TBS 1971年8月3日
あらすじ
健一(森田健作)と竜作(近藤正臣)は相変わらずの険悪さ。ある夜、文子(榊原るみ)が健一を訪ねてきた。竜作はいつも不機嫌だが、文子は竜作のことを少しでも理解したくて、健一に話を聞きたかったのだ。
2024.1.17 BS松竹東急録画。
尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。
尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。
*
江波竜作:近藤正臣…先輩大工。
石井文子:榊原るみ…竜作の恋人。
*
安さん:太宰久雄…建具屋。
中西敬子:井口恭子…中西の妻。
高木一郎:朝倉宏二…もと子の甥。
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生島新次郎:杉浦直樹…健一の父の下で働いていた大工。
ホントに空き地に家建ててる~。ロケの多い回は周りの風景も見られていいね。
新次郎「おい、健坊!」
健一「ああ?」←相変わらず返事が…(^-^;
新次郎「1寸2分の釘、頼んだな? 昨日」
健一「ああ、言っといたよ」
新次郎「今日中にあらかた使っちまうからな」
健一「もう一回電話しとくよ」
日傘をさした敬子が訪れた。「こんにちは」
新次郎「あっ、どうも」
健一「いらっしゃい!」
敬子「暑くて大変ね」
新次郎「いや、今日は中、固めてますからね」
敬子「ご苦労さま」
新次郎「風通しもいいし、なかなかいいですよ、環境が」
敬子「そうですか?」
新次郎「ええ、昼間なんぞはね、なんだか私らだけででかい音出してるみたいでね。ハハハハ…」
敬子「まだご飯にしないんですか?」
新次郎「えっ? あっ、もう12時ですか?」
敬子「うれしいわ。時間忘れてやってくださるなんて」
新次郎「いやいや、こんなことはめったにないんですけどね。いいとき来たな、奥さん。ハッ。おい、健坊! 飯だよ。(敬子に)どうぞ、この辺、掛けてください」
敬子「ええ、どうも」
新次郎「おい、竜作、昼飯だよ」
健一「あっ、アイスクリームですか?」
敬子「あら、見えた? そうよ、そこで買ってきたの」
健一「いいなあ、あの…ちょっと手洗ってきますから」
新次郎「いやあ、大工の仕事ってのは食い散らかしでね。中だの外だのお天気しだいなんですよ」
敬子「大変ですねえ」
新次郎「まあ、ここんところね、珍しくお天気が続くんでね。まあ、今日は中へ入ってるわけですわ。ハハハッ」
敬子「そうですか。アイスクリームいかがですか?」
新次郎「えっ? あっ、そうですか。それはどうもすいませんね。ちょっと手洗ってきますから」
敬子「そうですね」
新次郎「おい、竜作! アイスクリームあるぞ、アイスクリーム」
敬子「ご苦労さま」
竜作「いえ」
今日も竜作はバカボンのパパスタイルなのにかっこよすぎる。
敬子「そうそう、あなた、アパートに1人で住んでるんでしたわね」
竜作「ええ」
敬子「お弁当、自分で作ってくるの?」
竜作「いや。尾形のおかみさんに実費払って作ってもらってるんですよ」
敬子「そう、それならいいわね」
竜作「じゃ」と去っていき、健一が「お先」と手を洗って戻ってきた。
敬子「さあ、アイスクリームどうぞ」
健一「ごちそうさま」
敬子「お母さん、お元気?」
健一「ああ…なんだか毎日怒られてますよ、俺なんか」
敬子「でも、頑張ってるじゃない」
健一「そりゃ、奥さんのとこの仕事ですからね。全力投球ですよ」
敬子「あ~ら、うまくなったんじゃない? 口が」
健一「いただきます!」
新次郎「この野郎、一番先に息抜いてんな」手を洗って戻ってきた。
健一「そんなことは言わないの。男が下がるよ、新さん」
敬子「はい。安いアイスクリームですけど」
新次郎「あっ、いや、こりゃどうも。いやあ、しかし、よく照りつけますね、毎日」
敬子「ホント」
新次郎「あっ、もうちょっと日が傾いてから来りゃよかったですね」
敬子「ええ。でも、夕方は忙しいでしょう? お昼に麦茶とサラダなんかどうかしらと思って」
新次郎「いや、いいんですよ。そんな心配は」
敬子「たまですもの」
新次郎「いやね、手ぶらでちょいちょい来てくださいよ。文句言われたほうがいいんですから」
敬子「いえ、お世辞じゃなくて主人も私も新さんのこと、とっても信頼してますから」
新次郎「いや、こらあ住んでから恨まれそうだな」
敬子「あら、そうなんですか?」
新次郎「えっ? いやね、どんな建築だってね、住んでみると、やっぱりちょっとやっぱり抜けた所が出てくるもんなんですよ。ヘヘヘッ」
敬子「それはしかたがないわ」
健一「あっ、奥さんのアイスクリームは?」
敬子「ううん。あの人が来てからと思って」
健一「は? あいつは遅いんですよ」
新次郎「おい、竜作! アイスクリーム溶けちゃうぞ」
健一「手だけじゃ済まねえんだから。顔から首まで洗うんですよ」
敬子「あら、そいじゃ、あなたはちょっと手ぬらすだけ?」
健一「それはひどいな」
顔を洗った竜作の長い前髪がファッサー。このくらいの時代のドラマって茶髪の人が時々いて「あしたからの恋」の和枝、直也、このドラマだと中西とかゆり子もか。ただ、竜作の茶髪だけはツヤツヤで不自然な茶髪っぽく見えない。それが今っぽく見えるのかも?
