬼に金棒ね。私とあんたのお守り持ってるんだから」
のぶ子「すみません」
いせ「なぜ私に謝るの?」
のぶ子「あの…そんなに気を悪くなさらないでください。私、ただ、自分の気持ちだけで…新二さんのことが私、あんまり心配で」
いせ「何を心配してるの? ただ心配してたってダメよ。あの子のことをどれほど知ってるの? どんな思いで、あの子を育ててきたか…」
のぶ子「それはよく…新二さんが出征する前にいろいろ話してくれましたから」
いせ「なんでも知ってるのね。よしましょう、もう」階段を降り、新二の写真の前でうなだれた。「新二…早く帰ってきておくれ」
兵長「ほふく前進!」
ほふく前進して、走り出す新二たち。
兵長「突っ込め!」
兵士たち「ヤーッ!」
いせが外を歩いていると「露営の歌」が聞こえた。
⚟♪進軍ラッパを聞くたびに
瞼に浮かぶ旗の波
兵士「皆さん、元気で行ってまいります!」
一同「万歳! 万歳! 万歳!」
兵士「ありがとうございました!」
先日の老婦人と再会した。「嫁の実家にやっかいになってたんですが、おじいさんが気兼ねしちゃって帰ってきたんですよ」
いせ「そうですか。田舎のほうに疎開されたって聞いたもんですから」
老婦人「やっぱり自分のうちが一番いいですよ」
サイレンが鳴り、老婦人の手を引っ張って逃げるいせ。
<沖縄が落ちてから一段と空襲が激しくなって6月下旬から7月にかけて、四国、九州方面をはじめとして日本全国がB29の空襲に遭っていたそうです>
防空壕で爆撃に耐えるいせと老婦人。
男性「ちきしょう。赤子の手をひねるように爆弾をまき散らさせやがって」
赤ん坊の泣き声がすると男性たちが「泣かせるな、泣かせるな」と注意する。
再びサイレンが鳴る。
警防団員「空襲警報、解除~!」
いせは老婦人の手を取り外へ。
神社の社殿の前の階段に腰掛けるいせたち。
いせ「のぶ子さんは新二の好きな人です。私だって、のぶ子さんをいい娘さんだと思ってます。だけども、鼻突き合わせて同じ屋根の下にいると、なんだかもうやりきれなくなって…」
老婦人「分かりますよ。あなたのお気持ちは、よく」
いせ「新二を思う気持ちが私とのぶ子さんとでは違うんですよ。それを一緒くたにされると…」
老婦人「私にも覚えがありますから。うちの息子は小さいころ、そりゃ、よく病気をしましてね、随分、心配したもんです。それに『お母さん、お母さん』って、私なしじゃいられないような子でした。ところが嫁が来てから、私のことなんか忘れてしまったように…さみしくてね」
いせ「のぶ子さんは親切のつもりかもしれないけど、ほっといてもらいたいんですよ」
老婦人「どうにもなりませんよ。そういう気持ち」
いせ「のぶ子さんとうまくやっていけると思ってたんですけどね」
老婦人「息子さんをとられるような気がするんじゃない? 私もこのごろになって、やっと分かったんだけど、やきもちね、きっと。息子さんが帰ってみえれば、案外、うまくいくかもしれませんよ。孫が生まれてから私も変わりました。諦めたのかもしれませんがね」
いせ「孫だなんて、まだそんな…」
老婦人「息子さんが帰ってこられたら、のぶ子さんと結婚させるつもり?」
いせ「…」
老婦人「そう」
いせ「どっかに迷いがあって…おかしいでしょうか?」
老婦人「ううん。おかしいもんですか。私も母親ですから」
端野家
「おばさん!」と駆け込んできたのぶ子。
いせ「どうしたの? そんな息切らして」
のぶ子「こっちの防空壕が爆撃に遭ったって聞いたもんだから、おばさんのことが気になって駅から走って」
いせ「大丈夫よ」
のぶ子「よかった」
<若いのぶ子さんの優しさに触れて、私も老け込んだものだと思いました>
夕方、庭で畑の手入れをしていたのぶ子をいせが呼ぶ。「もうそれくらいにして…ご飯の支度できたよ」
のぶ子「はい」
いせ「もう赤くなってる。ほおずき」
のぶ子「ああ、ホント」
ほおずきのみを取り出してモミモミ。
いせ「こうやってね、小さいとき、新二によく鳴らしてくれって、せがまれて」ほおずき笛を鳴らす。のぶ子を見て「できないの?」
のぶ子「ええ、父に連れられて、よく、ほおずき市には行ったんですけど」
いせ「新二が帰ってきたら3人で行こう」
のぶ子「ええ」
ほおずき笛を鳴らすいせとのぶ子。
<妙なもんです。急に仲よくなったり、お互いにギスギスしてみたり。でも、のぶ子さんと私は知らず知らず、寄り添うようにお互いを頼って暮らすようになっていたんです。人間ってそんなものですわね>
うまく鳴らせないのぶ子は笑ってしまう。(つづく)
終戦間近でも嫁姑は終わりなき戦い…というかいせが一方的にイラついてたんだけどね。戦争で満足に食べられない、仕事もできないイライラのせいかもしれないし、元々の性質かもしれない。でも、朝ドラでは描かれないような部分だな~と思った。昼ドラを見ていた人々は共感してたのかな~?
もう7月に入ったみたいだし、次回あたり玉音放送かな?