TBS 1970年7月7日
あらすじ
トシ子(磯村みどり)にふられた正三(小坂一也)は、まだ意気消沈の日々を送っている。正三の失恋をきっかけに、年頃の娘と息子を持つ谷口家と中川家の恋愛模様は複雑な方向に転がっていき……。
2023.12.1 BS松竹東急録画。
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谷口和枝:尾崎奈々…福松の長女。21歳。(字幕黄色)
井沢正三:小坂一也…「菊久月」の職人。30歳。
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谷口修一:林隆三…福松の長男。26歳。(字幕水色)
中川アヤ子:東山明美…トシ子の妹。20歳。
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中川トシ子:磯村みどり…修一の幼なじみ。26歳。
石井キク:市川寿美礼…野口家に25年、住み込みの家政婦。
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中川ます:山田桂子…トシ子とアヤ子の母。
山本:青野平義…お菓子好きのご隠居さん。
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トメ子:丘ゆり子…やぶ清の店員。
青木美子:佐藤耀子…写真屋の娘。修一の見合い相手。
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セールスマン:玉川長太
青木民子:水木涼子…美子の母。
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谷口常子:山岡久乃…福松の妻。
菊久月
和枝が店番しているところにキクが声をかけた。今日は正三が休みで品数が少ないと和枝が言う。
キク「和菓子はいいわねえ。春から夏になったってことがお菓子にもちゃ~んと出てるんだから」
和枝「一季節のものが多いですから。奥へどうぞ」
キクはお隣のおますさんから電話でくどかれて出てきたので、先に隣に行くと言い、正三のことをトシ子が断ったことを話してきた。自分の縁談が気になるキク。
和枝「ほんとに結婚なさるんですか?」
キク「うん、相手しだいでね。でもね、肝心の相手がちっとも出てこないんだから。自分で探さなきゃダメかしらねえ」
和枝「さあ?」
キク「時々は外へも顔を出してデモらなきゃ。それじゃ」
和枝「くず桜冷たくしておきますわ」
デモらなきゃって初めて聞く言い回し。面白い。行進することを言ってるのかな。
常子は茶の間で電話中。
作業場
福松は一人で鮎焼きを作っている。あのかわいいやつ。
福松は常子を呼び、出来上がった鮎焼きを店に出すよう指示。常子は正三のアパートの電話をかけたが、正三の部屋は鍵がかかっていて呼びかけにも応じない。正三の部屋には電話がなくて、大家さんに電話して外から呼びかけてもらったって感じかな。
福松「あいつ、ふて寝してんだろ」
常子「失恋したんだし、心配だわ」
福松「亭主の腰のことは心配しないで…失恋なんて時がたちゃ治る」
常子「転んだとこ、まだ痛むんですか?」
福松「痛みますよ。バカ力を出して突き倒すんだから」
常子「だって憎らしいこと言うんだもん」店へ商品を運ぶ。
福松「どっちが憎らしいこと言ってんだ。まったくとんだ災難だ」
作業場から戻ってきた常子は隣にキクが来ていることを福松に話す。
福松「キクさん? ああ、あのおばちゃんか」
ほんと、今でもあるけど50過ぎぐらいの男性でも30過ぎの女性をおばさんと言うのイヤだわ~。高円寺のおばちゃんは「高円寺の伯母」を親しみを込めて呼んでるからまだしも、福松がキクさんをおばちゃんと呼ぶのとはちょっと違うんだよな~。福松からしたら娘くらいの年だろ!
常子は正三のことかアヤ子と修一のことか気になる。
福松「若いヤツのことはほっとけ、ほっとけ」
常子「そうはいきませんよ。お隣へもちゃんとお返事しとかなきゃ。修一はアヤちゃんのことどう思ってんのかしら」
福松「和枝の友達と思ってるだけですよ。あの子はトシちゃんと違ってパアパアしすぎる」
常子「現代的なのね」
パアパアしすぎる…現代的…開放的みたいな!?