敬子「私たちね、アパートの人にまだうち建てること言ってないんですよ」
新次郎「へえ、そりゃどうしてです?」
敬子「だって言い触らしたりしたら感じ悪いでしょ? みんな、なんとかうちを建てられたらって何かっていうと、その愚痴ですもの」
新次郎「そうですね。土地が高すぎるんですよねえ。いや、この辺だって1坪買うのに、やっぱり半年や1年の貯金はたかなくちゃなりませんからね、ハハッ」
敬子「時々やみくもに引っ越したくて気が変になりそう」
新次郎「もうじきじゃないですか」
新次郎、敬子、健一を映しているカメラが少しずつ引くと手前に竜作が座ってタバコを吸っている。新次郎もだけど、妊婦の隣でタバコ吸ってんだよ。
敬子「私は幸せだけど」
新次郎「いや、赤ちゃんも幸せだな」
敬子「ええ。ここで育てられるのはホントにうれしいわ」
新次郎「あれですか? もう5か月入ったんですか?」
敬子「ええ、分かる?」
新次郎「えっ? いやいや、洋服のせいですね、ハハッ」
敬子「きっとここだって子供が大きくなれば、すぐ狭くなっちゃうでしょうけど、親子3人で大声出してケンカしてもよくてトイレに行くのにも気ぃ遣わなくてもよくて子供が夜泣きしてもお隣気にすることないなんてホントに夢みたい」
新次郎「そうですね」
田舎者の感覚だと家の間隔がそこまで広くないけどな…とは思っちゃう。周りに家いっぱい建ってるところだし。
面白くなさそうな顔していた竜作が吸っていた煙草を投げ捨て立ち上がる。
敬子「あっ、ごめんなさい。私ばっかり勝手におしゃべりしちゃって」
竜作「いえ」
敬子「あの…お水だったら麦茶まだ残ってるわよ、まだ」
竜作「水のほうがいいんです」その場を立ち去る。
新次郎「ハハハッ」
敬子「健一さんはいかが?」
健一「あっ、ええ、いただきます」
敬子「あの人、ちょっと怖いわね」
健一「ええ。変わってんですよ、あいつは」
敬子「ホント」
新次郎「職人も勤め人と似てきましたがね、偏屈なのがいますよ、まだ」
敬子「でも、あの子ちょっと魅力があるわ」←分かる~。
新次郎「そうなんですよね。あれがね、バーでまたモテるんですよ」
敬子「そうでしょう?」
健一「そうかなあ。あんなヤツがモテるっていうんじゃ神も仏もねえな」
敬子「ハハッ。そりゃあなただってモテるわよ」
健一「ついでに言うことはないですよ」
敬子「ホントよ。だってあなた、すごく感じがいいもの。どこ行ったってモテモテよ」
健一「その割には体験しないな、なんにも」
敬子「フフフ…」
新次郎「悔しいな、健坊」
健一「そりゃそうだよ。あいつがモテるっていうんじゃ対抗意識に燃えちゃうよ」
敬子と新次郎が笑う。
新次郎「おい、竜作! 評判いいぞ、お前」
竜作「えっ?」
敬子「バーでもモテるそうね」
竜作「いえ」新次郎たちの所へ近づいてきたが、またどこかへ歩いていった。
健一「なんでえ! 粋がりやがって」
新次郎「なんだよ? 健坊」
健一「悪いじゃないか、奥さんに」
敬子「いいのよ、別に」
健一「おい」
新次郎「健坊ったら」
健一「おい、竜作!」
竜作「なんだよ?」
健一「お客さんが来てるときぐらい、もうちょっと笑え」
竜作「何言ってんだ」
健一「格好よく1人で裏なんか行くな」
竜作「バーカ、しょんべんだよ」
健一「は? しょんべん?」
尾形家
もと子「ハハハハ…あんたが余計なことに口を出すからよ」
健一「だって新さん何も言わないんだもん」
もと子「だってね、仕事はちゃんとやってんだから、多少、無愛想でもしょうがないでしょ」
