徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】たんとんとん #11

TBS 1971年8月10日

 

あらすじ

尾形家に突然、亡き夫の妹・高木松代(加藤治子)とその息子・一郎(朝倉宏二)がやって来た。もと子(ミヤコ蝶々)と小姑である松代とはもう何年も絶縁状態だった。その松代の来訪の目的は、亡き夫の遺産で…。

君のいる空

君のいる空

  • 森田 健作
  • 謡曲
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2024.1.18 BS松竹東急録画。

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尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。

尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。

*

堀田咲子:杉山とく子…堀田の妻。

堀田ゆり子:丘ゆり子…堀田の娘。

高木一郎:朝倉宏二…松代の息子。

*

高木松代:加藤治子…もと子の亡夫の妹。

*

堀田:花沢徳衛…棟梁。頭(かしら)。

 

尾形家

泣きながら亡夫の衣類を整理するもと子。

 

咲子「こんちは! 私」

もと子「ああ、上がってちょうだい」

 

部屋に入って涙を拭いてるもと子に気付いた咲子。「まあ、棟梁の…大変なこと始めちゃってんのね」

もと子「なんかこんなことしてたら…なんか涙出てきてね」

咲子「そりゃそうよ。着てた物は一番思い出が染みてんだもの」

もと子「いや、ええ物はね、形見分けで早(はよ)う整理がついてしもうたんやけど。こうして人にもろうてもらえん物があるでしょ。だから、これ開けるのがなんとなしイヤでね。今日まで一日延ばしになってたのよ」

仏壇に向かう咲子。「いや、私に言ってくれりゃ、どうにだって処分してあげたのに」

もと子「でも、こうしてやってみるとね、ただ悲しいだけじゃなく、いろんな懐かしいことだとかいろんな思い出があってね」

 

もと子と向き合う咲子。「ホントにねえ。棟梁、着こなしなかなかいなせだったもんね」

もと子「いや、こんなジャンバーじゃいなせも何もないですよ」

咲子「いや、そんなこともなかったわよ。どことなくうちの亭主が着てるのよりは、こう、こなしが違ってたもん。フワッと羽織ってさ、抜き衣紋(えもん)でね」

もと子「とにかくね、これが気に入ったとなったら、あんた、襟が擦り切れるまで着てたんだからねえ」

咲子「あら、これ、よく着てたわね、棟梁」

もと子「これね。ハハハ…」

咲子「品のいい色だもんねえ」

もと子「このズボン見てちょうだい。この太いズボン。こんなのみっともないからやめときなさいっちゅうのに、こればっかりはいてんだからねえ」

 

咲子「だけどさ、健ちゃんには、みんな無理みたいね」

もと子「そうなのよ。こんなボロばっかりねえ。というて、もろうてもらうのもなんやし、やっぱり捨てなきゃしょうがないのかなあ」

咲子「あら、このジャンバーだったらいただくわよ。うちの人が今、着てんのよりは、ずっとマシだもの」

もと子「そんならそうしてちょうだいよ。頭(かしら)が着てくれたら、うちの人が喜ぶわよ」

咲子「ああ、そう。いいとこ来ちゃったわね。ちょっと拝見ね。あっ! これ、セーター。あっ、チョッキか。あら! いいじゃない、なかなか、ねえ」

 

もと子は今朝方、松代の息子がひょっこり来たことを咲子に話した。

咲子「息子さんってイッちゃん?」

もと子「うん。それがね、鼻の下へヒゲなんか生やしちゃってね」

咲子「あら、そんな年になっちゃったのねえ」

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こっちのイッちゃんは一造だ。

 

松代はイッちゃんと一緒に池上で暮らしている。

咲子「あら、目と鼻の先じゃないの。そんな所にいて自分の兄さんが死んだのも知らんふりでどういうつもりなんだろ、まあ」

もと子「いいえ。死んだと分かってたら飛んできてくれたでしょうよ。だからイッちゃんも驚いてお線香上げていったわよ」

 

「兄弟」の紀子の実家付近や尾形家は東京都大田区下丸子あたりでロケをしていたそうですが、池上も東京都大田区

 