茶の間に移動した福松と常子。福松は腰をさすりながら、正三の話はきっぱり断られたのだから、こっちだってきっぱり断ればいいと言う。
常子「断るってやあねえ。お隣だから、あとがなんとなく…」
福松「惚れてなきゃしかたがないさ。いや、大体隣の奥さんがそう言って断りに来たんじゃないか」
常子「大変なことね。子供たちがそれぞれ結婚するまでは苦労だわ」
福松「こっちは正三の結婚までしょい込んでフーフー言ってんのに、あいつ黙って休んだりして」
常子「あとでちょっと様子を見てこなきゃ」
福松「たたき起こしてやりなさい。なんだ、トシちゃんに振られたぐらいで情けない男だ」
常子「かわいそうですよ。一生懸命だったんだもん」
福松「忘れようと思ったら寝てるよりも働いてるほうがいいんです。こっちはヒーヒー言って働いてんのに」
常子「修一が手伝ってくれたらね」
福松「息子なんぞ当てにしちゃいませんよ」
常子「あっ、そうですか。じゃ、腰が痛くても1人で頑張るんですね」
中川家茶の間
ますはキクから正三がショックで休んでると聞かされた。「なんだか恨みでも買いそうでイヤな感じだわ」
キク「そりゃ、あんたのこと恨めしく思ってるわよ。恨みながら寝てんのよ、きっと」
ます「冗談じゃない。トシ子にその気がないから断ったつよ。私を恨むなんて筋違いよ」
キク「でもいういうときはとかく親を恨むもんよ。トシちゃんには惚れてるんだから」
ます「イヤな感じね」
キク「恨まれたっていいじゃないの。あんたなんか恨み殺されるってガラじゃないんだから」
ます「バカなこと言わんでよ。気色の悪と」
キク「だけど頼みって何よ? 暑いのにわざわざ出てきたんだから。あ~、もうお茶なんかいいから」
ます「お茶しかないとよ」
キク「ハァ~、お隣に先行きゃよかったわ」
ますはアヤ子のことなんだけどね、と切り出す。「修一さんを好きだって言うからお隣へ話しちゃったつよ」
キク「仲人もなしで?」←そういうものなんだ? 正三のときは福松と常子は親代わりというより仲人の立場だったのかな。
ます「正三さんの話、断りに行ったついでに口が滑ってね」
キク「へえ、手回しのいいこと」
ます「あんた、それとなく向こうの様子聞いてみてくれない?」
キク「ええ、いいわよ。そういう話ならお安いことよ」
ますは修一が近いうちにお見合いをすると聞いて、落ち着かず商売に身が入らない。姉を置いて妹の縁談を進めるのもどうかと思ったり、頭が痛い。
キク「ハハッ。古いこと言ってる。今、日本じゃどうせ女は残っちまうらしいから上でも下でもどんどん片づけちまうほうがいいのよ」
トシ子「おばさん、聞こえましたよ」と笑顔。
キク「ハハハハッ、気にしないでちょうだいよ。私はなんでもパッパ言っちゃうほうだから」
トシ子「ええ、分かってます」
店番から戻ったトシ子は扇風機で手を乾かしている?
