TBS 1977年12月21日
あらすじ
八月、日本はついに敗れて引き揚げが始まるが、二年が過ぎても新二(大和田獏)は帰らない。いせ(市原悦子)は息子の死を信じることが出来ず、舞鶴港に通っては帰還兵に新二の消息をたずねていた。
2024.8.7 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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水野のぶ子:小畑あや
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高間イワオ:陶隆司
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勝子:水澤摩耶
桂子:樋口和子
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
<昭和20年も夏に入っていました>
仕立物を持って、手ぬぐいを頭にかぶって帰ってきたいせ。家の前で手拭いを取り「暑いね」と空を見上げる。
<あの終戦の年の8月はホントに暑うございました>
昭和20年8月の東京は月の平均は26.7度だけど、最高気温は21日の34.0度。最高気温は連日30度超えなんだけど、最低気温が日によっては20度に届いてないから、夜から朝にかけては涼しいんだろうと思う。一日の寒暖差がまあまあ大きい。
庭の井戸で手ぬぐいを濡らして絞って首にかけて、家の中へ。「ハァ…ああ、あっつい」今度は手拭いを頭に巻いて、うちわで家の中を仰ぐ。「ああ…暑い暑い暑い」
うちわで仰ぎながら2階へ行き、窓を開け、ギターも仰いで、手ぬぐいで拭く。
<ホントに新二は『湯島の白梅』が好きだったんでございますよ>
新二<<♪湯島通れば 思い出す
お蔦 主税の…>>
満州の新二が銃を抱えて歌う…イメージシーン?
♪心意気
知るや白梅 玉垣に
のこる二人の 影法師
何度も歌唱シーンが出てくるので、もし新二役がオーディションだとしたら歌がうまいことが必須だっただろうね…と思ったけど、大和田獏さんのデビュー作ってわけでもないし、そこそこキャリアもあるからオーディションじゃないか。
こちら石田役の長澄修さんの奥様・桃子さんのインタビュー記事によると、夫婦ともども劇団四季出身とあったので、長澄さんが新二役の可能性もあったのかなあなんて思ったりした。石田さん、ギターは弾いてたけど、歌ってるシーンはなかった。でも、きっと美声だったに違いない。
裁ち台の前で仕立物をしているいせ。「日曜日だっていうのに…こんなご時世じゃ、なんの楽しみもないわね」
同じく繕い物をしているのぶ子。「ええ」
いせは作業をやめ、目を押さえ、膝を抱えるような格好になった。
のぶ子「痛むんですか?」
いせ「うん、ちょっとね」
のぶ子「もみましょうか?」
いせ「いいの。それやってしまいなさい」
のぶ子「はい」
いせ「どうしてるんだろう、新二は。手紙も書けないようなことになってるのかね」
のぶ子「私、昨日、手紙出しときました。おばさんが心配してるから葉書でもいいから出してくださいって」
いせ「いつ書いたの?」
のぶ子「昨日、会社のお昼休みに」
いせ「のぶ子さん」
のぶ子「はい」
いせ「今までにもそんなふうに手紙出してたの?」
のぶ子「いいえ」
いせ「あんたの会社に直接、新二からの手紙が届いてるの?」
のぶ子「おばさん…」
いせの怒りポイントが分かりづらく、のぶ子も大変だな。
いせ「新二からの手紙が届かなくなって、もう三月(みつき)にもなるんだもの」
のぶ子「おばさんの気持ちはよく…」
いせ「いつまで続くんだろう、この戦争。さて…日曜日は空襲も敵さん休みかな? お風呂行ってこよう。あんた、どうする?」
のぶ子「私はあとで…」
いせ「じゃ、先、行ってくるわね」
のぶ子「いってらっしゃい」
いせが出ていくと、のぶ子は繕い物の手を止め、新二の写真立てを手にする。「新二さん」
銭湯帰り、いせは高間が男たちに殴られているところを目撃した。
高間「やめて…やめてくれよ」
男「人の女に手ぇつけやがって」
しかし、男たちは、いせの姿を見て「あっ、まずい逃げろ」と去っていった。あおむけに倒れている高間。
いせ「組長さん」
高間「ああ…」
いせ「組長さん!」
高間「あんたか」
いせ「どうしたんですか? 組長さん」
高間「大したことじゃないんだ」
いせ「さあ、さあ」と助け起こす。
高間「ああ、すまん」
いせ「よいしょ。これで拭いていいですよ。まあ…」顔を拭く。
高間「ああ、どうもありがとう」
いせ「一体どういうことですか?」