健一「多少なんてもんじゃないよ。『うん』とか『いえ』とか面白くないような顔してさ。それで格好いいつもりでいるんだから気に食わないよ」
もと子「向こうはね、3年以上も大工やってんだからさ、だから、あんたが注意しようなんて思わずに習えばいいんじゃない」
健一「だけどね、目に余ることは言うさ。そんなこと新米も先輩もないよ」
もと子「とにかくあの…こぼさないで食べなさい」
健一「そりゃね、あいつの腕が立つことは分かるよ。俺なんか4枚も削りすぎでパアにしてんだからさ。その点、あいつが上だってことは百も承知さ。だけどね、女なんてどうかしてんじゃないかなあ」
もと子「女ってなんのこと?」
健一「あんな無愛想が魅力あるってモテるってんだから気に入らねえよ」
もと子「ああ…あんた、そのことが気に入らんのね?」
健一「冗談じゃないよ。そんなわけないだろ。奥さんにろくに返事もしなかったから怒ってんだよ」
もと子「ハァ…やっぱりあんたも男ね」
健一「何が?」
もと子「お前、あの子と張り合って、あんたもモテたいわけでしょ?」
健一「冗談じゃないよ。あんなヤツとなんて張り合ったって張り合うかいがないね」
もと子「そんなことないよ。仕事で張り合えばいいんじゃない。3年ぐらいの違いだったら一生懸命になれば1年半で、あんた追いつくわよ。女はそれからあとね」
健一「誰も女なんて言っちゃいないだろ」
もと子「それなら結構。まあ、早く仕事であの子を追い抜くことね」
健一「やるさ、当たり前だ」
もと子は台所から鍋を運んできて食卓で会話しながら、みそ汁をよそったり、調味料を出したり、ご飯をよそったり…健一は当然座ったまま。
もと子「さあ、まあいただきましょう。いただきます」
健一「ハァ…だけど、目がないよ、みんな」
もと子「まだ言うてるわ」
健一「だって、率直に言ってだね…」
もと子「いいから食べなさいよ」
健一「あいつと俺とどっちがいい? 母ちゃん」
もと子「そりゃ、お前がいいに決まってんじゃない。息子だもん」
健一「あっ、違うんだよ。一人の女としてどっちを選ぶかさ」
もと子「しょうもないこと親に言わすな、バカ」
そこに文子が訪れた。もと子は自分だって結構モテんじゃないとからかうが、健一はあいつの恋人だとムッ。
無愛想だろうがなんだろうが、結局は顔。
夜の公園を歩く健一と文子。
健一「何さ? 俺に用って」
用はないけど会いたかったと言う文子は、この辺来たばっかりで友達もいないし、竜作は会ってもあまり機嫌がよくないから、しょっちゅう会いに行くのは気後れする。竜作のことを話せるのは健一しかいないから、竜作のところに行きにくいとき、時々会ってくれる?と聞く。
健一「俺、そんなに人のいい男に見えるかねえ」
文子「気に障った?」
健一「そんなことはないけどさ。あいつの代わりにあんたに会うなんて三枚目じゃないか」
文子は健一はそんなことを気にしない人だと思った、包容力があって人の悩みを黙って聞いてくれる人みたいな気がしたと言う。文子は竜作が元気か聞く。そりゃあ元気だろと答えた健一は「彼と会ってるとき、どの辺までいくの?」と聞く。
文子「どの辺って…あっちこっちよ」
健一「違うよ。ほら、どの辺までいってんのって聞いてんだよ」抱き寄せるしぐさ。
文子はにっこり微笑み、「いっぺんだけキスしたわ」と答えた。爽やかな健一が聞くからまだしも、酷いセクハラ?というかなんというか…健一ならまだいいけどとかいうのも酷いルッキズムだけどな。しかし正直、磯田が同じ質問をしたらと思うと…。←まだ言うか。
