TBS 1974年5月15日
あらすじ
病院側との話し合いがもたれ、大吉(松山省二)は、2度も取り違えを起こした院長の辞職を要求する。しかし前の事例では、親が気づき3日で解決したと言われ、大吉は親の責任はと悩む。
2024.5.2 BS松竹東急録画。
福山大吉:松山省二…太陽カッター社長。字幕黄色。
福山紀子:音無美紀子…大吉の妻。字幕緑。
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和泉和子:林美智子…元の妻。
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早瀬:小栗一也…産婦人科病院の事務長。
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滝沢春生(はるみ):高沢順子…和子の姪。
福山隆:喜久川清…大吉の弟。浪人生。
田口:桐原新…隆の友人。
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鍋谷孝喜…太陽カッター従業員。
原:安東結子…元の教え子。
吉川:鈴木陽子…元の教え子。
川島:鶴ひろみ…元の教え子。
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福山一郎:春田和秀…大吉、紀子の息子。小学1年生。
和泉晃:吉田友紀…元、和子の息子。小学1年生。
ナレーター:矢島正明
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福山ゆき:小夜福子…大吉の母。
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和泉元(げん):杉浦直樹…中学校教師。
路上で仕事中の大吉。
大吉とすれば、子供の問題をこれ以上、長引かせてはいけないと思うのでした。もちろん大吉の中にはっきりした解決策があるはずもなかったのですが、このまま進めば、必ず問題がこじれるように思えたのです。それにしても、一郎を見ていた元のまなざしを忘れることはできませんでした。
福山家茶の間
今年は金融引き締めで仕事が減るらしく、注文取りや宣伝が必要だとゆきに話している紀子。去年までは何もかも順調にいっていたが、隆が試験に失敗したのがケチのつき始めだとゆきが言う。一郎のこともそのすぐあとだった。
紀子は一郎に恨まれるのではないかと不安がる。「だって、一郎は私たちと血がつながってないでしょう? 大きくなって、なぜ本当の親の所に返してくれなかったんだって言われたら…私、答えようがないわ」
ゆき「そんなこと言いやしないよ。一郎の本当の親は、あんたと大吉じゃないか」
紀子「そう思っていても子供の気持ちは別ですものね」
ゆき「何言ってんの。一郎はあんたと大吉しか自分の親を知らないんだよ」
紀子「でも、中学に入ればすぐに分かってしまうでしょう? そのときのこと考えたら息が詰まるわ」
ゆき「ねえ、紀子さん。一郎はここにいるのが一番幸せなんだよ。そう思ってやらなきゃかわいそうじゃないか」
電話が鳴る。紀子が出ると、和子からだった。「先日はいろいろ主人がお世話になりましてありがとうございました」
紀子「いいえ。こちらこそご迷惑をかけましたそうで」
和子「あれ以来、お会いしてませんので、私も行きたかったんですけど、どうしても用事がありましたもんで失礼いたしまして」
紀子「いえ、あたくしのほうこそ」
和子「あの日はなんですか。一郎ちゃんがご一緒だったそうで主人も帰りまして、ずっとその話をしてたんですよ」
紀子「そうですか」
和子「その後、お元気ですか?」
紀子「あっ…おかげさまで」
和子「そうですか。早く病院と話がまとまればいいですね」
紀子「ええ」
和子「今日、お電話いたしましたのは、できたらそのうち一度わたくしどものほうへお出かけいただけないかと思いましていかがでしょう? 皆様でいらっしゃいません?」
紀子「はあ、ありがとうございます」
和子「もうお知り合いになったんですし、少しでも早くお近づきになって、あの…わたくしどものほうからお伺いしてもよろしいんですけど」
紀子「あの…今夜にでも主人に相談いたしまして」
和子「そうですか。でも早くお会いしたいですね」
紀子「ええ。ただ子供の気持ちがやっぱり…」
和子「そうですね。それが一番大切ですわ。なんといいましても子供の気持ちを傷つけてはいけませんからね」
紀子「ええ」
和子「そりゃもう私たちの責任ですね」
紀子「はあ」
和子「では、失礼いたしました。皆様によろしくお伝えください」
紀子「はい」
和子「じゃあ」
紀子「ごめんください」
中学校
元「え~、この前の時間で一応、家族生活の章を終わったわけだが、そのまとめとして『家族と私』という題で、みんなに作文を書いてもらった。ところがほとんどが家族の悪口だったよ」
生徒たちが笑う。
元「どうしてみんなそんなうまくいかないのかね」