高間「大したことじゃないんだ。自業自得だよ。あ、痛っ」歩き出す。
いせ「そうですか。あのときの女の人に与太さんがついてたんですか」
高間「バチが当たったんですわ。あんたたちに非常時だ、非常時だって、うるさく言っときながら、女遊びなんかしてたから…ヘッ。端野さん」
いせ「はい」
高間「(小声で)大きな声じゃ言えないが、ダメかもしれないね」
いせ「ダメ?」
高間「(小声で)戦争だよ。いずれ、この辺りも危なくなる。疎開するところがあったら早いうちに…」
いせ「いいえ。私、ここ動きません。行く所もありませんし」
高間「そう。息子さんから便りは?」
いせ「いや、それがどうしたのか手紙が来なくて…」
高間「ああ、心配だね」
いせ「はい」
高間「息子さん、満州だろう?」
いせ「ええ」
高間「なら、大丈夫だよ。ソ連が参戦すれば話は別だが、ソ連とは戦争しないって条約があるから」
いせ「ええ」
高間「ハハハハッ。あっ…いや、すまなかったね。わざわざ」
いせ「いいえ。元気を出して、組長さん。頑張りましょうよ」
高間「ああ」
いせ「戦争が終われば何かいいことがあるでしょうよ。私たち組長さんにどなられてるから張り合いがあるんですよ。組長さんが弱気になったら私たち不安になってしまいますよ」
高間「ハッ…ああ、ありがとう。じゃあ」
いせ「お気をつけて」
高間「ああ」
<あの人も悪い人じゃなかった。戦争があの人を変えていたんですよ>
いせさんって、男性に対しては加点方式、女性に対しては減点方式なのかも。別に普通に話せただけで悪い人じゃなかったという評価にならないよ。DV夫に対しても死んでしまったせいか懐かしむような発言ばかりだし。
端野家
帰ってきたいせは、2階でのぶ子が「湯島の白梅」をギターで弾いているのを見た。
のぶ子「おばさん、帰ってらしたんですか」
いせ「いつ覚えたの?」
のぶ子「最近です。友達に楽譜借りて」ギターを片づけようとする。
いせ「ふ~ん、いいわ。弾いて。いいからさ、続き弾いてちょうだい」
のぶ子「私…」戸惑いの表情。
いせ「お願い」←ここは笑顔だった。
いせの前で「湯島の白梅」を演奏。いせは歌いだす。
♪玉垣に
のこる二人の…
いせ「いいわね。(目を潤ませながら)おたまじゃくしが読めて」立ち上がって階段のところで手拭いで顔を覆って涙を拭いて、1階へ。
繕い物をしていると、のぶ子が下りてきた。「おばさん、私…」
いせ「布団敷いてちょうだい」
のぶ子「はい」
裁ち台を片づけて布団を敷き始めるのぶ子。いせは茶の間に移動して仕立物。
布団を敷き終わったのぶ子。「おばさん」
いせ「先に休んで。もう少し仕立物やっときたいから」
のぶ子「はい」
いせ「おやすみなさい」
のぶ子「おやすみなさい」ふすまを閉める。
自身をうちわで仰ぎながら仕立物を続けるいせ。
朝、暗い表情で出かけていくのぶ子。
防空演習
タバコを吸いながら待っている高間。いせと勝子が遅れてきた。
いせ「すみませんでした」
高間「ああ、さてと。そろそろやりますか」
怒らない高間に首を傾げる勝子。
高間「2列縦隊に整列! (せきばらいして)え~、本日は十分に気合を入れてやってもらいます。目の前に敵の兵隊がいる。自分がやられるか相手を倒すか、どっちかのつもりで本土決戦に備えて、本日から訓練に一層の力を入れてもらいます!」
ま~た首を傾げてる勝子。言葉使いがですます調になったから?
高間「構えて! 突け!」
いせ「ヤーッ」
そういえば、「ゲゲゲの女房」で茂の母・イカルは隣組の組長にどなり込まれても、バケツリレーには参加しなかったというエピソードがあったな。強い。
ナカジマ重工
昼休みに外でお弁当を食べているのぶ子と同僚。
桂子「うまくいってないの?」
のぶ子「ちょっとね…」
桂子「ねえ、どうしたのよ?」
のぶ子「端野さんとお母さん、ずっと2人っきりで暮らしてたでしょう。だから、時々、2人の間には入っていけないような厳しいものを感じちゃって」
桂子「ふ~ん、親一人、子一人。特に母親と息子のとこにお嫁に行くと苦労するっていうけど、やっぱりそんなものかしら」
のぶ子「お嫁って、私、まだ結婚したわけじゃ…」
桂子「でもあなた、端野さんが満州に行く前に帰ってきたら結婚しようって喜んでたじゃない」
のぶ子「新二さんが帰ってきてみないと結婚するかどうか…」
桂子「そう」
のぶ子さんに愚痴を話せる人がいてよかった~。
竹槍を持って帰ってきたいせと勝子は自宅前で別れた。いせは玄関の鍵を開けようとして手紙が挟まっているのに気付いた。
封筒の裏に書かれた差出人は
橋口勲
<橋口勲。聞いたこともない名前でした>
家に入り、封筒を開ける。