ますは返事が来るまで落ち着かないからキクにアヤ子と修一のことを頼んだとトシ子に話した。キクはアヤ子なら断られても寝込むことはないだろうと気楽に思っていたが、ますはアヤ子は知らないんだからと話す。
キク「なんだ、おますさんの先っ走りなの?」
ます「ついね」←いつも口を尖らせたような表情だね。
トシ子が修一は当分結婚する気がないと言っていたから無理かもしれないと話し、ますはよく知ってるねと驚く。おばさん(=常子?)が前に言っていたと店に戻った。
キク「ねえねえ、トシちゃん、赤くなったみたいだったわよ」
ます「えっ?」
キク「母親のくせにぼやぼやしなさんな。ハァ…苦労するわよ、あんた」
どさん子
電話で今日は一人だからと出前を断っている修一。店に正三が入ってきた。
修一「どうしたんだい? 正ちゃん」
正三「ゆうべから何も食べてないんだ」
修一「おう、すぐ作るよ」
正三「お願いします」
修一「親父のほうは?」
正三「さあね。こっちはバカバカしくて菓子なんか作れやしないよ」
修一「すまなかったな」
正三「なにも修ちゃんが謝ることはないさ。もともと無理な話だったんだから」
修一「トシちゃんにも会ったけど、正ちゃんだから断ったんじゃなく結婚する気、全然ないんだ」
正三「誰だって表向きはそう言うんですよ」
修一「心にもないこと言わないぞ。トシちゃんは」
正三はうつむいてしまう。
修一「元気出しなよ。2~3年すりゃあ、またその気になるってことだってあるしさ」
正三「冗談じゃありませんよ。誰が2年も3年も」
修一「9年思って来た人だろ。あと2年や3年がなんだよ」
正三「もういいですよ。トシちゃんの話は。だけどしゃくに障るなあ、トメ子のヤツ」
正三は、トメ子がトシちゃんのうちへ俺を好きだとか俺に近づくなとか言って嫌がらせに行ったと修一に話し、「今度会ったらぶん殴ってやる」とつぶやく。
修一「そうか。トメ子のヤツ、勘違いしてんだ」
正三「ん~、修ちゃん、ひと事だと思って。生きるか死ぬかで悩んでんのに。恨むよ」
修一「分かったよ。それにしてもトメ子のヤツ、そそっかしいな。ハハハハ…」
やぶ清の岡持ちを持ったミニスカートで金髪のトメ子がどさん子の前を颯爽と歩いている。振り返る男たち。
作業場
常子「今日はそのくらいにしたら?」
福松「今日作っておかなきゃ、あした店に出す上生がありませんよ」
常子「1人で何もかもやろうなんて、とても無理な話よ」
福松「正三のやつ、あした来なかったらぶん殴ってやるから」
常子「そんな力があるもんですか」
福松「長年あんを練ってきたんです。こう見えたって力あるんだから」
常子「バカ力ですよ。もしも正三さん殴りでもしたら、もう私、絶対、口利かないから」
福松「フン、修一を殴るな、正三を殴るなって、お前さんときたらなんでも穏やかに済まそうって腹だ」
常子「結構でしょ。平和に暮らすのが一番ですからね」
福松「事によりけりですよ。男と男だ。たまにはぶん殴るのもいいもんだ」←怖っ
常子「またひっくり返っても知りませんよ」と福松をうちわで仰ぐ。
店から作業場に「毎度あり!」と入ってきたトメ子。
福松「こら! お前はすぐ忘れる。なんのために裏口があるかよく考えてみなさい」
トメ子「旦那も正ちゃんに似てうるさいね」
福松「バカ。正三のほうがわしに似たんです」
トメ子「あら、正ちゃんいないの?」
常子「今日はお休みしたの」
福松はお前に話があると椅子に掛けさせた。
常子「お父さん、トメちゃん忙しいのよ」
トメ子「あっ、いいの、いいの。出前は他にもいるから」
福松は本当に正三に惚れてんのか?と問いただした。
トメ子「しょ…正ちゃんに? ハハハッ、冗談言わないでよ。やだ~、イヤな感じ」←と言いながら化粧直しを始める。
福松「そんならなぜ正三の縁談の邪魔をしたんだ」
トメ子「私が正ちゃんの? 知らないわよ、そんなこと」
常子「トメちゃん、真面目な話なのよ」と化粧の手を止めさせる。
トメ子「だって初耳だもん。正ちゃんの縁談だなんて」