生徒たちが口々に不満を言う。
元「あっ、ちょっと待って。君たちね、ご両親とかきょうだいとか、そういう人たちのことを特別な人だと思っているだろう? いわゆる血のつながった関係だね。そこに問題があると思うね。君たちは家族の人たちは自分勝手な無理解だと言うけれども、君たちの中にも何か特別な甘えがあるというふうには考えられないかね?」
生徒たちが手をあげる。
吉川「子供には当然、甘える権利があると思います」
元「どうして?」
吉川「親が勝手に産んだからです」
元「うん。他に?」
川島「私はね、吉川さんの意見に反対です。なぜかといえばね、私が結婚して子供を産んだとしたら…」
生徒たち「やっだ~」
元「みんな、静かに」
川島「だから、子供を産むのは愛情だと思います。だから、やっぱりね、私は勝手に産んだんだとは思いたくありません」
元「うん、他には?」
原「私の母は再婚したんですけど、自分のことしか考えていません。でも、私は一度だって甘えたことなんかないし甘えたいと思いません」
元「うん」
このクラス、女の子ばっかり。女子中学なのかな? 前も授業風景が映ったことがあったけど、女の子だけと気付かなかった。3番目にしゃべった原さんが安東結子さんで、2番目にしゃべった川島さんがのちに声優になった鶴ひろみさんかなあ? ていうか、子役出身だったのね。
もし、子供のほうで親との関係を拒否していたとすれば、親の愛情ほど邪魔なものはないのだろう。元は晃を思い出しながら、いつかそんな日が来るかもしれないという不安に襲われていたのです。それは、一郎にも言えることでした。
病院の院長室
そして、数日後、病院との話し合いがありました。しかし、相変わらず同じことの繰り返しで、もうお互いに話し合う材料を失っていたのです。
元「いずれにしても6年前の出来事で、今ではどうすることもできないから悪いけど許してくれっていうのは、やっぱり無責任だと思いますね。ただ、私としてはもうこれ以上言う気はありません。まあ、福山さんと相談のうえ、院長のおっしゃるように裁判にでもなんでも持ち込むつもりです」
津島「分かりました」
元「福山さん、よろしいですね?」
大吉「ええ、まあいつまで文句を言ってても何一つ変わるわけじゃありませんからね。しかたないでしょう。ただね、院長さん」
津島「はあ」
大吉「この病院じゃ取り違えが二度、起こってるんでしょ?」
津島「あっ…はあ」
大吉「そんときもあんた今と同じように責任取るって言ったんだろうけど、なぜあんたそのとき辞めなかったの?」
津島「はあ…」
大吉「俺はね、あんたがいつ自分から辞めるか、それを待ってたんだ。でも、あんたは辞めるような人間じゃないってことが分かったよ」
津島「わたくし、辞めろと言われれば、いつでも辞めますよ」
和子「じゃあ、辞めてください。そうですよ、二度も取り違えて院長さんが平気でいるなんておかしいですよ」
早瀬「わたくしがこんなこと言いますと、またお叱りを受けるかもしれませんが、あれはほんの2日間だけのことでして、もう退院前に分かったんです」
大吉「1日だって2日だって取り違えは取り違えでしょ」
早瀬「まあ…それはまあ…」
大吉「でも、俺たちのときは6年間も放りっぱなしで、どうしてそっちは2日で分かったの?」
早瀬「実は、あのときは片方のご両親が自分たちの子供ではないと言いだされたんです」
ハッとする大吉、元、和子。紀子はこの場に来なかった。
わが子を取り違えられた親たちは、それまで病院を恨んできましたが、今、その恨みが自分に戻ってくるのでした。わが子を見分けた親がいるのです。その親たちこそ親としての価値があるように思えたのです。その後ろめたさが深い傷となって、それぞれの中に残りました。
喫茶店
和子「ハァ…しっかりしなくちゃダメだわ」
元「うん?」
和子「独り言よ」
元「まあ、裁判に持ち込んでも損害賠償請求ってことになるでしょうし、いずれにしても刑事事件にはなりませんしね」
大吉「要するにどういっても金の話ですね」
元「まあ、そうです」
大吉「その金だって、あの病院にすりゃ痛くもかゆくもないんですからね」
元「どうします?」
大吉「まあ、このままにするのも腹が立つし裁判で大騒ぎになっても困るし、あなたどう思ってます?」
元「できれば裁判に持ち込んで徹底的にやりたい気持ちもありますね」
大吉「やるんですか?」
元「でも、まあできませんね」
大吉「俺はやってもいいな。いやだってそうでしょ? 俺たちは被害者なんだからさ。何もできないって法はありませんよ。子供のためにもなんかこう頑張りたいって気がするでしょ? たとえ子供に分かったとしても俺たちは悪(わり)いことをしてるわけじゃないんですからね」
元「そりゃまあそうですね」
和子「それより問題は子供達の将来だと思います」
大吉「もちろんそうですね」
和子「こんなことになったんですもの。できるかぎりのことをしてやりたいと思うんです」
大吉「ええ」
和子「福山さんのお宅では、あと何人ぐらいのご予定ですか?」