もと子「あれだけ、うちの人がね、捜して心配してたのにね」

咲子「ホントよ。そんな所にいるなら電話の一本ぐらいよこしたっていいじゃないの」

もと子「いや、でもさ、松代さんがやくざの人といい仲になったでしょう。あのとき、うちの人がえらい剣幕で怒ったからね」←さらっとすごい告白。

咲子「それにしたって十何年たってんでしょ?」

もと子「もう17年よね」

咲子「いこじっていうか、なんていうか。よくもまあ長い間知らん顔でいられたもんだわ」

 

もと子「今晩ね、イッちゃんがね、あの…松代さん連れてもう一度来るっていうのよ」

咲子「そりゃ来んのが当たり前じゃないの。たった1人の兄さんなんだもの。今晩も何も今すぐ飛んできて、お線香上げたらいいのよ」

もと子「でも、1年前に来てくれてたらね、死ぬ前に和解できてたのにね」

 

なぜひょっこりやって来たのかと不思議がる咲子。もと子は突然、伯父の死を知らされて言えなくなったのか、何も言わなかったと答えた。咲子は、もと子と松代はうまくいってなかったんだし、棟梁が亡くなったって聞いたら何言いだしてくるか分かんないから気をつけるように言う。

 

もと子「でも、うち、できることやったらなんでもしてあげるつもりよ」

咲子「ダメダメ。そんな甘いこと言ってたら。そう言っちゃなんだけどもね、あの人は昔からなかなかのガッチリ屋だったんだから」

もと子「うん、そりゃ、あの人の性質は知ってるけどね」

 

夜、仏壇に向かう和服の女性と背広姿の男性の後ろ姿。そばにもと子が座る。

 

鈴を鳴らし、手を合わせる松代。加藤治子さん、迫力あるね。

もと子「ありがとうございました。お酒が入りますとね、どうしてるのかなあ、なんて、よく言ってましたよ」

松代「気がとがめてたんでしょう」←声はそのままだね。

もと子「そりゃもう俺も少し言いすぎたかな、なんてね、松代さんがいなくなってからしょっちゅう言ってましたよ」

松代「そんなこったろうと思ってましたよ。でもね、あんなときに出ていけ、二度と敷居をまたぐななんて言われりゃ、私だって意地がありますからね」

もと子「ええ」

松代「子供を連れて出戻ってる妹に、どんな事情にせよ、出ていけって言いぐさはありませんよ」

もと子「本気じゃなかったんですよ。まあ、ああまで言えば松代さんが高木さんのことを諦めてくれると思ったんでしょうよ」

 

健一が麦茶を運んできてそれぞれの人の前に置く。

 

松代「そりゃ、高木はやくざでしたよ。やくざのまま死んじゃいましたよ」

もと子「あっ、そうですか」

松代「でも、私はこのうちで小じゅうとになって、あんたといがみ合って暮らすより、どれだけ幸せだったか分かりませんよ。あんただって私がいなくなって随分ホッとしたでしょう」

もと子「そんな…」

松代「兄(あに)さんは私を追い出したかったのよ。出戻りの妹と子供が邪魔で、本気で出ていけって言ったんですよ」

もと子「そらあ、あんまりですよ。あのあと、うちの人がどんだけ心配して捜しましたか。地方新聞にまで写真入りの広告載せて、本当に帰ってくれたらええなって言い暮らしてましたよ」

松代「それじゃあって帰ってきたら、どんな顔したかしらね」

もと子「そりゃ大喜びで」

 

松代「あんたも?」

もと子「は?」

松代「あんたも喜んだなんて、まさか言わないでしょうね」

もと子「いいえ。喜んでお迎えしたと思います」

松代「いがみ合ってたくせに何言ってんのよ」

もと子「それとこれとは違いますよ。私も気が強い、松代さんも気が強い。だから一緒にいたらケンカすんのはしょうがないことやと思うんです。だからと言って松代さんがいなくなったらええなと思ったことはありませんよ」

 

松代「じゃあ、今日から置いてくれる?」

もと子「は?」

松代「今日から一郎と2人、このうちへ置いてくれるかしら?」

一郎「母ちゃん」

松代「あんた、黙ってらっしゃい」

もと子「お困りでしたら喜んでいていただきます」

健一「母ちゃん」

もと子「黙ってなさい」

 