文子「中学生のとき、あの人、お父さんが連れに来て施設を出てったでしょ。その出ていく日、物置の裏でいっぺんだけキスしたわ」
文子はそれ以来、竜作のことを忘れられず、竜作のお父さんが東京弁だったため、竜作に会えそうな気がして東京に就職した。望み通り会えたが、竜作は冷たい。アパートに行っても入れてくれないし、デートしても他に行く所がないから来たという感じ。それでも結婚したいほど好き。冷たいからカッカしてるわけでもなく、他の男性に魅力を感じない。
健一「俺だって男性だぜ」
文子「そりゃあんたは好きよ。結婚の対象になるような男性のこと言ってるのよ」
健一「俺はなんない?」
文子「未成年じゃない」
健一「関係ないよ。自分で稼いでるし、女の1人や2人、養ってみせるさ」
文子「フフフッ。そんなふうに思ってなかったわ」
健一「じゃあ、何のつもりだったんだい? 人を夜、呼び出しといて子供に愚痴でもこぼしてる気だったのかい?」
文子「何でも話せる人だと思っただけよ」
健一「冗談じゃないよ。赤ん坊や年寄りじゃないんだからね。俺だって危ないんだぞ」
文子「やだ」
健一「キスだってなんだってしちゃうぞ」
身構える文子だったが、健一は冗談だと笑い飛ばし、キャバレーやバーに遊びに行こうと誘う。
文子「何、生意気言ってんの」
健一「なんだよ? 俺だってキャバレーぐらい知ってんだよ」
森田健作 1949年生まれ→尾形健一 1953年生まれの18歳
榊原るみ 1951年生まれ
近藤正臣 1942年生まれ
役だと文子は健一より年上っぽいけど実年齢は年下。近藤正臣さんが高校生役で出演していた「柔道一直線」(1969年6月22日~1971年4月4日)は、このドラマの直前までやっていたし、さすがに同じ養護施設育ちで10歳差ではないだろうから、文子も竜作も20代前半かせいぜい中盤くらいの年齢設定かな。
「キャバレーぐらい知ってる」と息巻いていた健一だけど、次の場面はボウリング場。文子と健一のボウリングデート。
現場
健一「研いだよ」
竜作「ああ、そこ置いとけ」
健一「お前の恋人な…」
竜作「俺、恋人なんかいねえよ」
健一「そうか。俺、ゆうべ、彼女とデートしたよ」
竜作「何!?」
安「新さん」
新次郎「うん?」
安「座敷と洋間ん所はふすまでいいんだね?」
新次郎「そうじゃないって、この間、言ったじゃないか」
安「障子?」
新次郎「何を言って…書いたんだろ? そこに。ほれ、戸ぶすまだよ。洋間に面した側には合板貼ってさ、和室のほうには、ふすま紙貼るって書いてあんじゃねえかよ」
安「あっ、そうか。俺はこっちかと思ったんだよ」
新次郎「頼むよ。あっ、三枚板だからね、そこは」
安「そ…そんなこと言わなくたって分かってるよ。俺だってね、プロだよ」
新次郎「ならね、こんな小さなうちでオタオタしないでくれよな」
安「機嫌悪いね、どうも」
新次郎「いや、予算ギリギリだからね。間違えてあとで泣きついたって知らねえよ、俺は」
安「そうそう俺だってね、間が抜けちゃいないよ。しかしねえ、新さんが俺のことどなるかねえ」
新次郎「どなっちゃいねえだろ、俺は」
安「健坊、立場ってのは恐ろしいもんだよな」
新次郎「何を言ってんだよ」
安「だってさ、あの競馬の新さんがさ棟梁になったらどうだい。俺のことどなるんだから恐れ入っちゃうよ」
新次郎「いや、しょうがねえだろ。困るもん、間違ったら、俺」