大吉「まあできたら、あと2~3人は欲しいですね」
和子「そうでしょうね」
大吉「まあ、何しろ最初のころは女房と2人で仕事を始めたもんですから、それにどうなるか分からなかったですからね」
和子「それでお一人なんですか」
大吉「ええ、まあ、そんなこんなでいつの間にか月日がたっちゃいましてね」
和子「羨ましいですわ」
大吉「まあ商売のほうもそのうち広げようと思いましてね」
和子「じゃあ、ますますお忙しくなるわけですね」
大吉「いや、まあそういうことになれば」
和子「あの…」
何を言うか察した元。「さあ、そろそろ出ようか」
大吉「そうですね」
和子「ねえ、福山さん」
元「少し疲れたみたいだね」
大吉「病院で変なヤツらと話しすぎたせいですよ。それじゃ出ましょう」
和子「福山さん」
立ち上がりかけた大吉がまた椅子に掛ける。「なんですか?」
和子「あっ…あの…一郎ちゃんのことなんですけど、しばらく預からせていただけないでしょうか?」
元「そんなことは無理なお願いだよ」
大吉「どういうことですか?」
和子「必ずちゃんと育てますから。私、もう夢ばかり見て…寂しいんです」
大吉「じゃあ、一郎を引き取りたいっていうんですか?」
和子「ええ、できましたら…お願いします。このとおり」
大吉「じゃ、交換したいと?」
和子「そうじゃないんです」
元「やめなさい。無理だと言ってるじゃないか」
大吉「じゃ…2人とも引き取るっていうの?」
和子「必ず幸せにしてみせます」
大吉「冗談じゃありませんよ。そんなことできるわけないじゃないですか」
元「福山さん、気になさらないでください」
大吉「気にしないわけいきませんよ。大体失礼ですよ、他人(ひと)の子供を。帰りますから」立ち上がって伝票を手にする。「大体ね、あんたもあんただ。亭主のくせして」
福山家茶の間
大吉「それにしても間違いを見抜いた親がいるんだからな。それが親ってもんだよ」
紀子「あんまり気にしないほうがいいわ」
大吉「気にするよ」
紀子「今更しかたないじゃない」
大吉「お前、よく平気でそんなこと言えるな。お前だって分かんなかったんだぞ。俺たちがちゃんとしてれば晃だって変な苦労しないで済んだんだよ。朝から晩までグズグズ、グズグズ言われてるに決まってるんだ。おまけに一郎までよこせなんて言いだしやがってさ、冗談じゃねえや」酒!とお銚子を紀子に渡し、テーブルの上のアルバムをめくる。
立ち上がった大吉は事務所に電気をつけ、和泉家のダイヤルを回す。もう10時過ぎてると止める紀子だったが、大吉はそのまま電話をかけた。
大吉「あっ、もしもし和泉さんのお宅ですか?」
和子「はい、そうですけど。福山さん…先ほどは失礼いたしました」
大吉「さっきの話ですがね、改めてお断りしますよ。まあそれにこの際、言わしてもらえばですね、いいですか? 子供のことを考えてるのは、なにもお宅さんだけじゃないんです。うちだって晃のことが心配で夜も眠れないんですよ」
和子「はあ」
大吉「いいですか? 子供の将来を考えるんだったらね、子供がやりたいことができるとこが一番いいんですよ。こっちはね、外国へだってなんだって行かせるつもりだしね。金に糸目はつけませんからね。まあ、できれば晃だって引き取りたいんですよ」
紀子「あなた、やめてよ」
大吉「そのほうが子供たちも幸せになれると思いますよ」
和子「随分失礼ですね」
大吉「失礼なのは、あんたのほうだ」受話器を置く。
紀子「そんな言い方したら二度と顔合わせることできなくなるわよ」
大吉「いいんだよ、酒!」
紀子「晃ちゃんのことはどうするの?」
大吉「自分の子供を晃ちゃんなんて言うな」
紀子「じゃあ、晃はどうするの?」
大吉「忘れるんだ、もう」
紀子「そんなことできるわけないでしょ」
大吉「どうせ返しゃしないよ」
紀子「私は諦めないわ」
大吉「どうせ自分の子が見分けられなかったんだ。子供のほうでも迷惑がるだけだよ」
紀子「随分、弱気ね」
大吉「うるせえ」
紀子「じゃあ、自分の血を分けた子供は、どうなったっていいっていうの?」
喫茶店
隆「なんでも両方で子供を2人とも引き取るって言ったらしいんだ。まったくいい大人がさ、分けるってこと知らないんだよな。それでさ、俺が向こうの家と直接話し合ってだよ、解決の糸口をみつけようかと思ったのさ」
田口「俺たちも随分、暇な人生だな」
隆「そんなことないよ。だからさ、兄貴たちが肩ひじ張って自分の子供に会えないとかわいそうだからこうやって見張ってるんじゃないか」
田口「あっ、来た」
隆「女子大生かな? それともOLかな?」
春生が歩いているのが見えて、隆と田口があとをつける。春生が角を曲がると、走って追いかける2人。しかし、隆たちの前に作業着姿の大吉が現れた。「おい、何やってんだよ? こんな所で」
隆「いや、その…」
大吉「うちへ帰って勉強しろよ。かくれんぼする年じゃねえだろ。しょうがねえヤツだな」
大吉がいなくなって曲がり角の向こうの春生の姿は見えなくなっていた。いいぞ、大吉! 隆は単なる春生のストーカーじゃねえかよ!