松代「フフッ。息子のが正直だわ」

健一「置いてもらうなら置いてもらうような顔したらどうなんです? 偉そうに見下して同居しようなんて、お断りだね、俺は」

松代「こっちもお断りよ。今更あんたたちといがみ合ったって始まらないもの。ただね、この人があんまりきれいなこと言うからからかってみただけ」

 

健一「帰ってくれないかな」

もと子「いいから2階上がってなさい」

健一「やだね。母ちゃんをこれ以上バカにすると、俺、ただじゃ置かないよ、叔母さん」

もと子「健一」

松代「ハハハッ。これが十何年ぶりかで帰ってきたうちなんだから」

健一「あんたが絡むからじゃないか」

もと子「健一ったら、もう…」

 

松代「帰ろうかね、一郎」

一郎「う…うん。だけど、あのことは? 母ちゃん」

松代「改めて伺いましょう」

 

もと子「松代さん、あの…一緒に夕ご飯しませんか? 用意してあるんですから」

松代「こんな気分でごちそうになったって、おいしかないでしょ」

もと子「でも久しぶりじゃありませんか」

松代「フン、しらじらしいこと言わないでちょうだい。あんたが懐かしがってるわけないじゃないの」立ち上がり、去ろうとする。

もと子「松代さん」

一郎「あの、これ、つまんない物(もん)ですけど」包みを置き、立ち上がる。

もと子「イッちゃん、お母さん止めてよ」

一郎「また来ますから」

もと子「松代さん」玄関まで追いかける。

 

玄関

松代「ああ、また来ますからね。安心しないでちょうだいよ。もらう物はちゃんともらうんだから」

もと子「そのことも今夜、お話ししたかったんですけどね」

松代「そう簡単に片づけられてたまるもんですか。一郎! 何してんの、そんなとこでさっさといらっしゃい」

一郎「さよなら。母ちゃん、母ちゃんったら!」玄関を出ていく。

 

健一「なんだ? あいつら」

もと子「あのぐらいのことは言いたかったんでしょうよ」

健一「なにもね、あんなペコペコすることないじゃないか。母ちゃんが一体何したっていうんだよ」

もと子「父ちゃんはね、あの人のことを心ん中じゃ、ずっと心配してたのよ」

健一「そりゃ俺だって知ってたけど」

もと子「その人と位牌の前でケンカなんかしたくないじゃない」

健一「だからって喜んでるだの、懐かしいだのって言うことないじゃないか。あいつだって母ちゃんのことをしらじらしいって言ってたじゃないか。あんな叔母さんじゃ父ちゃんが出ていけっつったのも無理もないよ。あいつの言うとおり、本気で父ちゃん出ていけって言ったんだよ」

 

玄関から仏壇のある部屋に移動。

もと子「母ちゃんはそう思わんね」

健一「そりゃあとではいろいろに思ったろうけどさ」

もと子「人の気持ちなんてものはね、もちろんきれいなばっかりじゃないよ。だけど、汚いばっかりでもないもんね」仏壇に一郎からもらった包みを供える。

健一「ハァ…だけどね、あんなヤツを母ちゃんが懐かしいと思うわけないだろう」

もと子「思ったよ、そりゃ」

健一「うそ言ってらあ」

もと子「ホントよ。今晩だって一緒にご飯食べたいなと思ったもん」

健一「あんなヤツとか?」

 

もと子「そうよ。そりゃね、お前の年頃じゃ分かんないかもしれないけどね、十何年ぶりの人というのは、ただそれだけで涙が出るもんよ。ああ、老けたなあ、苦労したんだなあ、とね」

健一「人のいいこと言うなよ。あいつら、やる気十分だぜ。甘いこと言ってたら、つけ込まれて何言いだすか分かんないから」出した麦茶を片づける。

もと子「言い出されてから考えるもん。父ちゃんのたった1人の妹だもん。心配してたんだもん。父ちゃんならきっとやれるだけのことはやったと思うよ」部屋の電気を消し、仏壇のろうそくを消す。

 

⚟健一「そんなセンチなこと言ってていいのかい?」

 