新二「母さん、元気でしょうね」
いせ「新二だ」
新二の手紙
「偽名で手紙を出したりして驚いたでしょう。こちらにもいろいろ事情があって、邦人の商人に頼んで出してもらいました。ところで新二は甲種幹部候補生の試験に合格しました。難しい甲種幹部候補生に合格できたのは自分の力だけではありません。母さんのおかげです。長い間の苦労がようやく報いられてうれしくてたまりません。母さんに一緒に喜んでもらいたいのですが、離れていて残念です。あとは、いつ内地の教育隊に帰れるか、それが楽しみです。日本へ帰るときは軍刀を腰につけて帰ります。新二も立派に軍人になることができました」
満州での新二はヘルメットに葉っぱをつけて隠れながら銃を撃っている。
手紙の続き
「一日も早く母さんに自分の軍人ぶりを見てもらいたいと思っています。帰る日が決まったら、お知らせします。自分が帰るまで元気でいてください。のぶ子さんにもよろしく伝えてください」
ウッキウキのご機嫌いせ。「お父さん。あんたが生きてたら一緒に喜べるのに。どうぞ無事に帰ってくるように…」仏壇に供えて鈴を鳴らす。「守ってあげてください」と手を合わせる。
♪思い出す
お蔦 主税の…
いせは鼻歌を歌いながら、庭に出てポンプでじょうろに水をくむ。
<新二が甲種幹部候補生に合格するということは責任のある位に就くことで、あんまりうれしくないことなのに、ただただ、あのときは帰ってこられるという喜びではしゃいでいたんでございます>
歌いながら畑に水をやる。
♪白梅 玉垣に
暗い顔で帰ってきたのぶ子。
いせ「おかえり。ご飯できてるよ」
のぶ子「ただいま」
いせ「待ってたのよ」
のぶ子「おばさん、お話が…」
いせ「なあに?」
のぶ子「長い間、お世話になっておきながら、こんなことを言うのは…」
いせ「なあに?」
のぶ子「私、千葉の叔父のうちへ行きます」
いせ「まあ、何を言ってるのよ。のぶ子さん、ちょっとこれ見てごらんなさい」
のぶ子「これ?」
いせ「新二からよ」
のぶ子「新二さんから?」
いせ「事情があって偽名になってるけど、新二からよ。読んでごらんなさい」
のぶ子は手紙を読み、いせは鍋をテーブルの上に運んできた。
手紙を読み終えたのぶ子。「おばさん…」
いせ「新二が帰ってくるのよ。待ってましょうね、のぶ子さん」
のぶ子「はい」
いせ「ごめんなさい、のぶ子さん。私もイライラしちゃって、あんたにつらく当たったりしたでしょう? でも、これもみんな、あの子から便りがないもんだから心配で心配で…許してね」
のぶ子「そんな、おばさん、私こそ」
いせ「ううん。私が悪かったの、ホントに。さあ、これも取って。ねっ、これも取って、さあ」のぶ子が肩にかけたままにしていたカバンを取って壁に掛ける。「ご飯ついでちょうだい」
夜、布団に入っているいせとのぶ子。
いせ「新二、どんなふうになってるだろう」
のぶ子「きっと軍刀が似合いますよ」
いせ「体格がいいから」
のぶ子「相撲部にいたんですものね、フフッ」
いせ「ああ、早く会いたい」
のぶ子「ええ」
いせ「帰ってきたら、あの子の好きなおはぎ作ってやろう。あっ、そうだ。どっかで小豆分けてもらっておかなくちゃ」
のぶ子「私、友達に頼んでみます」
いせ「頼むわね。ひょっとしたら、もう日本に向かう船に乗ってるかもしれない。手紙は届くのに時間がかかるから」
のぶ子「ええ」
爆発音
<昭和20年8月6日。広島にあの憎い原子爆弾が落とされたんです>
ラジオ「大本営、発表。昨8月6日、広島市は敵、B29少数機の攻撃により相当の被害を生じたり。敵は右攻撃に新型爆弾を使用せるもののごときも詳細は目下、調査中なり」
仕立物をしていたいせも手を止める。「新型爆弾…」
<8月8日、ソ連は対日宣戦布告をしてきました。9日には長崎にも原子爆弾が落とされました>
ラジオ「大本営、発表。8月9日0時ごろよりソ連軍の一部は東部および西部、満ソ国境を越え、攻撃を開始。また、その航空部隊の各少数機は同時刻ごろより北満および朝鮮北部の一部に分散来襲せり。所在の日満両軍は自衛のため、これを迎え、目下、交戦中なり。繰り返します」
冷やしキュウリを食べていたいせ。「どういうこと? ソ連が?」
のぶ子「裏切ったんです」
ラジオ「東部および西部、満ソ国境を越え、攻撃を開始。また、その航空部隊の各少数機は同時刻ごろより北満および朝鮮北部の一部に分散来襲せり」
キュウリを食べながらのぶ子の顔、ラジオを交互に見るいせ。(つづく)
イヤだ~、こんなに気持ちが乱高下する人と一緒に暮らしたくない~! 新二から手紙が来たことでうやむやになってしまったけど、千葉へ行ったほうがマシかも!? 次こそ玉音放送かな?