太陽カッターを和子が訪れた。今日は和服。「あの…突然、お伺いいたしまして」と頭を下げる。紀子は家に上がるように勧める。
和子「行き違いの原因は全てあたくしなんです。それでゆうべ主人に言われまして」
紀子「そんなことありませんわ。うちの主人もどちらかといえば短気のほうですから、時々、行き違いがあるんです。特にゆうべはホントに申し訳ございませんでした」
和子「いいえ。まあ、今度のようなことが起こりますと、どうしても冷静ではいられなくなりますわ。私なんかもう眠れないっていうか考え始めると気分が悪くなったりするんです」
紀子「私もやっと落ち着いたというか慣れたというか眠れるようになったんです」
和子「みんな同じですね」
紀子「うちなんかこうやって商売やってますから、夜眠れないと体がもたないんです。しばらくの間、主人も大変でした」
和子「でもいいですわ。こうして皆さんおにぎやかで。従業員の方もいらっしゃるんでしょ?」
紀子「ええ、まあ、にぎやかなことはにぎやかですね」
和子「ご商売も繁盛されてるようですね」
紀子「いいえ」
和子「ご主人がそうおっしゃってました」
紀子「まあ…」
和子「とにかくお二人ともお若くて…私たち中年になりますとね、大体自分の一生も分かりますしね」
紀子「でも、私たちみたいな生活から見れば静かにお暮しできるんですもの。羨ましいですわ。うちなんて、もう朝から晩まで、ほら仕事、ほらご飯って、もうホントに目まぐるしいぐらいなんですよ」
和子「そりゃ勤め人のほうが楽ですけど、でも時々、これで終わりたくないなんて思うことがあるんですよ。1人でうちにいると。あっ…でも体は気持ちほど頑張れなくて、まあ、子供をちゃんと育てるっていうのかしら、そういうことが一番、年に合ってるみたいですね」
紀子は急須にお湯を入れる。
和子「あっ…まあ、子供に夢を託すなんて悲しいですけど、男の子なら自分で夢を広げることができますからね。ただあたくしはその子がちゃんとした人間に育つように手助けをしてやればいいわけです。そういうことなら、私、得意なんです」
紀子「あたくしもまあ、そんなふうに考えてます。それぞれの親には夢ってもんがありますものね」お茶のお代わりを出す。
和子「あたくし実はもう子供が産めないんです。この世に自分で産んだ子はたった1人なんです。女同士ですから、分かっていただけると思いますけど、こんなふうになってしまったら女でもなくなったみたいな気がして、とてもつらいんです。もし奥さんみたいにこれから何人でも産めるとすれば、わざわざお伺いしたりはしません。たった1人の子を放っておくことなんてできないんです。母親ならそれが当たり前じゃないでしょうか? 私、あの子を産むとき、お産が重かったんですけど、この子のためなら自分は死んでもいいと思ったんです。本当です。ねえ、奥さん、どうかお願いします。私に一郎を返してください」
紀子「お気持ちは分かりますけど、今、そのお話は困ります」
和子「でも、あの子は私の子ですよ」
紀子「いいえ、私の子です」
和子「あなたには血も涙もないんですか?」
紀子「すみません。どうぞお帰りください」
一郎が帰ってきた。一郎は一輪のカーネーションを紀子に手渡した。「学校でもらったんだよ」
紀子「学校で?」
一郎「母の日だってさ」
カーネーションを見つめる和子。
晃もまたカーネーションを手に走っていた。(つづく)
それにしても昔の小学生男児のあの短パンの短さはなんだ!? 私の地元は田舎で常にジャージだったのでああいう短パン姿を見ると、都会だな~って思っちゃう。
鍋谷さんは「太陽の涙」のときも全く出演してない回でも名前が出てることあるね。カットされた?
和子が暴走しそうで何か怖いな。
放送は1974年5月15日(水)。この年の母の日は5月12日(日)。
「おやじ太鼓」24話。初ちゃんが突然辞めちゃった回。
お敏さんの母、イネさん初登場。