もと子「母ちゃんだって計算高いんだからね。いつまでもこんな気持ちでいられるかどうか分かんないけどさ。今は父ちゃんの気持ちになってやってあげたいのよ」←字幕は”あげたいのよ”だけど”あげたいんだ”に聞こえた。扇風機の電源を切る。

 

台所

健一「だって、あいつに金をやる義務はないんだろう?」コップを洗っている。

もと子「法律上はないさ。そんなこと言うてんのと違う。父ちゃんならね、今日あたり涙を流して喜んだと思うよ。悲しいかな母ちゃんはそこまでいかないけどね」

健一「当たり前だよ」

もと子「ねえ、父ちゃんなら泊まっていけ、泊っていけって大騒ぎしたでしょうね」

健一「このごろ母ちゃんは父ちゃんのことというと、すぐ甘くなるんだからダメだよ」

もと子「威張ってた報いなんだな。いなくなってみて、やたらに父ちゃんを立てたくなってね」冷蔵庫から出した料理を健一とともにつまみ食い。

 

翌日、またまた尾形家にやって来た咲子。「ねえさん、聞いたわよ。健ちゃんから」

 

初回から思ってたけど、杉山とく子さんって割とスラッとしてたんだね。なぜか小柄なおばあさんのイメージだったけど違うなあ。

 

咲子は現場に行き、健一からゆうべの一部始終を聞いてきた。「健ちゃんもさすがに初めは言いたがらなかったけどさ、すごかったんだって? 偉そうで」

もと子「そりゃね、追い出された身になってみれば、あのぐらいのこと私かて言うもん」

咲子「自分がまいた種じゃないの。ダメよ、ねえさん。甘い顔してたらどんどんつけ込んでくるから」

もと子「大丈夫よ、私は」

 

庭から頭(かしら)が入ってきて、縁側から上がる。

 

咲子「まあ、余計なおせっかいだけど、昨日から気になって朝になったらもう、おたくの現場のほうへどんどん走ってってさ」

堀田「どうもね、脇から余計な口出しするようでね、あねさん」

咲子「だってあんた、ねえさん一人なんだもん。私らが相談相手にならなくてどうすんのよ」

もと子「すいません、お忙しいのに」

堀田「いやあ、どうもあっしは他人の口出しするところじゃねえって言ったんですけどね」

咲子「なんて冷たいこと言うのよ」

堀田「厚かましいんだよ、お前は」

もと子「いいえ。親身になってくれはんのは頭(かしら)んとこだけですもん」

咲子「そうよ。近くの他人っていうんだよ」

 

堀田「だけどね、あねさん」

と言いかけたところでもと子が立ち上がり、お茶の準備をする。

 

堀田「こいつの話じゃ、松代さん、もらう物はもらうって言ってたそうじゃありませんか」

咲子「そりゃ、多少の物はいいわよ。棟梁の妹なんだもの」

堀田「しかしね、向こうがそういう気で来てるとなると甘い顔して、うんうんって言ってちゃいけませんよ、あねさん」

もと子「ええ」お茶を持って台所から戻ってきた。

 

堀田「そりゃね、仮にも、あねさんの妹に当たる人だ。他人のあっしらが危ねえ危ねえって騒ぐのは筋違いだとは思いますがね」

咲子「だけど、私は松代さんを小さいときから知ってるもの。棟梁とは正反対のまあ激しいガッチリした子だったもんねえ」

 

幼なじみだったのね。う~ん、でも頭と咲子は夫婦になって35~36年らしいし、もと子は結婚して21年とか言ってたので、年齢差があるのかな。でも、演じてる杉山とく子さんが加藤治子さんやミヤコ蝶々さんより実年齢は若いのでややこしい。

 

もと子「ハハッ、そう言われたら困るけど、まあ、あまり大したこともしてあげられないのよ」

咲子「それでいいのよ」

もと子「ただね、ちょっとぐらいは無理をしてもええ。無理のないお金だけで追い返すようなことはしたくないと思っただけ」

堀田「まあ、しっかり者(もん)のあねさんのこった、健坊っていう跡取りもいるこったし、その辺のことは心配ねえとは思ってましたがね」

咲子「ん…ねえさん、このごろ棟梁のことになるとホロッとしちゃうからさ、つまんない書類に判でもついたら、なんてハラハラしちゃったのよ」

もと子「ありがとう、大丈夫よ。棟梁のお金、無駄に使ったりしませんよ」

 