安「俺は昔のこと知ってんだから」
新次郎「昔も今も別に変わっちゃいねえよ、俺は」
安「やだよ。俺、そんなお偉くなんのは」
新次郎「お偉くなるわけねえじゃねえかよ、俺が!」
安「そんなことは分かんないよ、なあ? 健坊」
健一「俺はジャンジャンどなったほうがいいね」
安「何言ってんだよ」
健一「お偉くなったほうがいいんだよ、新さんは」
釘をくわえて、フッと笑う新次郎。
安「どうして?」
健一「俺はね、どなるとこはどなったほうが好きなんだよ。すぐ新さんは腰砕けになっちゃうんだから」
安「それが人間味ってもんじゃねえか」
健一「それでいい仕事ができんのかね?」
竜作「おい、新米!」
健一「なんだい?」
竜作「やかましいぞ」
健一「分かったよ」
安「なんだか険悪だね」
それぞれの仕事をする健一と竜作。かっこいい~←こればっかり。
下小屋
竜作「おかみさん、寄り合いに行ったんだろ?」
健一「ああ、行ったよ。俺とお前だけだよ。なんでも頼めよ。あの子から手を引いてください、か?」
竜作「大工がそんな所へ腰掛けるんじゃねえよ」
材木に腰掛けた健一を注意すると、台?を持ってきて腰掛ける健一。
竜作「どういうつもりなんだ?」
健一「何が?」
竜作「あの子に何をしようってんだよ?」
健一「恋人じゃないんなら勝手だろ」
竜作「あいつを好きなのか?」
健一「そりゃ、嫌いじゃないさ」
竜作「だっておめえ、この間、ここで女学生と結構いい線いってたじゃねえか」
健一「だから何だよ?」
竜作「そいつとつきあってりゃいいじゃねえか」
健一「やいてんのかい?」
竜作「そんなんじゃねえよ」
健一「お前が冷たくしてる子、俺がどうしようと勝手だろ」
竜作「本気なら勝手だ。いいかんげんならただじゃおかねえ」
健一「そんなに心配なら、なぜ優しくしてやらないんだ。俺はあの子をどうとも思っちゃいないさ。あの子はお前だけが好きだとよ。お前と結婚したいとよ。それをお前はなんだ? 粋がって冷たくして、あの子を傷つけてどこが面白いんだ。好きなら、なぜ素直になれないんだ。結婚すればいいじゃないか」
竜作「余計なお世話だよ」
健一「ああ、そうさ。俺はお前のことなんかでつまらん気を遣うのはまっぴらだ。だけど、見ちゃいられないから言ってんだよ。お前みたいなヤツと結婚なんかさせたくないよ。だけど、好きだっていうんだからしょうがねえよな。結婚してやれよ、いいな?」
立ち去ろうとした健一を呼び止める竜作。「ちょっと待てよ」
健一「なんだい?」
竜作「お前、親で苦労したことがあるか?」
健一「ああ、しょっちゅうしてらあ。やかましおばさんで苦労のしっぱなしさ」
チラッと視線を向ける竜作。
健一「お前の言いたいことは分かってるよ。俺なんか苦労知らずの坊ちゃんで甘っちょろくてしょうがねえや、とでも言いたいんだろ?」
竜作「そのとおりだよ」
健一「お前の言いそうなことだよ。俺のほうが苦労した。10倍も苦労した。俺はな、そんなつまらない苦労の比べっこなんか大嫌いなんだ」
竜作「それじゃ、俺の気持ちは分からねえよ。うち上がって寝ちまいな」
健一「お前の気持ちか。聞こうじゃないか」
竜作「無駄だよ」
健一「聞くだけ聞こうじゃないか」
竜作「お前な、自分の今の暮らしから抜け出したくてたまらなくなったことがあるか? 絶対にこんな暮らしはイヤだ。絶対にもっとマシな暮らしをつかんでみせるって、年がら年中考えたことがあるか!」
健一「ないな」←即答!