福松「トシちゃんの所へ嫌がらせをしたじゃありませんか」
トメ子「あれ?」
常子「あんた。正三さんを好きだったら他にもっと表し方がいくらでもあるでしょ」
福松「そうだよ。示し方が汚いよ、お前は」
トメ子「何言ってんのよ。誰が正ちゃんなんかに惚れるもんですか。私はね、修ちゃんがあの…トシちゃんとこへ申し込みに行ったと思ったから邪魔したんじゃないの」
常子「えっ? 修一がトシちゃんに?」
福松「あきれたもんだ。早とちりにも程がある」
トメ子「なんだ、申し込んだのは正ちゃんか。そんならこっちの知ったこっちゃないわよ」
福松「お前はいちいち出しゃばって、みんなが迷惑しますよ」
トメ子「私ね、修ちゃんが好きなの」
福松「えっ?」
トメ子「だから一緒になりたいと思ってんだ」←つけまつ毛じゃなくてまつ毛をまぶたに書いてる。
福松「バカなこと言っちゃ困りますよ」
常子「そうよ。トメちゃん、修一はね…」
トメ子「トシちゃんに惚れちゃってさ」
福松「トメ子!」
常子「聞こえますよ、お店に」
トメ子「旦那は声が悪いからね。じゃあね、毎度あり!」
福松「あれでも女か。外国人みたいに赤毛になっちゃって」
常子「かつらよ」
福松「あんな髪で来られたら、そばまでまずくなっちゃうよ。どうせかぶるなら坊主のかつらでもかぶってこい!」
外を歩くトメ子は頭がかゆくてカツラを外してガリガリかくが、またかぶり直す。
茶の間
そばを食べている福松。
常子「あの様子じゃ、よっぽど修一が好きなのね」
福松「修一のヤツときたら、ろくな女に好かれないんだ」
常子「困るわ。これから先、いちいち修一のことに口を出されたら」
福松「相手にしなきゃいいんですよ」
常子「頭がこんがらがっちゃってやあねえ」
店から戻ってきた和枝が福松がどうして大きな声を出したか聞いた。ムカムカしてつい出ちゃったという福松にやぶ清からおそば取るのやめたらと提案。常子も同意する。
常子や和枝がいても店屋物を取る家なんだね。橋田脚本なら嫁が店番もして奥もやってとてんてこまいなイメージ。女性がいるのに賄いやらないんだという昭和ツッコミしちゃうなんて…ハァ~。
キクが谷口家の裏口を開け、「こんにちは」と声をかけた。
どさん子
修一「親父んとこ顔出してやれよ。心配してんぞ」
正三「うん」
修一「トシちゃんだけが女じゃないぜ。モリモリ働いてさ、忘れんだよ」
正三「惚れたことないから気楽なこと言っちゃって」とお金を置くが、修一から今日は金なんかいいと言われると、じゃ、ごちそうさまと引っ込めた。
修一「トメ子のことだけど、相手にすんなよ、あんなバカ」
正三「そんな元気ないよ。この世が儚くなっちゃったな」
常子が店に駆け込み、正三に気付いた。
正三「お休みしちゃってどうもすいません」
常子「心配してたのよ。あとでアパートのほう行ってみようと思ってたの」
正三「旦那、怒ってるでしょ?」
常子「大したことないわよ。1人でガタガタやってるけど」
正三「今から店行ってみます」
常子「あの…手伝わなくていいから顔だけ見せてやってちょうだい」
店を出ようとした正三に茶の間にキクがることを話す常子。
正三「まあいいや。あのおばちゃんなら」
正三に「店を閉めてから一度ゆっくり飲もうよ」と声をかけた修一だったが、そのまま出て行った。
常子はアヤ子のことを聞きに来た。
修一「アヤちゃんなんぞ、しょうがないよ」
常子「しょうがないって言ったって、お隣にとったら一生の大事だもの」
修一「まだ当分結婚する気がないんだから、あったってアヤちゃんじゃな」
断る方向で話が進む。断ったり断られたりお互いに気まずい常子。修一は相手が出来たら一番先に常子に紹介すると言う。
常子はトメ子が修一を好きだと楽しそうに話す。気味が悪いぐらい修一のことをよく知ってる。修一がトシ子を好きだと気にしていると言い、正三には悪いけど断ってくれてホッとした気持ちだと常子は言う。
常子「でも、もしはっきり決まってからさ、お前がね…」