夜、尾形家を訪れた高木親子。姐さんって感じだな~。ズカズカ家に上がり込み、仏壇の前に座る松代。

もと子「松代さん、いらっしゃい」

 

一郎も気軽に「よう!」と健一に手を挙げ、へへへと笑う。

 

松代「一郎! そんなとこぶっ立ってないで、伯父さんのお参りしなきゃダメじゃないか」

一郎「あっ、そうか」松代の後ろに座り、手を合わせる。

 

松代はもと子に語りかける。「兄(あに)さんと私は2人だけの兄妹でおっ母さんが早く亡くなったから何かにつけて助け合って、そりゃなんでも分け合った仲でしたよ。この仏壇の中で今の私を兄さんどう思ってるかしらね。脇から余計者が来て、嫁と息子に残した財産をいやらしく狙ってるとでも思ってるかしら」

 

そんなこと思ってないと否定するもと子。

 

松代「十何年も会わなかったんだし、私には兄さんの気持ちは分からない」

 

立ったままの健一に座るように言うもと子。

 

松代「だから私、もと子さんに伺いたいのよ。兄さん、私を余計者だと思って毛嫌いしてるかしら。それともよく来た、よく来たって喜んでいてくれるのかしら」

もと子「もちろん…」

松代「毛嫌いしてる?」

もと子「いいえ。よう来たと喜んではると思います」

松代「そう。まあ、嫁さんが言うんだから確かだわねえ」

 

今度は一郎に語りかける松代。「伯父さんはね、お前と私が来たこと喜んでいてくれるってさ。ホントによく来た。法的に権利があるとかないとか、そんな冷たいことを誰が言うもんか。かわいい1人っきりの妹じゃないかって」

 

もと子「松代さん」

松代「アハハッ、大丈夫よ。私だって分ってものは知ってますよ。このうちがどのくらいの資産になるか、どのくらいの貯金があるものか、大体の見当はつきますものね」

健一「叔母さん」

もと子「健一」

健一「つまんねえ芝居、いいかげんやめて金が欲しいんなら、いくら欲しいと言ったらどうですか」

もと子「健一ったら…」

健一「このうちにいくら金があろうと、それは父ちゃんだけの金じゃない。母ちゃんも一緒に稼いだ金なんです。勝手な夢は持たないほうがいいですよ」

松代「ヘッ、いずれお前の取り分が減るからね」

健一「一体いくら欲しいっていうんです」

もと子「いいかげんにしなさいよ、もう」

 

松代「私はもと子さんの気持ちを先に伺いたいのよ。私にどのくらいの誠意を持っていてくれてるのかしら? いくらぐらいの。無理を言う気はないのよ。まずあなたの出せる金額を伺いたいのよ」

健一「当然の権利のように言うんだな」

 

もと子「松代さん」

松代「はい」

もと子「私らのうちは請負といいましても大工が1人で手が回るほどの仕事しか受けてません。年に小さなうちが4軒出来たら上等な年なんですよ」

松代「よく知ってますよ。私はこのうちで育ったんですからね」

もと子「まあ、1割5分か2割の請負料と大工の手間を加えましても決して贅沢のできる身分じゃありません」

松代「おまけに相続税もまだ払ってないことでしょうしねえ」

 

もと子「いえ。駆け引きで言うんじゃなく、相続税は大したことないんです」

松代「で、いくらぐらいってのかしら?」

もと子「ええ…まあ何しろ主人が亡くなったうちですからね、健一はまだ新米も新米。カンナ研ぐぐらいのことしかできません。今までの大工さんに5割増し払(はろ)うて切り回してもろうてるというのが内情なんです」

松代「ああ、よく分かりました」

もと子「それで、実はあの…100万円用意してあるんですけど」

松代「100万円?」

もと子「はい」

 

松代「ヘッ…一郎、100万円だとさ」大笑い。つられて一郎も笑う。

 