しかし、父親を亡くして高校中退せざるを得なかったという状況も結構大変なことだけどね。
竜作「俺はしょっちゅう考えてる」
健一「それと彼女とどういう関係があるんだ?」
竜作「俺はな、片隅で親のない同士が幸せな結婚をするなんてことはどうしてもイヤなんだ」
健一「幸せなら結構じゃないか」
竜作「結構じゃないな! そのぐらいの幸せじゃ俺の恨みが消えないんだよ。随分、ひどい暮らしをしたからな。親父のおかげで。俺が働いた金をいつも親父が先取りしていきやがるんだ。どんなに働き場所を隠しても、すぐに見つけてはなんだかんだっつって先に持っていっちまいやがるんだ。だけどよ、死んだと思ってた親父が戻ってきたんだから俺は随分尽くしたぜ。おんぼろアパートでな。1人腹減らしてると飯食わしてくれる人がいたっけ。イヤなもんだぜ。飯をただ食わしてもらうっていうのはな。洗濯もできなくて臭いって言われたことがあった。追い出されたこともな。今に見てろとでも思わなきゃ、どうにも我慢できないんだよ。その今に見てろが、このまま所帯持って子供つくって年取るだけじゃ気持ちが収まらない!」
健一「一旗揚げたいってわけか」
竜作「ハッ、自分でもどうにもならない気持ちだな。片隅でも幸せならばいいなんて思えなくなってるんだ」
健一「彼女を嫌いだっていうんじゃないんだな?」
竜作「嫌いだな、多分」
健一「ウソ言うなよ!」
竜作「本当に好きなら冷たくなんかできないぜ」
健一「そうか」
竜作「あの子はいい子だからな。変なちょっかい出すなよな」
健一「そんなことするかい」
竜作「俺が言いたいのはそれだけだ」
健一「うん」
竜作「さあ、お前、うちへ上がれよ。俺は帰るぜ」
健一「だけど寂しいじゃないかよ。寂しくないのか? お前は」
竜作「慣れてるよ」
健一「そんな我慢して一体何になりたいんだ?」
竜作「決まってるじゃねえか、金持ちだよ」
健一「金持ちったって…」
竜作「俺は先に帰るぜ」
健一「どうやって金持ちになんだよ?」
竜作「お前はお前で考えるんだな」木戸を開けて出ていった。
翌朝、雨戸を開ける健一。早く起きたことをもと子に指摘される。
健一「目が覚めちゃったんだよ」
もと子「何よ? もう、年寄りみたいに」布団から起き上がる。
健一「朝飯出来たら呼んでやるよ」
もと子「ああ…なんや? どないしたんや?」
健一「どないもせえへんよ」←初関西弁。
たまには飯を炊いてやるという健一だったが、もと子がゆうべのうちに仕掛けてタイムスイッチを入れていたのでご飯は炊きあがっていた。
時々出てくるタイムスイッチ。今でいうタイマーね。
もと子「なんにも知らんとよう生きとんなあ、お前は」
おみおつけはタイムスイッチというわけにはいかないので、これから。
健一「じゃあ、俺が作ってやるよ」
もと子「なんでお前が作んだよ?」
そんなこと男がしなくていいというもと子。
健一「母ちゃんはね、そうやって俺を甘やかすから俺は世間知らずになんだよ」
もと子は誰かに何か言われたのかと気にするが、健一はいろんなヤツがいると思ってさとしか言わない。
健一「母ちゃん、結婚する前苦労した? うんと」
もと子「えっ? ハハッ、朝からなんの話や?」
健一「うん、母ちゃん。苦労話ちっともしないね」
もと子「当たり前よ。まだそんな年と違うもん」
二人は笑う。
健一は台所に向かいながら、竜作がすごい苦労をしたのだと話し、ケンカもする気がしなくなったと言う。「俺なんか全然フワフワだよね。苦労なんかしたことないもんな」
もと子「まあ、分かった。それでお前早く起きたのね?」
健一「起きたってしょうがないけどさ」
もと子「そんなことないわよ。人の苦労の話を聞いて、自分も甘えてはいけないという素直であんたらしくていいじゃない」
健一「続くかどうか分かんないけどさ」
もと子「ハハハ…でもいいじゃない。じゃ、とにかくおみおつけ作ってよ。そんな気持ちやったら、あんたの作ったの飲んでみたい」
健一「ああ、うんとうまいの作るよ」包丁を手にもと子のほうを向く。
もと子「危ないよ」
もう少し寝てろよという健一だったが、もと子はそばに立ち、小学生のころとちっとも変わらんねと笑顔。
そこに男の声で「おはようございます」
もと子が寝巻きだったので健一が出ると、叔母さんの息子の高木だと名乗る。叔母さんというのは健一の父の妹・松代で男は息子の一郎だという。一郎は健一のことを知っているが、健一は分からない。もと子が寝巻きのまま出てきて、泣きながら夫が亡くなったことを知らせた。(つづく)
竜作、健一の出番が多い、ロケ多い、大工仕事が見られる…今回は大満足。
竜作を土方の亀さんに会わせてあげたい。
健一の素直なとこ、いいねえ~。少年漫画の主人公感あるよね~。