修一「冗談じゃないよ。そんなこと正ちゃんに分かってみろ。母さん、とっちめられんぞ」
常子「矛盾してるわよね。自分でもそう思うの」
客が来たので、この会話は終了。
作業場
福松「人間の一生はまあいいことと悪いことが互いに来るんだ。いいときにも有頂天にならず、悪いときもガックリせず、なっ? その覚悟で生活すりゃいいんだ」
正三「理屈はそうかもしれないけど、いいときには有頂天になって悪いときにはガックリするほうが自然ですよ」
福松「バカ。お前はそんなことを言ってるからいつまでたっても若造に見られるんだ」
正三「旦那は人情味が薄いねえ。そんなお説教されたってちっとも胸にしみやしないよ」
福松「何を言ってんだ。一日中、わし一人に働かしておいてぼやぼやしてる間に何か手伝いなさい」
正三「気力がないから無理ですよ」
キクが茶の間から正三を呼んでいる。「くず桜も水羊羹もよく冷えてておいしいわよ」
正三「甘いもんなんかとっても喉に通りゃしないよ」
キク「慰めてあげるから、さあさあ、こっちこっち」
ため息をつきながら、キクについて行く正三。
福松「フン、あんなばあさんにホイホイされて男が喜ぶもんか。なんだ、自分のうちみたいにどっしり座り込んじゃって。ずうずうしい」←40代をばあさんなんて言うんじゃありませんよ。
裏口が開き、男性が入ってきた。「旦那、お久しぶりです。ムシムシして仕事も楽じゃないですね」
福松「また人工の桜の葉っぱか。うちはいらないよ」
↑あの時売りに来たのは柏の人工っ葉だけどね。
男性「いえ、今日は別のもんなんですよ。これは絶対お宅向きの製品なんですから。あら? 職人さん、どうしました?」
福松が休みだと答えると、あんまり仕事がきついから引き抜かれたんじゃないか、職人は大事にしなきゃと言いだす。今回持ってきたのは自動包餡機のカタログ。
男性「団子でも餡玉でも手で握って丸くする代わりにこいつがジャンジャンやっちゃうんです」
福松「フン、イヤな機械だ」
男性「だってね、職人さんを当てにする時代じゃないでしょ。給料がいいって聞くとすぐよそへ行っちゃうし、好きな女が出来りゃ出来たで怠けだすし、失恋でもしたらもうぼんやりしちゃってさ。まったく人間ぐらい当てにならないものはないですからね」
福松「それが人間だ。しょうがないさ」
男性「気取ったこと言ってないでね、読んでみてくださいよ。安いんですから、ええ? 職人さんの1ヶ月分の人件費で購入できて能率倍増するんですよ、ええ? お宅でもそろそろお考えになったほうがよろしいんじゃないでしょうか」
福松「いや、気が乗らないね」
男性「気が乗らないっておっしゃいますけど…じゃ、ここへパンフレット置いてまいりますから。名の通ったお店(たな)の旦那が卵割りなんぞに時間をかけて…ああ、もったいないねえ、ええ? 今頃職人さんはですね、勝手なことしてますよ。のうのうと女の子とふざけ合ったりして」
正三「何言ってんだよ! 黙って聞いてりゃいい気になって」
男性「いえ、あの…いらっしゃったんですか?」
正三「女とふざけてる? そりゃ女といることはいるよ。だけどね、どんな女だか見りゃ分かるんだよ。おばさん、ちょっと来てください。おばさん、顔見せてやってよ」
キク「出ていけますか。バカバカしい」と水羊羹を頬張る。ほんっとそう!
セールスマンは慌てて裏口を飛び出し、常子とぶつかりそうになり、常子が華麗なターンを決める。
作業場
福松「興奮なんてするんじゃないよ。セールスの男なんてあんなもんだ」
正三「バカにしてますよ。人のこと、なんだと思ってんだ」
キク「お互いさまよ。世の中が時々やんなっちゃう。儚くて切なくて面白くもない」
福松「まあまあ、そう悲観的なこと言わないで。いいことだってたくさんあるんだから」
常子が顔を出すと、キクは夕飯の支度は勉に頼んで来たという。夕飯の支度って下ごしらえがある程度済んだ状態なのか材料だけが揃ってるのか買い物からなのか気になるなあ~。勉の料理能力はどの程度?