もと子の隣に座っていた健一が「この野郎!」と立ち上がる。

 

松代「なんだい? この子は」

健一「100万円がなんでおかしいんだよ!」

松代「殴るなら殴ってみろ。一郎、ボヤボヤしてんじゃないよ!」

 

もと子は健一に座るように言うが、一郎がいきり立つ。「おい、てめえ! 俺の母ちゃんに指一本でも触れてみやがれ!」

健一「俺はな、女は殴らねえ。代わりに貴様をぶん殴ってやる。バッカ野郎!」平手打ち。

 

松代「何すんだ、この小僧!」立ち上がり、健一を往復ビンタ。もと子も立ち上がって止める。

 

松代「なんだよ! これがあんたの仕打ちかい? これが亭主の妹に向かってしてくれることなのかい、これが!」←堅気じゃないよ(-_-;)

 

尾形家茶の間

堀田「そりゃね、ほかならねえ、あねさんのこったし50万って金なら、お貸しできる金じゃありませんがね」

咲子「一体そこまでしてやることがあんのかしら?」

堀田「いえね、あっしはねえさんがそうしてえってんなら、まあ、無理なさるのもいいだろうと、私はそう思うんだ」

咲子「いや、だってバカバカしいじゃないか」

 

堀田「100万でせせら笑ってた人間が150万でニコニコ笑って引き下がりますかね?」

咲子も同調する。

もと子も引き下がらないと思っている。「そやけど、今の私にはそれよりお金は出ません。良うても悪うても、それが私の精いっぱいやという気持ちで痛いお金やけど50万足すことにしたんです。来月定期預金が切れます。そしたら必ず返せるお金ですよってに。なんとか都合つけていただくわけにいきまへんやろか」

 

堀田は1つ条件をつけさせてもらいたいという。

ゆり子「父ちゃん、条件だなんてひどいよ」

 

堀田の条件

三者として金の受け渡しをするとき、堀田を加えること。

 

咲子も賛成する。もと子も頭を下げてお願いし、お礼を言う。

 

堀田「それにしても健坊、よくまあカッカしねえで、おっ母さんのやること見ててやるなあ」

健一「うん」

咲子「こんなひどい話ってないもんねえ」

健一「まあ、これは母ちゃんの道楽だと思ってるよ」

堀田「道楽?」

健一「父ちゃんへ入れあげてるようなもんだもんな」

堀田「ハハハッ、違(ちげ)えねえや。子供はよく分かってるよ、あねさん、ハハハハ…」

 

しかし、咲子はこれで受け取らないようなことがあったら、その時は開き直らないとダメだと健一に言う。もと子も支払いもあるし、これ以上はお金の出ようがないから、いくら私でも今度はケンカすると宣言。堀田も黙っちゃないと言う。

 

蝉の声がうるさい昼間

尾形家仏間

100万円の小切手と50万円の現金をテーブルの上に差し出したもと子。

 

隣の茶の間には堀田が控えている。

 

150万を手にした松代に待ったをかける堀田。もと子が堀田から借金して調達した金だということを覚えていてもらいたい、後にも先にも金はこれっきりだと約束するように言う。松代はこれ以上嫌がられてここのうちに来るはたくさんだとこれっきりにすると約束した。

 

松代は一郎にもお礼を言うように促し、この間はこっちもカッカして見苦しいことになっちゃったけど、もと子が無理してくれてたことは分かっていた笑顔で話す。

堀田「おいおい、ちょっと調子がよすぎやしねえか? 逆転でガツンなんてことはねえだろうな」

松代「やあね、頭(かしら)ったら。私はゆすりやたかりじゃないんだからね」

 

しかし、一郎が頼みたいことがあると言い出し、お金のことじゃないと一郎の頼みを聞いてほしいと言い、一郎はどうかお願いしますと頭を下げ、せきこんだ。不安げなもと子の表情のアップでつづく。

 

お~、今日も竜作、新さんがいないよ~。しかし、加藤治子さんすんごい迫力だったな。ショートカットのイメージだったから長い髪が新鮮。

阿修羅のごとく」では綱子(加藤治子)の不倫相手が「兄弟」の紀子の父・辰造(菅原謙次)なんだよね~。