常子にどうかしたの?と声をかけられた正三は物干しで風に吹かれてくると去った。
福松「あいつの機嫌をとるのも楽じゃないよ」
キク「そりゃ機械のほうが楽ですよ。人間なんて泣いたり笑ったり年を取ったり面倒くさい」
常子「ほんとにねえ」
茶の間
アヤ子と修一の話。
キク「アヤちゃんじゃなくてトシちゃんを好きなんじゃないんですか? お宅の息子さん」
常子「いえ、そういうことでもないんですが」
福松「男だからね、せめて30になるくらいまで自分の勝手がしたいっていうことなんだろう」
キク「男はいいわね…」
キクはおますさんにはうまく言っときますからご心配なくと水羊羹を頬張る。常子はこじれないようにとお願いする。
福松「大丈夫だよ。このおばちゃんなら酸いも甘いも承知してる」
キク「いいえ、甘いほうばっかりで」
常子はお寿司を取ろうと提案。
福松「なにも急に酸っぱいものを思い出さなくたって」
キク「いただきますわ。こうなったらもうなんでもいただいちゃいます」
菊久月
和枝は5個入り400円の法事に使う焼きまんじゅうの注文を受けていた。名前は「石井」とだけ入れてほしいとお願いされた。しかしこの時代、割と年配の方でも膝上スカートが多いね。
アヤ子が来店。「面白くないことがあったから早引けしてきちゃった」
和枝「アヤ子はわがままだからね」
アヤ子「会社なんか辞めちゃって和枝みたいに店番するほうがいいかもね」
和枝やトシ子など家の事情で店番している長女たちを敵に回す発言だな。
和枝がキクが家にいると言うと、アヤ子は直也と和枝のことじゃないかと言う。桃子から聞いて家に遊びに行くことを知っている。「行ってきなさいよ。お部屋ん中よ~く見てくんのよ。男なんて偉そうな顔してるけど、部屋ん中見りゃおおよそのことは分かんだから」
和枝「好きでもない人の部屋ん中見たってしょうがない」
アヤ子は修一が木曜日に見合いをすると聞き、憂鬱。菊久月は月曜が定休日。どさん子は木曜日が休みなんだね。
本日休業の札が下がるどさん子。修一は常子に頼まれて「石井」の名入れをやっていた。習字の稽古もこのため?
修一「ああ、どんな格好してったらいいんだ?」
常子「山本さんのご隠居の手前もあるから、やっぱり背広にネクタイ締めて」
修一「えっ? この暑いのにネクタイ?」
常子「お嬢さんのほうだってまさかミニでもないでしょう」
しかし、お見合いに現れた美子はミニスカートだった。思わず足に目がいっちゃう福松と吹き出しそうな常子。山本のご隠居が間に座り、谷口家の2階に集まる。美子と一緒に来たのは母の民子。修一はまだ来ない。
民子「お近くにお店をお持ちだそうでようございますわね」
常子「はあ、お父さんがだんだん年を取ってまいりますと息子がそばにいてくれるだけでも心丈夫で」
福松「いや、この人は亭主をほっといて息子第一なんだから」
常子「そんなことないわよ、やあねえ」
山本「お前さんたちも仲が良くて結構だ。ハハハハッ」
福松「えっ? いや、とんでもない」
スーツに着替えた修一が谷口家の裏口へ。買い物かごを持ったトシ子が中川家の裏口から出てきた。トシ子はうつむき加減で小走りに路地を出ていった。家に入る修一。(つづく)
直也、和枝カップルより福松・常子の出番が多いほうが楽しい。
リアルタイムだと「あしたからの恋」の次は「二人の世界」だったけど、こちらは既に再放送済み。次は「二人の世界」と同じく山田太一脚本の「たんとんとん」がいいなあ~。ていうか、2作品連続で山田太一さんが脚本だったんだ。
不謹慎だけど、山田太一さんの脚本作品をこの機会にたくさんやってほしいなあ。私はかなり後追いだから、メジャーな「ふぞろいの林檎たち」とか知らないんだよねえ。
「岸辺のアルバム」は昨年、CSの日本映画専門チャンネルでやってくれたし、2019年あたりも山田太一特集として結構いろんな作品をやってた記憶があるので、またやってほしい。私は木下恵介アワーも好きだけど、NHKでの山田太一さんの脚本の作品はどれも好き。笠智衆さんの三部作とか。BSでは「チロルの挽歌」再放送決定。地上波でもぜひ追悼作品を放送してほしい。